リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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逃亡した方法による後編……

すいません今度からもっと簡潔に書けるように頑張ります・・・・・・・




激変する運命 後編

~フィーア~

 

 

それは……あまりにも信じがたい光景だった。

 

 

「ゴアァァァァァァァ!」

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

あの異常な攻撃力を誇る蒼リオレウスの攻撃を、クロガネジンヤは一撃も受けることなく、見事に回避していたのだから。

 

 

洞窟の中から顔をのぞかせて、私はクロガネジンヤの動き、戦いを凝視していた。

 

 

敵の攻撃を文字通り紙一重で躱し、時にはその左手に持つ……というよりも入れ物の中程を左手で、取っ手を右手で持つという不思議な持ち方をしていて、それを両手で振るって敵の尻尾を受け止めて流すようにして尻尾を避ける。

突進は左右に大きく爆発するかのようにして避け、あるいは敵の体の下へと潜り込んで避ける。

上に避けると尻尾攻撃を仕掛けてくるのでそれを回避したかったのだろう。

敵もバカではないのでそうして体をくぐり抜けるように回避されても尻尾攻撃をするのだが、その時は手を使って滑っているときに方向転換を行って回避していた。

 

 

「ガァァァァァァ!」

 

 

体を使った攻撃をとことん避けられたために、蒼リオレウスが頭を思いっきり上部へと振り上げて、火球を複数とばしてくる。

一発はクロガネジンヤの目の前で爆発し、もう二つはクロガネジンヤの左右で爆発する。

それによって前方、左右をふさがれた形になった。

それを確認することなく、蒼リオレウスは突進してクロガネジンヤに迫ってゆく。

雨が降っていて、地面は水浸しだというのに、その炎は消えることなくその場で激しく燃え上がっていた。

デダンのヴァルキリーブレイドを消失したのといい、あの蒼リオレウスのブレスは普通じゃないにもほどがある。

 

 

「ガァァァァ!」

 

 

そんな自分の炎の異常性などお構いなしに蒼リオレウスは炎へと突進し、それを突き抜けてジンヤへと肉薄し、その自慢の口を開き噛みつこうとする。

しかしさっきの戦闘と違い、クロガネジンヤは、後ろに跳ぶ事もせず、全く避けるそぶりを見せなかった。

 

 

どうするつもりだ?

 

 

諦めているわけがない。

その証拠とでも言うように、総身からあふれんばかりの迫力が満ちているのだから。

 

 

「ふぅ」

 

 

何故その声が聞こえたのかはわからない。

いやむしろ私の錯覚なのかもしれない。

今そとは雨が降りしきり、地面は水浸しだ。

雨が地面に……地面の水に跳ねる音で充満していると言うのに、そのクロガネジンヤの吐息が何故か私の耳にはっきりと聞こえてきた。

 

 

スゥゥ

 

 

……えっ?

 

 

それは目を疑うような光景だった。

クロガネジンヤの体が透け、まるで蒼リオレウスが突き抜けていく空気に流されるように、ゆったりと蒼リオレウスの体をなぞるようにその突進を回避したのだ。

 

 

「ガッ!」

 

 

さすがにこんな避け方をされるとは蒼リオレウスも思っても見なかったのだろう。

驚くような声を上げたが、足を止めて回転し、再びクロガネジンヤに突進する。

するとまたクロガネジンヤはその不思議な、透けるような動きで滑らかに滑るように突進を回避していく。

 

 

「ガアァァァァァア!」

 

 

しかし蒼リオレスもバカではない。

左右どちらかに避ける事しかできないので、その進路上に上ではなく今度は横に尻尾を配置する。

しかしそれすらも予見していたのか、それも尻尾の根本の方をくぐるようにして避けていく。

明らかに人間離れした動きだった。

 

 

す、すごい……

 

 

あの巨躯の蒼リオレウスの殺気の塊とも言える攻撃を、ただ純粋に避けていく。

前転や体ごと投げ出すような避け方とは違う、不思議な回避。

前転や投げ出すような避け方が悪いともかっこわるいとも思っていない。

 

 

だけど……

 

 

このクロガネジンヤの動き方は、とても綺麗だった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

限界まで研ぎ澄ました精神と気が、俺に普段以上の動きを可能としていた。

いや普段以上ではない。

これは本来俺が出来ていたはず|(・・・・・・・)の動きだ。

 

 

未熟なり……

 

 

気が限界近く枯渇した先ほどの状態。

何故気が枯渇しかけたのか?

答えは簡単だ。

 

 

気を使ってしか行動していなかったからだ。

 

 

柔術というのを知っているだろうか?

刀を持った武士を相手に素手で敵を無力化し、自身は無傷で戦うという武術だ。

初期の戦国期では、徒手殺人術として発展したのだが、江戸太平の世に成ってからは自衛の技としての意味が強くなり殺す事は逆に恥とされ、敵を殺さずに相手を捕らえて無力化する事を美徳とされた武術。

それの真骨頂とも言えるのは重心移動と足裁き。

それらの独特の歩法によって刀を持った相手の懐に飛び込む事。

ある意味でそれの逆の事を行っている。

 

 

懐に入る事が可能ならば、その逆も可能

 

 

つまり、敵が懐に飛び込んできたのを、俺は歩法で流れるようにして敵の攻撃を流しているのだ。

 

 

自分の服装が普段と違う事に、敵の攻撃を受ける事によって気づいた。

敵の攻撃が通ったのは俺の気の込め方が未熟なせいだからだ。

俺が今着ているのは袖のない道着と袴。

それらの服装はまさに柔術に最適な服装。

特に袴は敵に、膝と重心の移動を悟らせないために重要な衣服だ。

 

 

まだまだだな……

 

 

基本的な歩法を忘れてしまうほどに。気を使った戦闘スタイルに頼り切ってしまっていたようだ。

自分の未熟さ加減に反吐が出そうだ。

 

 

「ガアァァァァァ!」

 

 

そうして自分に渇を入れていると、当たらない事で焦りを覚えたのか、敵が大声で吼える。

そしてその総身にあふれる魔力を自分の一点、口内へと収束し始めた。

 

 

まずい!

