リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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予想よりも時間がかかった。
ちょっと現実が忙しくって……申し訳ない
今回は告知通りムーナが題材のお話です。
楽しんでいただければ幸いです。

2/16 誤字脱字を修正



素材名 刃夜の逆鱗 前編

ザァァァァァァ

 

 

……なんだ?

 

 

俺は虚ろな意識の中で、まったく絶えることのない音を感じ取った。

 

 

これは……雨音?

 

 

そう理解した途端に視界が若干明瞭になった。

明瞭になったといっても、目の前は大雨が降り注いでいる。

視界は最悪だ。

 

 

ここは?

 

 

周りを見渡そうと思ったが首が動かない

いや動いてはいる。

だが自分の意思で動かせていないだけだ。

 

 

あぁ……これは……

 

 

そこで俺はこの景色に見覚えがあることに気がついた。

夜闇の森の中。

ぬかるんだ土。

そして……目の前に恐怖に歪んだ男があった(・・・)

 

 

その男は、胸周りが真っ赤に染まっていた。

そしてそれを中心に周りの地面も赤い。

その赤さは夜闇の森の中でさえ、俺の目にははっきりと見ることが出来た。

 

 

それになりより……右手に握りしめている夜月の刀身も赤かった。

 

 

これはあの時の……

 

 

真っ赤に染まっている夜月を血振りし、手ぬぐいでぬぐってから鞘に収めた。

この視界に歪みはなかった。

つまりそれは俺の体が全く震えていないということだ。

 

 

人を一人、殺した後だというのに……。

 

 

あの男を始末した後か……

 

 

その顔には見覚えがあった。

当たり前だ。

この男を始末したこの後に……俺が忘れたくても忘れられない出来事があったのだから……。

 

 

俺は念のために男の首筋に手を当てて脈を測った。

が、当然胸を刺された男が生きているわけもない。

出血量にしても明らかに致死量だ。

確認するまでもなかったが、死の確認は必ず行うようにしていることだった。

 

 

相手の死を確認し終えた後、俺はゆっくりと森の中へと入っていったのだった。

 

 

 

俺の裏の仕事の夢だ。

 

 

 

 

~レグル~

 

 

首都ドンドルマ。

竜車に揺られて二時間とはいえ、日頃の仕事や金にも余裕がないため、一年に数回これればいい方であるこのドンドルマへと、妹にせがまれて二人で遊びに来たその日。

俺はとある貴族の家へと招かれていた。

いや招かれざるを得なかったと言うべきだろうか。

 

 

見た事もないような豪奢な家具や、鎧、工芸品などが整然と並べられた一室で俺は頭を垂れ、跪いていた。

 

 

「君の村に人になつく火竜がいるそうだな」

 

「はい……」

 

 

人になつく火竜。

あの男のリオレウスの事だろう。

村長から直々に箝口令が敷かれたあの火竜の存在をどうしてこの貴族が知っているのかわからないが……、今の俺はそれどころではなかった。

 

 

「是非とも欲しいのだが……あの村は僻地でね。よそ者がいるとすぐに怪しまれてしまうのだよ」

 

 

自分が住む村を僻地と言われて若干のいらだちを覚えるがそれをどうにかこらえる。

ユクモ村は普通に田舎と行っても過言ではない。

交通の便も悪くドンドルマから比較的近い位置にあるにも関わらず余り知られていない村だ。

そんな村によそ者が来ればすぐに村の物でないとわかるのだ。

それもわざわざあの男が住んでいる村の外の家へと向かおうとしていればなおさらだ。

 

 

「そこで君に頼みたい。その火竜を捕獲してきてくれないか?」

 

 

頼み、というがこれは頼みではなく命令だ。

脅しと行ってもいい。

 

 

「君の妹の命が惜しければな……」

 

 

その言葉に俺は歯を食いしばって耐えた。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「ジンヤさん? ジンヤさん?」

 

 

俺の耳に誰かの声が届いてくる。

そしてその誰かが俺の半径5mに入ったのがわかった。

 

 

カッ!

 

 

それに気づいた瞬間、俺の体は考える前に動いていた。

 

 

クルッ

 

 

「えっ?」

 

 

ダンッ!

 

 

相手の足を自分の足で絡め取り、それをねじってこけさせると同時にマウントポジションを取る。

そして枕元に置いてある水月を片手で抜いて相手の首に水月を突き立てようとしたが……。

 

 

「じ、ジンヤさん」

 

 

その声に聞き覚えがある俺は、その瞬間に突き立てようとしていた水月を止めた。

反射的に動いてしまったが、組み伏せている相手はよく見ればリーメだった。

 

 

「す、すまん」

 

 

謝るととすぐに俺はリーメからどいた。

するとよほど恐ろしかったのか、リーメが俺から無意識に離れていった。

 

 

「……すまん」

 

「い、いえ。問題ないですけど……。ジンヤさんが起きてないなんて初めてですから」

 

 

普段ならば俺が真っ先に起きてグラハムとジャスパーを起こして森と丘に行っている時間だった。

いつもの通り稽古の時間に来たけど俺が寝ていたから起こしてくれようとしたのだろう。

 

 

危なかった……

 

 

咄嗟に首を掻ききろうとしてどうにかとどまれた事に深く安堵した。

俺が自分で起きなかったのはこの世界に来てから初めてだったので危ないところだった。

 

 

夢見も最悪だったしな……

 

 

今世界に来て現実世界の夢を見るのは初めてだった。

しかもその夢が裏家業の夢であいつを殺したときの夢だとは……。

 

 

我ながら業の深い

 

 

「なんだ? なんか大きな音がしたが……大丈夫か?」

 

 

そこでひょいっと縁側から部屋をのぞき込んできたのは、リオレイアという火竜の装備を纏ったフィーアだった。

 

 

ドンドルマを本拠地としたハンターのエリート集団、ギルドナイト隊員フィーア。

女性にしては高めの身長で俺よりほんの少し低いくらい。

 

 

つい先日、俺もそのギルドナイトの隊員として任命され、蒼リオレウス討伐を行い辛くも討伐した。

その時に龍の呪いというのを掛けられたが、今のところ問題はなかった。

 

 

消えたわけでないのだが……

 

 

そしてその時に底なし沼に落ちそうになったフィーアを助けたのだが、そこから態度が急変した。

急変しただけならまだそれでよかったのだが、それだけに飽きたらずリーメに引き続きこいつまで俺に弟子入りしたいとか抜かしてきやがった。

もちろん俺としては嫌だったのだが、余りにも熱心に行ってくるのでやむを得ず俺はフィーアまで弟子にする事になったのだった。

そのためこうして朝の訓練にこのフィーアまでくるようになった。

 

