リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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書きたかったシナリオ~
漸く書けた!!!!! ようやく書けたぜ~
いやぁ書いてて楽しかったw
まぁうまく書けているのかどうかは謎ですが……楽しんでいただければ幸いです!






~フィーア~

 

 

と、飛んだ!?

 

 

大門の一部を陥没させるほどの凄まじい脚力で、ジンヤが宙へと舞い上がった。

その跳躍力はもはや常人の物ではなく……遙か上空へと飛び上っていく。

そして、その頭の上へと振りかぶっていた、凄まじい長さの武器をジンヤは振り下ろした。

体に電気を纏ったその姿は、蒼リオレウスの時にジンヤが使っていた特殊技能と同じ物とだと思われる。

 

 

『電磁抜刀、威!!!!』

 

 

私にはわからない……おそらくジンヤがたまに使うジンヤの故郷の国の言葉を言い放つ。

その瞬間に……ジンヤの姿が消えた。

いや消えると見間違えるほどの高速で落下したのだ。

そう感じるほどの速度だった。

 

 

「ガァァァァァァ!!!!」

 

 

だが相手も普通ではなかった。

光と思えるほどの凄まじい速度で降ってくる……ジンヤの攻撃に対応したのだ。

敵は上へと舞い上がったジンヤに追いつき、そしてジンヤの剣をその凄まじく巨大な角で、まるで己の剣で受け止めるかのように、振りかぶったのだ。

 

 

ギャガァァン!!!!

 

 

耳をつんざくような、凄まじい衝撃音が発生し、私たちの体を叩いた。

耳栓をしていても、鼓膜が破れてしまうのではないかという……凄まじい衝撃と音。

 

 

そして……。

 

 

『負けるかぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 

ジンヤが吼えた。

怒号とともに全ての力を……出し切るかのように……。

そして、その咆吼に答えるかのように、ジンヤの持った剣と、相手の角が砕け落ちた。

 

 

バギャアァァッァアン!!!

 

 

「クオォォォン!!!」

 

 

今までの痛みを我慢しているかのような咆吼ではなく……まるで断末魔のような悲鳴を上げて、ラオシャンロンが地面へと崩れ落ちたのだった……。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

勝ったか!?

 

 

折れ砕けた|斬老刀(スサノオ)の破片に若干視界を遮られながらも、俺は敵の角が折れ砕けるのを見た。

そして……悲鳴を上げてその巨体が地面へと倒れ伏す。

 

 

ズズゥゥゥゥン!!!!

 

 

今までの比ではない凄まじい地響きを起こし、その巨体が横たわった。

技の性質上、先に地面に着地していた俺は、それに潰されないように若干の距離を取った。

 

 

タッ

 

 

ラオシャンロンが大門とその壁に沿うようにして倒れたので、俺は最終エリア入り口の方へと着地した。

そしてその瞬間に、膝を突く。

 

 

……また出血したか

 

 

というか血を失いすぎたのか目が霞んでいる。

輸血するほどではないかもしれないが、余りいい状態ではないだろう。

というかこの世界に輸血という概念があるのかも謎だ。

 

 

まぁあっても断るが……

 

 

「……勝ったのか?」

 

「ラオシャンロンが死んだ……?」

 

 

倒れてからぴくりとも動かないラオシャンロンを前にして、討伐が出来たのかと皆が騒ぎ出す。

魔力壁が霧散した以上、倒したと言っていいだろう。

何せ敵は生物ではないからだ。

 

 

おそらく……こいつは純粋に魔力の塊……魔力が集まってラオシャンロンという存在になっていたのだろう

 

 

敵を中心に、何故魔力が渦巻いていたのか?

答えは簡単だったのだ。

敵が魔力で構成されていた物体で、自身の体に絶えず大気のマナを吸収しながら歩いていたという事なのだ。

だから魔力壁が霧散したというのならば倒したと考えても問題はない。

しかし魔力の事を知らない人間にどう伝えるべきか考えていた。

すると……。

 

 

 

【人間に負けるとは……】

 

 

 

何っ!?

 

 

耳にではなく……頭に直接響くように、ラオシャンロンの思念が俺の脳へと送り込まれてきた。

蒼リオレウスの時と……同じように。

 

 

……負けただと?

 

【そうだ。私の負けだろう……】

 

 

はっきりとした意思疎通が出来る事に俺は驚きが隠せなかった。

そして蒼リオレウスの時同様、周りの様子から見て俺以外には聞こえていないようだった。

 

 

【目覚めてしまった奴らを野放しにしてはまずいと……私が動いたのだが……】

 

奴ら?

 

【そうだ。だが……異世界の人間とはいえ人間に負けたのだな……私は】

 

お前は……誰だ?

 

【我が名はラオシャンロン。この世のマナを管理し、統べる者】

 

 

こいつも俺が異世界人であるという事を知っていた。

確かに見た目からしてこの世界の住民とだいぶ違い容姿をしているのは否めないが、それでも容姿だけでここまで断言する物だろうか?

その疑問を聞こうとした。

 

 

【これをおぬしに預けよう……】

 

 

その思念と供に、折れ砕けた角から光の玉が出てきて、俺の目の前へと浮遊して来て……それが左腕前腕部へと入っていった。

その光も思念同様、俺以外に気づいている人間はいなかった。

 

 

これは?

 

【奴らが目覚めた。その力に対抗するための力だ……】

 

力?

 

【それを使うにはこの世界その物を敵に回すという覚悟がいる……その覚悟は?】

 

 

なんだか知らないが、俺に対して問答を始めるラオシャンロン。

しかも俺に対して覚悟があるとか聞いてきやがる。

それに対して、俺ははっきりとこういった。

 

 

そんなものあるか

 

【……ほう?】

 

よくわかってもいない事柄に覚悟があるかどうかなんてわかるわけもない。ただ、俺が言うべき事はただ一つ……

 

 

ラオシャンロンが俺の言葉をじっと待っていた。

俺はこの世界と自分の世界を照らし合わせ……俺がしなければいけない事の一つを言った。

 

 

俺は……帰らなければならない。だから、帰るために、力の限りを尽くすだけだ……

 

 

あのこのためにも……。

 

 

【……】

 

 

俺のその答えに、ラオシャンロンは沈黙を保った。

やがて、ふっと……見えないはずのラオシャンロンが、まるで笑ったかのような……そんな優しげな気持ちが俺へと流れてきた。

 

 

【世界を救うなどと……いい加減な事を宣う輩よりはよほど信用できる答えだ。良かろう……。その力をお前に託す……】

 

 

ただ腕の中に入っただけだったその『力』は俺の中で固定化されて……左腕前腕部の中で塊と化し、そして消えた。

だが存在そのものが消えたわけではない。

左腕に違和感が無い事を確認するために手を開いたり閉じたりするが……特に何も感じなかった。

 

 

