リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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ノロウィルスにかかって死に目にあい早数日・・・・・・


ソ○モンよ! 私は帰ってきた!


え~ちなみにこの渓流の異変。
書いてたらさらに量が増えてなんと!

前、後

の予定が

前 中 後

の三本立てになっちまったぜ!


多分この対策取っ手ないと歴代最長になったっていうかなってた。

57kbくらいになってるもんw ←歴代一位 青い大群 46kb


まぁ二本立てに成ってしまいましたが楽しんでいただけたら嬉しいです



渓流の異変 中編

~レーファ~

 

 

ジンヤさんとリーメさん、それにムーナちゃんが一緒に渓流へと調査に向かって数日。

ジンヤさんが経営を行っている食堂、和食屋はあまりの忙しさに目が回るような状態だった。

 

 

「一番テーブル、シモフリトマトのサラダ追加です!」

 

「「「「「「シモフリトマトサラダ毎度ニャ!」」」」」

 

「六番テーブルでスネークサーモンと兜ガニのパスタ追加ニャ!」

 

「「「「「「スネーク兜パスタ毎度ニャ!」」」」」」

 

 

昼の一番忙しい時間帯。

温泉先頭を一時閉店し、銭湯の店員であるアイルーたちもこちらにヘルプとしてきてもらって、何とか凌げているといった具合だった。

ジンヤさんがアイルーの三倍ほどの作業スピードで仕事ができるんだもん。

その人が抜けた穴というのはものすごく大きかった。

 

 

「レーファさん、五番テーブルに発泡ミルクを持って行ってくださいニャ!」

 

「うん、わかった。これ持って行ったらすぐにいくね」

 

 

私は手元にある今出来たばかりのキングターキーの丸焼きを、待ってもらっているテーブルへと運んでいく。

 

 

「よ~レーファちゃん。忙しいみたいだね。でも前みたいに焦ってジンヤ君に残り物をぶっかけたりするようなことするなよ」

 

「も~意地悪いわないでくださいよ~」

 

 

旧知の仲である魚屋さんの店主さん、ガヌアさんが私に意地悪く笑いながらそうからかってくる。

したこと自体は事実なので、私は頬をふくらませながら文句をいうことしかできない。

そんな私の反応が楽しいのか、ガヌアさんは大笑いしていた。

 

 

「そんなに笑うなら取り下げますよ?」

 

「わ~ごめんごめん。悪かったよ、レーファちゃん」

 

 

あまりにもからかわれるので仕返しに、丸焼きを下げようと仕返ししたら大あわてで謝ってきた。

けどその顔にはまだ笑みが浮かんでいるので、まだおかしいと思っているみたいだった。

 

 

もう、ガヌアさんは……

 

 

お父さんと仲がよくて私も親しくしているガヌアさんだけど、よくからかってくるのが難点だった。

一応謝ってくれたし、何より店員である私に勝手に商品を下げることは出来ないので若干不承不承ながら、私はテーブルにキングターキーの丸焼きをおいた。

 

 

「ところでジンヤ君は? 見あたらないけど?」

 

 

その言葉に私は顔に力が入ってしまった。

念のためというのだろうか、私は村長に、ジンヤさんに依頼した渓流調査のことはむやみに口外しないようにと言われていたからだ。

誰も見学に行ったりはしないだろうけど、万が一のことを考えてだって。

ちなみに渓流での採取などのお仕事は一時中止となっている。

 

 

その仕事中止でしかも今日ジンヤサンがいないのだからわかりそうなものだけど……

 

 

それが私の素直な感想だったけど、それでも念のためと言うことで、口止めをされていた。

のでどうにか隠そうと思ったんだけど……。

 

 

「温泉銭湯のほうにいっているのかい? 今閉店中だから大掃除でもしているのかな?」

 

「あ、はい、そうなんですよ。ジンヤさん、張り切って掃除してて」

 

 

ガヌアさんは勝手に自己完結してくれたみたい。

確かに今温泉銭湯の方は臨時閉店をしているのでちょうどよかった。

私は取り皿もテーブルにおくと、キッチンの方へと下がり仕事を再開した。

 

 

今頃ジンヤさん、何してるんだろう?

 

 

村長に止められていることもあって、私はジンヤさんとここ数日顔を合わせてもいなかった。

モンスターがいるフィールドなのだから、ハンターでもない私がフィールドに行かないのは当然なんだけど……。

泊まり込みで仕事をしているためにジンヤさんもリーメさんも、ムーナちゃんともここ数日あっていなかった。

最近仲良くしてくれている人がほとんどいなくなってしまって少し寂しかった。

 

 

そう物思いにふけようとするけども……

 

 

「レーファちゃん、注文にいいかい?」

 

「あ、は~い」

 

 

お店は空いている席がほとんどないほどの混雑ぶりで、考え事をしている暇もありはしない。

そうして時間がめまぐるしく過ぎていき、お昼を過ぎてようやくお店がすいてきた。

 

 

「「「「「「つ、疲れた(ニャ)」」」」」」

 

 

私もアイルーちゃんたちもへとへとだった。

どうにか回すことが出来たのは奇跡だと言ってもいいかもしれない。

でも数日の経験がすでにあるので最初よりは効率的に回せたかもしれないけど……。

でも疲れるものは疲れるのだった。

 

 

つ、疲れた~

 

 

疲れる体に鞭を打って、暖簾をしまい昼休憩の看板を出す。

それが終わった瞬間に、みんな一斉にテーブルへと突っ伏した。

まかないの料理を運んできてくれるグラハムちゃんやジャスパーちゃんも疲労が蓄積しているのかとてもその動きは緩慢だった。

 

 

みんなふらふらしながら席について食事をし終えた。

何せみんな休む間もなく午前中走り回っていたのだからそれも当然だと思う。

そうして夜の部まで一旦休憩にはいるのだけど、その前にまだお皿洗いとか夜の部のための仕込みが残っているのでまだお仕事が残っていた。

私はフロア担当なのでお皿洗いが終わったのでテーブル拭きもする。

そうして午前の部の仕事を終えるとみんな居住区に行ってお昼寝をし出した。

よっぽど疲れたんだって思う。

かくいう私もへろへろなので家に帰ってベッドに倒れ込もうと思ったのだけれど……。

 

 

そういえばジンヤさんの家最近いってないなぁ……

 

 

最近といっても数日だけ。

けどあの広い家に誰もいないというのは寂しい気がする。

グラハムちゃんとジャスパーちゃんも、仕事がしやすいということで、今は食堂の居住区の方で生活しているので誰もいない。

数日とはいえ森の木々に囲まれた場所に家があるので落ち葉とかが庭に散りやすいのだ。

 

 

お掃除でもしにいった方がいいかな……

 

 

疲れてはいるけど、ジンヤさんも今仕事をしているし、それに帰ってきたときに家が綺麗だと喜んでくれるかもしれない。

 

 

鍵は一応預かっているし……

 

 

私はジンヤさんに預っている鉄の棒のような物を取り出した。

ジンヤさんの家の正門に穴があってそこにはめ込むだけの物なんだけど、これがないとジンヤさん以外は家に入れないみたい。

ジンヤさんは自分自身が鍵だって言っていたけど……。

 

 

言っている意味はよくわからなかったけど、それでも自宅の鍵を念のためとはいえ私に預けてくれたのがとても嬉しかった。

そのジンヤさんの信頼に応えるためにも、私は疲れた体に活を入れて、村の外にあるジンヤさんの家へと向かうことにした。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

