リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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約一ヶ月~

長くお待たせしまして申し訳ありませんでした。
いやぁこの話……
○人公もメインヒ○インどっちも全く出てこないからなんかものすごく書きにくかったものでw
つくづく刃夜が動かしやすい事を知ったこのお話w
空気とはいえあの子がメインヒ○インなのですよ……
まぁまだフィーアのターンなのですが……
……ともかく更新させていただきました。

ちなみに今回の話はマジでR15指定です。
苦手な方は冗談抜きでお読みいただくのを控えて頂くか……覚悟して読んでくださいw
まぁそこまで明確っていうかグロイ描写はしてないけどw

あと……被災地の方はあまり気持ちよくないかもしれません……
不快にさせてしまったらごめんなさい!!!!!!
決してそういうつもりで書いたのではありません!!!!!

あ、あとPC向けに一部執筆しましたので携帯等では見にくい箇所がありますのでご了承ください。
楽しんでいただければ幸いです。



決戦の砦 前編

~フィーア~

 

 

「目標! 第一次防衛ライン目前まで接近!」

 

「よし。第一防衛ライン守備隊に伝達、爆弾の投下および着火準備!」

 

「了解!」

 

 

伝令兵によって伝えられた事項に、ディリート隊長が即応し、その指示を聞いて伝令兵もすぐに踵を返した。

今この砦の防衛ラインの中継地点とも言える広間には、大勢のハンター達が固唾をのんで結果報告を待っていた。

第一防衛ライン。

通路にありったけの爆弾を設置し、さらに通路を挟んでいる岩壁の上からも爆弾を投下、一斉に起爆するという、爆弾エリアだ。

通路に設置してある爆弾は百近く。

上から降らす爆弾は五十ほど。

木で組まれた柵に設置されており、下枠部分を外す事によって全ての爆弾を投下できる仕組みになっている。

ちなみにエリアの最初と最後に大量の爆弾が設置されているため、計二回の爆破を行う。

追加生産の爆弾が間に合わなかったため、これだけの数しか用意できなかったが、いくら巨大とはいえ、数は十分に用意してある。

 

 

正直これだけでも片付いてしまうのでは?

 

 

と期待してしまうほどに、普通に考えれば過剰なほどの量の爆弾を設置している。

そう、普通に考えれば終わってしまうような攻撃力を有している。

大タル爆弾が総勢で百五十ほどだ。

普通のモンスターならば肉片すらも残さない。

 

 

だけど……

 

 

それで終わるなどと思っていない。

いや正確に言えば終わって欲しいと思っている。

これで終わらなかった時のために、『落胆が大きすぎてそれを防ぐための心構えとして終わらないと思っている』、と言われたら否定できないかもしれない。

 

 

だけどジンヤが……

 

 

ジンヤが恐怖するほどのモンスターなのだ。

そう簡単に終わるとはどうしても思えなかったというのもまた事実。

ただ……攻撃が終えてその結果を待つ事しか出来なかった。

 

 

 

 

~第一防衛ライン エリア隊長~

 

 

「目標が視認できました!」

 

「まだだ! まだ投下するな。もっと引きつけてからだ」

 

 

第一防衛ライン。

そこに集まったハンター達はそんなにいない。

このエリアは第一エリアの二カ所に大量に設置された爆弾を起爆するための場所であり、ハンターが直接的な行動を起こさないためにそこまでに人数は必要ないからだ。

 

 

「目標、第一爆弾ポイントまで、5」

 

「投下準備!」

 

「4」

 

 

目標の動きを目視し、伝えるハンターのカウントダウンが耳に響く。

だがそれ以上に、ラオシャンロンの歩行によるその足音と、その地響きがうるさくてほとんど聞こえない。

 

 

「3」

 

 

対面する壁の上の連中は、指示する人間……エリアの隊長である私に目を向けられており、その合図をただじっと待っていた。

 

 

「2」

 

 

そばにいるために辛うじて聞こえる見張り役のハンターの声を聞き、手を挙げた。

その腕を振り切った瞬間に、爆弾を支えている下枠部を外す事になっている。

 

 

「1」

 

 

振り上げた手に力がこもる。

ついに天災と謳われたラオシャンロンとの戦いが始まるのだと思うと……震えが止まらなかった。

 

 

いや、これで終わらせるんだ!

 

 

普通に考えれば爆弾を一度に八十近くもの爆破を喰らって生きていられるはずがない。

いかに相手が……大砲の弾を喰らっても平然としていた、ラオシャンロンといえども……。

 

 

「0!」

 

「投下!」

 

 

見張っていた兵がカウントを終えると供に、私は上げていた手を勢いよく振り下ろした。

それに遅れることなく、両方の壁に設置してある、爆弾投下装置の下枠部分が一斉に解除される。

それと同時に導線に点火し、爆発寸前の大タル爆弾を私は下の通路へと放り投げる。

そして投げた瞬間には通路から離れて、爆風および爆音待避のために設けられていた壁の後ろへと回り耳を指で塞いだ。

 

そしてその一瞬後……。

 

 

ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッカァァァァァァァァンンンン!!!!!!!

 

 

凄まじい爆音が、壁を貫いて私たちの体を震わせた。

第一爆撃エリアに置かれた爆弾五十に、投下された爆弾二十五個。

総勢七十五もの爆弾が一斉に爆発したのだ。

その爆音たるや、凄まじい以外の何ものでもなかった。

壁が崩れてしまうのではないかと思わず本気で心配してしまうが、それでも岩壁は崩れていないのか、足場が崩れる気配はなかった。

 

 

さすがの古龍種、ラオシャンロンといえどもこれほどの爆発を喰らっては無事では済まないだろう!

 

 

……そう思った。

だが……。

 

 

ズズン! ズン!

 

 

……え?

 

 

爆風が収まる前に、それは耳にではなく、体全体に伝わってきた。

驚きの余りに、咄嗟に爆風が収まっていないために危険であるにも関わらず、私は岩壁の端の方……通路が見下ろせる位置へと走って移動した。

そして、そこには……。

 

 

「ば、馬鹿な……」

 

 

これで終わる……どころか煤汚れ一つ無く、まるで何事もなかったかのように、泰然と燃えさかる通路を歩み続ける、ラオシャンロンの姿がそこにあったのだった。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

「第一防衛ラインによる攻撃では効果が無く……突破されました」

 

「……わかった」

 

 

伝令兵により、この広間へと伝えてきたその伝達だが……すでに誰もが爆弾による攻撃ではラオシャンロンを止める事が出来なかったという事は理解していた。

何せ、あの巨体だ。

 

 

ズン ズズン!

 

 

と、よどみなく一定の間隔で振動がこの広間にも伝わってきているのだ。

嫌でもラオシャンロンがまだ止まっていない事を知らせてくれる。

 

 

しかしまさか第一防衛ラインの爆弾を喰らっても全く効果がないとは……

 

 

爆弾総数百五十ほどの爆撃。

それさえも効果がない。

実際に見ていないので何とも言えないが、それでもラオシャンロンの歩みに全く淀みがない事を考えると効果がないというのは本当なのだろう。

その事実が、皆の士気を下げてしまう。

 

 

百五十の爆弾が通用しなかった……だって

 

馬鹿な! あれだけの数の爆弾に耐えられるなんて……

 

正真正銘の……化け物だ……

 

 

皆が小さくそう話すが、それでも閉鎖的な空間であるこの広間でこれだけの人数が話すと、途端に広間が騒がしくなった。

それは誰もがここで終わると、少しでも期待していた事を意味する。

そしてそれは無惨にも崩れ去ってしまった。

 

 

「騒ぐな! これで全てが終わったわけではない。第二防衛ラインの落石部隊とボウガン部隊に伝達。攻撃の準備!」

 

「りょ、了解!」

 

 

