リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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第四部!
ここからマジで刃夜無双っていうか刃夜のみで動いていきます!
第三部よりも魔力が入ってきますからね。
ではでははじまりはじまり~



古龍種との激闘
白銀の幻獣


使いこなしていないか……

 

 

それは、静かにそう呟いた。

 

 

【えぇそのようです。私も見ていないのではっきりと断言は出来ませんが……桜火竜が救援に向かったから確かかと……】

 

 

そしてそのつぶやきに返答する白き光を放つ獣。

 

今二つの人間でない何かが……会話を行っていた。

 

 

最初こそただの迷い人と思っていたのだが…………使いこなしていないか

 

 

【はい。今の彼なら奴らでも十分に倒せます。そして奴らが彼を倒し、老山の力を手に入れれば……末席に匹敵する力を身につけます】

 

 

…………やむを得ん

 

 

その白き獣にそう言われ、それは決心した。

 

 

すまないが……頼んでいいか?

 

 

【はい……それが私の役目ならば】

 

 

お主が直接赴き、力を使いこなせばそれでいい。だが使いこなす事が出来なかった場合……

 

 

【わかっております。では……失礼します】

 

 

そう言って、その獣はふっと姿を消した。

 

 

……果たして……どうなるか…………

 

 

 

 

 

 

 

~???~

 

 

もう……だめか……

 

 

寒さで凍えきった身体は、もう寒いという感覚さえ麻痺していて……何よりもその寒さによってもたらされる猛烈な睡魔が……俺の体から自由を奪っていた。

 

 

もう俺も終わりか……

 

 

フラヒヤ山脈……通称、雪山で知られるその山々の近くの村、ポッケ村で俺は生まれ育った。

極寒の地であるこの地方には、それに適応したモンスターが多く存在していた。

そのモンスターは当然、近隣の村だった……俺の故郷のポッケ村にも牙を剥いた。

そのポッケ村に少しでも貢献できればと……こうして俺はハンターになって……村に帰ってきてクエストをこなしていた……。

 

 

俺は確かに見たんだ! 視界に閉ざされた吹雪の中心、空を舞う黒い翼を! 

アレは人間が勝てる相手じゃない! 

 

 

雪山で仕事をして帰ってきた村人がしきりにそう騒ぐので、俺は村長に頼まれて雪山視察団の一員として、その黒い翼とやら正体を調査していたのだが……。

 

 

油断した……

 

 

油断したつもりはなかった。

だけど、足を踏み外し崖下に転落したのは、間違いなく自分の責任。

左足を負傷し、満足に歩く事も出来ない。

そのために、体力を無駄に奪われ、食料なども底をついた。

幸いと言うべきか、最近猛吹雪が続いていて、モンスター達に襲われる事はなかったが……。

 

 

ボフッ

 

 

吹き荒れる吹雪の中、何とか進んでいたのだが……ついに限界が来て俺は倒れた。

柔らかな雪が、俺の体を優しく受け止めた。

 

 

……痛みなく死ねるから……まだましかな

 

 

ハンターになった以上、死ぬことを覚悟はしていた。

だから、俺はここまでだと……そう思って、安らかに眠ろうとした……。

その時だった……。

 

 

 

【こちらです……】

 

 

……え?

 

 

薄れてゆく意識の中、そんな声が……俺の頭に届いていた。

その声は妙な優しさに満ちあふれていて……そしてその声を聞いた瞬間に、俺の冷え切って疲れ切った体に僅かな活力が蘇ってきた。

まるでその声に元気を分けてもらったかのように……。

その活力を使って、倒れていた体を起こし、顔を上げた。

するとそこに……

 

 

「光……?」

 

 

吹き荒れる吹雪にも負けない、光が……あった。

 

 

【付いてきてください】

 

 

その思念が聞こえるとともに、その光が、俺を先導するようにゆっくりと動き出した。

何が何だかわからなかったが、それでももうそれに縋るしかなかった俺は、それに必死について行った。

それは俺の足の事を気遣ってか、ゆっくりとした動きだった。

少しすると、その光が止まった。

それについて行った俺もそれに釣られて止まる。

 

すると……

 

 

「お~い! お~い! 聞こえないか!?」

 

 

誰かが……そう叫んでいるのが聞こえた。

そしてその声には聞き覚えがあって……。

 

 

救助に来てくれたのか!?

 

 

それがわかった瞬間に俺は力の限り叫ぼうとした。

だけど疲れ切ったこの体には、そんな力が無くって……。

 

 

【……】

 

 

そんな俺を見て何を思ったのか、光が……俺をここまで導いてくれた光が、先ほどまでの淡い光と異なって、強烈な光を一瞬はなった。

 

 

「!? あそこか!?」

 

 

その光が見えたのか、救助に来てくれた連中が気づいてくれた。

助かった事に安堵して、俺は再び地面へと倒れ伏した。

 

 

【あなたにお願いがあります】

 

 

お願い?

 

 

【あなたが無事に帰ったなら伝言をお願いします】

 

 

その伝言の内容を告げると、それは俺のそばから離れていった。

俺は最後の力を振り絞って……その光を目で追った。

そこには……

 

 

げ、幻獣?

 

 

吹雪で暗闇に閉ざされたこの天候の中はっきりと、白銀に輝く一角獣を俺は見たのだった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

鉄刃夜。

純正日本人。

年齢……現実世界の時間……俺が所持していたソーラーパネル搭載のGショックの腕時計の時間(現実世界からここに迷い込んだときからいじっていないので、主観時間の指標になる)上では後二ヶ月ほどで19になる。

家が刀鍛冶であり、剣術の腕を買われての裏家業を担う家の跡取り息子。

何故かこのモンスターのはびこる世界にやってきた俺は、戸惑いながらもこの世界で生活し五ヶ月ほど。

 

その間に数々のモンスターを狩猟、討伐してきた。

そして伝説の存在だった古龍、ラオシャンロンを討伐し、俺は一躍有名人になった……。

なってしまった。

 

 

面倒きわまりない

 

 

それから爆発的に依頼が増えた。

しかもラオシャンロンを討伐して以来、飛竜種が逃げ出すようになったというおまけ付き……。

しかも一番顕著に逃げ出すのは飛竜種で、他のモンスター達、鳥竜種、魚竜種、獣竜種も同様である。

変化がないのは、牙獣種とかそんな感じである。

 

 

牙獣種と言えば……最近討伐したあの……スーパーサ○ヤ人みたいな獣……

 

 

火山にいるなんか牛みたいな生物を狩って欲しいと言われて、麓で待ちかまえてどうにか狩った……ラージャンとかいう生物。

あれはまさに……サ○ヤ人だった。

 

 

しかも、DBでいえばセ○編だな。最初から金色だったし……しかも起こったら雷纏って完璧にスーパーサ○ヤ人2になってた……

 

 

もの凄く暴れるからもの凄く討伐が面倒なモンスターだった。

だがその甲斐あってか、普通では黒色から金色に変わる毛の色が、最初から金色ということで……結構レアな素材だったらしい。

今のところ使い道がないが、毛という事で活用範囲は広い……。

 

 

後の楽しみに取っておくことにしよう

 

 

それだけ……将来何かを作って楽しむということが、唯一の慰めだった。

名声だけでなく、あらぬ噂も流れる今日この頃。

はっきり言って疲れる事この上ない。今も、クエスト帰りなのだが……飛竜種だったために、見つけた瞬間に逃げられて大変だったのだ。

ちなみに最近確認されたティラノサウルスの黒色版だった。

 

 

疲れる事は疲れるが……それでもまだ前よりはましかな?