 

 

魔力の収束の仕方が今までと全く違う。

全てを火球にしてぶつけてくるつもりなのか……。

 

 

「ガァァァァァ!」

 

 

ボッ!

 

 

それは今までの火球とは違い、地面に接触した瞬間にそれはいくつにも爆算するように散らばり、まるで絨毯爆撃のような火球だった。

だが……。

 

 

「ゴァァ」

 

 

俺はそれを全く避けなかった。

 

 

「なっ!!」

 

 

さすがにその行為に驚いたのか、洞窟内にいるはずのフィーアの声が聞こえてきた。

 

 

いやむしろ洞窟内で反響したから聞こえたのか?

 

 

くだらない事を考えたが、俺はその攻撃が絨毯爆撃で広がる前に、自分がかぶっていた編み笠を前面へと投げ捨てた。

 

 

ボボボボボ!

 

 

それは文字通り絨毯のように広がり俺の周りを火の海に変えたのだが……。

俺の周り、正しく言えば投げた編み笠のを起点として、俺の周りには全く火が燃えていなかった。

 

 

散弾の用に拡散するのならば拡散する前に潰せばいい。

出すタイミングが遅かったのか、広がってしまったが、少なくとも俺を中心として俺の周りに着弾するはずだった炎は、微少に気を込めた編み笠でどうにか展開する事を阻止できた。

使いどころがなくて困っていたリオレウスの毛を一部に使用して編んだ事によって、多少なりとも火に耐性があって助かった。

微弱な俺の気、リオレウスの残っている気と火の耐性。

編み笠は灰になったが、火球はどうにか防いでくれた。

 

 

「ガァァァァァ!」

 

 

切り札とも言える攻撃だったのか、蒼リオレウスが再び咆吼を上げる。

そしてその場で翼をはためかせて、上へと舞い上がり、そのままどこかへと飛翔していく。

いや……どこかへ言ったのではなく、単に姿を一度消し、そして先ほど同様奇襲してくるためだろう。

だが……。

 

 

待っていたぞ……この瞬間をなぁ!

 

 

俺は傘を投げ捨てた体勢からこの戦闘が始まったときの最初の体勢……腰を落として右足を前に出し、鞘の鯉口付近を左手で持ち、いつでも鍔を押し上げられるように指を鍔の代わりになっている爪へと添え、右手は当然柄に持ってゆく。

長々と言ってみたが、単純に言えば……。

 

 

居合い抜き

 

 

の構えだ。

居合い戦闘法は俺はあまり好きではないし、技が技なのでここはあえて抜刀術と言っておこう。

 

 

真円にするために少し碧玉を削っておいたのは正解だったようだな……

 

 

鞘に、そして柄頭に装備している碧玉へと、残った少ない気を込めていく。

 

 

パリッ バリッ 

 

 

そうして気を込めていくと、碧玉に溜められていた……発生した電気が鞘と刀身に宿っていく。

そしてただ纏わせるだけでなく、俺は鞘と刀身、二つの物体に全く逆の特性を持つ電気を発生、纏わせる。

 

 

敵の防御がこちらの攻撃を上回っているならば、こちらはそれを打ち破れる威力の攻撃をぶつけるまでだ。

もう少しスマートな方法があるとよかったのだが……少なくとも俺にはこれ以外に思いつかなかった。

 

 

最強ではなく最速の一撃……

 

 

雷月に纏う雷が、柄と鞘を通して俺にも流れてくる。

それが俺の体を痛めつけるが、その電気さえも俺は利用する。

 

 

筋力のリミッターを解除

 

 

もしくは関節と脳みそのリミッターだ。

これらを強制的に外し、肉体の力を全て引き出す!

 

 

「ガァァァァ!」

 

 

頭上を旋回しながら敵が咆吼を上げている。

周囲を飛翔し速力を上げ、さらには大気中の魔力まで補給しているようだ。

そしておそらく敵の攻撃は……。

 

 

火球と噛みつき、体当たりの波状攻撃……

 

 

先ほどの絨毯爆撃の火球は溜めが多かったので飛翔滑空からではおそらく使用できない。

ならば単発、ないし複数の通常火球による攻撃になる。

そうならば勝てる。

 

 

だが……

 

 

もしも、敵が空中でもあの絨毯爆撃火球を放てるとしたら?

もしくはあれ以上の技を使ってくる可能性もある。

もしそうならば……俺に勝ち目はないだろう。

 

 

刀とは……

 

軽々しく振るう物ではない

 

 

よくじいさんが俺に言っていた言葉が頭をよぎる。

 

 

だがどうしても振るわねばならん事もあるだろう

 

だからその時は、魂を込めて振るえ

 

今まで培ってきた技術を、生きてきた思いを乗せて

 

 

真剣を初めて手にしたときの事を思い出す。

あの時手にした感動も、喜びも……なによりもその恐怖を思い出す。

 

 

おまえが真に刀に思いを乗せられれば……斬れぬ物はないと心得よ

 

 

俺の名前は鉄刃夜

 

鉄を錬鉄し、刃を造り、刃を為す者

 

 

で、あれば……

 

 

刃となりえて貴様を斬ろう!

 

 

「ガァァァァァァァァ!」

 

 

敵が地面すれすれを飛翔し、俺に向かってくる。

そして予想通り、敵は俺に火球を放ってくる。

敵も全力出来たのか、それは今までとは比較にならない大きく、魔力の充溢した火球だった。

 

 

カハァァァァ

 

 

吐息を一つ吐く。

それは、開始の合図。

 

 

敵の火球が当たる数瞬前、俺は瞬時に前方に脚を踏み出しながら、身を低めて踏み込み火球を避ける。

おそらく普段の俺の膝よりも低い位置に俺の頭はあるだろう。

そして俺はその姿勢から脚力の全てを跳躍に回し、前方へと飛んだ!