【己の中の可能性を信じて、突き進めばいい。さすれば道は自ずと開かれる。……異世界からの申し子よ】

 

 

その言葉を最後に……ラオシャンロンからの思念が消えた。

そしてそれと同時に、ラオシャンロンの体に変化が起きる。

 

 

「……透けていく?」

 

 

そう、ラオシャンロンの横たわっている体が、紫色の粒子と化して宙へと飛散していき……そしてそれと同時にラオシャンロンの体がだんだんと透けていった。

まるで最初からラオシャンロンという存在が無かったかのように……。

やがてラオシャンロンの体が全て紫色の粒子と化して、ラオシャンロンは完全に消滅した……。

 

 

「……いったい何が?」

 

 

俺以外のハンター達が、消え去っていくラオシャンロンを見てその場で呆然としていた。

それはそうだろう。

何せあれだけの巨体が消滅したのだ。

まるで宙へと……大気へと溶けていくかのように……消えたのだ。

その事の原因というか、理由を知っている人間として理由を教えてやるべきなのかもしれない。

だが……。

 

 

俺も限界……だな……

 

 

全ての力を出し切り……しかもろくに休まずにこの砦にきたものだからついに俺の体が限界を向かえた。

膝を突いていたその姿勢から……ゆっくりと、俺は地面に倒れ伏した。

 

 

「!? ジンヤ!!!!!」

 

「ジンヤさん!?」

 

 

そんな俺の様子に気づいた二人の弟子が……俺へと駆け寄ってくる。

リーメが俺の体の体勢を、楽な仰向けに寝かせてくれた。

その事に頷いて礼を言うと……俺の意識は闇に呑まれた……。

 

 

 

 

こうして……|過去(・・)最大の危機に瀕したドンドルマは……各地のハンター達の奮闘によって、あの巨大なモンスターのラオシャンロンに蹂躙される事もなく……明日を迎える事が出来たのだった。

俺が意識を失っている間に、ディリートは避難させていた住民の呼び戻し、各村々へのお礼に、尽力してくれたハンター達に報償を与え、そしてドンドルマの復興へと力を注いでいた。

なお、ラオシャンロンの恐怖が消えて、皆が戻ってある程度元の生活のサイクルの目処が立った一週間後……ラオシャンロン討伐の記念式典が催される事に成った。

そしてそれだけでなく、夜には各所でパーティーが開かれる事になり……俺は何故かラオシャンロンを討伐した英雄として祭り上げられる事になり……そのどちらにも強制的に参加させられる事になっていて……それを知ったのは俺が目を覚まし、怪我の治りに専念してほとんどの傷が癒えた祭りの二日前だった……。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

「記念式典後の貴族パーティーに参加ですか? 私が?」

 

「あぁ。それとジンヤもな」

 

 

式典二日前に、隊長に呼び出された私は、部屋には行って敬礼を終えるなり、そんな事を言われた。

五日前の砦での防衛戦。

あの時に活躍したハンター達はドンドルマで明後日催される式典で褒賞の授与を受ける事が決定した。

その名簿のリストの中に私の名前があり、そして当然のようにジンヤの名前があった。

その事を今はユクモ村で治療に専念しているジンヤに伝えに行くと……。

 

 

……めんどくせぇ

 

 

と唸っていた。

名誉ある事だというのに、ジンヤにとっては面倒ごとの一つでしかないみたいだった。

そんなジンヤに半ば呆れている時に隊長に呼び出されて……今私はここにいた。

 

 

「貴族に殴り込みをしたというのが、先日までのジンヤの印象だったが……ザンマルトの非合法すれすれな商売を嫌っていた貴族は多い。そしてさらに先日の砦での人外じみたジンヤの活躍。以前から話題の中心だったジンヤの姿をこの機会に是非見てみたい……話をしてみたいという貴族が多くてな」

 

「はぁ……。それはわかりますが……何故私も?」

 

「そのジンヤの弟子という事でフィーア、実はお前も結構有名なんだ。しかも伝説の名工、リオスさんとも知り合いだしな」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 

意外な事に私も有名だったらしい。

私自身そんな自覚は全くなかったのだが……。

まさに寝耳に水、な事を言われて驚いた。

 

 

「まぁそういうわけで、ジンヤを貴族のパーティーに出席して欲しいと言われて断り切れず……だから君にも参加して手綱を握っていて欲しい」

 

「……それ果てしなく無理な気がしますが……」

 

「いないよりはいた方がいい。それに一人ずつ同伴者を連れて行く事を許されているから、君も他に誰かを誘うがいい。これがその招待券だ」

 

 

ジンヤにも渡しておいてくれ、と言われて渡されたその招待券は、一般人では触れる事もないような最高級の紙を使用されている特別な物だった。

また、リオスさんと会いたいと言っている人間も多いらしいので是非ともリオスさんも呼んで欲しいと言われて……計三枚の招待券を渡された。

部屋から出て呆然としていた私だったが……準備の時間もある事に気がついて、私は大急ぎでユクモ村へと帰還したのだった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「貴族パーティーに……出席しぃぃぃぃるぉぉぉぉどぅぅわぁぁぁぁあ?」

 

「あぁ。隊長からの頼みで是非とも参加して欲しいと」

 

 

うわぁ~嫌だ~

 

 

ディリートに呼び出されたフィーアが大急ぎで帰ってきたと思ったら、果てしなく面倒な事を抱えて帰ってきた。

先日のラオシャンロンの戦から数日が経過していた。

その間、モンスター討伐を受ける事もなく、また鍛造もせずにおとなしく治療に専念していたおかげで、傷は八割方治っていた。

そしてその期間の間……レーファにリーメにフィーアが俺の家に来ては看病してくれたり、話し相手になってくれたりと……相変わらず世話になっている俺だった。

 

 

「貴族のパーティーってどんなのかな?」

 

 

一人蚊帳の外であるレーファがそう口にした。

その言葉は純粋に、見知らぬ物に興味を持った感じだった。

俺は一応現実世界でそう言った催しに参加した事があるので、特に問題もないのだが……正直参加したくないのが本音だった。

 

 

あの腹の探り合いみたいな会話がな~……

 

 

自分の富をおおっぴらに自慢するかのような衣装。

そしてその衣装同様に口でも自慢し、そして称え合う貴族達。

ノブレスオブリージュをきちんと行っている貴族ならば別にそこまで嫌いじゃないが……果たしてこの世界の貴族達はどんな物なのだろうか?

 

 

「レーファ行きたいか?」

 

「? 行ってみたいけど……私平民だよフィーお姉ちゃん」

 

「大丈夫。私とジンヤにそれぞれ一人ずつ同伴者を連れて行っていい事に成っている。だからレーファさえよければ一緒に行かないか?」

 

「!? ほんと!?」

 

「あぁ、もちろん」

 

「ありがとう! フィーお姉ちゃん!!!」

 

 

仲むつまじいやりとりをしながら、レーファが嬉しさの余りかフィーアに抱きついていた。

そんな妹をフィーアは優しく抱き留めていた。

 

 

っていうか俺も同伴者連れて行っていいのか?