隊長の一喝に第二防衛ラインの部隊が通路に向けて走り出していく。

だが、その顔には落胆の色が濃かった。

この場にいる全ての人間に、若干の暗雲が立ち籠めつつあった。

まさに絶望しかない戦い。

ただ、それに納得できず、無駄かもしれない抵抗を行うことだけしか出来無いというのか……。

 

 

 

 

~第二防衛ライン エリア隊長~

 

 

ズン、ズズン

 

 

「来たか……」

 

 

第二防衛ラインのエリアに侵入しようとしている古龍種、ラオシャンロン。

第一防衛ラインの総勢百五十にもおよぶ爆弾の攻撃を物ともせずに、ここまで来てしまった。

私はそれとなくこの場にいる人間……ボウガン部隊に抜擢されたハンター達の様子を見つめる。

 

 

……やはり気が沈んでいるか

 

 

誰もがわかっていたはずだ。

天災と謳われ、伝説の存在である古龍がそう簡単に倒す事は出来ないと。

だがそれでも、爆弾による一斉爆撃攻撃で片が付くと、期待してしまったのだろう。

確かにいくら古龍種相手とはいえ、爆弾百五十もの爆撃を喰らって生きているとは普通には考えられない。

私としてもそれで終わってくれればと……思っていなかったと言えば嘘になる。

 

 

だが現実として今、敵はここに来てしまっている

 

 

爆弾を物ともせずに敵はここまで来てしまったのだ。

ならば私はここを預かった人間として最善を尽くすのみ!!!

 

 

「うろたえるな!!!!」

 

 

私はラオシャンロンの凄まじい足音に負けないように、腹から……心の底から声を出して、この場にいる全ての人間に届くような大声を張り上げた。

その声に全員がびくりと、体を震わせてこちらを見つめてくる。

 

 

「確かに敵の防御力および耐久力は脅威だが……それでもこの砦で止めねばドンドルマが崩壊するのだぞ!? 気合いを入れろ!」

 

 

ドンドルマが崩壊する。

その言葉を聞き、再度自分たちが直面した危機を認識して皆の顔に意志が戻った。

この砦の最後にまつ正門は、ドンドルマへと通じている道であり、そこからドンドルマまではそんなに距離はない。

それこそラオシャンロンの巨体ならば直ぐに踏破してしまうだろう。

 

 

この巨体は……

 

 

眼下に見える伝説と言われた古龍種、ラオシャンロン。

対比物が思いつかないが……それでもその大きさは圧巻といえた。

上から見下ろしており、若干の距離があるためにわかりにくいが、鼻先に生えるその角は大人一人分の長さがあり、太さは普通体型の人間の胴回りと同じ。

足は人が横に並んで一人半ほどの太さがある。

胴体はギルドナイトの広間ほどの大きさがあるだろうか……。

口はハンターを二人は一息に飲め込めそうな大きさであり、尻尾の根本は頭以上に太く、先の一番細い部位でさえも、樹齢数十年の樹木よりも遙かに太い。

はっきり言ってこれほどの巨体を……人間がどうこうできるものなのか?

 

部下よりも私自身が…………どうにか出来ると思っていなかった。

 

 

だが!

 

 

ここで止めねば……この砦で倒さなければ……ドンドルマは……私たちの街は!

 

 

「構え!!!!」

 

 

手を振り上げ、居並ぶハンター達に合図を送る。

全員がボウガンの弦を引き絞り、弾丸である拡散弾を装填する。

拡散弾。

飛竜種の爪の内部くりぬき、その中に超小型の爆弾をいくつか詰め込まれている、ちょっとした爆弾のような弾である。

その大きさ故に発射できるボウガンは少ないが、それでも威力はまさに折り紙付きといえる。

居並ぶボウガンを構えたハンターは岩壁の片方に三十人。

両方合わせて述べ六十人。

しかもそれは第一攻撃部隊であり、第二攻撃部隊も先の方で控えており、こちらの射程外にラオシャンロンが移動したら、第一部隊も第二部隊と合流する手はずとなっている。

総勢九十人。

一斉射撃でなんとしてもダメージを与える。

 

 

「てぇっ―――――!!!!!」

 

 

ズダン!!!!!

 

 

ボウガンより発射された拡散弾が、真っ直ぐにラオシャンロンへと進み、そして命中した。

その瞬間に小さな爆発と供に、拡散弾が文字通り中の爆弾を拡散させて、数え切れないほどの爆発がラオシャンロンの体に灼いていた。

しかしその結果を待たずに私は再び手を振り上げる。

第二射を用意し、ある程度爆発が収まった瞬間に手を振り下げた。

 

 

「第二射……てぇっ――――――!!!」

 

 

ドカン!!!

 

 

再度耳をつんざくような爆音が一斉に鳴り響き、先ほどと同じようにラオシャンロンの体を赤く照らす。

それからも、果敢に何度も……何度でも攻撃を敢行した。

ボウガンのカートリッジを交換し、距離が離れたら第二部隊と合流し、そして第一、第二部隊の総勢九十人による一斉射撃。

さらに補給部隊からの弾の補給された弾さえも消化し、想像を絶するほどの弾を射撃しても……。

 

 

ズズン、ズン

 

 

それでもラオシャンロンは止まらない。

止まるどころか身じろぎ一つしない。

本当にダメージが通っているのか……疑いたくなってしまう。

 

 

いや、実際に効いていないのだろう……

 

 

最近ギルドナイトの本部であるドンドルマで噂になっている男、クロガネジンヤ。

その男が言っていたという透明な膜。

それを剥がさなければラオシャンロンに有効なダメージを与える事は出来ないという。

確かにもしも透明な膜で防御を行っているのだとしたら、ここまで総攻撃を行っても全くひるまないのにも納得がいく。

 

 

ちょっとまて……

 

 

そこで私ははたと気づいた。

大陸中……それどころか海を越えた、別の大陸を探し回っても見る事無い真っ黒な髪。

見た事もない異様とも言える服装に、異様にもほどがあるといえる装備の数々。

私は実際にその男のモンスターとの戦いを見た事がないので何とも言えないのだが……それでもその男の異常性は私の知り合いも直に見ており、それを聞いているのでクロガネジンヤとやらがどれだけ目立つのかがよくわかる。

実際に私もジンヤという男を目にして、目立つ男だというのは知っていた。

 

 

その目立つ男は……どこに?

 

 

そう……私はその男をまだこの砦で目にしていない事に気がついたのだ。

黒髪という時点で目立つのだ。

そんな髪の色をした人間を見逃すわけもない。

他の部署に待機しているのかもしれないが、それでもいない事に違和感を覚えてしまった。

 

 

どこに……いると言うんだ……?

 

 

部隊の指揮を指示しながら、私は……そのクロガネジンヤという男の事が気になって仕方がなかった。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

「第二防衛ライン突破されました!」

 

「拡散弾をほぼ完全に撃ち尽くしたようです。第四防衛ラインでは徹甲榴弾を使用するとの事です!」

 

「第三防衛ラインに伝達! 攻撃用意! 手の空いている物は第三防衛ラインの援護に向かえ!」

 

 

次々と訪れる伝令兵に、隊長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

それの指示を聞いて広間にいるハンターたちがそれぞれの部署へと向かっていく。

次のエリアはバリスタと大砲のエリアのため、砲撃手以外のハンターが向かうことはない。

しかし第三防衛ラインの次のエリアは、純粋にハンターのみでの防衛となるエリアだ。

一つ前という事で皆が武器の確認を行っていた。

といっても遠距離武器のボウガンのが大半であり、近距離武器を装備しているのはほとんどいない。

爆弾ですら全くダメージを与えられないモンスターを相手に、誰も接近戦を挑もうと思っていないのだ。

だけどそれでもラオシャンロンを止めたいと、危険を承知で接近戦武器で挑もうとしている人間は決して少なくない。

私もガンランスを装備しているので、背中にある武器の確認を行っている。

 