 

 

だが、先日のレーファと約束を交わして以降、悪夢を見なくなったので精神面ではそこまでの負担はなかった。

それだけでぶっ倒れたり不調になるほど柔ではないが、それでも毎晩毎晩人が死んでいく夢を見るのは少なくとも気分のいい物ではない。

 

 

「お疲れ様です。ジンヤさん」

 

 

気球に揺られながら俺にそう言ってくるのは、弟子一号のリーメだった。

別世界の人間なので、髪や目の色、肌の色などが違ったにもかかわらず、俺を最初からすんなりと受け入れ、慕ってくれた少年だ。

元々片手剣使いだったのだが、俺の二刀流に一目惚れしたらしく、最近は先日俺が新たに鍛造した武器、「|雷狼刀(らいろうとう)『|白夜(びゃくや)』」と、一番始めに鍛造した、「火竜刀『紅葉』」を使用しての双剣使いとして活躍している。

ちなみに他のハンター達と違って、両腕にそれぞれ小型化した盾を装備しているのが大きな特徴といえた。

ギルドナイトでもないのに、俺が修行といって半ば無理矢理連れて行く者だからギルドナイトの連中にもすっかりと顔を知られていた。

 

 

「疲れたと言っても瞬殺だし……大して疲れていないだろう?」

 

 

横に座っていたリーメの言葉に、俺の対面に座っていた女性が反応する。

弟子二号で同じくギルドナイトに所属している女ハンターフィーア。

元々ガンランス使いだったのだが、刀の方が向いてそうだったのでこの世界のために造った太刀、鉄刀の技術を俺が使用して造った野太刀、「斬破刀」を使用している。

ちなみに俺よりも一つ年上だ。

 

 

「まぁな……。だが見つけるまでに少しかかるからな。砂漠だし」

 

 

気球での移動のおかげでまだ楽だが……それでも面倒な事に代わりはない。

普通ならば気球で移動していても、飛竜が襲ってくる事もあるので油断できないのだが……そこは俺……何故か飛竜が逃げ出す男がここにいるので襲われる心配がなかった。

 

 

「ところでジンヤ……聞かせてくれ」

 

「んあ?」

 

「……どうやったら飛竜種の首を、一刀両断できるんだ?」

 

 

……面倒な事を

 

 

先にもいったがおれは飛竜種から逃げられる。

そうなると発見した飛竜種は一瞬で討伐しなければならない。

というわけで俺のクエストはサーチ&キルが鉄則となっており……大体首をきって一瞬で倒すのが俺のスタイルになっている。

 

 

「……私にも出来るのか?」

 

 

フィーアも茶化して聞いているのではなく、真剣に聞いているようだった。

さらにリーメも聞きたいのか、俺の言葉を待っていた。

 

 

「そうだな……」

 

 

ならば俺も全力で答えなければならない。

だから俺は嘘偽りなく、行った……。

 

 

 

 

「何も考えずに切れ」

 

 

 

 

それが答えだった。

 

 

二人は不思議そうにしていてフィーアなんかは俺に起こっていたが、それが真実なのでそれ以上言いようがない……。

さらにリーメから硬質な物……金属なんかを斬るにはどうすればいいのかと言われ……それにも同じ事を言った。

そうしてくだらない話をしていると、直ぐに俺たちの村であるユクモ村へと帰還した。

ギルドナイト出張所が建設されており、その裏手にある発着所に降りる。

地面にくくりつけるのを待ってから俺達は降りた。

夕暮れ時のユクモ村は、活気に満ちていた。

一日の締めに食べる飯なのだ。

どこを見ても皆酒が入っていて陽気になっている。

 

 

「お、ジンヤ君! お疲れ様!」

 

「ガヌアさん。こんばんは」

 

 

そうして横目に食事風景を見ていると、とある店の軒先から俺に声を掛けてくる人がいた。

ガヌアさん。

魚屋の店主で、俺が経営している和食屋の材料仕入れ先という事もあり、結構親しくさせてもらっている。

軽く手を挙げて応えると、ガヌアさんも陽気な笑顔でこちらに挨拶を返してくれる。

 

 

「今日もクエストかい?」

 

「えぇ。最近確認された黒色のティガレックスとやらを」

 

「それって飛竜種だろう? 逃げ出すんじゃないか?」

 

「……そうですね」

 

 

先ほど言った、飛竜が逃げ出すという噂は当然この村にも伝わっており、格好のからかい材料になっていた。

まぁ俺としては悪意を持ってからかわなければ別に構わないが。

 

 

「すごいなぁ。あの恐ろしいモンスターが逃げ出すなんてなぁ」

 

「俺も不思議で知りたいですよ。おかげで討伐が面倒になってしょうがないです」

 

「お疲れ様、ジンヤお兄ちゃん」

 

「んぉ?」

 

 

そうしてガヌアさんと話をしていると、足下から声を掛けられた。

そちらの方へと目を向けると、俺の膝より少し上くらいの身長の、かわいらしい女の子が俺のズボンを引っ張っていた。

 

 

「ユーナちゃん」

 

「こんばんは、ジンヤお兄ちゃん」

 

 

俺の足下にいたのは、村長の孫娘であるユーナちゃんだった。

何度か村長宅にも行った事があって、俺の事を覚えてくれている。

慕われているのか、こうやって会うと挨拶してくれる。

 

 

「お買い物?」

 

「うん! 今日お魚食べるからお使いに」

 

「偉いなぁ。ユーナちゃんは」

 

 

お使いをしているユーナちゃんの頭を撫でる。

そうすると、嬉しそうにはにかんだ笑顔を向けてくれる。

買い物がすでに終わっていたユーナちゃんと手を振りながら見送った。

何度も後ろを振り返り、走りながら俺に手を振り替えしてくれるので、こけないか不安だったが……どうやら大丈夫なようだった。

 

 

「子供ってのは元気ですね~」

 

「おいおい。若い人間が何を言ってるんだい」

 

「いやそうかもしれませんけど……いろいろと面倒ごとが多すぎて……」

 

「あっはっは。お疲れだな。そんなジンヤ君にこれをあげよう」

 

 

そう言って差し出してくるのは、大王イカとスネークサーモンが入った籠だった。

この村は山だけでなく、海にも近いので漁も盛んだ。

漁が毎日行われるため、日常的に食される魚介類である。

 

 

「いいんですか?」

 

「構わないよ。いいのが上がったから君にあげようと思っていたから」

 

「……ありがたく頂戴しておきます」

 

「おうよ。これからもうちの店をよろしくな!」

 

 

そう言って、豪快に笑って帰って行く。

いろいろと変な噂も絶えない俺に、普通に接してきてくれるのでありがたい存在だ。

 

 

「……夕飯の一品が増えたな」

 

「みたいですね」

 

 

俺は籠の中身を覗きつつそう言うと、リーメが苦笑しながらそれに応じてくれた。

ありがたい食材を頂いた事だし、今日は帰ってさっさと飯を食べようと思い、俺達は村の外れにある、俺の家へと急ぐ。

森を抜けたその先に、一件の純日本家屋が見えてくる。

日本人の俺がこの村に追い出される要因になった、とある家族と一緒に住むために建てて家である。

その家から少量の煙が上がっていて、中に誰かがいる事を教えてくれる。

 

 

「レーファか?」

 

「そうだろうな。夕飯の支度でもしてくれているのだろう」

 

 

フィーアが中にいると思われる人物の名を上げる。

俺の家は簡素な結界が張られているので、俺が認めた人間しか入る事が出来ない。

その認めた人たちでこうして晩飯の準備をするような人間は一人しかおらず……

 

 

「ただいま」

 

 

俺はそう言いながら正門隣にある、勝手口を開けて家の中へと入る。

すると入った家……庭の中央に巨大な赤い塊が鎮座していた。

 

 

「クォル!」

 

「よ。ただいまムーナ」

 

 

起き上がって俺に近寄ってきた赤い塊……飛竜リオレウス、ムーナに声を掛ける。

飛竜種 火竜 リオレウス 名をムーナ。

 

俺が初めて受注したクエスト、イャンクック討伐と同時に乱入してきた火竜、リオレウスを討伐した際に、そいつがねぐらにしていた巣で見つけた卵を持ち帰って、それが孵化して、卵から出てきた紅銀とも言える鱗に包まれたリオレウスだ。

俺の家族として俺が育てる事にしたリオレウス。

村を一応形だけとはいえ追い出された原因とも言える飛竜である。

 

 

「あ、ジンヤさん! お帰りなさい!」

 

 

その後ろから、縁側の履き物を履いてこちらに駆け寄ってくる少女。

俺がこの世界に迷い込んだ時、ランポスとか言う鳥竜種に襲われていたのを助けて、この村に案内してくれた俺の恩人とも言える女の子。

 

 

そして……俺を好いてくれている少女

 

 

名前をレーファ。

俺が焦っている事を指摘した少女だった。

今までの罪から逃げないために、生き急いでいたという事を指摘してくれた少女であり、俺にとって妹……と見ないようにしなければいけないんだった……一応、大事な女の子である。

 

 

「ただいま、レーファ」

 

 

満面の笑みを浮かべて俺にそう言ってくる少女に俺も笑みを返した。

それから交代で、フィーア、そして俺とリーメはセットで俺の庭にある温泉に浸かって汗を流す。

そしてそれから本日のクエストに関する報告書を作成する。

 

 

といっても、俺は未だに字をうまく書けないのでリーメとフィーアに任せっきりだが

 

 

遣る事がない俺は、手が空いてしまうので、レーファと一緒に今晩の飯の準備をする。

そうしていると、夜になり和食屋の店長になったグラハムとジャスパーが帰ってきて、一緒に食事をする。

無論ムーナにも庭先にアプトノスの肉を少々調理した者を与えた。

 

 

「うむ……うまい」

 

 

一日の疲れを癒す、一杯の日本酒、湯の香を飲みながら俺は唸っていた。

 

