リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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風翔龍~クシャルダオラ
古龍種ではかなり好きな部類に入る竜です。
っていうかナズチとテオナナは竜じゃないでしょ!?
特にテオナナ! アレはもはやシーサーだ!!!!
まぁそれはともかく。
今回……チートって言うぐらいにクシャルダオラを強化しましたw
苦戦してひどい目に遭っているジンヤ君にご期待下さいw
それでは始まり~



吹雪に舞う黒い影

風翔龍~クシャルダオラ

古龍種ではかなり好きな部類に入る竜です。

っていうかナズチとテオナナは竜じゃないでしょ!?

特にテオナナ! アレはもはやシーサーだ!!!!

まぁそれはともかく。

今回……チートって言うぐらいにクシャルダオラを強化しましたw

苦戦してひどい目に遭っているジンヤ君にご期待下さいw

それでは始まり~

 

 

 

■い……

 

 

 

 

それは、眠っていた……

 

 

 

 

■い……

 

 

 

 

深く深く……己が身を土が、岩が……覆っていてもそれは眠っていた……

 

 

 

 

■い……

 

 

 

 

そう……眠っていた……はずだった……

 

 

 

 

■い……

 

 

 

 

それは巨龍の体に吸収され、太古から現代へと……召喚された……

 

 

 

 

■い……

 

 

 

そして岩の塊だったそれを、余分な岩と土を取り除き、研磨され、再び日の目を見る……

 

 

 

 

■い……

 

 

 

 

だがそれでもそれは眠っていた……

 

 

 

 

そう……その魔の血を浴びるまでは……

 

 

 

 

■い……

 

 

 

 

怨敵の同類と出会い、その魔を宿した血を吸って、それは目覚めた……

 

 

 

 

■い……

 

 

 

 

そしてその想いを……憎しみまでも蘇った……

 

 

 

 

■い!

 

 

 

 

村を滅ぼし、愛する者を奪われ……そして友が打った剣を砕いた……あの龍が!

 

 

 

 

我らは憎い!!!!!!

 

 

 

 

【久しいな。雷の聖霊よ】

 

 

それは……そう言った思念を、俺たち二人に送ってきていた。

その姿は、まさに西洋龍。

この世界の竜は基本的にワイバーン種(前足がない龍)なのだが、それでも今こちらを見下ろしている竜は前足と後ろ足の四足の龍。

そういえばこの前の古龍、オオナズチも四足で翼があった龍だった。

 

 

古龍種の特徴とか?

 

 

何となくそんな事を考えてしまう。

だが判断材料が二匹では判断のしようがない。

古龍……キリンもそうらしいがそれは置いておいて……四つ足に翼となると、まさにドラゴンという事になる。

ワイバーンと呼ばれる飛竜、翼竜よりも強力であるとされるドラゴン。

同じ竜種だがその差は相当な差があるとかないとか……

それはともかくとして……

 

 

考え事をしている場合ではないな

 

 

こちとらキリンも俺もそこそこのダメージと体力の消耗。

それに対して敵は全く疲労していない万全な状態。

ここで攻撃されたら……

 

 

【そう硬くなるな、使者よ。戦うつもりはない】

 

 

……あれ?

 

 

しかし意外な事に俺と戦う気はないらしい。

まぁ確かに、もしも仮に戦うないし、俺を殺す気であったならば、先ほどのキリンとの戦闘が終わった瞬間を狙い定めて攻撃してくればいい。

それで死ぬ事はよほどの事がない限り無いだろうが、しかしそれでも何らかのダメージを与える事は容易だろう。

それをしなかったという事は確かに戦う気がないのかもしれない。

 

 

というか今更だが使者ってなんぞ?

 

 

「……見逃してくれるとでも言うのか?」

 

 

が、今訪ねられる空気でもないので聞かない……。

 

 

【違うな。貴様ほどの人間と対峙する事は、実に数百年ぶりの事だ。その相手が手負いの状態で戦ったとしても私が楽しむ事が出来ない。故に万全の状態になった後にまた戦え】

 

 

……ふむ。戦闘狂に近い思考だな

 

 

【だがキリンよ……残念だが主には付き合ってもらうぞ】

 

 

だがこの台詞で、俺は素直に帰るわけにはいかなくなった。

 

 

【……何故でしょうか?】

 

【決まっている。さんざん辛酸をなめさせられた相手を前にし、見逃すとでも? さらにその相手が手負いであれば絶好の機会。数百年にわたる因縁に終止符を打とうじゃないか】

 

 

どうやらキリンと風翔龍とやらには浅はかならぬ因縁があったようだ。

そんな相手が手負いでいるのならば確かに絶好のチャンスだろう。

 

 

さてここで問題

 

ダァダン!

 

 

キリンが手負いになった原因は何?

 

1刃夜との戦闘

2刃夜との強化訓練

3刃夜の見極め決闘

 

答えは?

 

A 全部

 

 

となると……放っておく訳にはいかないだろうよ

 

 

そう決めて俺は一旦体の具合を確かめた。

先ほどの戦闘でのキリンの雷を喰らってまだ体が本調子じゃないのだ。

 

 

まだだいぶ痺れているな……。機動力および機動性が軽く見積もっても四割はダウンしている

 

 

さらにその痺れで体の感覚も……触覚もおかしい事になっている。

正直あまり寒さを感じられない。

それだけでも相当危ないのだが……。

 

 

恩人……(人……か?)の危機を見逃すわけにはいかない

 

 

俺は若干感覚のない拳を握りしめて、キリンを守るように……クシャルダオラとキリンの間に、己の体を潜り込ませた。

 

 

【……どういうつもりだ?】

 

「どうもこうもない。キリンは俺との戦闘で傷を負ったんだ。だからこいつと戦うというのならば俺も相手にしてもらう事になるぞ?」

 

【……ほう。私に人間ごときが刃向かうと?】

 

「ごとき? は、人間の底力って物を舐めるなよ」

 

【……本当に戦う気ですか?】

 

 

風翔龍とやりとりをしていると、そんな思念をキリンが送ってくる。

しかもそれが実に意外そうな言い方で……。

 

 

やれやれ

 

 

「当然だろう。恩人であるあんたを置いていけるか」

 

【……恩人、ですか?】

 

「稽古つけてくれただろう?」

 

【……】

 

 

そう言うと何か呆気にとられたような感じになった。

何を言うのかわからなかったが、直ぐに否定しないという事は助かるという事だろうか?

