リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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誰か……俺に教えてくれ……

何故……テオナナが龍なんだ!?



紫炎撃退……

初めて見たのは、暗闇に浮かぶ驚きに満ちた顔だった

 

それからその人のもとで生きてきた

 

森の中に新しい家を作って、二人で生活し始める

 

けれどすぐに同居人が増え、家を訪れる人も増えていった

 

最初こそ自分の方が体が小さかったけどすぐに逆転した

 

そして思った

 

 

 

 

この人は本当に僕の親なのかと

 

 

 

 

明らかに違う体

 

明らかに違う力

 

どれをとっても……何もかもが違った

 

だけど…………

 

 

 

ゆけ

 

 

 

 

行くのだ、■の資格を持つ者よ

 

 

……誰?

 

 

今なら、まだ間に合う

 

 

何か声が聞こえた

 

そして聞こえたと同時に、最悪な絵が、脳裏に流れ込んでくる

 

 

!?

 

 

それを見て……僕は……

 

 

 

 

~ギルドナイト隊員~

 

 

あれから特に連絡がない

 

 

黒い信号弾が発射されてしばらく経つが、新たに信号弾が発射される様子はなかった。

ここ、ラティオ火山ベースキャンプにいない以上、ギルドナイト遊撃狩猟隊員であり

 

 

『天地狩猟ノ覇紋』

 

 

を持つ凄腕ハンターのジンヤ殿が奥地でまだ活動していると思われるのだが……

 

「なぁ」

 

「なんだ?」

 

 

友人が小声で声を掛けてきて、思わず小声で返事をする。

 

 

「なんだよ?」

 

「あれ……本当に大丈夫なのか?」

 

 

そう言って小声でとある方向を指差す。

それを目で追う。

正直見なくても何がいるかはわかっていたが、そちらを見た。

 

 

赤い甲殻

 

口に並ぶその牙はまさに刃物

 

その足に生える爪は猛毒を宿し

 

その巨大な翼はその巨体を空へと導く

 

 

飛竜種 リオレウス

 

 

ハンターにとっては恐怖の代名詞、空の王。

 

ジンヤ殿が飼育している竜だった。

我らがこのベースキャンプに戻った時には既にいた。

幸いにしてジンヤ殿のリオレウスの印である、ユクモ村のマークを尻尾に括り付けてあり、それを直ぐに確認出来たから争うことにはならなかったが。

リオレウスも最初こそこちらを警戒していたが、何もしてこないので露骨に警戒するのは辞めて、寝そべっていた。

 

 

「怖くておちおち休めもしないぜ? 捕獲しちゃだめなのか?」

 

「馬鹿なことを言うな。数々のモンスターをほぼ一撃で狩猟し、ディリート隊長の直属で、挙げ句の果てには大長老のお気に入りのハンターが飼っているんだぞ。それにジンヤ殿は貴族に殴り込みまでして対人戦闘に特化した貴族の護衛を再起不能にした正真正銘の化け物だぞ? そんなことをしたら……」

 

「わかっている。わかっているが……こう、目の前にいるとどうしてもな」

 

 

そう言って笑う。

確かに気持ちはわからないでもなかった。

なにせリオレウスだ。

ギルドナイトでも苦戦必至のこの飛竜が目の前にいて寝そべっているのだ。

こちらの数は二桁以上。

仮に捕獲や討伐を行おうと思えば可能な状況だった。

そう思ってしまうのも無理からぬ状況ではある。

だが……

 

 

「すぐに降りてくるとは思えないし、すぐに討伐すれば案外いけるんじゃないか?」

 

 

肩に手を回して快活に笑いながらそんなことを言ってくる。

笑い方から言って本音ではあるが本心ではないんだろう。

もしもの話をして暇つぶしをしているだけだ。

いくら捕獲ないし討伐出来そうだからって手を出していい相手ではない。

成功しようが失敗しまいが……きっと殺される。

割に合わないなんてもんじゃない。

そんなのに好き好んで手を出すバカはいない。

そんなバカ話をしていると……。

 

 

「クォ」

 

「うん?」

 

 

寝そべっていたリオレウスが突然声を上げ、顔を上げて山頂の方を見た。

そして……

 

 

「ゴアァァァァァァァ!!」

 

 

凄まじい雄叫びを上げ飛翔し、奥地へと向かって行った。

突然の事で我々は見守ることしかできなかった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

落ちる落ちる落ちる!!!!