俺の家でリーメの刀を鍛造し終えてからやってきた渓流。

そのベースキャンプへとやってきて早数日。

この間、俺とリーメにムーナはのびのびというか、平和というか……とにかく和食屋の仕事から解放されてゆっくりとした時間の中、のんびりとハンターライフを満喫していた。

 

 

のんびりと言ってもきちんと仕事はしている訳なのだが……

 

 

まず地図があまりにも適当に……というよりも採取のことと、モンスターが徘徊することしか書かれていないという、完全な採取や農作業といった感じの仕事にしか使用できない地図しかなかったので、まずは測量から仕事が始まり地図をハンター仕様に書き直していた。

以前はあまり厄介なモンスターがいなかったためにこの渓流ではあまりハンターを必要とすることはなかったらしい。

アオアシラといわれる熊もいるにはいるらしいが、肥やし玉で無力化できるためにそこまで危険視はされていないのだ。

ドスファンゴも基本キノコ類を食料としてるのでそこまで執拗に襲ってくることはないので危険性は低い。

そのためハンターが出張ることはなかったのだが、最近出てきた鳥竜種のジャギィにジャギィノスやらは完全な肉食だ。

肉食なので当然人間も標的になりうる。

それらが移住してきたのでそれの調査に来た訳なのだが……。

 

 

まさか測量から仕事が始まるとは……

 

 

皮肉というか、意外というか……まぁとりあえず言いようのない気分だった。

しかも意外と言うべきなのか、目標の鳥竜種の類が見つかっていないのだ。

空から見渡しても木々が邪魔して発見できなかったのだ。

渓流は高低差と言うべきなのか……起伏の激しい地形のために平地が少なく、しかも豊富な水資源のおかげで木々がとても豊かなのだ。

空から見渡しても葉っぱが邪魔をしてほとんど下を見ることが出来ない。

 

 

まぁ、ムーナが自由に過ごせたからいいか……

 

 

朝昼は仕事があり、しかもムーナは誰もが恐れる飛竜の王者、リオレウス(本人……っていうかムーナ自体はまだ子供であるためあまり度胸がないって言うか攻撃的な性格じゃないけど……)

とてもではないが家から出すわけにはいかない。

幸いと言うべきなのか、俺の言うことはきちんと守ってくれるし、しかも今のところ凶暴的な性格になっていないのでどうにかなっているが……。

 

 

ムーナは役に立てていないことを感じとっているからか、すごくしょんぼりしていた。

悪いことをしてしまったかもしれない。

しかし、あくまでムーナを連れてきたのは、ムーナが自由に羽を伸ばせるようと思ったからだ。

 

 

あと個人的に明るい時間にムーナと空を飛んでみたかったからな……

 

 

これは完璧に俺の個人的事情だけど。

でもわからないか諸君?

ゲームに出てくるような竜に乗って空を飛ぶんだぜ?

その開放感たるや……言葉に表せないあの疾走感というべきなのだろうか……あれはマジで気分がいい。

だから俺は落ち込んでいるムーナをもの凄く慰めてあげた。

気にする必要なんてないのだから。

その気持ちが通じているのか、ムーナもそこまでへこんではいなかった。

 

 

まぁそんなわけで、今日はその教訓を生かして歩行にて渓流の調査を行っていた。

地図を製作しながらだし、しかもムーナが小回りがきかないものだからあまり調査は進まない。

それにリーメも歩く速度はそんなに速くないのだ。

しかしそれはそれで細かい見聞が出来ると言うことではとても実りのあることなのだ。

リーメも少しでも細かいというよりも、きちんとした資料を作ろうと必死で仕事をしていた。

今の所は姿を見ていないジャギィという鳥竜種だが、その痕跡は十分に残っていた。

 

 

ランポスと違う足跡、その食事の仕方。

明らかにランポスとは違うその色合いの鱗や牙も見つかっているので、少なくとも俺が今まで見たこともないようなモンスターがいることは確かだろう。

しかし用心深いと言うべきなのか、こちらの存在に気づいているのかなかなか姿を現さない。

そのことに疑問を感じていたのだが、ついさっきその原因が判明した。

 

 

……明らかにこの足跡大きいな

 

 

雄と雌という性別の違いだから、似通っているが足跡が二種類あるのは問題ない。

しかしその足跡の他に明らかに大きなものが混じっているのだ。

二種類の内に似通っているのは雄の方だが……何倍も大きい。

村長がギルドナイトに資料を要求したときに、群れを統括するリーダー的存在がいるらしいという資料があったのだが……。

 

 

ドスランポスみたいな物か……

 

 

足跡から言って明らかにドスラポスよりも体格は大きいのだが……。

しかも雌と言われている方の体格も結構大きい部類だ。

ランポスよりも体格が大きいのは確かだろう。

 

 

雄の方はランポスよりも小さいようだが……

 

 

しかし雄はランポスよりも体格が小さい。

雌のジャギイノスが人間と同じくらいの身長に対し、雄のジャギィは身長は人間の腰くらいだ。

 

 

かかあ天下も楽じゃない……か……

 

 

この条件から鑑みるに体格が大きい雄は、群れを統括していると言われるリーダーだけなようだ。

他は基本的に体格が小さいが故に尻に敷かれている。

どの世界に言っても女性は強いと言うことか……。

 

 

世知辛いなぁ……

 

 

こんなモンスターの世界でもその言葉の重さを知って、ある意味で気分が重くなってしまった。

まぁそんな俺のくだらない心情などおもてに出さずに、俺はリーメと共に制作中の地図へと書き込んでいく。

そして今現在、渓流の中でも貴重ともいえる平地の調査を行っているのだが……。

 

 

「リーメ。ここ、昔村だった?」

 

 

俺はここ渓流には初めてきたのだが、この広場にはいくつもの建物の残骸があり、しかもすこし先の崖を超えた所には坂が階段状に区切られており、段々畑があったことを物語っている。

しかし当然残骸であって、その家の材料である木材は大分年月が立っていることを風化具合が物語っており、遠くに見える段々畑も荒れ放題だ。

ここまで人の手が加えられているのだから人が昔ここに住んでいたことは確かだろう。

 

 

「そうですよ。僕らの祖先が最初にここに村を築いたという伝承が残っています」

 

「何で住む場所変えた? なんかあったのか?」

 

 

うち捨てられたままで放置されているところを見ると、何か災害でも起こった風にしか見えない。

少し遠くに見える村の入り口だったと思われる場所にある立派な門も、ものの見事に崩れ朽ちている。

 

 

「僕自身はよく知りませんけど……何でも嵐龍っていう古龍と呼ばれるモンスターが一夜にして滅ぼしたらしいですよ?」

 

「モンスターが一夜で? しかもコ……なんていった? コリュウ?」

 

「えっと……おとぎ話や伝説、伝承に出てくるモンスターの俗称です。とても強くて凶悪なモンスターのことを古龍って言ってるんです。まぁ伝説上の存在ですけどね」

 

「古龍……」

 

「詳しく知りたいなら、村長さんがご存じですよ」

 

 

リーメは笑いながらそう言うと再び作業に戻った。

俺としてはこの村がいったいどういった経緯で滅んだのかがすごく興味がわいた。

 

 

が……

 

 

まぁ核兵器とか? 範囲兵器や大量殺戮兵器なんてないこの世界で一夜で村が滅ぶなんて状況は間違いなく`天災`が原因だろうが……

 