 

改めて現実を確認して鬱になりそうだ……

 

 

自分自身がまだ未熟なのに弟子なんて取ってどうするんだと思う。

さかのぼる事、リーメに刀を造ってほしいと言われた日……あの時断るべきだったかもしれないが今更である。

 

 

俺はとりあえず気分を変えるために洗面所へと行き、桶に張ってある水で顔を洗った。

時間はまだあるので、俺はリーメがいつも使っている木刀と、新たに造ったフィーア用の木製の槍をムーナの小屋から取ってきてそれぞれ手渡した。

 

 

「訓練はじめ」

 

「「よろしくお願いします」」

 

 

俺の合図の下、二人が一斉に基本の型である素振りを行い始める。

フィーアは俺が新たに造った得物を庭で試しに振り回していたら、自分にも同じ物を造ってほしいと、図々しくも言ってきたのだが、リーメにも造ってやった手前断る事も出来ず、俺は仕方なくフィーアの得物も鍛造する事になったのだった。

 

 

どうして俺の周りは俺に武器を造らせたがるのかね?

 

 

まぁ物珍しいからしょうがないだろう。

俺は縁側に置いてあった、フィーアに頼まれる原因となった得物を手に取る。

 

 

前回の蒼リオレウスが最後に残していった蒼い紅玉……蒼玉を用いて新たに俺が鍛造した得物。

柄の長さは六尺(180cm)、先端に取り付けられた刃は一尺六寸(48cm)で根本当たりに鎌がついている。

全長七尺六寸の真っ直ぐな得物。

 

 

鎌槍

 

 

である。

 

 

鎌槍とは、槍の刃の部分の根本辺りに、文字通り鎌がついているものの槍の名前だ。

素槍(真っ直ぐな刃の槍)との違いは、その鎌を用いて敵の武器を絡め取ったりする事の出来る武器だ。

 

 

この世界にもランスはあるのだが、日本の槍の使い方とは全く運用方法が異なる。

この世界のランスは、西洋騎士が馬上で使う物をそのまま人間が使っている物で、基本的に突く事を前提にしている。

それに比べ、日本の槍は応用力があり、突き込んで柄を回転させて|石突(いしづき)(槍の一番下)などで打撃を行ったり、ほかにも振り回したりといろいろと使用方法がある。

がその分技量がだいぶ問われる武器ではあるので、扱うのは大変といえる。

その槍を使っていたらランス使いとして(ただしくはガンランスだが)、見た事もないランスを目にして自分も使いたくなったのだろう。

 

 

この鎌槍、名称 |蒼焔(あおほむら)は蒼リオレウスの素材を使って造られた物だ。

 

 

魔力を扱う事の出来た化け物じみた竜、蒼リオレウスからもとれた火炎袋をふんだんに用いて鍛えた鎌槍。

さらに棟の部分に鱗と外殻を装飾と強度補強のために設置している。

柄は蒼リオレウスの骨を使用し、その周りに皮や鱗を用いたもので火にも強く強度がある。

石突には、蒼リオレウスから剥ぎ取る事の出来た尻尾の一番太い棘をほとんどそのまま使用している。

そして忘れてはいけない蒼玉は、ほとんど真円だったので、槍の茎(なかご)真下辺りの柄に埋め込んだ。

 

 

こうして出来た蒼焔。

新たな得物として生を受け、俺は日夜修行に明け暮れているのだが……。

 

 

狩竜よりも短いとは……

 

 

そう、実は使いやすさを考慮してこの蒼焔、狩竜よりも短かったりする。

 

狩竜→刃渡り222cm+柄長さ60cm=282cm 蒼焔→228cm

 

優に50cm以上も差があるのだ。

まぁ狩竜が異常に長いっていうほうが正しいのだが。

 

 

槍にも長さがあるが長いのでは6mにもなるものもある。

その場合はあまり武芸的な事はできない突撃専用みたいな槍になるが。

 

 

まぁそんなわけで、俺は鎌槍を制作し最近はこれの修行も行っている。

といっても俺は刃物は基本的にたたき込まれたし、弓も普通に扱える程度の腕は有しているのだが……。

 

 

本日は寝坊したので、ムーナの餌は保存してあるアプトノスの肉を与える。

鮮度がないのでかわいそうだったが、今から取りに行くのはさすがにきつい。

 

 

グラハムとジャスパーに朝食の用意をしてもらいつつ、俺らは修行に励む。

交互に二人と模擬試合を行い今日の訓練の締めを行う。

 

 

素振りに模擬戦闘とやっている内容は少ないが、その分密度を厚めにしているのでそこそこだろう。

そしてリーメ同様、フィーアも結構な才能を持っていた。

が、しかしいかんせんフィーアにはランスがあっていない気がする。

長い得物を長年使用していることもあって、長い間合いに慣れているので得物自体の選択は間違っていないのだが、フィーアの体重移動や足裁きを見ていると斬ることの方が向いていそうな気がする。

 

 

「お早うございます!」

 

 

そんなことを考えていると、元気よく叫びながら俺の家の門を開けてレーファが入ってきた。

 

 

「おはよう。三日坊主かと思ったんだがな……」

 

「ジンヤさん? 最後にぼそっと何かジンヤさんの国の言葉で何か言いませんでした?」

 

「何も言ってないよ」

 

「……本当かなぁ?」

 

 

最後の方はぼそっと、しかも日本語で話したにも関わらず、レーファに聞き取られた。

変わった事と言えばもう一つ。

何でか知らないが、フィーアが修行を始めるようになったその日の朝からレーファまで何故か俺の家に来て修行風景を眺めるようになった。

これだけで言うと簡単なように思えるかもしれないが、あのレーファが早起きをしてである。

 

 

あれほど寝起きの悪いこの娘がどうやって起きているのか興味が尽きないが……まぁおおかたラーファさんが叩き起こしてくれているのだろう。

その証拠と言うべきか、おでこに少し擦過傷っていうかこすれてた後がある。

おそらく床と激突したときに赤くなったのだろう。

しかも声こそ元気そうだが、少しでも気がゆるむと船をこぎ始める。

 

 

そこまでして何がしたいのやら

 

 

まぁレーファが何を考えているのかは不明だが、迷惑ではないのでよしとしよう。

ここ最近では、レーファ、リーメにフィーア、ムーナ、グラハム、ジャスパーと実に賑やかな人数へとなってきている。

ムーナも最初こそフィーアを警戒していたが、レーファがなついているところを見て問題ないと思ったのか、最近では警戒する事もなかった。

フィーアもムーナを最初警戒してたが、殺気が全くない事をすぐに見抜いたので特に問題は起こっていなかった。

 