 

 

前回……|斬老刀(スサノオ)を鍛造するときに、自分の気持ちを押し殺してまで、俺の事を見守り続けていたレーファに、お礼として誘おうかと思ったが……フィーアが誘うというのならばべつにいいだろう。

 

 

礼は別の機会にするとして……どうするか?

 

 

そこでこの世界に迷い込んだときによく世話になったリオスさんの顔が頭に浮かんだ。

 

 

「リオスさんでも誘ってみるか……」

 

「あぁ。リオスさんはすでに招待されているから別の人誘った方がいいぞ?」

 

「? そうなのか?」

 

「リオスさんは名工として名高いからな。貴族にも知り合いがいるみたいだぞ?」

 

 

ほぉ~

 

 

名工というのは知っていたし、わかっていたが貴族に知り合いがいるとは思わなかった。

となると……。

 

 

「リーメ。来るか?」

 

 

次に、世話になっているリーメに俺は声を掛けてみた。

すると、自分には関係ない物として、俺たちの話を聞いていたリーメが飛び上がるほどに驚いていた。

 

 

「ぼ、僕がですか!?」

 

「お前以外にいないだろ。来るか?」

 

「で、でも僕……そういうところ行った事ないですよ?」

 

「別に構わないだろうし、貴族達にも文句はいわさん。言ったら貴族全員ボコって帰るだけだ。その辺は気にしなくていい。お前が行きたいかどうかだ」

 

 

実際ボコす事はないだろうが(場合によっては考える)、それでもこうして招待券を渡して来たというのならば、俺の招待客に文句は言ってこないだろう。

もしも仮に言ってきたら冗談抜きで何か考える。

 

 

「よ……よろしくお願いします」

 

「どうやら決まったようだな」

 

「……そうだな」

 

 

あっさりと参加者が決まってフィーアがほっとしていた。

俺の事を時折ちらちら盗み見ていた(バレバレ)から、俺がもっと渋る物だと思っていたのだろう。

 

 

俺はだだっ子か?

 

 

「なら明日ドンドルマに向かって衣装合わせをするぞ。衣装は貴族達が持ってくれるらしいから気にしなくて言い」

 

「本当!? 私もドレスとか着れるの!?」

 

「もちろんだ」

 

 

どうやら相手は、俺たちが庶民を誘うと最初からわかっていたみたいだった。

そうでなければドレスを用意するなど言ってくる事はない。

まぁ庶民なので別にどうでもいいのだが……。

 

 

めんどい……

 

 

その一言に尽きた。

それでも俺が行くのは家族のためだった。

俺はその家族の元へと……庭に出て、寝転がって丸まっている家族、ムーナの頭へと手をやって軽く撫でた。

 

 

「……キュ?」

 

 

昼寝をしていたのか反応がだいぶ遅かったが、それでも顔を上げて俺に目を向けてくる。

そのムーナに俺は微笑みかけて、さらに頭を撫でて上げた。

貴族と話す機会があるというのならば、言外に『ムーナに手を出したら殺す』と直接……っていうか間接的? に伝えた方が効果的だと思ったからだ。

しかもこいつがいなければおそらく砦での決戦に間に合わなかった。

いや間に合う事は可能だった。

だが、全力疾走した後に、気をも使用した全身全霊の攻撃を出来るかと言えば……首を振るしかない。

実に地味とはいえ功労者の一人、って言うか一匹はこのムーナだったりする。

 

 

「すまんムーナ。どうやら今度一日家を空ける事になりそうだ」

 

「キュ~?」

 

 

何で? って言っている感じにムーナが首を傾げる。

俺はそれに苦笑しつつ、さらに頭を優しく撫でた。

 

 

「すまんが留守を頼む。一晩夜の散歩が出来ないが我慢してくれ」

 

「キュゥゥゥ」

 

 

撫でていると、もっと撫でてと言うように、俺の手っていうか体に頭を押しつけてくるムーナ。

そんなかわいい家族に、俺はまるで某○ツゴロウ王国国主のように、わしゃわしゃとムーナを撫でて上げた。

ドンドルマに連れて行ってもいいが……ラオシャンロンの一件で、俺がムーナを飼っているというか……手なずけている事を大勢の連中が見ていた。

しかも俺はムーナに乗って砦へと向かったわけで……。

以前よりもさらに珍獣扱いされそうなので連れて行くのは難しいし、ムーナがかわいそうだ。

そしてその日は明日散歩が出来ない分長めに夜の散歩を行い、残りの家族であるグラハムとジャスパーに、ムーナの餌やりと店の事を任せて……俺は次の日、貴族パーティーと記念式典で着る衣装合わせを行うために、竜車に、俺、レーファ、リーメ、フィーア、リオスさん、リオスさんの妻、ラーファさんという……大人数で乗り継いで……ドンドルマへと向かったのだった。

ちなみに貴族のお祭りという事で、水月しか持って行く事を許されなかった。

 

 

 

 

フィーア~

 

 

す……すごい数のドレスだな……

 

 

貴族達がよく使用するという、ドンドルマの一角にある高級服屋で、私とレーファは、明日着るための衣装を選びに来ていた。

事前に話が通っているらしく、私が自分の名前とレーファが私の招待客だと告げると、店の店主(出来ると思える様な美人の女性)が奥へと案内されて、その中にある多量の衣服を見て私は呆然とした。

 

 

「……フィーアお姉ちゃん」

 

「……なんだレーファ?」

 

「……ここにあるのって……どれも最高級の布使ってない?」

 

「……多分な」

 

 

レーファの疑問に、私は曖昧に頷いた。

今まで見た事もないような高級な布を使っているのが、見ただけでわかるほど高級感に溢れる衣装だった。

特に私は今まで衣服に対しては無頓着だったので、触るのすらためらわれるような雰囲気を放っていた。

 

 

「貴族の方々から、あなたたちに似合う最高の服を用意しろと言われていますのでお代はすでに頂いております。ですからお気になさらずにお選び下さい」

 

 

いやお選び下さいって言われても……

 

 

ここまで案内してくれた店主と思しき女性からそんな無理な事を言ってくる。

根っからの庶民である私とレーファはそう言われても動く事が出来なかった。

ここにある衣服一着で果たして何ヶ月分の食費になるのだろうと、私は思わず考えてしまった。

 

 

「あのぉ……すいません」

 

 

少ししていると、肝が据わったのか……私の後ろに隠れていたレーファが私の前へと行き、そして店主の女性に質問をする。

 

 

「本当に……好きなの選んでいいんですか?」

 

「もちろんです。よろしければ私たちでコーディネートさせていただきますが?」

 

「……私こういうの初めてなので……よろしくお願いします!」

 

 