 

 

【……いいでしょう】

 

「お、いいのか?」

 

 

てっきり断るかと……

 

 

【ですが私ももうそんなに魔力はない。ならば……ラオシャンロンと同様、私の力もあなたに預けます】

 

 

……何だと?

 

 

それが一体どういう意味なのか……いやそれ以前に力を預けるということが具体的にどういう事なのか聞く前に、キリンの体が光の玉に変化した。

それが何か輪の形を形成すると、俺の首までやってきて俺の首に装着される。

そしてそれが徐々に徐々に小さくなっていき……最終的に出来たのは、青く輝くたてがみが付いている首飾りだった。

 

 

「……これは?」

 

【私を宿した『たてがみの首飾り』です。私の力をあなたに授けましょう】

 

 

そう言うと同時に、キリンの力が体に流れてきたのがわかった。

そしてそれと供に先ほどから感じていたキリンの雷撃による体の痺れが消えた。

のだが……。

 

 

「いらん」

 

【……どういう事です?】

 

「お前の力なんぞいらないと言っているんだ」

 

 

俺ははっきりと、さらに声を大にしてそう言った。

 

確かにキリンの力は魅力的だった。

力が流れてきた瞬間に、まるで雷を自在に操れると思えるような気がした。

だが……未だ使いこなせていない力があるというのにさらなる力を求めるなど論外だった。

普段過剰装備と言ってもいいようなほど武器を装備している俺がいうとまるで説得力がないが……得物とは数があればいいという物ではない。

人間どんなに頑張っても一度に使える武器などたかがしれているのだ。

だからこれ以上の武器を持っても意味がない。

少なくとも今は。

それになにより……

 

 

俺には古龍をも葬る事の出来る武器をすでに宿しているはずなんだ

 

 

老山龍と呼ばれ、歩く天災と謳われた古龍ラオシャンロンの力。

あれほどの魔力壁を展開できる物の力を俺はすでに持っているのだ。

ならばそれだけで十分なはず!

 

 

【……わかりました。いいでしょう。私の運命を……あなたに託しましょう】

 

「……すまないな」

 

【確かに言っている事ももっともですし。ですが私との戦闘での痺れだけは私の力で治療しましょう。よろしいですか?】

 

「それは願ってもない事だ。よろしく頼む」

 

【話はまとまったか?】

 

 

俺とキリンがそう言ってやりとりをしても、敵は攻撃を仕掛けてくるどころか、こちらと同じ場所へと降りてくる事もなく、ただじっとしていた。

どうやら本当に俺とは正々堂々と勝負したいようだった。

だから俺はそれにはっきりと頷いた。

 

 

ふわり

 

 

まるで風など無いかのように……実にゆったりと羽ばたきながら、敵が降りてくる。

俺はその間に狩竜を回収し、鞘から抜刀、鞘を折りたたんだ。

それを腰に縛りつけて、俺は狩竜を一度振るった。

 

 

【では……始めよう】

 

 

そう思念を送ってくるのと同時に、敵が前足を上げ天に向かって咆吼した。

そして相手が着地したその瞬間。

 

 

ドゥン!

 

 

辺りの雪が舞い散るほどの爆風が相手を中心に発生した。

粉雪ではないはずなのに、まるで雪の結晶すらもことごとく分解したと思えるほどの雪が舞う。

そしてそれがやむと……目の前に突風……っていうか台風の目になっている古龍がいた。

 

 

……は? 何どういうこと?

 

 

 

 

【我が名は風翔龍、クシャルダオラ。お主に宿ったラオシャンロンの力をもらうために、貴様の命、もらい受ける!】

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

無事かな……ジンヤさん

 

 

和食屋の仕事を行っていたら、意外な事にフィーお姉ちゃんとリーメさんが和食屋にご飯を食べに来て事情を聞いた。

なんでも雪山にあるポッケ村から伝言が届いて、それを確かめるためにポッケ村に……雪山に向かったって聞いて……。

しかも雪山という極地に赴くために、フィーお姉ちゃんも一緒に行ってなくって……今ジンヤさんは一人で……。

 

 

……大丈夫かな?

 

 

それを聞いて、なぜか私は胸騒ぎがした。

だって……今までこんなことなんてなくって……一人きりでフィールドに向かったことも……伝言が来るなんてことも……初めてで。

 

 

無事に帰ってきてくださいね

 

 

休憩時間になって、裏の更衣室に行き私は首飾りを手に取る。

 

 

桜火竜 リオハートさんの紅玉

 

 

ジンヤさんにお願いして紅玉の首飾りを造ってもらって私はそれを常に身に着けていた。

サイズがちょうど首飾りに使われるようなサイズで、しかも首飾りに加工してもらったから、皆これが街さえも買えると言われている紅玉だとは気付いていなかった。

素材自体が希少でめったに市場とかには出回らないから、これが紅玉だと気づかなくてもしょうがないし、それでよかった。

 

 

これは……大切にしたい

 

 

命の恩人が私にくれたもの。

これ自体に価値があるのは分かってるけど、それ以上に、私にとって命を救ってくれたリオハートさんの紅玉は大切にしたかったから。

これをくれた時に感じた力。

何もないはずだった私の目の前に現れたこの紅玉は、不思議な力を秘めている気がする。

 

 

だから……私は……

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

ゴォッ!!!!

 

 

なんつ~突風だ!

 

 

最初こそ自身の周りだけだったのに……今となってはここら一帯が猛吹雪になっていた。

おかげで目を開けるのすら困難だ。

 

 

【相手は風翔龍、クシャルダオラ。額から生えている角で周りの天候を操作する事の出来る能力を持った古龍種です】

 

天気を操るだって!? どんな能力だ!?