 

ここ最近ではこんな感じの朝が毎日やってきて賑やかな者である。

しかし今日はそれだけではなかった。

 

 

「ジンヤ君。おはよう」

 

「リオスさん? おはよう。どうしたの?」

 

 

意外な事に、フィーアに少し遅れる形でリオスさんが開け放たれていた門から敷地内へと入ってきた。

 

 

「これを……」

 

 

そう言いながらも手に握られている細長い棒を差し出してくる。

細長い黒い棒。

その外観を見た瞬間にそれが何なのかわかる。

 

 

「それ?」

 

「あぁ」

 

 

俺の言葉にリオスさんはすぐに頷いて、俺にそれを手渡してくる。

俺はそれを恭しく丁寧に受け取った。

 

 

 

 

~リオス~

 

 

ついに完成した、私造りしジンヤ君の武器を模倣し、私の長年の鍛冶士、そしてハンターとしての知識をフル活用して鍛え上げたこの刀。

 

ジンヤ君の得物よりも短くする事によって扱いやすさを重視した刃渡り150cm。

柄長さ50cmの全長2m。

ドラグライト、カブレライト鉱石といった貴重な鉱石を惜しまずに使用し、鉄鉱石で造るよりもよりも格段に強度が向上している。

また心材に鉄を使う事でジンヤ君の武器の一番重要視していた折り返し鍛錬とやらにも対応させた。

しかしその分刀身その物が若干厚くなってしまい、重量も増したが大剣よりは軽いので問題ないとした。

そしてなによりも最大の特徴としては、刀身にフルフルからはぎ取れて電気を発生させる、電気袋を仕込み刀身その物に雷を纏わせた。

鍔と呼ばれるフィンガーガードは絶縁体と成るようにゲリョスの素材を一部用いて感電を防止する。

 

見た目黒色の刀身にあわせて鞘も黒い色に塗り、それに映えるように長い紫の紐を飾り付けとして結びつけた。

 

 

名称 太刀「鬼斬破」

 

 

私が持ちうる全ての技術と情熱を注ぎ込んで造られた得物だった。

 

 

ジンヤ君は外部を真剣な表情で見つめると、鬼斬破を鞘から取り出した。

 

 

『ほう、開閉式ね』

 

 

何を言っているのかはわからないが、頷きながらしきりに鞘を開閉させている。

この長さだと一息に抜くのが簡単にはできないので、私は鞘が左右に分かれるようにして取り出せるようにしたのだ。

ジンヤ君は鍛造士として鬼斬破を凝視している。

その目には一切の妥協と、甘さは存在していなかった。

 

 

「ふむ」

 

 

やがて満足がいったのか、ジンヤ君はおもむろに鬼斬破を鞘へとしまった。

どうやら採点が終わったようだ。

 

 

「……どうだった?」

 

 

若干緊張しつつ、私はジンヤ君に感想を促してみた。

そんな私にジンヤ君は至極あっさりとこういった。

 

 

「いいんじゃない?」

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「いいんじゃない?」

 

 

それがリオスさんに対する俺の返答だった。

何か俺が知らない素材を使っているためにはっきり言ってわからない事だらけだが、少なくとも妥協していない事だけはわかる。

刀身も俺の狩竜に比べれば若干厚くなっているがそれは許容範囲だ。

それに今回の武器の主題は俺の刀に似せる事でなく、この世界で通用する武器の鍛造だ。

 

 

「これいくら?」

 

「……いくらってどういうことだい?」

 

「買う」

 

 

俺の意図が掴めないのか、リオスさんは怪訝な表情をするが、とりあえず値段を行ってくる。

 

 

「五万ゼニーだ」

 

 

その値段を聞いてみんながぎょっとしていた。

高いのだろうが、この世界の金銭感覚がわからないし、五万ゼニー位は普通に出せるので俺は特に何も言わない。

 

 

「わかった」

 

 

俺は一言だけそう返すと家に引っ込み、金庫(結界を使用した木の箱)の中から五万ゼニー分の硬貨を持ってきてリオスさんに渡す。

 

 

「フィーアこれを」

 

 

そうして買い取ったその鬼斬破を俺はすぐにフィーアへと渡した。

 

 

「え? どういう意味だ?」

 

 

突然渡されたのでフィーアが困惑している。

俺はその疑問に一言で答える。

 

 

「それを試す人間になれ」

 

 

言い回しが変だったが、この場にいるフィーアを除いて全員が俺の意図をきちんと把握してくれた。

言っていることは伝わっても、それが何を意味するのかまではわかっていないみたいだが。

 

 

「えっと、どういうことですか?」

 

 

リーメが代表して俺に質問を投げかけてくる。

 

 

「武器はある程度誰にでも、すぐに使えるないといけない。俺の武器はそれに分類されない。修行が必要だから」

 

「……そうですね」

 

 

正しくは修行のいらない武器なんてないのだが……俺の得物である刀はより多くの修練が必要となる上に今現在で教えることができるのが俺しかいない。

俺が道場を開いて師範になるとか……考えたくもない。

それにどんなに強力な武器でも使う人がいないのでは意味がないのだ。

 

 

「その武器は俺の武器をこの世界に合うように造った物。つまりある程度の修行で誰でも使えないといけない。だが俺はもちろんの事、リーメもすでにある程度以上の修行を行っているのでその武器を使えるのは当然。修行していないのはフィーアのみ。だからフィーアが使いこなせれば少なくともこの世界でもその武器には有用性があるという事になる」

 

 

正しく言えば刀の修行を行っていないだけで、槍の修行はしているのだが……まぁそこらは気にしない方向で。

 

 

「つまり私がこの武器の試運転をすればいいのか?」

 

「そう言うこと」

 

「いや、しかしジンヤ。私はジンヤが造った槍を使いたいのだが」

 

「お前は槍よりもその武器の方が適正がある。お前は得物を槍から太刀に変更しろ」

 

「な、何だと!?」

 

 

さすがに己が今まで使っていた武器があっていないと言われたので腹を立てたのだろう。

その驚きの声には怒りの感情が交ざっていた。

そしてそれが爆発する前に俺は先制する。

 

 

「それが嫌なら帰れ」

 

「!?」

 

 

言い方がひどいかもしれないが俺の素直な気持ちだ。

勘違いするかもしれないが、別にこいつを弟子にしたのを後悔したわけでも、弟子を減らしたいからこういっているわけではない。

 

 

