リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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リクエストのリクエストによるリクエストのための小説。
今回は私、刀馬鹿をお気に入り登録なさってくださっているとある方からの依頼によって、番外篇を書いてみました。
最初はラオ後にしようと思ったけど……そうなると飛竜が逃げ出してしまうのでやめたw
時系列的に載せる順番が変になるからどうするか悩んだのですが……他の方にも3rdのモンスターを見てみたいと言われたので書いてみた。
ちなみに時期としてはドンドルマで一ヶ月の監視生活をしている時ですね。






眠れる狗 氷れる牙 暴れる食欲

~刃夜~

 

 

「氷牙竜ベリオロス? 何それ?」

 

「何それって……飛竜種だ。ギルドナイトから正式にお前に回ってきた辞令だよ」

 

 

とある日の夜。

俺は本日もクエストに行ってきて、砂漠にすむ村の住人から依頼された、一角竜モノブロスという飛竜を討伐してきたばかりだった。

その疲れを酒場で周りがバカ騒ぎするなか、細々と癒していたというのに……俺の監視を行っていたフィーアが先に酒場に行ってくれと言って、本部に寄って戻ってきた途端にこれだ……。

 

 

もう明日の予定かよ!

 

 

俺には一日の疲れを、何の心配事……というか気兼ね為しに休む事すら許されないというのか!?

 

 

「何だジンヤ、直々にクエストの依頼か?」

 

 

そう言ってほろ酔い気分で俺に抱きつくように肩を回してきたのは、ハンマー使いのマハバだった。

以前にクエストを一緒した事もあって、それからこうしてよく一緒に食事をする。

命を救われた事に対して恩義を感じているらしく、一緒にクエストに来て、俺の事をフォローしてくれる人間だ。

 

 

「マハバ。酒臭いから離れてくれ」

 

 

だがこいつ……酒癖が結構悪いのが難点だった。

 

 

「難儀なこったなぁ……だけど、ギルドナイトから直接辞令が来るって言うのは、エリートの証拠だぜ? もっと誇れよ!」

 

「面倒なだけだ」

 

 

俺としてはエリートなんてどうでもいいので、心の平静を保てる、ユクモ村にある俺の自宅にいた方がよっぽどいいのだが……。

まぁ愚痴を言っても仕方がない。

 

 

「? ジンヤ? 聞いているのか?」

 

「聞いてるよ。それでそのベリオロスというのは何なんだ?」

 

 

マハバに話を遮られてむっとしているのか、フィーアが俺にぶすっとしながらそう言ってくるのを、俺は内心で苦笑しながらそう返した。

 

 

凍土というエリアに生息する飛竜種で、体格や骨格がナルガクルガに似ているらしい。

が、凍土という極地に生息しているために、当然極地に対応している生物となっている。

全身に棘を装備し、それが滑り止めの効果をもたらしている。

他にもナルガクルガやティガレックスと違い、滑空ではなく普通に飛翔も出来る。

アクロバティックな動きが可能で壁面を利用した三角飛びなどでこちらの意表を突く。

また口から敵を凍らせる事の出来る氷の塊を吐き出す。

ちなみに別名が、白き騎士らしい。

絵を見せてもらった感想……

 

 

サーベルタイガーだなこりゃ

 

 

白い体格に剥き出しの琥珀色の牙。

先が二股に別れた尻尾。

が、所詮は飛竜。

よほどで無ければ負ける事はないだろう。

だがここで問題が一つ……

 

 

「凍土って……極地だよな? 何でそんな依頼が俺に回ってきた?」

 

 

そうこれが不思議だった。

基本的によほどの事がなければ極地のクエストというのは内地……ようするに雪山や、火山などの極地が身近にないハンター達には回ってこない。

極地というのはそれだけで命を危険にさらす場所であり、素人が言っていいような場所じゃないからだ。

砂漠も極地に入るのだが……熟練者と一緒に行動すればまだ難易度が低いので行く事が出来る。

俺も監視付きと言うこともあって、砂漠のクエストに行く事も出来たのだ。

 

 

「あ~その事なんだが……」

 

 

どうやらフィーアも俺がこうした質問をしてくるのは予想していたらしい。

理由は……

 

 

「商売?」

 

「あぁ。極地には極地の特産物が多く、それを元手に商売している人間は多い。そしてその貴族がお気に入りの吟遊詩人が……夢にまで見ていた飛竜がベリオロスらしくて……」

 

 

……そんな理由か

 

 

俺はがっくりとうなだれるしかなかった。

まぁどこに行っても結局は金に左右されるのはしょうがないと言う事なのだろう。

別に金に困ってはいないのだが……が、ここでごねても面倒なだけなので、俺は仕方なくクエストを受注するのだった。

 

 

 

 

翌日……。

 

「……ここが凍土か」

 

 

俺とフィーアを乗せた気球に揺られて、実際に凍土へと降り立っていた。

今回のクエストは一週間と長めの出張である。

凍土という極地のクエストであるために、期間が長めなのだ(終わればその時点で帰れる)。

というか俺という例外を除いて、一日で討伐というのは基本的にあり得ない。

なぜならば探索という作業が必要だからだ。

人間が活動できるエリアは限られている。

その場所にモンスターが来るまで待つか、もしくは自分から探索する。

だがそれでも直ぐに見つけられる訳じゃない。

特に飛竜なんかは空を飛ぶ事が出来るのだ。

移動範囲は格段に広い。

が、俺の場合はモンスターの気配を察知できるので、探索という作業をしないため、運が良ければ一日、悪くても数日で帰ってこれるのだが……今回は初めてのフィールドでしかも極地なので、慎重に事を運ぶ事にした。

 

 

何せ地面が凍っているしな……

 

 

そう、この凍土というエリア、地面が完全に凍っているのだ。

しかも場所によっては凍りかたも、ただ地面が凍ったのではなく、雨が降った後に凍ったかのような感じ、もしくは降り積もる雪が固まってまるでアイスバーンのような地面になっている箇所もある。

無論靴を凍土仕様の特別な靴に履き替えるが……それでも滑る事を完全に阻止できる訳じゃない。

こういった事情があるために、現地の人間のハンターに、こういったクエストは優先的に回るのだが……。

 

 

全員怪我ですか……

 

 

都合が悪い事にほとんどの人間が怪我を負って活動不可能らしい。

 

 

※新キャラを出すのが面倒だった訳じゃない……多分 by作者

 

 

「現地での活動注意事項などを今日学んで、明日から本格活動か……」

 

「……め、めん、面倒なクエストだ、な」

 

 

がちがちと、歯を鳴らしながらそう言ってきたのは、防寒着を着てもまだ寒いのか、腕を体に巻いて少しでも寒さを緩和しようとしているフィーアだった。

先の事情から、砂漠以外の極地に出かけた事のないフィーアにとって、この寒さというのは耐え難いのだろう。

ちなみに俺は日本人のため、寒いが動けないほどではない。

 

 

気功術もあるしな……

 

 

気を使用してある程度寒さを緩和する事も出来る。

が、無駄に体力を消耗するので余り使用したくないが。

 

 

「と…とりあえず中には、はい……入っ…て現地講習に行かないか?」

 

「……まぁ確かに寒いしな」

 

 

俺はがちがちに震えているフィーアに苦笑しつつ、現地の村人の家……村長宅へと入ろうとした。

 

 

ボォォォォォォォ!

 

 

ん?

 

 

その時俺の鍛えた聴覚に、獣の怒号を捉えた。

あまりにも小さかったために、俺も微かにしか聞こえなかったが、それでも確かに何かの怒号が俺の耳へと飛び込んできた。

 

 

……ベリオロスか?