 

【古龍種は私も含めて特殊な力を持ち得ているのがほとんどです】

 

 

そんな驚きの情報が蒼い毛のたてがみの首飾りになったキリンからもたらされる。

天候を操っているのがどういう原理か知らないが……しかし敵の纏う風から溢れんばかりの魔力を感じる事を考えれば、確かに出来ない事もないだろう。

 

 

【……貴様、何故地面に立っていられる?】

 

 

そうして思念で声も上げずにキリンと会話をしていると、敵が何もせずにじっとこちらを見つめながらそんな事を言ってきた。

しかし何を言っているのかわからなかった。

 

 

立っていられるって……そういやこの凄まじいほどの突風を身に浴びても重心がびくともしないな

 

 

クシャルダオラに言われてようやく気がついた。

敵の風を受けても何故か吹っ飛ばないのでわかりにくいが、それでも人間が静止していられないほどの猛吹雪になっているはずだ。

だが俺の体は確かに風の影響というか、風をこの身に浴びているが特に倒れたり、バランスが崩れたりするようなこともなく……平然としていられた。

そう思っていると自分の内面に違和感を覚えた。

内面……より正確に言えば左腕の一部。

それが俺の扱える僅かな魔力を吸収し、何かの力を発揮している事に気がついた。

 

 

これは……?

 

 

【……そうか。その力、それは霞龍の『霞皮の護り』。なるほど……すでにやつはお前に敗れていたのか】

 

 

クシャルダオラが勝手に納得していた。

そしてそれを言われて俺もこの力がなんなのか何となくわかった。

あの時の古龍、オオナズチの気配が俺の体をうっすらと覆っているのだ。

しかし特にオオナズチの思念は感じられなかった。

となるとこの力はほとんどオートで作動する常時発生型の力という事になるのか?

 

 

【確かに、『地』の力を宿したあやつをすでに倒し、その力をその身に宿しているというのならば納得できる。私の風が無意味なのも】

 

 

勝手に納得する敵。

だがその言い分はわかった。

古龍、オオナズチの体格、というか体は基本的に地面に這うような姿形をしていた。

それにその地面に這うような形態でその体は大きかった。

一瞬、というか敵が姿を表してから少しの時間しか見ていないが、それでもかなり大きめなサイズだった。

頭の上に俺が着地できた事から考えてもでかい部類にはいるだろう。

それだけの大きさとあの形ならば、確かによほどの風でなければそう簡単に吹き飛ぶというか、風に体の動きを阻害されそうに見えない。

そして……敵の力を吸収したからこそ……

 

 

俺は生きているんだろうな

 

 

オオナズチの前腕攻撃で受けたあの傷。

あの攻撃は腐食と毒が付与していた。

絶叫を上げるほどの猛毒だったにも関わらず、オオナズチが消えて、その力と思える光の玉が俺の腕に収納されると、途端に毒が解毒されたのだ。

それが少々不思議だったが、オオナズチの力を得た事で解毒されたのだろう。

おそらく今の俺は、オオナズチの毒よりも強力な毒で無ければ、毒で死ぬ事はないだろう。

 

 

しかしオオナズチよりも強い毒って……何?

 

 

おそらく魔力で強化されていたであろう、あの毒の強さは気力や修行によって内臓も鍛えられた俺が、真面目に死ぬかと覚悟したレベルだ。

それを越える毒というのは……おそらくほとんど無いんじゃないだろうか?

 

 

【良かろう……ならば手加減も無用だな! その命をもらう!】

 

 

その思念と同時に、俺の足下……否、俺の足下だけでなく、そこら一帯に凄まじい魔力の奔流を感じ、俺は咄嗟に後ろに飛んだ。

その直後。

 

 

バギャァァン!

 

 

その魔力の奔流が感じられたその箇所……地面にいくつもの氷柱が突風と供に立ち上った。

 

 

何だ!?

 

 

それだけにいたらず、さらに敵の吹雪が一段と強くなった。

そしてそんな猛吹雪で、目も開けられないというほどの暴風の中で……敵の金色の目だけが爛々と薄闇に灯された光のように、輝いていた。

 

 

【参るぞ!】

 

 

その瞬間……敵が凄まじい速度で跳躍し、俺に前足で爪の攻撃を仕掛けてくる。

俺はそれを意図的に体制を崩して、膝を抜くことで避ける。

しかし敵もそれで終わりじゃなく、横を通り抜けると、なんと一瞬にして反転し、その鋭い口を俺へと向けてきた。

 

 

な!?

 

 

キリンほどではないが、その巨体が目にもとまらぬ速さで動き、さらにはキリンをも上回るかと言うほどの速度でその身を反転させた事に俺は驚いた。

そして……その口内に凄まじいまでの魔力を感じ……

 

 

ボウゥン!

 

 

圧縮された空気が爆発したかのような音が、炸裂した。

俺はそれを発射される前にどうにか横に飛び回避。

そしてその見えない弾丸は……

 

 

バキャン!

 

 

先ほど相手が乱立させた直径一メートルはあろうかと思えるほどの、とげとげしい複数の氷柱を木っ端微塵に吹き飛ばしていた。

 

 

な、なんつー威力だ!?

 

 

木っ端微塵具合が異常だった。

何せ粉々ではなく木っ端微塵だ。

一メートルほどの氷の塊が、粉末状……粉雪になったと思えるほど微細に砕け散ったのだ。

もはや消失したと思えるほどだ。

どんな爆発力でそれを行えばそれが出来るのかわかったものではない。

 

 

スピードはキリンよりも劣るが、それでも攻撃は一撃死レベルの威力か!

 

 

敵の攻撃力に舌を巻く。

しかも氷柱を作り出せるという事は、下手をすれば体を凍らされて動きを封じられるかもしれないという事になる。

 

 

一撃だってもらえないな!

 

 

【よくぞよけた! ならばこれはどうだ!?】

 

 

そう吼えて敵が飛び上がった。

高さ大体二十メートル位? といったところだろうか?

その高さまで舞い上がると、なんと、先ほどの風の弾、風翔弾とでも言おうか? を地面へと……俺へと向けて乱発してきたのだ。

 

 

んなっ!?

 

 

飛び上がりの時間もほんの一瞬で、しかも半ば無理矢理に横に飛んだ事でバランスを崩していた俺は、とてもではないが阻止できる物ではなかった。

俺はまさに天より降ってきたその風翔弾を、全力で避けた。

 

 

ボン! ボン! ボン!

 

 

小規模な爆発とでも言うべきか、俺が避けて地面へと接触したその弾は、容赦なく地面をえぐり取った。

敵の攻撃が地面に接触するたびに、まるで小さなクレーターのような穴が出来る。

えぐり取られた土は勢いよく宙へと舞い上がり、吹雪に煽られて遙か遠くへと飛んでいく。

地面がえぐられるために、どんどん不整地な地面になる。

 

 

なんつ~非常識な!?

