リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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前編後編になりました。
後編は絶賛執筆中ですが……またながくなりそうだね。あ~やだやだ

そしてついに! ついに! ついについについに!


ファンタジー要素が入ります、ファンタジー要素が入りますと、第二部が始まってから言っていて、結局全く入っていなかったファンタジー要素が……。


ついにこの話にて入ってきます!!!(ファンタジー要素が)


これが皆様にどう受け止められて、どのような評価がくだるのか!?
はっきりいってわかりません!
でも後悔はしていない!
でも怖い事は怖いのだ!
でもやる!


ついに、っていうかようやく佳境へと入り、物語は急展開を迎える!


ここよりこの物語は真に「リアル?モンスターハンター」へとなりうるだろう!


それでは、どうぞ!



激変する運命 前編

~刃夜~

 

 

「蒼いリオレウス……?」

 

「そう。リオレウスの突然変異亜種。その名前の通り、蒼い鱗を身に纏った恐ろしい竜だ」

 

 

ギルドナイトへと向かう直前。

俺は村長に呼ばれて村長の家へとお邪魔していた。

 

 

村長はギルドナイトの隊長に話をいくつか聞いており、そのことについて話があるらしい。

そして聞かされたのが、今日、ギルドナイトの隊長……ディリートが俺に討伐させようとしているモンスターの事だった。

 

 

「リオレウスよりも空中戦を好み、そして膂力、スピード、火球の威力、それに鱗の堅牢さ……どれをとってもリオレウスよりも遙かに強力で堅い。もはやギルドナイトでしか討伐できないと言われているほどだ」

 

 

その話を聞いて俺はあの隊長がどうして俺にわざわざここ、ユクモ村に出向いてまでやってきたのかがわかった。

 

 

俺が倒したリオレウスほど強いかどうかは謎だが……少なくとも気軽にいけるモンスターではないわけだ

 

 

前回のリオレウス。

あれが強力なモンスターであった事に代わりはないが、しかし普通のハンターのリーメがクエストを受注できたところをみると、少なくとも悲鳴を上げるほどのモンスターではないのだろう。

しかし今の話のモンスターである蒼リオレウスがギルドナイトですら討伐できないと言うのが本当ならば……よほど強いモンスターだということになる。

だからわざわざここまできたという事なのだろう。

実にご苦労なことである。

 

 

「俺に討伐させると?」

 

「そう言っておった。ここ最近のモンスターの活発化でギルドナイトのハンター達も各地に散っておるらしい」

 

 

人手不足ですか……

 

 

どこに行っても優秀な人材というのは不足するらしい。

別に自分の事を優秀な人材と思った事はなかったが、相手が変な事をしない限り素直に仕事に励むとしよう。

 

 

「蒼リオレウスは古龍にすら匹敵すると……歴史書の人材がこぼしておったらしい」

 

「古龍? そうだ村長。リーメが伝承で、渓流の崩壊した村、古龍? の仕業と言っていたが?」

 

 

古龍、という言葉で俺はリーメが村長が伝承に詳しいと聞いた事を思い出した。

村長はその言葉を聞くと、とても言いづらそうに口をつぐんでしまった。

俺は聞くのがまずかったのかと思い、話さなくてもいいと言おうとしたのだが……。

 

 

 

天が啼く時、霊峰に、大いなる災厄の竜が舞い降りる。

 

その者、まず河を飲み、次に山を飲み、最後に里を飲む。

 

人々これを畏れ、里を去る。

 

 

 

俺が止める前に、村長はゆっくりと謡いだした。

まるでそれを見てきたかのように……沈痛とした面持ちで。

 

 

「これはこの里に伝わる古龍の伝承。儂らの祖先が書き残した伝承に記された一節」

 

「……本当に古龍が村を?」

 

 

本来ならば軽く鼻で笑ったいるところだが、如何せんここは異世界だ。

モンスターというある意味で超常的存在がいる以上その可能性も0ではないだろう。

しかしその言葉に村長は軽く頭を横に振った。

 

 

「わからん。儂はあの村で一時期住んでいたのだが子供だったのであまり覚えていないのじゃ」

 

 

生き証人かよ……

 

 

竜人族が長寿命というのは、レーファやリーメに聞いていたから知識としては知っていたが……まさか伝承と言われた時代から生きている人物がいるとは……。

 

 

「だが、荒れ狂う嵐の中……見えた気がしたのだよ。荒風の中空を舞うように飛んでいた、白い龍を……」

 

 

自分としても信じたくないのか……それとも信じられないからか、その言葉を最後に、村長は口を閉ざしてしまった。

その時の記憶を反芻しているのかもしれない。

悪い事をしてしまったかもしれないが……しかし俺にはこの村長に掛けるべき言葉が見つからなかった。

 

 

「失礼します。ジンヤさん? お話終わりましたか? そろそろ出ないと」

 

「お、おうリーメ」

 

 

妙な沈黙状態になってしまった村長の部屋の戸を叩いたのはリーメだった。

わざわざ出発の時間を教えに来てくれたようだった。

俺はそれを聞いて外していた装備を持ち、リオレウスの素材も一部使われている編み笠をかぶり、村長に頭を下げた。

なんでか言葉を掛けるのがためらわれたからだ。

 

 

 

そのまま出口へと向かおうとしたが……。

 

 

「気をつけてなジンヤ君」

 

 

村長がその重たい口を開いて、俺にそう声を掛けてきた。

その言葉に俺は首だけで振り返った。

 

 

「蒼リオレウスには奇妙な伝承があってな」

 

「奇妙な伝承?」

 

「蒼リオレウスは……」

 

 

 

人の運命を激変させる存在である……と古くから伝えられている

 

 

 

人の……運命を……?

 

 

「ジンヤさん、本当にもうあまり余裕がありませんよ」

 

「あぁ、わかった。村長、ありがとう。では失礼」

 

「村長さん、失礼します」

 

「……気をつけて」

 

 

俺たち二人は、村長に対して頭を下げると玄関から外へと出て行った。

 

 

人の……運命をね……

 

 

激変すると言うが……今の俺のこの状況ほど激変しているものはないだろう。

何せ異世界に来ているのだ。

それを「激変」と言わずして何なのか?