そうして私が緊張していると、自身も緊張しながらもそれでも好奇心が抑えられないといった感じに、レーファが店主の人に話しかけて衣服を選び始めていた。

他にも何か覚悟のような物を感じるが……今の私にはそれがなんなのかわからなかった。

 

 

……さすがリオスさんの娘

 

 

度胸がある……と思いつつ、私もそれに見習って、それとなく衣装を眺めてみて、いくつか気に入ったのを手に取ってみてみた。

 

 

けどこういうの初めてだからどれを選んでいいのか……

 

 

「お手伝いしましょうか?」

 

「へ?」

 

 

ドレスの前で立ちつくしていると、いつもの間にか後ろに立っていた人物から声を掛けられた。

そちらを振り向くと店長とは違った、別の女性が立っていた。

見た目からして私よりも少し年上だろう。

 

 

「悩んでいるようでしたらお手伝いいたしますが?」

 

「え、いや私は……」

 

「いつもと違う自分になるための衣装なのです。お悩みになるのは当然です」

 

「は、はぁ?」

 

 

何故かいきなり諭しだした相手に私は思わず頭の上に「?」を浮かべる事しかできない。

だが次の言葉で……。

 

 

「普段と違った自分を……見て欲しい方がいるんではないのですか?」

 

「!?」

 

 

何故かその言葉でジンヤの姿が浮かんだ。

そしてそれを見抜いたのか……相手の目が光った(気がする……)

 

 

「ではこちらへ……」

 

「え? へ!?」

 

 

そんな豹変ぶりに呆気にとられていると、腕を掴まれてそのままどこかへと連れ去られていく。

ハンターで鍛えられている私が何故か抵抗できずに……少し狭い個室のような場所へと連れて行かれた。

そして後ろ手にドアを閉めると、何か紐のような物を取り出して……。

 

 

「まずは採寸から始めましょう。大丈夫怖くありませんから」

 

 

あなたのその異様な雰囲気がすでに怖いってぇぇぇぇぇぇ!?

 

 

何故かその迫力に抵抗することが出来ず……そのまま採寸されることになった。

 

 

その時、ドンドルマの一角のとある店から、女性の嬌声というか艶声というか……そんな声が聞こえたとか聞こえなかったとか……。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

肩がこる……

 

 

それが……堅苦しいタキシード……に似た洋服を着た俺の感想だった。

現在時刻はすでに夕刻に突入しており、俺が今いる場所はドンドルマのとある貴族が所有する広大なホール。

そこで俺はリーメと供に後から後からやってくる、貴族達の話し相手をしていたのだった。

先日フィーアから聞かされた記念パーティーの真っ最中なのだ。

 

 

~ここに至るまで~

 

まず最初にラオシャンロン戦で名誉の死を遂げたハンター達の弔いを行い、皆でそいつらの冥福を心から祈った。

俺は見ていないが……爆弾を抱えたままラオシャンロンにとりついて爆発して死んだやつも多数いたらしい。

 

 

神風特攻隊かよ……

 

 

第二次大戦中の日本がした……人権無視の特攻……決死の自爆攻撃。

それほどまでに追い込まれていたということなのだろう。

俺がもっと速く来ていればそいつらの命が助かったかもしれないなど……俺は言わない。

なぜならそれは彼らの決意を汚す行為だからだ。

俺一人の力などたかがしれているのだ。

確かに俺は普通の人間よりも強いが、それだけでしかない。

しかもその攻撃が無ければ俺の攻撃が通らなかった可能性は高い。

 

 

真に称えるべきは……俺ではなく彼らだろうに……

 

 

人を……街を守るために散っていったその高潔とも言える魂に、俺は心の中で涙した。

自爆特攻というその行為が正解とは言わない。

命を否定する事になるからだ。

だが……それでも彼らの行為は……称えそして胸に刻むべきだろう。

名も知らず、顔も知らないそのハンター達の冥福を……俺は心の底からただ……祈った。

黙祷を捧げ、そしてその次にドンドルマを見つめた。

 

風になびく、家々の洗濯物や、街の広場にある売店のテントの布がなびく……。

 

ラオシャンロンから逃れるために一時的に近隣の村々に避難していたドンドルマの住人達が自分たちの家の……街の復興に力を出していた。

 

その顔には眩しいほどの笑顔が充ち満ちており、誰もが楽しそうに、そして街その物が活気づいていた。

 

店先で品物を売り出す商人達、それを買い求めて行き交う人々、そしてハンター達が力仕事を率先して手伝っていた……。

 

 

すばらしい街だ……

 

 

目の前に見える街……ドンドルマは、誰が見ても活気溢れる、すばらしい街だった。

これがあなたたちが守った街なのだと……そう死者に……、俺の目を通して自分たちが守ったそれを見える事を願って……。

 

 

その後記念式典がつつがなく終わり、……俺はなんか英雄としてすげ~高級そうな鉱石の加工品を頂いた。

それからディリートに紹介された貴族の一人に、今着ている服を渡されて、それをその貴族のメイド達が着替えさせてくれて、そしてパーティーが開催された。

それで俺は貴族の連中と普通に会話をしているのだ。

本来ならいやなのだが、まぁムーナに手を出すなという事を遠回しに……場合によっては直接的に言って牽制するため、仕方がないか……と思っていたのだが……。

 

 

貴族A

「リオレウスを飼っているという話は本当なのですか?」

 

「はい。まぁ……大切な家族です」

 

貴族B

「すごいですね。あれほど恐ろしいモンスターを飼い慣らす事が出来るというのは……。いや飼い慣らしたというよりもあなたになついていらっしゃるのでしょうか?」

 

「??? どうなんでしょうね?」

 

貴族C

「それに砦までリオレウスに騎乗して来たと聞きましたが本当なのですか?」

 

「はい。空を飛んだ方が速かったですので」

 

貴族D

「モンスターとそれほどの信頼関係にあるとは……すばらしいですな」

 

 

と、このように……俺のムーナに手を出す事はすでに考えていないらしいのか、あまり探ってくるようなことを言ってこなかった。

何となく雰囲気でそいつが考えている事がわかる(俺を激怒させる事柄の場合は特に)のだが……どうやら本当にただ会話を楽しんでいるだけだった。

 

 

何故?