 

 

ダンッ!

 

 

残り全ての気を、刀身の保護と刀身に纏う気の刃に回した今の俺には、身体能力向上のために気を体に回す事が出来ない。

故に俺は気の爆発を用いた移動ではなく、自身の脚の筋力だけで俺は敵に向かってゆく。

 

 

「!? 何を!?」

 

 

フィーアが声を上げ、敵も驚きながらもそのまま飛翔を続け、俺を噛み砕かんと牙を剥く。

だが、俺はそれすらも下に回り、反転した。

 

 

 

「磁波鍍装、蒐窮」

 

 

 

俺は背を地面に向けたまま、先ほどの跳躍の勢いのまま地面と水平にに飛んでいく。

 

 

「ガァァァァァァァァ!」

 

 

 

「『迅雷』が崩し……」

 

 

 

それはじいさんがやってのけた秘剣。

 

魔力を用いて大気を操り、気圧の操作で手元に電撃を発して刀剣を、電磁投射砲のように打ち出す音越えの刃。

 

 

俺には魔力を用いて大気を操る事は出来ないが、この雷月で同じ事をする事は出来る!

 

 

敵の下をくぐり、顎を抜けた次の瞬間……俺は気によって封印されている打刀雷月の鯉口を切った。

俺がしたのはそれだけだ。

後は雷月がしてくれる!

 

 

 

「電磁抜刀、禍!!!!」

 

 

 

キュゥン!

 

 

光と見紛うほどの速度で振り抜かれた雷月。

相極の磁力を鞘と刀身に纏わせて放たれる電磁抜刀。

 

 

気が減った俺には、魔力を貫通しうる威力と、それに耐えさせるための刀身保護に全ての気を回さざるを得ない。

そうなると身体能力は普通の人間とほとんど変わらなくなる。

つまり武器が強力であってもそれを振るう力が今の俺にはないのだ。

 

 

ならば電磁において体のリミットを解除し、さらに速度を出すために電磁による反発の力を使い、打刀を文字通り撃ち出したのだ。

撃ち出した刃を制御せねばならないが、それは肉体の力でねじ伏せる。

 

 

ゴォォォォ

 

 

「くっ!」

 

 

首の下を通り抜け、次にやってくる敵の爪を、俺は体を撃ち出した刀の勢いを利用して回転し、脚の間を通り抜けてどうにか回避する。

 

 

チッ

 

 

どうにか回避したが、少し左肩辺りを爪がかすった。

毒も入り込んでくるが、入ってきた瞬間に電撃を患部に走らせて毒に汚染された血液ごと毒を吹き飛ばす。

 

 

互いに全力での速度で動いていたので、さすがに尻尾を振り下げる事は出来なかったようだ。

そのまま互いに通り過ぎ、俺は反転すると地面に両足をつけて着地した。

振り抜ききったその刀を、俺は左手に持ち替えて、血振りを行い納刀した。

 

 

パチン

 

 

切羽がないので金属音が響く事はなかったが、しかしそれでも音が発生する。

そしてその音に導かれたのように、敵の首から盛大に血が噴き出し始めた。

 

 

ブシュウゥゥゥ!

 

 

「ガァ」

 

 

悲鳴を上げたくても上げられないだろう。

首を切り裂いたのだから。

しかし骨も含めて一刀両断したわけではない。

呼吸器官や肉をぶった切っただけだ。

が、致命傷には変わりない。

蒼リオレウスはそれでもこちらを向いて何かを吼えようとしていたが、しかし頸動脈を切り裂いたのですぐに倒れ込んだ。

 

 

ズゥゥゥン

 

 

敵が倒れ込み、そして瞳に意志が消えていった事を確認した瞬間に、俺は膝から崩れ落ちた。

 

 

ぐっつ……まずい、きつい……

 

 

右肩に激痛なんて言葉では片付けられないほどの痛みが走る。

というよりも痛すぎて熱いとしか感じられない。

 

 

リミッター解除に音越えの剣速。

しかも後者に至っては気による体の強化を施せなかったのはきつい。

肩が吹き飛ばなかったのが不思議なくらいだ。

 

 

当分肩はつかえないな……

 

 

少なくとも二、三日は使えないだろう。

痛覚を遮断したいが、それすらもするのがきつい。

本能の望むままにこのまま倒れ込んで寝たいぐらいだ。

 

 

気のほとんどを消費し、そこそこ重傷の怪我を負い、おまけに毒に汚染された体。

雨のせいで血が固まらないから血もだいぶ抜けたようだ。

しかも肩は脱臼した上に筋肉断裂、内出血、この感覚だと骨にヒビも入っている可能性がある。

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

さすがに終わったと思ったのだろう、フィーアが洞窟から俺が預けた装備を全て持ってこちらに走ってきた。

それに左手を挙げるだけで応えた。

そしてフィーアが位置的に絶壁と成っている付近にきた時だった。

 

 

ギィン!

 

 

むっ!?

 

 

敵の目に再び意志が突如として宿ったのは。

 

 

「避けろ!」

 

「へ?」

 

 

俺もほとんど動く事が出来なかったので、声だけでも張り上げるが、如何せん敵の方が早かった。

まさに最後の力なのだろう。

敵は倒れた体勢のまま残った命と魔力を乗せて、フィーアに……正しく言えばその少し手前に火球を吐き、それは地面と接触して爆発を起こした。

それに炎の威力はほとんど込められていなかった。

狙いは……。

 

 

沼に落とすつもりか!

 

 

このエリアは高台のような場所にあるエリアで、一部の場所が開けているようになっており、その先には底なし沼のような泥沼が広がっている。

実際にこのフィールドで戦う際に気をつけろとディリートに直接言われた事だった。

 

 

ブワッ!