お酒は二十歳になってから飲みましょう

by作者

 

最近はこの酒の酒造も村の連中に任せている。

漁村でもあるこの村で、ヒットして以来、結構な値段で取引されているらしい。

おかげでこの村も結構金に余裕が出来ていた。

 

 

「そんなにおいしいんですか?」

 

 

俺が唸りながら呑んでいると、リーメが不思議そうにこちらを見る。

この中で唯一日本酒を飲んでいないのはリーメだけだった。

フィーアはフィーアがこのユクモ村に帰ってきた歓迎会の席で、レーファは先日俺とともにクエストに行って、オオナズチに襲われて無事帰ってきた夜に……俺に告白する勢いをつけるために呑んでいた。

 

 

……一応やめておくか

 

 

一瞬呑ませようと思ったのだが……リーメの年齢を鑑みて一応やめておく事にした。

それとなくやんわりと伝えると、リーメもそれほど呑みたくなかったのか、すんなりと頷いて引き下がってくれた。

そんな事をしながら食事を終えて、三人を送り、俺はグラハムとジャスパーに店の状況を聞く。

客が増えたが、店員を増やした事によって回せているという点では問題ないらしい。

だが、俺が経営している店という事をどこからかかぎつけてか、店のお得意様になって俺に武器の鍛造をしてもらうおうとしている輩や、純粋にいちゃもんをつけてくるやつもいるらしい。

それに関しては不定期に俺が店に行って仲裁する事によって対処する事にした。

また村のハンター達も率先して警護に当たってくれているらしい。

 

そう言った個々の問題などを聞いていき、打ち合わせが終わると、みんなでムーナの散歩に行く事にする。

 

 

「クォ!」

 

「嬉しいみたいだニャ!」

 

「一日この家にいるんだからそらそうだニャ」

 

「……すまんなムーナ」

 

 

グラハムとジャスパーの言葉に罪悪感を覚えて、俺はムーナにうなだれながら謝った。

二人……二匹? の言うとおりで、一日この家にいれば退屈だろう。

俺としてももっと外に出して上げたいのだが……如何せん忙しい上に、いくらムーナがリオレウスとしてはおとなしく、聞き分けの言い子だとしても恐怖の代名詞たる飛竜種なのである。

あまり昼間におおっぴらに外に出るわけにも行かなかった。

 

 

「クォルル」

 

 

そんな俺を気遣ってか、ムーナが俺の顔を優しく舐めてくれた。

そんなムーナに感謝しつつ、いつも使用しているムーナの発着場へとみんなで向かい、ムーナにみんなで跨ると、ムーナが翼をはためかせる。

 

 

「ゴォアァァァ!」

 

 

普段おとなしく、かわいらしいムーナも、さすがに大人に近づいてきたのか、声も野太い感じの声になってきた。

 

 

この間までちっちゃかったのになぁ……

 

 

「そう言えば店長。ムーナもう火球も吐けるんですニャ」

 

「え? そうなのか?」

 

「この前必死になって練習してたニャ。僕たちがいなかったら危うく鍛冶になっていたけどニャ」

 

 

あぁ、そう言えばこの前帰ってきたら一部の藁が消し炭になってましたね

 

 

「ムーナ。見せてくれないか?」

 

「クォ!」

 

 

褒められたのが嬉しかったのか、ムーナが嬉々として声を上げる。

それを了解の合図と受け取った俺は、夜空に向けて指をさす。

その方向へ……ムーナが火球を放つ。

 

 

「ゴッ!」

 

 

ボッ!

 

 

夜空を切り裂く赤い炎の弾が空へと走る。

結構な威力がある火球だった。

しかも気が込められた火球だ。

未熟とはいえ訓練無し、しかも一年に満たぬ体で放ったとは思えない。

 

 

「おぉ!? すげぇぞムーナ!」

 

「クォッ!」

 

 

意外に高威力な火球に素直に驚きの声を上げると、どうだ! っていっている感じの咆吼を上げた。

抱きかかえられたムーナがここまで成長し、さらには火球まで吐けるようになっていた事に感慨を感じながら、あまり長くない空の散歩を楽しみ……それが終えるとみんなで床についた。

 

 

これが俺の最近の日常である。

日常生活に特に変化はなかった。

だが……この日……俺は気になる夢を見たのだった。

 

 

 

 

【使者よ……】

 

 

俺が眠ると……まるで体の中から話しかけてくるような、そんな声が……聞こえてくるようになっていた。

 

 

【私の力を使いこなしていないということを危惧して、ついに祖の使者がやってきた】

 

 

使者?

 

 

【そうだ。おぬしに宿った我を、最悪の事態を想定しておぬしから回収するために】

 

 

我?

 

 

夢なのか、夢じゃないのか……そんなまどろみにも似た曖昧なその状況下ではまともに思考することが出来ず……俺はそれを聞くことしかできなかった。

 

 

【この試練に勝たなければ……最悪死ぬことになるかもしれん。異世界からの使者よ。心してかかってくれ】

 

 

その思念を最後に……俺の意識は完璧に闇へと落ちていった。

 

 

 

 

使者……ねぇ……

 

 

夢から覚めた俺は、桶に溜めた水で顔を洗い流しながら、昨夜夢見た内容を思い出していた。

使者、力の回収……。

昨夜の夢で最も重要な単語といえばこの二つだろう。

力というのはおそらく、ラオシャンロンを討伐したときに光の玉となって、俺の左腕に入ってきたやつの事だろう。

未だにそれがなんなのか全く持ってわかっていないのだが……。

 

 

やれやれ、面倒ごとばかりだ……

 

 

俺は溜め息を吐きながら、起きて早速炉に火を入れた。

そして、中断していた作業を再開する。

魔竜、蒼リオレウスで造った槍、蒼焔。

蒼焔を使用して刃が欠けた事で改めて思い知った。

 

 

俺の得物はやっぱり刀だな

 

 

鍛造に関しては、刃物は一通りじいさんに免許皆伝を受けたので、槍も鍛造する事は可能なのだが……やはり俺の武器は刀が一番だった。

それを痛感し、俺は余っていた蒼リオレウスの素材を用いて、新たな武器を鍛造していた。

造り方としてはほとんどリーメに造った小太刀、火竜刀『紅葉』と同じ感じだ。

刀身を鍛造するときに鉄の塊の中に火炎袋の中身を混ぜ、折り返し鍛錬の時に火炎袋の中身を振りかけて鍛造。

鱗や甲殻の一部を溶かし混ぜ込み、刀身の色が淡い蒼色をしている。

峰の一部に爪や牙を用い、鍔元も翼爪、牙で装飾し、柄も薄く剥いだ外殻を巻き付ける。鞘も当然鱗や甲殻を使用。

まぁ簡単に言ってしまえば……火竜刀「紅葉」の外観をほぼそのままに、蒼リオレウスの素材を使用して打刀にした感じである。

違いはそれだけでなく、雷月同様、柄頭には蒼リオレウスの呪いの塊とも言える紅玉をはめ込めるようにした。

 

 

属性武器第二弾! 銘を……火竜刀「|蒼月(あおづき)」

 

 

新たな得物誕生の瞬間である。

ちなみに……

 

 

「……私の武器はまだなのか?」

 

 

リーメの得物が造った後に自分のを造ってくれると思っていたフィーアが「蒼月」を見て、ぶすっしたのはご愛敬である……。

 

そんな事がありつつ、俺は新たな得物火竜刀「蒼月」を右腰に装備し、他にいつもの装備、狩竜、夜月、雷月、花月、水月、月火、スローイングナイフを装備して、ギルドナイト出張所へと足を運んだ。

そして、意外な事にそこで俺は夢の回答を得る事になったのだった。

 

 

 

 

「ポッケ村から伝言?」

 

「うむ。ギルドナイトを通して君に伝言が来たんだ」

 

 

それから身支度をして、いつものように修行などの日課を行った後に、ギルドナイト出張所へ行くと、ギルドナイトマネージャーのデウロさんが珍しく酔っぱらっておらず、真剣な面持ちで俺にそんな言葉を掛けてきた。

普段と違ってクエスト依頼ではなく伝言という事で、後ろの二人……リーメとフィーアも訝しんでいた。

 

 

「依頼ではなく何故伝言なんだ?」

 

 

俺が聞くよりも先に、代表してフィーアが先に疑問を投げかけていた。

デウロさんもどうやら事情をよく把握していない……というよりも困惑しているのか、いつもの飄々とした態度と違って、戸惑っている感じだ。

 

 

「儂にもわからんよ。ただ雪山で遭難して死にかけていたハンターが一人、光の玉に助けられてそれがジンヤ君に伝言を頼んだという話がまわってきただけなのだ」

 

「光の玉?」

 

 