 

爆弾はあるけどそれも俺の現実世界にある兵器と比べればかわいいものだ。

木造とはいえ、その構造からしっかりとした作りをしているので、一夜で滅ぶとしたら自然災害以外にあり得ないだろう。

俺はそう結論づけると、リーメとムーナを促し次のエリアへと向かった。

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

仕方のないことなんだけど……ジンヤさんの家って遠い

 

 

お昼休みを利用して、ジンヤさんの家を掃除しようと思ってジンヤさんの家へと向かった私だったのだけれど……ムーナちゃんと一緒に暮らすために、ジンヤさんの家は村の外にあるから歩いて向かっていた。

そんなに遠くないから徒歩で行くんだけれど……でも近くはないから時間がかかっちゃった。

 

 

これから掃除してもあまり綺麗に出来そうにないかも……

 

 

夜の部のためのお店の支度時間までには戻らないといけないことを考えると軽くしか掃除が出来なさそう。

気持ちが高ぶりすぎて空回りしてしちゃったかもしれない。

 

 

はぁ~。ジンヤさんに恩返しって出来るのかな?

 

 

何でも出来るジンヤさん。

私が出来たのはこの村に案内したくらいで他には何も出来てない。

そう考えるとさらに暗い気分になってしまう。

 

 

そんなことを考えながらジンヤさんの家に近づいてきたんだけど……。

 

 

ガン ガサッ

 

 

……え?

 

 

そこで私は不吉な音を耳にした。

何か堅いものがぶつかった音、そして葉っぱが何かに揺らされる音。

今日は穏やかないい天気なので風で木の葉が揺らされたなんてことない。

それに葉っぱはともかく硬質な音は明らかにおかしな音だった。

 

 

……モンスター?

 

 

ユクモ村周辺にはあまりモンスターが出てこないけど、それでもここは村の囲いの外。

モンスターと鉢合わせすることがないっていうことはに。

 

 

う、嘘……私、何も持ってない

 

 

お店のお仕事からそのまま来たので私は完全に手ぶらだった。

そのことで怯えた私だったけど、そこで視線の先にあるジンヤさんの家の異変に気がついた。

ジンヤさんの家の前で佇んでいる……というよりもいらだっている男の人。

 

 

私はその人に見つかる前に森の木の裏に身を隠して相手の人を観察しだした。

 

 

……ジンヤさんの知り合い?

 

 

そう考えてみたけどその男の人の様子がおかしかったので私はその考えを捨てた。

それに正門を小さな鎚で叩いて門をこじ開けようとしている姿は間違いなく不審人物だ。

 

 

泥棒?

 

 

その線が濃いかもしれない。

その人は門を開けようと頑張ってるし、石造りの塀を上ろうとしているけどどうしてか塀の端に手を掛けることが出来ずにいて、入りあぐねていた。

確かにジンヤさんの家は村の外のしかも森の中にあるのだから入れれば容易にものを盗むことが出来るかもしれない。

入れないなら入れないであまり時間を掛けていては誰かに見つかってしまうかもしれないのに、その人は必死に家の中に入ろうとしていた。

その様子がものを盗もうとしている感じには見えなくて……。

 

 

私がそうして観察していると、もう一人男の人がやってきた。

その人達は何か言葉を交わすとそのまま村に向かわずに山の方へと向かっていく。

その方向には他の村もない。

 

 

……なんだったの?

 

 

見つからなかったことにほっとしながら私は木陰から出てきて、二人が向かっていった方を見つめた。

 

 

お父さんに知らせた方がいいかな?

 

 

いつの間にか時間が経ってしまっていたけど、まだ夜の部まで時間はあるので、お父さんにこのことを知らせに、私は村へと走っていった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

ん?

 

 

俺は今まで感じたことのない、気を感じとり手を止めた。

小さいが、獰猛な気を放ちながら複数の個体が移動しているのが感じられたのだ。

 

 

ビンゴ……かな?

 

 

明らかにランポスとは違う気配。

にも関わらずその動きや体格に似ている点がある。

少なくともケルビやガーグァと言った草食動物でないことだけは確かだ。

腐っても野生動物というかモンスターだからか、ムーナもそれを感じ取っているらしく、そちらの方を見ながら低いうなり声を上げている。

 

 

「落ち着けムーナ。お前が殺気を放つと逃げる可能性がある」

 

 

そう小声で呟きながら頭を撫でてやり、ムーナの気を静めてやった。

さすがにそうしているとリーメも異常に気づいたようだ。

すこし先で採取作業をしていたのに音を立てないように注意しながらこちらに小走りで近寄ってきた。

 

 

「みつけましたか?」

 

「たぶん。ムーナはここにいろ。何かあったら空にいけ」

 

 

小声で短くやりとりを行うと、その場にムーナを残し、エリア2からエリア6へと静かに向かう。

何でか知らないが大量の電気虫? みたいなやつの中をくぐり抜け、岩場の多い坂を下りていくと滝が見えてきた。

その河原というよりも浅い川に複数の気配を感じ、俺はリーメに手で合図すると、岩に隠れつつさらに近寄り川を見つめる。

 

 

いた……

 

 

そこには予想に違わず複数の小型の鳥竜種が、ガーグァ二頭を見事な連携で狩りをしてる最中だった。

それら全てはガーグァよりも小型だが、肉食だけあってその爪と牙はなかなか鋭そうだ。

紫色の襟のようなもの、ランポスと違い体の色はオレンジ色が主体で、背骨の部分だけが紫色。

尻尾の下側には、威力を増すためなのか棘のようなものがついている。

 

 

ジャギィってやつか……

 

 

その外見的特徴から雄のジャギィであるだろうと俺は判断した。

小さいが故の利点と言うべきか、随分とすばしっこく動いている。

数も五頭いてそれなりに楽しめそうであるが……。

 

 

俺がやったらすぐ終わるし、それにこの依頼には試験を兼ねてるしな……

 

 

二頭とも殺し終えたジャギィは、その場で食事を始めた。

一頭しか食いついていないところを見ると、もう一頭は巣にでも持ち帰るのだろうか?

食事に集中して周囲への警戒が若干薄まった。

俺はそれを確認すると、リーメを手招きする。

 

 

「……どうしたんですか?」

 

 

てっきり俺が突進して行くと思っていたのか、その顔にはある種の戸惑いが見えた。

腰に装備しているフロストエッジを右手で持って戦闘準備は万端なようだ。

 

 

俺はそのフロストエッジを握り、首を振った。

そして呆気にとられているリーメからその剣を奪う。

ついでに盾も固定用の革ベルトを水月で切断して奪い取る。

いきなり武器を奪われたにも関わらず、リーメは怒ることもせずに首をかしげて俺を見ている。

 

 

ここで俺が快楽殺人者だったらどうするつもりだこの子は……

 

 

もちろん快楽殺人者ではないので何もしないが。

俺は以前夕月を下げていた右腰に装備している、二つの新たな武器の内の一つであるそれの ()を持ち、リーメへと差し出した。

 

 

「へ?」

 

 

差し出されてもなお、わかっていないらしい。

この前の訓練から思っていたことだが、この子……本当に何のために訓練していたのか忘れているらしい。

 

 

「忘れてた? これはお前のだぞ」

 

「……え?」

 

 

そういってもまだ理解できていないらしい。

俺はそんなリーメに半ば強引にそれを渡した。

 

