リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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宴の次の話であるこれで……古龍種に突入するはずだったのだが……相変わらず短く書けなくてすいません。
一応長いけど無駄に長いわけではないので……また戦闘が無いけど気長~に読んでくださると嬉しいです。
ちなみに大長老が出てきますが……小説紹介文にも追記しましたが、私はMHFやってないので、大長老がどんな口調なのか? どんなキャラクターなのか分かりませんので実際の人物? と違っても文句は受け付けません!

この物語は、フィクションであり、登場する人物や団体名は、実際に存在するゲームであるMHとは若干異なります!!!!

これが理解できた人のみ読んでください!!!!



色々と変わる日常

~レーファ~

 

 

「これで大丈夫ですか?」

 

「よくお似合いかと思います」

 

 

私の疑問に、その人は柔和な笑顔で答えてくれる。

接客のためお世辞を言っているのかもしれないけど……そんな感じはしなし、この人もプロだから、きっと本心でそう言ってくれているんだと思う。

この店に入って、この場所へと案内してくれた店員さんと一緒に話し合いながら、私は慎重に……ドレスを選んでいた。

 

 

といってもほとんどわからないから、店員さんにお任せしちゃったけど……

 

 

時折私の要望を聞きいてきてくれた。

私はこういう服を着るのは初めてだからうまく言葉で伝えることができなかったけど、店員さんは私のそんな拙いと言ってもいい言葉を十分に理解してくれて……。

そうして時間は瞬く間に過ぎていって。

パーティーの開始少し前にやっと、店員さんと私が納得できるドレスを見つけて、ようやく身につけられたのはこのドレスだった。

 

白色を基調にして、それを飾るように所々に蒼い布地がドレスを彩っている。

腰元には薄い青色の大きなリボンが飾りづけられていて、見てて愛らしい雰囲気を醸し出してくれる。

フリフリのスカートで、丈は邪魔にならない程度の長さで、膝下くらいまで。

首元に蒼い宝石の埋め込まれたブローチ。

綺麗すぎて触れるのをためらってしまう。

肘までの長さの手袋にも同じような宝石が埋め込まれていて、また薄い色の紫のラインが、手袋にアクセントを添えている。

 

 

「……綺麗」

 

 

ぼそりと……思わず私は呟いてしまった。

パーティーのためにうっすらと化粧を施された私が写っている。

けどこの鏡に映っているのが本当に私なのか、自信がなかった。

もしもこの目の前にあるのが鏡でなくて絵だって言われても……おそらく私は信じたと思う。

そう思えるほどに見違えていた。

 

 

「よくお似合いですよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

びっくりするほど変わった……変えてくれた店員さんに私は心の底から感謝した。

再度鏡を見て、そっと自分の頬に手を当ててみる。

鏡の中の私も同じ動きをしてくれる。

そのおかげであまりにも変わった目の前の私が、私なんだって……納得できた。

 

 

これなら……ジンヤさんも……少しは……

 

 

真っ先に思い浮かんだのは、私の命の恩人のジンヤさんのことだった。

 

あの日……お父さんのために特産キノコを「森と丘」まで採取に行って、私は三匹のランポスに襲われた。

ハンターでもない、私はそのまま何も出来ないままランポスに食いちぎられて死ぬしかないはずだった。

けど……そこでジンヤさんが三匹のランポスを討伐してくれて……私の命を救ってくれた。

それだけじゃなく、後日同じように「森と丘」に特産キノコを二人で採取に言ったときも、ランポスに襲われた。

その時私はジンヤさんと会ったときのランポスに襲われたときの恐怖で動く事すら出来なかった。

そんな私を見捨てないで、ジンヤさんは私の前に颯爽と躍り出て……。

けどその時ジンヤさんは怪我をしてしまった。

そうしてその後村に帰ったら尋常じゃない数のランポスが、村に押し寄せてきて……。

そしてそのランポスをジンヤさんはたった一人で討伐してしまった……。

それも素手で……。

 

 

素手で戦った理由が……怪我をしたのが私のせいじゃないって証明する事

 

 

「森と丘」で私を庇って怪我をしてしまったのを、ジンヤさんは気に掛けてくれていて……そしてそれを……私のせいじゃないって証明するためだかにジンヤさんは命を賭けて戦ってくれた。

 

 

そんなジンヤさんを好きになってしまうのは……仕方のない事だと思う。

誰よりもかっこよくて……誰よりも己という、確固たる自分と自信を持っていて……そしてどこか、寂しい雰囲気を……寂しい表情をする人。

私がそれを慰められたらって思う。

けど……

 

 

ただの子供でしかない私には……何もして上げる事が出来なかった

 

 

二度も告白したのに……ジンヤさんはそれに気づいてくれなくて。

ううん、気づいてくれないのもあったけど、言葉が通じていなかったって言うのもある。

でもあれだけの覚悟を持って言ったのに……気づいてもくれなかった。

恥ずかしくて……顔から火が出そうだったのに……。

 

 

だから私は!!!! 今日こそ!!!!

 

 

最近はジンヤさんがドンドルマで一時的に生活するようになっちゃったからあまり話せていないけど、それでも私の気持ちに変わりはない。

だから今日こそ……非日常的な空間と雰囲気のある今日こそ、私は再度想いを伝えようと決心していた。

だから、生まれて初めてのドレス選びで……本当は心臓が飛び出るんじゃないかってほどに緊張していたけど……頑張って選んだ。

 

 

なのに……

 

 

 

今私が見ているのは……何なんだろう……?

 

 

 

ジンヤさんと……フィーお姉ちゃん?

 

 

会場で少し迷ってしまった私は、遅れてパーティー会場へとやってきた。

生まれて初めての貴族のパーティーだから怖かったけど、私は頑張ってジンヤさんを探した。

黒い色の髪のジンヤさんだからどこにいても目立つはずだった。

……だからなのかな?

暗い……夜闇で暗くなっている外に出ていて……夜闇に埋もれているジンヤさんを見つける事が出来たのは……。

しかもその胸の中には……真っ赤なドレスを着た私のお姉ちゃんの様な存在の……フィーお姉ちゃんがいて……。

 

 

え……?

 

 

咄嗟に何を見ているのかわからなかった。

けど、遠くからでも見えるフィーお姉ちゃんのその表情は、今まで見た事もないような表情をしていて……。

 

 

ダッ!

 

 

それを見た瞬間に私は反転した。

見たくなかった。

否定したかった……。

けど今見た物は紛れもない現実で……

思わず涙がこぼれていった。

 

否定したくて……でもすることも出来なくて……。

 

ただ、その場から逃げ出す事しか……出来なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

あかい……

 

アカイ……

 

紅い……

 

赤い……

 

朱い……

 

 

 

辺り一帯を……朱い炎が、全てを包み込んでいた

 

土を……木々を……家を……家畜を……そして……

 

 

 

人間も……

 

 

 

朱い炎に炙られ、もしくは焼かれ、全てが真っ黒に……ただの消し炭へと姿を変えていた

 

辺り一帯の空気が……重かった

 

何故か?

 

人間や家畜が焼かれた事によって、空気中に脂肪分が飛散しているからだ……

 

俺はその焼かれている……焼かれてしまったその|村(・)を、ただ呆然と見る事しかできなかった

 

何かをすべきだったのかもしれない

 

だが何もする事は出来なかった

 

何故か?

 

全てが……手遅れだったから……

 

家々はほとんど全焼しており、原型をとどめていない

 

家畜は真っ黒な炭と化していた……ただ真っ黒に燃やされてもなお、黒々とした骨だけが地面に転がり、その存在があった事を無言に主張していた

 

人は黒こげになっていない|物(・)も多かった

 

だがそれは駆け寄って息が……まだ生きているのか確認する必要はなかった

 

何故か?