デウロさんの言葉に、フィーアは露骨に顔をしかめていた。

それはそうだろう。

光の玉がハンターを救ったなどという話は、幻想ととられても仕方がない現象だ。

俺も普段ならば鼻で笑っていたが……何故かそれが事実であるという予感があった。

 

 

今朝の夢もあるしな……

 

 

「とにかく聞いてくれ。ジンヤ君に対して光の玉がこういったらしい」

 

 

フィーアの怪訝そうな表情に気圧されながらも、デウロさんはその手に持っていた紙を広げた。

それには何行かの文しか書かれていなかった。

俺が字を読めない事は俺と親しい人間ならば誰でも知っている事ので、デウロさんは俺が言う前にそれを読み上げてくれた。

 

 

雪山の山頂にて、あなたを待っている。桜の心、鉄刃夜よ

 

 

桜の心……

 

 

伝言を聞いて、俺はそれが冗談でも嘘でも……ましてやその遭難者の幻聴でも幻覚でも妄想でもないことが分かった。

桜火竜、リオハート。

あの飛竜に助けられたであろうということはフィーアとリーメも気づいている。

だがあの桜火竜の名前がリオハートという事は俺とレーファしか知らない。

桜の心。

これさえあればそれを信じるには十分だった。

 

 

「桜の心? どういう意味だ?」

 

「儂にもわからんよ。儂はただそのハンターが伝えられた言葉を読み上げたに過ぎない」

 

「まぁその桜の心というのはいいとして……雪山頂上って言うのは……どこの事なんでしょうね?」

 

「それも不思議だが、それよりも厄介なのは相手が待ち場所を雪山に指定している事だ。雪山といえば極地だぞ? 私たち内陸のハンター達が気軽に行ける場所じゃない」

 

 

フィーアの言葉に全員が一斉に押し黙った。

それもある意味で当然だった。

寒さが厳しく、一年中のほとんどを雪に覆われた極寒の世界。

モンスターだけでなく、その厳しい自然がハンターにも牙を剥く。

雪崩、寒さ、視界の悪さ、積もった雪によって下半身の動きを封じられ、さらに積もった雪が道で無い場所に道を造り、それに気づかずそこを通って奈落の底に叩きつけられる。

こういったことを回避する術は一朝一夕で養われる物ではない。

そのため、雪山、火山といった極地のクエストは内陸、つまり身近にそう言った極地がないハンター達には回ってこないのが普通なのだ。

 

 

まぁ今回のこれはクエストではないけどな

 

 

ただ伝言の内容と、夢の声の内容を照らし合わせれば、会うだけですむとは思えない。

 

 

だが……

 

 

俺を直々に呼んでいる以上、俺はそこに出向かなければならないだろう。

俺は心の中で覚悟を決めると、デウロさんに向き直る。

 

 

「わかった。直ぐに向かおう。デウロさんすまないが気球の用意をお願いします」

 

「……行くというのか?」

 

 

伝言を俺に言ったデウロさんがそう言ってくる。

それもそうだろう。

何せ光の玉だ。

遭難で死にかけた人間が光の玉に伝言を預かった、と夢でも見たんじゃないのか? という話だが、しかしそれを鼻で笑う事は出来ない。

それは確かに異世界からと言ったのだ。

 

 

ならば行くしかないだろう

 

 

「正気か!? 極地な上に遭難して死にかけたやつが言った言葉なんだぞ?」

 

「そんな事は重々承知だ。一応呼ばれているから確認しておきたい」

 

「……たったそれだけでか? 今の伝言に何か意味があったんじゃないのか?」

 

 

一応何でもなさそうに言うのだが……それでフィーアは納得してくれなかった。

だが桜の心という言葉を理解することが出来ないフィーアでは伝言の真の意味を理解する事は不可能だ。

知らなくて当然だろう。

あの場にいなかったし。

 

 

と言うかこの世界に桜ってあるのか?

 

 

じいさんも好きな桜。

果たしてあの潔く散る桜が、この世界にあるのだろうか?

 

 

異世界だしね~

 

 

本来ならば物語の中でしか出てこないはずの単語。

生涯無縁なはずのその単語に……俺は縁があった……。

モンスターがはびこるこの世界に迷い込んだ俺。

 

 

……今思い出しても涙が出てくるぜ

 

 

ちょっぴり帰郷の念に駆られてしまう俺だった。

が、それを直ぐに振り払う。

 

 

「準備を整え直してくる。その間に気球の用意をお願いします」

 

 

普段と同じ装備できた俺は、少しでも身軽にするために、装備を変更しようと出口へと向かう。

それに二人……リーメとフィーアが来ようとしてので、俺は一旦停止して二人に向き直った。

 

 

「すまないが二人は付いてくるな。俺一人で行く」

 

「何っ!?」

 

「ど、どうしてですか?」

 

「どうしてもこうしても。極地という環境だ。慣れてない二人のカバーをする余裕は俺にはない。お前達だって極地での戦闘経験はないだろう? 俺には一回あるし……何とかするし、何とでも出来る」

 

 

よもや少し前に受けたクエストの経験が役に立つとは思わなかった。

人生、何が役に立つのかわからないものである。

二人も自分たちが極地での戦闘経験が無い事に不安を感じていたのだろう。

それ以上言葉を発する事はなかった。

そんな二人に俺は追い打ちを掛ける。

 

 

「極地でさらには死にかけたやつの言葉だ。俺だけで言った方がいいだろう。危ないし」

 

 

死にかけたやつには申し訳ないが、この場では少々幻覚幻聴であるという事を前提にさせてもらう。

人語を理解し、伝言をしてきた相手。

おそらく思念を送ったのだろう。

俺が今まで見てきた古龍種は、何故か光の玉を体の中に内包していたり、光の玉になったりする。

おそらく十中八九その光の玉と言うのは古龍種であると思われる。

仮に古龍種じゃないにしても、今のところ思念を送ってくる奴らは全員魔力を扱える。

どんなのが出てくるかわからないが、少なくとも手強い相手である事はわかりきっている。

そんな相手のいるところに連れて行くわけにはいかない。

 

 

「死なないように帰ってくるから、まぁ気楽にして待っていろ」

 

 

俺はそう言って返事を待たずに外へ出た。

態度で付いてくるなと……そう拒絶して……。

 

 

そうして俺は装備していた装備品、狩竜、夜月、雷月、蒼月、花月、水月、月火、スローイングナイフという装備を大幅に減少……っていうか普段からして過剰装備すぎるな……。

狩竜、夜月、新型装備、火竜刀「蒼月」、いにしえの双剣、そして六本のスローイングナイフを装備し、激しい戦闘が行われる事を想定して、現実世界での服装を装備。

そして珍しく一人で、俺は呼び出された雪山の近隣の村、ポッケ村へと向かったのだった。

 

 

 

 

気球に乗り込み数時間。

そして着いたポッケ村で防寒具を受け取り、光の玉が発見された場所、それが向かっていったとされる雪山の頂上を示した地図を受け取り、現地住民であり、雪山のプロとも言える雪山視察団の案内を断って、こうして雪山へと来たのだが……

 

 

ビュゴォォォォォォォ!!!!

 

 

さっむ!!

 

 

あまりの猛吹雪の視界の悪さと、寒さに身を縮ませていた。

何せ五メートル先も見通せない……それほどの猛吹雪だ。

はっきり言ってこんな天候で雪山に入るなど自殺行為以外の何ものでもないだろう。

俺は足下がしっかりとあるか……崖に雪が積もって道が続いているとだまされないように、狩竜を杖に前方の足場をしっかりと確認していた。

幸いな事に、猛吹雪の影響からか……極寒の地に適したはずのモンスター達の気配さえないことだった。

 

 

まぁ……そんな事あり得ないが……

 

 

いくら猛吹雪とはいえ……まったく生命の気配が感じられないというのはおかしい。

これは間違いなく、先日の相手……霞龍オオナズチと相対したときと同じ現象……古龍という強大な存在を感じ取って逃亡しているという事だろう。

 

 

つまり……確実に古龍種がいるわけだ……

 

 

あの化け物じみた相手がこの近辺に……しかもこの悪天候の中潜んでいる事に俺は、げんなりとした。

ただでさえ強敵だというのに……極地のこの状況下で勝負する事になろうとは……。

はっきり言って今すぐ逃げ出したい気分だ。

何せ古龍種だ。

常識の範囲外に存在する特殊なモンスター。

それをこの極地で相手するなど自殺行為以外の何ものでもない。

 

 

だが……異世界からの使者と言って俺を呼んだ以上……行かないわけにも行かない

 

 

これは完全に予感だった。

それに会えば……何かがわかると……。

そんな予感が……。

だからこのくそ寒くて視界も悪くて雪で足場も悪くて歩きにくいこの場所で俺は必死に山頂を目指しているのである。

 

 

これでもし、いなかったら呪ってやる……

 

 

心の中で呪詛を吐きながら、俺は山頂への道を、狩竜を杖にして必死に昇った。

 

 

そしてけっこうぎりぎりな幅の……もはや道ではなく僅かな足場を使って辛うじて進む事の出来る断崖である。

 

 

ビュゴォォォォ

 

 

と激しく風が吹き荒れる中、俺は必死に壁にへばりついて山頂を目指す。

 

 

しかし……

 

 

山の天気は変わりやすいとよく言うが……それでもこの猛吹雪は気味が悪い。

まるで何かが……

 

 

天候を操っているかのようだ……

 

 

ポッケ村の村長が言うには、数日前……ちょうど俺に伝言を頼まれた雪山視察団の人間が、山に入る原因となったある村人が見た黒い影を目撃してから、これほどの猛吹雪が連日続いているのだという。

 

 

この吹雪の原因が俺を呼んだのか?