こいつは筋力があるにも関わらず体の線が細い。

それはつまり柔軟で力強い体作りをしているという事になる。

つまり直線的な攻撃だけでなく、体全体を使えるような武器を使っても問題ない。

ランスは確かにリーチが長く、全身を覆うような巨大な盾を装備しているために生存率も高く的確にダメージを与えられるがその分重い。

しかもフィーアは盾をほとんど腕に装備しないで背中に装備したまま走り回っていたケースが多い。

つまりフィーアにとって盾はあくまで保険でしかない。

 

 

ならば最初から盾を捨てて機動力とその筋力を生かした戦闘方法の方が効率もよくモンスターを仕留める事が出来る。

戦闘時間が少ないならばその分傷を負う可能性が減る。

はっきり言っていい事づくめなのだ。

まぁ試運転をさせるという名目もあるが……それはあくまでついでだ。

 

 

「じ、ジンヤさん。いくら何でもそれはひどいんじゃ……」

 

 

止まってしまったこの状態をどうにかしようとリーメが俺に話しかけてくるが、俺はそれに取り合わない。

ただ純粋に意志を込めて、俺はフィーアを見つめ続ける。

 

 

すると俺の意見がわかったのかどうかは謎だが……少なくとも俺が嫌みでも嫌がらせでもなく行っている事が伝わったのか、若干ぎこちないながらも頷いた。

フィーアはそれを受け取って、背中に鬼斬破を装備した。

 

 

「これでいいか?」

 

「あぁ」

 

「しかし本当なのか? 私は自分のガンランスの腕前もそこそこ自身があったのだが」

 

「別にガンランスが下手と言っているんじゃない。そっちの方がお前に合っていると言っているだけだ」

 

「……けど」

 

「師を疑うな。疑うならば師をとるな」

 

 

はいこれも日本語です。

通じてません。

のでもう一言。

 

 

「フィーアなら使いこなせる。お前の実力……見せてみろ」

 

 

この世界のハンターの特徴。

最低限の腕を持っているやつならば体ができあがっている事だろう。

鉄製ないし重い素材で造られた鎧を全身に纏い、さらに重たい武器を装備。

それらの格好で走り回り、さらには動きまわるモンスターの討伐。

そら体が出来上がるのも当然だろう。

ならばあとは正しく技を教えればいいだけなのだ。

だからフィーアの実力というか試運転には何ら不安を持っていなかった。

 

 

「う、うむ……わかった頑張る」

 

 

何でか知らないが、淀みながらしかも顔を背けながらぼそりと返事をしてくる。

首が赤くなっているが……。

 

 

まずい事行ったか?

 

 

「む~……」

 

 

そしてそんなフィーアを見て唸るレーファ。

はっきり言って意味がわからん。

 

 

「リオスさん、これってひょっとして……」

 

「気づいたかリーメ。なかなかおもしろ事に成っているぞ」

 

 

なんだ面白い事って?

 

 

ひそひそと内緒話をしているリーメとリオスさんだが、この距離で声に出している時点でどんなに小さかろうと俺が聞き逃す訳がない。

が聞こえても行っている意味がわからないのでは意味もなく……。

 

 

やれやれ。なんなんだか

 

 

内心で溜め息を吐く事しかできない俺であった。

 

 

 

 

リオスさんが仕事があると家に戻り、俺は全員を連れて、とりあえずギルドナイト出張所へと向かう。

ここ最近では、とりあえずギルドナイトの出張所に寄って、俺指名の依頼があればクエストへ、ない時は和食屋で仕事と……忙しい毎日を送っていた。

といっても一週間あって三日和食屋で仕事が出来ればいい方である。

 

 

一昨日が砂漠の商隊に頼まれて二本角野郎狩り、昨日は密林で刺身に食うとうまいデカぶつ魚、昨日は雪山の四足ティラノサウルスと……人使いが荒すぎる。

砂漠ではマントを羽織って暑さをしのぎ、雪山ではポッケ村の専用装備を借り受けて雪山登山をしながらハンティング!

いやぁしかし角と魚はでかかった。

 

 

何食ったらあんなサイズになるのかね? 

 

 

そして何よりも不思議だったのは二本角野郎が砂漠の砂の中に潜った事だ。

あの巨体で潜れるとか……どういうことだ!? と思ったが潜れるのだから潜れるのだろう。

しかし如何せん殺気丸出しだし、音は聞こえるので奇襲になり得なかったが……。

 

 

世の中広いって言うかすげ~

 

 

妙にモンスターに感心してしまった俺だった。

 

 

っていうかそもそも何でそんな遠い土地の依頼が俺に回ってくるんだか……

 

 

気球で送り迎えしてくれるので行き帰りが早いのでそこはありがたいのだが……。

しかし気球の欠点はパラシュートで着陸するので到着地点がばらばらになる可能性が高いのが難点だ。

支給品はキャンプにあるが取りに行くのが面倒な俺はさっさとモンスターを討伐する。

 

 

ムーナで飛べればいいのだが、まだばれたらまずいという事で、ムーナに騎乗出来ない。

 

 

ムーナも連れて行けたらもっと早く確実に終わるのだが……

 

 

しかもディリートの野郎が、俺の事を吹聴というよりも宣伝広報活動を行っているらしく、ドンドルマに行くと俺は指さされてひそひそ話をよくされる。

さらに依頼内容も基本的に短時間で確実にこなすために依頼主からの覚えもいいらしく、俺への指名が急増しているらしい。

はっきり言って勘弁して欲しい。

 

 

料理は俺の趣味の一つなんだがなぁ……

 

 

溜息しか出てこない毎日だ。

ただ無駄に素材と金が増える。

今のところ作りたい武器はないので正直倉庫に素材が増えるだけでそのうち腐らせるかもしれない(使わないという意味で)。

 

 

村の裏口にあるギルドナイトの出張所に着くと、レーファ、グラハム、ジャスパーと分かれて俺、リーメ、フィーアは三人は中へと入っていく。

実はこの出張所も俺が建築デザインと建築の指揮を執った。

っていうか俺がほとんど建てたので純和風っぽい建物だったりする。

そしてカウンターへと向かうと、そこには緑色に桃色の和風っぽい衣服を着た二人の女性と、カウンターに座って飲んでいる小柄なじいさんが目に入る。

 

 

「ジンヤ君こんにちは。なんだい、随分疲れた顔をしているね? ウィック」

 

「どうもギルドマネージャー。いつもいうが昼から酒飲むな」

 

「いやぁ、君の造っているって言うニホンシュ? っていうのがうますぎてね。そろそろきれそうなんだが、また売ってくれないか?」

 