 

所々が……体の一部が欠損……吹き飛ばされている……死体が多かったからだ

 

老人も、大人も、子供も……男女問わずに……全ての人間が

 

 

ジーヤは優しいねぇ

 

 

いつも俺に笑いかけてきて、いろんな話を聞かせてくれたあの老婆も……

 

 

ジーヤ! 飯が出来たぜ! 食べながらまた話を聞かせてくれ!

 

 

人種の違う俺を受け入れて……談笑しながら食べて呑んだ……あの人も……

 

 

ジーヤ! ジーヤの剣教えてよ! 僕もジーヤみたいになりたい!

 

 

無邪気に笑って、俺に剣を教えてくれと……慕ってくれた子供達も……動かなくなっていた

 

火にさらされているはずなのに……その体は……ひどく冷たかった

 

 

………………なんだこれは?

 

 

俺はただそれを呆然と確認する事しかできない

 

そこではたと……あの子が……俺にとって大切なあの子がいない事に気がついた

 

 

いったいどこに!

 

 

俺は脇目もふらずに走り出した

 

いや実際はそう俺が思っていただけで、フラフラと……まるで幽霊のようにゆったりと歩いていただけなのかもしれない

 

そして……俺に……俺とあの子に取って思い出の場所とも言える、あの子の家へとやってきた

 

しかしその家も他の家々同様に……黒い灰になっていた

 

 

「■■■■■!!!!」

 

 

俺はそれを否定したくて……あの子の名を呼んだ

 

そして家の中を見て回り、中に骨が無い事にほっとしつつ、その家の周りを探し……やがてあの子を見つけて……

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

俺の世界は……崩れ落ちていった

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「……う」

 

 

その衝撃的で……悲しい過去を思い出して、俺はゆっくりと……身を起こしていた。

 

 

「……」

 

 

体中が汗でびっしょりだった。

まるで汗が体全体にまとわりつくように……。

そんな身体とは裏腹に、心はひどく穏やかだった。

いや、穏やかというよりも冷えていると言った方がいいかもしれない。

ふと外に目を向けると、まだ薄暗い。

そろそろ夜が明けるといった時間だろう。

だいぶ早起きだったが……それでも寝直す気にはなれなかった。

俺は直ぐそばで寝ている二匹のアイルー達……グラハムとジャスパーを起こさないようにそっと布団を抜け出すと……炉に火を入れてから、庭の露天風呂へと向かい、汗を流す。

 

 

バシャ

 

 

ちょうどいいお湯に調節してから、俺はそれを桶ですくって頭からかぶり……くらい気分を洗い流そうとする。

がそんな事が出来るわけもない。

 

 

嫌な気分だな……

 

 

俺は思わず、重い溜め息を吐いた。

 

 

ドンドルマでラオシャンロン討伐記念パーティーより早十日近く。

俺は、俺が自分で建てたユクモ村の自分の家へと帰ってきて、以前の生活に戻っていたのだが……その時ぐらいからだ。

 

 

俺が悪夢を毎晩見るようになったのは。

しかも、同じ夢ばかり……。

 

 

何だろうな……これは……?

 

 

俺はこの不可解な現象に頭を抱えるしかなかった。

思い出したくもない……完全に悪夢といってもいいあの光景が、毎夜寝るたびに夢に出てくる。

そして決まって最後にあの子の……遺体を見て……俺は飛び起きるようにして目覚めていた。

それでどうにかなるほど精神は柔ではないが……それでもこう毎日立て続けにこうなると気が滅入る。

鍛造作業に支障が出るほどではないが……それでもやはり面倒だ。

最近は……弟子が一人また増えて大変だというのに……。

 

 

いや、暫定的な弟子だったあの人を正式な弟子として迎えただけか……

 

 

しかも面倒ごとはそれだけではなかった。

というか疑問の度合いならばこの問題の方が遙かに深刻だったりする。

 

ラオシャンロンの危機が去ったとはいえ、それでモンスターが一斉におとなしくなるわけではない。

怪我の治った俺は、直ぐにギルドナイトとしての活動を余儀なくされたのだ。

それは別に良かった。

金はそこまでいらないのだが、未知の存在に出会い、そのモンスター達の素材を手に入れるのは確かに面白くもあったし、何より修行になる。

だが……ラオシャンロンを討伐して以来……。

 

 

「ピィギャアァァァァァ!!!!」

 

 

俺の気配を感じ取った瞬間に、赤いドラゴンハング野郎が洞窟の上へと張り付いて、そのまま外へと出ようとしたり……

 

 

「ガァァァァァ!!!!」

 

 

恐怖の代名詞とも言える、恐竜モドキはじりじりと俺から距離を取った後に、背を向けて全力で走り去るわ……

 

 

「ガギュアァァアァッァ!」

 

 

砂漠の覇者、黒い二本角も、俺から離れて必死になって砂に潜ろうとするし……

 

 

「キュワァァァァア!!!!」

 

 

挙げ句の果てには空の王者でさえも、俺と対峙した瞬間に、かわいらしい声を上げて一目散に飛んでいくわ…………

 

 

要するに…………何故だか知らないが、飛竜種が俺から逃げ出すようになったのである。

何故か俺を前にすると……親からはぐれた幼い竜のごとく震え上がり逃げていくのだ。

そのおかげで討伐に偉い面倒な課題(見つけたら逃げないように速攻討伐)が付加された上に、またドンドルマであらぬ噂が流れているらしい。

しかもありがた迷惑の二つ名のおまけ付き。

 

 

飛竜が恐れ、逃げ出す男、クロガネジンヤ

 

 

だそうだ。

二つ名なんぞどうでもいいが、面倒極まりないです。

しかもなんか最近、見慣れないまるで蛇のような小さな翼竜が様々なエリアで目撃されるようになった。

その竜の名前はガブラス。

何でも古来より、古龍が現れる前兆として忌み嫌われてきたモンスターらしい。

すでに古龍のラオシャンロンが出てきた後なのだから……出てくるのが一足遅かったと言えるだろう。

特に強くないのだが、その長い尻尾と口から吐いてくる毒液で、クエスト中に邪魔してくるからうざくてしょうがない。

また、温泉と食い物で多少有名になったこの村に、客が流れるようになったのだが……そいつら必ずと言っていいほどに、俺の家へと来るのだ。

 

用件? 決まってるよ!

 

 

「ジンヤ殿! 私に是非あなたの武器を鍛造してください!」

 

 

だそうだ。

そして俺は鍛冶士ではあるが鍛冶|屋(・)ではないので、どうにかしてあしらっているのだが……。

 

はっきり言って面倒ごとが多すぎて疲れる。

 

 

「キュゥ?」

 

「ん? どうしたムーナ? 随分早起きだな」

 

 

風呂に入って汗を流し、寝間着から訓練着である、ユクモノ道着に着替えて庭に出ると、随分と早起きをしたムーナが俺に近寄ってくる。

俺はそんなムーナの頭を軽く撫でてやった。

 

 

「キュ~」

 

 

普段ならば頭を撫でて上げれば喜んで頭を押しつけてくるのに、今日は俺の顔を舐めて来る。

まるで俺の事を心配して慰めてくれているかのようだった。

 

 

「? 何だ心配してくれたのか?」

 

「キュウ」

 

 

うん、とでも返事したのか、頷くと再びムーナは俺の顔を舐め続けてくる。

それに若干癒された。

その事に礼を言いつつ、俺は早速日課の訓練を行い始めた。

 

 

「ジンヤさん、お早うございます」

 

「……お早う」

 

「来たか、二人とも」

 

 

そうして庭で訓練を行っていると、二人の弟子が、正門から入ってきた。

結界は起きた時点で解錠してあるので入ってくるのに問題はなかった。

一人は少年リーメ。

片手剣使いで俺の弟子一号であり、俺が鍛造した刀、火竜刀「紅葉」を使っている。

 