 

 

私……鉄刃夜は……現在進行形で熱く滾ったマグマの火口へと真っ逆さまに転落中である。

ちなみに気の足場は既に展開して、それを破壊されたので気の足場は使用不可能である。

気の足場……というか気を体外で使用する場合は多大な集中力を使用する。

また気の使用量も激しいので俺にはそこまで乱用できる力はないのだ。

 

 

【いけない!?】

 

 

キリンがそう叫び、首飾りから火口の壁に向かって、鞭のような電撃を放ち、それで俺を引き寄せようとするが。

 

 

【悪あがきを。よいから死ぬがいい】

 

 

それすらも、紫炎妃龍の爆発によって電撃の鞭を破壊される。

そしてたてがみの首飾り形態での限界なのか、それ以上キリンが何かを使用とすることはなかった。

 

 

『まずいぞ仕手よ!? このままでは!!』

 

「わかってる! わかってるが…………万事休す!」

 

 

冗談を言っている場合ではないのだが……もはや何も出来ない以上、冗談くらいしか言うことが出来ない。

 

 

っていうかマジでまずい……

 

 

このまま死ぬのか? といっても別に誰かに死に顔を見られたいわけではない。

というか死ぬときは誰にも見られずにひっそりと逝きたい物だ。

 

 

思考がずれてる!?

 

 

そんな事はどうでもいい!

そしてまだ俺は死ぬわけにはいかない。

だが……もはや助かる術もない……。

 

 

ちっ!? 未熟だっ……

 

 

「ゴアァァァァァァァ!」

 

 

冗談抜きで諦めかけたその時……辺り一帯を揺るがす咆吼が響いた。

何故今まで感じ取れなかったのか……少し先の方に……麓の方角に……。

 

 

「ムーナ!?」

 

 

「ガァァァァ!!!」

 

 

巨大な翼をはためかせ、こちらへと向かってくる飛竜種リオレウス、ムーナがいた。

まっすぐにこちらに向かってきている。

 

 

【……リオレウスだと?】

 

 

当然その巨体を見逃すわけもない敵が、ムーナを見て唸った。

そしてその方向へと紫炎妃龍が魔力を充填させようとする。

 

 

「させるかぁぁぁぁ!!!!」

 

 

懐に手を入れて、全力で小型のスローイングナイフを放つ。

気力と魔力両方で強化されたその刃は、亜音速を超え、音速の速さで敵に迫る。

だが当然、気と魔を込めたとはいえ小型のナイフ程度では有用なダメージを与えることなど出来はしない。

だが一瞬でいい……。

一瞬でも発動に時間を掛けて敵の魔力攻撃の発動を反らせることが出来れば。

 

 

遠距離攻撃が出来る!

 

 

そして遠距離で有効な攻撃を持っているのは……

 

 

「ムーナ!」

 

 

有効な遠距離武器をもつ、その相手へと叫ぶ。

そしてそれをムーナはくみ取ってくれた。

 

 

「ゴアァァァァァ!」

 

 

ボッ!

 

 

空中にてムーナが火球を放つ。

自身の最大に開いた口よりもさらに巨大な火球。

以前に見せてもらったときよりも、その火球は力強く、気も多く含まれていた。

 

 

【ふん! 小癪な!】

 

 

だがいくら気が込められているとはいえ所詮は幼竜の気。

当たってもただ霧散するだけだった。

生まれてまだ一年も経っていないムーナが、魔を貫く気を攻撃に込められる訳もない。

だがこれすらも囮……。

 

 

「ムーナ! 頼む!」

 

 

「ゴォォォォォ!」

 

 

敵が一瞬とはいえ俺から目を外した瞬間に、ムーナに叫び、俺へと火球を放させる。

 

 

【【なっ!?】】

 

 

さすがにこれは予想外だったのだろう。

敵が驚愕の声を上げる。

そしてその瞬間には、ムーナの火球が俺へと着弾する。

当然それを生身のままに受けるわけもなく、俺は腕を交差させて気壁を展開する。

 

 

ボアッ!