 

 

「え……?」

 

 

自身の得物を投げ捨てて、どうにか直撃だけは免れたが魔力の込められた火球の爆風は、一人の女を吹き飛ばすには十分な威力を秘めており、フィーアが高台の縁から沼へと吹き飛ばされていた。

 

 

「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

そしてそのままフィーアが悲鳴を上げながら真っ逆さまに落ちていく。

さすがに今ので力尽きたのか、敵は首を地面に沈め今度こそ目に意志がなくなった。

 

 

なんという置き土産を残していきやがる!

 

 

心で悪態を吐きながら俺は右肩を無理矢理入れると、残された最後の力を使って走り何の迷いもなく宙へと飛び降りた。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

恥も外聞もなく、私は声の限り悲鳴を上げてしまった。

この世界では基本的に男も女も平等だ。

女のハンターなんてどこに行っても珍しくも何ともない。

 

 

ただ女性と言うだけで差別してくるバカどもはたくさんいた……。

だから私は努力をした。

バカにされないように腕を磨いて訓練を死に物狂いで行って……。

ギルドナイトの中でも私は自信がそこそこ上の方にいる腕前だと信じていた。

 

 

だけど……

 

 

それでも陰口を叩くやつは大勢いた。

私の規則に対する厳しさがうるさいと……。

ショックだったのはハンターの名門、栄誉といわれるギルドナイトですらも、裏取引や非合法な事をしている輩がいたという事だ。

人々を守るためのハンターが……自身のために私腹を肥やすのが……私は我慢ならなかった。

だから私は頑張ってきたのに……。

 

 

厳しい取り締まりのせいか、私はあまり人に好かれなくなってしまった。

無論誰も彼もが私の事を嫌っているわけではない。

けど隊長などの慕われる人の数と比べると……。

 

 

このフィールドのこのエリアとつながっている泥沼、通称死の泥沼。

一年のほとんどを雲に覆われ、雨がよく降るため、この泥が乾いた事はほとんどない。

本当に底がないかは謎だが……少なくとも、この沼に落ちて帰ってきたハンターはいなかった。

 

 

ここまでかと、私は静かに目を瞑った。

クロガネジンヤという人間を見抜けなかった事、クロガネジンヤに追いつけないという事……その二つの事実が、私にはつらかった。

それに何よりも、クロガネジンヤの武器を返す事が出来なかったのが……何よりもつらかった。

 

 

「何呆けてやがる!」

 

 

……えっ?

 

 

目の前から聞こえたその声に私は思わず目を開ける。

下へと落ちていく中、目を開いた私の目の前に、クロガネジンヤがあったのだった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「何呆けてやがる!」

 

 

この沼に落ちて死ぬ事がわかっているのか、フィーアが静かに目を閉じるのを見て、俺は一瞬で切れた。

頭から落ちていくフィーアに刀で断崖の地面を差して自身を下へと加速させる事を繰り返し、俺はどうにかフィーアの下へと回れた。

そしてすぐに俺は雷月を絶壁の地面へと突き立てると、それを左手で力の限り握って、俺の目の前に落ちてきたフィーアの首根っこを右手で掴んだ。

 

 

ビキッ!

 

 

ぐぅっぉぉぉ

 

 

脱臼している肩を無理矢理稼働させ、雷月に残された気さえも回してどうにかしてフィーアの勢いを殺した。

落下の力を殺す事は出来たが、肩がイカれそうだ。

二、三日から、五、六日は稼働できないほどの重傷になっていそうだ。

だが今はそれをいっても仕方がない。

 

 

「……大丈夫か?」

 

「え、と……う、うん、大丈夫」

 

 

俺の行為が信じられないのか、きょとんとしながらも、フィーアがそう返してきた。

そのことに安心しながら、俺は顔が苦痛にゆがむのをどうにか我慢する。

 

 

「つかまれ……肩……」

 

「あ! す、すまない」

 

 

ここで乙女モード発動で抱きつくのに躊躇されたら面倒な事になったが、危機的状況過ぎてそう言うのに気が回らないようだったので助かった。

フィーアは俺の得物たちを大事そうに抱えながら俺の首へと手を回してくる。

 

 

「っ!!!」

 

 

ここにいたってようやく自分が、男である俺にどういう体勢を取っているのか気づいたようだ。

恥ずかしがっていたが、どうにも出来ないし肩も行かれているため、気を回す余裕が今の俺にはなかった。

 

 

「上がるぞ、捕まってろ……」

 

「わ、わかった」

 

 

恥ずかしさからか、顔を真横に向けて俺が見えないようにする。

こちらとしても助かるので、俺は痛む右手に力を込めて、上に上げると、背後の地面に手刀を突き刺した。

 

 

ガスッ!

 

 

「なっ!?」

 

 

よし……大丈夫そうだな……

 

 

突き刺したその地面は確かな感触を返してくれた。

これなら上っている最中に崩れたりする事はないだろう。

それが確認できたので俺は一つ息を吐くと、雷月を壁から抜き、歯を食いしばって右手を使って体を上へと押し上げる。

 

 

ビキビキビキビキ

 

 

筋肉だけでなく、骨も悲鳴を上げているのが体を通して伝わってくる。

今は見る余裕はないが、おそらく右肩は内出血でひどい事になっているに違いない。

 

 

「な、無茶を……」

 

「するしかない。話すな。気が散る」

 

 

相手をしている余裕のない俺は、素っ気なくそう言うと、耳を意識から遮断して、雷月を差してさらに上へと体を持ち上げる。

それを幾度か繰り返して、俺とフィーアはどうにか生還を果たした。

そして俺の右肩がどうなったかというと……自身の体重+フィーアの体重と鎧重量+俺の得物たち=???kg=……となるので俺はあえて見なかった。

 

 

間違いなく一週間くらいは使えないな……

 

 

まぁ一週間程度ですんだのでよしとしよう。

俺はそうして血振りだけして雷月を鞘へと収める。

フィーアが俺の事を心配そうに見つめていたので、俺はそのフィーアに向かってこういった。

 