「もう? 飲み過ぎだ。後は俺の分くらいしかない」

 

 

小柄なじいさんは耳が長い。

つまりは竜人族にあたる。

ギルドマネージャー、デウロ。

飲んだくれのじじいで村長とは旧知の仲らしい。

 

 

「今日こそ依頼はないんだよな?」

 

「残念だがジンヤ君。今日も君宛の依頼があるよ」

 

 

半ば恒例的なやりとりになっているのが悲しくなってくる。

俺ががっくりと肩を落とすと、受付の女の子二人がクスクスと笑った。

 

 

「笑うなよ」

 

「ご、ごめんなさいジンヤさん」

 

「うふふ、余りにもかわいかった物ですから」

 

 

桃色の服の子、緑色の服の子が順にそう返してくる。

桃色の子、フィンフュが一般ハンター受付嬢、緑色のアネットがギルドナイト隊員の受付嬢だ。

この村にはギルドナイト所属のハンターが俺とフィーアしかいないため、アネットは半ば俺とフィーア専門の受付嬢と化してしまっている。

ちなみにフィンフュが新任で、アネットは熟練の受付嬢で先輩らしい。

 

 

「いま、年増って言いました?」

 

「言ってねぇ!」

 

 

ちなみにアネットはすでに行き遅れと言われているらしく、年齢とか時間の話題にすごく敏感だ(といってもまだ23才。この世界では竜人族以外寿命がそこまで長くないのでこの年で年増らしい)。

まるで江戸とか大正、昭和時代の日本だな。

何でかこういう話題に限って、人の心を読める。

 

 

「それで? 今日の依頼は?」

 

「はい、ドンドルマにお住まいの貴族の方から依頼です」

 

 

貴族から?

 

 

「貴族からだって?」

 

 

それにフィーアも引っかかったらしくアネットにそう返していた。

本当の事なのでアネットもそうです、と返してきて書類をフィーアに渡す。

俺が文字を読めない事はすでにアネットもフィフュイも知っているので、俺に渡す事はない。

 

 

「えっと、……モンスターのキモ二十個納品!?」

 

 

依頼内容にフィーアが悲鳴を上げた。

それはそうだろう。

 

モンスターのキモは文字通りそのままでモンスターの肝臓だが、食用ないし薬品用に使えるキモがとれるのは砂漠地帯のドスガレオスかデルクスと呼ばれる砂竜種からとれる。

そいつら自体は大して強くないのだが如何せんその数がおかしい上にそもそもそんな事ハンターには余り頼まない。

どちらかというとモンスターのキモを取るための商人達がその間の護衛としてハンターを雇う場合が多いのだが……。

無論その場合が多いと言うだけでハンターに依頼が来ない事はないのだが……俺にくるクエストにしては少々おかしい。

 

 

「冗談じゃないぞ? 何でこんなバカみたいなクエストがわざわざジンヤに回ってくるんだ? 他にももっと緊急の依頼は?」

 

「それが……今日はそれしか来ていなくて……」

 

「何だって?」

 

 

そのアネットの言葉にフィーアは露骨に怪しむ顔をした。

アネットもそのことに関してはおかしいと思っているのか、困惑した表情を浮かべる。

自分をすごいとか、俺は天下無敵と言うつもりはさらさらないが、少なくともこんな新米ハンターにでも出来るようなクエストが俺に回ってくるのはいくら何でもおかしい。

しかも他に一切依頼がないのがその怪しさにさらに拍車を掛けている。

 

 

ふむ……さっき俺の家を見張っていたやつに関係があるかもな

 

 

家を出るとき、誰一人として気づかなかったが、俺の家を遠くから見張っているような視線を感じ取ったのだ。

村はずれに俺の家を見張るのは普通に考えて余りない事態だ。

しかもその視線には何ら感情がこもって折らず、本当に俺の動向を探っているだけだった。

 

 

……乗ってやるか

 

 

「アネット。このクエストだと人が多い方がいいだろう? リーメも連れて行きたいがいい?」

 

「え? た、確かにこのクエストでしたらギルトナイトじゃない方でも問題ないとは思いますが……」

 

「すまんリーメ。手伝ってくれ」

 

「はい、ジンヤさん」

 

 

事後承諾と自分勝手極まる言い分であったが、そんな俺のお願いをリーメは嫌な顔せず満面の笑みでそう返してくれる。

そんなリーメに心から感謝しつつ、俺はフィーアに顔を向ける。

 

 

「フィーア、いったん太刀は中止して、いつも通りランスで来てくれ」

 

「え? ……何でだ?」

 

「特に意味はない。こんな面倒なクエスト、さっさと終わらせたい。砂漠だし」

 

 

もっともな事を行ってフィーアを無理矢理納得させた。

完全に納得はしていなかったようだが、それでも俺の言い分にも一理あると思ったのか、フィーアは訝しげな表情を浮かべながらも自宅へと帰っていった。

太刀を置いてきて武器を変えるためだろう。

 

 

リーメはいつものように火竜刀紅葉を装備してきており、防具はこの前完成したユクモ村看板装備、ユクモノ道着を装備している。

俺がこの前蒼リオレウスの時に装備した物と少しデザインは違うが大体同じ物だ。

気を込めてやったので普通の防具より遙かに強い。

なお、俺のユクモノ道着プロトタイプは前回の蒼リオレウス戦で使い物にならなくなったので俺は現実世界の服装を着ている。

装備は夜月、雷月、花月、水月、月火、そして新たな得物である槍、蒼焔で出陣する予定だ。

 

 

必要事項をリーメに記入してもらい、その間にフィーアが戻ってきた。

合わせて三人で砂漠へと向かうために、俺たちはギルドナイトの気球へと乗り込んでいった。

 

 

 

 

~レグル~

 

 

あの貴族の部下からの連絡を受けて、俺はいったん自分の村であるユクモ村へと一人で帰ってきた。

本来ならばこんな事絶対にしたくはなかったのだが……村のみんなから批難を浴びようとも、あの男に殺される事になっても、俺は妹を救いたかった。

 

 

俺は部下の協力も仰いで、今まで一度も入った事のなかったあの男の店へと裏口から侵入し、更衣室へと足を踏み入れる。

時間はそろそろ夕暮れになる時間だ。

この店は夕方に休憩を挟むために、その時を狙って俺はその休憩時間に入る少し前に部下に店へと客として入ってもらった。

休憩時間に入るのを遅らせるためだ。

その間、俺はレーファの更衣室の籠をあさり、あの男の家の鍵を入手する。

 

 