 

「今朝も早いですね」

 

「あぁ……まぁな」

 

 

ちなみに、無駄な心配をさせるのもあれなので、悪夢の事は誰にも伝えていなかった。

そしてリーメと挨拶を交わすと、後ろで仏頂面をしている弟子二号へと声を掛ける。

 

 

「フィーア? どうした? 随分と不機嫌そうだが?」

 

「!? い、いや! 何でもない!」

 

 

話しかけるとものすごく慌てた様子で、そう返事をしながらそっぽを向いてしまう。

先日の貴族のパーティー以来こんな様子が長く続いている。

今更になって恥ずかしくなったのかもしれない。

ちなみに、あの後ドンドルマの俺の部屋に寝かせて鍵を閉めて、俺はギルドナイト本部の広間で一夜を明かした。

祭りに夢中になっていて、ほとんどの人間が出払っていたので、英雄とか言われて持ち上げられず、普通に寝ることができた。

 

 

「では訓練開始~」

 

 

二人にそれぞれ訓練用の得物を持たせると、俺はそう言って皆で訓練を開始した。

リーメはいつものように小太刀サイズの刃引きした真剣。

そしてフィーアは、それよりも遙かに長い……刃渡りだけで俺の身長と同じくらいの長さの野太刀だ。

これも当然刃引きされている。

 

 

「はっ!!!!」

 

 

ヒュン!

 

 

音に濁りのない、風を切り裂く澄んだ音が、俺の耳に入ってくる。

訓練を開始してまだそんなに立っていないが、フィーアもリーメほどでないにしろそこそこの技量の持ち主だった。

元々装備の中で最重量ともいえるガンランスを振り回していただけあって、体はすでに出来ている。

後は野太刀の扱いをたたき込んで上げればいいだけなので、はっきり言って簡単とも言えた。

しかしそれはあくまで俺が日本人……つまりは「斬る」ことを前提にした武器の存在をはじめから知っており、またそれの扱いをある程度知っていればの話だ。

この世界では「斬る」という概念が、狩猟武器に関して言えば存在しなかった。

そのために難航すると思っていたのだが……先ほども言ったが、リーメもそうだがフィーアもなかなかの腕前の持ち主だったので、すんなりと技術を吸収していた。

まぁリオスさんが作った鬼斬破を使っていたときも問題なかったのだが……。

 

 

免許皆伝くらいにはなったか?

 

 

フィーアの素振りを見ながら、俺はそんな事を思っていた。

この分だと、そろそろ与えてもいいかもしれない。

そう思っていると、家に近づいてくる人間の気配を感じ取った。

が、その二人の人間に覚えがあると直ぐにわかったので、俺は一旦修行を中止すると、家の正門へと向かった。

 

 

コンコン

 

 

「ジンヤさん~? いますか?」

 

 

聞き慣れた声に苦笑しつつ俺は正門を開けた。

するとそこには、突然開いた事に驚いているレーファがそこにいた。

一瞬暗い表情を見せるが、それもすぐになくなり、笑顔になる。

そしてその後ろにはリオスさんも控えている。

 

 

「ジンヤさん! お早うございます!」

 

「お早う」

 

「ジンヤ君。お早う」

 

「お早うございますリオスさん」

 

 

二人の……親子を中に入れて俺は正門を閉める。

リオスさんが来た時点で俺は、一旦修行を中止し、家の中へと入り着替えを行った。

ユクモ村の布素材で作られた厚手の作務衣だ。

その後にリオスさんもついてきており、俺と同じような格好をしている。

手には家から持ってきた長柄の鎚が握られている。

帯を締めて気を引き締めると、リオスさんに向き合い、こういった。

 

 

「では始めましょう」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

二人して頭を下げ合い、炉のそばへと向かって俺は制作途中のそれを取り出した。

 

先日、リオスさんが制作した鬼斬破を俺が何故ラオシャンロンの時に使用したのかと言うと……属性を帯びていたからだ。

狩竜はあくまでもただの鉄の剣。

それだけだと力不足だと感じたからこそ鬼斬破を預かったのだが……鍛え方が甘かったのか、折れ砕けてしまった。

俺の鍛造風景を見学しただけで作ったにしては上出来であり、しかも一ヶ月もの間フィーアが使っていても特に問題は見受けられなかったのだから問題は無いのだが……しかしそれでも、鍛え方が甘かったために鬼斬破は死んだ。

だから俺はリオスさんを正式に弟子にした。

本来ならばいけないのだが……リオスさんには恩もある。

それに未熟とはいえ弟子を取った以上、最後まで面倒を見るのが責任だと感じたからだ。

それになによりリオスさんにも才能がある。

それを腐らせるのはもったいないし、俺も彼の技術が吸収できればという下心もある。

勝手に秘蔵の技術を教えた事でいさんに叱られそうだが、それ以上に中途半端に教えてそれで終わらせることの方が、じいさんの逆鱗に触れそうだ。

そのため、ユクモ村に帰って以来、俺とリオスさんは連日連夜、俺の鍛冶場で熱心に鉄を打って、この世界と俺の技術を集めて、全く新しい武器を作り上げていた。

 

俺の日本刀の鍛造技術。

 

そしてリオスさんのこの世界の武器作りの腕、そして知識。

 

 

「やはりある程度身幅を厚くしないと刀身が持たないと思うのだが……?」

 

「それは確かに。ですが厚くしすぎると重くなる上に物を切断するにはその厚みは邪魔になる。誰もがすぐに使える、という事を考えると、適度な厚みを我々で見つけないといけませんね」

 

「斬る事が出来、そしてある程度の耐久性を持つ……という事か?」

 

「えぇ。俺が作った俺のための刀は特殊ですから、耐久性は普通程度あれば問題ないのですが、他の人間が使うとなるとそれではいけないですから」

 

 

正式に弟子として扱って以来、こうして二人で毎夜毎夜会話をし、必死に新たな武器を作り上げていた。

 

 

日本刀ではない……この世界……このモンスターがはびこる世界のための刀を……

 

 

カァン! カァン!

 

 

真っ赤になった鉄に、鎚を打ち込んでいく。

それらが終わると、次に土置きを行って……他にもいくつか作業をし……清水が一杯に入った水槽に、その鉄を投下した。

 

 

ジュウゥゥゥゥ!

 

 

熱によって水が蒸発し、多少とはいえ顔にその蒸気がかかるがそんな事は気にならなかった。

そして鉄の熱が完全に水に奪われると、水槽の水面が穏やかになった。

 

そしてその鉄を、俺は静かに自ら引き上げた。

 

 

ザパァ

 

 

水に浸されたために、多少いびつな形になっているが、何の問題も見受けられない。

手から伝わってくるのは、確かな鉄の感触だった。

俺が上に上げたその鉄を眺めているのを……リオスさんは固唾を呑んで見守っていた。

 

 

「……出来た」

 

 

ぼそりと、俺がそう呟くと、リオスさんが息を呑んで俺のそばへとやってくる。

他にもいつの間にか入ってきたのか、弟子二入にレーファまでもが、俺の言葉を待っていた。

そんなみんなに内心苦笑しつつ、俺はリオスさんに向けて右手を差し出した。

その右手を、リオスさんは右手で掴み、互いの努力を称え合うようにして、手を振った。

そしてそれから直ぐにリオスさんに、刀身にひずみを取り除かせ、反りや曲がりを整えて、鍛冶押しを行い、最後に細心の注意を払いながら研ぎを行った。

研ぎが終わると、リオスさんはそれを静かに……一切の色のない白い布で拭き、それを高々と上げた。

 

 

「完成だ!!!!」

 

 

その言葉に、全員が歓声を上げた。

リーメとフィーアは二人で握り拳を作り、レーファは父親であるリオスさんに抱きついていた。

俺は腕を組んでおり、リオスさんが掲げた刀に、万感の思いのこもった目を向けていた。

 