 

 

そう心の中で笑った。

そして俺はリーメに見送られて一人竜車に揺られてドンドルマへと赴くのだった。

 

 

 

 

そしてやってきたドンドルマでお上りさんよろしく、待ち合わせ場所でぼけっとしていたら、フィーアがまぁ随分と不機嫌そうにやってきて道案内をしてくれた。

それについて行って、ギルドナイトの本部へと足を運び、今、幹部がいると思われる個室の一つのドアを、フィーアがノックしていた。

ちなみにその際、ギルドナイトの隊員達と思われるハンター達に随分と奇異の目で見られた。

 

 

「隊長。フィーアです。クロガネジンヤを連れてきました」

 

「入ってくれ」

 

 

室内からのその言葉に、フィーアは静かにドアを開き、中へと入っていく。

俺はそれに続いて中へと入った。

 

 

おぉ。シックな部屋

 

 

そこそこ高級な調度品が室内にバランスよく配置されており、随分と落ち着いた雰囲気の部屋だ。

そしてドアの真正面に配置されている執務机で、先日ユクモ村にやってきたギルドナイト隊長、ディリートが熱心に書類仕事を行っていた。

俺らが入室し、扉が閉まったのを確認してからディリートは顔を上げた。

 

 

「ようこそギルドナイトへ。先日も紹介したが、私の名前はディリートだ。クロガネジンヤ、入隊を歓迎する」

 

「ユクモ村料理人兼ハンター刃夜だ。よろしく」

 

 

限りなく平坦な声で、俺はわざわざ立ち上がってこちらの目の前まで歩み寄ってきたディリートに対して返事をした。

正直あまり乗り気ではないからだ。

 

 

「わざわざこちらに出向いてもらってすまない。ギルドナイト全員がいるわけではないが、現在いる隊員にだけでも君のことを紹介したかったからだ」

 

 

それが入隊式とやらをやる理由なんだそうだ。

事前に聞いていたとはいえ、パンダ扱いされると思うと、俺のやる気テンションゲージはだだ下がりである。

そんな俺の態度が気にくわないのか、後ろでフィーアがものすごい怒気を放っているのがわかった。

 

 

しかしそんな怒気を当てられてもやる気は起きないので俺は特に態度を変えない。

そんなあからさまにやる気のない態度でいても、隊長であるディリートは年上らしく余裕ある姿勢を崩さなかった。

 

 

「一応君の部屋も用意したのでそこに行って荷物を置いてきてくれ。鍵はこれだ」

 

 

そう言って俺に一つの鍵を手渡してくれる。

ユクモ村に帰す気があるのか非常に気になったが、自室があって困る事はないだろう。

俺は素直にそれを受け取る。

 

 

「時間が結構おしているのですぐに入隊式を行う。フィーア、部屋へ案内してからすぐにまた私の部屋へ来てくれ」

 

「了解しました」

 

 

実につまらなさそうにそう声にすると、フィーアが早速部屋を出て行った。

無論敬礼と挨拶をしてからだが……よほど俺と一緒にいたくないと見える。

 

 

俺もその後へと続いた。

出てすぐの階段を上り、少しおしゃれな廊下を通り、一つの部屋の前で止まり、そのまま横にずれた。

どうやらこのドアが俺に用意された部屋らしい。

先ほど受け取った鍵を刺してみると、すんなりと入って解錠出来た。

 

 

中は簡素なビジネスホテルよりも豪華ではあった。

ベッドが一つにテーブルとイスが二つ。

そして執務机とイス。

さらに意外な事にトイレがついていた。

 

 

怪しい物はないな

 

 

それはそうだろう。

何せ電気すらまだ自分たちで発電できないのだ。

監視カメラや盗聴器などの類があるわけもない。

空気の流入からいってもどこかにのぞき穴が空いているわけでもなさそうだ。

狩竜を誤ってぶつけたと見せかけて、天井裏も確認してみたが特に異常はない。

窓の外はドンドルマが一望できるような景色が見える。

すぐ下に飛び出している屋根があるので、窓からの緊急脱出も可能だ。

 

 

まずは逃走経路とかを確認しておかないとな

 

 

まるで侵入調査中の工作員みたいな感じになっているが、重要な事なので忘れてはいけない事だ。

後で廊下などを徘徊し、建物内部の構造を把握しないといけない。

ここで生活をする気はないが、やっておいて損はない。

 

 

そんな事を考えつつ、俺は何も言ってこないフィーアに声も掛けずに中へと入り、とりあえず室内戦を想定し、スローイングナイフと花月、水月以外を外した。

特に狩竜は室内だと振るうのもきついので真っ先にベッドの上へと置く。

こうして一瞬とはいえ装備を外すことになることを想定していなかったので、刀入れを置いてきたのは痛かった。

気を込めているから抜刀は出来ないが不安にはなったりする。

ここの防犯に期待しつつ、とりあえず中から窓の鍵を閉めて密閉空間にしておく。

 

 

「……おい」

 

 

そうして何となく防犯対策をしていると、後ろからものすごく不機嫌な声が耳に聞こえてくる。

声を掛けられた以上、無視するのもあれだったので、俺は仕方なく振り向いた。

すると案の定声同様、不機嫌そうにしているフィーアの姿があった。

 

 

「何か?」

 

「……隊長は貴様に期待しているようだが、私は認めた訳じゃない」

 

「?」

 

「今日の討伐クエスト……足を引っ張るなよ!」

 

 

なんか怒鳴ると、さっさとどこかに行ってしまった。

おそらく隊長の私室に戻るのだろうけど……。

 

 

……うん。速い上に怒鳴ってたから理解できねぇが、なんて言ってるかは態度でわかるな

 

 

この辺のやりとりは、ユクモ村では俺に言葉が十全に通じないのはすでにみんな承知しているのでゆっくりと話してくれるから問題ないが……さすがにまだそんなにコミュニケーションを取ってないやつにはきついみたいだ。

 

 

面倒な事に成りそうだな……

 

 

素直にこちらに赴いたまではよかったが、何か面倒な事が起きそうな気がしてならない。

俺は一つ盛大に溜め息を吐くと、先ほどの隊長の部屋へと向かうべく、部屋から出てしっかりと鍵を閉めたのだった。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

……気に入らない

 

 

それが私の正直な感想だった。

ハンターとして誇りを持って仕事をしてきた。

その努力のかいあってか、こうしてハンターの名誉とも言えるギルドナイトに入隊出来るほどの実力を身につけた。

それは誇りでこそあれ、面倒な物ではない。

 