 

「何故俺のも捨てなかった?」

 

 

そう、フィーアは吹き飛ばされる直前、火球を避けるために自分のガンランスは捨てたくせに俺の武器は捨てなかったのだ。

俺の得物も捨てて動いていれば、落ちなくても住んだかもしれないというのに……。

 

 

「い、いや……だって……手荒く扱いたく……なかったから」

 

 

嫌にしおらしい態度でフィーアがそう言ってくる。

どうやら俺が洞窟で言った言葉をきちんと守ってくれたみたいだ。

 

 

律儀なやつだな……

 

 

自分の命と俺の得物を無意識とはいえ同等の天秤に置いたのだ。

これ以上攻めるのは酷だろう。

俺は礼を言おうとフィーアに歩み寄ろうとした。

が……。

 

 

 

【クククク、見事……と言っておこうか?】

 

 

 

そんな声が俺の頭に響いたのは。

 

 

ドンッ!

 

 

「きゃっ」

 

 

キン!

 

 

俺はフィーアを絶壁から遠のくように突き飛ばし、左手でどうにかして雷月を抜いて、死骸になっているはずの蒼リオレウスへと視線を投じ、油断なく構えた。

 

 

生きているのか?

 

 

 

【まだ生きてはいるが安心しろ。もう何も出来ん】

 

 

 

こいつ俺の思念に割り込んできやがった!?

 

 

俺の思考を読んだのか、まさにピンポイントな返事を俺にしてきた。

この声……というかこの感じは間違いなく、こいつとの戦闘の前に感じた感覚だ。

 

 

 

【我は古の者に仕えし魔竜。この世界に来た貴様を見に来た】

 

 

 

……古の者? というよりもこいつ「この世界に来た」だと!?

 

 

俺が異世界から来た事をこいつは知っているようだった。

外に出さないように顔をさらに険しくするが、思考が読めているのだから余り意味はないかもしれない。

 

 

 

【これをやろう】

 

 

 

その思念と共に俺の目の前に爆発的な魔力の本流が現れる。

あまりの力の塊で、フィーアにさえわかるようなそれほどの力。

 

 

そしてそれは徐々に丸くなり、小さくなり、魔力が形となり……最後に残ったのは……。

 

 

「……蒼い紅玉?」

 

 

いや蒼いのだから蒼玉? か?

 

 

目の前に出来たのはジンオウガの碧玉よりも少し大きな紅玉。

しかしそれは蒼いと言っても黒と見紛うほどに濃紺の色合いをしていた。

 

 

罠かもしれないと思ったが、俺はまるで導かれるように……吸い寄せられるように宙に浮かんでいるそれを、慎重な手つきで左手で握る。

 

 

その瞬間……。

 

 

ドクン

 

 

「がっ!?」

 

 

内に込められた魔力が俺の体内へと侵入し、そしてすぐに玉へと戻っていく。

それは時間にして一瞬にも満たない時間だっただろう。

だが、それだけの魔力が体内へと入った瞬間に心臓が止まるかと思うほどの重圧を感じた。

 

 

「貴様……何を!?」

 

 

 

【我が掛けしは龍の呪い】

 

 

 

龍の……呪い?

 

 

 

【もうそれはただの玉に過ぎぬ。貴様の体内ですでに呪いは芽を出した】

 

 

 

確かに、こいつの言うとおり、この玉にもう禍々しい何かは感じられない。

体内のどこかに……なにか淀みのような物を感じる。

 

 

 

【呪いで体が死ぬわけではない。それは道標】

 

 

 

道標?

 

 

 

【貴様が死ぬのを地獄で待っているぞ。ククククク】

 

 

 

その思念を最後に、蒼リオレウスは今度こそ完全に息絶えた。

それと共に周りにあふれていた魔力と殺気が完全に消失する。

 

 

「な、何だったんだ今のは?」

 

 

どうやら思念が聞こえていたのは俺だけだったみたいだ。

フィーアが俺に事情を説明するような視線を向けてくる。

 

 

「わからん」

 

 

しかし俺にもわかるわけがない。

あの蒼リオレウスの言うとおり、体の淀みは特に俺に害を為しているわけではなさそうだった。

しかし胸の不吉な予感はぬぐい去る事は出来ない……。

 

 

龍の……呪い……

 

 

不吉な物と思いを胸に抱えたまま、俺はフィーアと一緒にドンドルマへと帰還するのだった。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

蒼リオレウスを討伐した次の日。

私はクロガネジンヤの分の蒼リオレウスの素材をユクモ村へと向かう竜車へと積んでいた。

 

 

あの日、蒼リオレウスを辛くも討伐した私たちはドンドルマへと無事帰還した。

蒼リオレウスの火球をその身に受けていたデダンも、重傷の火傷を負うも、死ぬ事はなく今はドンドルマのギルドナイトの病院で治療を受けている。

クロガネジンヤはドンドルマに帰ってきた瞬間に、素材の配達の手はずを私に任せてその日の内にユクモ村へと帰って行ってしまった。

 

 

「自分の家で治療する」

 

 

だそうだ。

本来ならば絶対安静の体であるにも関わらず、クロガネジンヤはギルドナイトお抱えの医者の反対を押し切ってユクモ村へと帰っていった。

 

 

「蒼リオレウスの討伐には成功したか……」

 

「はい」

 

 

そしてその素材の配達がすませると、私は隊長に報告するために報告書を携えて隊長の執務室へときていた。

隊長は報告書を険しい表情で見つめていた。

それはそうだろう。

ヴァルキリーブレイドを消失させた火球。

絨毯爆撃のように広がった火球。

それだけでも異質なのに、蒼リオレウスの攻撃力防御力共に普通では考えられないレベルの物だったのだから。

 

 

「……にわかには信じがたいが……真実なのだろうな」

 

 