 

 

どこにいるかはわからないが、少なくともこんな人里近くまで来るようなモンスターではないはず。

しかも気配が感じられないほどの距離だというのに、その怒号が聞こえてきたので大型のモンスターである可能性が高い。

だが、ベリオロスの声を聞いた事のない俺には、無駄な時間でしかなかった。

 

 

「ジ、ジンヤ! は、速く入ろう」

 

「……あぁ」

 

 

フィーアに急かされて俺は村長の家へと歩を進める。

そして入る間際に……ちらりと、山の方へと目を向けた。

 

 

……どうやら簡単には終わってくれそうにないな

 

 

何となくだが……そんな予感がしていた。

 

 

 

 

翌日。

一応講習が終わった俺とフィーアは、昨日よりも厚着をして、フィールドへと足を運んでいた。

ちなみに防具は普段来ている革ジャンなどの上に、この村特製の防寒具を身に纏っている。

防寒具は寒さこそ防いでくれるが、その分着ぶくれるために、装備に関しては最小限しか装備していない。

応急薬、回復薬、そして基礎代謝を上げる事によって発熱を促して寒さを緩和するホットドリンク。

そして武器に関しては動きが制限されるため、俺は狩竜、夜月、雷月、水月を装備。

またいつもよりも遙かに数は少ないがスローイングナイフもセットである。

ちなみにフィーアだが……

 

 

「は、はっくしょん!」

 

 

昨夜寒さが厳しかったために、風邪を引いてしまった。

ので現在村の村長宅にてお世話になっている。

 

 

「何しに来たんだ、私は!」

 

 

と顔を真っ赤にしながら吼えているのが印象的だった。

 

 

「しかし……よろしいのですか? 本当に引率がいなくても」

 

「あぁ。変な所は行かないようにする」

 

「ですが地面があるように見えてもただ雪が積もっているだけの危険な場所も……」

 

「そういうのはあらたかわかる。それに、ハンターでもない一般人を、モンスターのはびこる場所に連れて行くわけにも行かないだろう?」

 

 

そう言われると村民はただ唸るしかなかった。

ハンターがおらず、しかもお目付役のフィーアまでいないので、ソロでの活動になってしまった。

一応村の人々が案内を買って出てくれたのだが……それでも完全な素人を連れて行くのはリスクが高すぎるので断った。

俺はそう告げると、とりあえず出発した。

 

 

……考えてみれば、完全なソロでの討伐って初めてじゃないか?

 

 

雷の狼みたいなモンスターは一人で討伐したが、途中まではリーメもいた。

最初から最後まで一人でクエストを行うというのは初めてかもしれない。

 

 

まぁそれが致命的になるわけでもないしな

 

 

むしろ好都合だ。

己の身だけ心配すればいいと言うのは、俺にとって十全に力を発揮する事の出来る好機。

言っては悪いが……この世界の規格外の人間達とはいえ、それでも|生身(・・)の人間である事に代わりはないのだ。

俺も無論、生身の人間だが、気功術が使用できる分だけぬきんでいている。

 

 

ザッザッ

 

 

そんなことを考えながら、ベースキャンプより少し歩くと、すぐに地面が氷のように凍っている地面になった。

 

 

……さて

 

 

俺はそこでとりあえず以下のようなことをした。

 

歩く 走る 全力疾走

素振り 咄嗟に振り返っての居合い 

気を用いての身体強化状態で移動

気を用いての身体強化状態で居合い、素振り

そして移動しながらの攻撃

 

ダンッ!

 

ヒュゥォン!

 

タッ ザリザリザリ!

 

 

う、動きにくい……

 

 

こけるという無様な事はしなくてすんだが……しかしそれでも気を用いての運動は思ったよりもきついものがあった。

滑る事によって踏ん張る事が出来ないので、地面からの全力疾走がうまく出来ない。

その場を動かないようにして踏ん張れば、ある程度普通に出来たが、しかしそれで対処できるモンスターは小~中型モンスターくらいだろう。

 

 

まぁ……他にも手がないわけでもないし……さっさと済ませよう

 

 

やはり極地のクエストはきついものがあると想いながら、とりあえずさっさと依頼を終わらせて内地に帰ろうと思い、俺は歩を進めた……のだが……

 

 

ビュゴォォォォ!!!!

 

 

この猛吹雪はどうにかならんものか……

 

 

山に入って数分。

たったそれだけで辺り一面猛吹雪となっていた。

おかげで前が全く見えない。

 

 

参ったな……

 

 

この猛吹雪のおかげで大して気配も読み取れない。

しかも吹雪のせいで動きも制限される上に、視界も悪い。

このまま襲われてはかなわないので、俺は一旦吹雪を避けるために、洞窟へと入る事にした。

都合のいい事に手近なところに洞窟があったのでそこに入った。

 

 

これは……すごいな……

 

 

そこはまさに天然の洞窟だった。

しかも地面が凍っているせいか光の反射である程度明るくなっている。

が、奥の方まで行くとさすがに洞窟を見渡す事は出来ないが。

俺は一旦狩竜を入ってきた壁に立てかけた。

洞窟内ではうまく振り回す事が出来ないからだ。

 

 

とりあえずここで少し吹雪が収まるまで待つとするか……

 

 

最悪吹雪が収まらなくても、村の方角はわかっているので、村に着いた瞬間にぶっ倒れる事を覚悟するほど全力で行けば強行軍も可能だ。

 

 

まぁ疲れるから余りしたくないけど……

 

 

とりあえず天候というか……空気の感じからいってそんなに吹雪く感じはしないので、とりあえずは大丈夫だろう。

俺は身の安全を確保するために、洞窟の中をとりあえず見える範囲で探検してみた。

 

 

ん? 光?

 

 

奥に進むと別の光源があり、人がしゃがめば通り抜けられそうな隙間を見つけた。

光だけでなく空気も入ってきているので、ここからでる事も可能かもしれない。

その光源を頼りに、ぐるっと辺りを一周してみる。

入ってきた入り口の他にも、光源にもなっている穴を除いて通路が二つあり、それぞれどこかに通じているようだった。

だが、光がその穴から見えない以上、普通に洞窟となっている可能性が高い。

光源の状況での探索は危険なのでそちらには行かないようにしたい。

 

 

たいまつはあるが貴重だからな……注意して使……

 

 

そこで俺は足音を極端に抑え、また気配も押し殺した存在がいくつもこちらに迫ってきているのを感じた。

それとなく辺りの気配を探ると……合計で五つ。

小さな敵が俺に忍び寄ってきていた。

 

 

やれやれ。雑魚のお出ましか

 

 

体格というか気配の大きさから言って、ジャギィ程度の大きさだろうと予測をつける。

当然ベリオロスでないとわかったので、俺は嘆息を抑えきれなかった。

ただでさえ慣れないフィールドでのクエストなのだ。

雑魚の相手はしたくなかったのだが……。

 

 

それでも来た以上しょうがないか……

 

 

俺は気付いていないふりをして、辺りを見渡す。

それで少し敵の気が緩んだのか、少し気配の殺し方が雑になった。

バカな獲物を見つけたと思って舞い上がったのだろう。

だが……

 

 

それは残念ながらこっちのセリフだ!

 

 

俺は腰に装備していた武器、夜月の鯉口を静かに切った。

そして敵が近寄ってきて、一息で駆け寄った時には、すでに振り向いていた。

 

 

「ガッ!?」

 

 

よもや自分が接近していることを気づかれているとは思ってもいなかった……といった感じの間抜けな声を上げる。

俺はその間抜けな敵……腰の半分ほどの背丈の青い鱗の鳥竜種に斬撃を喰らわせた。

 

 

ザンッ!

 

 

あまり動く事が出来ないので、その場に留まって振り向きざまの抜刀術で敵の首を一刀両断する。

しばらく首を上にのせたまま動いていた敵だが、少し歩くと首が落ちて、辺りに赤い血をまき散らせていた。

 

 

「ガァァァ!」

 

「ギュアァァ!」

 

 

仲間をやられた事によって、他にいた雑魚も騒ぎ出した。

 

ユクモ村近辺に流れ着いた、ジャギィとほぼ同程度の体格。

鱗の色は青と白。

額に角のような黒い物体がある。

鳥竜種 バギィというモンスターと思われる。

普段ならばスローイングナイフで一瞬にして三途の川を渡らせるのだが、しかし今回は衣服の都合上、大した数を持ち込めなかったので、あまり使う事も出来ない。

それを考慮し、俺は慣らしもかねて、普通に相手をした。

 

 

「ガァァァァ!」

 

 

一体が体を横にして俺に体当たりを仕掛けて来る。

俺はそれを前方に少し歩く事で回避し、横に抜けざま夜月で敵の胴体を串刺しにして、瞬時に引き抜いた。

 

 

「ギュアァァァァ!」

 

 

胴体を刺されて悲鳴を上げるバギィ。

行動不能にした敵を意識から外し、俺は次の標的へと目を向ける。

目の前の一体が、俺に向かって噛みつき攻撃を仕掛けてくるが、俺はそれを噛みつかれる前に、敵の頭に気で強化した左裏拳をたたき込んだ。

 

 

ボギュ!