 

「え? えぇ? えぇぇぇもがっ!?」

 

「騒ぐな阿呆」

 

 

予想通りというか、驚きに大声を上げそうになったリーメの口を強引に塞いでそれを防ぐ。

ジャギィに眼を向けると、聞こえてはいたみたいだが、異常を発見できなかったからか、再度食事に専念しだした。

そのことにほっと溜息を吐きつつ、俺はリーメに向き直る。

 

 

「落ち着け」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

そうは口で言っているが、その視線は今俺が渡した刀に釘付けだった。

よほど刀が欲しかったようだ。

 

 

そんなに喜んでくれるのなら、作った甲斐があったってものだが……

 

 

振りやすいことを前提に作られた刃渡り一尺九寸(五十七センチ)。

反りは普通の京反り(均一に刀身が反っている事)。

特徴としては刀身を鍛造するときに、鉄のかたまりの中に火炎袋の中身を混ぜ、さらに折返し鍛錬の時に火炎袋の中身を振りかけながら鍛造した事。

槌を打つたびに火柱が出て大変だった。

さらに鱗や外殻も溶かして混ぜ込んでいるので、刀身その物が淡い赤色をしている。

その甲斐あってか、この刀は炎を纏うという、あり得ないような武器へと成っていた。

峰の一部に爪や牙を用い、また鍔はつけずに翼爪と牙で装飾をし、柄も紐ではなく鱗や皮で覆い意匠を凝らしてみた。

鞘も最初は木で作ろうとしたのだが、摩擦で火が燃え上がるからなのか、出し入れで消し炭になった……。

そのため鞘もリオレウスの素材で制作した。

未熟ではあるが、気を込めながら鍛造したので、その切れ味も、耐久力も折り紙付きだ。

 

 

この世界のモンスターの素材と、日本が誇る刀の技術が融合して出来た小太刀。

 

 

銘を  火竜刀(```) 紅葉

 

 

俺の自信作だった。

 

 

 

 

~リーメ~

 

 

こ、こんな立派な剣が……僕の?

 

 

ジンヤさんにそう言われて強引に差し出されても、僕はまだその事が実感できずにいた。

リオレウスの素材で作られているであろうその入れ物を介しても、その武器の熱が手のひらへと伝わってくる。

ジンヤさんの左の腰に装備されている長いのと短いサイズの剣の中間くらいの長さ。

でも見た目が全く違っていた。

ジンヤさんの武器と違って、リオレウスの素材が大量に使われているみたいで、この武器は外見からして全く違った。

リオレウスの赤い体色が色濃く出ている。

握り手や、刀身の付け根に爪や鱗を使っていて、とても鋭そうなイメージを受ける。

 

 

そして何よりも。その存在感がもの凄く伝わってきた。

 

 

これが……本当に……?

 

 

はっきりいって、一目惚れしてしまう位に、この武器は美しく、力強かった。

 

 

「ヒリュウトウ モミジ。その武器の名前」

 

 

そう言いながらジンヤさんは左肩に装備していたものを、手渡してくれた。

リオレウスの鱗や外殻を長方形の板状にし、それらを若干ずらして重ね合わせて一つの板にしている。

先っぽや、盾の中心部には翼爪や牙が配置されていて、盾だけでも攻撃が出来るように作られていた。

 

 

片手剣とセットになっている盾もわざわざ作ってくれたみたいだ。

僕はそれを丁寧に受け取ると、後ろ腰に剣の鞘をくくりつけ、受け取った盾を左手に装備した。

 

 

「よし。では今からテストだ」

 

「テスト……ですか?」

 

 

ジンヤさんの言葉に僕は思わずオウム返しのように、そのままジンヤさんの言葉を繰り返してしまった。

その僕の言葉にジンヤさんは小さく頷くと、食事が終わりかけているジャギィ達の方を指さした。

 

 

「一人で狩ってこい」

 

 

ヒトリデカッテコイ……

 

ひとりでかってこい……

 

一人でかってこい……

 

一人で狩ってこい……

 

 

少しの時間を掛けてようやくジンヤさんの言葉を理解した僕は思わず悲鳴を上げそうになってしまったけど、再度ジンヤさんに口を手で押さえられて強制的にそれを阻止された。

それに関してはジンヤさんの方が正しいので何も言うことはないのだけれど……僕一人だけで闘ってこいだなんて……いくら何でもひどいと思ったのだけれど……。

 

 

「お前なら出来る。出来ないことをしろとは言わない」

 

 

チャカしているわけでもからかっているわけでもないことはジンヤさんの表情を見ればわかるけど……。

でもあれらを一人で狩らなければいけないと思うと……足がすくんで動けそうになかった。

 

 

新種といっても見た目から言ってランポスと大差のないモンスターだ。

しかも数はたったの五匹。

ベテランでなくてもどうにか出来る数だ。

しかも今相手は食事に夢中になっていてこちらに気づいていない。

 

 

正直な話、これで負ける材料を見つける方が難しい。

僕以外のハンターなら。

これほどの有利な状況であるにもかかわらず、僕の体は恐怖で震えていた。

もともと、争い事が得意ではなかった。

けど、村のために何かがしたくてハンターになった。

モンスター討伐は無理だけど、採取なんかで役に立てればいいと思って。

 

 

けれど採取しかできないハンターなんてはっきり言ってあまり役に立たない。

僕自身もそう思っていたのでハンターをやめて農民に戻ろうかと思っていたのだけれど……。

 

 

そうしてぐるぐると考え事をしていると、ジンヤさんに力強く肩を掴まれた。

 

 

「これはテスト。これがだめなら剣は返してもらう」

 

「そ、そんな……」

 

 

その言葉でさらに僕の恐怖が助長されてしまう。

ジンヤさんから一歩離れようとするけど、肩を掴まれていて逃げることは出来なかった。

 

 

「いいか? お前の実力なら絶対に出来る。普通、修行でお前レベルに達するのに三ヶ月くらいはかかるんだぞ?」

 

「そ、そんなにですか?」

 

「そうだ。それを一ヶ月位で身につけたんだ。自信を持て。俺が保証する」

 

 

ジンヤさんのその表情も瞳も、嘘を言っているようには見えなくて……。

でも僕にはまだ一歩を踏み出すことが出来なかった。

そんな弱虫な僕に、ジンヤさんは呆れることなく、肩を握る力を強めてこういってくれた。

 

 

「お前は……俺の初めての弟子だ……。あんなのくらい、余裕で倒せる」

 

 

その言葉は僕の心にすっと入ってきた言葉だった。

単純かもしれないけど、その言葉はとても嬉しい物だった。

僕だけでなく、村長さんやリオスさんですら認めるハンターのジンヤさん。

そんなすごい人自ら、僕のことを弟子といってくれて……。

そのおかげなのか、体の震えが徐々に収まっていった。

それを見届けると、ジンヤさんは肩から手をのけて、一歩引き道を空けてくれた。

 

 

「行ってこい」

 

「……はい」

 

 

この状態になっても僕はまだ恐怖が完全に払拭できてはいなかった。

だけど、恐怖以上にジンヤさんの信頼が嬉しかった。

 

 

震える拳をきつく握りしめて強制的に震えるのを止める。

そして深呼吸をして、僕は走り出した。

 

 

バシャバシャ

 

 

浅い川の水の中を、僕は迷わずに一直線に走り寄っていった。

さすがに音がしたことで僕がいることに気づいたみたいだけど、その時には僕は既にジャギイの目前へと走り寄ってた。

 

 

もらった!