 

「ジンヤ君……ありがとう」

 

 

その言葉は少し震えていた。

俺はそれに頷くだけで返事をした。

出来たと言ってもまだ完璧に出来たわけではない。

これから柄やはばき、鞘を作らねばならない。

しかも全ての行程をリオスさん一人で行ったわけではないので、免許皆伝まで達した訳じゃない。

これからこれ以上の物を、リオスさんが一人で作り上げていかねばならないのだ。

だが、刀は……この世界のための刀は確かに完成したのだ。

 

刃渡り六尺。

柄長さは二尺。

身幅は普通の野太刀よりも若干厚めに造られており、その分重量が増しているが、それでもガンランスなんかよりは遙かに軽い。

野太刀でもここまで普通は長くないが……この世界の人間は基本的に怪物揃いなので問題ないと思われる。

とりあえず第一号として、シンプルに属性は付与させず、鉄鉱石、マカライト鉱石、大地の結晶……といった鉱石のみで加工された。

 

最後の行程として、リオスさんにこの刀の命名を任されていた俺は、|茎(なかご)の表に、静かに銘を切った。

 

 

鉄刀

 

 

この世界のモンスターに対抗するために造れた、全く新しい武器の誕生の瞬間だった。

 

 

 

 

「ジンヤさん。そろそろ時間です」

 

「む、もうか」

 

 

そうして皆でリオスさんが作り上げた鉄刀の完成の余韻に浸っていると、リーメがそんな事を言い出した。

その言葉を聞いて、俺は外の日の傾きを確かめると、確かに……大体九時頃と思われる時間になっており……俺は盛大に溜め息を吐いた。

 

 

「めんどくせ~。何故俺が行かねばならんのだ~」

 

「確かに面倒かもしれませんけど……ジンヤさん、大長老に会えるって言うのはすごい事なんですよ?」

 

「大長老ねぇ……。そっちから来てくれって話だが……やれやれ」

 

「あまり無礼を言うなジンヤ」

 

 

そうして俺がぶちぶちと文句を言っていると、フィーアが俺にそう声を掛けてきた。

俺は面倒くさそうに(実際面倒)フィーアへと目を向ける。

 

 

「大長老は、最長寿の竜人族でドンドルマの実質的な支配者といってもいいほどの方なのだぞ? あの人のおかげでドンドルマは一大都市になったと言っても過言ではないんだ。それほど統率力、知識などに長けた偉人とも言える人なのだ。その人に目通り出来るなんて……名誉な事なんだぞ?」

 

 

そう言われてもな……

 

 

面倒な事に代わりはない。

名誉かもしれないが……それで腹がふくれるわけではないのだ。

 

 

「用件はラオシャンロンを討伐したジンヤへの報償だって言うから、行って損はないだろう?」

 

「そうかもしれないが……やれやれ」

 

 

まぁ確かにそうかもしれないし、会うのもやぶさかではないが……面倒な事に違いはないのであった。

だが、行かないとまたぞろディリートが何か言ってくるに違いない。

それにドンドルマの支配者というのならば、その人にムーナに対してお願いを言う事も不可能ではないだろう。

前回の貴族のパーティーで、貴族たちがムーナに対して、何も逸物を抱えていないとわかったが、油断は出来ない。

ここは万全を期して行くべきだろう。

 

 

「しょうがない行ってくるわ」

 

 

普段通りの格好をし、そしてとりあえず念のために夜月と花月、そして水月を装備して、さらに信号弾を装填した月火を装備。

そしてユクモ村出張所にある気球で、俺は単身でドンドルマへと向かっていった。

 

 

 

 

「おぬしが……クロガネジンヤか」

 

「はっ。いかにも。ユクモ村所属ハンター、鉄刃夜でございます」

 

 

それから約一時間後。

俺はドンドルマのもっとも最奥にある、立派な建物の中「大老殿」の、とある一室へと招かれて頭を垂れていた。

眼前には……これ本当に人? と言いたくなるほどの巨体(っていうかもはや巨人?)の大長老が専用の巨大なイスに腰掛けていた。

両の手を膝の上に置いており、その総身からは独特な凄みを感じ取る事が出来た。

フィーアの言っていた事はどうやら誇張でも嘘でもないようだった。

 

 

「まずは此度、私からの呼び出しに応じてくれて感謝する」

 

「はっ」

 

 

声を上げると、その声にもなかなかの気迫が漂っており、なるほど、知識だけでなく腕にも自信があるというのがうかがえた。

 

 

「ラオシャンロン討伐の件、誠に大儀であった……。ドンドルマの全住民を代表し、礼を申し上げる」

 

 

そう言うと、俺に対して頭を下げてくる。

そうすると周りの人間からどよめきが上がった。

未曾有の危機を救ったとはいえ、若造に過ぎない俺に頭を下げてくると言うのは、はっきり言って予想外だったので、俺も思わず唖然としてしまう。

 

 

「だ、大長老殿。頭をお上げ下さい。私はただ当然の事をしたまでです」

 

「ありがとう」

 

 

再び礼を言うと、大長老は頭を上げて、再度俺へと目を向けてくる。

 

 

「さて、今回来てもらったのは、おぬしに褒美を与えるためだ」

 

「恐れながら、その事なのですが大長老。褒美はいりません」

 

「ぬ? 何故だ?」

 

「いらないと言うよりも……褒美として、私のお願いを聞いてくださらないでしょうか?」

 

 

今度は俺が頭を下げ、懇願する。

先ほどから見ている限りでは、この人ならば俺の願いを叶えてくれると思ったから、俺は素直に頭を下げる事が出来た。

 

 

「願いとは?」

 

「大長老もお耳に入っているかと思いますが……私の家族、火竜リオレウスのムーナのことです」

 

「あぁ、噂の」

 

「はい。どうか大長老の力で、ムーナに手を出そうとする連中の抑止を、お願いできませんでしょうか?」

 

 

これはお願いでもあり、脅しでもあった。

ドンドルマの実質的な支配者と言うのならば、先日のムーナ捕獲のための貴族、ザンマルトが行った行為は知っているはずだ。

この大長老が、あんな非道を許すとは到底思えなかった。

そしてその通りで、ディリートから聞いた話だが、大長老があのザンマルトに対して厳しい処罰を行ったというのは聞いていた。

貴族さえも罰する事の出来る権力者ならば、ああいった行為を抑制してくれ無いかと思ったのだ。

俺一人でムーナを守るのは容易だが……ユクモ村の住民全てをカバーするのは難しい。

大長老も阿呆では無いだろうから、すでに何らかの対策は施しているかもしれないが……それでもさらに対策を行ってもらう方が確実だ。

ましてや貴族の暴走を許したのはこの大長老なのだ。

もしもこの願いが通らないのであれば……ドンドルマを敵に回すつもりでここに来たのだ。

それを言葉と、自身が纏う雰囲気に乗せて俺は大長老へと再度頭を垂れた。

 

 

「無礼者! 大長老に何という殺気を当てるつもりだ!」

 

「黙っておれ」

 

 

そばに控えていた……俺の半分ほどの身長しかない老人が何か言ってくるが、それを大長老が制止した。

その言葉は先ほど以上に圧倒的な気配が含まれていた。

そしてそれを目線にも込めて、俺を見つめてくる。

俺はそれを真っ向から受け止めた。

少しの間互いに睨みあう……。

 

やがて……

 

 

「ふっ。ふぁっはっはっは」

 

 

大長老が一気に破顔すると、その口元の髭を撫でながら盛大な笑い声を上げた。

 

 

「儂の視線を真っ向に受け止めるとはやるな若いの」

 

「お褒めいただきこうえ……」

 

「堅苦しい言葉はよい。普通に話そう。敬語もいらぬ」

 

 

大長老は愉快そうに笑うと、控えている竜人族の女性に目で合図を送る。

その人がそれに対して頷くと、俺の後ろを通り抜けて、一端部屋から出て行った。

 

 

「愉快だ。真に愉快だ。おぬしのような気骨者がいてくれて儂は嬉しいぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

何がおかしいのかわからないが、大長老はひとしきり笑うと、直ぐに呼吸を整えて先ほどの真剣顔つきになった。

 

 

「安心するがいい。すでにそれに関しては手を打ってある。勝手に手続きを行って申し訳ないが、こちらとしても早くに対処したかったのでな」

 

「はい……」

 

「さておぬしのリオレウス……ムーナと申したか? その飛竜に関しては、儂の家畜……と言う事になっておる」

 

「はい?」

 

 

その言葉に、俺はこの場に来て純粋に素の声を出してしまった。

ムーナが大長老の家畜?