 

 

「ギュアァ!」

 

 

予期せぬ状態で頭蓋骨を粉砕されて、敵が悲鳴を上げる。

そうして俺の体勢が崩れたと思ったのか、俺の背後にいる一体が、俺へと向けて何かを吐き出してきた。

 

 

睡眠液か!?

 

 

昨日の講習で、バギィとやらが睡眠液を吐く事を知っていた俺は、慌てることなく冷静に対処する。

俺の背中目掛けて吐き出されたそれを、振り向きざまに夜月で一刀両断にする。

 

 

「ハアッ!」

 

 

ヒュゴォ!

 

 

液体を斬ってもそこまで左右に流れるものではないが、気をも使用した全力での切り上げによって生じた剣風で、俺は強引にそれを左右へと流した。

 

 

「ガッ!?」

 

 

俺がこれで眠る事を想定していたバギィは先ほどのやつ同様、驚愕で一瞬隙が出来た。

その隙をカバーするために、残ったもう一匹が俺へと襲いかかってくる。

 

 

「ガァァァァ!」

 

 

自分の尻尾を体ごと回転させ、俺の体勢を崩そうとした。

が……

 

 

ガシッ!

 

 

「ガッ?」

 

 

俺はその尻尾をよけもせずに左手で掴んだ。

そしてそのまま敵が体勢を崩している間に掴み上げて頭上で振り回す。

 

 

ブンブンブンブン

 

 

 

「キュ、キュアアァ」

 

 

頭上で回転させられて目を回したのか、悲鳴のような声をバギィが上げる。

目の前にいる、睡眠液を吐いた相手は今まで見た事ない対処法に面でも喰らっているのか、呆気にとられていた。

 

 

「隙あり」

 

 

地面の都合上余り動きたくないので、俺は夜月を地面に突き刺して体を安定させると、頭上で回転させていたバギィをその勢いのまま呆けているバギィへとぶん投げた。

 

 

ブォッ!

 

 

ガン!

 

 

「「ッ!?」」

 

 

高速でぶつかって二匹のバギィは悲鳴も上げる事も出来ず、それどころか勢いが受け止めきれず壁に激突した。

 

 

バギャ

 

 

壁に当たって骨が砕けた音が洞窟に響いた。

俺はしばらく投げたままの体勢で固まっていたが……完全に五匹が沈黙した事を確認すると、力を抜いて夜月を地面から引き抜いた。

 

 

ランポス投げた時みたいな終わり方になったな

 

 

この世界に来て初めてレーファを襲っていたランポスを倒したとき、最後の一匹は遙か彼方へとぶん投げて討伐した事を思い出していた。

 

 

いやぁ……あれから随分と経つなぁ……

 

 

この世界に来てからの出来事を思い出して、苦笑せざるを得なかった。

 

 

いったいいつになったら帰れるのやら……

 

 

そうして故郷の事に思いをはせていると……先ほどのバギィよりも大きな気配が……先の洞窟からこちらに近寄ってきているのが感じられた。

 

 

む……

 

 

他にも小型の気配……バギィと思われる者が複数引きその大きめな気配のやつに付き従うようにこちらに向かってきていた。

数は……大型1、小型が7。

今倒したのは先遣隊ということだろうか?

 

 

面倒だな

 

 

大型のサイズにもよるが、この洞窟もそこまで大きい訳じゃない。

八匹+一人もいるとさすがに動きにくい。

しかも敵は団体様だ。

少々厄介かもしれない。

 

 

俺が臨戦態勢を整えていると、それらはやってきた。

 

 

「……グルルルゥ」

 

 

すでに俺はそいつがやってきた方面を向いていたので、そいつと互いに睨みあう形になり、敵が低く唸り声をあげた。

そしてその間に、包囲網を完成させようとする小型の雑魚ども。

俺はあえて包囲が完成するまで大型のバギィ……ドスバギィと思われるリーダー格のモンスターと意味のない睨み合いを続けていた。

 

 

さて……動きにくいこの環境下で……どう動くか……

 

 

これが普段通りの足場が問題ない場所ならば、一分以内に討伐が可能だろう。

だがここは凍土という極地である。

地面は滑るし、防寒具のせいで動きづらい。

しかも洞窟内という事で狭い上に暗い。

正直な話あまりここで戦うのは得策ではないだろう。

一対一ならともかく小型も含めて一対八。

正直普通の人間なら危険な状況といっても差し支えないだろう。

 

 

まぁ修行にはちょうどいいだろう

 

 

俺は右手の夜月を地面に刺すと、俺は右腰の雷月を抜刀して左手で持つ。

そして地面に刺していた夜月を右手で掴み引き抜いた。

要するに二刀流である。

 

 

では参る!

 

 

※割愛……

 

 

とりあえず、なんとかうまく敵の攻撃を躱しつつ、また中型サイズの相手を極力しないで、さっさと小型を全体斬り殺した。

大型の奴は少ないスローイングナイフでけん制したり、小型の奴も何体かはナイフでさっさと黄泉の国に送った。

 

 

「グォォォォ!」

 

 

そうして兵法の基本、弱いやつから叩くを実行し終えて、大型の雑魚を倒そうと思ったらドスバギィが宙へと頭を上げて吼えた。

隙だらけなのだが、何をしているのか気になって行動を見守ってみた。

するとその声に呼応してきたのか、雑魚共がこの洞窟へと続々と向かってきている。

 

 

まずい乱戦にする気か……

 

 

普段の地面なら問題ないが……しかし凍土では二桁以上になるとさすがにきつい。

 

 

さっさと殺すとしよう

 

 

ひとしきり吼え終えると、ドスバギィがこちらを見つめた。

敵の感情がにじみ出ており、ニヤリと……笑った気がした……。

 

 

バカなやつだ

 

 

敵との距離は確かに若干遠い。

距離にしておよそ五メートル。

普段と違う地形で、ほとんど動かずに敵を葬ったために、俺がこの地形に慣れていない事をわかっているのだろう。

だからこの距離を一息で詰められてないと舐めている。

雷月を納刀し、右足を大きく前に踏み出し、力の限り踏み抜いた。

 

 

ガン!

 

 

地面が凍っているので普段とは違う地響きが起こる。

敵が突然の俺の行動に驚いて、俺の事を注視しだした。

それが終わりだとも知らず……。

 

 

実戦歩法の一つ……

 

 

右足を踏み抜いてから思いっきり前へと進む。

俺はその勢いをあえて殺さずに、そのまま左足を前に出した。

 

 

ザァァァァァ!

 

 

その勢いで、俺はまるで地面をローラースケートのように滑って前方へと勢いよく移動した。

今まで見た事もないような移動方法に驚きを隠せないのか、ドスバギィの動きが完全に止まった。

そしてその隙を、俺が見逃すはずもなかった……

左足を前に出すと同時に、大きく後ろに引いていた右肩を、敵が目の前に迫り、間合いへと入った瞬間に俺はその右手の夜月を、凄まじい勢いで前方へと突いた。

 

 

「スティンガー!!!!」

 

 

ドン!

 

 

凄まじい轟音とともに夜月を敵、ドスバギィのトサカに見える黒い物体へと突き込んだ。

脳みそ辺りを刀で突き込まれたドスバギィは、悲鳴を上げることもなく地に伏した。

その数秒後に先ほどドスバギィが呼び出した雑魚のバギィ達が到着した。

が、既に自分たちのボスであるドスバギィが死んでいることに気づいた。

 

 

「……来るか?」

 

 

右腕を突き込んだまま、本日最大の殺気を振りまいて、俺はバギィ達を威圧した。

そうすると蜘蛛の子を散らすようにバギィ達が逃げていく。

 

 

……ふぅ。やれやれ

 

 

敵が逃げ出したのを確認すると、俺は刀を引き抜いた。

若干吹き出して血で濡れた夜月を拭き取って納刀する。

素材を剥ぎ取ろうとしたが……今の格好だとかさばって邪魔でしかない。

なので俺はベリオロスを討伐してから回収すればいいと思って、死体をこのまま放っておくことにした。

入り口に立てかけておいた狩竜を持って外へと出る。

しかしこの選択のせいで、俺はドスバギィの素材を手に入れることが出来なかったのである……。

 

 

一応晴れたか

 

 