 

 

ジャ! ボッ!

 

 

後ろ腰に装備した剣を勢いよく抜き放つ。

抜剣の瞬間に後ろで火が燃え上がっていたけど、それにも気づかずに夢中で剣を目の前にいるジャギィに向けて振るった。

 

 

ザシュ! ブワッ!

 

 

体に覚え込ませていたからか、恐怖と興奮で体が硬くなっていたけどどうにか普通に剣を振り抜くことが出来た。

一ヶ月の間、ジンヤさんとの訓練時間だけでなく、一人でも頑張ってしていたから練習通りに出来た。

ジャギィの体を綺麗に切り裂き、さらにその傷をこの剣から発せられた炎が焼き尽くし、さらなるダメージをジャギィに与えた。

 

 

「ギュアァァァ!」

 

 

斬られるのと、傷が灼かれるのを体験したのが初めてだったのだろう。

ジャギィは悲鳴を上げるとそのまま川の中に沈み、痙攣しながら死に絶えた。

不意打ちとはいえ一人で倒すことが出来て嬉しかった。

しかしそれに構っている場合ではない。

味方がやられて事によって他のジャギィ達が一斉にこちらに向かって殺気を放ちながら襲いかかってきた。

 

 

それらの動きを一瞬で予測して、僕は飛びかかってきた一匹のジャギィを剣を大きく振るって首を落とし、左から襲ってくるジャギィは盾で攻撃を防ぐ。

その際、盾の中央にある爪で反撃することも忘れない。

 

 

「ガァァァ!」

 

 

口の中に入った牙に、刺し貫かれたのか盾で防御したジャギィは苦しそうな声を上げながら後ろに下がる。

残った二匹が後ろに回り込んできていて、攻撃を仕掛けていた。

一匹はどうにか回避出来たけど、もう一匹の方の攻撃の爪での攻撃は防具をかすめられてしまった。

幸いバトル防具がどうにか防いでくれたけど、その攻撃で僕の心に再び恐怖が宿ってしまった。

 

 

怖い……

 

 

防具のおかげでどうにか傷を負わずに済んでいるけど、もしも防具を着ていなかったらどうなっていたのか……。

そう考えると震えが止まらなくなってしまった。

そのせいで足がすくみ、体が止まってしまう。

当然そうなると隙だらけになってしまう。

 

 

「ギュガァァ!」

 

 

そうしてひるんでいると、僕の後ろで盾の爪の攻撃に苦悶していた一匹が後ろからやってきた。

叫び声で襲来に気づいたのだけれど、体の反応が鈍くなっていて……。

振り向くことは出来たけれど、その反応はとても鈍く……。

その小柄な体から信じられないほどの力で走り寄ってきて、ジャギィはその牙を剥いてきた。

 

 

あ……まずい……

 

 

あまりの恐怖と身近に感じた死という事実が、さらに僕の体を縛り付けた。

 

 

「ガギュアァァァ!」

 

 

ヒュン! ドスッ

 

 

そうしてある種の死を覚悟していると、僕のそばを一陣の銀の風が通り抜けていった。

 

 

「……ガ?」

 

 

そしてその銀風は通り抜け、ジャギィの頭へと突き刺さった。

それは深く突き刺さっているのか、脳へと達しているらしく、ジャギィは悲鳴を上げることもなく、走った勢いのまま川へと突っ込んでいった。

 

 

「反応が遅い」

 

 

そう言いながらジンヤさんが 降ってきた(`````)

僕の後ろに……背中を預けるように……。

 

 

「ジ、ジンヤさ……」

 

「団体様だ」

 

「え?」

 

 

その声を辺りを見渡すと、周りの茂みや、エリア5や7、滝壺の中から次々とジャギィがやってきた。

その中には小型のジャギィと違って体の大きな個体もいた。

雄のジャギィと違う体色や大きな紫色の耳から言ってこれは雌のジャギィノスだと思う。

総勢で二十体ほどはいるだろうか……。

 

 

「クォックォックォッ!」

 

 

それだけでは飽きたらず、最後の締めとでも言うのか滝壺の中から、水が叩き落ちてくるその水の音にすら負けないほどの大きな遠吠えが聞こえてきた。

そちらに視線を向けると、そこには巨大な……余りにも巨大なジャギィがいた。

ジャギィと似ているけど、白い体毛が体の各所から生えており、皮の色も随分と違う。

なによりも、その巨体が違いを物語っていた。

人間と比較してジャギィが腰ぐらいの高さにあるのに対して、このジャギィは人間の1.5倍くらい身長がありそう。

 

 

ドスジャギィっていうリーダー……

 

 

その爪も牙も、普通のジャギィよりも圧倒的で……。

そのジャギィが僕を睨みつけてくる。

視線の鋭さに、殺気を込めて。

それが怖くて、また体が震えそうになっていく。

すると……。

 

 

「落ち着け……」

 

 

ジンヤさんがそう言って背中を優しく叩いてくれた。

自分が信頼する人が、そばにいてくれるのがこんなにも嬉しく安心できるなんて……思いもしなかった。

 

 

「背中は任せろ。その代わり……背中は任せたぞ?」

 

 

……え?

 

 

ジンヤさんが背中を守ってくれるのはわかる。

ジンヤさんならこれだけのモンスターに囲まれても何とも思っていないだろう。

だってランポスを一人で百匹倒してしまった人なんだから……。

 

 

でも、任せた? 僕に?

 

 

思わず振り返ってしまった僕だけど、ジンヤさんは振り向いてくれず、周囲のジャギィを睨みつけていた。

そしてその言葉通り、後ろ……つまり僕がいる方には一切、注意を払っていなかった。

 

 

僕ごときに……僕ごときがジンヤさんの背中を……。

 

 

ジンヤさんは僕を信頼して……信用して背中を預けてくれているんだ。

その証拠に、ジンヤさんは寄り添うように僕の背中に背を預け続けている。

 

 

そう理解した瞬間に恐怖が吹き飛び、体の震えもピタリと止まった。

だらりと下がっていた右手に力を込める。

それと同じく左手にも力を込めて、盾を前へと突き出し油断なく構えた。

 

 

見てもいないのにそれがわかっているのか、ジンヤさんが声を掛けてきてくれる。

 

 

「……いけるな」

 

「はい!」

 

 

僕はその言葉に力強く返事をした。

あの日、ジンヤさんと共にリオレウスを狩りに行ったあの道中。

狩りに行ったと言っても僕はあの日何も出来なかった。

けど、あの日思った思いは嘘じゃない!

 

 

この人について行きたい、役に立ちたい!

追いつくように……頑張ってみたい!

 

 

『そいつは重畳……』

 

 

ジンヤさんが何かを呟くけど、それは僕の知らない言葉で何を言っているのか理解は出来なかったけど……それでもジンヤさんが高ぶっているのが言葉からにじみ出ていた。

 

 

ブン!

 

 

そんな唸るような風切り音が上へと響いていく。

それは遙か高みへと放り投げられている、ジンヤさんの最大の得物、狩竜だった。

僕だけでなく、周りのジャギィ達もそれがいったい何を意味するのか、一部を除きその狩竜へと視線を向けた。

それが開戦の合図になるとも知らずに……。

 

 

ダン! シャッ!