隊長の言葉には確認の意味は含まれておらず、まるで自分に言い聞かせているかのような言葉だった。

信じたくないのだろう。

これほど恐ろしいモンスターが現れた事を。

このようなリオレウスが再び現れるとは言い難いが、一度でも出てきてしまった以上、出てこないとは言い切れないだろう。

 

 

「……これで否が応でも彼に助力を請わねばならないか」

 

 

複雑な気分なのだろう。

いくら強いと言ってもあの男には協調性という物がない。

それでは他の隊員に示しがつかないのだが、報告書を見る限りではギルドナイトだけでどうこうできる敵ではないのだ。

 

 

「……隊長」

 

「何だ?」

 

「……一つお願いがあります」

 

 

隊長が落胆しているところ悪かったのだが、私は自分の要求を口にした……。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

あの蒼リオレウス討伐より三日後。

肩の傷は順調に回復していた。

といっても完治はしていないのだが。

村長に見てもらったところ、脱臼に骨にヒビ、内出血に筋肉断裂、一部の血管も切れていたらしい。

おまけに腹まで傷を負っているのにも関わらず、ドンドルマで治療もせずにこちらに直行で帰ってきたので呆れられた。

 

 

「ジンヤさん! もう少し自分を大事にしてください!」

 

「そうですよ。こんな怪我で帰ってくるなんていくら何でも無茶苦茶です」

 

「そうですニャ店長。せめて身なりを整えるくらいはして欲しいニャ!」

 

「だん……店長、さすがにこれは擁護出来ないニャ」

 

 

順に、レーファ、リーメ、グラハム、ジャスパーと全員にだめだしされた上にこっぴどく怒られた。

特にレーファなんて俺が帰ってきて目にした瞬間悲鳴を上げやがった。

まぁ服が血みどろなのでしょうがないだろうけども……。

 

 

「キュウウゥ」

 

 

そんなみんなに怒られている時に、俺に寄り添って傷を必死になめていてくれたのはムーナだけだった。

 

 

おぉムーナ、俺の心の家族はお前だけだ!

 

 

「キュゥ!」

 

 

俺の心が聞こえているのか、ムーナは嬉しそうに一声鳴いてくれた。

ええ子や……。

 

 

「なぁレーファ」

 

「何ですかジンヤさん?」

 

「外にで……」

 

「だめです!」

 

「……店の」

 

「だめです! 絶対安静です!」

 

「蒼リオレウスの素材を見た……」

 

「だめです! おとなしく寝ていてください!」

 

「………エッチなのは?」

 

「いけないと思います!!」

 

 

とまぁこんな感じで今現在、俺は自宅の布団に強制的に押し込められてものすごく退屈していた。

俺がどこか出かけようとするたびにレーファが見張りでついてくるのでトイレぐらいしか出歩く事が出来なかった。

まぁ確かに安静にしておいた方がいいんだろうけど……この世界の文字が読めないので本を読む事も出来ない。

はっきり言って暇である。

 

 

刀の手入れも終わったし……

 

 

刀の手入れもすでに終えているので暇で仕方がない。

看病してくれるのはありがたいのだが、過保護っぽくなっている。

 

 

まぁでも、看病してくれるのは嬉しいか

 

 

怪我や病気をして誰かがそばにいてくれるのは嬉しい物だ。

レーファは俺に目を光らせながらユクモ村装備の縫いつけを行っていた。

ちなみに店番は友達に任せてきたらしい。

最近では人手不足になってきたので、レーファが友達に手伝ってもらう事もあるそうだ。

何でもバイトが出来て評判らしい。

レグルの妹のレミルって子が今は入ってくれているそうだ。

 

 

ん? レグルが誰かって? ………………誰だっけ??

 

 

本人が聞いたら怒りそうだが、まぁハンターの一人としか覚えていない。

この村のハンターはリーメ以外、俺を嫌っているので記憶にとどめていないのだ。

 

 

そう……今このときはリーメ以外だったのだ……

 

 

 

 

翌日。

とりあえず動かせるようになった俺の右肩。

俺の肩の傷を見てくれていた村長が驚愕していた。

 

 

「……人間かね?」

 

「失敬な……」

 

 

真顔で言われてさすがに傷ついた。

右肩をゆっくりと回しながら状態を確認する。

気が回復しさえすればこの程度の傷、二日くらいで完治しているのだが、解毒と戦闘で体力を消耗しすぎていてまだ完治には至っていないが、少なくとも私生活に支障は出ないだろう。

 

 

「これでようやくレーファの見張りも終わるな」

 

「む~失礼ですよジンヤさん! 私はジンヤさんのためを思ってですね!」

 

「わかってるって。ありがとうな。本当に嬉しかったよ」

 

 

実際、肩が動かなくて不便だったのを、レーファはだいぶ手助けしてくれた。

そのお礼に頭を撫でると何でか沈黙した。

恥ずかしかったのかもしれない。

 

 

子供扱いしすぎたか?

 

 

「でもジンヤさん、まだクエストに出かけたり、武器の鍛造するのはいけませんよ?」

 

「……何故わかったリーメ?」

 

「蒼リオレウスの素材をものすごく凝視してたじゃないですか。わからないわけないでしょ?」

 

 

村長の診察の帰り道。

何故かついてきたレーファとリーメと会話しながら歩いていた。

二人の監視がある以上、少なくとも今日はクエストも鍛造もお預けだろう。

そう思ってユクモ村の大通りを歩いていると、行きにはなかった竜車が一台、道に止まっている事に気がついた。

しかも竜車にはギルドナイトのマークが刻まれている。

 

 

? 何でギルドナイトがここに?

 

 

「え? あの家って……」

 

 

俺が不思議に思っていると、レーファがぼそりと何かを呟いた。

どうやら心当たりがあるようだ。

レーファだけでなくリーメにも心辺りがあるらしく、レーファ同様に驚いている。

 

 

? 何なんだ?