 

それなのに……あの男は

 

 

ここでのんびりしていたほうがいい

 

 

たったその一言でギルドナイトの入隊を断ったのだ。

あれほどの腕と実力を持ち得ながらも、それがなんてことないとでも言うように……。

 

 

悔しかった。

憧れの隊長に希望と言われるあの腕前も、実際に目にしたあの人間離れした実力も……私には決して届かないとわかってしまったから。

それを認めたくなくて、あの男に八つ当たりしてしまう。

あの男の自然な態度が……本当に自分の実力は当たり前だと行っている気がして……。

 

 

「……醜いな、私は」

 

 

要するに嫉妬してしまうのだ。

隊長はまだわかる。

言い訳になるかもしれないが私よりもだいぶ年上なのだ。

少しくらいは実力に差が出てもおかしくはない。

なのにあの男は私よりも年下なのだ。

それが悔しかった。

 

 

そして何より……

 

 

あの男のどうでも良さそうな……私自身もどうでもいいと思っているようなあの態度が……無性に腹が立って仕方がなかった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「この男が、新たなギルドナイトの仲間、ジンヤだ」

 

 

……俺は今…………

 

 

「新隊員だが、実力は折り紙付きだ。皆協力して任務に当たって欲しい」

 

 

……非常に機嫌が悪い

 

 

「そしてこのジンヤにはフィーアと共に蒼リオレウス討伐に向かってもらう」

 

 

ザワッ

 

 

その一言に会場が騒然としている。

しかし、それは俺の頭の中には入ってこなかった。

 

 

………怒りを抑えるのに必死だったからだ。

 

 

……俺は動物園のパンダか?

 

 

しかしこれが必要な事だというのならば、素直にパンダをしているしかあるまい。

そう耐えて、どうにかこの入隊式という名の珍獣公開を乗り越えた。

 

 

それから入隊歓迎式とかやるとか言い出さないか冷や冷やしていたが、どうやらそんな事はせずにそのままクエストに出かけるようです。

そのことに少しほっとしていたのだが……。

 

 

「どういう事ですか隊長!?」

 

「どうしてそんな新入りが名誉あるギルドナイトに入隊出来るのですか!?」

 

「入隊出来る云々感ぬんは私は問題ないと思いますが、いきなり実力もはかっていない状況下で蒼リオレウスなんて……いくら何でも無謀では?」

 

 

入隊式が終わって隊長の部屋で概要を聞いていると、まぁうざいことに隊員が押し寄せてきたのだ。

声が縦横無尽に飛び交っている上に、早口、うるささ、聞く気がないと、そういった諸々の事情で何を言っているのかわからないが……この様子から見て、どうやら事前に俺の事をあまり知らせていなかったようだ。

 

 

そら見た事もない格好をした男が突然ギルドナイトに入隊して、あまつさえギルドナイトでしか討伐できないと言われている蒼リオレウスの討伐に向かうと聞いたら腹も立つはな

 

 

隊長が質問攻めされているのを同室のソファーでぼけっと座ってのんびり眺めていた。

ちなみに武装、所持品といった装備はすでに部屋から持ってきているので、いつでも出られる状況にある。

フィーアも一緒に行くらしく、俺の対面に腰掛けて、彼女もこの前の装備であるガンランスを部屋に持ち込んでいる。

 

 

「落ち着けみんな」

 

 

とりあえず言いたい事を先に言わせてから自分の意見を言おうとしていたのか、ある程度意見が発言されて論点がずれ始めたところの絶妙なタイミングでディリートがそう静かに口にした。

しかしその声に込められた迫力は本物で、口々に何か言っていた輩全員が居住まいを正し、直立不動の姿勢になった。

 

 

……よく教育しているな

 

 

どうやらそこそこの教育と信頼関係は築けているようだ。

ディリートの評価を心の中で上げつつ、俺は静かに何を言うのか楽しみにしながらニヤニヤと眺める事にした。

表面上は普通の態度だったが。

 

 

「みんなの気持ちはよくわかる。確かに彼は新人だ。その新人である後輩に、蒼リオレウスの討伐を任せるのが気にくわないのはわかる。だが、逆に聞くが……この中で自信を持って蒼リオレウスを討伐できると言えるのは何人いる?」

 

 

俺にも聞かせるつもりなのか、嫌にゆっくりとした口調で語っている。

そうディリートが言うと、誰もが口を閉ざしてしまった。

どうやら少なくともこの中には自信を持ってリオレウスを討伐できるのはいないみたいだ。

 

 

「別に攻めている訳じゃない。リオレウス以上に蒼リオレウスは強敵なのだ。皆が慎重になるのはわかる。しかしそこの男、ジンヤはたった一人で、リオレウスを討伐してのけるほどの腕前を有しているんだ」

 

 

その言葉に再びざわざわと喧噪に包まれる隊長室。

舐められていたのか、俺がリオレウスを討伐できるようなハンターには見られていなかったようだ。

 

 

まぁ確かに見た目ひ弱そうに見えるのが俺だ。

筋肉質ではあるが、筋肉モリモリマッチョマンではない。

この場にいる中で男限定で言えば間違いなく俺が一番線が細い。

しかも身長は日本人としては高い方だが、この世界では大体180以上が普通なのか、俺よりも小柄な男はあまりいない。

そしてなによりも見た目の異常さ。

それらもろもろのせいでそこまで強くは見えないのだろう。

 

 

まぁもう慣れっこですがね

 

 

裏家業を始めた時も、東洋人の子供という事で随分と舐められた物である。

そいつらにはきつくお灸を据えていたがね。

 

 

「モンスターが活発化している中、強力な戦力として私が連れてきたのだ。皆の気持ちはわかるが、蒼リオレウスに震えている住民達のために、ここは抑えて欲しい」

 

 

住民達のために。

その一言は決定的だった。

基本的にこの世界でモンスターがいない場所はない。

程度はあれど、モンスターの恐怖を味わった事のない人間はいないはずだ。

ハンターはまだいいにしても農民などの一般人に鳥竜や飛竜に対処できるわけもない。

自分たちが助ける事は出来ないが、今この瞬間もハンターの助けを待っている人がいる。

それは絶大な効果を発揮していた。

 

 

「……しかし納得できません!」

 

 

それでもプライドがあるのだろう。

一人の男が声を張り上げた。

自分自身、隊長の行っている事が正しいとわかっているが納得が出来ない。

そんなそいつの心情が声に含まれていた。

 

 

「隊長、せめて同行許可をいただけませんか? フィーアさんが行くにしてもまだ二人はクエストに行く事が出来るはずです」

 

 

二人? 人数制限でもあるのか?