 

 

わからないが……まぁ別にそれならそれで構わない。

仮に手を出してきたのならば泣いて喚いて叫んで……殺してくれと泣いて懇願するような目にあわせればいいだけの話なのだ。

しかしそれが起きなかったためにある意味で楽にはなったが、そうなると純粋に会話という仕事が降りかかってくる事になり……結局面倒な事に代わりはなかった。

しかも嫌がらせなのか(おそらく違う)……妙に難しい言葉を使う事もあったので、リーメに通訳をしてもらう事もあった。

別段俺が言葉を理解して無くてもバカにした感じはしない。

ドンドルマを救った英雄と思い、感謝をしているみたいだった。

そうでなければ通訳が必要なほど語学力のない俺の事を内心でバカにするはずだからだ。

しかしそんな様子は見られない。

別段不快に感じる事はなかったのだが……まぁ正直数が多すぎて面倒な事この上ない。

 

 

いやただの貴族はまだいい……

 

 

「あの人が……例の」

 

「本当に髪が黒いのね」

 

「あの人が……英雄の」

 

「……カッコいいですわね」

 

 

なんでか知らないが……俺を遠巻きに見ている貴族のお嬢様達がいるのだ。

しかもその目線が……乙女って言うのかね……露骨に俺のことを過大評価した目で見てくるのだ。

今は自分たちの、父親や伯父といった年上ないし目上の連中が、俺に話しかけてきているために話しかけてこないが……これらがいなくなった場合、面倒なことになるのは目に見えていた。

 

 

行くも面倒 引くも面倒

 

 

正直言ってげんなりする。

しかも貴族達との会話で時間を取られてほとんど物も食えていない。

せめてうまい物でも食いたかったのだが……それも出来そうになかった。

出さないようにしているのだが……それでもやはり苛立ちが募っていく。

そうしてしばらく会話をしていると……

 

 

「ジンヤさん、すいません。ちょっと外していいですか?」

 

「? ……あぁわかった。すまないな」

 

 

会話の合間を見て、リーメが席を外すと言ってきた。

最初は何かと思ったが、何かを我慢しているその仕草から直ぐにわかった。

そう言えば始まってからすでに結構な時間が経っている。

その間ずっと俺のために通訳をしていてくれたのだ。

ここは貴族の……平民ならば縁のない、極度の緊張を強いられるパーティーだ。

極度の緊張で普段通りには絶対に振る舞えない。

そしてその緊張が……何かを促進しても何ら不思議はない。

 

 

トイレだな

 

 

直ぐに察して俺はリーメに礼を言って席を外してもらった。

そしてそれを使って、俺は貴族の連中にも離れてもらった。

もう面倒だったので、リーメがいないとろくに会話が出来ないと言ってやった。

 

 

「申し訳ない。まだ言葉が不自由でして……彼がいないとそこまで会話が出来ないので……」

 

 

ちなみに言っていることに嘘はない。

まだ知らない単語も多いし、それに遠回しな言い方や、ことわざなんかを織り交ぜられると、俺は全く意味がわからない。

 

 

それになにより面倒だったからな……

 

 

しかしこの貴族のパーティーに出席している人間が言語に不自由だと、バカにされる可能性があった。

が……正直もうよかったし、バカにされてもいいと思って退場を願ったのだが……。

 

 

「そうでしたか……ではまた後ほど」

 

「楽しんでいってください」

 

 

しかし意外な事に誰もバカにせずあっさりと引き下がっていった。

 

 

……何故だ?

 

 

不思議でしょうがなかったが……少なくとも腹に一物を抱えていそうなやつは見受けられなかった。

そう言った……舌戦や会合などの戦はまだ苦手な俺だが……どうやら大丈夫そうだったので、俺はとりあえず身近な給仕の女性に、ドリンクをもらおうとした。

 

 

「お疲れ様です。ジンヤさん」

 

「? ファルナか?」

 

 

なんと、給仕をしている人間……女の子は意外な事にファルナだった。

ファルナ。

俺がリーメと供にドンドルマでハンター登録をしたときに手続きをしてくれた女の子だ。

またドンドルマの酒場で仕事をしている女の子である。

 

「仕事か?」

 

「はい。人手不足でかり出されてしまって。……お一人ですか?」

 

 

俺に飲み物を渡しながら、そう言ってそれとなく俺の背後っていうか周りを見るファルナ。

 

 

リーメを探しているのか?

 

 

これは勘だが……おそらくこの子はリーメの事を好いている。

その証拠に、俺が酒場で食事をする時、さりげなくリーメの所在を確かめていたからだ。

まぁ残念な事にこの子と親しくなった一ヶ月のドンドルマでの生活の中で、リーメがいた事は一度もなかったのだが。

しかし今回は……。

 

 

「いや一人じゃない。リーメも一緒だ」

 

「!? ほ、本当ですか?」

 

 

必死に抑えているようだが……それでも隠しきれない喜びの感情が、全身がにじみ出ている。

 

 

命短し恋せよ乙女……

 

 

「リーメは今席を外している。あっちのほうにいったぞ?」

 

「な? 何で私にそんな事言うんですか?」

 

「? さぁ? 何となく?」

 

 

さもわかっていないという風に言うが、俺は大げさに肩を竦めた後に微笑んだ。

行ってこいと……後押しするように。

その笑みの意図が伝わったのか……ファルナは顔を真っ赤にしながらも、小さく礼を言うと、俺が指さした方へと向かっていった。

 

 

青春だねぇ

 

 

実に年寄り臭い考えが頭を横切った。

だがまぁ、俺には縁遠い話である事は間違いない。

 

 

少なくとも……この|世界(・・)ではな

 

 

受け取ったグラスの飲み物を口に含んで味わいながら、そんな事を考える。

ブレスワインという、日常でも料理の調味料として使われる物で呑みやすかった。

だがおそらく相当いいブレスワインを使用しているのだろう。

だいぶ味が違った。

 

 

まぁ一番好きな酒は日本酒ですが……

 

 

そうして俺が一人でのんびりとワインを飲む姿を、先ほど遠巻きで見ていた娘達が何でか見惚れたような……心酔したような顔で見つめていた。

 

 

……そんなにいいもんかね?

 

 

何故娘達がそこまで俺にそんな目で見てくるのかは謎だが……話しかけてくる気配がないので好都合だった。

そうして俺は漸く一人でのんびりと飯を食う事が出来た。

といっても会場の手前、がっつりと食う事は出来ないのだが……。

 

 

染みついた習性とは……悲しいものよ

 

 

現実世界で、貴族のパーティーに出席する機会もあったので……それらの練習もしてきており、しかもその目的は要人警護か……暗殺にある。

まぁ暗殺の場合は闇の幹部連中のパーティーとかだが。

そのおかげで染みついたというか……目立ちすぎるといけないので、普通に行動するというのが染みついてしまっていた。

だからこの世界で別にがっついて批判を浴びても構わないのだが……それが出来なかった。

 

 

♪~~♪~

 

 

ん?