 

 

その黒い影が俺を呼んだのかは謎だが……ともかく俺は必死に壁にへばりついて進んだ。

そして……ようやく道らしい道を進み、その先へと進むと、途端に風がやんだ。

いや、その一帯だけ風がやんでいるのだ。

ひどく穏やかに空気が流れていた。

雲が晴れてはいなかったが、それでも吹雪がやんだのは純粋にありがたい。

そこは、何か龍のような形の岩がある事で有名な場所であり、光の玉が向かったと思われる場所だった。

ちょっとした広場のような場所があり、そこには絶壁の壁があった。

その上に魔力の残滓を感じ、俺が上へと顔を向けたその時だった。

 

 

 

 

【よくぞ来て下さいました】

 

 

 

 

そんな思念が、俺の頭に流れ込んできたのは。

 

 

「……来るしかないだろう? 異世界とか言われてしまっては」

 

 

雰囲気で何となくここに何かがいるとわかっていた俺は、特に驚く事もせず目の前の空間を見据えた。

それに応えるかのように……そこに力が流入し、光の玉を形成……そしてそれが徐々に巨大になり、馬のような形を取って……それが出現した。

 

 

「……ユニコーン?」

 

 

思わず俺はそんな言葉を……思った言葉をそのまま口にしてしまった。

 

自ら光を発しているそれには、影という物が存在しなかった。

白銀に輝く体毛、銀色の馬のような姿をしており、額に青い線の入った螺旋状の一本の角を生やしている。

体の所々に青いラインがあり、皮膚は鱗状で青色が所々に見えている。

その姿はまさに「幻獣」だった。

 

 

【私は祖の使い、名をキリン。あなたの力を試しに来ました】

 

「その前に聞かせて欲しい。俺を何故異世界からの使者と呼ぶんだ?」

 

 

俺に話しかけてくるその幻獣の言葉を無視し、俺はまず自分が疑問に思っていた事を話しかけた。

蒼リオレウス、ラオシャンロン、オオナズチ、そして目の前の幻獣、キリン。

それらが俺の事を「異世界からの申し子」と言うのが不思議でならなかった。

俺は裏の家業の帰り道、タンカーに揺られて日本に帰還していたのだ。

そしてその眠っていたら目を覚ましたらここに迷い込んでいた。

 

 

だが……

 

 

この世界の特殊な存在であるモンスター達が「異世界からの|使者(・・)」という。

それはつまり俺がこの世界に来たのは|偶然じゃない(・・・・・・)という事を意味している。

 

 

【それに答えることは出来ないし、答える必要もありません。自分でその答えを見つけなさい】

 

「……あ~そうかい」

 

 

しかしそれは俺の質問には答えてくれなかった。

何となくわかっていた事なので、俺は溜め息を吐いてそれを終わらせた。

 

 

「それで? 俺をこんな雪山くんだりまで呼び出しておいて何をさせるつもりだ?」

 

 

と様式美というか……お約束的な感じで聞いてみるが、分かりきっていた。

なぜならば……。

 

 

出会ってすぐぐらいから凄まじいほどの鬼気を発しているからな……

 

 

【……あなたがラオシャンロンを倒して得た力。それを使いこなせるかどうか、それを確かめに来ました】

 

「ラオシャンロンを倒して得た力……だって?」

 

 

そう言われ、俺は自然と左手前腕を、右手で握りしめた。

 

ラオシャンロンを倒したときに光となって、俺の前腕へと入ってきたあの光。

その光は俺以外に誰も見ることが出来なかったらしく、誰も俺の事に注目していなかったために、俺以外にその事を知らない。

 

 

「これ……っていうかラオシャンロンの力ってのは何なんだ?」

 

【魔を斬り裂き、龍を劫火で灼き滅ぼす、魔の力。あなたはその力の片鱗を、身をもって体験しているはずです】

 

「体験している?」

 

 

キリンが言ってきたその言葉は、最初こそ面食らう言葉であったが、しかし直ぐに納得がいった。

ラオシャンロンを倒してから起こった変化。

悪夢を見るようになった事……そして、飛竜種が逃げ出すようになったこと。

 

 

飛竜が逃げ出すのが……力?

 

 

【その力は、飛竜ではとても太刀打ちできないほどの力を秘めています。飛竜達はその圧倒的な力を敏感に感じ取って、あなたから逃げ出していたのです】

 

 

俺が不思議に思っていた現象の正体。

それは俺の左腕に宿ったラオシャンロンの力が原因だという。

苦戦はすれど勝つ事自体は問題がない飛竜だが……、それを戦う気すら起こさずに、逃げ出させていたというラオシャンロンの力に、俺は驚きを隠せなかった。

しかしそれも納得できるという物だった。

 

 

あれほどの魔力壁を展開できるのだ。もしもそれを攻撃に転用していたら……

 

 

出来るかどうかは謎だが、仮に攻撃に転用できるというのならば、はっきり言って無敵だろう。

もしも収束させてビームのような攻撃が可能ならば、山一つ吹き飛ばすなど造作もないだろう。

 

 

【ですが……あなたはそれを全く使いこなしていない】

 

「……だろうな」

 

 

今の説明を聞いて、自分がどれほど力を無駄にしているのか嫌でもわかった。

逃げ出す原因が、ラオシャンロンの力というのはわかっていたが、それを自発的に使用している感じはしなかったからだ。

 

 

ん? ちょっと待て? 飛竜が逃げ出す?

 

 

そこで俺は少し不思議な事に気がついた。

飛竜が逃げ出すというラオシャンロンの力。

 

 

飛竜の代名詞とも言える存在……リオレウスであるムーナが全く怯えていないというのは一体どういう事なのか?

 

 

家族である、ムーナが全くラオシャンロンの力に無反応なのが気になった。

だが、あいつはいろいろとイレギュラーと言える存在なので、普通の考えで推し量る事は出来ないかもしれないが……。

 

 

【先日あなたが会った古龍種、オオナズチですが……あなたはあの程度の相手にすら苦戦した】

 

「あの程度だと?」

 

 

キリンからの言葉に俺は驚きを隠せなかった。

相手から侮辱の念が一切感じられなかったために、不快な思いをする事はなかった。

 

 

「あれほどの気配遮断スキルのある相手が、あの程度だと?」

 

【確かにオオナズチの気配遮断は普通の人間には全く悟られる事はないでしょう。ですが、魔力を感知する事さえ出来れば、発見する事はたやすい。桜火竜も直ぐに見つけていたはずです。あなたも、魔力を扱う事が出来れば問題ないはずです。何せ魔力の塊たるラオシャンロンの力を持ち得ているのですから】

 

 

それを言われると、俺は何も言い返せなくなった。

確かに、魔力を扱う事の出来る桜火竜は、一瞬の迷いもなく虚空……オオナズチのいる場所を攻撃し、オオナズチの魔力遮断を解除させていた。

そして魔力でそれが可能であるというのならば、魔力の塊のラオシャンロンの力を持った俺が、見つけられない事はないのだが。

 

 

【あなたのその力は強大すぎる。それ故にもしも敵に渡った場合、末席に匹敵するほどの力を有する事になります。これ以上、末席を増やすわけにはいかない】

 

「末席……だと?」

 

 

その意味を尋ねてみるが、敵は応えない。

押し黙り、俺を見つめてくるだけだった。

そしてそれ以上に……。

 

 

殺気が増大している……

 

 

相手……もはや闘う気満々であるキリン……敵は、その身に宿した殺気を隠そうともせずに俺へと向けてきていた。

 

 

【あなたが私を倒すことができればそれでいいです。ですがそれができず、私に負けた場合、その力を私が回収させていただきます】

 

「……わかった」

 

 

敵の殺気を身に浴びながら、俺は狩竜を地面へと突き立てた。

敵のサイズから言って対飛竜用に鍛造した、狩竜では不利だからだ。

サイズ的にちょうどいい、今回新たに装備した火竜刀「蒼月」を抜刀する。

魔力を操っていた敵、蒼リオレウスの素材で造られた武装。

これならばただの武器よりも魔力を扱いやすくするかもしれない。

 

 

【蒼リオレウス、リオソウルの素材で造られた武器ですか……】

 

「……不満でも?」

 

【いえ。特には。ですがあなたはそんなちっぽけな武器とは比べものにならない武器を得ているのです。体の内面を意識して、ラオシャンロンの力を感じて下さい】

 

 

それが出来れば苦労はしない……

 

 

【では……始めましょう】

 

 

そう言うと供に、敵が前足を上げ、嘶いた。

そしてその前足が地面に着地すると同時に、虚空からキリンを包むように、幾重もの雷が落雷した。

そしてそれと同時に、敵が発光の度合いを強め、体中から稲光を放っていた。

 

 

雷を使うのか?