以前よりあの男のリオレウスを狙っていたあの貴族はこうして俺に脅しを掛ける前から自分でも部下を派遣していたのだが、何故か入る事が出来ずに失敗に終わっていた。

あの男しか入れないようにしていると、レーファが言っていた事を俺はレミルから聞いていた。

そしてレーファが鍵を持っているという事も……。

 

 

だから俺はこうして泥棒のような事をしているのだ。

レーファにも嫌われてしまうだろう。

だけどこれしか思い浮かばなかったのだ。

 

 

どうにかして見つけて、俺はその鍵という鉄の棒を持ってすぐに店を抜け出し、人目の少ない塀を越えて村を出る。

そしてそのままあの男の家へと急いでいくと、途中でラミアと合流する。

 

 

「見つけたんですか?」

 

「……あぁ」

 

 

俺の事を慕ってくれている後輩の一人。

普段は俺にいつも笑顔を向けてくれるその顔には悲しげな表情をしていた。

ラミアにも、そして俺に協力してくれた部下にも、俺は事情を話せずにいた。

ただ協力して欲しいと言っただけだった。

だからラミアも俺がどうしてこういう事をしているのかはわかっていないのだが、それでもこいつは俺のお願いを聞いて協力してくれていた。

 

 

「すまない」

 

「……いえ」

 

 

気まずい雰囲気になりつつ、俺はあの男の家へと急ぐ。

そして裏手にその入り口のそばへと行くと、一人の男が俺に歩み寄ってきた。

 

 

「それか? 鍵というのは」

 

「……はい」

 

「ならさっさと開けろ。そろそろ夜になる。夜の間にドンドルマへと運びたい」

 

 

偉そうに命令してくる。

あの貴族の部下で今回のこの作戦の指揮官らしい。

目立たないように商人の格好をしている。

こいつだけでなく他にも何人もの人間が、見えないところから俺を監視しているらしく、俺は逆らう事が出来ずにいた。

 

 

門にある穴へと鍵を差し込みすんなりと門が開いた。

するとどこかに隠れていたのか、同じような格好をしたやつらが数名クロガネジンヤの家へと入ってくる。

そして俺は装備しているライトボウガンを構える。

 

 

「ラミア」

 

「……はい」

 

 

俺の言葉に、ラミアは悲しい表情をしながらも、リオレウスがいるであろう小屋の扉を開けた。

 

 

「グオォルルルル」

 

 

俺たちが入ってきたのは気づいていたのだろう。扉を開けた瞬間に低いうなり声を上げるリオレウスがそこにいた。

 

 

……すまない

 

 

俺は扉が開いたその瞬間にすでに装填してある睡眠弾を連射した。

 

 

ドドドドド

 

 

そしてそれは一発も外れることなくリオレウスに命中する。

 

 

「クウォォォ」

 

 

最初こそこちらに攻撃しようとしていたのだろうが、さすがにこの数の睡眠弾を打ち込まれて意識が持つはずがない。

そのまま静かに横たわって寝息をかき始めた。

 

 

「よし。捕獲用荷車に積むぞ」

 

 

どこに隠れていたのかはわからないが、商人の男の部下と思われる奴らが中へと入り、持っていた縄でリオレウスをくくりつけていく。

そして無理やり小屋の外へと引っ張り出す。

 

 

そして外に隠していた捕獲用荷車を中へと入れようとしたのだが……そこで問題が発生した。

 

 

「な、開かない?」

 

 

そう、勝手口と思われる小さな扉は開くというのに、もっとも大きな門でリオレウスすらも楽々通れるはずの門の扉が開かないのだ。

 

 

「どういうことだ? それが鍵ではなかったのか?」

 

「そのはずです。だから開かないなんて事は……」

 

「だが現に扉が開かないぞ? どうするんだ? どうにかしろ」

 

 

どうにかしろといわれてもな……

 

 

はっきり言ってどうにも出来ない。

まさか扉が開かないなんて。

レミルが殺されるかもしれないという事で俺に焦りが募っていく。

壊す事しか思いつかないが、音を立てるわけにも行かない。

はっきり言って八方ふさがりだ。

 

 

「どうやらだましたようだな」

 

「!? そんなつもりはない!」

 

「これは報告するしかないな」

 

 

報告。

ラミアがいるから報告と言っているがそれの意味するところはレミルの殺害、もしくは奴隷商人に売り飛ばす事に等しい。

どちらにしろレミルがひどい目に遭う事に代わりはない。

 

 

「待ってくれ! もう少し時間をくれ! 必ずこの門を開けられるようにしてみせるから!」

 

「今回限りと言ったはずだ。それにこんな事はもうできない。運がなかったな」

 

 

俺が土下座をして必死に頼み込むがすでに隊長が、何か腕を振り上げたりして合図をどこかに送っていた。

 

 

くそ!!

 

 

俺はボウガンを構えて隊長を殺そうとした。

そんな事をしても時間稼ぎにしかならないのに……。

 

 

しかし。

 

 

バン!

 

 

「何!?」

 

 

突然開いていたはずの扉が閉まって隊長が驚きの声を上げる。

無論俺も同様に驚いていた。

誰も扉をしめようとしたわけでもないというのに。

 

その時だった。

 

 

 

『俺がどうしてわざわざこんな石造りの塀を作ったと思ってる?』

 

 

 

そんな声が、上の方から聞こえてきたのは。

 

 

 

『ムーナのためさ。塀を作っておけば運び出すのに苦労するからな。ちなみに正門の大門は俺以外絶対に開けることはできない』

 

「誰だ!!」

 

 

声のする方へと隊長が顔を振り向かせる。

その声は枯れ草を束ねて造られている家の屋根からきこえてきていて……。

 

 

「無礼な。泥棒野郎。ここの主だよ」

 

 

屋根の上で腕を組んで、俺たちを見下ろしている、クロガネジンヤがそこにはいたのだった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

予想通り……かな?