 

 

おぉ、すごい威力

 

 

見た事はあれど受けた事は無かったが、一歳に満たないでこの威力というのはなかなかだと思われる。

それを利用し、下に落ちていくだけだった落下軌道を変更する。

ほどんど真横になった軌道で、火口の断崖絶壁へと剣を突き立てて、体を支える。

 

 

【悪あがきを……】

 

 

そう言って紫炎妃龍が……火口のマグマを使用し、巨大なマグマの蛇を放ってくる。

そのマグマの巨大蛇を俺は辛くも回避する。

ほとんど足場のない壁に、封龍剣【超絶一門】を突き立てているだけなので回避しづらい。

 

 

距離……およそ50m

 

 

ムーナと俺との距離を目測し、一か八か……俺は勝負に出た。

 

 

グンッ!

 

 

突き立てていた剣で思いっきり体を持ち上げそのまま飛び上がる。

 

 

【逃がさん!】

 

 

敵がそう叫ぶ。

その瞬間、なんと敵のマグマの蛇が破裂し、全方位にその獄炎の半液体を撒き散らす。

 

 

!?

 

 

流石にこの攻撃には瞠目した。

さっきの魔力溜まりを爆発させる攻撃よりも遥かに質が悪い。

何せ溶岩、マグマだ。

その半液体は、魔力、気壁でどうにか防げても、下手したら体に付着するかもしれない。

そうなると落ちるまではその熱を受けることになるのだから無事で済む保証はない。

 

 

「ガァァァァァァ!」

 

 

そこでムーナが躍り出た。

わざわざ下から飛翔し、俺を背中に乗せるようにして俺を騎乗させてくれる。

さらに下から来ることによって、マグマからも俺を守ってくれた。

確かにリオレウスならばマグマの炎熱くらいは防げるだろう。

だが……

 

 

「ムーナ!?」

 

 

しかしいくらリオレウスとはいえムーナはまだ成長しきっていない子供。

鱗も甲殻もそこまで発達していないので、まだマグマの炎熱に耐えられるとは思えない。

そして案の定……。

 

 

「クォルルル」

 

 

痛そうに悲鳴を上げていた。

だがそれでも飛翔に揺るぎない意志を感じ……俺は命を救ってくれたムーナに改めて感謝をした。

 

 

「すまない、ムーナ。ありがとう」

 

「クォ!」

 

 

俺が礼を述べると、嬉しそうに鳴く。

その声に無理をしている感じはなさそうだったので、俺はとりあえずほっとした。

 

 

【よもやリオレウスが来るとはな……。何かを感じたのか? それとも?】

 

 

都合よくといってもいい位にベストタイムイングで来たムーナを見ながら、敵が訝しんでいる。

確かに何かを感じ取ってきた……といわれても不思議じゃないくらいに、ムーナは俺の危急に駆けつけてくれた。

正直来なかったら間違いなく灰も残さず消滅していたと思う。

 

 

……まぁいい

 

 

そんなことを考えている場合ではないのだ。

今はとりあえず眼前の敵に集中しなければならないのだ。

敵が少しでもこちらのことを観察して考えている隙に……どうにか対抗策を考えねば……。

 

 

……待てよ

 

 

そこで俺は俺を乗せて飛んでいる……ムーナの存在を改めて考えた。

とりあえずどの程度耐えられるかは謎だが、マグマに耐えられる事は出来るというのはわかった。

 

 

……正直不安要素、と言えなくもないが

 

 

だがこれしか思い浮かばず、またこれがある意味で最善であると判断した。

ならば……。

 

 

「ムーナ……。一つ頼みがある」

 

「クォ?」

 

 

 

 

~テオテスカトル~

 

 

こちらに来たタイミングがあまりにも都合がよすぎる気がするが……それにあの竜。確かに普通のリオレウスよりも気の気配を感じるが……

 

 

【逃しましたね】

 

 

敵のリオレウスに思案を巡らせていると、傍らに立つ紫炎妃龍が私にそう言ってくる。

確かに逃した。

一瞬とはいえ魔力を用いた私の攻撃を、敵は凌ぎきった。

とはいえ受けただけであって、まだこちらを納得できる攻撃をしてきていない以上……まだ私が望んだ敵であるかはわからないが。

 