 

 

どうやら最初からついてくる気満々だったようである。

代表者なのか、二人の男が前に出て、隊長に随分と真摯な眼差しを向けている。

それまで否定する事が出来ないとわかっているのか、隊長もすぐに否定の声を出さない。

 

 

「いいんじゃないか?」

 

 

このままだといつまでも状況が変化しそうにないので、嫌ではあったが俺自ら声を上げる。

その場にいる全ての人間の目が俺に向けられるが、慣れっこだ。

俺は外していた編み傘を手で弄びながらさらに言葉を続ける。

 

 

「ついてきたいんだろ? ならさっさと行こうぜ」

 

 

そう口にして、俺は編み傘をかぶり、立ち上がると机に置いておいた得物を帯に差してゆく。

あまりの上から目線にほとんどの人間がいらついたのか、室内に怒気があふれかえりそうになるが、その一瞬前に、ディリートが俺の元へと歩み寄ってきた。

 

 

「いいのか?」

 

「いいよ。別に」

 

 

もっと伝えたいのだが、まだそこまで自由に使えないのでとりあえず問題ない事だけ告げる。

本当は問題だらけだけどね。

 

 

「わかった。だが……一応君は入隊したばかりの新人だ。腕が立つとはいえ、それぐらいの事は自覚してくれ」

 

 

そう言うしかないだろう。

何せそうしないと後ろの連中が何を言ってくるのかわからないからな。

 

 

「……了解」

 

 

不承不承、俺はわずかに頭を下げた。

事情が事情なのでわからないでもないが……パンダ扱い、多人数からの露骨な蔑みと嫉妬の目線、罵倒。

そして手が回りきっていない手際の悪さ。

しかしその手を回していないのにも理由があるとわかっていては……。

 

 

……我慢我慢

 

 

……するしかないだろう。

話し合っていたのか、腕が立つ二人がすでに同行する事を決定したようだ。

すんなりと残り二人の人間が決まると、俺とフィーア、そして大剣とハンマー使いの合計四人を乗せた竜車は、蒼リオレウスが最後に確認された、沼地と呼ばれるドンドルマのすぐそばにあるデオデ村へと向かうのだった。

 

 

 

 

~ディリート~

 

 

行ったか……

 

 

私はジンヤ、フィーアを含む四人のハンターを送り出すと、溜め息を一つ吐いてソファーへと腰掛けた。

クロガネジンヤを皆に紹介する。

そしてわざと(・・・)皆に事前に知らせない事によって、驚愕と反感を買わせた。

そうすれば皆が私の部屋に押し寄せてくる。

その時に必ず同行したいというやつがいると思っていたが、どうやら狙い通りになったようだ。

 

 

彼には悪い事をしたがな

 

 

しかし彼の存在をここにとどめる……というよりも少しでもここにいさせるためには実力を認めさせる事も重要だ。

針のむしろに居座るのが好きな人間などそんなにいないはずだ。

ジンヤの実力を見て、少しでもうち解けてくれるといいのだが。

 

 

そうはいっても私も実際に眼にしたわけではないんだが……

 

 

連携に関してははっきり言って期待していなかった。

リオレウスを一人で討伐できて、閃光玉でフィーアが援護したときも邪魔の一言で片付けるような男なのだ。

援護も連携も必要ないだろう。

実力をその目に見せるのが一番だから同行許可は私としても出したかったからどうにか言葉を考えていたのだが、それを言う前に彼が同行を許可してくれたのはありがたかった。

 

 

後はお手並み拝見だな……

 

 

窓の外にで小さくなっていく、四人を乗せた竜車を窓から静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

ガタンゴトンガタンゴトン

 

 

竜車の車輪が地面を転がる音が耳に入ってくる。

というかそれしか聞こえない。

 

 

「「「「……」」」」

 

 

ドンドルマから出発して早二時間ほど。

その間、誰一人として言葉を発さず、俺を覗く他の三人のハンターが俺の姿を凝視していた。

ここまで無言なのも珍しいのか、竜車を操縦している人がひどくこちらのことを気にしていた。

 

 

……うぜぇ

 

 

日頃の俺ならば、別に受け流すことも出来たのだが、いかんせん機嫌が悪くて心に余裕がない状況なので、俺もそれを受けて平然としていることは出来なかった。

だがさすがに表に出すことはなく、俺は自然な態度を取ったまま腕組みをして静かに目を閉じている。

要するに絶賛シカト中。

 

 

「「「「……」」」」

 

 

あちらとしてもどう対応していいのかわからないのだろう。

何か言いたそうにしているが、声を掛けずらいのか、みんな一様に沈黙を保っている。

 

 

「……」

 

 

フィーアに至っては何も語りたくないのか、もう態度からして拒絶していた。

戦友の質問すら受け付ける気がないようだ。

それはそれでひどい物である。

 

 

速く着かないかな?

 

 

仕事とはいえ今度からは同行をお断りしようと、固く誓う俺であった。

 

 

 

 

やってきましたどっかの村。

……前もこんな事言っていた気がする。

前回同様、竜車から降りて俺は体をほぐす。

そして再び前回同様、体がバキバキと鳴っていた。

 

 

今回やってきたのは、前回の森林と違い、湿地帯だった。

しかしここは人が住む場所のためにまだましらしい。

この先に目的地である沼地、と呼ばれるフィールドがあるそうな。

といってもこの場にいる連中の会話が聞こえているわけでもなく、ディリートの執務室で読ませてもらった資料の絵から予想した物だ。

 

 

言語はまだわかるようになったけど、文字はさっぱりだしな

 

 

以前もらったギルドカードの内容すら未だにわかっていないのだ。

ちなみに今回の任務に当たる際に、ディリートが直々に俺の新しいギルドカードをプレゼントしてくれた。

飛竜討伐が可能なAランクになるように資料を改竄したらしい。

それもやっかみ……というか反感を買う要因の一つになっているのだろう。

 

 

……めんどくさ

 