 

 

完全に蚊帳の外の俺には意味が分からなかったのだが、その時家の中にいたであろう女性が一人外へと出てきた……。

格好こそ違えど、その顔は見覚えのある物で……。

 

 

「やっぱり! フィーお姉ちゃん!?」

 

「ん? レーファか」

 

「何で!? もしかして帰ってきたの?」

 

「一時的にだけどね。久しぶり」

 

「お帰り! フィーお姉ちゃん!」

 

「ありがとうレーファ。やっ、リーメ。元気にしてたか?」

 

「はい、フィーアさんもお元気そうで。どうしたんですか?」

 

「一応仕事だ」

 

 

どうやら見間違いではなかったようだ。

装備を身に纏っておらず、半袖にズボンという、実に男らしい出で立ちをしている格好のフィーアがそこにいた。

無造作に後ろで茶髪を一つに束ねている。

本当に自身の格好にしゃれっ気を求めていない。

 

 

なんとまぁ男らしい……

 

 

しかも竜車の従者が、積まれている荷物を先ほどフィーアが出てきた家へと運び込んでいる。

二人の反応とフィーアが出てきた事を鑑みるに、この家は以前にフィーアが住んでいた家なのだろう。

 

 

帰ってきたのか? ギルドナイトから許可は下りたのか?

 

 

「体の調子はどうだジンヤ?」

 

 

一通りレーファ、リーメと戯れた後、固まっている俺の所へとやってきた。

その表情には嫌悪感が全く出ておらず……むしろ好意的な何かを感じるような表情だった。

 

 

どういう心境の変化だ?

 

 

命の危機を助けたからだろうか?

まぁ嫌われる事よりはいいので俺としても歓迎すべきことではあるが……。

 

 

「ギルドナイトはいいのか?」

 

「そのギルドナイトの仕事できている。少し行った村の裏口辺りにギルドナイトの出張所が後日建築される予定だ」

 

 

何が建設されるって?

 

 

聞き慣れない単語を口にしたのでわからなかったが、村の裏口辺りに何かが建設されるようだ。

何を建設されるか考えていると、突然フィーアが俺に頭を下げてきた。

 

 

「……なんだ?」

 

「……けじめと、お願いがある」

 

 

……けじめ? っていうかお願いだと?

 

 

けじめは何の事か全く理解できないが、しかしお願いの方に関しては心当たりがあった。

心当たりが何かって?

この女、俺が武器を返してもらうときに随分と返すの渋ってたんだよ……。

 

 

あ~……リーメと同じ雰囲気だ

 

 

リーメが弟子入りをお願いしてきたときとは全く状況が違うのだが……フィーアの雰囲気がものすごくそんな感じがするのだ。

 

 

「私に稽古をつけてほし……って何故逃げる!!」

 

 

その台詞聞き終える前に俺はレーファもリーメも置き去りにして逃げ出していた。

肩を庇いながらなのでそこまでスピードは出ていないが……。

逃げ出したその瞬間にフィーアが猛スピードで追ってきた。

しかも結構早い。

気で身体強化を施していないとはいえ、俺の脚力についてきやがる。

普段は装備の重さで動きが遅いんだな。

 

 

「待てジンヤ!」

 

「嫌だね! 増やせるか!」

 

「増やすという事はすでにいるんだろう!? なら一人弟子が増えても手間は大して変わらないだろう!」

 

「変わるわぼけ!」

 

「boke? どういう意味かわからないがバカにしている事はよくわかったぞ!」

 

 

察しがいいなちくしょう!

 

 

その後どうにか振り切って家に立てこもったのだが、レーファに預けていた家の鍵棒を返してもらうのを忘れていて一瞬で解錠されて三人がなだれ込んできた。

本当に嫌だったのだけれど、熱心に、しかも真剣にお願いする物だから、俺も断り切れず……半ばなし崩し的にフィーアが俺の武術弟子二号へと成ってしまうのだった。

 

 

 

 

「はっはっは。大変だなジンヤ君」

 

「笑い事じゃないですよ、リオスさん……」

 

 

その晩、フィーアの帰宅の歓迎会という事で、村の広場でちょっとした食事会が開かれた。

普段ならば日数を掛けて準備をするのだが、ここで白羽の矢が立ったのが俺の店、和食屋だった。

夜の部に回す分の材料を使用して、この食事会の料理を担当する事になったのだ。

最初にドカッと造るだけで、後は食事会が終わるまで片付けとかは行わないのである意味で普段よりも楽な仕事だ。

俺も料理をしようとしたのだがレーファに止められた。

ので仕方なく俺は一人でちみちみと、自分で造った村の名物にしようとしている日本酒「|湯の香(ゆのこう)」を飲んでいたら、リオスさんがきてくれて一緒に酒を飲んでいるところだった。

 

 

「まさか弟子が増えるとは……これ以上増やしたくないのに」

 

「大変だな君も」

 

 

そうしてリオスさんは俺の升に酒を注いでくれる。

リオスさんも日本酒はいけるらしく二人でおいしく、そして楽しく飲んでいる。

 

 

この物語では18歳から酒を飲んでいい事になっていますがそれはあくまで物語上の都合です。

お酒は二十歳になってから飲みましょう!