 

 

地響きを響かせるほどの勢いで、ジンヤさんが走り、左の腰に装備された剣を抜き放ち、手近にいた一頭を問答無用で切り捨てた。

僕もそれに遅れないように、必死に走って右側にいる最初からいたジャギィに斬りかかる。

ジンヤさんほど速く走れない僕だけど、それでも隙を突いた攻撃だったので、ジャギィは反応はしていたけど避けることは出来ず、首を切ったのだけれど。

 

 

ガッ

 

 

「しま!?」

 

 

勢い余って角度が甘かったらしく、首を一刀両断できるはずの剣の一撃は、首の骨に引っかかってしまった。

当然首を半分切られてジャギィが無事なわけもなく、そのまま息絶えたのだけれど……今度は僕が隙だらけになってしまった。

 

 

「クォックォッ!」

 

 

さすがリーダー格というべきなのか、ここまでたったの一瞬の出来事なのに他のジャギィやジャギィノスよりも速く立ち直り、声を上げた。

それは指示が含まれていたのか、そばにいた五頭のジャギィ達が一斉に僕へと襲いかかってきた。

盾で防ごうにも数が多く、再び恐怖に体がすくみそうになる。

 

 

「甘い!」

 

 

ジンヤさんがそう叫ぶと、先ほど同様何本かの銀風が駆け抜けてゆき、そのどれもが頭、喉、胸、といった致命箇所へと吸い込まれてゆく。

それだけでは足りず残った二頭をジンヤさんがすごい速度で駆け寄ってきて、右手に長めの剣、左手に僕のよりも短い剣を持ってそれらを目にもとまらぬ速さで振るった。

ジンヤさんが振るったその攻撃から、ジャギィが逃れられるはずもなく……剣で斬られた二頭も例外なく地面に沈んだ。

 

 

そ、双剣も使うことができるの!?

 

 

そのことに驚いてしまう僕だった。

基本的に複数の種類の武器を使える人はいない。

武器にはそれぞれの特徴や個性があり、それらを完璧に使いこなすには相当な訓練が必要だからだ。

しかし使うだけなら簡単な武器もある。

 

 

重さで叩き切り潰すことを目的としている大剣。

巨大な鎚で殴り飛ばすハンマー。

初心者にお勧めされている、振りやすく軽い剣と、小型の盾がセットの片手剣。

これらは複雑な動きをする必要がないので、比較的簡単に使うことが出来る。

もちろん玄人やプロといったレベルに達している人々は相当な技量を持ち得ているけど……。

それに簡単と言っても最初の二つは重いので、特訓をしていないとまず持つことすら出来ない。

 

 

僕は一番使いやすい片手剣を愛用にし、威力が欲しいときのために大剣を使っている。

片手剣はまだ自信があるけど、大剣に関しては本当に予備でしかない。

 

 

切り上げる動作をするほどの筋力がないから……

 

 

また武器そのものが重いために長時間のクエストにも使用できない。

あくまでも僕は……だけど……。

 

 

「振り方が変。最初のが一番よかった。さっきの感覚思い出せ」

 

「は、はい!」

 

 

ジンヤさんの叱責を聞いて考えることをやめた。

確かにジンヤさんの言う通り、最初の攻撃はすんなりとジャギィの体を切り裂いたので、そこそこうまく斬ることは出来ていたはずだ。

 

 

一度出来たんだから……出来ないことはないはず!

 

 

再び僕の後ろに付いてくれるジンヤさん。

今はその手に二つの剣を装備して僕の背中を守ってくれていた。

双剣にしたことによって威力と攻撃範囲は狭まっているけど、純粋に二つの剣での攻撃は、その攻撃回数を一番大きな得物の狩竜を圧倒的に上回っていた。

何体ものジャギィやジャギィノスが攻撃を加えようとしているけど、その迫力と殺気にすくんで、その全てが一様に足をすくんでいたみたいだった。

 

 

僕はその隙を逃さずに、手近にいるジャギィノスに斬りかかる。

先ほどと違ってほとんど隙のない状態だったため、ジャギィノスも十分に反応してくることが出来た。

ジャギィノスが体を側面にし、僕に体当たりをしてくる。

僕はそれをジャギィノスを飛び越えることで回避し、反対側へと回り込んだ。

そして技後硬直に固まっているジャギィノスのその土手っ腹をリオレウスの剣で……紅葉で一刀両断する想いで振り切る!

 

 

キィン

 

 

その想いに答えてくれたのか、剣が淡く紅く発光した。

それに気づいた僕だけど、すでに振り切った後だった。

 

 

キィィン! ゴワッ!

 

 

そんな甲高い音を上げながら剣が振り抜かれた。

ジャギィノスの体を切ったにも関わらず。

綺麗な炎を上げながら。

 

 

ドパッ ドシャ

 

 

文字通り、一刀両断されたジャギィノスが上半身と下半身に分裂しながら地面へと崩れ落ちた。

大量の血があふれ出してくるけど、切った断面から上がった火が大半を水蒸気へと変質させていた。

普段の僕ならそれに目を回しているところだったけど、今はそれ以上に自分自身の異業に呆気にとられているところだった。

 

 

き、斬れた……僕に……

 

 

正しく言えば刃渡りが若干足りなかったので、反対側の側面は薄皮一枚でつながっているのだけれど……。

そしてそれよりも、最初に手にしたその時よりもこの剣がすごく握りやすく、なんていうか……心がつながっているみたいな感じがした。

 

 

……モミジ?

 

キィン

 

 

試しに心で紅葉と剣の名前を呼んでみると、それがわかっているのか剣が微少に紅く発光して反応してくれた。

陽炎のように淡く、静かに。

でもそのきらめきには炎のような紅い色を纏っていた。

まるで意志を持っているかのように。

 

 

「ぼさっとするな! 右!」

 

 

呆然と突っ立っていた僕に再度ジンヤさんから注意が飛んでくる。

その言葉に従い、右を見ると、他のジャギィノスが襲いかかってくるところだった。

爪の攻撃をどうにかして盾で防ぎ、さらに襲ってきたジャギィの攻撃を、紅葉を使って牽制し体勢を立て直した。

そして何とか防いでいると、再び僕を助けに来てくれたジンヤさんが、僕に襲いかかっていたジャギィとジャギィノスを、一瞬で命を奪い取っていった。

 

 

「切断できたのが嬉しいのわかるがぼけっとするな。死にたいのか?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

言っていることが一部たりとも間違っていなかった上に、完全に自分の心を読み取られていたので何も言い返すことが出来なかった。

 

 

「だが、主人と認められたみたいだな。紅葉に」

 

「へ?」

 

 

言っていることが突拍子過ぎて頭では理解できなかったけど……けどハンターとしての自分の感がそれが正しいと言うことを理解していた。

紅葉がジンヤさんの言うことが正しいとでも言うように発光を繰り返す。

何よりも最初に握った時よりも、武器との……紅葉との一体感がまるで違った。

 

 

誇張抜きにして自分の体の一部のようだった。

 

 

「もう大丈夫だな。驚かず怖がらず、落ち着いて攻撃しろ。リーメなら出来る」

 

「はい! ジンヤさん!」

 

「よい返事だ! いくぞ!」

 

 

そうジンヤさんが吼えると、僕らは同時に互いで反発し合うかのように前へと走り出した。

数は増えていないので、そこまで危ない状況じゃない。

普段の僕なら絶対に考えないような奇妙な自信がついていた。

それになにより、ジンヤさんがいて、愛用武器と成った紅葉が手元にある。

 

 

これだけで負ける要素が見つからない!