蒼リオレウスの素材を用いて作られたガンランス、『ブルーク』。

余りにも異常なモンスターだった、あの蒼リオレウスの素材をほぼ全て使用して作られた物で、完成した物を引き取りに言ったときにその装備が纏う雰囲気に息をのんだ武器だった。

全身が蒼リオレウスの体色同様の濃紺色をしており、所々に黒い箇所がある。

楯は私好みに小型縮小してもらった。

ガンランス最大の特徴である竜撃砲の弾は通常、放射、拡散の三種類あり、そのうちの中間の弾である放射型を、私は使用している。

それに伴い弾が大型化したために弾倉に三発しか装填できないが、その分威力が高め。

通常型では弱すぎ、拡散型だと威力が強すぎて扱いにくいと感じている私は、この放射型を愛用していた。

ジンヤにリオスさんが作った『鬼斬破』を渡されてからガンランスを使用していなかったが、それでもこの武器は私の手にすごくよく馴染んだ。

一応テストとしてドンドルマ付近の森で、ランポスを複数狩ってみたが特に問題は見受けられなかった。

 

 

出来る限り弾丸を持っていかないと

 

 

今回のラオシャンロン相手にガンランスを使用するのはあくまで砲撃で攻撃を行うため、接近戦というか……直接武器を使っての攻撃は想定していないために、楯をおいていき、その分背中に弾の詰まった背嚢を背負っていく。

弾が大きいためにそこまで持って行く事は出来ないが、それでももてるだけ持って行く。

それに弾が切れたら補給部隊が、弾をエリアに運ぶ手はずになっているので弾切れの心配はあまりなかった。

 

 

何せドンドルマだけでなく、付近の村々からあらゆる物をかき集めているからな……

 

 

大砲の弾、爆弾、バリスタの弾、ボウガンの弾各種、そしてガンランスの弾。

他にもいろいろとあるが主だって優先された運ばれたものはこの五つだった。

巨大すぎるために近接攻撃は絶望的で唯一攻撃できるとしたら足と腹下しかない。

が、その巨体を動かしている、その足に蹴られるもしくは踏まれる事を考えると、とてもではないが近接攻撃は行う事が出来ない。

腹下も、もしもその巨体を降ろすような事があればぺしゃんこになってしまう。

ガンランスでの砲撃も、おそらく足よりは安全に攻撃できるであろう、頭部への攻撃を行うための物だ。

 

 

やるしかない……

 

 

この場にいる誰もが恐怖に駆られながらも、それでもそれを押し殺して武器の整備を行っていた。

そしてしばらく整備を行っていると……。

 

 

「第三防衛ライン、突破されました!」 

 

 

そんな報告が広間に響き渡った。

その報告に誰もが落胆と供に、絶望にも似た表情が浮かんでいる。

爆弾、落石にボウガンの一斉射撃、大砲とバリスタの同時攻撃。

これらを全て打ち破り、ついに最終防衛ライン一歩手前の第四防衛ラインへと、ラオシャンロンは歩を進めてしまったのだ。

しかもそれだけの攻撃を受けていながら、痛がるどころか歩みを止める事さえ出来ていない。

 

 

……本当に勝てるのか? これほどの攻撃を受けてなお進むモンスターに……

 

 

この事実に、さすがのハンター達もついに恐慌に陥り始めた。

ただ街を守りたい一心でどうにか保ってきた戦意が崩れ始めてきたのだ。

直接の被害というよりも、自身が傷つく事がないのでまだ戦えていたが、このままでは間違いなく自分達が住む街が……ドンドルマが崩壊してしまう。

そしてドンドルマにすんでいなくとも、ドンドルマと共存していると言っても言い近隣の村々も被害に遭うかもしれない。

その時だった。

 

 

 

「……そういえば……あの男はどこにいるんだ?」

 

 

 

そんな声が静まりかえった広間に響いたのは。

 

 

 

 

~ディリート~

 

 

気づいたか……

 

 

誰かが口に出した言葉、あの男……あの男と言われるような、それだけで通じるような異様とも言える男など一人しかいない。

ジンヤの事だろう。

そしてそれが波紋となって、広間全体にジンヤがどこにいるのかという議論で騒然となった。

むしろ今まであいつの存在が認識されていなかった事が驚愕に値するのかもしれない。

それだけ目の前のラオシャンロンという存在が大きかったのだろう。

そして今、そのラオシャンロンが自分たちだけでは討伐が不可能だと悟ったときに……異様な人間である、クロガネジンヤの事を思い出したのだろう。

あいつならば倒せるのかもしれないと……。

 

 

「隊長……あの男は今どこに?」

 

 

騒然とした広場の中、何人かが私にそう言葉を投げかけてくる。

その質問に、騒然としていた広間が、静まりかえった。

皆が私の言葉を待っている。

 

 

だが…………

 

 

正直な話、私も今ジンヤがどこにいるのか知りたいくらいだった。

あの男は無責任ではない。

皆を焚きつけるだけ焚きつけて自分だけ逃げるなどという行動は行わないはずだ。

だがそれでもこの場にどうしていないのか不思議でならない。

事情があるからいないのであると信じたいが……しかし……。

 

 

今どこにいるんだ……お前は……

 

 

「それは……」

 

 

自分にもわからない。

思わずそう答えようとした。

 

 

ドォン!

 

 

足音とは違う、轟音が鳴り響きそして広間を揺らした。

思わず膝をついてしまいそうになるほどの大きな揺れだった。

実際半分ほどの人間が、突然の揺れに驚いて膝をついたり倒れていた。

 

 

「どうした!?」

 

「第三防衛ラインに設置された木製簡易防衛砦が破壊されました!」

 

 

駆け込んできたハンターがそう答える。

つまり本当にもう第四防衛ラインまで間近の位置に来ている。

こうしている場合ではない。

 

 

「もう第四防衛ライン手前だ! 全員直ちに自分の持ち場へとむかえ!」

 

 

さすがにこの状況では先ほどの問い、ジンヤがどこにいるかを気にする訳にもいかないのか、広間にいるほとんどのハンターが自信の持ち場へと向かっていく。

だが、疑問が消えたわけではないのだろう。

誰もが口を閉ざし、硬い表情のまま、自身の持ち場へと向かっていく。

そして私自身も、持ち場へと……最終防衛ラインの入り口と大門に設置されている、撃龍槍の修復を行っている者達の場所へと急ぐ。

長年使用されておらず、また定期的な修理や点検を行っていなかったために、最大の切り札と言える撃龍槍が故障しているのだ。

最大の武器であり切り札の撃龍槍が、今現在使用不可能となっている事は一部の人間を除き誰も知らない事だ。

第四エリアまで迫られているにも関わらず、まだハンター達が恐怖に塗りつぶされず、果敢にもラオシャンロンへと向かえているのはこの撃龍槍の存在があるからだ。

特に近隣から集まった、ジンヤの事を直接知らないハンター達はなおさらに……。

撃龍槍を起動させるための燃石炭は、ラオシャンロンが現れてからかなりの量を採掘させたので存分と言っていいほどにあるのだが……。

 

 

肝心の撃龍槍が故障とは……

 

 

燃石炭をもやし、それによって生じた蒸気の力で撃ち出す撃龍槍。

その可動部分が、どうやら錆や年月による風化で不具合を来しているらしい。

今現在も急ピッチで修理を行わせているのだが……。

 

 

間に合うか?