 

ギルドナイトに対する評価がグングンと下降していく。

いっそ今すぐ暴れてやりたい気分だが……今フィーアと他二名が地元住民に依頼内容を確認している最中で、その住民の顔は苦渋に満ちていた。

依頼自体は冗談でもなんでもないんだろう。

あんな竜が村周辺を闊歩しているという状況は村人達に取ってはありがたくない状況だ。

この村もユクモ村同様、竜種討伐可能なランクのハンターはいないようである。

 

 

他の三人が村長と思われる竜人族のじいさんから話を聞いている。

早い上に老人の声でしわがれていて、ものすごく聞き取りにくいので俺は最初から聞く事を放棄した。

何せ俺のことを敵愾心丸出しにしている人間が三人もいるのだ。

俺よりも先に蒼リオレウスを討伐しようと躍起になるはず。

 

 

俺はそれについて行けばいい

 

 

とりあえずこの周辺の地帯の情報を少しでも探ろうと俺は辺りを見回していた。

 

 

天気は曇天で今にも泣き出しそうな雲が立ち籠めており、微風あり。

そろそろ日暮れだからか若干暗くなちつつある。

湿地帯のために空気も湿っており、薄くはあるが霧があった。

そのため地面はぬかるんでいる可能性もあり。

場所はともかく、天候が嫌にあのリオレウスの時と同じように思えてしまう。

 

 

嫌な予感がする……

 

 

天気だけでなく俺の心にも暗雲が立ち籠めてくる。

 

 

「おい、行くぞ!」

 

 

そうして俺が空を眺めているのが、間抜けに見えたのか、大剣の男が怒鳴り散らしながら俺にそう吼えてきた。

他の二人も、その男に先導される形でついて行っている。

完全に俺の事が気にくわないらしい。

 

 

……もしもの時は……やるしかないか

 

 

この手の悪い予感ってのは往々にして当たる物なのだ。

仕方がないので、俺は最悪の事を頭の中で描きつつ、先にキャンプへと向かっていった三人について行った。

 

 

 

 

キャンプについてからはとりあえず支給品をポーチへと入れる。

俺らがこの沼地でのクエストが始まる前に、先ほどの村の人々がギルドから送られてきた支給品をボックスに入れておいたみたいだ。

携帯食料と応急薬などは手持ちにあるのでいらないため、俺は解毒薬だけポーチに新たに加えた。

 

 

「よし、行くぞ。遅れるな」

 

 

階級的に偉いのかどうかは知らないが、大剣の男がリーダー的な立場になってずんずん先に進んでいく。

ハンマーの男は特に文句も言わずにそれについて行く。

 

 

実力的にはフィーアより若干下といったところか……

 

 

二人の物腰や、足運びから俺はそう判断した。

しかし如何せん……フィーアは今ものすごく不機嫌なので果たして普段通りに動けるかどうか……。

 

 

不安要素満載だな

 

 

溜め息を吐きながら俺は自分だけでもと思い、慎重に行動した。

しかし一部のエリアをのぞき、このフィールドは基本的にぬかるんだ湿地の平原で構成されており、しかもその湿地帯の場所は開けている。

隠れられるような遮蔽物もほとんどない。

空を飛べる敵にとってこれほど好都合な場所もそうないだろう。

 

 

ぬかるんでいるのは欠点だが……許容範囲内か

 

 

足下は思ったほどぬかるんではいなかった。

足下は用心した方が良いことに代わりはないが、そこまで神経質にならなければならないレベルでもない。

 

 

そうしてキャンプからエリア1→2→4→5→6へと移動した。

そして最後のエリア6で見つけたのだ。

霧で少々ぼやけてしまっているが、体躯は前回のリオレウスを軽く上回った大きさになっており、しかもその色は蒼かった。

リオレウス突然変異亜種、蒼リオレウスで間違いないだろう。

 

 

「よし、俺が真っ先に接近して頭に打撃を加える。フィーア、バックアップを頼めるか?」

 

「わかった」

 

「おい新入り。お前も援護に回れ」

 

 

ハンマーの男が打撃を加えてひるませようと言う魂胆らしい。

妥当ではあるが、地面が水浸しなので走ると足音がはっきりと聞こえてしまう。

不意打ちが出来ない以上、そんな簡単にこちらの攻撃が当たるとは思えないが、かといって待っているわけにも行かないだろう。

 

 

「了解」

 

 

不承不承ではあるが、俺がそう小さく口にした。

その時だった。

 

 

「グォオルルルル」

 

 

俺の声が聞こえたとでも言うように、蒼リオレウスがこちらを……気のせいで無ければ俺に視線が突き刺さった。

先ほどのハンマーの男よりも小さな声で話したはずなのに……だ。

 

 

「気づかれた!?」

 

「この距離で隠れているのに? どういう事だ?」

 

「うろたえるな。見つかってしまった以上仕方あるまい。定石通りに散開して叩こう」

 

 

フィーアが後ろに装備していたガンランスだけを右手に持ち、そう締めくくった。

相手がリオレウスよりも俊敏に動くのであれば、盾を掲げていても動きが重くなるだけだと思い機動性を優先したのだろう。

いい判断ではあるが……今の俺はそれどころではなかった。

 

 

 

【見つけたぞ……】

 

 

 

……何?

 

 

最初は空耳かと思った。

他の連中も特に異常を感じていないようだから俺の錯覚なのかとも思った。

しかし、この感覚に似たものを俺は知っていた。

正しく言えば、敵である蒼リオレウスがこちらを……俺を発見した瞬間に身に纏ったその雰囲気に……。

 

 

これは……

 

 

この世界にくる前の、日常風景だった修行の最中に……。

 

 

確か一度だけ……

 

 

変わった物を見せると行って師匠であるじいさんが使用した特殊戦闘技法の一つ……。

 

 

この感覚……まさか……魔力!?