 

それに……今はそんな事どうでもいい

 

 

我を操った気でいる邪を逆に討ち滅ぼすためには力がいるのだ。

そしてその対抗するのに十分な力を……今使者は持っている。

そしてオオナズチもクシャルダオラも滅んでいる以上……邪魔者はいない。

やつを倒せばその二匹の力すらも手に入れることが出来るのだ。

 

 

【さっさと殺して、やつの力をもらおうか】

 

 

強敵を求める……我の欲求は一旦棚上げだ。

まずは力を手に入れ、それから考えればいい。

そう結論づけて、私は敵が少し離れた場所……若干の広さのある大地へと降り立ったのを見て、そちらへと向かうために翼を広げる。

 

 

【……そうですね】

 

 

だから……紫炎妃龍の声が沈んでいるのに……気づかなかった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

ここでいいか……

 

 

思いついた対策……それを実行するのに最適とは言えないまでも、それに近い場所を見つけ……俺はムーナに降りてもらった。

降りてからムーナの体をとりあえず見聞してみたが……特に外傷は見られなかった。

外傷が出来る程やわではなかったらしい。

だが痛がっていた以上……マグマにもまだ完璧に耐えられるわけではないということ……。

 

 

この策を実行してもいい物か……

 

 

「クォ!」

 

 

俺が策を実行しようかどうしようか悩んでいると、それをめざとく察したのか……ムーナが気合いの籠もった声を上げる。

その声は正に「まかせて!」と言っているようで……。

 

 

「……本当にいいのか?」

 

「ゴアァァァ!!!」

 

 

そう訪ねると先ほどよりもさらに大きな声で俺に応えてくれた。

やる気は十分にあるのだろうが……無理は出来ない。

 

 

……一撃必殺だな

 

 

それしかない。

ムーナが耐えられなくなっては危険だ。

だが、それでもこれしか思い浮かばなかった。

 

 

「……死ぬなよ」

 

「ガァ!」

 

【会議は終わったか?】

 

 

互いに覚悟を決めている俺たちに、尊大とも言える言葉とともに、敵が俺たちの目の前へと降り立った。

距離にしておよそ十メートル。

俺はムーナの前へと躍り出る。

 

 

「ムーナ……下がっていろ」

 

「クォ」

 

 

俺が封龍剣【超絶一門】を構えながらそう言うと、ムーナは素直に引き下がった。

先ほどと違ってただ逃げるだけでなく、役割を与えたので今度は渋らなかった。

 

 

【……ほう】

 

 

先ほどと違い、ムーナを下山させないことから気づいたのか、紅炎王龍が興味深そうにムーナへと目を向ける。

だが、すぐに興味を無くしたのか、俺へと再び目を向けてくる。

 

 

【では……始めようか】

 

「……あぁ」

 

 

紅炎王龍はその四肢に力を込め、紫炎妃龍はその魔を使っていくつもの溶岩蛇を形成、俺の方へとその鎌首を向けさせる。

対して俺は……両手に手にした、太古の人類の英知……封龍剣【超絶一門】を構える。

 

 

【……】

 

「……」

 

 

 

互いに言葉を発さず、何もしない……。

 

開始の合図もなく、ただ相手の出方を待つ……。

 

だが消耗戦に成ればどちらが不利になるかなど目に見えている。

 

数で劣る俺が負けるのは自明の理……。

 

……だから

 

 

ダンッ!

 

 

先に動いたのは……俺だった。

 

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

全速をもって……この灼熱の大地を駆け抜ける。

狙うは……前衛ではなく、後衛にいる……紫炎妃龍。

 

 

【ゴォォォォォ!】

 

 

俺が駆け出すのに遅れて、前衛である紅炎王龍が俺へと走る。

一瞬にして距離が縮まり……互いが互いの得物……爪を、剣を振りかぶる……。

そしてそれを振ろうとした……その瞬間に俺は敵の上へと向かって飛んだ。

 

 

【何っ!?】

 

 

互いにぶつかり合うと思っていた紅炎王龍が驚いている。

だがそれすらも捨て置き、俺は敵へと……狙いである紫炎妃龍へと向かっていく。

全力で前進していた体を、筋力に任せて無理矢理斜め上部へと跳ぶ軌道に修正したことで体がミシミシと、悲鳴を上げている……。

その急激なGに歯を食いしばって俺は耐えた。

そして気の足場を一瞬にして展開、それを蹴って敵へと向かう。

先ほどの足場形成とは比べものにならないほど、一瞬の時間にして出来上がったその気を蹴り、俺は敵へと跳ぶ。

そしてそれを……後衛である紫炎妃龍は、紅炎王龍に追随するように展開していたマグマの蛇を楯のように展開しようとするが、遅い。

 

 

もらった!