そうしてドスバギィと戦いを繰り広げていると、外の吹雪は一応収まっていた。

それを確認して俺は外へと繰り出して最大の目的であるベリオロスを討伐することにする。

一応晴れ渡ったおかげもあり、遠くまでは見渡せないがある程度の距離は見える。

俺はそれを確認すると、少し離れた場所に大きな気配を見つけた。

その気配を辿っていくと……真っ白な体躯をした甲殻を持った、サーベルタイガーのようなモンスターが、マンモスのようなモンスターのポポを狩って食っている最中だった。

 

 

はいビンゴ~~~~

 

 

俺は依頼の目的であるベリオロスを見つけて俺は心の中でガッツポーズをした。

このくそ寒い中、延々とモンスター探索作業なんて絶対にしたくない。

なので早速俺は討伐することにした。

足場が凍っており、しかも靴が滑り止め仕様の特殊靴なので、足音を忍ばせることには限度がある。

ので俺はあえて……

 

 

ザッザッザッザッ

 

 

少しも足音を隠さず、真正面から近寄って行った。

すると当然、俺がある程度近づいた時点で、敵であり標的であるサーベルタイガー、ベリオロスは食事を中断し、しかと俺に目を向けていた。

そして目を向けられた時点で……俺はいったん歩みを停止する。

 

 

「……」

 

「グゥルルル」

 

 

敵が低く、唸る。

目標との距離はおよそ何メートル。

互いに一足飛びで踏破できる距離だろう。

そこで互いに睨みあった。

 

 

「ガァァァァ」

 

 

敵が更に唸る。

そして食事を中断していた体制から、戦闘態勢……つまりポポに乗せていた足をのけて、俺に正面を向けた。

 

 

……そう言えば敵は白い騎士という異名があったんだったか?

 

 

そんなくだらない事を思い出し、俺はまるで中世の決闘のごとく、名乗りを上げた。

 

 

「我は、|鉄(くろがね)の錬鉄者、鉄 刃夜。汝に決闘を申し込む!」

 

「ゴォガァァァァァァ!」

 

 

その口上に答えるように、ベリオロスが天に向かって吼えた。

そして俺も狩竜の鯉口を切り、勢いよくその鞘を上へと弾き飛ばし、抜刀した。

それが決闘の開始の合図となった。

 

 

「ふん!」

 

「グゥアァァァァ!」

 

 

狩竜の鞘を取って再度上へと……ベリオロスの後ろの方へと投げ捨てて、俺は狩竜を右肩に乗せて担ぐように前進する。

それに呼応するかのように、ベリオロスも俺へと体中の力を込めて前進してくる。

 

白銀に輝く世界で……白亜の獣騎士と、普段と正反対の色のポッケ村装備、マフモフ装備を纏った俺、鉄刃夜の決闘が……始まった。

 

 

 

 

「ボォォォォォ」

 

 

それは……餓えていた……。

 

 

「ゴゥフ グゥフ ガフア ガァァッァア」

 

 

絶え間なくやってくる自身の飢餓感。

それを満たそうと果て無き道をさまよい続ける。

そして、ここ……凍える山へとやってきて、それはそれを見つけた。

 

 

「グアァァァア」

 

 

黒いトサカのような突起を頭に持った、青色の鱗を持つ竜。

死んでからまだ少ししか時間が経っていないにも関わらず、この凍える山の気候で、ほとんどのぬくもりが無くなっていた。

多少硬くなっているそれに……それは、躊躇無く牙で食らいついた。

 

 

「グオゥフ」

 

 

棘に覆われた下顎と、首近くまで裂けた大きな口で、それを縦横無尽に食らいつくす。

そしてあっという間に捕食し終えた。

であるにも関わらず、それは未だに餓えていた。

 

 

「グァァァァ!」

 

 

その巨体では、そのモンスター程度の大きさでは足りないのだ。

故にそれは再び歩き出す。

 

 

ポタ ポタ シュゥゥゥゥ

 

 

口から涎を垂らし、それが自身の皮膚を溶かしている事も、お構いなしに……それは洞窟の出口へと向かって歩いていった。

 

 

そして……出口から外へと出たと同時に……敵と対峙した。

 

 

「グルルルルル」

 

 

待ちかまえていたのか、それは地面に伏せ、呻り、敵を……出口から出てきた者へと敵意を向ける。

その殺意を受けて、それも反応する。

 

 

「ボオォォォォ」

 

 

まさに、一触即発だった。

しかし、互いに互いの隙を見つけるために、動かなかった。

どちらもわかっていた。

一撃、ないし数撃で決まると……。

だから……互いに動かない、動けない。

 

 

「グルルルルル」

 

「ボォォォォォ」

 

 

互いに動かない以上……それの開戦は、外部からの合図に委ねられた……。

だがここは極寒の地。

しかもそのエリアに恐ろしい気配と威圧を持つ竜が二匹。

近寄る生物はいるはずもない……。

 

 

「グルルルルルルル」

 

「ボォォォォォォォ」

 

 

それは、静かに……開戦の合図を待った……。

 

 

 

 

「ガァァァ!」

 

 

飛びかかってきたベリオロスに対して、俺はその下をスライディングする事によって回避する。

通り抜け際、夜月で切り上げようとするのだが、しかしそれも敵が二股の棘だらけの尻尾で俺を攻撃してきた事で中断せざるを得ない。

 

 

「ちっ!」

 

 

夜月を抜くのをやめて、俺はすぐさま狩竜を盾にし、さらに尻尾を軸にし、狩竜で方向転換することによって回避した。

 

 

ダン!

 

 

敵が地面へと着地し腕の棘を軸にして、ガリガリと、地面を削りながら180度反転し、再び俺と相対した。

そうしている間に俺はどうにか立ち上がり、狩竜を肩に乗せて敵を睨みつける。

 

 

……予想以上にきつい

 

 

足下が滑る事によって普段よりも動きが制限されて、思うように動く事が出来なかった。

装備の関係上、動きにくいというのもある。

そのために狩竜を振るう事もきつい。

防寒具が厚手なので激しく動きにくい。

わかりきっていたことだが……狩竜を振るうのにここまで適していない衣服もそうないだろう。

 

 

さて……どうしたものか

 

 

地上戦では、敵の方が圧倒的に地の利がある。

に対して、こちらは本日がこの地形……凍土での活動が初めてのいわば素人。

今はどうにか気功術なんかのブーストのおかげでどうにか勝っているが……今のままだとじり貧だ。

 

 

……ん? 地上戦?

 

 

そこで俺は、地上戦が不利だという事を、自身で思っていた事をヒントに、ある事を思い浮かんだ。

 

 

確か敵は……三角飛びなんかの行動も行ったはず。

ならばそれを誘えば……。

 

 

「ゴァァァ!」

 

 

そう思案していると、それを好き見たのかベリオロスが口から氷の塊のような物を吐き出してきた。

俺はそれを紙一重で回避したのだが……それがいけなかった。

 

 

ボッ!

 

 

「なっ!?」

 

 

それが地面に接触した瞬間に小規模ではあるが、ちょっとした爆発が起こり、それによって小さな竜巻が起こったのだ。

別にそれだけで特に大したことはなかったのだが、その発生した竜巻の風に当たり、全身が若干凍ってしまった。

それによって動きがさらに鈍る。

衣服が凍ったようだった。

 

 

なんと!?

 

 

俺の動揺を感じ取ったのか、ベリオロスが勢いをつけて俺へと突進してきた。

ナルガクルガのような斜めに飛びながらの前腕での引っ掻き攻撃だ。

それをし始めた瞬間には……俺は全身の力を込めて敵の氷結攻撃によって生じた衣服の固定化を、力尽くで解いた。

それに若干の戸惑いを覚えながらも、敵は勢い衰えず攻撃を敢行してくる。

俺はそれを中空に飛ぶことによって避ける。

避けざまに、俺は飛ぶと同時に狩竜で下のベリオロスの尻尾を切ろうとしたのだが……

 

 

バシン!

 

 

うぉっ!?

 

 

なんとそれを予見してか、敵はあろう事かその尻尾で俺の狩竜を横に払った。

 

 

ダン!

 

宙に浮いていた俺が着地し……再び真正面から互いに相対する。

俺は狩竜を右肩に乗せて担ぎ、敵は左足を前に出した身を後ろに引いている体勢。

敵は岩壁を背にしたまま、じっと動かずにこちらを見据えていた。

 

 

……どうでる?