 

 

「ゴアァァァアッァァァ!!!」

 

 

俺のその疑問に答えるように、こちらを視線でも見つけた蒼リオレウスが咆吼を上げた。

その瞬間に、先ほどよりもさらに濃密な魔力が敵の体からあふれ出した。

 

そしてそれは口へと収束していき………。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

この状況で見つかるとは予想外だが……負けるわけにはいかない

 

 

私はガンランスを右手で持ちながらそう決意を新たにする。

 

 

先ほど立ち寄った村は基本的にこの沼地から採掘される特殊な鉱石、ライトクリスタルや、灰水晶の原石の工芸品などで生活をしている。

しかしその工芸品の材料はこの沼地のフィールドにあるため、そのエリアにリオレウスがいては死活問題にもなりうるのだ。

こういったケースは幾度もあるのでとれるときに鉱石は採掘しているので、しばらくは持つらしいのだが……それでも早く脅威を取り除くに超した事はないだろう。

 

 

私はギルドナイトのハンターなのだから

 

 

使命感にも似た気持ちで私は昂ぶる気持ちを抑える。

後ろにいる男を見返してやりたくて、普段以上に私は気合いが入っていた。

 

 

「なっ!?」

 

 

そうして私が気合いを入れていると、後ろから驚愕の声が上がった。

私の後ろにいるのは一人しかいないので考えるまでもなく誰だかわかった。

 

 

蒼リオレウスを目の当たりにして驚いたのか?

 

 

あの時の特殊な個体とも言えたリオレウスを討伐した男がその程度で驚くとは思えなかったが、しかし敵がこちらを見つけている以上視線をそらすわけにはいかない。

 

 

「ゴアァァァァァァァ!!!」

 

 

どうやらこちらの位置を完璧に把握したようだ。

蒼リオレウスが辺り一帯を震わすほどの咆吼を上げた。

 

 

「いくぞ!」

 

「「応!」」

 

 

私の号令の下、今日着いてきた仲間達が一斉に走り出した。

中央が大剣使いのデダン、右が私、そして左方向からハンマーのイハマと、三方向からの同時攻撃を行う。

 

 

そしてリオレウスは顔を振りかぶると、デダンに向けてその自慢のブレスで攻撃してきた。

ブレス単発の攻撃だったので、デダンは後ろに装備している大剣、ヴァルキリーブレイドを抜き放ち、その広い大剣を縦にして前に突き出しながら前進を続ける。

 

 

「避けろ!!!」

 

 

ようやくこちらに向かってきたジンヤがデダンに向かってそう怒鳴った。

しかしデダンはそれが聞こえていないのか……それとも聞こえているけど無視しているのか……おそらくは後者だろう。

 

 

モンスターの骨の素材で作られているヴァルキリーブレイドは切れ味こそそこまでよくない物の、骨素材の大剣であるために、剣全体を大きく作ってもそこまで重くならないという利点がある。

そのため、モンスターの攻撃をガードしやすいように、大きめに作られており、敵の大きさにもよるがリオレウスの火球ならば、きちんとガードすれば火の粉が体にかかるくらいしか被害がない。

それを何度も実体験しているデダンとしてはジンヤが何でわざわざそんな事を言っているのか不思議でしょうがないだろう。

 

 

イハマ、デダンも、そして何より私自身も、デダンがその大剣でリオレウスの火球を防ぐと信じて疑わなかった。

しかし……。

 

 

ボン!

 

 

「がっ!?」

 

 

その場にいる全員……いやジンヤは予想していたのか、ジンヤをのぞく私たち三人は驚愕の声を上げた。

大剣で防いだはずの火球はその大剣を焼き尽くし、炎が当たったその部位は完全に消失し、デダンの体に直撃した。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「避けろ!」

 

 

リオレウスの口元に集まるようにして放たれたその火球には、予想通り盛大に魔力が吹き込まれていた。

 

 

魔力。

大気に満ちる自然エネルギーを我が物として扱う難儀度技法。

じいさんと親父は普通に使えるが未熟な俺にはまだ使いこなす事が出来ない。

 

 

大気に満ちるマナを扱う事に等しいために、精神さえ持てば半永久的に動けると言ってもいいだろう。

魔力はその攻撃だけで気を使った攻撃よりも遙かに威力が高まる。

しかもそれを身に纏う事が出来ればもはや無敵に等しい。

程度にもよるが、魔力を身にまとえるなら……おそらく戦闘機のミサイルが直撃しても無傷だろう。

 

 

相手がどれほど魔力を扱うのに長けているのかは知らないが……相手が悪すぎる!

 

 

まさかここまで最悪の敵とは予想だにしていなかった。

正直俺一人で本気で闘っても勝てるかどうか……。

 

 

そして俺のことを侮っていたこいつらは、俺の言うことを聞かずに大剣の男が文字通り炎に包まれた。

 

 

「デダン!?」

 

 

普段ならば防げているはずの火球が、大剣さえも焼き尽くして味方に当たったことに、その場にいる全員が悲鳴を上げた。

俺はすぐさま男の傍で膝をついて脈を測った。

 

 

生きてはいるが……まずい

 

 

大剣でほとんど火力が持って行かれたのか命は助かったが、装備がまずかった。

全身を鉱石で出来た装備で身を包んでいたので熱がほぼダイレクトに伝わっている。

蒸し焼き状態に近い。

一刻も早く治療をしないと死ぬ。

 

 

「デダン!」

 

 

ハンマーの男がこちらに大急ぎで走り寄ってきた。

大分仲がよかったのだろう。

装備から覗くその表情は本当に相手のことを心配していた。

フィーアは攪乱のためなのか、陽動として蒼リオレウスに突進していた。

 

 

「こいつを連れて村行け。急がないと死ぬ」

 

「だ、だがしかし」

 

「さっさと行け! こいつを殺す気か!?」

 

 

心配のあまりに俺の言葉にも素直に従った。

男は装備を軽くするためにハンマーをその場に放り捨てて大剣の男を担ぐと、急いで村の方へと向かっていった。

 

 

「ガァァァァァァァァ!!!」

 

 

それを見届ける余裕もなく、蒼リオレウスは咆吼を上げるとフィーアには一目もくれずに俺へと突進してきた。

 

 

「はぁっ!」

 

 

その突進の横っ腹に向けてフィーアが体全体を使って勢いよく自慢のガンランスを振るった。

 

が……。

 

 

ギャギィ!