 

 

全速をもって……敵二匹が前衛である紅炎王龍と俺がぶつかると見せかけ、一瞬にして軌道修正を行って紫炎妃龍へと襲いかかる……典型的なフェイント。

とりあえず数を減らさねば……一対一の状況にもっていかなければまともに戦えない。

ならば戦場でのお約束……弱いやつから叩けを実行に移したのだが……。

 

 

フォン

 

 

【させん!】

 

 

なんと全速で駆けていたと思われていた紅炎王龍が、先ほどの速度よりもさらに速い突進で、紫炎妃龍の目へと躍り出た。

 

 

「何っ!?」

 

 

俺目掛けて駆けてきた速度とは比べものに成らないほどの速度……。

文字通り一瞬にして敵は紫炎妃龍の前へと来て……その巨大な角で、封龍剣【超絶一門】を受け止めた。

 

 

ガギャン!!!!!

 

 

辺り一帯を振るわす硬質で高質な音……。

敵は俺の気と魔力を込めた封龍剣【超絶一門】を、その巨大な巻角で受け止めていた。

 

 

「なっ!?」

 

 

回り込まれたことや、敵が角を使って剣を受け止めた意外性が……俺に一瞬の隙を作らせた。

 

 

ブォン

 

 

その俺の眼前に、紫炎妃龍の魔力爆弾が形成される。

 

 

しまっ!?

 

 

既に気の足場は展開した。

方向転換しようにもどうしようもない。

だから俺は叫んだ……。

 

 

「ムーナ!!!!」

 

「ゴアァァァァァ!!!!」

 

 

俺の意図を明確に察し、ムーナが俺へと再度火球を放つ。

 

 

【そう言うことか】

 

 

敵もどうやらムーナがどういう立ち位置にいるのか理解したようだった。

 

 

【ならば……そちらから潰させてもらう!】

 

 

当然、直接的ではないとはいえ邪魔な存在であるムーナを放っておく訳がない。

敵がムーナへと向かう。

それを止めることは今自分のことで手一杯な俺には防ぎようがない。

だが……

 

 

無論妨害はする!

 

 

全力をもって俺は懐のナイフを投げる。

無論魔力も気も使用しての投擲。

それで先ほど同様、一瞬とはいえ隙が出来る。

 

 

「ガァァァ!」

 

 

その一瞬を逃さず、ムーナは上空へと飛翔する。

 

紅炎王龍、紫炎妃龍。

敵は二体で雄雌に別れているために違いは多かったが、共通点も無論あった。

その一つが飛翔すること。

先ほど俺が火口に吹っ飛ばされたときに観察していたが、この二匹ともそこまで飛翔することが得意ではないようだった。

それに対して、異名「空の王者」と謳われるリオレウスであるムーナの飛翔力は伊達ではない。

幼竜とはいえそう簡単に負けなかった。

 

 

【隙だらけですよ】

 

 

そんなナイフを投げて、ムーナの火球を足場にした俺を、紫炎妃龍が攻撃を行ってくる。

避けられないための対策か、広範囲における爆発攻撃。

それを防ぐ術は俺にはない……。

 

 

俺にはな……

 

 

「ガァァァァァ!」

 

 

それへと飛翔したムーナが紫炎妃龍へと、火球を放つ。

その火球には気も込められているが、その程度では敵にダメージを与えることはできはしない。

だが、妨害をすることは出来る。

 

 

イメージで言えば詠唱中の魔法使いに詠唱中止させるための攻撃を行う感じだな

 

 

それによって紫炎妃龍の詠唱……つまり魔力だまりを形成しての爆発は回避された。

それを見届けて、俺は安全に壁際の地面へと着地する。

 