 

 

そうして一人で食事をしていると、広間の音楽が一旦やみ、そして直ぐに穏やかな曲が流れ始めた。

周りを見ると、すでに男女ペアを作ってダンスをしている。

舞踏会が始まったのだった。

 

 

うげっ、しまった忘れてた

 

 

そう言えば舞踏会があると言われていたのだが……その対策をすっかり忘れていた。

正直これほど面倒な物はない。

何せ舞踏会だ……それも貴族の。

こんな場所で踊ったりすれば、どんな噂が広まるかわかったものではない。

別に広まっても構わないのだが……もしも貴族と踊りでもして何かあらぬ誤解をされては面倒だ。

しかも悪い事に……こういった踊りの場では男から誘うのが常識であり……。

そ~っと俺は周りに目を向けると……。

 

 

うげっ。予想通り

 

 

なんかものすごくきらきらした目をして、俺の事を凝視している娘達が大勢いた。

マジで俺の何がいいのか教えて欲しい。

これだけ注目されては、最初に選ぶ相手と何かあると勘違いされる可能性もある。

さっきもいったが勘違いされてもいいのだが……それで貴族と何か問題が起こると面倒極まり無い。

 

 

どうした物か……

 

 

そうして悩んでいると、後ろでちょっとしたざわめきが起こり、そしてなんか見惚れるような……要するに男がアホ面して見とれているような、そんなゆるい感じの気配が背後で起こった。

そしてそれを起こしたと思われる人物が、俺の背後へとゆっくりと、足を進めてきた。

 

 

「ど……どぅしました殿がひゃ?」

 

 

……ひゃ?

 

 

なんかすごい噛み方をしている人がいるのだが……。

緊張の余り普段の勝ち気というか……男らしさが微塵も出ていない、女らしい感じがする。

声とその気配で誰かわかっていた俺は、静かにその声がした方へと振り返った。

 

 

「お……お手すきのよう、ですが……?」

 

 

ほぉ

 

 

噛んだことで肝が据わったのか、目の前の女は先ほどと違って普通に話しかけてくる。

だがそれでも緊張は拭い切れていないらしく、その声は若干震えていた。

 

その身を包むのは、肩も胸元も大胆に開いた真っ赤なドレス。

いい布を使っているのがすぐにわかるほどの、それは美しかった。

また背中も大きく開いていて、肩も背中も開いており、しかも首もでている。

ほとんど胸と腹しか隠していないようなドレスだ。

こういった服を着ている人間は結構見た事あるが……どうして服がずり落ちないのか俺は不思議でしょうがない。

 

 

胸で支えているのか?

 

 

知らない上に、別にそれほど知りたいわけでもないので、未だにわからずじまいだったりする。

腕には二の腕まである長く、ドレスと同じ色の紅い手袋をしている。

普段は無造作に後ろに一つにまとめている髪を、綺麗に梳いて手入れをしてあり、普段とは違ってまとめていなかった。

普段はさらしでも巻いているのか、もしくは胸に詰め物でもしたのか……だいぶメリハリというか、まぁいわゆる出るところは出て、引っこんでいるところは引っこんでいる感じだ。

 

 

我ながら語彙がない

 

 

自分が今抱いた感想の言葉の俗物さに内心苦笑する。

普段は全く……もう本当に皆無と言っていいほどに化粧っ気の無いその顔に、うっすらと化粧が施されており、優艶な雰囲気が出ており、果てしなく美人に見える。

綺麗に梳いた髪が、蝋燭の淡い光に照らされて、なかなか幻想的な姿をしていた。

 

 

「わ……私も相手がいないのです……。よ! よろしければ寂しい物同士……お相手願いませんか?」

 

 

そう言って、震える声で右手を俺に差し出してきた。

手袋に包まれたその手も、微かに震えていた。

俺はそれを見届けて、苦笑しつつ……その手を……美しく着飾ったフィーアの手を取った。

 

 

「喜んで……」

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

誘えた……

 

 

私は震える体を……震える声を……そして逃げ出してしまいそうになる自分の心をどうにか叱咤して……目の前の男に、声を掛けた。

 

光を吸収するかのような漆黒の髪。

まるでそれを表するかのように……その服は真っ黒だった。

他の貴族達は明るい色……明るい茶色や、白色の燕尾服を着ているというのに、この男の燕尾服は真っ黒だった。

髪と目の色が黒いのでそれにあやかって今回の衣服も黒に仕立てたらしい。

会場で目立つように。

下のズボンも同様だった。

その黒の中にあるのは対照的な真っ白。

ネクタイも黒色なのにシャツの色だけ白色で実にシンプルだった。

だがそれ以上に面白いのは……この男は私と違ってこの会場の雰囲気に呑まれず、また衣服に|着られている(・・・・・・)感じはしなかった。

格好は異常……というか目立つが、それでもこの会場にとけ込んでいるようだった。

 

 

師にして、私の思い人……クロガネジンヤ

 

 

目の前のまさに真っ黒な男の名前だ。

 

 

「私は踊りが不作法故……お教えいただけますか?」

 

「!? よ、喜んで」

 

 

気づいていないのか……いやこの男の事だから、目の前の……話しかけているのが私だと気づいていないはずがない。

けれど特に言及せずにそう言ってくるジンヤに、私は戸惑いつつも、曲にあわせてゆったりと踊りを開始した。

 

 

「誰ですのあの方?」

 

「見慣れない方ですわね?」

 

「というよりも……肌の色がきれいすぎじゃありません?」

 

 

周りでダンスの|相手(ジンヤ)を取られた貴族の娘達が何か言っているようだが、緊張の余り頭が真っ白になっている私には何ら問題がなかった。

そんな貴族の娘達の声を聞きながら、私とジンヤは踊った。

 

 

「ほぉ」

 

「ふむ」

 

 

すると何故か周りで踊っていた貴族達が動きを止めて、私たちを見ている。

その事に気づいて、足を踏み外しそうになった私を、ジンヤは自然な動作で抱き寄せて、フォローしてくれる。

 

 

「!?!?」

 

 

抱き寄せられた事でジンヤの胸に、一瞬とはいえ顔を埋めた私は全身が真っ赤になるが。

 

 

「お怪我はございませんか?」

 

 

言葉こそ普段とは違うが、その言葉に込められた優しさは普段のジンヤそのもので……。

私は恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。

私が持ち直すと、再び曲にあわせてゆっくりと、踊りを再開する。

 

 

「うまいじゃないか?」

 

 

ぼそりと、私にだけ聞こえるような小さな声でジンヤが話しかけてくる。

足が絡まないように注意しながら私は顔を上げる。

するとそこにはいつもと違う、まさに貴公子と思わせるような笑みを浮かべたジンヤがいて……。

思わずその笑顔に見惚れてしまいそうになって、慌てて私は感情を落ち着けて、半ばぶっきらぼうに、返す。

 

 

「じ、ジンヤこそ。結構手慣れている感じがするが? 不作法って言ってなかった?」

 

「まぁ……こういった事をした事は初めてではないんでね。この|地方(・・)のは知らんからそう言ったまでだ」

 

 

そう語る顔に嘘は見受けられず……他の女性ともこうして踊った事があるという事で……。

何故かそれがショックだった。

 

 

「……ジンヤって貴族なのか?」

 

 

ついそんな事を聞いてしまう。

いつもなら、どこか自分の事を話したがらないというか……拒絶している感じがして聞いていなかったのだが、何故か口にでてしまった。

この場にいるという……非日常的な状況がそうさせたのかもしれない。

その言葉に、ジンヤは一瞬間抜けな顔をして、直ぐに思案顔になった。

 

 

「半々……かな?」

 

「? 半々って?」

 

「昔は一応貴族というか……有名な家だったが今は名声ではないからな……。裏では有名だが」

 

 

? なんて言った?