 

 

「っ!?」

 

 

それはものの見事に弾かれた。

それも当然だろう。

気がほとんど込められていない攻撃だ。

相手からしたら爪楊枝で攻撃されたくらいにしか思っていないはずだ。

俺は狩竜の鞘を、相手の上を通り抜けるように打ち上げて抜刀する。

折りたたんでいるほどの隙を与えてくれそうにないからだ。

 

 

「ガァァァァァ!」

 

「くっ!」

 

 

俺はそれを飛び越えて回避し、先ほど打ち上げた鞘を回収する。

前回のリオレウス同様、尻尾を振り上げてきたので俺は気の力場を展開し、体をひねりながら跳躍を行って回避、反転を行い尻尾と相対する。

 

 

俺はドスランポスの首を徒手空拳で切ったときのように……リオレウスを真っ二つにしたときをイメージして狩竜に気を込める。

一撃に全てを込めて、宙で狩竜を右に薙ぎ払う。

 

 

「ぜぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

とにかく敵が自分よりも強く、脅威になりうる存在の場合、短期決戦か、じわじわと敵を弱らせて仕留めていくしかない。

とりあえず敵の攻撃範囲を減らそうと、尻尾を切断しようとするのだが……。

 

 

ギャガン!

 

 

「なに!?」

 

 

しかし敵の魔力壁の防御力は俺の攻撃力を遙かに上回っていたようだ。

傷一つつかないどころか魔力に隔てられて攻撃が尻尾に届いてすらいない。

 

 

ちぃっ!!!

 

 

戸惑いがあったためにドスランポスやリオレウスの時ほどの威力が出せたとは思えないが、しかし鱗にすら届かないとは……。

鞘を折りたたみながら着地し、狩竜を口にくわえて紐で背中のシースに鞘を縛り付ける。

 

 

狩竜に特に異常はなし……が……

 

 

正直まずい。

まさかこれほどの相手とは思ってもいなかったからだ。

油断していたとかそう言うのではなく、純粋に勝てるかどうかわからない。

俺の頬を一筋の汗が垂れていく。

 

 

「ゴァァァァ!」

 

 

走り終えてこちらを振り向くと、再び蒼リオレウスがこちらへと走ってくる。

確かにリオレウスよりは強いみたいだ。

速度も迫力も段違いだった。

 

 

「ガァァァ!」

 

 

ボッ!

 

 

走り寄りながら、敵はほぼノーモーションで火球を吐いてきた。

しかし溜めがないためか、魔力があまり込められていなかった。

だが侮る事は出来ない。

俺はそれを受けずに左に跳んで火球を回避する……いや、正確にはしようとした。

 

 

ボバアァァア!

 

 

何!?

 

 

火球は俺に当たる少し前に地面に当たり、それによって飛び散った炎がほぼ完全に俺の前面の視界を覆った。

 

 

溜めなしの狙いはこれか!?

 

 

霧も出ていて、しかも地面は湿っていた。

威力はだいぶ減っていた上に爆散したために炎の攻撃力は全くと言っていいほどにない。

が、火球が爆散した事によって生じた風よりも濃密で凶悪な、魔力と殺気を纏った物が俺にものすごい勢いで迫ってきていた。

 

 

ドドドドドド

 

 

ブワッ!

 

 

「ガァァァァァァァァ!」

 

 

燃え上がっていた炎を突き抜けて、蒼リオレウスが俺に対して突っ込んでくる。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

ダンッ!

 

 

それを後方に跳びながら回避したが、俺の跳躍に追いつきながら突進のさなか、噛みつき攻撃を仕掛けてきた。

 

 

っく!

 

 

俺は狩竜にありったけの気を込めて、両手で前に突きだして盾にした。

 

 

ギャギィィ!

 

 

金属と牙が擦過した音とは思えないような激しい金属音が狩竜から鳴り響く。

気の全てをほとんど刀身の保護に回したにも関わらず、棟(むね)(刀身側面部)が牙によって傷つけられていく。

全力で気による防護を行っていなかったら夕月と同じように砕けていたかもしれない。

しかもこいつ、狩竜を口にくわえたまま突進し続けていた。

そしてその狩竜を持っている俺ももちろんそのままの体勢、つまりガードするために両手を突き出したままの俺がいるわけで。

 

 

「グアアァアァァ」

 

「てめぇ、何がもくて……」

 

 

そこで俺は思い出した。

このエリア……というよりもこのフィールドはほとんどが窪んでいるような地形をしており、当然ここもエリアをつなぐ道以外はそのほとんどが土の壁のような物が囲まれているわけで……。

 

 

まずい、壁に叩きつけるつもりか!?

 

 

それに気づいて、俺は左手で花月を抜いて剣先を額に突き立てようとしたが、それに気づいた蒼リオレウスが、首を下げて俺と狩竜を思いっきり振り上げて俺を投げ飛ばした。

宙に投げ出されてバランスを取ろうとしたら、首を振り上げて全身を纏う魔力を口内に溜めて、それを連続で放射した。

 

 

しかもその攻撃は全てが先読みされている。

右にも左にも、上にも下にも……全ての道が炎で防がれていた。

回避は不可能……しかし狩竜による防御も不可能。

得物が得物なのでなぎ払う事が純粋に考えれば出来るだろうが、しかし敵の攻撃が魔力火球だ。

普通の炎では……。

 

 

断じてない!

 

 

俺は狩竜を上へと投げ捨てると、両腰に装備されている二つの打刀、夜月と雷月を抜き放つ。

枯渇するのも覚悟で、俺は両手に持った打刀に気を纏わせる。

纏わせる、というよりも刀身に極太の気で包み、それをもってして強引に敵の魔炎を打ち払う。

 

 

ボボッ! 

 

 

それを振り払い、どうにかして魔炎を防ぐ。

しかしそれだけでほとんどの気が消費されてしまった。

当然その状況では気の足場を展開する事も出来ない。

 

 

「ガァァァァァァ!」

 

 

そして火球をとばしたその次の瞬間には敵はこちらに向かって突進してきていた。

刀を瞬時に納刀し、俺は手の平に気を込めて突進してきて牙を剥く相手の上の頭に手を置いて避けたが……。

 

 

ブアッ!

 

 

蒼い凶悪な棘のついた尻尾が俺の前方に来て進路を塞ぐ。

それを防ぐ術が……俺にはなかった。

 

 

ドッ! 