 

 

「たぁぁぁぁぁ!」

 

 

気合いを呼気と共に吐き出しながら、僕は紅葉を振るいジャギィとジャギィノスをどうにか切断して倒していく。

もちろん相手もそう簡単に狩られるわけもないから必死に抵抗してくるのだけれど……、紅葉のおかげで自信がついた僕にはその動きがどうにか見切ることが出来た。

いくつかの攻撃は体を大きくそらして避け、それが出来ないときは左手に装備したその盾で防ぐ。

右手に握った紅葉を訓練通りに振るいながら、次々と……とは行かないけどどうにか攻撃して無力化していく。

 

 

それに対して……

 

 

ズバッ! グサッ! ヒュゥン! ヒュン!

 

 

ジンヤさんが見えない速度で剣を振るうたびに、血と敵であるジャギィとジャギィノスの肉片に首が宙を舞った。

 

 

「ギュアアァァァ!」

 

「グォォォ!」

 

『はっ、あまいわ恐竜モドキ二号! それともエリマキトカゲのつもりか! この爬虫類め!』

 

 

何を言っているのかわからないけど……そう叫びながらもその動きには全く無駄がなかった。

完全に精錬されたその立ち回り、技量。

どれをとっても見惚れるものばかりだった。

それに今回は大型の武器である狩竜と違って双剣だ。

ある種豪快と言える狩竜の一凪での攻撃は圧巻だけど、今の戦闘スタイルの方がジンヤさんの動きがより鋭かった。

おそらく双剣か、右手に持っている剣での片手剣のみでの戦闘スタイルが本来のジンヤさんの戦い方なんだと思う。

 

 

双剣は小型故に威力の少ない片手剣を、単に両手で二つ持つことにより攻撃回数を増やして、攻撃力を回数で補うことをより助長した戦闘スタイルだ。

説明は簡単にできるけど、実際にやってみるとそれが難しい。

何せ二つの武器を同時に扱うのだ。

刃の角度や腕の振り抜き方、剣の連携といったいくつものことを瞬時に処理しないといけない。

 

 

正直な話、双剣を戦闘スタイルにしている人はそんなに多くない。

何せそこまで片手剣の武器で攻撃力を上げなくてもそれ以外に解決方法はいくらでもあるんだから。

攻撃力なら圧倒的に大剣やハンマーが勝るし、リーチに至ってはランスやガンランスが上なのだから。

でも今のジンヤさんを見ていると自分も双剣を使いたくなってしまう。

 

 

狩り場に舞う、銀の光。

水を跳ね上げて、まるで踊るかのように両の手の剣を振るう姿。

それを彩るかのように、モンスター達が襲って、それらをことごとく返り討ちにしていくその姿。

 

 

はっきり言って、とてもかっこよかった。

 

 

「……おい」

 

 

そうして僕がまたジンヤさんに半ば見とれていると、ジンヤさんが怒気を含ませた声を僕に向けて放ち、左手に持っていた剣を宙に軽く放ると懐に手を伸ばして何かを投げつけてきた。

 

 

ヒュン ドス

 

「ガァァ!」

 

 

投げナイフは寸分も狂うことなく、僕に後ろから襲いかかろうとしていたジャギィの喉に突き刺さり、悲鳴を上げて水に沈んだ。

 

 

「リーメ。背中を任せろとは言ったが、突っ立てるのはおかしい。ぼけっとするな!」

 

「ご、ごめんなさぁぁい!」

 

 

さすがに何度も惚ける僕に怒っているのか、本気で怒鳴ってきた。

僕は慌てて周りに注意を向ける。

けど、僕が少しの間ぼけっとしていた時にもジンヤさんは休まずに攻撃を行っていたみたいで、ジャギィもジャギィノスもほとんど残っていなかった。

後は僕の周りにいる数体だけかもしれない。

数が減ったということは不意打ちをするのがしにくくなると言うこと。

つまりはそれだけ攻撃回数が減るのだ。

なら、僕にもどうにか対処は出来るはず!

 

 

「やぁぁぁぁ!」

 

 

気合いと共に剣を振りかぶりそれを振るう。

しかし余りにも大振りだったそれは簡単に避けられてしまう。

そして一体が大きな口を開けて襲いかかってくる。

 

 

かかった!

 

 

しかしそれはある意味で予想通りだった。

僕は振り抜いた力を止めることなくさらに回転させて、反対側に持つ盾で、その向かってきたジャギィの頭を思いっきり叩いた。

 

 

ガン!

 

 

「グガッ!」

 

 

あいにくと狙いが甘かったのか、中央の爪が頭に刺さることはなかったんだけど……。

でもその一撃は軽いとはいえ人間の全体重を乗せた一撃なので無傷ではすまない。

脳が揺さぶられたことで目眩を起こしているのか、ジャギィはふらふらとふらつきながらその場に倒れた。

まだ倒していないから油断は出来ないけど、少なくとも一体が無力化できたことに代わりはない!

 

 

「グアァァァァ!」

 

 

そうしてほとんどのジャギィとジャギィノスが地に伏せると、ついに痺れをきらしたのか、リーダーであるドスジャギィがジンヤさんへと走っていった。

ジンヤさんの方が圧倒的に危険だし、それに僕の方にはまだ手下であるジャギィやジャギィノスが残っているのでそちらを選んだのかもしれないけど……。

はっきり言って、その選択は完全に間違っていた。

 

 

だって……ジンヤさんだし

 

 

普通なら多少なりとも心配するところなんだけど……ジンヤさんというある意味で規格外な人だとむしろモンスターの方がかわいそうに思えてくる。

と楽観視していたのに……。

 

 

ヒュン キィン

 

 

え?

 

 

あろう事か、ジンヤさんは両手に持っていた剣を勢いよく地面に向けて振るった後、先ほどと同じように左手の短い剣を宙に放り、器用にポーチから取り出した布で剣を拭いてそのまま両方ともしまってしまった。

ジンヤさんなら素手でモンスターを倒すことも出来ることは知っていたのだけれど……敵を目の前にして武器をしまうという行為があまりにも驚いてしまった。

 

 

「ジンヤさん!」

 

 

僕は思わずそう叫んでいた。

もちろん、さっきと違って目の前の自分の敵を倒したり、攻撃を避けたりしながらだけど……。

 

 

「……慌てるな、リーメ」

 

 

ジンヤさんはいやに自信たっぷりにそう言うと、右手を高々と空へと突き上げた。

咄嗟に何をしているのかわからない僕だったけど……。

 

 

ヒュンヒュンヒュン パシッ!

 

 

そうして空へと突き上げたその右手に、まるで吸い込まれるかのようにとてつもなく細長い何かが収まった。

 

 

それは、ジンヤさんが戦闘開始の合図にしたジンヤさんの巨大な武器、狩竜だった。

 

 

「ガァァァァァ!」

 

 

ドスジャギィは、それにもかまわず怒りにまかせて突進する。

ジンヤさんはそれにも慌てずに入れ物を斜め前方、つまりはドスジャギィの後方へと投げ飛ばすようにして抜剣した。

 

 

『ぬるいわエリマキトカゲの大将。あばよ』

 

 

再び何を言っているのかわからなかったけど、その長大な狩竜が文字通り銀の光となり、宙を走った。

それと同時にジンヤさんも一瞬で前方へと移動しており、振り抜いたその瞬間には互いの位置関係が反転していた。

 

 

そしてジンヤさんは先ほど前方へと投げとばしていた入れ物の回転に合わせて、器用にあの長大な武器をしまった。

 

 

キン

 

ドバッ!