 

 

先ほどの報告では大体の修理が終わったらしいが……。

しかし試運転が出来ないのは正直痛い。

構造を調べるのに数日を要し、それから修理個所を特定しそれらの箇所の部品を製造など行っていて時間を取られてしまったためにいまだに修理が終わっていない。

 

 

もしも起動しなかったら……

 

 

左右の壁から同時にそれぞれ三本ずつの螺旋の鉄の棒を打ち出す撃龍艙。

大砲とバリスタを遥かに超えた威力が期待できるが、不発ならば何の意味もない。

 

 

信じるしかないというのか……

 

 

起動することをただ祈ることしかできない自分が、ひどく無力に思えてならなかった。

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

ついに……最終防衛ライン一歩手前、第四防衛ライン。

最終防衛ラインは大砲および、バリスタの弾を用いての攻撃も行うために、ボウガンでの攻撃が主となるので、接近戦のハンターが武器を持って闘うのはここのみだ。

何としても敵の透明な膜を取る。

仕留められるのであれば、ここで食い止められればそれでいい。

ここでの配置は、通路内に私たち接近戦仕様のハンターたち。

そして左右岩壁の上部、岩壁に架けられている岩橋にボウガンのハンターたちが居並び狙撃する。

もうこれだけしか方法がなかった。

そして、隊列というかガンランスを所持しているハンターは三人で一組になり、その組が一斉に竜撃砲を発射し、また弾丸による砲撃を敢行。

弾が切れたら次の組に交代、そして交代している間に弾込めを行うという、交代での攻撃を行うという、単純な物だ。

敵が巨大すぎるのでこれぐらいしか方法がない。

しかしその巨大すぎるために背中に向けて射撃した拡散弾が、顔の方というか地面へと落ちてくる可能性は低い。

仮に落ちてきたとしても、それなりの防具を纏っていれば、致命傷には至らない。

そのためガンランス以外にも、己の得物を装備した、雑多とも言えるハンター達がこの場にいた。

この巨大すぎるモンスターを、これ以上先に行かせては……。

 

 

ドンドルマが崩壊する

 

 

それだけは避けなければならない。

なんとしても……それだけは防いでみせる。

だけど……。

 

 

ズズズン!

 

 

目の前に現れた、巨大すぎる敵を見ると、その気持ちも委縮してしまう。

敵であるラオシャンロンはまさに山その物だった。

まだだいぶ距離があるにも関わらず、その巨体が霞む事も、小さくなる事もない。

文字通り、動く山だった。

 

 

「総員! 攻撃準備!!!」

 

 

そうして半ば呆然と見上げていると、第四エリア隊長の声が、ラオシャンロンの足音でかき消されながらも耳に届く。

その声にこの場にいる全員が、武器を構えた。

全員がボウガンを構えて弾を込め、ガンランス部隊は全員が折りたたんでいたガンランスに弾を込めてそれを連結した。

他の接近戦のハンター隊は自慢の得物を構える。

ガンランス部隊はほぼ全員が動きが鈍るのを嫌がり、盾を装備していなかった。

さすがに恐ろしいので、防具は装備しているが……。

 

 

ほとんど意味はないだろうな……

 

 

あの巨体の足で蹴飛ばされたり、もしくは体で潰されてしまっては防具など紙にもならないほどの意味合いしかないだろう。

だけど恐怖を抑えるために、自分をこの戦場に経たせるための装置として、防具を装備する。

自分たちはハンターなのだと……自分たちの街を守るための記号として……。

普段通りに動けると信じて……。

 

 

ズズン!

 

 

その覚悟を試すように、ラオシャンロンは依然変わらぬまま、歩調を全く変えずにゆっくりと向かっていく……。

 

 

私たちの街へと……

 

 

止めてみせる!!! ここで!!!

 

 

「ボウガン隊、構え!!!」

 

 

エリア隊長の声と、指示を出すための手振り……右手を握りしめたまま手を振り上げて空を切る。

それに追従するボウガン隊。

全員が一斉に膝をつき、ボウガンをラオシャンロンに向ける。

 

 

「ガンランス部隊、砲撃準備!!! 接近戦部隊構え!!!」

 

 

エリア隊長の次の号令、今度は左手を開いたまま振り上げたその号令に従い、私たちは、ランスによる突撃を敢行するように、ガンランスを前面に突き出す。

他のハンター達も武器をそれぞれ手に持って、敵へと……ラオシャンロンへと向ける。

それを見ているはずなのに、まるで何事も起こっていないかのようにラオシャンロンは歩いていく。

いまだダメージを与えるどころか、その動きさえも止める事が出来ていない。

歩みを阻む事さえ出来ない。

 

 

だが……それでも負けない!

 

 

「攻撃、開始~~~!!!」

 

 

「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」

 

 

両手を振り上げたエリア隊長の両手を振り下ろされた。

それと供に、ボウガン隊は一斉射撃を。

私たち近接部隊は、恐怖を飲み込んで……その恐怖を必死に奮い立たせてラオシャンロンへと向かっていく。

 

 

ズズン

 

 

ついに、最終防衛ライン一歩手前。

第四防衛ラインの死闘が幕を開けた。

 

 

 

 

~ディリート~

 

 

「補給物資到着しました!」

 

「ボウガンと大砲の弾、そして大タル爆弾の追加です!!!!」

 

一足遅かったか……

 

 

漸く到着した補給物資……特に爆弾が遅延した事に私は内心で舌打ちをする。

爆弾はその危険性故に、普段は必要なものである、火薬と大タルのストックがあるだけで、常に大タル爆弾が売られているわけではない。

もしも取り扱いを間違えばそれだけで被害が出るため、常備されている爆弾の数には限りがある。

ハンターがモンスター相手に爆弾を使う場合も、一部の例外を除き特別な申請が必要なのだ。

確かに爆弾による攻撃は非常に効果的だが、その過剰とも言える爆発力は環境への被害も考慮に入れなければならない。

そのために爆弾の数も急いで用意させたのだが、第一防衛ラインに設置された分しか用意できなかった。

それでも大急ぎで造らせていたが、もう遅い。

第四防衛ラインの上から投下することを、一瞬頭をよぎったがすぐに首を振ってその考えを振り払った。

上から投下するとなると導火線に火をつけての起爆になる。

そうなると万が一爆発しないことも考えられる。

また爆風や飛散物が下にいる接近戦のハンターたちに当たらないとも限らない。

 

 

最終防衛エリアに設置は……

 

 

これも却下する。

最終防衛エリアには最強の兵器、撃龍槍がある。

爆弾を大量に設置し、それの一斉起爆でどんな不具合が生じるかわからない。

 

 

「どうしますか?」

 

「……とりあえずここに置いておけ」

 

 

補給物資を届けてくれたハンターに私は礼を告げると、再度撃龍艙を修理している技術者たちのもとへと向かう。

内心ものすごく焦っていたのだ。

 

 

だから……気付かなかった。

 

 

補給物資を運んできたハンターたちが……ある種の決死の思いを……抱いていたことを……。

 

 

 

 

~???~

 

 

どうやら遅かったか……

 

 

爆弾を複数人数で運んできたが、指示はこの場においておくこと。

設置をしないところをみると、ラオシャンロンはすでに第四防衛ラインまでいると考えるのが妥当だろう。

現に少し先の全てのエリアにつながる広間へと向かうが、その場には誰もいなかった。

 

第一エリアならば岩壁から落とせばいい。

第二エリアだって第二部隊が待機している場所の下のほうへと設置できる。

第三エリアもバリスタと大砲による攻撃なので、絶対とは言えないが、誘爆などの危険は少ない。

一~三のエリアは全て上から爆弾を落とす事が出来る。

だが第四エリアはハンターたちによる防衛だ。

設置できるわけがない。

上から落としても、起爆のタイミングを誤って地上まで達してしまっては、地上部隊のハンター達に被害が及ぶかもしれない。

 

 

「……どうする? 覚悟はいいか?」

 

 

誰もいない広間に、俺が声を上げる。

だがラオシャンロンの地響きに邪魔されて、この誰もいない広間に俺の声が響き渡ることはなかった。

それでもすぐそばにいる人間に向けて言ったのだ。

自分の声が震えているとはいえ、聞こえないはずがない。

 

 

「……愚問だな」

 

 

即答とは言えない。

それに俺と同様声も震えていた。

だけど……その声には確固たる決意がにじみ出ていた。

他の連中も同じようなものだ。

誰もが今から自分たちが行おうとしている事に震えながらも、逃げだそうとはしなかった。

いや、そもそも逃げ出すという行為が思い浮かばない。

何せ自分たちで決めた事なのだから。

 

 

「ゆこう……」

 

 

その言葉と供に、俺たちは|それ(・・)を見つめる。

 

 

今し方……自分たちが運んできた……ものを…………

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

だめだ! 止まらない!!!