 

 

今までのモンスター達も相当非常識……というか俺の世界では考えられない生物だったが、改めて認識した。

古龍種はもはや生物ではない!

いくら魔力を用いているとはいえ、これほどの威力のある弾を無尽蔵で撃ってくるとは。

 

 

というか

 

 

敵がしつこく風翔弾を吐き出してくる。

頭上からの攻撃は対処が面倒だ。

だが……

 

 

俺が地べたに這い蹲ってるだけだと思うなよ!

 

 

俺は避けつつ崖のほうへと、徐々に徐々に追い詰められているように見せかけつつ、避ける。

そして後一歩で崖に真っ逆さま、というところで止まり、敵の攻撃を待った。

 

 

ボン!

 

 

その俺に対して、敵の風翔弾が発射された。俺はそれを斜め上……絶壁の方へと飛び上がりながら回避する。

 

 

「いつまでも……」

 

 

そして絶壁に着地すると、三角飛びの要領で俺は再び斜め上へと……宙にいるクシャルダオラへと飛び上がる。

 

 

「調子に乗るな!!!!」

 

 

そして飛び上がりつつ、渾身の力を込めて、俺は敵の体へと狩竜を振りかぶり……

 

 

【いけない!】

 

 

キリンが制止するが……その前に結果が訪れた。

 

 

ガキャン!

 

 

「なっ!?」

 

 

なんと、渾身の気を込めた狩竜は、敵の体に触れるどころか、まるで見えない鎧に阻まれたかのように、あっさりと弾かれたのだ。

 

 

【我の風は武器であり鎧。魔の込められていない攻撃など、我が『風の鎧』が吹き飛ばす!】

 

 

そう言い、俺へと体を向けて顔を……口を向ける。

俺はそれを見た瞬間に、気の足場を空中に展開、全力で後ろへと飛んだ。

 

 

ビュゴォ!!!!

 

 

俺の足を粉砕せんと、敵の風翔弾が、俺が一瞬前まで俺の足があった場所を通り抜ける。

本当に紙一重だ。

何とか避けたのだが……後ろは……

 

 

何もない!? って、でぇぇぇぇぇぇ!!!!

 

 

この山の山頂よりも高い場所に舞い上がり、真後ろに飛ぶように俺は飛んだ。

つまり……山頂よりも高いところから崖へと飛び降りたような物である。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

真っ暗な崖……というか雪に埋もれた山? へと真っ逆さまに落ちていく。

そして雪が降り積もった場所へと落下……その瞬間……

 

 

ボコッ

 

 

「……へっ?」

 

 

俺が落下した雪が降り積もった場所は……下に何もない、雪があるだけの場所であり、身に雪をまとわせながら俺は、今度こそがけ下へと落ちて言った。

 

 

「どわぁぁぁぁぁ!?」

 

 

あー あー あー あー

↑エコー

 

 

 

 

~クシャルダオラ~

 

 

私の攻撃を全て避けたか……

 

 

私は素直に感心した。

何せ私が使用するのは風であり空気。

目に見えぬその攻撃を、敵は見事に避けきっていた。

確かに魔力を用いた攻撃であるために、魔力を知覚できるというのならばそれも可能だろう。

だがそれでも敵は見えない攻撃である私の攻撃を全て避けていたのだ。

これほどの敵と巡り会えたのはいつ以来だろうか?

 

 

それも異世界からの使者とはいえ人間に……

 

 

その事実に、私の心が興奮と歓喜で満たされていく。

もっと敵と肌が焼けるような勝負がしたいと……、そう心が躍った。

 

 

……そう簡単に死んでくれるなよ

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「どあぁぁぁぁ……あぼ!?」

 

 

ドチャ

 

 

転がり回る事約数分。

どうにか怪我をせずに何とか地面へと転がり落ちた。

だが顔から思いっきり落下したのでしばらく悶絶する。

 

 

【……大丈夫ですか?】

 

「あ、あぁ」

 

 

しばらくして復活して、俺はむっくりとゾンビのように起き上がった。

起き上がって各部体の状態をチェックしてみるが、転がり落ちた事で怪我をした箇所はないようだった。

無論、その程度で折れるほど柔な鍛え方をしていないので、腰に差した得物達、狩竜も無傷である。

一旦狩竜に付いた雪を振り払い、念のために刀身を尻ポケットに収納していた白い手ぬぐいで一拭きする。

 

 

現在地は……山頂へと昇る道のある場所か

 

 

長いトンネルをくぐった先の広場になっているような所だった。

どうやら山頂から随分と転がり落ちてきたようだ。

こちらの方が敷地が広いので、戦闘は先ほどの場所よりは幾分かしやすいだろう。

それを確認してから俺は先ほどの防御膜について思案を巡らせる。

 

 

アレは……何万気圧にも及ぶ……風圧の壁か?

 

 

狩竜を見事に弾いたあの防御膜。

弾かれたと言うよりも、風に押し出された感じだった。

 

 

【古龍は基本的に己の固有の防護壁を魔力で展開しています。魔力無き攻撃では体に攻撃を加えるどころかその防護壁に弾かれるだけです】

 

「そうみだいだな」

 

 

魔力で発動しているであろう魔力壁を全く検知できなかった。

魔力の目であるクシャルダオラが魔力の塊だったので気づかなかった。

しかしそうなると困った事になる。

 

 

……攻撃が全く通用しない

 

 

こちらの攻撃は今のところ『気』を用いての斬撃、もしくは拳と蹴りによる打撃のみだ。

魔力壁を突破できるほどの高密度、高圧縮、高威力の攻撃があればまだ『気』だけでも戦えるが……

 

 

あれほどの密度の魔力を突破できる気力は、俺には無い……

 

 

オオナズチの時は敵の姿が見えないという不利な状況だったが、攻撃が通じたという事でどうにかなったが……今回はそうもいかないようだ。

 

 

【……気落ちせずとも、あなたにはラオシャンロンの力が宿っている。それさえ解放できれば……】

 

「確かにそうなんだろう。だが、そう簡単に顕現できたら苦労はしない」

 

 