どういう事だ?

 

「そう急くな。儂の家畜といってもそれはあくまで書類上だけでおぬしの家族である事に代わりはない。だが、もしもそのムーナを手に入れようとして卑怯な手段を講じたり……もしくは直接ムーナに手出しをすれば……儂に刃向かってきたのと同じ事になる」

 

「あぁ、なるほど。つまり」

 

「うむ。つまり、儂が死なぬ限り、もうムーナに手を出す事は誰にも出来んという事だ」

 

 

ドンドルマの実質的支配者、大長老。

ドンドルマは大陸随一の都市といっても過言ではない。

そんな大長老に手出しをするのがどういう事なのか?

赤子でもわかるほど簡単な事だ。

だから貴族達も、パーティーで俺のムーナに関して腹黒さを抱えていなかったのだろう。

 

 

「ご尽力いただきありがとうございます」

 

「いやこちらこそ。対処が遅れてしまってすまなかった。さすがにこんなケースは初めてでのう。対処に時間がかかってしまった」

 

「いえ、一応みんな無事ですので。では私はこれにて……」

 

「まぁ待て。先も言ったがそう急くな。まだ褒美を渡しておらんだろう」

 

「? 褒美はムーナの件では?」

 

「勝手に解釈をするな。それはすでに終わっていたといったろう? もうじき来るはずじゃ」

 

 

するとタイミング良く、先ほどの女性が幾人かの人間を引き連れやってきた。

行くつかの箱が箱暴れてきて、それを地面に置くとそれを運んできた人間が蓋を開けた。

そこには……

 

 

「これは?」

 

 

中に入っていたのは、意外な事に金ではなく、様々な素材が詰め込まれており、また食材も豊富だった。

 

 

「ディリートより話を聞いていたのでな。金よりもこういった報酬の方が嬉しいと思ってのう。そしてこれをそなたに渡したい」

 

 

そう言うと大長老自らが歩み寄ってきて、俺に何か……さびた鉄塊とでも言うか……両手で抱えられるほどの、太古な感じ(意味不明)のする小さな塊が渡された。

 

 

「何ですかこの物体?」

 

「これはラオシャンロンが消えたときに、ラオシャンロンの角があった場所にあった物だ。ただの岩にしては異様な雰囲気を放っておる上に、何かを感じる。ラオシャンロンが消えてしまったが、それがラオシャンロンが落とした物だというのならばおぬしに渡すのが筋だと思ってのう」

 

 

その声にはふざけた様子はなかった。

確かにこれには何か……特殊な感じがする。

大長老が言うように、もしもこれがラオシャンロンの角付近に落ちていたというのならば、俺に渡すというのも筋が通っている。

俺はそれを一旦脇に置くと、先ほどとは違い正座をして座り、静かに大長老へと頭を提げた……。

 

 

「いろいろと気を遣ってくださり、ありがとうございます」

 

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう。ドンドルマを救ってくれて」

 

「いえ。ドンドルマを救ったのは私ではありません……」

 

 

俺は一旦頭を上げると、大長老に向かって毅然とした表情でこういった。

 

 

 

「ドンドルマを救ったのは……ハンター達です」

 

 

 

確かにとどめを刺したのは俺かもしれないが、それで俺だけがドンドルマを救った事にはならない。

実際、情けない事に俺だけでは絶対に倒す事は出来なかったのだ。

爆弾を抱えての神風特攻までしたやつもいたのだ。

ここで俺が大長老の言葉を首肯しては彼らが報われない。

だから俺ははっきりと否定した。

 

 

「そうだな……」

 

 

俺の思いが伝わったのか、大長老は深い息を吐いた。

その顔には、明らかな悲しみの感情が含まれていた。

ディリートから聞いた話によれば、神風特攻を行ったのは、大長老が運営する孤児院出身のハンターらしい。

それで心を痛めているのかもしれない。

 

 

チラッ

 

 

俺はそれを見て、後ろにある褒美を盗み見た。

確かに金に余り興味はないが……それでも相当な金額になりそうな報償。

 

 

ムーナの事もそうだが、もらいっぱなしってのもあれだな……

 

 

「大長老殿」

 

「? 何だ?」

 

「もらってばかりではあれですので……ムーナの件の返礼として、私からも献上させていただきたいと、思うのですが」

 

「ほう? それは?」

 

「私がラオシャンロンを討伐するときに使った、武器、|斬老刀(スサノオ)を」

 

 

その俺の言葉に、再び部屋が騒然とした。

ラオシャンロンを討伐した時に使用した野太刀、|斬老刀(スサノオ)は、ちょっとしたというか相当有名な武器になっていた。

何せラオシャンロンを倒した武器なのだ。

事実としてはラオシャンロンのマナの制御装置である角を破壊しただけなのだが……。

 

 

「尻尾を切り落とし、さらにはラオシャンロンを討伐せしめた武器を……儂に?」

 

 

どうやら大長老もその申し出は意外だったのか、声に驚きの感情が交じっていた。

俺はその言葉の内容に内心でため息をつきつつ、だが外見上は特に変化なく頷いた。

何故だか知らないが……|斬老刀(スサノオ)がラオの尻尾を斬った事に成っていた。

経緯のほどはわからないが……鬼斬破と|斬老刀(スサノオ)の区別を一般人がするのは難しいかもしれない。

もしくは伝言ゲームよろしく、どんどん脚色されていったのかもしれない。

別にどうでもいい事なので訂正もしないし、する気もなかった。

 

 

「しかし、それは折れたと……聞き及んでいるが?」

 

「確かにその通りですが……あれを溶かして一から鍛えなおして献上させていただきたく……。素材そのものは|斬老刀(スサノオ)の素材を使います」

 

 

俺が自分のために打った刀というのは全て『気』を使用するのを前提に鍛造されている。

それを人に寄贈しても、それこそまさに宝の持ち腐れになってしまう。

更に長さがちょうどいいとはいえ折れてしまったので、俺は|斬老刀(スサノオ)を溶かして玉鋼にして、再度打ちなおそうと思ったのだ。

あの長さの野太刀が俺の手元にあっても、死蔵する事に成りかねない。

|宙に浮く(・・・・)ような能力のない俺には……つまりは|地面(・・)がある以上、この長さの得物を縦横無尽に振り回すのは難しい。

それに俺にはすでに狩竜がいる。

これ以上あっても無駄なだけだ。

正直箪笥のこやしになるよりも、誰かにもらわれた方が刀も幸せなはずだ。

 

 

「是非とも、ムーナの恩人に受け取って欲しいのですが……」

 

「……わかった。ありがたく頂戴しよう」

 

 

俺の意図を察したのかどうかは謎だが……大長老ははっきりと頷いた。

 

こうして、大長老との会見はつつがなく終わり……俺は荷物の手続きを行うと、大長老より直接渡された太古な感じのする小さな塊を持って、ユクモ村へと帰還した。

 

 

 

 