 

 

それに対して、俺は特に何もせず……ただじっと立ち止まっているだけだった。

動きが制限される以上、こちらから動くのは不利。

そのためにこの戦闘が始まってから俺は、基本的に後の先……つまり反撃を主体にして戦っていた。

攻撃の瞬間というのはどうしても体が固まる。

その固まった瞬間を付いて攻撃を行えば、大概の攻撃は当たる。

だがもしもそれに失敗した場合、敵の攻撃をもろに喰らうというデメリットはあるが……。

そう考えていると、敵が俺の視界から一瞬で消えた。

いやそう見えただけで、実際は上にいるのだが。

気配で察知できる俺だからこそ慌てずにすんだが、普通の人間ならば一瞬でモンスターが消えたと錯覚するだろう。

それほどの俊敏生と跳躍力を持っていた。

 

 

上空……しめた!!

 

 

敵が何をしようとしているのか悟り、俺も行動を起こした。

 

 

 

 

「グゥルルルル」

 

 

それは内心で不思議に思っていた。

目の前にいる相手……真っ白な厚手の服装をした……自分の事をよく攻撃してくる連中と同じ格好をした、男が……理解不能だった。

これほどの手数で攻めても、敵は倒れるどころか傷一つ負っていないのだから。

今までの敵ならば、ほとんどのやつは時間にしてちょうど今くらいの戦闘時間が経過すれば自身の牙、爪、もしくは尾の攻撃で死しているはずだというのに……。

この相手はその攻撃をことごとく避け、躱し、生きながらえていた。

今も自身の攻撃、氷ブレスによって体が凍って動きが鈍ったにも関わらず、それはその束縛を一瞬のうちに解いて、攻撃を避けた。

そればかりか、中空に飛び上がって回避しながら、その手にした長い得物で、自分の尻尾を狙ってきた。

今まで戦ってきた敵とは何もかもが違う。

それに驚きが隠せない。

だから奥の手を使う事にした。

敵の一瞬の隙……僅かに思考が自身を捉えていない事を悟り、瞬時に敵の目の範囲外……上空へと飛ぶ。

正確には斜め後方。

背後の壁の方へと高く飛んだ。

 

 

壁を蹴って上空より飛来しての空襲

 

 

俗に言う三角飛びの攻撃で、それは数々の人間を……ハンターを葬り去ってきたのだ。

そしてそれは決まった未来であったと思われていた……。

それが、いつものように一瞬の隙を突いて、岩壁の上の方へと張り付いた。

そして、壁に張り付きながら、敵を見定めようと目を下へと向けたその時だった。

 

 

「一瞬の隙を突くとはやるな」

 

 

そんな声が響いてきたのは。

そちらの方……声がする方へと目を向けると、そこにはまるで自分と同じように、壁に……見えない壁に張り付いている。敵の姿が……あった。

 

 

!?!?

 

 

何もないはずの空中で、それは確かに浮いていた。

そして驚きによって一瞬の隙が出来てしまった。

その隙を、敵は見逃さなかった。

 

 

ダンッ!

 

 

無いはずの壁を蹴り、敵が一直線でこちらへと向かってくる。

そしてその手には、銀の……鈍色に輝く長い剣を携えていて……。

 

 

「刺閃」

 

 

その言葉と供に、凄まじいまでの衝撃が背中を中心にして体全体を振るわせた。

 

 

ズダン!!!

 

 

手にしていた剣を、人間はその白い騎士の背中へと突き刺した。

まるでその岩壁に縫いつけるかのように。

それが|辺り一帯(・・・・)に響き渡った……。

 

 

「ガ!!」

 

 

岩壁に縫いつけられた騎士は、悲鳴を上げようとするが……すぐに物言わぬ死体となった。

 

 

 

 

ふむ……勝ったか

 

 

ちょっとした頭上で、敵が絶命したのを感じ取って、俺はゆっくりとため込んでいた息を吐き捨てた。

慣れない環境下での攻防で、普段よりも体力の消耗が速かった。

しかもこの寒さが否応なしに自身の体力を削り取っていく。

寒さを衣服で緩和できても、呼吸するときに凍えるような空気を吸い込んでいるのでそれだけでも疲れるのだ。

 

 

それに冷たすぎる空気は痛いしな

 

 

体力を消耗したので、すこし腹に何か入れておこうと思い、俺は渡された携帯食料……この地方のはポポの塩漬け肉と野菜の寒干しであった……をポーチから出して口に入れて咀嚼する。

 

 

「さて……討伐目標を討伐し終えたのだが……どうしよう……?」

 

 

現実逃避をやめて俺は目標だったモンスターの亡骸へと……上の方へと視線を上げた。

 

 

……やっちまった

 

 

思わずと言う感じに……俺は天を仰いだ。

こっちは、地上が凍っている事で動きが制限される。

しかし敵はその環境下に特化した生物として生きてきた生物。

どちらに地の利があるかなど言うまでもない。

まぁ正直普通に戦闘しても勝つ事は出来たのだが……それでも敵が頭上に飛んで、それが三角飛びによる奇襲攻撃だと気づいて、思わず反射的に体が動いていた。

地面とは違い、空中で造った気の足場ならば、滑る事を気にせず十全に力を発揮する事が出来る。

だから俺は敵が上の方の壁に張り付く前に、瞬時に飛び上がってちょうど同じくらいの高さで地面に垂直にして気の足場を形成。

そして敵がこちらを視認した瞬間に足下から気を爆発させての超加速で敵に接近して、狩竜で敵の気が集中している箇所……心臓に向けて狩竜を突き立てたのだ。

結果、まるで磔のようなベリオロスができあがってしまった。

頭に四肢、尾。

それらが全てダラン、と重力に引かれて地面にたれているのがみょ~にエグい。

 

 

いやそうやって殺したのは俺だけどさ……

 

 

さらに刺された箇所……胸部から血がだらだらと垂れてきてそれがこの色彩の無い世界に妙に映える。

しかもその血。

気候のせいですぐに凍っていた。

 

 

まるで出来の悪いアートだなぁ……

 

 

とどうでもいい事ばかり、この寒空の下で考える俺がいた。

 

 

……バカみて~

 

 

寒さに体が震えてようやくそう思えた俺だった。

 

 

依頼も達成したし、とりあえず飛び上がって狩竜に捕まって、狩竜をぶっこ抜くかぁ……

 

 

そう思い、飛び上がろうとした。

 

 

「ボオオオオオオオオ!」

 

「グアァァァァァァァ!」

 

 

その俺の耳に、凄まじい咆吼が届いた。

その咆吼に思わずびくっと、驚いてしまうほどの壮絶さだった。

 

 

おぉ!? なんだなんだ?

 

 

戦闘に集中しすぎていて気配に気付けなかった。

だがそれにしたって、何というか……あまりにも静かだった気がするというか……。

どちらにしろ大型モンスターか飛竜種がいて、それが複数いることは間違いない。

俺は何がいてどうなっているのか確認することが急務だった俺は、やむなく狩竜をそのままにし、俺はその叫び声がする方へと向かった。

地図を確認すると、この凍土でもっとも広いと思われるエリアに向かい、岩に隠れながら広場の様子を見ると……そこは殺し合いの最中だった。

その殺し合いを一言で言うのならば……

 

 

 

 

 

「暴」と「轟」……だった。

 

 

 

 

 

 

「ボオオオオオオ!」

 

「グアァァァァァ!」

 

 

「轟」の方はよく俺に討伐依頼を回される、凍土に住めるとはとても思えない体色をした、四足のティラノサウルス。

比較的サイズが大きい。

もう片方は……見たことのないモンスターだった。

その見たことのないモンスターに、ティガレックスが走り寄り、敵のカウンターとも言える噛みつきをかいくぐり、己が牙を敵の胸元へと突き立てる。

そしてその「轟」が噛みついている、相手……

 

 

 

 

それはまさに……

 

 

 

 

 

 

欲望の塊だった……

 

 

 

 

 

 

ただただ……自身の欲望を……欲求を解消しようとする事のみが、体からにじみ出ていた。

全てを喰らい、飲み干そうとする……欲求のみを優先した究極の欲求と獣性。

 

とても巨大な竜だった。

見た目は完璧な恐竜のような生物。

棘に覆われた口元に、首近くまで裂けている大きな口が、見た目の色……深緑の色と相まってまるで……悪魔のような印象を見る物に与えている。

筋骨隆々だが、その割には足が随分と細かった。

シルエットはこれこそティラノサウルスだ! と言える形をしている(顔は……見なかったことにしよう)。

 

 

「グゴォォ!!!」

 

 

その悪魔は……己の胴元へと食らいついている敵を、体全体を使って引きはがす。

その細足からどうやってその力を出しているのかというほどの凄まじさだった。

何せ自分に食いついたティガレックスを、体を振り回し、たったの半回転だけで引きはがしたのだ。

その勢い……自身よりは軽かろうが、そこまで軽くないはずの敵を振り回すその膂力はまさに剛力だった。

 

 

ドザァ!