キリンが教えてくれた魔力の力。

本当に僅かながら使えたのならば後はそれの……魔力の穴、自然の力とつながっている己の体の穴を、大きくすればいいのだが……

このか細い……余りにも小さな穴。

確かにそこから……左腕にか細い……まるで蜘蛛の糸のような微細な穴を感じるのだ。

だが、それだけだった。

そこから先、感じるはずの自然の力も……思いも……何も感じない。

それこそまさに俺がラオシャンロンの力で魔力を扱っている証明。

キリンの時はあくまでも俺を試すだけだったのでこの低出力の魔力でもキリンが合格をくれたが……。

 

 

今のままでは……まずい……

 

 

こっちの攻撃は当たらないのではなく通じない。

そして敵の攻撃は恐ろしいほど高威力。

あげく前回のオオナズチの時と違い場所が極地。

今こうしているだけでも徐々に徐々に体力を削り取られていく。

 

 

状況は……圧倒的に不利

 

 

【やはり現実的にラオシャンロンの力を引き出すしかありません】

 

「……わかっている」

 

【……】

 

「……わかっているんだ」

 

 

キリンがここまでしつこく言い、敵は全てラオシャンロンの力を求めてきている。

それだけこの左腕に宿ったラオシャンロンの力は最強クラスの力を持ち得ているのだろう。

 

 

わからない……

 

 

だがそれでもわからない。

この力を扱うにはどうすればいいのか……。

どうすれば……魔力を扱えるのかも……。

 

 

【……随分と余裕だな】

 

 

そうしてぐるぐると頭の中で考えていると、敵が……舞い降りてきた。

今回も奇襲などをせず、余裕綽々に舞い降りてきている。

いくら考え込んでいたとはいえ、奇襲されても避ける自信は無論あるが、それでもここまで余裕な態度を取られると、癪である。

 

 

まぁ相手からしたらそれも当然か……

 

 

俺からの攻撃が自分には効かない事はすでにわかっているのだ。

攻撃が通じないというのならば警戒するだけ無駄という事だろう。

ふわりと、先ほど同様風のない穏やかな気候の中飛んでいるかと思えるほど静かに、それは地面へと降り立った。

 

 

 

【まだ勝負は始まったばかりだ……。楽しませてもらうぞ、使者よ!】

 

 

そうして再び、咆吼しそれが終えると敵の周囲に爆風が生まれる。

どうやら常時発動させているわけではないようだ。

 

 

ま、あまり関係ないだろうが

 

 

暴風を発生させていなくても常に魔力壁を展開しているだろうし、仮にしていなくても……その甲殻は硬そうだ。

俺は狩竜を構えて敵を見据えた。

今だ、打開策さえも見えていないこの状況は絶望的だが、それでも敵が眼前にいる以上、ぼー、としているわけにはいかない。

 

 

【さて第二幕、開催といこうか!!!!】

 

 

再び吼えると、俺は自分の後頭部……そこの空気が集まる……というよりも固まっているような感覚を……俺の耳が捉えた。

それが何かを考える前に、俺の直感が告げていた。

 

 

避けなければ死ぬと……

 

 

俺は咄嗟に頭を勢よく前へと振り下ろした。

 

 

パン!

 

 

その瞬間に、今さっきまで後頭部があった場所で小さな爆発が起こった……。

 

 

なに!?

 

 

先ほどの圧縮された風翔弾の超小型版だろうか……。

発動にほとんど時間はかかっていない上に任意座標に空気圧縮爆弾を形成していた。

威力こそ先ほどの風翔弾よりも遙かに弱いが、今のでも十分に人間は殺せる。

しかし、今のはそこまで魔力量が多くなかったので一発程度では……

 

 

ポポポポポポポ

 

 

やられないと、思った……のだが。

 

 

!?!?!?

 

 

なんと一発かと思えば、全身をくまなく覆うように、幾十、幾百にも思えるほどの圧縮空気爆弾……風の爆弾が発動された。

 

 

回避!!!!!

 

 

ボボボボボボ!!!!

 

 

それが一斉に爆発した。

一発一発は気壁でどうにか防げるレベルでも、あれほどの数が一斉に爆発されては堪った物ではない。

しかも気のせいかさっきの単発よりも威力があが……

 

 

ヒュオォ!!!

 

 

考えようとした矢先、風が一陣……吹いた。

暴風が吹き荒れて、猛吹雪となっている中でも、風と感じる事が出来るほどの恐ろしい風。

俺の後方……クシャルダオラとは正反対の方向から感じたそれは……俺の体を斬りえぐった。

 

 

ザシュッ!

 

 

「ぐっ!」

 

 

それも何とか回避したのだが……避け方が甘く、若干左手の甲を切り裂かれてしまった。

気壁を展開していたが……まるでそんな物はないというように……切り裂かれた。

しかも単発ではなく……その風が……風の刃が猛然と俺へと襲いかかってくる。

 

 

ブワッ!

 

 

「うぉぉぉぉ!!!!」

 

 

先ほどの風翔爆弾と違い、こちらはあらん限りの魔力が込められている。

下手をすれば気を込めて強化されている革ジャンでさえも引き裂かれてしまう。

俺はそれを……縦横無尽、三百六十度全方位から無尽蔵に襲いかかってくるその、風の刃を何とか避け続ける。

 

 

【ほう。私の風翔刃と風翔爆を同時に避けるとは……】

 

 

敵の意外そうな賞賛が送られてくるが、それに構っている余裕はない。

任意の座標に……離れた場所にも圧縮空気を造り爆発させる、風翔爆。

そして風翔爆よりも時間はかかれど、こちらも同様に任意座標から真空の刃……風翔刃を無尽に飛ばしてくる。

数だけで考えれば、この僅か十数秒の攻防ですでに三桁を越える爆弾と刃が襲ってきた。

爆弾の方は一発一発がそこまで強くないので、いくつか急所以外の箇所は気壁で防ぎ、急所の方の回避を優先。

風翔斬に関してはもらったら気壁なんぞお構いなしに切り刻まれるので最優先で避ける。

気で身体能力を極端に強化し、高出力の気壁も同時展開……。

あっという間に体力が削り取られていく。

そして……当然その力だけでなく……

 

 

【私自身を忘れてもらわれては困る……】

 

 

当然、その力を操る本人も行動を開始する。

助走をつけて俺へと飛びかかり、助走と同時に溜めていた口内の風翔弾を発射。

それも複数同時に発射し、俺の左右に上方向、さらには飛び上がった自分の下をくぐり抜けられないように、その進路までにも風翔弾を放つ。

そして俺の後方……そこには幾百の風翔爆、幾十の風翔刃が待ちかまえていた。

 