 

 

第四エリアにラオシャンロンが侵入し、ボウガン隊、そして私たち近接戦闘部隊。

二つの部隊が同時に、そして呵責のない攻撃をラオシャンロンに与えるが、相手はいっこうに止まる事もなかった。

地響きで何度も倒れそうになりながらも、それをどうにかくぐり抜けて、ラオシャンロンの体へと近づき、蹴られればそれで終わる丸太よりも太い足へ武器を振りかぶり……どんな巨石にも勝る巨大な頭に向けてガンランスの砲撃を続けるが、全く効果がなかった。

他のハンター達も、勇気を振り絞って、腹下や、足へと近接攻撃を仕掛けるが、まるで効果がない。

それどころか安物の武器は、全身の力を込めて叩きつけた時に、半ばから折れ砕ける始末だった。

特に竜の骨を使った、ボーン系列の武器に顕著に表れていた。

 

 

皆の……そして私自身の心にも暗雲が立ち籠める。

 

 

このまま……私たちのやっている事は全て無為に終わり……ラオシャンロンが街を……ドンドルマを蹂躙していくのを見る事しかできないのではないかと……。

 

 

ズズン!

 

 

この足音が、私たちの心を鷲掴みにする。

一歩、また一歩と……ドンドルマへと……破滅へと導いていくその足音が……。

 

 

まるで秒読みのようだった……

 

 

街が……ドンドルマが崩壊するための……

 

 

ズズン!

 

 

だが、その恐怖を押し殺して皆が必死になってボウガンと、ガンランスの引き金を引き、己の武器を振りかぶる。

 

 

ん? おかしい。音が減った……

 

 

徹甲榴弾、そしてガンランスの砲撃から鼓膜を守るために、安易な耳栓をしているため聞き取りづらいが、それでも両者共に数が異常なために、聞き漏らす事はない。

それに爆発の衝撃が体に伝わってこない……といういか衝撃が減っている。

交代で後ろにいるからこそ気づいた変化だった。

私以外にも、何人かは異常に気づいたようだった。

怪訝な表情をしている。

 

 

「止まれ!」

 

「止まってくれ!!!」

 

 

悲愴にも似た、皆の声が、耳栓とラオシャンロンの足音を縫って私の耳へと届く。

そうして首を傾げていると、岩壁の上に十数人のハンター達が居並ぶ。

その手に……その背に……爆弾を抱えて……。

 

 

爆弾の投下!?

 

 

第一エリアであった爆弾を全て使った事を考えれば、彼らが持っている爆弾はおそらく補給されてきた爆弾だろう。

だが、この第四エリアでは私たち接近戦のハンター達がエリアで戦っているために、安全を考慮し、爆弾による攻撃は中止になったはずだ……。

拡散弾の内部の小型爆弾が誤って下まで来る可能性もあったが、拡散弾の爆弾ならば防具でどうにか防げるし、それにそんな事を言っている場合では無いから、拡散弾の使用は許可されていた。

結局第二エリアで使い切ってしまったために、今は敵の内部へと入り込んで爆発する徹甲榴弾を使用しているが……。

 

 

でも、その徹甲榴弾は残念ながら敵の内部へと入りこめていないのだが……

 

 

だが、大タル爆弾の爆風はさすがに防具だけではどうにも出来ない。

下手をすればそれだけで命を落とす可能性だってある。

だからこの第四エリアでの爆弾の使用は禁止されたはずなのだ。

彼らが現れた事でボウガン部隊の攻撃が一旦止まってしまったのだろう。

音が減ったと感じたのはそれが原因だ。

 

 

血迷ったか!?

 

 

街を守りたいあまりに、私たちを犠牲にする覚悟で爆弾の投擲を決行する事にしたのか……そう思った。

まだ気づいていないやつもいたので、私はそいつらに駆け寄って一旦引く事を進言しようとした。

だが、それは悪い意味で……予想を違える事になった。

 

 

バッ!

 

 

……えっ……?

 

 

彼らは爆弾を投擲したのではなく……それを所持したまま、岩壁からその身を宙へと投げ捨てたのだ……。

 

 

 

 

~???~

 

 

……これが……ラオシャンロン

 

 

眼下に見える……いや、もはや眼下と言えるほど自分たちが上にいるわけではない。

その巨大さはどんな建造物にも勝るだろう。

 

 

もしくは……伝説にある『塔』とかいう古代の建造物ならば勝るのだろうか?

 

 

文献にも、そして物語や伝承にも出てくるが、誰も見た事のない幻とも言える『塔』というフィールド。

俺は今までそんなもの存在する事など考えた事もなかったが……伝承の存在だったラオシャンロンが実在した以上、この世界のどこかにあるのかもしれない。

 

 

まぁそれを確かめる事は……もう出来ないのだろうが

 

 

俺は再度、俺のそばにいる皆に顔を向ける。

俺たちはハンターであるという以前から、仲間だった。

それしか俺たちには無かったからだ。

 

 

孤児だった……

 

 

モンスターがはびこるこの世界では、孤児というのは存外珍しくない。

モンスターに村が襲われて滅びて行くなど日常茶飯事だ。

最近は技術の発達でモンスターを、以前に比べて討伐する事が可能な武器が増えたために減ってきたようだが……それでも、モンスターによって滅ぼされる村や町は少なくない。

俺も、そして俺の考えに賛同してくれたみんなは同じ孤児仲間だった。

各村々から生き残りである俺たちは、ドンドルマへと運ばれたのだ。

家族だけでなく、近所の村人たちまで死んでしまった俺たちには何もなかった。

だからこの先がどうなるかわからなかった……。

いっそ死のうかとも思った……。

 

 

そんな俺たちを……いや、俺たちだけでなく……そう言った境遇の人たちを……ドンドルマの大長老は、救ってくれた……

 

 

竜人族の大長老。

ドンドルマのリーダー的存在。

ドンドルマへと運ばれたその時しか姿を見る事はかなわなかったが、その巨体からにじみ出る凄まじい気迫に気圧されたのは今でも覚えている。

大長老が、俺たちのために私財をなげうってまで、孤児院と言うのを作ってくれたのだ……。

いや作られたのは大長老がリーダーになられたからだと聞いた。

自分の財産のほとんどを、そういったものの運営や維持費へと当たられていた。

俺たちも例外なくそこに入れられた。

決して裕福ではなかった。

だけど暖かさがあった。

そしてそれだけでなく最低限の勉学まで教わり、俺たちはハンターになる事が出来た。

だから今もこうして地面に立つ事が出来ている。

孤児など無力な存在だ。

 

 

あの時大長老に救っていただかなければ、俺たちは今頃どうなっていただろう……

 

 

この場にいるみんなはほとんどがそうだった。

だからこの作戦を決行する事を決めたのだ……。

 

 

孤児だから……友人以外に何もない。だから俺たちが死んでも特に問題はない

 

 

家族がいないのが……こんな事で役に立つとは思わなかった。

噂でしかないが、大長老は今もドンドルマのいつもの自分がいる部屋にいるらしい。

心中するつもりはないらしいけど……このままでは都市と供に大長老が死んでしまう可能性がある。

 

 

だから……自分たちを生かしてくれた大長老への……せめてもの恩返しとして……あの時くれた命を……。

 

 

お返しします

 

 

全身の震えをどうにか抑えて、立案者として俺は火種を持って、宙へと身を投げ出した。

 

 

この巨体なら取り付けない事はない!!!!

 

 

何故爆弾の攻撃をこのエリアでしないのかというと、落下させた爆弾が宙で爆発せずに、地面へと到達して、地上で攻撃を行っているハンター達に被害が出ないようにしているためだ。

 

 

ならばとりついてしまえば!!!!