 

 

「ゴアァァ!」

 

 

地面に投げ出されて、背から落ちてティガレックスが悲鳴を上げた。

俺はそこで、敵達がいる地面がそんなに雪が荒らされていないことに気がついた。

 

 

争っていなかったのか?

 

 

ほとんど踏み荒らされておらず、そして足跡以外に特に争った形跡が見られない。

互いに隙を見つけるためににらみ合っていたのだろう……。

なんか、先ほどまでにらみ合っていたのだが、何かを合図に戦闘を開始したというように……。

 

 

……俺がベリオロスを壁に磔にしたときの音?

 

 

確かにそこそこの突進で敵を刺突で殺した。

その時確かに結構地響きというか……音はしたと思う。

それが開戦の合図になったというのならば……この雪の荒らされなさは納得がいった。

仰向けに倒れた四足ティラノの腹に足をのけて動きを封じる恐竜。

そして動きを封じ、敵が行動を起こす前に……そののど元に食らいつき、噛み千切った。

 

 

「■■■■■■■■■■!!!!」

 

 

噛みつかれた相手……ティガレックスがのど元を噛み千切られたために、絶叫を上げることも出来ず……絶命した。

 

 

 

 

「ボオォォォォォォッ!!!!」

 

 

 

 

勝利の雄叫びを上げる恐竜。

その肺活量は、今恐竜がとどめを刺した、凄まじい咆吼で有名であるティガレックスを大きく上回っていた。

 

 

サイズ……飛竜種よりも普通にでかいな。翼がない分横は少ないが、縦にはでかい……

 

 

ちょいと予想外の敵だが……初めて見るモンスターに俺は少し考えてみた。

別に闘うつもりは無い。

依頼内容に入っていないし、何よりもめんどくさい。

だから俺は静かに逃げようとしたのだが……。

 

 

「……ゴォ」

 

 

咆吼を終えて顔の位置を戻したときに……目があった(気がした。敵の目小さいし……)。

まだ殺気を纏っていないが、すぐにこちらを敵として認識するのは目に見えている。

俺は急いで先ほどベリオロスを殺した場所へと避難する。

 

 

逃げ出すないし闘うにしても……敵のサイズが全体的に大きく、縦のサイズで圧倒していると合っては狩竜の方がいい……

 

 

あれはこの世界の敵のサイズに対抗するために作った武器である。

打刀の夜月が俺の一番の武器であることに代わりは無いのだが、飛竜相手では長さが足りないからだ。

だから取ろうとして本気を出して、先ほどのエリアへと向かうのだが……。

 

 

「ボォアァァァァァ!!!!」

 

 

……サイズ比ありすぎ

 

 

もしくは足幅……。

俺は確かに普通の人間よりも早く動けるがそれはあくまでも普通の足場である話。

もう少しここで活動していればもう少し早く動けたかもしれないが、そこまで動きに力を入れてしなかった。

だから敵の動きに追いつかれる。

んで先ほどのエリアへとたどり着くが……

 

 

「ボォォォオォ!」

 

 

敵……恐竜もほぼ同着だった。

 

 

まぁそれでも飛び上がって狩竜を取るのは不可能じゃないが……

 

 

何となくこの敵が何をするのか気になって行方を見守ってみる。

 

 

……のだが…………

 

 

「ボォォォォォォォ!!!!」

 

 

しかしそんな俺には目もくれずに一目散に、先ほどベリオロスが食していたポポの死骸へと食らいついた。

 

 

……俺が目当てじゃなかったのか?

 

 

先ほどのエリアにいた俺を見て、俺を追いかけてきたのは間違いないだろうが……ここに来てポポの死骸を……食いでのある食料を見つけてそちらに興味が移ったようだった。

 

 

ただただ空腹を満たしたいと言うだけのシンプルな欲求。

 

 

「ゴゥウフ グォゥフ」

 

 

自身の修行不足に痛感していると、敵はあっさりと食事を……って速っ!?

いくらベリオロスの食べかけとはいえ圧倒的じゃないか!?

 

 

ちょっとした驚愕に値するほどの速度でポポを食し終えた謎の恐竜。

その食いっぷりがすごくて、俺は何となく見つめてしまう。

それはポポを食い尽くすと、

俺の頭上……ベリオロスが磔になっている方へと目を向けてその真下まで向かっていった。

 

 

……いやさすがに無理だろう?

 

 

行ったまでは良かったが当然それは無意味だった。

何せ十メートルほど飛び上がっており、そのまま壁に縫いつけたのだ。

確かにこの恐竜も相当でかいが、それでも少し足りない。

 

 

「グゴアァアァァァ!!!!!」

 

 

しかしそれは諦めなかった。

一声大きく吼えると、なんとその巨体に物を言わせて壁に体当たりを刊行したのだ。

 

 

ドシン!

 

 

うぉ。すげぇ

 

 

結構な巨体を誇っているので、その体躯での体当たりは強烈だった。

ここら一帯が震えている感じである。

しかし岩壁の強固なのか……ビクともしていない。

それでも諦めずに何度かトライしていた恐竜だったが……やがて無理と悟ったのか唐突に諦めて……何故か俺の方へと目を向けた。

 

 

……嫌な予感

 

 

「ガァァァァァァ!!!!」

 

 

その予感は全く違わずに、それは大きく吼えた。

どれほど吼えたのかというと……まぁ咆吼で少し体が圧されるくらいに。

 

 

や、八つ当たりにもほどがある!?

 

 

理不尽な事に……それは目の前にぶら下げられた餌が食えないと見ると、俺にその怒りの矛先を向けてきた。

このまま帰れたら嬉しかったのだが……。

 

 

いや、こんな怪物がいるんじゃ結局依頼が回ってくる可能性があるか……

 

さっきは依頼内容に含まれていないのでさっさと帰ろうと思ったが……こんな怪物がいては、地元住民も安心できないだろう。

となるとこいつを放置して帰っても、結局俺が狩猟する事になる可能性は高い。

俺はそんな予想されて然るべき未来を予想して溜め息を吐きつつ、夜月を抜刀した。

 

 

しかし……こいつこの辺の生物か?

 

 

改めて眼前の敵を見て、俺は首を傾げた。

 

特徴といえば下顎の棘、大きな口、筋肉モリモリ、体の割には小さめな手足。

それだけだ。

とてもではないが……この地方、つまりは極地である凍土に適した生態をしていないように思われるのだが……。

 

 

まぁこの寒さに耐えられるのだからべつに問題ないんだろうけど……

 

 

どんなに軽く見積もっても、ここの気候は間違いなく-10℃以下だ。

その寒さに耐えられるという事は……まぁ凍土でも活動できるのだろう。

 

 

「グォォォ!」

 

 

そうやって敵の事を考えていると、敵が俺にその大きな口を開けて突進してきた。

俺はそれを、敵を乗り越えるかのように大きくジャンプして回避する。

回避しながら先ほど同様、夜月で敵に斬りかかってみた。

 

 

バビョン!

 

 

「おぉぉ?」

 

 

なんか形容しがたい感触が返ってきた。

 

 

切れずに奇妙な感触を残して跳ね返され、俺は未知の感覚に戸惑っていた。

何とも言えない……まぁとりあえず気持ち悪い感触だった。

それも驚くべき事ではあるが、それよりも何よりも軽くとはいえ夜月の攻撃を防いだ事は驚きだった。

さすがに一筋縄でいかない事を理解して、俺はすぐに気を引き締めた。

 

 

ったく……面倒なこった

 

 

俺は抜ききった夜月を静かに構える。

俺の雰囲気が変わったのがわかったのか、敵も俺を注意深く見つめてきた。

だがそれも一瞬で終わる。

 

 

「ガゴォォォォ!!!」

 

 

それは首を大きく振り上げてそれを振り下ろし、地面に接触させると……なんと地面をえぐってその土石を俺へと投げ飛ばしてきた。

 

 

「うぉっ!?」

 

 

俺はそれに一瞬驚くが、すぐに対処する。

その岩を夜月でぶった切った。

 

 

ゴバッ!