 

 

その入れ物が収まりきったっと思ったら、ドスジャギィの首が綺麗に落ちた。

ドスジャギィだったそれは盛大に赤い血を噴出しながら地へと崩れ落ちていく。

 

 

……前も思ったけど、いったいどんなことをしたらあんな風に切断できるんだろう

 

 

自分たちのリーダーがやられてしまったことで、残っていたジャギィノス達が呆然とする。

その隙を逃さずにジンヤさんが胸に収納している投げナイフをジャギィノスの足に向かって投擲した。

 

 

「ガギュアァァ!」

 

 

ジャギィノスが悲鳴を上げる。

そして上げたその瞬間には、ジンヤさんが目の前へとやってきていて、その頭に人差し指を当てていた。

 

 

「ほい」

 

「ッガ!?」

 

 

額に当ててすぐに、ジャギィノスが悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。

てっきり倒してしまったのかと思ったけど、規則正しく胸が上下しているところを見ると、気を失ったのかもしれない。

それと同じことを、先ほど僕が盾で気絶させたジャギィに行って、ポーチに入れてある紐で二頭の手足を縛っていた。

 

 

「クエストクリアかな?」

 

「……ですね」

 

 

ジンヤさんが何をしているのかわからなかったけど、とりあえず戦闘が終わって僕はその場に崩れ落ちた。

普段からして自信なんてないのに……いきなりこんな戦闘を一人でやらされたのはつらかった。

 

 

でも、一人で狩ってこいって言った割にはすぐに助けに来てくれたけど……

 

 

ジンヤさんは僕には目もくれずに、手際よく二頭を川から引き上げて、地面に投げ捨てていた。

そう言えば村長が何体か捕獲してきて欲しいと言っていたのを今思い出した。

 

 

緊張の余り忘れちゃってたよ

 

 

そうするとドスジャギィも捕まえた方がよかったのかもしれない。

でも依頼はジャギィとジャギィノスをどうにかするっていうクエストだから大丈夫なのかも?

 

 

それにしても雷光虫が多いなぁ……

 

 

何でか知らないけど、大量の雷光虫がこのエリアにいた。

 

 

……どうせなら虫網持ってくればよかったな

 

 

雷光虫は衝撃が加わると放電するという特殊な虫で生活の中にも広く活用されている虫だ。

そのため結構村でも重宝されているんだけど……、虫網がないと結構捕まえるのに苦労する虫なので僕は雷光虫を捕るのを諦めてジンヤさんの元へと向かった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

ドスランポスよりは歯ごたえがあったが……如何せん飛竜よりは弱いのかね

 

 

それがドスジャギィの首を狩竜でぶった切った俺の素直な感想だった。

ドスランポスよりも体格が大きかったし、それに見合った気を放出していたので期待したのだが、まぁ所詮は鳥竜種ってことだろうな。

乱暴に捕獲した雄雌の個体を水から引き上げて俺はそれを地面へと投げ捨てた。

これを持ち帰れば依頼達成へとなるわけだ。

 

 

ようやく畳の上で敷いた布団で寝れる

 

 

キャンプはキャンプで楽しいのだが、如何せん食事、風呂、寝床などといったものが簡素になりがちだ。

風呂は当然入れないから行水だし、食事は保存食が主、鍋にしたり工夫を凝らしたりもしたが、家できちんと調理した方がうまい。

寝床は最初から用意されていたのは非常に助かったが、如何せん堅い。

 

 

まぁキャンプに余り多くを求める方がおかしいのだが

 

 

「……ん?」

 

 

そうして作業を行っていると、森の方から何かが歩いてくるのが感じられた。

隠れているのかもしれないが、その巨大な気を俺が見逃すはずもなく……一瞬ムーナかと思ったが、そのムーナは俺の言いつけ通り、先ほど言ったエリア2から一歩も動いていなかった。

 

 

ムーナと違えるほどの気の量だと!?

 

 

そのことに驚愕してしまう。

アオアシラと呼ばれる熊かと一瞬思ったが、それにしたって気の総量が大きすぎる……。

 

 

「ジンヤさん」

 

 

突然の乱入者に思考を巡らせていると、何でか知らないがとても重い足取りでこちらにリーメがやってきた。

戦闘で疲れたのもあるのかもしれないが、それ以上に何かつらいことでもあったのか?

少なくとも最初に鎧越しに爪の一撃を食らった以外に、攻撃は受けてないはずだから怪我もしてないはずだ。

 

 

俺がそう訝しんでいると、ものすご~~~~~~く悲しい表情をしながらリーメが火竜刀、紅葉を差し出してきた。

 

 

……あぁ、そう言えばテスト結果言ってなかったか

 

 

捕獲することで頭がいっぱいで完全に失念していた。

素直に差し出したのはいいんだけど、こちらを見上げてくる目線が、完全に小動物の……なんていうのかね? 今咄嗟に思いついたのは「どうする? ア○フル~」のあの小型犬の目だ。

あれにそっくり。

お父さんが苦労してたね。

それともあれも親バカって言うのかね?

 

 

そんなくだらないことを考えている時も、それはゆっくりと静かにこちらに歩み寄ってきていた。

 

 

「すごいなリーメ?」

 

「え?」

 

「武器なしで戦うのか?」

 

「???」

 

 

俺の言っていることがわかっていないようだ。

まぁつまり乱入者の存在に気づいていないんだろうが……。

 

 

人のこと言えないが、クエストクリアしたからと言って油断しちゃだめだろ? 

え? お前はどうなのかって? いや教訓を述べたまでだし?

 

 

本当に人のこと言えないけど。

俺の発言の意味が全くわかっていないリーメに俺はこう言ってやった。

 

 

「お客様だ」

 

「……へ?」

 

 

それでようやく意味がわかったらしかったが、どこから来るのかは全くわかっていなかったらしい。

敵がこちらに向かって無駄に泰然とした態度でゆっくりと、まるで王者のように歩み寄ってきた。

 

 

「あ、新手!?」

 

 

リーメが慌てて、俺の横に並んだ。

さきほど外した紅葉を慌ててまた後ろ腰に装備している。

俺はそんなリーメを横目に見つつ、こちらにやってきたモンスターを見つめた。

 

 

体の基本色は青色と言うよりも翡翠色? みたいな感じで随分と綺麗な鱗をしている。

巨大な前足には当然と言うべきかそれに見合った爪がついており、しかも横の方にもついている。

体の至る所に真っ白な体毛を生やし、肩や顎に尻尾、そして前腕には偉く堅そうな黄色い外殻で覆われている。

口に生えるその牙と、額から突き出ている角も随分と堅そうに見える。

 

 

そして何よりも、薄暗い木々の下から出てきたにも関わらず、こいつの体ははっきりと見て取れる。

どういう原理かは知らないが、こいつは自ら発光していた。

 

 

「グオォォォォォ!」

 

 

そいつは見間違えることもなく、まっすぐに俺たち二人を見つめていた。

当然、殺意を持った視線で。

 

 

……どうやらやる気満々のようです。

 

 

 

 




ふ、相変わらず長いぜ・・・・・・


後編に続く



2012 2/7 誤字脱字修正
男と女座様 ありがとうございました!

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