 

完全に……囲まれた

 

 

どこへ逃げようとも……

 

どんなに気壁を展開しても……

 

これは避けられない……

 

絶対に喰らう……

 

喰らえば相当のダメージを被る……

 

 

「■■■■■!!!!」

 

 

俺の口から獣のような声が迸る。

俺は……再び口内で風の力を溜めている敵が、もっとも風翔弾を発射しにくい場所……今発射の反動で若干上向きになっているその顔を見て、俺は賭けた……。

 

 

敵の真下ではなく……下方斜め前方へと避ける……

 

 

気壁を最大出力で展開。

全速で敵の斜め下へと駆け抜ける。

 

 

【ぬぅ!?】

 

 

敵もまさか向かってくると思っていなかったのか、それで反応が遅れる……。

だが、敵がすでに放っている風翔弾の一つに……全身ではない体の一部とはいえ……己から向かっていく事になり……さらに、後方で展開していた風翔刃のいくつかが……俺の脚部に食いついた。

 

 

ブワッ!

 

 

「          」

 

 

もはや……声さえも出なかった……

 

 

ドサッ!

 

 

敵の風翔弾を喰らい、風翔刃に脚部をいくつか斬り裂かれつつ、俺は無様に地面に落ちた。

 

 

「■……、■…、■ぁ……」

 

 

風翔弾を受けた右腕は……ねじり切れなかったのが不思議なほどにぐしゃぐしゃになっていた。

脚部も、幾筋もの切り傷が……傷口からでた血で赤く染まっていた……。

 

 

痛む体に鞭を打ち、どうにか左腕で右腕の損傷具合を確認……

 

 

骨折は……していない。だが、手首、肘、肩……全て脱臼。脚部は筋肉の筋こそ痛めなかったが、だいぶ深く切り裂かれた。

気を込めたGパンがずたずたに裂けている。

無論、上に着ていたポッケ村のマフモフ装備も……。

 

 

【し……り】

 

「ぁ……ぁ、はぁ」

 

【し…かり】

 

「……ぐ」

 

【しっかりして下さい!】

 

 

キリンの思念が聞こえた。

いや今まで脳が受け付けていなかっただけできっと声を掛けてくれていたに違いない。

俺はどうにか左手で肩、肘、手首の関節を無理矢理はめる。

足に関しては……今はそんな余裕が無い。

放置するしかなかった。

 

 

【……避ける事は出来れど所詮はその程度か】

 

 

敵の思念が、聞こえる。

この状態になってもなお余裕なのか、敵はこの死に体と言ってもいい俺にとどめを刺さず、泰然とそこにあり続けていた。

 

 

その思念に……失望の色を色濃く残しながら……

 

 

【オオナズチさえも倒した……まぁアレは古龍の中でも弱い方だが……貴様の力、さらに私の風の力を避けて、どれほどの者かと思えば……所詮は人間か】

 

 

敵に攻撃の意志がないとわかり、俺は右肩の治療を密かに続ける。

といっても残された少ない気で痛覚をごまかすくらいしか出来なかったが……。

それが終わると、俺は何とか立ち上がった。

 

そして、まだ諦めていないと……俺は敵を睨みつけることによって、意志を示す。

 

 

【ほう。その体で……この状況でまだ刃向かおうと?】

 

「あぁそうだ。例えここで死ぬ事になろうとも……俺は逃げない」

 

 

そう言い放つと、俺は身に纏っていた……もはやぼろぞうきん、残骸と称してもいいほどにぼろぼろになっていたマフモフ装備を破り捨てた。

体力の消耗が激しくなるが、そんな事に構ってられなかった。

俺は、傷む右腕でどうにか狩竜の柄を握りしめる。

 

 

背水の陣

 

 

もはやそれで行くしかない。

ただがむしゃらに……攻めるしか方法が……

 

 

【!? そんな無茶な!? 敵に攻撃が通じないのは先ほど……】

 

わかっている! だが、敵の攻撃は全て致死攻撃で不可避に近い。ならば攻撃する隙を与えないほどの猛攻をするしかない!

 

【ですが、それでどうするのです? 攻撃は通ぜず、ただ無駄に体力を失うばかり。ここは一旦逃げて体勢を】

 

 

【そんな隙を……逃げるほどの時間的余裕を私が与えるとでも?】

 

 

敵が、そう言ってくる。

その通りだ。

敵がそんな時間を与えてくれるわけもない。

それに……手が無いわけでもないのだ。

 

 

狩竜の刃気解放……それをぶつけるしかない!

 

 

夜月ほどの威力は見込めないが、それでも元、二番目の相棒である夕月の玉鋼を使用して鍛造したのだ。

刃気の量で言えば間違いなく二番目に多い。

それをぶつける。

 

 

「■■■■■!!!!」

 

 

開戦の合図を待たず、俺は走り出した。

もはや避ける事は考えない。

一直線で敵へと走る!!!!

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

端から見れば……それは醜い姿だったと思う。

だがそれしかもう残されていなかった。

今の……俺が今自由に使える武装での最強の戦力でぶつかるしか無い。

ラオシャンロンの力は……使いこなせない以上頼る事は出来ない。

だから走った。

 

 

全力で……全速で……

 

 

もうこの一撃に……狩竜の刃気解放が、敵の魔力壁を上回る事に……賭けるしかなかった。

 

 

「おぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

力の限り走った

 

敵の風の刃を急所だけを避けて、他は受けて……

 

敵の風の爆弾も……受けて……

 

そして敵との距離が目前となったとき……

 

 

 

 

【……つまらん】

 

 

 

 

敵の落胆の声が……響いた。

 

 

ボワッ!

 

 

「!?」

 

 

なんと、敵は俺の足下……否俺の足下よりもさらに下……地面に風翔爆を溜めていたらしく、それが爆発……土と砂利、そして雪が俺の足下から舞い上がった。

 

 

その風翔爆に威力はなく……ただ俺の体勢を崩すだけの物……

 

 

そして……

 

 

【興がそがれたな。失せよ人間】

 

 

宙に浮いた無様な俺は……敵の風翔弾をもろにもらった……

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

今頃あいつはどうしているのだろうか?