 

 

夜月で両断された岩が、轟音を上げて背後の壁に叩きつけられる。

だが俺はそれどころでなかった。

 

 

「ガァァァァ!」

 

 

なんとその岩に隠れて、敵が俺へと迫ってきていたのだ。

だが気配で感じ取っていた俺はそれにも慌てずに対処する。

口が俺から見て右から左へなぎ払うように振るわれてきている。

俺はそれを冷静に見極めて、その口にそって体を回転させて避ける。

避けたのだが……

 

 

ジュゥゥゥゥ

 

 

「ん?」

 

 

そんな溶解音が聞こえて俺は思わずそんな声を上げていた。

そしてその音がした方……自身が来ている衣服へと目を向けると。

 

 

「……溶けてる?」

 

 

そう、衣服が所々溶けていたのだ。

いやもはや所々という規模ではなかった。

右肩辺りから右背面も……その範囲のほとんどが溶けて無くなっていた。

 

 

「グゥルルルッル」

 

 

俺に攻撃を避けられて敵が低いうなり声を上げる。

よく見るとその口から涎が大量に流れ出ていて……それが地面に接触すると、ジュ、という溶解音を響かせていた。

 

 

溶解性の唾液だと!? なんて出鱈目な……

 

 

毒吐いたり、火球吐いたり、挙げ句の果てに電撃玉吐いたりと、度肝を抜かれるようなモンスターが多かったが……溶解性の唾液を持つモンスターがいるとは思わなかった。

つくづくこの世界のモンスターという物に驚かされてばかりである。

 

 

「ゴォオゥウ!」

 

「ちっ!」

 

 

驚く暇も与えてくれない。

それは再び俺に近寄ってくると、俺とすこし距離があるところで一回転し、その巨大な尻尾を俺に振るってきた。

 

 

「こざかしい!!!!」

 

 

衣服……防寒具を破壊? 溶解? されて寒さが増したことに俺は切れた。

それ以上に、ただがむしゃらに攻めてくるだけの敵に苛立ちも募っていた。

回してきた尻尾に正面から相対し、大上段に構える。

そして渾身の気を込めて夜月を頭上から一気に振り下ろした!

 

 

|斬(ざん)!

 

 

「ゴギャァァアァ?!」

 

 

尻尾を文字通り一刀両断されて、それが悲鳴を上げながら敵が少し離れたところへと倒れ込んだ。

それだけに飽きたらず、俺は俺の左後方へと吹っ飛んだ、切った尻尾に近づくとそれを思いっきり敵の腹部目掛けてけっ飛ばしてやった。

 

 

「オラァ!!!」

 

 

ドンッ!

 

 

それは外れることなく、敵の腹部へと命中した。

しばらく悶絶していたのだが……それはやがて痛みが収まったのか……立ち上がった。

そこで意外な事が起こった。

てっきり怒り狂って俺に襲いかかってくるだろうと思われた敵が、なんと、足下にある自身の切れてしまった尾へと喰らいつき、尾を食し始めたのだ。

 

 

「…………………………はい!?」

 

 

ガツガツガツガツガツガツガツ

 

 

「グゥフ ゴゥフ グフ」

 

 

一心不乱……。

それはまさに喰う事しか考えていなくて……自身の尾を、周りの事を一切気にせず食していた。

本来ならばそれは絶好の攻撃のチャンスだったのだが……あまりにも意外な事で、俺は動きを止めてしまっていた。

そしてそれは俺が呆然と見守る中、先ほどまで自身の一部だった尾を、骨も残さずにぺろりと食してしまった。

その時……フィーアがいたら俺がどれだけ間抜けな表情をしているのか教えてくれたかもしれない。

 

 

「グォウゥゥ」

 

 

そしてそれは食い終わると、再度俺に対峙する。

そして次の瞬間。

 

 

全身が赤く染まった……

 

 

「ボォォォォォォォ!!!」

 

 

そんな咆吼と供に、それは体が赤く染まりそれによって古傷が不気味に浮かび上がっていた。

全身の筋肉を隆起させ、さらに口から何か……黒い稲妻のようなものが存在している……。

 

 

……切れたか

 

 

誰がどう見ても明らかに本気になったのは目に見えている。

しかも自身の尾が切れた事にもいとわず……それどころか喰らったわけだが……。

 

 

赤い稲妻……デビ○トリガー?

 

 

「ゴアァァァァ!!!!」

 

 

それが天に向かって吼えるのをやめ、俺に向かって一声吼える。

その咆吼と供に、敵の殺気がゾワッと、俺の背中を振るわせた。

殺気を操れないという点では未熟だが……しかし……。

 

 

殺気の凄まじさとその怒気は一級品だな!

 

 

俺はすぐさま用を為さなくなった防寒着を破り捨てる。

下に着ていた普段着……現実世界での戦闘装備になると、俺は夜月を油断無く構えた。

刀を体と平行にし、下にだらりと下げるように……刀を構える。

そして弛緩していた指に力を込める。

 

 

チャキ

 

 

その振動で、切羽が僅かに金属音を響かせる。

それが……戦闘開始の合図となった。

 

 

「ゴォォォォ!!!!」

 

 

相手が首を沈めて、先ほどと同じように地面をえぐって氷塊を俺へと投げつけてくる。

だがえぐり方が半端なく大きいので、先ほどと違って巨大さが段違いだった。

しかしその分……

 

 

大きく飛んでいるな!!!

 

 

大きい物体をとばすため、その犠牲というか……その分他のよりも玉が大きい。

俺はそれに……飛び乗った。

氷塊の上に乗り、膝を曲げる。

それは跳躍の準備。

 

 

このまま叩き斬る!

 

 

そして敵に向かって跳躍する。

いや正確にはしようとした。

 

 

「ボオォォォォ!」

 

 

だが敵も相当の敵だった。

驚きもせずに次の行動に入っていた。

体を後方へと下げ、顔を大きく上へと向ける。

そしてそれを振り下ろしたとき……

 

 

ボォォォォォ!!!

 

 

漆黒の稲妻が氷塊ごと俺を飲み込まんと、襲ってきた。

 

 

「!?」

 

 

それを俺は全力で避ける。

氷塊からどうにか後方へと飛び、なるべく遠くへと飛び退いた。

 

 

何だ、今のは!?

 

 

急いで跳躍したために、着地がうまくいかず、無様に転がりながら地面へと着地し、俺はその勢いを利用して転がり続け、起き上がった。

その俺に、すでに敵は向かってきていた。

 

 

「ゴォォォ!」

 

 

全体重を乗せての噛みつき攻撃。

その体重から放たれる必殺の攻撃。

俺はそれを全身で跳び越えるようにして回避。

敵の頭の上にしがみつき、そのまま頭を足場にして、敵後方へと跳躍した。

今度は普通に飛んだので、転がりながら着地するような無様な事はしなかった。

 

 

……強い!

 

 

着地して体勢を立て直しざま、俺は敵の強さに舌を巻いていた。

怒涛の勢いというか……ただ責めることしか考えていないために隙だらけなところもあるが、それを勢いに任せての猛攻で隙を減らしている。

さらに先ほどのあれ……。

 

 

さっきの黒いの……アレはまずいな

 

 

先ほどのブレスのような攻撃。

アレはまだ自分が対処できるような攻撃ではなかった。

無論回避自体は余裕で出来るのだが……しかしアレを受けて無事でいられるとはとても思えなかった。

 

 

魔力に似た何かだが……はっきりした事は言えないな

 

 

魔力を僅かに感じるのだが……それとはまた何か違う物のような感じで……はっきりした事が自分でも言えないし、わからなかった。

 

 

「グアァァァ!」

 

 

しかし、せっかちな敵だな

 

 

待てないらしく敵は全力で俺へと向かってきている。

切れた事によって完全に我を忘れているようだった。

先ほどのブレスがなんなのか、解明したい思いがあるが……

 

 

防寒具を破壊された事もあるし……さっさと片付けよう

 

 

気功術のおかげで寒さもある程度緩和されているがあくまで緩和である。

無効にまで至っていない。

出力を上げれば無効化も出来るが、消耗が激しくなる。

 

 

「……行く」

 

 

そう一言告げて……俺は|普通(・・)に走り出した。

 

 

「ボォォォォ!」

 

 

それを見た瞬間に、敵は再度顔を天へと仰ぎ、その口内にまがまがしいあの黒い雷の力をため始めていた。

今のまま走れば、確かにそれは有効な攻撃だった。

だが……

 

 

俺の力を見誤ったな!