 

 

最後の方にぼそりと、何かを言った気がしたのだが、私が目で問うてもジンヤは答えてくれなかった。

それからしばらく、私たちは言葉を交わさずに、踊り続けた。

 

 

 

まるで、夢のような時間だった……

 

今まで着たこともないような、上質なドレスを身にまとって着飾って……

 

相手であるジンヤも、普段とは違って本当に貴公子と思えてしまうほどに……格好良く着込んで、私とこうして……貴族のパーティーで華やかな会場の中心で、二人でダンスを踊っている……

 

まるで世界の中心が私たちになった……そう錯覚してしまうほど、嬉しい時間だった……

 

男の人とこうして抱き合うなんて初めてだったから……ものすごく緊張したけど……

 

でもそれ以上に……その緊張よりも遙かに嬉しさがこみ上げてきて……

 

 

そんな時間が……しばらく続いた……。

そしてそのままダンスは続き、ついに曲が一曲終わり、ダンスが終わろうとしたとき……。

 

 

「一芝居付き合ってくれ」

 

 

えっ?

 

 

ぼそりと……ジンヤが私に耳打ちしてきた。

そしてダンスが終わり、盛大な拍手がホールを包む。

 

 

「ぐっ」

 

 

私が今の言葉の意味を聞き返す前に、ジンヤは曲が終えたと同時に膝を折った。

苦しそうに顔を歪ませている。

慌てて周りで見守っていた貴族達が駆け寄ってくるが、ジンヤは手振りでそれを制した。

 

 

「失礼。治りきっていない怪我が少しうずきまして……少し休もうかと思います」

 

 

? 怪我ならばとっくに治って……

 

 

そこで私ははたと気がついた。

周りに……遠巻きながら貴族の娘達がジンヤを見つめている事に。

 

 

そう言う事か……

 

 

周りの貴族達とダンスを踊るのが面倒なのだろう。

だがかといってダンス会場で、一人とも踊らずに退場するわけにも行かない。

そこでやってきたのが私だった。

そして私と踊り、怪我が治っていない事にしてそのままこの場を去る。

 

 

うまい具合に利用されたか……

 

 

しかし、他の娘と踊るのを想像して……不快な思いをするのは目に見えていたので、私はジンヤの芝居に付き合い、寄り添うようにして会場の隅へと移動した。

幸い、ジンヤの弟子という事は貴族の連中も知っていたらしく、私が付き添うのを止められる事はなかった。

 

 

初めて役に立ったけど……こんな形で役に立つのも癪だな……

 

 

弟子になってからこいつには世話になりっぱなしだが、こんな形で役に立っても複雑なだけだった。

そんな私の心情に気づいているのかいないのか……ウェイターからドリンクを受け取って、会場の端へ移動してから、外のラウンジへと移動する。

ドンドルマの夜風が心地よく、私たちのほてった体を冷やしてくれた。

そして誰も見てないとわかった瞬間に。

 

 

「あ~~~~~~~疲れた」

 

 

今まで全くぼろ、というか普段と違い貴族と遜色なく会話をしていたジンヤが、急に普段通りになった。

首を左右に動かし、首の骨をゴキゴキとならしている。

 

 

「すごい音だな」

 

「肩凝ってんだよ。貴族達との会話は疲れる」

 

 

どうやら本当に疲れているようだ。

私はそれが少しでもほぐれるように、そして私自身の緊張も悟られないように……努めて普段通りに話しかける。

 

 

「しかし意外だな。きちん貴族と接しているとは」

 

「失礼だな。俺だって場をわきまえる。それに目的っていうか今回参加したのはムーナに手を出したら殺すという事を伝えるためだ……だったのだが」

 

「だが?」

 

「何故か知らんがどいつもムーナに手を出すという事を考えていないように見受けられた。だから脅す必要性もなくなってな……。仕方なく普通に過ごしていたのさ」

 

 

そう言う理由で参加したのか?

 

 

栄えある貴族が参加するパーティーに、そんな理由で参加したと知ったら、果たして貴族達はどう思うだろうか?

まぁ確かに、レミルが危険な目にあった事を鑑みれば、脅しておくのは悪い事ではないだろうけども……。

 

 

「しかしそれにしても……馬子にも衣装だな」

 

「??? なんて言った?」

 

 

私の事を上から下まで品定めした後に、ジンヤが何か意味のわからない事を言ってくる。

その目にいやらしい感じは含まれていなかったが、恥ずかしさで私は咄嗟に体を腕で隠した。

 

 

「ん、すまん。まぁ簡単に言えば、普段不細工なやつも着飾ればそれなりに綺麗になる物だという言葉だ」

 

「なっ!?」

 

 

漸く私の格好に関して言及してきたかと思えば、一切の遠慮もなくそんな言葉を口にしたのか!?

 

 

せっかく恥ずかしい思いまでして……頑張って着てきたというのに、出てきた言葉がそんな言葉で、思わずぶん殴ってやりたくなった。

 

 

「だが……」

 

「だが?」

 

「美人が綺麗に着飾って、それを素直に褒められないやつなんかが照れて贈る言葉でもある……かな? まぁどちらにしろ……なかなか似合っているぞフィーア。綺麗だな」

 

 

!?!?!?!!?!??!?

 

 

その言葉に、私は先ほどダンスでジンヤの胸に顔を埋めた時以上に、顔が紅くなるのを感じた。

今も思わずジンヤに背を向けて、必死に心を落ち着かせようとする。

 

 

落ち着け!!! 落ち着け!!!!

 

 

高鳴る胸に……早鐘のように心臓が鼓動するのを必死に落ち着ける。

期待していたその言葉が聞けたのが、嬉しくて……。

ジンヤが私のことを女として見てくれたのが、嬉しくて……。

 

だけど、次の言葉でそれは綺麗に消えてしまった。

 

 

「付き合わせて悪かったな。もう行っていいぞ」

 

 

え?