 

 

俺は屋根の上から間抜け面の見慣れぬ男を睨みつけていた。

 

 

最近見張りが強化されている事、今朝からの露骨な監視(露骨と言ってもきちんとした監視だったが、俺にはわかった)、そして変な依頼。

特に最後。

 

|どうにかして俺に長時間のクエスト(・・・・・・・・・・・・・・・・)を行かせようとするような内容だったのでこれが決め手だった。

 

 

気球に乗って、砂漠へと向かうときに俺はリーメとレーファにこう言ったのだ。

 

 

「俺を監視していた奴らがいた。怪しいから俺は降りるからすまないが二人でキモ、集めて」

 

 

と。

そのために使い慣れていない武器を使わせず、わざわざフィーアに武器の変更をさせたのだ。

ユクモ村から砂漠へと向かう途中には広大で大きな山脈、エルデ山脈の上を通過する。

その山頂は余りにも高いので、この世界の気球の技術ではぎりぎり上を通り過ぎる程度の高度、つまり俺ならば飛び降りる事が可能な高さになるのだ。

 

 

「ジンヤさん? パラシュートを……」

 

 

本来ならばパラシュートを使って降りるのだが、パラシュートは目立つ。

すでに監視が外れているかもしれないが、念のために俺はパラシュートを使いたくなかった。

 

 

「んじゃ頼んだ」

 

 

俺はリーメの質問には答えず、そのまま飛び降りた。

 

 

「「え、ちょっと!?」」

 

 

二人の驚きの声が聞こえてくるがそれもすぐに遠のいていく。

俺はそこの山脈で飛び降りて、木々に捕まって勢いを殺し、全力疾走でユクモ村へと帰還したのだ。

 

 

そしてユクモ村周辺の地図を頭で思い描き、俺の家を見張るのに最適な場所へと何ヵ所か向かうと、予想通り双眼鏡で俺の家を監視している奴らがいたのだ。

そいつらには一撃で眠りについてもらって懐をあさり内容物を確認するが、さすがに身元がわかるようなものは何も持っていなかった

とりあえず両手両足の関節を外して身動きをとれないようにして、他の気配がある場所へと赴いて全ての連中を昏倒させ、俺の家の裏手へと運んだ。

すると中に結構な人数が侵入しているのが感じられた。

 

 

この気配……レグル……だっけ?

 

 

その一人に覚えのある気配があったので、密かにのぞいてみたら案の定、俺を目の敵にしていたあのハンターだった。

しかしその表情には焦りと悔しさがにじんでおり、目の前の見慣れない男を睨みつけていた。

 

 

何かあったなこれは……

 

 

俺を心底嫌うあの男であるレグルが俺の家にいたずらでも仕掛けに来たのかと思ったがそこまで小さい男ではなかったはず。

そもそもこの家に入るには、レーファに預けている鍵を使用しなければ入る事は出来ない。

だがレーファが俺の許可もなしにレグルに貸し出すとは考えられない。

ならばどうにかして盗んだ事になる。

いたずらのためにレーファにまで軽蔑されるような行為はしないはずだ。

 

 

見知らぬ男に何か脅されたか……

 

 

男が腕を振り上げて手を回したり、肘を曲げたりし出す。

他の仲間に何かサインを送ったのだろう。

が、送るべき相手は全ておねんね中だ。

俺は驚かすために開いたままになっている勝手口を気をつかって閉じた。

 

 

「何!?」

 

 

突然扉が閉まって見知らぬが驚きの声を上げる。

レグルともう一人も同様だった。

まぁそれはそうだろう。

独りでに扉が閉まるなどこの世界では怪奇現象でしかない。

 

 

「俺がどうしてわざわざこんな石造りの塀を作ったと思ってる?」

 

 

そうして俺は屋根に立ってそんな声を上げる。

 

 

「ムーナのためさ。塀を作っておけば運び出すのに苦労するからな」

 

「誰だ!!」

 

「無礼な。泥棒野郎。ここの主だよ」

 

 

無駄に雄々しく、高圧的に俺はそう言い放つ。

暗器でも隠し持っているのか、男は懐に手を入れようとしたが、その前に俺は地面へと飛び降りていて、男の背後に回っていた。

 

 

「は、速い!」

 

「寝てろ」

 

 

俺は冷たくそう言い放つと、男の後頭部に気を流し込んで意識を絶った。

上司が真っ先につぶされて動揺したのか、ほかの部下たちの動きが一瞬止まる。

そのスキを見逃すわけもなく、一瞬で昏倒させてやった。

そしてとりあえず身動きを取らせないようにするために四肢の関節を外す。

 

 

「な、なんてことをしてくれたんだ!!!」

 

 

そうして俺が作業をしているとレグルが俺に掴みかかってきた。

んが、俺はその腕を逆に掴んで投げ飛ばしてやる。

怪我をさせるほど強く投げてはいないが、少し痛がっていた。

受け身に失敗したようだ。

 

 

「何を偉そうに泥棒野郎が」

 

「くっ」

 

 

さすがにこう言われては言い返す事が出来ないのだろう。

だがそれも一瞬で再び俺に吼えだした。

 

 

「こうしないといけなかったんだ! 俺だって好きこのんでお前の家に忍び込むものか!」

 

 

よほどせっぱ詰まった状態のようだ。

だいぶ錯乱している。

俺はそんなレグルに取り合わず、門から外に出て気絶させた男達を運び込もうとした。

 

 

「お前のせいで……お前のリオレウスのせいで……レミルは……俺の妹は……」

 

「……何?」

 

 

その台詞に俺はさすがに足を止めざるを得なかった。

ムーナがらみである事は、ムーナの小屋が開いていてしかも寝ているところを見て百も承知だったが、そこでどうしてこいつの妹であり、レーファの友達でもあるレミルの名前が出てくるのか?

 

 

……どうやら本当にやばいみたいだな

 

 

崩れ落ちて、うずくまってしまったレグルを俺はひとまず置いておき、裏に放置している気絶させた奴らを中に運び込む。

 

 

「じ、ジンヤ……さん。その人達は?」

 

 

レグルの代わりに小柄な女のハンターが話しかけてくる。

 

 

「俺の家を見張っていた連中だ。レグル安心しろ。合図は誰にも伝わってない」

 

 

石垣の塀に寄りかかるように男達を座らせながらそう言った。

するとレグルがバッと、顔を上げた。

 

 

「ほ、本当か?」

 

「本当だ。とりあえず話を聞かせろ」

 

 

 

 

~レグル~

 

 

俺はこの憎むべき男に言われるままに、今回の事情を全て話した。

別に許して欲しかった訳じゃない。

ただ、このときの俺はレミルの事を考える余り、他の事に気が回らなくなっていた。

半ば錯乱気味に話すが、クロガネジンヤは静かに俺の話を聞いてくれた。

 

 

「……そうか」

 

 

全てを話し終えると、クロガネジンヤは深く溜め息を吐いた。

何を思っているのかはわからないが、俺としては合図が伝わっていない以上、今の内にどうにかしてレミルを助けようと考える事で一杯だった。

 

 

その時。

 

 

「おとなしくしろ!」

 

 