 

 

私は昼食を食べ終えて、クエストに行く気分にもならず、ただ家のベッドに転がって、呆然と先ほどの伝言のことを考えていた。

 

 

雪山の山頂にて、あなたを待っている。桜の心、鉄刃夜よ

 

 

だ。

だが、その伝言聞いた時……

 

 

伝言を聞いたときのジンヤ……少し顔に変化があったな

 

 

デウロから伝言の内容を聞いたとき、本当に微かだけど表情に変化があった。

それだけじゃなく、余りにも眉唾というか……怪しい伝言にも、何の疑いもなく信じて、あいつは単身で雪山に向かっていった。

私と、リーメすらもおいて……

 

 

あの伝言にそれほどの意味があったのか?

 

 

この伝言のどこに……あいつが気にするような事があったのか……。

 

 

やはり、桜の心と言うのがポイントだろうか?

 

 

それがキーワードなのは間違いないのだが……それがわかったところで意味がわからなければどうしようもない。

ただの言葉とは思えない……だけど、重要な鍵となるであろうその単語の意味が……私にはわからなかった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

完璧に……直撃……

 

 

何故か場違いとも言える考えが、脳裏をよぎる。

一瞬、何かが白く光り輝いたように見えたが……しかしそれを知覚した瞬間に……視界が一瞬真っ暗になった……。

 

 

ドサッ!

 

 

「          」

 

 

何も……聞こえない

 

何も……見えない

 

 

 

何も……感じない

 

 

 

死んだのか?

 

 

 

そう考えてしまうほどに……体に感覚がなかった。

もう何も感じない……感じるわけがなかった。

だが、しばらくして……時間がどれほど経ったかわからないが、少しずつ……少しずつ感覚が戻ってきた。

そちらに意識を……飛びそうになっていた……いや実際は意識を失っていたのかもしれないが……。

痛覚が戻り、激痛で再度意識を失いそうになりながらも、俺は何とかうつぶせになっていた体を起こす。

起こしただけで、立ち上がる力も無かった。

 

 

【これで終わりか。期待はずれにもほどがあったな】

 

 

その俺に……もはや死にそうになっている俺に、敵がそう思念をぶつけてきた。

何かを言い返そうにも、口を開く事も出来なくて……。

 

 

【もう、終わりにしよう】

 

 

そう言うと、突然俺の背後に氷の壁が出来た。

普通の家の幅と高さはありそうなほどの、巨大な氷の壁が一瞬でできあがったのだ。

 

俺を……逃がさないための……檻のように……

 

それだけでは終わらず……

 

 

ピキピキピキピキ

 

 

なんと敵が氷を纏い始めた。

顔を、体を、足を、翼を……全身をくまなく覆う。

それは動きを阻害するような物でなく……体を強固にする物。

そしてそれに応じて敵の風の鎧も変化した。

ただ体を覆おうだけだったそれは……まるで風の槍のように……穿つような巨大な杭に変化した。

陽炎が生じるほどに、濃密な風。

さらに敵の背後にいくつも鋭くとがった、氷の矢が浮かび上がる。

そして……

 

 

ブワッ!

 

 

敵からの圧力が数倍に跳ね上がった……。

 

 

【さらばだ、使者よ】

 

 

その思念と供に、敵が飛翔し、音の壁を越えて、突進してくる。

その身に風と氷の鎧を携え一直線に俺へと向かって。

幾十の氷の杭と風の刃が、それに追従し俺を切り裂き、刺し穿とうと飛来する。

死にそうになりながらも……それを冷静に見つめていた。

 

 

 

 

それが……ゆったりと向かってくる……

 

いやそう感じているだけで、実際は凄まじい速度で突進してきているのだろう……

 

敵の攻撃を受ける事も、避ける事も出来ない……それどころか、指を動かす事も出来ないような……それほどの重傷で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鍛造任務の帰りだった……

 

俺の刀を好いてくれた、俺の鍛造した刀が欲しいと依頼が来て、海外へと向かった……

 

その帰り道……タンカーに乗って寝ていたはずの俺はいつの間にか森の中にいた……

 

本当なら……帰って時差ぼけとタンカーでの長い船旅を癒すために、風呂に入って……

 

少し寝て、また修行をしようと思っていた……

 

それが突然迷い込んだこの世界……

 

突然の事で訳がわからず、必死になって順応しようとした……

 

言葉が通じない、衣食住も違い、文化も違う……そんな世界で……

 

 

 

 

そして今、自分の力では到底かなわない相手を前にして……死を迎えようとしている

 

 

 

 

死ぬ……のか……?

 

 

 

裏の仕事もするようになってから、死ぬ事も覚悟していた……

 

だけど、今までは修行と、じいさんと父さんの指導のおかげで、ピンチに陥った事はあっても、命の危機に瀕した事はなかった……

 

 

……こんな誰もいないような場所で……一人で

 

 

敵の攻撃は、今までとは比較にならない攻撃力を秘めている……

 

喰らえば下手をすれば肉片すらも残らないかもしれない……

 

仮に残ろうと残らなかろうと……死ぬことにかわりはない……

 

力及ばず、俺は誰もいないこの世界で、雪山という極地で、死にたえる……

 

誰にも知られず……ひっそりと……

 

 

家族に看取られて死にたかったのだが。畳の上で寝ながら……

 

 

人殺しにはそれがちょうどいいのか……

 

生まれ、育って、修行して、人を殺して、女の子一人守れず……そして異世界で死ぬ……

 

これで……俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

どうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが、俺の心へと、届く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンヤさんが、無事に帰ってきますように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな声が……聞こえてきた……

 

 

今のは?

 

 

まるで直接頭に響くような声……

 

その声はキリンやクシャルダオラと違い、優しさに満ちていて……

 

聞こえてくるその声に、俺は意識を傾けた……

 

 

 

 

無事に帰ってきて下さい……ジンヤさん

 

 

 

 

……レーファ?