 

 

間違いなく魔力で強化された雷だ。

正直かなり手強い相手である事は間違いなかった。

だがそれでも引くわけにはいかない。

俺は蒼月を構え、キリンへと向かっていった。

 

 

 

 

~???~

 

 

始めたか……

 

 

それは暴風の中心……もはや目も開けていられないほどの引きすさぶ風の中でも、平然としており、その場に佇んでいた。

 

 

キリンが来ていたか……

 

 

遙か先に感じる……古からの宿敵である、精霊。

その精霊が今力を解放し、その身に宿した白き雷を存分に振るっているのを、それは感じらていた。

場所は皮肉な事に、いつもそれが古くなった皮膚を脱ぎ捨てる場所であった。

 

 

相手は……やはり異世界からの使者か

 

 

それに相対するのは、それの|僕(しもべ)だった、蒼火竜の呪いを帯びた人間。

そんな人間は異世界からの使者以外に存在しなかった。

 

 

さて……どうするか……

 

 

まだ使者が生きているという事は、誰もがラオシャンロンの力を手に入れていないという事になる。

となれば、その力を手に入れたかったのだが……。

 

 

キリンと戦った後ではな

 

 

疲弊した相手を倒して漁夫の利を得るのは、それの好みではない。

だが、せっかくこうして巡ってきたチャンスを、何もしないまま終わらせるつもりもなかった。

 

 

ならば……

 

 

一つ思いつき、それは暴風の中でも揺れてすらいなかったその翼をはためかせ、宙を舞った。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「ぐっ!?」

 

 

全身の気を込めたその刃を敵へと叩きつけたが、それは何の手応えも感じることが出来ず、ふっとすり抜けていく。

そしてそれだけでなく、全身に雷を纏った敵の電撃が、刀身を通して俺のみを焦がした。

気壁を最大で展開いていたにも関わらず、それを貫いた。

 

 

【魔力無き攻撃では、私の体には触れる事すら出来ません】

 

 

そうかい!

 

 

つまり、今の俺では絶対に攻撃が当たらないという事になる。

このままでは一方的に嬲られて終わるだけだ。

しかも敵が光の玉になれる……つまりは魔力で形成された存在である以上、今こうして目の前でキリンとしての姿でなくてもいいという事になる。

 

 

まぁ十全に力を発揮するための形態だろうから、理由なしという事でないだろうが

 

 

それを証拠に敵が光の玉だったときと、現在の形態……ユニコーンの形態となっている状態では、迫力と鬼気が桁違いだった。

まぁそう言った諸々の事情から逃げる事すらかなわない。

何せ敵は魔力の塊であり魔力その物。

やろうと思えばユニコーン形態を形成していなくても攻撃が可能なはずだ。

正直きついが……。

 

 

逃げるつもりはさらさら無いがな

 

 

敵の攻撃(俺ががむしゃらに突っ込んで、纏っていた電撃を喰らっただけなので、敵は攻撃すらしていないが)で痺れていた体に活を入れて、俺は四肢に力を入れて、蒼月を軽く握って敵をにらみ据える。

 

 

【……それで終わりですか?】

 

「……」

 

 

悔しいが、敵の言うとおりで完全に八方塞がりだった。

何せ敵の攻撃は喰らうというのにこちらの攻撃は当たらないのだ。

今のままでは勝負にもならない。

 

 

内面にあるというラオシャンロンの力……

 

 

それを認識しろとキリンは言った。

だが、蒼火竜、ラオシャンロン、桜火竜、そしておそらく霞龍も、大気から魔力を吸収していた。

ならばラオシャンロンの力というのはあくまでもそれ個人の力であって、魔力=ラオシャンロンではない。

ならばこのラオシャンロンの武器というのは、あくまでも敵が纏った魔力を切り裂き、さらに直接ぶつける事が出来るという武器なのだろう。

それに敵も今はっきりとこういった。

 

 

魔力無き攻撃では……

 

 

つまり魔力さえあれば敵に触れる事自体は可能なのだ。

そしてどれほどの出力が必要かはわからないが、敵を倒す事も不可能ではないはず。

それに……

 

 

あの時……使ったはず

 

 

オオナズチにとどめを刺したとき、俺の左腕前腕に熱を感じた気がしたのだ。

あの時はがむしゃらだったが故に、錯覚だと思ったが今の話を聞けば、それが錯覚でない事がわかる。

 

 

夜月はただの鉄の塊

 

 

気で最強レベルに強化されてはいるが魔力は一切持たない。

その夜月で敵の頭を刺せたのはラオシャンロンの力が片鱗とはいえ使用した事に他ならない。

 

 

……だが「いにしえの双剣」で攻撃出来たのは何故だ?

 

 

そこであの双剣……ラオシャンロンの角より出てきたと思しき双剣の事が頭をよぎった。

確かに何か禍々しい雰囲気を放っていた双剣だが、魔力は発していなかった。

 

 

ならば何故魔力を展開しているはずのオオナズチに攻撃を加えられたんだ?

 

 

【霞龍の魔力運用はそのほとんどが気配遮断に回される。彼はその魔力遮断に全てを注いでいるために、他の攻撃等に超常的な攻撃はありません。故に防御などの基本的強さは飛竜と一緒です】

 

「……人の心を読んでまで解説どうも」

 

【ですがそれでも普通の武器では古龍に傷一つつける事すらかないません】

 

「……じゃあ何故?」

 

【ただの武器では古龍の魔を切り裂く事は出来ないのです。気力か魔力を帯びさせた武器ならばそれも可能ですが……。ですが、その竜人族が造りし宝剣。古龍に対する恨みを込めて造られたその剣と、もう一つの武器だけが人が造りし剣で唯一古龍にダメージを与えられるからです】

 

 

疑問が解消された事で「いにしえの双剣」関しては一旦放棄。

だが、あの時左腕前腕部が力を帯びたというのは間違いない。

ならばあの時と同じようにすれば……。

 

 

【それほどの時間を私が与えるとでも?】

 

 

そう思念を送ってくると同時に、こちらの返事を待たずに、キリンがその身に電撃を纏わせて、凄まじい速度で突進してきた。

 

 

「っ!?」

 

 

まさに電光石火……。

もはや稲妻そのものといってもいいと思えてしまうほどの速度だった。

しかも雷撃を体に宿しているために紙一重で避けるなんと事は絶対に出来ない。

 

 

「ちっ!」

 

 

俺は恥も外聞もなく、全力で横に飛んだ。

そのために無様に地面に転がっているがそんなことは関係がなかった。

敵が通った後……その道には雪が全く残っておらず、しかも地面が真っ黒だった。

この地面の地質は知らないが……湯気を出しているところを見ると、雷の熱で焼けこげた物だと思われる。

 

 

…………もはや雷ではないな

 

 

電撃を併せ持つ熱線といった方がいいかもしれない。

それをあの体躯から幾重にも吐き出してそれを纏って突進してくるのだ。

とてもではないが、あんなものを喰らえば焼けこげる前に焼失するだろう。

そしてその攻撃を避けられてもキリンは停止すると、慌てずにゆっくりとこちらへと向き直った。

それはそうだ。

何せこっちの攻撃は辺りもしないのだから慌てる必要もない。

 

 

【……まさかもう終わりですか?】

 

 

ちっ!

 

 

全く感情が乗っていない思念を送られてきて、俺としては何か言い返す事も出来ない。

魔力を扱った事があるはずなのだ。

ならば無意識に使ったそれを思い出し、意識を集中しようにも……

 

 

【遅い】

 

「っ!?」

 

 

キリンの猛攻はやまなかった。

敵は雷を自在に操り、距離があっても関係なく、正確無比に俺の場所へと落雷させる。

だが、その一瞬前に足下が光るので何とか回避できているが……。

 

 

「あんたは俺に力を使わせたいのか? それともさせたくないのか!?」

 

 

何とか避けながら、俺は怒鳴りながら敵にそうぶつける。

 

 

【攻撃をされている程度で切れる集中力で、大気のマナを自在に操れるラオシャンロンの力を制御できるとでも?】

 

 

それもそうだな!