「それで大長老様に、差し上げる事になったんですか?」

 

「あぁ。もらいっぱなしってのはさすがに気分が悪い。あの人も結構出来そうな感じがしたから、あの人ならばこれを献上しても俺的には問題はない」

 

 

帰ってきて、すぐに鍛冶場にこもった俺に問うてきた、レーファの疑問に俺はそう答えた。

またムーナの処理も皆に伝えると、誰もが一安心した、といった具合に安堵の溜め息を吐いた。

ザンマルトによる誘拐事件はまだ記憶に新しいから無理からぬ事だろう。

 

 

迷惑掛けてばかりだな

 

 

とりあえず俺は鍛冶場で|斬老刀(スサノオ)を溶解させて新しい玉鋼を造り、そしてそれを割って選別していき、とりあえず材料だけでも調えた。

鍛造には時間がかかるのでとりあえず今日の作業をこれで終わらせると、俺はフィーアを呼び出した。

 

 

「……なんだいきなり?」

 

 

呼び出したと言っても、俺の家の庭で訓練していたフィーアを呼んだだけなのだが。

タオルで汗を拭きながら、フィーアは何故か俺と顔を合わせようとせず、俺の対面へと座った。

 

 

今頃になって恥ずかしくなったのか?

 

 

前から……あのダンスを踊った日からそうだが、こいつは俺と目をあわそうともしない。

別にいいのだが……あまり気分がいい物とも言えない。

 

 

……まぁ分かりきったあの言葉の続きに関して何も言わない俺が……何か言えたもんじゃないか……

 

 

だが、応えるわけにはいかないので、俺はあえてあの時のことを蒸し返さないようにしていた。

まぁ、仮にきちんと言葉で伝えてきたら……答えはするが……。

 

 

……まぁいい

 

 

俺はフィーアを待たせたまま、一旦立つと、鍛冶場の壁掛けに掛けられている、一振りの野太刀を取ってきて、フィーアの前に立ってそれを突き出した。

 

 

「……これは?」

 

「約束の品だ。受け取れ」

 

「……へ?」

 

「忘れたのか? お前のための武器を造ってやると言っただろう? それがこれだ」

 

「あ、あぁ!!!」

 

 

最初こそ何を言っているのかわからないと言った表情をしていたが、合点がいくと両手で恭しくそれを手に取った。

 

リオスさんとこの世界のための刀を作り上げるのと平行して……リオスさんの技術を若干盗み、それを使用して鍛造していた野太刀。

刃渡りは、この世界のために生み出された鉄刀と同じの六尺。

柄長さは二尺。

外観はフィーアから借りて(元々俺が自分で買った物だが……)折れ砕いてしまった、鬼斬破と同じ外観をしている。

黒い鞘に紫の帯のような紐。

砂鉄より生成された良質な玉鋼を惜しみなく使用し、あらん限りの気を込めて制作した。

正直、俺が使用している武器並みに、強い武器が生まれたと言っても過言ではない。

また余っていた素材である、電気袋を全部使用して、刀身に電気を帯びさせた。

 

 

リオスさんが『斬る』武器を完成させてしまったが……それでも元祖といえるのは日本刀の技術だ

 

 

妙なプライドが発動し、鬼斬破……つまり鬼を斬り破るという刀に対抗して……俺はこの刀にこんな名前をつけた。

 

 

モンスターを……斬り破る刀……

 

 

フィーアのために俺が全身全霊を込めて作り上げた野太刀。

 

 

 

銘を『斬破刀』

 

 

 

リーメの火竜刀『紅葉』に勝るとも劣らない出来の刀だった。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

こ、これが……私の剣?

 

 

目の前に立ったジンヤが突き出してきた武器……それを私はまるで壊れ物に触るかのように、慎重に受け取った。

ジンヤの最大の得物である、狩竜よりも少し短い程度の長さ。

依然使用していたリオスさんの鬼斬破よりも長いが、使っている鉄の量は少ないのか鬼斬破よりも軽かった。

そしてそれを静かに私は解放した。

 

 

シュラン

 

 

鉄と入れ物がこすれる音がして……それはとても耳に心地いい音だった。

陽光に照らされたその刀身は磨かれた鏡のように美しく……だが鏡と違ってその刀身の鉄の輝きは複雑に富んでいてすごく魅力的だった。

私は感動に震えて思わず涙を流してしまった。

そんな私をジンヤは満足そうに見つめていた。

 

 

「に、庭で素振りしてもいいか!?」

 

「お前のだ。好きにしろ。斬破刀という名前だ。大事にしてやってくれ」

 

 

その言葉に大きく頷くと、私は庭に躍り出てその剣を力一杯振った。

 

 

パリ バリ

 

 

すると大気に触れたその刀身から淡い光が発せられた。

見た目から言って電気を纏っているようだった。

鬼斬破でよく見ていたので直ぐにわかった。

そして鬼斬破よりも長いはずのその剣は、とても振りやすく、また空気を切り裂く音がより明瞭に聞こえてきた。

 

 

「す、すごい……」

 

 

私が夢中になって振るっていると、私と同じように庭にいるリーメが思わずといった感じに言葉を漏らしていた。

私はそれにも取り合わずにひたすら子供のように剣を振るった。

 

 

だから……私の妹の様な存在のレーファが、ぶすっとしているのに気がつかなかった……

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

喜んでくれてなにより……

 

 

庭で、まるで新しい玩具を与えられた子供のように夢中で斬破刀を振るっているフィーアを見て俺は苦笑せざるを得なかった。

最初こそ厄介な弟子二人目と思っていたが……なかなかどうしてフィーアも才能を持っている人間で、またフィーア自身も好感の持てる女性だったので、俺自身も造っていて楽しかったし、何よりこうして喜んでくれると嬉しいし、造った甲斐があったという物だ。

 

 

「ありがとうジンヤ! 大事にする!」

 

「当たり前だ愚か者」

 

「でも……」

 

「でも?」

 

「あ、いや別にいいんだ」

 

 

先ほどまで無邪気に振るっていたのに、俺に礼を言った途端に急に表情を曇らせた。

俺はそれが気になって、言いにくそうにしているフィーアに、目で言うように促した。

するとフィーアも思った事を口にした。

 

 

 

 

「私が鍛造して欲しいと言ったのは……剣じゃなくて|槍(ランス)なんだが……」

 

 

 

 

…………………………あっ!?

 

 

 

 

そう言われて俺も記憶の片隅にあった約束の内容を思い出した。

そもそもフィーアに武器を作るきっかけになったのは俺が庭で鎌槍の|蒼焔(あおほむら)を使って訓練を行っていて……それを見たガン|ランス(・・・)使いのフィーアが見た事もない|槍(ランス)を見て私も欲しいと言い出して……。

 

 

 

ぬかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 

 

「その……これはつまり……」

 

「?」

 

 

俺が愕然として膝を突いていると、フィーアが何か悪いことを考えているといった笑みを浮かべた。

邪な感じはしないが……何か企んでいる表情だった。

 

 

「もう一つ武器を鍛造してくれるという事でいいんだよな?」

 

「ぐぅ!?」

 

 

ニマニマ笑いながらそんなとんでもない事を口にしやがった!