作者より

 

 

「……ジンヤ君」

 

 

のだったが、急にリオスさんが居住まいを正した。

どうやら何かあるようだ。

 

 

「君の鍛造作業を見せてもらい、基本的な技術を教えてもらった。その成果が……もう少しで完成する」

 

 

ほう、自力で成し遂げたか……

 

 

酒が入っている状況ではあるが……いやだからこそだろう。

恥も外聞もなく、俺に話が出来るのは。

 

 

「完成したら是非見てくれないか?」

 

 

真っ直ぐに俺の目を見つめてリオスさんがそう言ってくる。

無論その提案を断る理由はなかった。

俺としてもこの世界の最高峰と謳われたリオスさんがどのような武器を鍛造したか気になるからだ。

 

 

「もちろん。喜んで」

 

 

そう言って満面の笑みを浮かべながら俺は升を高々と上げる。

するとリオスさんもそれに続いて升を高々と上げてくれた。

 

 

「完成を祈って、乾杯!」

 

「ありがとう」

 

 

そうして二人で升に入っている酒を一気飲みする。

最初こそ失敗続きだったが、今では普通にうまいと思えるレベルの日本酒も作れるようになっていた。

衣食住、ほとんど文句の付け所のない生活を送れるようになっていた。

 

 

「何を飲んでいるんだ?」

 

 

そうしていると、主賓であるフィーアがこちらへとやってきて不思議そうな顔をした。

日本酒に関してはまだ売り出すほど納得のいくレベルに至っていないので、商人に売り込みを依頼していないので、この村にしか出回っていないのだ。

ちなみに、魚食いの村だったためにほとんどの酒を飲む人には好評だった。

 

 

「俺の国の酒だ。うまいぞ?」

 

「ほう、なら一杯いただこうか」

 

「おい、フィーア、あまり無理をするな」

 

 

ドカッと俺の隣に座ったフィーアに俺は新たな升に酒を半分ほど注いで遣った。

そんなフィーアをリオスさんが制止しようとしたが、その前に一瞬で飲み干した。

 

 

ダンッ!

 

 

「……結構きついな?」

 

「そうか? そこまできつい方じゃ……」

 

 

そう返すが日本酒はそこそこ高い部類に入る。

そして砂糖も使うので結構カロリーも高い。

が、そんな事を気にしている余裕も、それを説明する事も出来なかった。

 

 

「……おい」

 

「……な、何だ?」

 

「……酔ったのか?」

 

 

そう、そこには料理も腹の中に入れているはずなのに、すでに顔が赤くなっているフィーアがそこにいた。

入れた瞬間に赤くなるって言うのは相当酒に弱いか……もしくはアルコールがだめな人間に入るが……まだ普通動けているところを見ると前者かもしれない。

 

 

「ふ、ふふふ。ジンヤ! すぐに追いついてやるから覚悟しろ!」

 

「何に追いつく、わからんが座れ。より回るぞ」

 

 

そう言っている間も随分とふらふらしているフィーア。

本格的にやばそうなので、俺は立ち上がると強制的にイスに腰掛けさせた。

強制的といっても乱暴にはしていないが。

そしてそのまま机に突っ伏すとそのまま睡眠へと移行してしまった。

 

 

…………弱っ!!!

 

 

「ははは、相変わらずフィーアは酒に弱いんだな」

 

 

いやいやリオスさん、ここまで弱いって知っているなら止めて上げてよ!

 

 

まぁそう思っても後の祭りだろう。

夜はさすがに冷えるのでここに放置するわけにも行かない。

俺はとりあえず村長にフィーアが潰れた事をつげに行った。

 

 

「わかった。日頃の疲れが出てしまったのだろう。送って上げてくれないか?」

 

「……了解」

 

 

というわけで、俺は仕方なくフィーアを家へとおくることになった。

その際、さすがに女の家に行くという事で気を遣い、レーファについてきてもらった。

お姫様だっこだとなんかやっかみをもらいそうなので、俺は背中にフィーアをおぶると、レーファと一緒にフィーアの家へと向かうのだった。

 

 

ちなみに主賓であるフィーアが潰れても歓迎会は続けられた。

騒げるときに騒ぐのはいい事なので文句も何もないが。

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

「もう、フィーお姉ちゃんったら。飲めもしないのにお酒なんて飲んで」

 

 

ベッドで寝ているフィーお姉ちゃんの服装を着替えさせながら私はぼやいた。

ジンヤさんもさすがにまずいと思っているのか、ベッドにフィーお姉ちゃんを運ぶとすぐに部屋の外へと出て行った。

その後を引き継いで、布団の用意をしし、念のために洗面器も用意してようやく介抱が終了した。

 

 

「ふふふ。明日からあの男と修行か……」

 

 

そうしていると、フィーお姉ちゃんがそんなつぶやきを漏らした。

起きたのかと思って声を掛けようとしたのだけれど、次の言葉で止められてしまった。

 

 

「楽しみだな……」

 

 

えっ……?

 

 

その言葉を口にしたときのお姉ちゃんは、顔を赤くしながらとても嬉しそうにそう呟いていた。

その表情は、今まで私が見た事もないような表情で……。

顔が赤いのはお酒のせいかもしれない。

けどその声に込められていたその想いが……わかってしまって。

 

 

フィーお姉ちゃん……ひょっとして……

 

 

笑顔で眠るフィーお姉ちゃんとは裏腹に、私の心に緊張と焦りが走っていた。

 

 

 

 

 

 




相も変わらず長いですね。
申し訳ありません。


次の話で第二部も終了となります。
次のお話は皆様お待ちかねのムーナを題材にしたお話でございます。

この世界に来てジンヤ君が本当の意味で本気で激怒します。

その激怒している刃夜を討伐して素材を剥ぎ取ると、超稀少素材『刃夜の逆鱗』が入手可能!
その素材を用いて造られる武器、『刃夜の太刀』は天下一品!
さぁあなたもいますぐPSSPOTへ行ってクエストをDLだ!!!!

↑大嘘w

モンスター討伐には向かいませんが、肥えた豚の討伐には向かう予定です。


次話 「刃夜の逆鱗」(仮)


ようやくリアル?モンスターハンターに成ったにも関わらず、またそこから遠のくという……。

すいません、第三部からはきちんと物語を進めますので……


それと感想で何度も三人称がどうたらこうたらと言っていましたが、すいません物語の都合上次話にそれを回す事になりました。
ご感想で励ましたくださり、その返答で語ったにも関わらずそれを反古にしてしまって大変申し訳ありませんがなにとぞお許しください。

それと次の話を今書いてますが、前編後編構成です。
中編が入らないよう頑張ります。

次話の前編についてはできあがっていますので、後編が完成に近付き次第UPしますのでご期待いただけたら幸いです。

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