 

 

敵の鋭い指摘に、内心で嘆きながら俺は敵の猛攻をどうにか避ける。

超高速でのジグザグ突進、落雷させるだけでなく額の角からビームのように雷を俺に向けて放ってくるその攻撃方法……etcetc。

 

 

つ、強い!

 

 

攻撃方法が、人間の感覚では光と思えるほどに速度がある雷では、避けるだけで精いっぱいだった。

さらに魔力で強化されたその攻撃力は、恐ろしいほどの熱量を有していた。

攻撃力は間違いなくトップクラスだ。

しかも飛竜種と違い、普通の馬よりも少し大きい程度のサイズで小回りもきくために、間隙を突きにくい。

攻撃力は異常、こちらの攻撃はまだ当てていないので防御力は不明だが少なくとも柔ではないと思われる、速度に関してはもうチート。

間違いなく今まで出会った敵の中では最強クラスだ。

 

 

どうするか……

 

 

必死に敵の猛攻を避けながら、俺はどうすれば敵にダメージを与えられるか考えていた。

といっても、敵が実体を持たないような存在である以上、魔を切り裂くという力を持ったラオシャンロンの力を使えるようにならなければいけないのだろうが。

 

 

【それにしても情けない】

 

「……何?」

 

 

出し抜けに、突然に……攻撃を中止して語りかけてきたキリンのその言葉に、俺は一旦停止した。

互いの距離約十メートルほど。

敵ならば一息で詰めてこれるこの距離では、敵の鬼気が霧散しているとはいえ油断できるわけがないので、会話を気にしつつ、俺は敵から目をそらすわけにはいかなかった。

 

 

【彼から力を与えられ……あまつさえ毎晩彼から試練を与えられ、それを乗り越えたにも関わらず……全く力を具現化できないなんて】

 

「……試練だと?」

 

 

その意外な言葉に俺は動揺してしまった。

毎晩の試練。

毎晩という事はラオシャンロンを倒してから見るようになったあの悪夢の事だろうか?

確かに先日のレーファとの一件以来、あの夢を見ないようになったが……あれはラオシャンロンが与えていた試練だというのだろうか?

 

 

よくわからんな……

 

 

あの夢が試練だとして……何故あの夢を見なくなったのか?

 

 

ジンヤさん

 

 

そんな事など……わかりきっている。

 

 

私はジンヤさんの事が好きです!

 

 

あの子がそう言ったから……そう言って俺に一つの答えを……一つの道を示してくれたから。

過去に死んだ、死なせてしまったあの子の言葉、過去よりも未来を見よう、そう言った言葉を、受け止めすぎていた俺に、今を見ろと……言った子。

 

 

14の小娘にしては……出来た子だよ

 

 

鍛冶屋の娘もあってか、鍛造している俺を見る目は真剣だった。

そして……

 

 

生きる事を……精一杯頑張っている女の子だった

 

 

キィン

 

 

俺の最終目的は、現実世界に帰る事。

それは変わっていない。

だが……

 

 

私を……今を見て下さい!

 

 

また……会いましょう。ジーヤさん

 

 

もう、先を見るだけの俺は棄てたのだ!

 

 

ならば今を……相手を倒す事のみを考える。

この敵を倒さねば、生きる事……つまり明日を迎える事すらかなわない。

 

 

カタカタカタカタ

 

 

だから……俺はなんとしてもこいつを倒さねばならんのだ!

 

 

その思いを胸に……俺は己の内面に集中する。

 

 

 

 

思い出せ……

 

 

 

 

霞龍、オオナズチを倒したときに感じた……あの感覚を……。

 

 

確かにあの時、俺はラオシャンロンの力を使ったはずなのだ。

無我夢中で感覚も記憶も曖昧だが……それでもこの体が覚えているはず……。

それに何より

 

 

一度使えたのだ……ならばもう一度使えない道理はない!

 

 

その思いを糧に……俺は力の限り両手を握りしめた。

 

 

ボワッ!

 

 

「うぉっ!?」

 

 

俺が心の中で啖呵を……覚悟を決めると、俺が手にしている打刀「蒼月」が燃え盛っていた。

文字通り燃え上がっていて、青白い炎を上げている。

それだけならばまだ気を大量に注いだ結果、紅玉が反応したと考えられなくもなかったが……だが不思議な事にその炎から俺は熱を感じ取れなかった。

しかも吹きすさぶ風にも揺られず……ゆっくりとした炎を上げている。

 

 

まるで……現実の炎ではないかのような……

 

 

しかも今俺は一切気を刀身へと送っていない。

であるにも関わらずそれは炎を上げている。

 

 

【それが魔力です】

 

「……これが?」

 

【森羅万象に宿った生命の息吹、自然の力……。大気に満ちた星の命……。あなたの世界と違い、この世界は大量の魔力があります。それを扱えればかなりの力を得る事になります】

 

 

……確かに

 

 

蒼月から発せられた、熱を感じないという炎に呆気にとられていた俺に、キリンはそれの……青白い炎の正体を告げてくれる。

確かに……その炎には「気」とは違う……何かを感じられた。

大気から微細な量の魔力を吸収し……それを発露させているのがわかった。

そして炎の発現で驚いていたが、体へと意識を向けると……何か左腕前腕部に微かな熱を感じ取った。

そちらへと目を向けると、左腕が淡い紫に光っていた。

 

 

【……全身でなく左腕前腕……まだ完全に物にしたわけではないようですね】

 

「……そうだろうな」

 

 

これに関しては間違いなかった。

じいさんに父さん供に魔力が使えるのだが、二人とも使用しているときは全身が淡い紫の色に染まっていた。

無論それも場合によるが、それでも基本的には全身が魔力で覆われている。

さらにその先へとゆけば、光る事もないのだが……。

 

 

【ですが、一応とはいえ顕現できた事は事実ですね。なら……その力を使って、私を納得させていただきましょう】

 

「心得た……」

 

 

ようやく俺が同じ舞台へとたったこともあり、キリンの雰囲気が一変した。

ただ無遠慮、無造作に向けられていた殺気が、だんだんと研ぎ澄まされていく。

それに伴って、敵が身にまとっている雷の範囲が増大した。

身をほのかに包んでいたその雷撃は、まるで風にあおられてもなお、荒れ狂った炎の猛りのような凄まじいほどふくれあがり、覆っていた。

 

 

バヂッ! バジィ!

 

 

多少の距離があるにも関わらず、その雷撃の音は俺の耳に届いた。

その音を聞くだけでも、相当の電圧がある事がわかる。

そして敵が本気を出してくるという事は……

 

 

避けきれるか……?

 

 

敵は雷その物といっても過言でない速度を放つ。

ここで一つ面白い話をしよう。

 

拳銃弾丸、初速230 ~680m/s

ライフル、750 ~1,800m/s

そして21世紀初頭に開発されたレールガン(あくまで実験のデータであり兵器としての実用はまだ先の話……だと思う)では最大速度8km/s程度の物が開発されている。

 

↑ウィキに乗ってます。興味のある方は調べてみよう by作者

 

 

に対して

 

雷の速度、150km/s~200km/s

となっている。

はっきり言おう……。

 

 

そんなの人間が避けられるわけがない

 

 

出来そうな人物が俺の記憶にいますけども……俺はその域に達していない。

せめて魔力を存分に使えれば可能性はあるが……俺にはまだ出来ない。

だが……

 

 

避けられないが……

 

 

対抗する手段はある!

 

 

【……行きます】

 

 

敵が……来る。

 

俺の後方へと先に凄まじい電圧の玉を形成。

そしてそれの導かれるように……キリンの体が消える。

その最大の武器を発揮しての電光の速度。

俺はそれを……

 

 

「■■■■!!!!」

 

 

渾身の力を込めて……全力で躱した。

 

 

ババババババ!

 

 

青白く瞬く電光。

凄まじい熱量と電圧を併せ持った究極の熱線。

敵の突進を、俺は辛うじて直撃だけは回避した。

 

 

バヂ!