 

 

「お、お前! 斬破刀だけでは不足だって言うのか!?」

 

「そうじゃない! すごく感謝しているけど……やっぱり|槍(ランス)だって欲しいんだよ!」

 

「お前その刀いくらすると思ってるんだ!? その刀、ドンドルマで売るとなるととんでもない額に設定してもいいくらいの刀なんだぞ!?」

 

「でも約束は約束だろう?」

 

 

ぐぬぅ……

 

 

そう言われれると何も言い返せなくなる。

しかも俺が嫌がっていると思ったのか、先ほどの悪戯を思いついた笑みと違い……遠慮がちだが、それでも俺に造ってほしいと、懇願している感じになっていて……。

 

 

「はぁ。わかったよ」

 

「本当か!? ありがとうジンヤ!」

 

 

そしてこうして笑顔を向けられると何も言えなくなってしまい……。

しょうがなく俺は|槍(ランス)を造る事を了承すると、素材で何が余っているのか見るために鍛冶場に引っ込もうとした……。

その時だった。

というか気づくべきだった。

 

この場には……弟子|二(・)号だけでなく、弟子|一(・)号もいる事に……。

 

 

 

 

「……いいなぁ」

 

 

 

 

ぼそりと……そんな声が俺の耳に入ってきた。

このとき、俺は自分の聴覚の良さを呪いたくなる気分だった……。

……もしもこのまま気づかず鍛冶場に行けば鍛造せずにすんだかもしれない。

 

 

ぎ、ぎ、ぎ、ぎ

 

 

まるで油の切れた機械が稼働するかのように……実に変な動きで俺の首が回転する。

そしてその首を向けたその先には……自分の愛刀である火竜刀『紅葉』を鞘に収めてこちらを見つめてっていうか……見上げている感じのリーメがいた。

 

そしてそのリーメの後ろには……尻尾を下に垂らしている子犬が見える。

 

 

「あ、あのジンヤさん、その……」

 

 

そう言いながらリーメが俺の方へとよってくる。

そして近づいてくると、その後ろの子犬が激しく尻尾を揺らしているように見えた。

 

まるで何かをおねだりするように……。

 

 

「さ、さて! 俺は鍛冶場にこもるぞ!!!」

 

「その、僕にももう一つ……」

 

「籠もらせて!!!! お願いだからぁぁぁ!?」

 

 

しかし逃げる前にリーメが素早く俺の服の裾を掴むと、狙っているのか狙っていないのか不明だが、上目遣いで俺を見上げてきて……。

しかもその目には純粋に俺に武器を造ってほしいという……余りにも純粋な気持だけが込められており……。

 

 

目が、目があぁぁぁぁぁぁぁあ!

 

 

子犬の懇願ビームは|非情(・・)に強力だった。

そしてその光線の前に……俺は敗北した。

 

 

「わかった! わかったよ! リーメ! お前のも造ってやるよ」

 

「本当ですか!?」

 

 

俺が折れると嬉しそうにリーメがはしゃいだ。

懇願しつつも、余り期待していなかったのかもしれない。

 

 

やれやれ……とんでもない失敗してしまったな

 

 

槍を造るはずが、うっかり野太刀を造ってしまったために、偉い手間を被ってしまった。

しかもそのせいでリーメの分まで新しく武器を鍛造する羽目になってしまった。

はっきり言って二度手間以外の何物でもない。

だが……。

 

 

いつも世話になっているから、礼にはちょうどいいか……

 

 

額だけで考えればとんでもない事になるが……。

だが正直金なんてどうでもいいのだ。

こいつらが喜んでくれればそれでいいと思えてしまう。

自分のうかつさや、二人のリアクションに苦笑しつつ、俺は今度こそ鍛冶場へと入って、余った素材の選別に取りかかった。

 

 

このとき……俺がバカだったと……もう少し周りに目を向けるべきだったと……俺は後に後悔する事になる。

 

 

 

 

翌朝。

いつもの日課を行い、そしてユクモ村のギルドナイト出張所に向かって行くと、本日は特に俺宛の依頼は無いという事だった。

つまりは久しぶりのオフである。

なので俺は久しぶりに和食屋に行って料理の腕を振るう事にした。

 

 

のだが……

 

 

「レーファが来ていない?」

 

「そうですニャ。珍しく遅刻ですニャ」

 

 

和食屋に行くとあわただしく開店の準備を行っているグラハムやジャスパー、それに他のアイルー達の他にいつもいるはずのレーファの姿が見えなかったので、俺がそばのアイルーを捕まえて聞いてみると、そんな言葉が返ってきた。

 

 

珍しいな……いや、元に戻ったと言うべきなのか

 

 

最近こそ寝坊しなくなったレーファだが、俺がこの世界に来て、この村に厄介になった当初は、それはそれは寝起きの悪いお嬢さんだったのだ。

何故かフィーアを弟子に迎えて辺りから早起きして俺の家に来るようになっていたのだが……今日は来ていないので心配していたが、和食屋にいるだろうと高をくくっていたのだが……。

 

 

「まだ家か?」

 

「それはわからないニャ」

 

 

まだ開店時間に余裕があるとはいえ、戦力が足りない事に代わりはない。

俺は仕方なく、リオスさんの家へと足を運んだ。

 

 

 

 

和食屋から少し離れた大通りに面した家の一角、リオス武具店。

俺はその建物の道路に面した店への入り口ではなく、勝手口からその中へと入っていく。

入ってすぐに、リビングへ向かおうとしていたラーファさんと出くわした。

 

 

「おはよう、ジンヤ君」

 

「おはようございます、ラーファさん」

 

 

勝手に入ってきたこと特に何も言わず、少し眠そうな表情で、俺に対してそう挨拶を交わしてきてくれた女性。

その表情からは友愛の感情がすごくにじみ出ており、なかなかに美人だった。

ラーファさん。

レーファの母親であり、俺よりも背丈は低く、普通体型で髪の色が薄い紫色なのが特徴。

 

 

「今日はどうしたの?」

 

「いえ、レーファはいますか?」

 

「あら、そっちに行ってないの? 最近は自分で早起きするようになってたのに」

 

 

少し心配になったのだが、気配を探ると直ぐに二階のレーファの部屋にレーファの気配を感じ取った。

その事に安堵しつつ俺はラーファさんに許可を得て、二階へと上がっていった。

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

一睡も出来なかった……

 

 

窓から差し込んでくる……夜明けの白い光を見ながら私は重たいまぶたをこすった。

でも何故か起きる気になれなかった私は……本来ならば起きないといけないのに、寝返りをうった。

 

 

フィーお姉ちゃんもリーメさんも、ハンター……

 

 

ハンターであるか否か。

たったそれだけのはずなのに、それだけで三人は私には全くわからない世界を作り上げていた。

その事に昨晩悩んでいるうちに朝が来てしまったのだった。

 

 

「起きろ、レーファ」

 

 

そうして私が布団で寝っ転がっていると、ジンヤさんが私の部屋にノックもせずに入ってきた。

 

 

ジンヤさん!?

 

 

突然の来訪に驚いた私だったけど……少し前まではジンヤさんが毎朝私の事を起こしに来てくれたのだ。

今以上に恥ずかしい姿なんて見られているはずなのに……何故か私の顔は真っ赤になった。

 

 

「? 何だ起きてるじゃないか?」

 

「は、はい。おはようございます」

 

「おうお早う。どうしたんだ今朝は? もう開店準備始めてるぞ?」

 

 

えっ!?

 

 

その言葉に、私は跳ね起きた。

起きなきゃいけないと思っていたけどそんな時間になっていたとは思わなかったからだ。

 

 

「速く着替えて一緒に行こう。俺も今日は依頼が無いから和食屋で仕事するから」

 

「!? ほ、本当ですか!?」

 

「? 嘘言ってどうする?」

 

 

久しぶりに一緒に入れることが嬉しくて……嬉しさのあまりに大声をだしてしまった。

私の反応が過剰で、ジンヤさんがにじり寄った私から一歩引くようにして、私に返事をする……ジンヤさん。

 

 

クロガネジンヤさん

 

 

私が、特産キノコを採りに、森と丘に一人で行ってランポスに襲われていたときに助けてくれた命の恩人。

見たこともない服装に、見たことのない髪と目の色。

さらに見たこともないような細長い剣を持って、私の前に現れて私を守ってくれた人。

 

 

そして……私の……す、好きな人……なんだけど……

 

 

「レーファ?」

 

 

そうやって考え事をしていると、ジンヤさんが私の顔をのぞき込んできた。

 

 

「っ!?」

 

 

突然のことで、私は思わず息をのんでしまう。

しかし、ジンヤさんはそれに取り合わずに、私の額に自分の手を当ててきた。

 

 

「熱は……ないみたいだな……」

 

 

純粋に私の事を心配してくれるのだけれど……それは私にとって望んだ事では無くって。

ジンヤさんは手を離す、私の頭に手を乗せて撫でてくれた。

 

 

「体問題ないだろ? 起きろ。仕事に行くぞ」

 

 

そうして私の手を引いてそのまま部屋を出ようとするんだけど……って!?