 

 

そう心で吠えて、俺は十センチほどジャンプして、その足元に気の足場を形成……さらに気を爆発させて超速度で、敵に接敵した。

 

 

「!?!?!?」

 

 

敵がまさに瞬間移動のような俺の移動方法に、驚いているのがよくわかった。

だが、時すでに遅し……

 

 

「はぁぁぁ!」

 

 

敵の振り上げた首下を通り、胴体辺りに差し掛かった瞬間に、俺は夜月を大上段に構えて、敵の体……激怒しても唯一雰囲気に変化の見られなかった箇所……腹部へと鍔元まで刃をめり込ませる。

そしてそれを力一杯に振り切る。

 

 

「おぉぉぉぉ!」

 

 

渾身の力で振り抜いたそれは……敵の腹部を、真っ二つに引き裂いた。

 

 

ブチャァァァ!

 

 

「■■■■■■■■■■!!!!」

 

 

腹を切り開かれ、敵が声にならぬ悲鳴を上げる。

そしてその痛みに耐えきれずに横に倒れた。

 

 

「■■■■■!!!」

 

 

ドスン ドスン

 

 

その巨体が地に伏して暴れるものだから、辺り一帯が揺れに揺れている。

俺は小規模の地震と間違えてもいいようなほどの振動を、足から感じながらも、普段通りに立ち、血振りを行って、尻ポケットから血拭い用の白い布を取り出して、夜月を拭う。

そして刀を納めて敵に向き直った。

 

 

「■■■■!!!」

 

「……いいからもうねむ……」

 

 

眠れと言おうとした、その時だった。

 

 

「■■■■■■!!!!!」

 

 

なんと最後の力を振り絞って、敵が倒れたまま俺に向かって噛みついてきたのだ。

まるで最後の晩餐を行うとでも言うように。

しかしそこで餌に……晩餐になるつもりは無いので、俺はそれを冷静に右斜め前に前進して避け、避けたその瞬間には左手を夜月の鞘の鯉口へと添えていた。

そして左手親指で軽く鍔を押し上げて……

 

 

ヒュゥン!

 

 

鯉口の切られた夜月を……俺は全力を持って振り抜いていた。

 

 

ズバッ!

 

 

それは全く抵抗なく振り抜かれ……敵の首を一刀両断した。

 

 

「……?」

 

 

何をされたのかわからない。

そう死骸の顔が言っているようだった。

だが驚いた事に、それは地面に落ちてそれでもなお、ガチガチと……まるで得物を喰らい尽くしているかのごとく、牙を鳴らしていた。

まさに……食欲の化身……。

 

 

見た目がなんか悪魔って言うか……恐ろしい見た目と雰囲気が相まって……『健啖の悪魔』って所かな?

 

 

敵のその天晴れとでもいうほどの食欲に、そんなくだらないあだ名を考えてしまう。

 

 

「いや……でも見た目だけで考えるとゴーヤに見えるその体。そして恐竜のような体躯。……ゴーヤザウルスの方がしっくり来るかな?」

 

 

と全く持って動でもいい事を考えていると……。

 

 

ビュゴォォォ!!!!

 

 

俺の変なあだ名をバカにするかのように、凄まじい寒風が吹きすさんだ。

 

 

「……さっむ!!!」

 

 

その風でようやく俺の格好が、この凍土では不釣り合いと言える普段着である事を思い出した。

標的であるベリオロスも討伐できた事なのだし、俺はさっさと帰還する事にした。

 

 

しかし!!!!

 

 

……狩竜の回収が若干面倒だ

 

 

いや回収しないで帰るとか絶対にあり得ないけどね

 

 

モンスターごときの死骸の血で錆させるには惜しい一品なのだ。

自身で打っておいて何だが、あの狩竜はなかなかの出来なのだ。

なので俺は飛び上がって狩竜に掴まると、力づくで狩竜を引き抜き、直ぐにベリオロスの死骸をけっ飛ばして地面に着地する。

 

 

ドチャ

 

 

死骸が岩壁の縫いつけから解放されて、地面に激突し嫌な音を立てる。

それを気にせずに俺は狩竜に付いた血を綺麗に拭き取り、鞘を組み立てて納刀した。

 

 

「よし! クエストクリアー! 村に帰還する!!!!」

 

 

そう言って猛スピードで村に帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに……余談だが……

 

 

 

 

 

「へ? 常駐性がない?」

 

「はい。あれはイビルジョーといって獣竜種の中でも恐ろしい部類に入るモンスターなのですが、その体躯からか常に餌を求めてさまよっているので特定の巣というのを持たないモンスターなのです」

 

 

と言う言葉を、帰ってギルドナイトに死骸の運び出しを依頼、ポッケ村のハンターにこの話を聞いた。

 

 

「……つまり?」

 

「別に放っておいても問題なかったんですよ……」

 

 

あのゴーヤザウルスを倒したのは無駄足だったという事を知ったのだった……。

 

 

まぁ、面白い素材が手に入ったから別にそれでいいとしよう……

 

 

さらに余談だが、あの青い鳥竜種、ドスバギィは、イビルジョーが死骸をほとんど食い尽くしていたらしく、素材を手に入れる事が出来なかったは、また別の話である……。

 

 

 

合掌……

 

 

 

 

 

 

チーン

 

いかがでしたでしょうか?

読者様の依頼で書かせていただいた番外篇。

なんか個人的に「一部、十話で終わらせよう」と勝手に決めた都合上、ドズバギィ、ベリオロス、ティガレックス、イビルジョーの四体セットを一話で終わらせるという暴挙にでてみました。

うまくまとめられていると……個人的には思っているのですが……。

いやでもイビルジョーが比較的に多いかぁ……物足りなかったら申し訳ないです。

一話でまとめる都合上、ティガレックス成分はすごい薄いですw

体格とか年齢とかにもよるんだろうけど……多分イビルジョーの方が強いし、変な攻撃(龍ブレス)するし、そっちと対決させました。

 

まぁ……こんな感じかな?

とにもくにも、番外篇! お楽しみいただけましたでしょうか!?

四部も一応頑張って書いていく所存ですので、ご期待いただけると嬉しいであります!

 

 

見えない敵、古龍オオナズチを討伐し、レーファに秘密を打ち明けた刃夜。

ユクモ村で生活をし、ギルドナイトの最強戦力として日々名声を浴びて……げんなりする日々。

そんなある日に……ポッケ村から刃夜宛に一つの、報せが届いた……。

 

ポッケ村からの伝言

 

その内容とは……?

 

 

次章、第四部 第一話

 

「幻獣(仮)」

 

白銀の雷光が……吹雪く雪山に瞬く。

 

 




いかがでしたでしょうか?
読者様の依頼で書かせていただいた番外篇。
なんか個人的に「一部、十話で終わらせよう」と勝手に決めた都合上、ドズバギィ、ベリオロス、ティガレックス、イビルジョーの四体セットを一話で終わらせるという暴挙にでてみました。
うまくまとめられていると……個人的には思っているのですが……。
いやでもイビルジョーが比較的に多いかぁ……物足りなかったら申し訳ないです。
一話でまとめる都合上、ティガレックス成分はすごい薄いですw
体格とか年齢とかにもよるんだろうけど……多分イビルジョーの方が強いし、変な攻撃(龍ブレス)するし、そっちと対決させました。

まぁ……こんな感じかな?
とにもくにも、番外篇! お楽しみいただけましたでしょうか!?
四部も一応頑張って書いていく所存ですので、ご期待いただけると嬉しいであります!


見えない敵、古龍オオナズチを討伐し、レーファに秘密を打ち明けた刃夜。
ユクモ村で生活をし、ギルドナイトの最強戦力として日々名声を浴びて……げんなりする日々。
そんなある日に……ポッケ村から刃夜宛に一つの、報せが届いた……。

ポッケ村からの伝言

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「幻獣(仮)」

白銀の雷光が……吹雪く雪山に瞬く。

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