 

 

その言葉に私は後ろを振り返った。

するとそこには眼下に見える、ドンドルマの夜景を……まるで遠い物でも見るかのように、目を細めて眺めているジンヤがいた。

そのジンヤの姿が……すぐそばにいるはずのジンヤがひどく遠くに感じた。

 

 

いやそうじゃないか……

 

 

今だけじゃない。

ジンヤが遠くに感じる事など常にだ。

しかもラオシャンロンと砦で戦っているときも……この男は私にこういったのだ。

 

 

『深く考えるな。お前は俺の弟子だ。それ以上でも以下でもない』

 

 

この言葉はつまり……私の事を弟子としか見ていないという事だ。

確かに他の連中と違って弟子になっている以上、ジンヤにとって少しは大事といえる人間なのだろうが……それでもそれだけなのだ。

 

 

だけど……

 

 

あの日……蒼リオレウスの火炎ブレスで吹き飛ばされた私の事を救ってくれた。

その日からこいつは私にとって特別な存在になったんだ。

そしてそれからずっと胸に抱き続けてきた思い……。

 

 

だけど……ラオシャンロンの件で、それもあまり自分が本気で思ってないことを自覚する羽目になった。

 

 

私は……ジンヤが絶対に来ると……心の底から信じることができなかった

 

 

リーメにレグル、そしてユクモ村のハンターたち。

リーメを除いて、私よりも短い時間しか刃夜と一緒にいないというのに……。

 

 

覚悟が足りなかった……

 

 

ジンヤがいなくてもドンドルマを守って見せるという思い……。

そしてジンヤのことを絶対に信じるということ……。

私はまだ人として甘いことが自覚できた。

 

 

……だから…………

 

 

今自分が胸に抱いた思いを……自分がより成長できることを願って、私はこの思いを伝えたい。

もう二度とお前を疑わないこと。

ハンターとして、ジンヤより劣っていても……精進を怠らないこと。

そして何より……ジンヤも一人の人間として限界がある。

だからその限界に達さないように……少しでも私がこの男の負担を、不安を取り除いてあげたい。

私は気付けのように、手にしたグラスの中身を一息に呷った。

そして、キッ、とジンヤを睨みつける。

 

 

「? どうした? 怖い顔して」

 

「……私は決めたぞ!」

 

 

ジンヤには取り合わずに、私は自分の思いが萎えないうちに……言葉を紡いだ。

 

 

「絶対にお前の隣に並び立って見せるから!」

 

「? 隣に?」

 

「そうだ! いろんな意味で!!!」

 

 

ハンターとしても、そして人としても負けている気がする……いや実際に負けているのだろう。

私よりも一つ年下だというのに、この男には様々な面で勝てる気がしなかった。

腕っ節は私よりも遙かに上。

細かな作業があまり得意でない私とは違い、裁縫も料理も出来る。

それだけでなく鍛造まで出来るのだ。

そんな男に勝てるなんてとてもではないが思わない。

 

 

だけど……並び立つ事は……出来るかもしれない

 

 

ハンターとしてこいつのパートナーとして……。

そしてそれだけでなく……こ、恋人としても。

ずっと寄り添っていたい。

 

ずっとそばで……支え続けていきたい。

 

だが、そこまで私は言葉で伝える事が出来ず……伝える勇気がなかった私は、静かに、ジンヤの胸に抱きついた。

 

 

「? おい、何を?」

 

「私は……お前の事が……」

 

 

だけど……その先の言葉が言えずにいる。

覚悟をしたはずなのに……たった一言……文字にして言えばたったの三文字でしかないというのに……私はそれを口に出してジンヤに伝えることが出来ない。

ジンヤも私が何かを告げるのがわかっているのか……抱きついたままの私を振り払うような事をせずに……じっと私の言葉を待ってくれていた。

 

しかし、その私の覚悟も……たった一つの出来事であっさりと終わりを告げてしまった。

 

 

グラッ

 

 

続きを言おうとした瞬間に……視界が盛大に歪んだ。

手にしていたグラスが溢れ、先ほどとは違った形でジンヤに体を預ける事になった。

ジンヤはそんな私を咄嗟に腕で捕まえて、どうにか床に崩れ落ちるのを防いでくれた。

 

 

『げ、これアルコール入ってる』

 

 

……何を言って

 

 

手に持ったグラスの臭いをかいで、ジンヤが何かを口にした。

それを訪ねようとしたのだが……口を開く事も出来ず、その瞬間には私の意識は途切れていた。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

あ~面倒な事に……

 

 

酒を飲んで意識を失った、今俺の腕の中にいる弟子二号に、俺は内心で溜め息を吐いた。

崩れ落ちそうなこの傍迷惑なフィーアを俺はどうにか持ち直し、脇と膝の裏に手を入れて、何とか両手で横抱きに体を持ち上げる。

いわゆるお姫様だっこで。

誤解を受けそうだが……しかしかといってこのドレスで素肌の露出が多いこいつを誰かに任せると問題が起こりそうで怖い。

そう思ってしまうほどに今のフィーアは綺麗だった。

 

 

だけど……

 

 

確かに綺麗だが……俺にとってはそれだけだ。

だが……こうして腕の中で肌の露出の多い美女を見ていると……何というか……こいつの事が心配になってくる。

 

 

だが人のことを心配している余裕は……今の俺には無かった。

 

 

……何を伝えようとしたのか…………

 

 

はっきり言ってしまえば、俺に何を言おうとしているのかは、わかっている。

だが俺はそれに応えるわけにはいかないので、俺から発言を促すわけにはいかない。

正直、このドリンクにアルコールが入ってくれていて助かった。

 

 

そう考える自分が……少し嫌だな……

 

 

答えるわけにはいかないのは事実だが……それでも握りつぶす事しか……無かった事にしようとしている自分が、少し醜いものに思えて仕方がなかった。

俺はそんな考えを首を振って、頭から追い出す。

そしてさも何も無かったかのように……俺はゆっくりと歩き出し、くだらないことをつぶやいていた。

 

 

「やれやれ。俺も一応男なんだがね」

 

 

こうして若い男に身を預けるのは今後考えさせた方がいいだろう。

明日にでも伝えようと思い……胸に暗い気分を抱えたまま、俺はフィーアを抱えてドンドルマの俺の自室へと向かっていった。

 

 

 

 

 




いかがでしたか!?
刃夜とフィーアのダンス、そしてダンス後の会話がもう書きたくて書きたくて!
確か……去年の十二月くらいからそう思っていたような……いや行き過ぎか?
でも二月頃にはもうここまでのシナリオ決まっていたし……数ヶ月単位で書きたかった箇所が漸く書けました!!!
しかし……あの胸だけで服を支えているようなドレスって……不思議ですよね。
純粋にあの服をどうやってきているのか知りたい。
まぁ作者はドレスよりも和服の方が好みなのですがw


とりあえず当面の危機が去ったドンドルマ。
最初こそお祭り騒ぎだったがそれもやがて沈静化し、穏やかな日常が戻ってきた。
しかしジンヤは穏やかではなかった。
夜ごとに○○を見て、さらにはモンスター討伐の時にあり得ない現象が発生して、再び変なあだ名をつけられる。
しかも大長老が直々に呼び出してきて?

挙げ句の果てにはレーファが何故か○○をやめると言い出して……


次章 第三部 第六話

「いろいろと変わる日常(仮)」


次回は戦闘ないっす……
本当は六話で次のモンスターとかち合うはずだったのに……
予定のシナリオを消化しようとするとどうしてもこの話を間に挟まざるを得ず……
短く書けなくてごめんなさい。

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