 

 

 

 

流れてきたその声は……思いは、レーファのものだった……

 

何故わかったのかわからない……

 

そもそもにしてどうやって俺に……この遠くの極地にいる俺へと送ってきているのか……

 

 

 

 

……そうか

 

 

 

 

いや、今はそんな事どうでもいい……

 

俺は勘違いしていた……

 

 

 

 

確かに異世界だけど……一人ではなかったな……

 

 

 

 

この世界で初めて出会った少女……

 

ランポスに襲われていたのを助けた……

 

俺を……肌の色も髪の色も目の色も……全てが違った俺を、自分の村に迎えてくれた……

 

信じろと言ったにも関わらず、ランポスに傷を負わされた俺を、再び信じてくれた……

 

ムーナを……リオレウスを飼うとき、母親になってしまったのを嫌がらず進んでムーナの世話をしてくれた……

 

村の外に家を造るときに、手伝ってくれた……

 

和食屋の店の経営も、運営も手伝ってくれた……

 

俺が腹部に傷を負いながら鍛造していたとき、最初こそ止めたが俺がやめないと見ると、見守ってくれていた……

 

オオナズチに襲われて、死にそうになっても俺を信じてくれた……

 

そして……

 

 

 

こんな俺を……好きだと言ってくれた少女……

 

 

 

ポゥ

 

 

 

……そうだった

 

 

確かに俺は一人だった……

だがそれは本当に最初だけだった……

森でレーファに出会い、リオスさん、ラーファさん、村長……

そして弟子の二人、リーメと、フィーアと次々と多くの人と出会っていく……

 

村のハンター達をボコボコにした時に唯一いなかったハンターのリーメ……

リーメは愛くるしい、子犬のような性格で俺を和ませてくれて、それに俺の事を慕ってくれた……

 

ユクモ村出身、エリートハンター集団ギルドナイト隊員フィーア……

最初こそ敵視されていたが、実力を認めるとギルドナイトでよく世話を焼いてくれた……

 

それだけじゃない……

 

もっと多くの人に俺はこの世界で知り合った……

 

 

 

 

 

 

 

 

死ねない……

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思った……

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬわけには……いかないな……

 

 

 

 

 

 

 

 

諦めていた……絶望に抗うのをやめていた俺の心に、微かな意志が湧く

 

 

 

 

死ぬわけにはいかない……生きなければならないと……

 

 

 

 

そう簡単にくたばるわけにはいかないんだ!

 

 

 

 

現実世界で、俺の帰りを待つ者……

 

この世界で……俺の帰りを待ってくれている者……

 

 

 

ならば帰らなければ……そうしなければ俺はそいつらを……俺の好きな連中を裏切る事になるのだ……

 

 

 

 

そして何より……

 

 

 

 

か……必ず……

 

 

 

 

俺は今度こそ守ってみせる……

 

 

 

 

必ず! ジンヤさんが……ほ……惚れるような女になって見せます!!!!

 

 

 

 

そう言ってくれたあの少女の事を……あの少女の、レーファの思いを!!!!!

 

 

 

 

前ばかりを見ていた俺を戒めて、俺の間違いを正してくれた少女

 

あの子との約束を果たすためにも……

 

 

 

 

ジンヤさんが帰るのが先か、それとも私がジンヤさんに好かれるのが先か……

 

了解。勝負だな

 

はい!

 

 

 

 

そう言って俺と約束したのだ……

 

 

 

 

だから……

 

 

 

 

「死ねるかぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

ありったけの思いを……想いを声にした……

 

それでどうにかなるわけがないのに……

 

だが、叫ばずにはいられなかった……

 

俺の目的のために……レーファの願いのために……リーメ、フィーア……そして他の連中のためにも……俺まだ……

 

 

 

生きる!

 

 

 

キィィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

その想いに応えるように……左腕の力が目覚めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

ブォン!

 

 

 

 

ガギャン!

 

 

 

 

【何っ!?】

 

 

 

 

敵が突然止まった……

 

 

 

 

否、止められているのだ……

 

 

 

 

俺の眼前に現れた淡い紫の光の壁によって……

 

 

 

 

…………そうか

 

 

 

 

いま、漠然と理解した……

 

 

 

 

魔力とは……

 

 

 

 

大気に宿る……生命の息吹……

 

 

 

 

もしくは星……惑星の命その物……

 

 

 

 

操るわけでも、顕現させるものでもない……

 

 

 

 

ただ、貸してもらうだけなんだ……

 

 

 

 

その、生命の……命の重さを……

 

 

 

 

この世界は様々な生命が生きる……まさに魔力に満ちあふれた、世界……

 

 

 

 

その力を管理し、それを自在に操る事の出来る龍……ラオシャンロン……

 

 

 

 

だが彼は管理する者……

 

 

 

 

管理する者であるため、攻撃する意味もなく、また目的もない……意志すらも……

 

 

 

 

しかし、彼に攻撃する手段が無いわけではない……

 

 

 

 

 

 

 

 

魔を斬り裂き、龍を劫火で灼き滅ぼす、魔の力

 

 

 

 

 

 

 

 

神であり……神器でもある……ラオシャンロンのもう一つの姿……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その銘は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍刀……朧火……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい長々と……っていうか今回えっらい空白多い文章と相成りましたがいかがでした~?
え? 読みにくすぎる? …………そこはすいません、見逃してw
え? 空白が長すぎる? …………すいません、それも見逃して……



え? 展開が王道すぎる? …………すいません、死んでお詫びを……



確か切腹用のナイフがこの辺に……ゴソゴソ

あぁ……切腹は打刀でしたかった……ドス ブチャア

「……」

まぁそんな小芝居は置いておいてw
前書きにも書きましたが、今回の敵はクシャルダオラさんでしたが、いかがでしたか?
もうがっつり強化しました!
空気っていうか風を操れるんだからこれぐらいの力は合っても問題ない……と思うんだ俺
書いてて思ったことは……


「これが実際にゲームで出てきたら、俺はPSPぶん投げるな……」


と思ったw
任意座標に圧縮空気の爆弾と、風の刃
よけられね~w
普通のハンターが相対したら五秒と持たずに三途の川に行くねw
派手にジンヤ君をぼろぼろにしてましたねw 右腕吹っ飛んでも不思議じゃなかったですねw
いやぁ…………主人公いぢめるの楽しいわw あっはっはw


ついに顕れた、神の力、朧火……
しかしそう簡単に神の力が扱えるわけもなく……漸く同じ土俵に立っただけの事。
どんなに強力な武器も、当たらなければ意味もない……使えなければ意味もない……
その力を、刃夜は御し得るのか?





次章 第四部 第三話


「朧火」



朧の魔が、古龍を灼き滅ぼす……


さぁここから死ぬ気で書くぜ!

死ぬ気で書くぜ! (大事だから二回言った)

目標は一周年記念に終わることだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


11/07 刃夜の死に方の思想を変更しました ので一部を削除しました

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