 

 

「ガァッ!?」

 

 

そう、あくまで直撃を回避したのであって、体の一部が灼かれた。

 

 

右前腕部負傷……

 

 

雷の一撃をもらい、数秒ほど意識が飛んでいた。

どれほどの電圧か……考えたくもない雷をもらったのだ。

よく生きていたと褒めてやりたいくらいだ。

焼けこげた防寒着の下……何とか耐えてくれた普段着に俺は感謝した。

だが、それでも電撃は通っているので、体の感覚が今かなり曖昧になっている。

しかし右腕が吹き飛ばなくて良かった。

体中の気を練り上げての防御力強化。

それだけでかなりの力を持って行かれたが、それでもまだ倒せる。

 

 

【……】

 

 

俺がまだ諦めていない事を理解しているのか、敵が……キリンが何も言わずに再度俺へと突撃の攻撃を仕掛けるべく、その身の電圧を高める。

俺はそれを確認しつつ、痺れて満足に動かす事も出来ない右手で……夜月を抜いた。

 

 

スラ

 

 

打刀、夜月。

俺の一番の相棒であり、俺が生まれたと同時に鍛造された、俺の半身といっても過言でないこの刀。

 

 

【……勝負】

 

 

それを見つつも、何をするのかわからないキリンは、先ほどの攻撃を再度繰り出してきた。

先に着地点を決めて、そこに電塊を展開。

今いる地点と、その場所を雷でつなぎ、その上を自身ごと移動させる、最速の一撃。

確かに凄まじい速度だ……だけど

 

 

見切った!

 

 

二度しか見ていないが、自身の体が吹き飛ぶ事さえ覚悟して受けたその攻撃。

 

 

避けられないのならば……

 

 

先にも言ったが敵の攻撃は雷その物。

そんな速度を、修行不足の俺が避けられるはずがない。

だから……

 

 

避けずに耐えればいい!!!!!

 

 

おぉっ!!!!

 

 

全ての力を込めて……俺はその右手に持った刀を……夜月を振り下ろした。

 

 

ガスッ!

 

 

そして……

 

 

「『|刃気(じんき)』解放……!!!」

 

 

その叫びと供に、夜月が光り輝き……ため込まれていた気力を解放した!

 

 

【!?】

 

 

俺の行動に敵が驚いているのがわかった。

それもそうだろう。

何せこれは俺にとっての隠し球なのだ。

 

 

夜月……否、夜月だけでなく気の込められた武器に気を宿す。

それは戦闘中だけの一時的な時間しか効果がないと思われがちだがそれは違う。

戦闘中、手入れ中などに、己の余剰の気を刃に込めておき、いざというときに解放する奥の手。

そして俺が今持っている手持ちの武器でそれがもっとも溜まっているのが夜月だった。

生まれてより時間を供に過ごし、物心つく前より修行を行い、そんな幼少時から己の体の一部として生きてきた夜月。

その一部の気を解放し、敵の攻撃を防ぐ盾とする。

 

 

ガガガガガガ!

 

 

敵の体と、俺の夜月と俺自身が展開した気壁が、凄まじいまでの音を立てる。

そして何とか打ち破られずに、敵の動きが止まった。

 

 

【な、止まった!?】

 

 

自身の攻撃を止められて、キリンが驚いている。

確かに敵の攻撃は強い。

何せ知覚できないほどの速さを誇っているので。

それだけで普通ならば絶望的になる。

だが、火力が足りないのが敵の攻撃の欠点でもあった。

火力がないといっても決して弱いわけではない。

というか普通の人間なら自分が殺された事さえわからずに死ぬだろう。

魔力を用いての攻撃なのだ、弱いわけがない。

だがそれでも……奥の手である『刃気』解放を行えばどうにか止められる。

 

そしていま……目の前にその敵がいた。

気壁に阻まれて、動きが止まった敵。

その額にある一角……そこに向けて俺は全力で左手で握りしめた、火竜刀「蒼月」を突き込んだ!

 

 

「くらぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

【!?】

 

 

ドンッ!!!!!

 

 

全身全霊、ありったけの力を込めて突き込んだその突きは……

 

 

【……見事です】

 

 

敵にダメージを与えていた。

 

つまり……

 

 

魔力の攻撃が通ったという事か……

 

 

魔力の塊であるキリン。

それに対抗するには魔力を纏った攻撃を行うしか方法はない。

そしてその敵にダメージが通ったのだ。

だが敵も天晴れだった。

なんと俺の全力の突きを、その一角で僅かに横へと逸らし、致命傷を免れていた。

だが俺も先ほどの電撃がまだ体の感覚を奪っており、しかもだいぶ体力を浪費していた。

もしも認めてもらわねば俺としては……

 

 

崖から飛び降りて逃げるしかないな……

 

 

 

 

 

その時俺に……何故かポッケ村のご当地装備を纏い、骨の片手剣を装備した人間が、恐竜飛竜に崖から突き落とされる映像が脳裏に流れた……

 

 

 

 

 

……デジャブ?

 

 

【……そう身構えなくても大丈夫です】

 

 

その思念を読んだのか……(実際読んでそうだ)キリンは身に纏っていた電撃を納め、さらに殺気も霧散させた。

だが油断する事は出来ないので、俺は少しだけ距離を離し、蒼月を構え続ける。

 

 

【……及第点といったところですが、それでも魔力を扱えているならばこれから修練していけば問題ないでしょう】

 

「……ほう、俺に時間をくれるというのか?」

 

【えぇ。さすが異世界からの使者と……言わせていただきましょうか】

 

 

その言葉で俺はようやく安心できた。

こちらとしても戦う意志がないという事を伝えるために、蒼月を血振りし(血付いてないけど)、静かに鞘に収めた。

だが、それでも気を抜かずに警戒だけは怠らなかった。

よもや油断させておいて殺しに来るとは思ってないが、それでも可能性はある以上、用心に超した事はない……。

 

 

【さすがは祖の…人の…】

 

「? 何か言った?」

 

【いえ。特には】

 

 

何を言った……思ったのかね?

 

 

何か言った……思ったような気がしたのだが気のせいだったのだろうか?

しかしこれ以上聞くのもアレなので、俺はこれ以上その事を聞くつもりはなかった。

さて……

 

 

「それでこれからどうするんだ?」

 

【……そうですね。あなたの力は見せていただきましたし……これで終わりにしましょう】

 

「そうか。しかし雪山にする必要性はあったのか?」

 

【雪山は基本的に雲で覆われている事も多いですし、仮に晴れていても私の体の色と遜色がないためにあまり人に知られる事もありません。私は余り人に姿を見せるわけにはいかないので】

 

 

大変だな

 

 

確かにそう言われたらそう思える。

俺の世界でも麒麟と言うのは幻獣扱いで仮に人里に来た場合は、それはもう……。

 

 

すごい事になりそうだな

 

 

まぁそんなこと無いのでどうなるかはわからないが……まぁ一騒動起こる事だけは間違いないだろう。

ましてやこの世界は技術的に未熟といえる(あくまでも科学分野ではだが)。

そんな世界にこんな化け物が出てきたら……神様として扱われても不思議ではない。

 

 

【ここまでご足労してくれたお礼といっては何ですが……麓近くまで私がお送りしましょう】

 

「おぉ……それはすごいありがた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

【それは困る】

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がキリンの提案に頷こうとした時、そんな思念が届いた。

俺とキリンは、その思念に弾かれるように辺りを見渡したが何もおらず、……頭上……この山の山頂であるその手前、龍の形をした岩がある場所へと……目を向けた。

 

 

 

 

【なかなかの勝負であったな。キリンよ】

 

 

 

 

金属質で鈍色に輝く鱗を身に纏い、前足と後ろ足の間に、巨大な皮膜状の翼。

口周りに棘のようなものがいくつか生えており、対になった角のような物が額辺りから天へと向かってそびえ立っていた。

 

 

そして何より印象的だったのは……

 

 

瞳が……金色だと

 

 

暗雲立ち籠めるこの薄暗い中でも、爛々と輝くその金色の瞳だった。

 

 

【……風翔龍】

 

 

 

【久しいな。雷の精霊よ】

 

 

 




第四部開幕いかがでしたでしょうか?
いきなり『異世界~』なんかをキーワードに刃夜君が孤軍奮闘いたします。
いやぁ……普通に考えて


いやモンハンのキリンとか、そうそう相手に出来るか?


と思っていた。
だってMHP2Gでの体の固さ異常でしょ!?
ハンマーでないと戦えないし!
んで特異個体の映像見たらさらに化け物じみてるしw
いやぁ……笑えるw
魔改造してますけど……特異個体のも参考に造りましたので今回は改造具合は控えめ……かな?

戦闘を見計らってやってきた風翔龍、クシャルダオラ。
戦闘開始になり、敵のその天候を操るという力に驚き苦戦する。
何よりも知覚は出来ても視覚的には捕らえる事の出来ない「風」を操る相手に苦戦する。
渾身の気を込めた狩竜で攻撃しても、敵に触れる事すらかなわなかった。


何か……武器はないのか!?



次章 第四部 第二話


「風翔龍(仮)」


……朧の劫火が、目覚めるとき……



上げてすぐに誤字修正
ヨイヤサ様 ご報告ありがとうございました!

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