 

 

「ジンヤさん! 寝間着のままじゃいけません! 着替えさせてください!」

 

「む、すまん」

 

 

漸く気づいた、といった感じにジンヤさんが手を離して、部屋の外へ行ってくれた。

その背中がひどく遠くて……そして着替えといっても何も思っていないのがすごくよくわかって。

 

 

いつまで経っても妹扱い……

 

 

そこで私は今更ながらにとあることに気がついた。

 

 

そういえば、私……ジンヤさんのこと何も知らない……

 

 

その笑顔からどうしてか私はそんなことを考えてしまった。

ジンヤさんは強い。

そんなことは村の誰もが知っている。

ランポスを素手で倒したこともあるし、イャンクックも、リオレウスすらも倒してしまった人。

武器の鍛造も出来て、料理も出来て、建築だって出来てしまう。

 

 

でも……それしか知らない……

 

 

そう、私だけでなく、全ての人がたったそれだけのことしかジンヤさんのことを知らなかった。

家族構成や、どこで生まれ育ってどんな人生を送ってきたのか……。

その全てがわからない。

 

 

ううん。一つだけわかってる事がある

 

 

それは、ジンヤさんに妹がいる……という事だった。

 

 

レミルちゃんが誘拐されたときに……私はその場にいなかったけれどフィーお姉ちゃんやリーメさん、レグルお兄ちゃんお父さん、村長さんが、ジンヤさんがそう言ったって言っていた。

 

 

最初は言葉も通じなかったんだから、少なくともこの大陸の人ではないんだろうけど……

 

 

この大陸で、自分のことを知っている人間が誰もいない。

今更になって私はジンヤさんがどんな状況であるかを再確認したのだった。

 

 

「……レーファ? 大丈夫か? 気分が悪いんなら休んでもいいんだぞ?」

 

「ご、ごめんなさい! 直ぐに着替えます!」

 

 

いつまでも出てこない私を心配してか、ジンヤさんが声を掛けてくる。

 

 

……体のことを心配してくれたのは嬉しいけど、やっぱりそれだけなんだ

 

 

なんとなくわかっていたことだけど、私は確信した。

ジンヤさんは私のことを妹としてしか見ていない。

昔からそんな感じはしていたけど……妹がいるって言うのなら納得できる所はいっぱいあった。

だから私はその人と同列で見られているのかもしれない。

 

 

そんなのいやだ……

 

 

そのことが嫌だった……つらいと思った。

ジンヤさんに、一人の女の子として……特別な人として見て欲しいと思った。

だけどその前にジンヤさんのことが知りたいと思ったのだ。

ジンヤさんに妹がいた……私と似ていたのかもしれない。

なら他の家族は?

こ……恋人はいたのか?

いろんな事を聞きたい!

 

 

そして……

 

 

その妹と私は違うんだって知って欲しい。

私はレーファであってジンヤさんの妹じゃないんだって、認識して欲しい。

だからジンヤさんの妹との違いが知りたくなった。

それになりより、ジンヤさんのことがもっと知りたくなった。

そしてそれ以上に……もっとジンヤさんと一緒にいたかった。

 

 

「ジンヤさん!!!」

 

「? なんだいきなり大きい声で?」

 

「き……今日! お店が終わったら……私からお願いがあります」

 

「……お願い?」

 

「はい!」

 

「……わかった」

 

 

私の真剣さが伝わったのか、ドア越しにジンヤさんが顔を引き締めているのが何となく感じられた。

それに安堵すると、私は直ぐに着替えてジンヤさんと一緒に和食屋へと向かった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「それで? お願いっていうのは何だ?」

 

 

夜。

和食屋の仕事が終わり、片付けも一段落すると、俺はレーファを裏の更衣室に呼んで、今朝の「お願い」と言うのが何なのか聞いてみる事にした。

話しにくい内容だと思い、他の連中に聞かれないように更衣室に呼んだのだが、いっこうに話す気配がなかった。

 

 

どうしたんだ?

 

 

「そ……その仕事をやめさせていただきたいんです」

 

「仕事って……ここの仕事?」

 

「はい」

 

 

お願いという事が仕事をやめると言うことで、俺はある意味面を食らった。

もっと何か重要というか……深刻な問題だと思っていたからだ。

 

 

いや、どうやら深刻ではない、とは言い切れない問題のようだが……・

 

 

レーファのその表情にはせっぱ詰まったというか……あまり普段のレーファが見せない、ひどく緊張し、また緊迫した感じがにじみ出ている。

それを読み取った俺はすぐに自身も気を引き締めると、改めてレーファに向かい合って質問した。

 

 

「やめること自体は構わない。だがその理由は?」

 

「……やってみたいことがあるからです」

 

 

再度問いただしてもその表情は崩れることはなく言い切った。

それからしばらく無言のままじっとレーファを見つめてみるが、特に動揺とかもすることなく、その思いが本物であることを物語っていた。

 

 

……一応本気のようだな

 

 

本気と言うよりも……何か焦っているように感じるが……それでもある程度自分で覚悟を決めている以上、俺が何か口を出すことは出来ないだろう。

 

 

「わかった。まぁ他にももうバイトは結構いるし……特に問題はないだろう」

 

 

実際レーファのおかげもあってか、レーファの友達も結構バイトとして入ってくることもあって、人手にはそこまで困っていなかった。

またグラハムとジャスパーが、アイルーを店員として増やしたことも大きい。

とりあえずそのことをグラハムとジャスパーに伝えると、レーファは正規に仕事をやめる事になった。

 

 

 

 

 

これがちょっとした波乱を巻き起こすことを、俺はまだ知らない。

 

 

 




あぁ、本当はこの話で次のモンスターと戦っているはずだったのに……
俺ってやつぁ……どうしてこう短く書く事が出来ないのか……
あと斬老刀(スサノオ)に関して設定を変更しました。
最初は単純にちょうどいい長さになった斬老刀(スサノオ)を研いで渡そうと思っていたのですが……編集者のHM様に
「刃夜専用の刀を渡しても意味なくね?」
という台詞で、確かにそうかも……と思い、変更しました。
相変わらず見切り発車過ぎますね。すいません!


「ハンターになります!!!!」

レーファが突然言い出したその言葉に、誰もが頭に疑問符を浮かべる。
しかしレーファのその顔には一種の決意のような物が浮かんでいた。
刃夜はその意志を尊重し、とりあえずレーファに簡単クエストをこなさせようとし、一緒に密林へと向かい、しばらくレーファと行動をともにしていた。
すると突然異変が起き、密林から生物が一斉に消えた。
まるで、何か恐ろしい物から一斉にモンスター達が逃げ出したようだった。
不気味に静まりかえるその森で、刃夜はかつて無い敵と相対し、そして最大の窮地へと追い込まれていった。


次章 第三部 第七話

「見えない敵(仮)」

ようやくメインヒロイン、レーファのターンです!
ちょっと! 『レーファがメインヒロイン?』みたいな顔しないで!!!! お願いだからw
多分前編後編になるかなぁ……
そして後編の最後ではもっとも書きたいシナリオっていうか台詞第二位が出てくる!!!!
今から書くのが楽しみだw

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