開いている門から、リオスさんが片手剣を装備して怒鳴り込んできた。

後ろにはレーファにクロガネジンヤのアイルー達もいた。

どうやらレーファが鍵がなくなっている事に気づいてリオスさんを呼んできたみたいだ。

 

 

「って、ジンヤ君? それにレグルにラミア? どうしたんだ? それにこの男達は?」

 

 

まさかクロガネジンヤがいるとは思っていなかったのか、リオスさんが驚きながら質問してくる。

それに答えようとしたのだが……その前にレーファがクロガネジンヤに走り寄った。

 

 

「ジンヤさん、ごめんなさい! 鍵……盗られちゃいました」

 

 

ものすごく悲しそうな表情をしながら、レーファがクロガネジンヤに頭を下げる。

その目には今にも泣き出しそうに涙が溢れていて……俺の心が傷んだ。

 

 

「気にするなレーファ。特に問題になってない。が、他の問題が浮上している」

 

「他の問題?」

 

 

クロガネジンヤの言葉に、レーファがきょとんと首をかしげて周りを見渡す。

見た事もない男が十人近く、手足を変な方向に曲げて気絶しているのだからこの光景は異様だろう。

リオスさんやレーファが俺やクロガネジンヤに訴えかけるような目を投げかけてくる。

 

 

「ジンヤさん!」

 

「おいジンヤ!」

 

 

そうしていると、空から声が聞こえてくる。

その場にいる全員が上に顔を向けると、そこにはパラシュートに揺られながらリーメとフィーアさんが降りてきているところだった。

 

 

「なんだ? 帰ってきたのか?」

 

「当然ですよ! エルデ山脈にパラシュートなしで飛び降りるなんて正気ですか!?」

 

「お前が無事に降りて走り回っているのを見て少しは安心したがどうして突然帰りだしたんだ?」

 

 

エルデ山脈に飛び降りた!?

 

 

本当にこのクロガネジンヤと言うのはとんでもない事をする人間だ。

リーメやフィーアが怒鳴り散らしているのもわからないでもない。

 

 

「ふむ……ちょうどいいな。レーファ」

 

「は、はい」

 

 

この場にいる全員の顔を見渡しながら、クロガネジンヤはレーファに声を掛ける。

 

 

「村長を呼んできてくれ。そしてその際ころこんにゃくのすり下ろした物を持ってくるように伝えてくれ」

 

「??? わかりました」

 

「それから今日は店を臨時休業だ。村長を呼んだらお前は家に帰ってじっとしてろ」

 

「え? ど、どうしてですか!?」

 

「後で説明する。急いでくれ」

 

「で……でも」

 

「レーファ。頼むから……」

 

 

怒鳴るのではなく、さすがに懇願されたらレーファも反論できないようだった。

それにその時のクロガネジンヤの顔は真剣な物で……。

レーファは渋々と、家を出て村長の家へと向かっていった。

 

 

「さてと」

 

 

そうしてレーファを送り出すと、クロガネジンヤは先ほど気絶させた隊長を起こすと、両肩を掴んでぐっと手を押し込んだ。

 

 

「う、ううん」

 

 

そうすると不思議な事に男が目を覚まし、そして自分の置かれている状況を瞬時に思い出した。

 

 

「き、貴様。こんなことしてただですむと……」

 

「部下ならそこで寝てるぞ」

 

 

その台詞に、隊長は驚きながらクロガネジンヤが指さした方へと目を向ける。

最初は驚き、そしてすぐに怒りクロガネジンヤを睨みつける。

どうやらここにいる数だけしかこの男の部下はいないようだ。

 

 

「ジンヤ君。泥棒が入ったと、リオスから聞いていたが……片付いたのか?」

 

 

すると開いている門から村長が入ってきた。

先ほどレーファに伝えたとおりころこんにゃくすり下ろした物を入れた容器を手に持っている。

 

 

「ありがとう村長。さてと」

 

 

それを受け取ると、クロガネジンヤは男へと歩み寄った。

男は必死に逃げようとするが、手足を折られたのかどうかは知らないが、両手両足が変な方向に曲がっているので後ずさる事も出来ていなかった。

 

 

「レミルって小娘の居場所を言え」

 

「……」

 

 

しかし当然男は応えない。

レミルの居場所と聞いて、その場にいる全員に緊張が走った。

そして誰もが俺に目を向けてくる。

 

 

「どういう事だ?」

 

「……実は」

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

後ろでレグルが皆に事情を説明しだした。

俺はそれを聞きつつ、無言の圧力で男を睨むつけるが、さすがにそう簡単に口を割りそうにはなかった。

 

 

「な、なんと言う事だ……」

 

 

説明が終わったのか、村長がその場に崩れ落ちた。

それをリオスさんが慌てて支えている。

リーメは驚きのあまり声を出す事も出来ず呆然とし、フィーアは怒り心頭といった感じで拳を握りしめていた。

 

 

「グラハム、ジャスパー」

 

 

俺はいったん男から離れ、グラハムとジャスパーへと歩み寄る。

 

 

「ニャ! 店長。どうするんですニャ!?」

 

「あの店はお前らが開いた事にする。いいか? 俺はお前らの師匠でも何でもない。わかったな?」

 

「え? ど、どういう意味ですニャ!?」

 

 

俺の突然の物言いに、グラハムにジャスパーが反論してくるが俺はそれに取り合わず、リーメに視線を投じる。

 

 

「リーメ。それにフィーア。お前達は弟子でも何でもない他人だ」

 

「「えっ?」」

 

「もちろんリオスさん。あなたもです。レーファに同じ事をきつく言い聞かせておいてください」

 

 

時間が惜しいので、俺は次々に俺と深く関わった人へと押しつけるようにそう告げる。

 

 

「じ、ジンヤ君。まさか……」

 

 

この中で村長だけが唯一俺の意図に気がついたようだ。

驚きながらも確信を持って俺に声を掛けてくる。

 

 

手間が省けていい

 

 

「予想通りです村長。他の人たちにも同様の指示を出しておいてください」

 

「や、やめなさい! 君は自分が何をしようとしているのかわかっているのか!?」

 

「もちろん」

 

 

俺は少しでも村長の気分を和らげようと少々芝居がかった声を上げる。

他の連中も薄々俺の考えがわかってきたようだ。

俺は大声を上げられる前にこう言った。

 

 

 

「その貴族ってのをぶっ飛ばしてくる」

 

 

 

 

 




最初は刃夜が屋根の上で吼えているところで終わらせるつもりだったのですが、後編がえらく長くなってしまってw
でもこの終わり方も実になんかアニメとか漫画とかのそれっぽい気になる終わり方をさせることが出来たので満足w

後編に続く

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