 

 

「ぐぅ!」

 

 

大質量の尻尾が振り上げられた威力がそのまま俺の体を殴打する。

しかしサイズがサイズなのでどうにかして受け身をとって少しでも威力を減らした。

が、尻尾が随分ととげとげしている上に魔力まで纏っている物だから、威力が半端ではない。

受け身による威力軽減も限度があった。

 

 

「ぐっ、ごほっごほ……くそ」

 

 

吹き飛ばされながらもどうにかして足から着地して、隙を最小限にする。

しかし尻尾の攻撃が思った以上に効いているらしく、あまり足に力が入らなかった。

 

 

「ガァァァァァァ!」

 

 

そんな俺におかないなしに、敵は再度俺に突進を仕掛けてきた。

どうにかして避けようとするが、衝撃からまだ復活しきれていない体は思うように動いてくれず……。

 

 

やられる……!?

 

 

「危ない!」

 

 

敵と衝突する数瞬前に、そう叫びながらガンランスさえも放り捨てて、俺に駆け寄ってきているフィーアの姿があった。

 

 

ドンッ!

 

 

その勢いのまま俺を自分に巻き込むように突き飛ばして、蒼リオレウスの突進を回避した。

 

 

「ガァァァァ!」

 

 

フィーアに何を感じたのかは謎だが、敵はその勢いのまま翼をはためかせて空に飛び上がっていった。

逃げたわけではないだろう。

しかし、今はその一瞬の時間がありがたかった。

 

 

「無事か!?」

 

「すまん……助かった」

 

 

俺に覆い被さるようにして助けてくれたフィーアがすぐに起き上がり俺に声を掛けてきた。

さすがにこの異様な相手を前にしていざこざを起こすつもりはないようだ。

俺も正直な話危機一髪の状況だったので素直に礼を言った。

 

 

そのことに面を喰らったのか、フィーアがきょとんとする。

俺はそれにかまう事も出来ずに、とりあえず体のコンディションを確認した。

 

 

……急激な気の使用による一時的な身体能力低下か……まだいけるな

 

 

呼吸を整えて、先ほどの攻撃のダメージを少しでも外へと逃がし、体を調整していく。

 

 

バシャ

 

 

あらかた体の調整が終わったときに前方で水音が響く。

先ほど投げた狩竜が落ちてきたのだろう。

それに気づいて俺は狩竜が落ちた方へと顔を向けた。

 

 

なっ!?

 

 

その時視界に飛び込んできたのは、その足に生える鋭い爪をこちらに向けて飛来してくる、蒼リオレウスの姿だった。

 

 

「ガァァァァァ!」

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

な、何だあの怪物のようなリオレウスは

 

 

蒼リオレウスを目にするのは今回が初めてだった。

知識としては蒼リオレウスの事はいろいろと知っていた。

リオレウスの突然変異亜種であり、蒼い鱗が特徴なこと。

膂力も速度も、火球の威力も……あらゆる点でリオレウスに勝るという事。

 

 

しかし、今目の前で展開されている攻防はそんな知識など吹き飛ばすようなほどに衝撃的な状況だった。

 

 

……押されている?

 

 

あのリオレウスを圧倒したクロガネジンヤが完璧に劣勢だった。

前回のリオレウスの時はただ手を前にかざしただけで防いだ火球を避け、もしくは剣で薙ぎ払う。

だが敵の攻撃は火球だけではない。

体当たりに噛みつき、そしてその巨躯を生かした突進でクロガネジンヤを追い詰めていた。

 

 

ドンッ!

 

「ぐっ!」

 

 

宙に放たれ、自分に放射された火球をどうにか剣で吹き飛ばすが、その後の噛みつき攻撃は前回と違い、必死に攻撃を避けそしてその次の尻尾攻撃は避けきれずにただ受け身をとる事しかできていなかった。

 

 

まずい!

 

 

わずか十数秒の攻防で、もはや勝負はついたと言っていいほどに、クロガネジンヤは蒼リオレウスに圧倒されていた。

 

 

まさかここまで強いとは!

 

 

呆気にとられていた私は体に力を入れると、攻撃で体が思うように動かないのかその場でクロガネジンヤが固まっている。

私は武器さえも捨てて全力で走ってクロガネジンヤを突き飛ばし、自身も跳んで回避する。

 

 

「グルルルル」

 

 

攻撃を回避された蒼リオレウスはその勢いのまま空へと飛び上がってどこかへと去っていってしまった。

そのことを確認すると、私はすぐに起き上がる。

 

 

「無事か!?」

 

「すまん……助かった」

 

 

意外な事にクロガネジンヤが素直にお礼を言ってきた。

冗談抜きでまずい状況みたいだ。

まさかこの男が苦戦するとは……。

 

 

バシャ

 

 

そうしてくだらない事を考えていると、すぐ後ろで水音が発せられた。

先ほどクロガネジンヤが宙に投げ捨てたあの長剣だろう。

 

 

「ガァァァァ!」

 

 

えっ?

 

 

しかしそのすぐ後に蒼リオレウスの咆吼が私の後ろから響いてくる。

その咆吼に驚き私は思わず後ろを振り向く。

 

 

そこには、足の爪をこちらに向けて攻撃しようとしていた蒼リオレウスの姿があった。

 

 

「ちぃっ!!」

 

 

先ほどとは逆で、今度はクロガネジンヤが私を庇って覆い被さるようにして私共々に横へと回避した。

 

 

しかし……

 

 

ザシュ!

 

 

「がぁ!?」

 

 

敵の飛翔攻撃をどうにか回避した私達だったが……私を庇ったためか、クロガネジンヤの横っ腹は蒼リオレウスの爪で引き裂かれ、苦悶の声を上げる。

衣服が破れたそこには、真っ赤な血と蒼リオレウスの毒と思われる紫の液体が入り交じりった液体が、クロガネジンヤの脇腹から流れていた。

 

 

 

 




……いかがでしたでしょうか?

モンハンの世界において一部のモンスターに関しては、常識っていうか普通に考えてあり得ないような攻撃法方法をしてくるじゃないですか?

それを表現できているだろうか……。

え? 蒼リオレウスは特に特殊なモンスターではない?
……それに関しては後編ないし、次話を参照していただけるとありがたいです。


本気の状態で挑んでついに傷を負った刃夜。
敵の予想以上の強さにひるんでしまうフィーアだが、傷を負いながらも闘おうとするその刃夜の背中を見て何を想うのか?


そして刃夜は命をかけ、翡翠色の刀身を使い、最速の一撃を繰り出す!


次章 「激変する運命 後編」


なんかさいきんさらに書く量が増えた気がする……。

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