 

 

つまりは下のハンターに確実に被害が出ないように、爆弾を起爆すればいいだけの話なのだ。

ならば自ら爆弾を背負い背中にとりついて爆発させれば問題はない!!!!

 

 

ダン!!!

 

 

どうにかラオシャンロンの背中へと落ちた俺は、その巨体が歩んだときの振動で落ちないように、全身を使ってへばりつく。

そして……その手に持つ火種……導火線を爆弾の導火線へと近づけていく。

恐怖で震えたけど……俺は迷わずにそれを爆弾の導火線に接触させて火をつけた。

 

 

ジジジジ

 

 

ラオシャンロンの足音のほうが遙かに大きいはずなのに……導火線が燃えていく音が嫌に明瞭に聞こえてくる。

いやその音さえも、遙か遠くから聞こえているように思える。

 

 

村が滅びて……はや十五年

 

 

正直に言って幼少の頃なのでよく覚えていなかった。

父や母の顔。

村の景色。

覚えているのは、燃えさかる炎と、その中央に佇む緑色の竜、リオレイアだった。

それからドンドルマでの生活が、俺の記憶のほとんどを絞めていく。

孤児院の職員。

友人達。

ハンターになってから出来た猟友。

まるで走馬燈のように、それらが脳裏を駆けめぐっていく。

 

 

「やめろ―――!!!!」

 

 

ふと、そんな声が聞こえて俺は眼下……ラオシャンロンのそばで決死の覚悟で戦っている、ガンランスを装備して戦っている、ハンター達に目がいった。

それらはギルドナイトか、もしくはそれに準ずる腕前を持ってハンター達だ。

 

 

彼らならきっと……救ってくれる

 

 

エリートの集まりであるギルドナイトのハンター達。

彼らなら、きっとドンドルマを救ってくれる……そう信じて、俺は目を瞑った……。

 

 

後は……よろしく頼む……

 

 

目を瞑った時に見える……まぶたを日の光が貫いてきて見える、真っ暗とも言えず、明るいとも言えない微妙な暗黒……。

光がまぶたを貫いて見える、心地よい暗闇……。

 

 

ドォン!!!!

 

 

 

 

それが俺の見た……最後の景色だった……。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

ドォン!!!!

 

 

私の制止の声もむなしく、大タル爆弾の破砕音が……第四エリアに木霊した。

ラオシャンロンの足音よりも小さいはずのその音は……耳栓さえも越えて何故か私の耳に届く。

そしてその爆発が収まったそこ……ラオシャンロンの背中には、先ほどまでいたはずの……ラオシャンロンの背中に張り付いていた、ハンターの姿はなかった。

 

 

ヒュ ビチャ

 

 

しばらくして、放物線を描いて水気を含んだ何かが飛来して地面へと落ちた。

実に不快な音を立てて……。

音がしたほう……そちらに目を向けると、黒ずみながらも……日の光を浴びて紅い何かを流す、塊。

先の方に五本の何かがあって……ちょうど人の腕のような……何かが……。

 

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

その怒号に震えていた固まっていた私に届き、その声が聞こえる方へと目を向ける。

するとそこには次々に爆弾を抱えたまま、宙へと体を投げ出すハンター達の姿が見えた。

そして先ほどのハンター達同様、張り付いて後は手にしていた火種で、爆弾の導火線へと火をつけて、次々と零距離の爆撃で命を落としていく。

岩壁の上からの行動のために、ボウガン隊のハンター達が止めようとするが、それでも止められず、それらを振り払い、彼らはラオシャンロンへと飛び移り、爆発して行く。

確かに爆風による二次的な攻撃ではなく、接触させての爆発のほうが攻撃力、というよりも破壊力は遙かに高い。

だけどこれほどの巨大なモンスター相手では接触させる事も難しく、爆弾を設置しても転がり落ちて言ってしまう。

四肢は蹴り飛ばされて命を落とす可能性もある上に、私たちの存在があり、爆風に巻き込まれる事を想定してこのエリアでは爆弾を使わない事になった。

 

 

それを防ぐために……命を投げ出したというのか!?

 

 

張り付くような爆弾が無いために、彼らは動くモンスターに攻撃するために、命を掛けてラオシャンロンへと零距離爆撃を行っていく。

 

 

「やめろ……」

 

 

ドン!!!

 

 

一つ……

 

 

バン!!!

 

 

また一つ……

 

 

ビチャ

 

 

「やめろ!!!!」

 

 

爆弾の爆発音がこのエリアに響くたびに、それに呼応するかのように水気を含んだ……血を含んだ人間だった物が爆風によって四散し、壁に叩きつけられて不快な音を立てる。

爆風による赤い色の一瞬の煌めきでなく……、物理的な……血によって通路が赤く染まっていく。

それはもはや狂気の行為だった。

街を守るためとはいえ……文字通り命を投げ出してまで、ラオシャンロンを止めようとする。

 

 

だけど……

 

 

ズズン!!!!

 

 

それでも……まるでその行為が無駄という事を歩む事で証明しているかのように……ラオシャンロンの歩みに遅滞は無かった。

遅滞どころか、全く気にもとめておらず、その歩みは爆弾の攻撃を受ける前……この砦に入ってから……いやさらに前。

あの日、ジンヤと供にリオレウスのムーナで偵察を行ってから、歩む速度は全く変わっていなかった……。

それだけじゃなく……

 

 

ゴワッ!

 

 

「しまっ!?」

 

 

ズゥン! ブチャ!!!

 

 

ラオシャンロンの歩みの振動でこけてしまい、一人のハンターがラオシャンロンに踏みつぶされる。

 

 

ガラガラガラ

 

 

それだけじゃなく、振動で岩壁の一部が崩れ落ち、その上にいるハンター、つまりはボウガンを担いでいる人間が、宙へと落とされて……。

 

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 

ビターン!

 

 

地面へと叩きつけられて、凄まじい音を立てて動かなくなる。

他にもその壁の崩壊での落石によって命を落としていくやつもいる。

この第四エリアは余り岩壁が頑丈でないのかもしれない。

もしくは他のエリアに比べてハンターの数が多いからか。

だけど、それでも退く事は許されなかった。

猟友を助ける事も……死んでしまった友を介抱してやる事も出来ず、ただただ……ひたすらにラオシャンロンの歩みを止めるために攻撃を続行する。

決死部隊……爆弾を担いでラオシャンロンの背中へと降りて起爆させる奴らも、まだ何名かいたが……彼らも先に逝った奴ら同様に、ラオシャンロンへと飛び移って爆弾で体を四散させて死んでいった。

 

 

「何故止まらない!!!! 俺たち行為は……俺たちの攻撃は無意味だというのか!?」

 

 

命を捨ててまでの零距離爆撃による攻撃でさえも、全く歩みを止めないラオシャンロン。

そして次々と死んでいき、もはや原形をとどめない死に方をしていく仲間を見て、ついにハンター達の恐怖が限界を超えた。

自らを紅い……ただの肉片に変えてまで攻撃を行っても、何も変化しない伝説のモンスターに、誰もが今まで以上に恐怖で震える。

もちろん私もその一人だった……。

 

 

ズズン!

 

 

その悲鳴にも、ラオシャンロンは反応しない。

ただ、歩いていく……。

ひどく私たちの存在がちっぽけに思えてしまう。

 

 

「何故だ!!!! 何故あいつはいないんだ!!!!」

 

 

半ば暗黙の了解だった、あの男の存在を頼り、誰かが叫んだ。

その言葉に浮かぶのは、日の光さえも吸収する黒髪に、光に反射する黒い衣服を纏って、黒い入れ物に収納された細長いあり得ないほどに長い鉄の剣を肩に乗せた全身が黒づくめの男……クロガネジンヤの姿だった。

 

 

確かに……何故いないんだ!!? ジンヤ!!!

 

 

「逃げたんじゃないのか!? あの男だけ!!!! 自分で俺たちを焚きつけていながら!!!」

 

 

今までの恐怖を、ラオシャンロンを止めることが出来ないという自分自身への憤りさえも込めて、まるで呪詛のように皆が大声で叫ぶ。

私も思わずそれと同じ事を言ってしまう……言ってしまいそうになった。

 

 

「違う!!!!」

 

 

だけど、それをラオシャンロンの足音にすら負けない声が否定して、私たちの耳に届く。

それはすごく聞き覚えのある声で……。

そちらの方へと目を向けるとそこには、必死になってジンヤが作った得物のリオレウスの素材で作られた片手剣を手にし、振り回す男……リーメがいた。

 

 

 

 

~リーメ~

 

 

「違う!!!!」

 

 

このエリア担当の人々、ギルドナイトのハンター達の悲鳴を、僕は声を大にして否定した。

確かに今ジンヤさんはこの場にいない。

ここに来る前に一緒にいた僕も、ジンヤさんが今何をしているのかはわからない。

 

 

確かに今ここにはいない……。だけど、あのジンヤさんが逃げ出すなんて決してあり得ない!!!!

 

 

これだけは言えた。

あの人が逃げ出すなんてあり得ない。

それを主張する理由は、村で僕と会ったときに、ジンヤさんが言っていた言葉と、その表情が物語っていたからだ。

 

 

何かをするために、今この場にいないのだと

 

 

ジンヤさんがやるべき事をしているというのなら、僕はそれを全く疑わない!

あの人が逃げ出すなんて事は全く頭に思い浮かばなかった。

あの人の事を……ジンヤさんの事をろくに知りもしないくせに、ただ自分たちが危機的状況にあるこの状況下で、ジンヤさんに頼りきったその態度が僕は気に入らなかった。

仮にジンヤさんがいないにしても、僕らだけで止める覚悟も無いのか? と、そう言った想いを込めて僕は声を張り上げる。

 

 

「違う!!! ジンヤさんが逃げるわけがない! あの人は、絶対に……絶対に来る!!!!!」

 

 

たった一人で……武器も持たず防具も纏わずにたった一人で……ランポスの大群へと赴き戦ったあの人が、たった一匹の龍に恐れをなして逃げるわけがない。

これは願いでも願望ででもない、確信にも似た思いだった。

 

 

あの人の他に誰が素手であれほどのランポスの大群を倒せるというのか?

 

あの人の他に誰がリオレウスをその剣で真っ二つに切る事が出来るのか?

 

あの人の他に誰が……誰もが畏れる貴族に対して、殴り込みを行うという行為をするというのか?

 

 

あの人が……そんなジンヤさんが逃げるわけがない!

 

 

僕はその思いを込めて、ただひたすらにラオシャンロンへと斬りかかっていく。

地響きで転びそうになるのをどうにかこらえて、腹下へと潜り込んで自分の愛刀、火竜刀紅葉を振りかぶり、ラオシャンロンの体ではなく、それを覆う見えない透明な膜を剣でこそげ落とすようにして剣を振るう。

 

 

ボン!

 

 

他の人の武器と違って、僕の剣はラオシャンロンを覆っているという膜に弾かれることなく、それを切り裂いていく手応えを返してくれる。

手応えといっても本当に少ししか切れていないと思う。

だけど微弱とはいえダメージを負わせているのだ。

僕はジンヤさんがフィーアさんと僕に伝えてくれた言葉通り、膜を削るようにして攻撃を続行する。

 

 

これが……ジンヤさんの剣……

 

 

ジンヤさんが作った剣。

これほどの武器を作れる人が……僕の何百倍も剣をうまく扱えるあの人が逃げるわけがないのだ。

 

 

 

「そうだ! あいつが来ないわけがない!!!!」

 

 

僕以外にも信じる人がいて、そちらに目を向けるとそう叫んでいるのはなんと、レグルさんだった。

 

 

 

 

~レグル~

 

 

「そうだ! あいつが来ないわけがない!!!!」

 

 

リーメに続くように、俺は力一杯にそう怒鳴った。

あの男を信じてはいる。

ここに来ると……この巨大なモンスターをどうにかしてくれると。

だけど俺は未だにあの男の事が好きでなかった。

 

 

俺たちを簡単にあしらったあの実力……

 

 

正直嫉妬という醜い感情が起因しているだけで、ジンヤに非はあまりない。

怪しい男とはいえ、俺があいつの持ち物を乱暴に扱った事が原因なのだから、あいつが切れるのも仕方がない。

だけど、あの誰にもまねできそうにないあの異常ともいえる腕が……リオレウスすらも簡単にあしらってしまったあの男の強さが……羨ましくて……恨めしかった。

だから俺はあの男に露骨に嫌っていたのだと思う。

あの男、ジンヤからしたら傍迷惑以外の何ものでもない。

俺自身もわかっていた。

だけど、ジンヤの実力が自分には追いつけない物だとわかると……どうしても歯止めがきかなかった。

俺が嫌っているのだから……あいつも……ジンヤも俺の事を嫌っていると思っていた。

 

 

それなのに……

 

 

先日の、貴族に俺の妹レミルを人質に取られて俺がジンヤの家畜である、リオレウスを捕獲して引き渡そうとしたにも関わらず、あの男はそれを許し、全ての悪行を背負ってまでレミルを救いに行ってくれた。

救いに行かねば妹が死ぬ。

かといって俺が助けに行けば、ただ命を捨てるだけだった。

仮にうまくいって助けられてとしても俺が処刑される。

相手は曲がりなりにも貴族だ。

一家全員処刑でないだけまだましかもしれない。

けど妹は確実に心を痛める。

どう転んでも俺たち家族には不幸しか待ち受けていなかった。

 

 

『俺も妹がいるからな。妹に悲しい思いをさせたくないし救いたいお前の気持ちはわかる』

 

 

たったそれだけの理由で、ジンヤは俺の嫌がらせさえも全て置いておいて、妹を救ってくれた。

そしてその罰としてドンドルマでの生活を強いられた。

ジンヤが行くのだから死ぬ事はないと思っていたが、それでもお尋ね者になる可能性がほとんどだった。

なのにあいつは一秒たりとも迷わずに、俺の妹を救うために行動し、レミルを救ってくれた。

今まで俺が行ってきた事が事だし、気恥ずかしさ、それにジンヤが礼を言う暇さえもくれずにドンドルマへと言ってしまったために未だに恩を返せずにいた。

 

 

だから……

 

 

これで返せるとも思っていないし、それにこれで終わらせるつもりはない。

だけどこの場で、俺はリーメと供に、ジンヤを信じる事にした。

俺の部下……リーメ以外のユクモ村のハンター達のみんなも、俺の意見に賛同してくれたのか、誰もがジンヤの事を疑う事をしない。

 

 

ただ、あの男が来る事を信じて、自分の武器を振るうだけだ!!!!

 

 

ラオシャンロンが歩み終えて、反対の足を踏み出す時……つまりラオシャンロンの歩行によって生じる地響きを避けるようにして、己の武器、ドラグライトソードを振りかぶって、ラオシャンロンの足へと叩きつける。

 

 

ガイン!!!

 

 

しかしそれは弾かれて終わる。

何で出来ているのか不思議でしょうがないが、その体には傷一つつける事すら出来なかった。

だけど、それでも俺は狂ったように剣を振るった。

大型武器のために、そう簡単に振るう事も出来ないが、それでも一振り一振り、渾身の力を込めて……。

 

 

それに追従するように、俺の部下達も、蹴られないように注意しながら攻撃を行う。

俺はそれを見届けて、剣を振るった。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

「そうだ! あいつがこないわけがないんだ!!!! みんな負けるな!!!! 自分の心に!!!!」

 

 

リーメとレグルの一喝で、どうにか私たちは恐怖をこらえて攻撃を続行する。

だけどそれと同時に……ジンヤの言葉が頭に浮かんだ。

 

 

自然災害に負けない……

 

 

そう口にしたのはジンヤだった。

負けないというのは勝った事にも成らないのだ。

確かに、街が破壊されてもそれを復興し、さらに発展させていけば私たちは災害に負けた事には成らないだろう。

だけど他にあいつはこうも言ったものだ。

 

 

『俺なら勝てるかもしれない』

 

 

と言ったのだ。

ならば先ほどの用に皆があいつに縋ってしまうのは当然ではないのか?

なのに何故あいつはここにいないのか?

その時、絶望にも勝る報告が聞こえてきた。

 

 

「第四エリア終了までもう距離がない!!!!」

 

 

そう。

いつの間にかラオシャンロンはすでに第四エリア終了、つまりは最終防衛ライン手前へと進んできていたのだ。

攻撃に必死になるあまりに、距離を測るのを忘れていた。

最終防衛ライン、最終決戦場。

その入り口と大門に設置された撃龍槍がある。

これは蒸気の力で大型の鉄の槍を撃ち出すという兵器だが、今までの攻撃で身じろぎもしないラオシャンロン相手に効く保証はない。

もしもこれが通用しなければ……私たちは都市が蹂躙されるのを見届ける事しかできないのだ。

 

 

「止まれ!!!!!」

 

「止まれこの野郎!!!!」

 

 

最終防衛ラインが近い。

その報告で今まで以上に皆が必死になって攻撃を行う。

その声は誰もが必死に……懇願にも似た響きを含んでいた。

 

 

自分が育った街を……自分が世話になっている街を壊さないでくれと……。

 

 

だがそれでもラオシャンロンは歩み続ける。

 

 

ここまでなのか!?

 

 

私たちは本当に、勝つ事ではなく、負けないという事しかできないのか!?

 

 

最終防衛ラインへと近づくにつれて、誰もが絶望に心を染められそうになり諦めかけた……。

 

 

その時だった……

 

 

 

 

「グルルルルル」

 

 

 

 

……え?

 

 

ラオシャンロンが、突然低いうなり声を上げた。

そしてそれと同時に今まで一歩たりとも歩みを止めていなかった足を止めて、その場に留まり、体勢を低くする。

 

まるで何かを威嚇するかのように……

 

 

「……何?」

 

「……止まっ……た?」

 

 

今まで何をしても……爆弾、落石、ボウガンの一斉射撃、大砲にバリスタの弾、そしてハンター達の決死の攻撃でさえも、歩みを止めるどころかかすり傷一つ負わせる事が出来なかったラオシャンロンが足を止めたのだ。

その事に誰もが驚いて呆然としてしまって、本来ならばこのままたたみかけるように攻撃を行わなければならないというのに……誰もがその動きを止めてしまった。

 

 

「ゴァァァァァァ!!!」

 

 

その頭上を、一頭の竜が飛翔し、ラオシャンロンの後方へと飛び去っていく。

 

赤い外殻の堅く、屈強な体。

ハンターが使う武器よりも遙かに鋭い刃のような牙。

その爪には猛毒があり、その動きは剛気にして獰猛。

雄々しく翼をはためかせたその姿はまさに竜の王。

 

飛竜種、リオレウス……。

 

 

しまった!? 別のモンスターが来てしまったのか!?

 

 

ラオシャンロンだけでなく、リオレウスの相手まで同時に行わなければ行けない。

放っておけばラオシャンロンと戦っている隙を突かれて攻撃されてしまうかもしれないからだ。

ラオシャンロンにほぼ全ての人員を回しているために、誰も発見する事が出来ずここまでの侵入を許してしまったのだろう。

 

 

「リオレウス!?」

 

「この状況でか!?」

 

 

他のみんなもリオレウスの乱入に悲鳴に近い声を上げる。

今はラオシャンロンで精一杯だというのに。

 

 

……ん?

 

 

しかしそこで私は、そのリオレウスに奇妙な物がくくりつけられている事に気がついた。

くくりつけられているのは尻尾。

いや、一番目立つのが尻尾にあるもので他にもいくつか取り付けられていた。

 

リオレウスの背中に、まるでリオレウスに乗るためにあるような鐙と鞍。

 

口には黒い紐のような手綱。

 

そして一番目立つ尻尾に布がくくりつけられており……その布には、妹のような存在のレーファがデザインした、ユクモ村のマークが……。

 

 

まさか……!?

 

 

 

 

 

 

 

ズダン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

私がその人物の名前を思い浮かべる前に、ラオシャンロンの歩みで生じた地響きよりも、遙かに凄まじい振動と轟音が、この第四エリアに木霊した。

皆が弾かれるように、その音がした方へと目を向ける。

するとそこには………

 

 

黒すぎて、光さえも吸収するかのような漆黒の髪。

 

見た事もない、光に鈍く反射する衣服。

 

左手に見た事もない、巨大な砲身を備えた……ヘヴィボウガンの優に二倍ほどの大きさはありそうな真っ黒で巨大なボウガン。

 

背中に背負うのは、遠目でわかりづらいが私にくれた……リオスさんがジンヤの武器を参考にして作られた武器、巨大な鬼斬破を斜めに掛けており、後ろ腰にはさらに矢筒の様な物が掛けられているが、中身は矢ではなく何か銀色に光る鉄の棒のような物が複数。

 

 

そして……

 

 

それら全てが異常な装備で、誰もまねできないような超重量の装備だというのに、はっきり言ってそれらはおまけでしかないようだった……。

 

 

なぜなら……

 

 

その右手に握られて、肩で担がれている物は余りにも長大だったからだ。

 

 

狩竜よりも遙かに……優に1.5倍はあろうかという長大な武器。

 

名前もわからないが、今まで見た事もないその長大な剣が、切り札であるというのは、誰の目にも明らかだった。

 

 

「来たのか!?」

 

 

遠目でもわかるその姿を見て、レグルが吼える。

 

 

「遅いですよ!!!!」

 

 

それに続いてリーメが歓喜の声を上げて……涙ぐみながらその男へと呼びかける。

そして私も……来てくれた事に喜びを感じながら、力の限り声を上げた。

 

 

 

 

「待ちかねたぞ!!!!! ジンヤ!!!!!!!」

 

 

 

 

私の声が、第四エリアを駆けめぐる。

その声に反応するように、その男……クロガネジンヤはゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

 




いかがでしたか?
なんか普段よりも短く書いていたはずなのですが……なんか結局いつもと同じ分量になってしまった……
無駄に長いだけでないことを祈りましょうw
ちなみにラオシャンロンのサイズは少しだけ大きくなっていますのでご了承くださいw
ではでは恒例次回予告~


いくつもの武器を携えて、天災に勝つと言った男、鉄刃夜が砦へと降り立った。
誰も見たことのないような……というかこいつ以外に誰も扱えない武器や、武器の扱い方をして、刃夜はラオシャンロンへと立ち向かっていく。

だが、その刃夜でさえも、第四エリアでラオシャンロンを止めることはできず、ついに最終防衛ラインまで、ラオシャンロンの侵入を許してしまう。
そしてその瞬間に必殺の『撃龍槍』を発動させるが……それは沈黙を保ったままだった。

誰もが絶望したその時……刃夜が持つ新型野太刀……『斬老刀(スサノオ)』が赤く熱を帯び始め光り輝いていき……


そして刃夜が飛んだ。

立ち上がったラオシャンロンよりもはるか上空へと……。



そして……



次章 第三部 第四話

「決戦の砦 後編」

中編入らないように頑張ります!!!!w
乞うご期待w

っていうか今のままだと中編じゃなくて、
『後日談(仮)』

みたいな話が後編の後に入りそうな……

え? なら中編入れたほうがいいんじゃないかって?

……この『後日談(仮)』の話はもっとも書きたいシナリオの一つで戦闘が終わった後で戦闘が全くない話だからいいんですよ!!!!!

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