 

紅炎王龍がムーナを攻撃しようとすると、俺が紅炎王龍の邪魔をする。

そしてそんな俺を攻撃しようとすると、ムーナが紫炎妃龍の邪魔をする。

 

 

まさに三竦みならぬ四竦み……

 

 

AをBが邪魔して、BをどうこうしようとするCを、Dが邪魔をする。

残念ながら三ではないので、有名なことわざには成らなかったが。

しかし……それで拮抗することはなかった。

 

 

【甘いな……。私とて炎を扱うことは出来るのだぞ】

 

 

そう言いながら……ムーナではなく、なんと俺へと向き直り……その口内に凄まじい魔をため込んでいく。

 

 

しまっ!?

 

 

あまり取りたくはない手段ではあったが……弱い物から叩くという戦場での基本で闘ってくると思い、ムーナを標的にするかと思っていたのだが……。

囮作戦はたった一瞬で終わり、しかもまだ俺は凄まじい高さの壁際にいて、周りは溶岩で囲まれている。

直進するしか術がない。

だがその眼前には口内で魔力を溜めている紅炎王龍……テオテスカトルが……。

 

 

【失せよ……】

 

 

その口内に溜められた魔が……凄まじい炎となって俺へと襲いかかってくる……その一瞬前に、巨大な赤い何かが俺の視界を遮った……。

 

 

え……?

 

 

「ガァァァッァア!」

 

「ムーナ!?」

 

 

俺を庇うような存在はこの場には一匹しかいない。

ムーナが、体を張って俺へと迫るその強大な力を秘めた魔炎を、遮っていた。

 

 

「よせムーナ!!!! お前の体では……」

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

え……?

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

何故それが聞こえたのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそもにして、何故それがムーナだと……ムーナの声だと思ったのか……わかったのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

だが俺にはそれを信じるしか手がなく……俺はムーナを信じた……

 

 

 

 

時間にして刹那にも満たないであろうその一瞬で……俺は、ムーナの覚悟を悟り、俺は行動に移った……。

 

 

 

 

~テオテスカトル~

 

 

他愛のない

 

 

私は燃えさかる……私が口内より吐きだしたその魔炎によって燃えている炎を見つめて内心で溜息を吐いていた。

 

 

結局貴様も……私を満足させるに値しなかったか

 

 

この数百年。

私はクシャルダオラ以外……否、クシャルダオラでさえ満足した戦いをすることは出来なかった。

紅炎王龍。

膂力に優れた私は、その力で古龍の王とも言える存在だった。

といっても古龍その物の絶対数が少ないのであまり自慢にもならない。

だが、それでもこの力で私は今まで数々の存在を葬ってきた。

以降我の力を知っている物は、我に立ち向かおうとはしなかった。

 

 

それ故の……餓え

 

 

強敵は最初からおらず、我と拮抗するのは唯一クシャルダオラのみ。

だがそれもすぐに飽いた。

そしてやってきた……使者。

人間の身ながらオオナズチとクシャルダオラを葬った、究極の力……ラオシャンロンの力を携えた男。

我は震えた……。

 

 

こいつならば、私の餓えを解消してくれると……

 

 

だが結果はどうだ?

 

 

今眼前に燃えさかった炎……動きが全く見られない以上、もう死んだと見るべきか……

 

 

 

 

~ナナテスカトリ~

 

 

……おかしい

 

 

テオテスカトルが魔炎を放ってから敵の動きが全くない。

敵の弱さに拍子抜けしたために、その魔炎は全力ではないので防ぐことも不可能ではないはずだった。

だがそれはあくまでもラオシャンロンの力を持ち得た使者であるから可能であって、今の所魔を扱っていないあのリオレウスが、防ぎきれるとは思えない。

それに炎に包まれてから全く動きがないのも気になった。

魔を使って防ぐ、気を使って防ぐ……最悪リオレウスを見捨てて逃げてもいいはずなのだ。

もしくは炎に灼かれて苦しんでいるでもいい。

 

 

それが全く見られない……

 

 

であるにも関わらず依然として燃えさかる炎……。

 

 

これは……一体

 

 

そう思った時だった……。

その炎に違和感を覚えた……。

 

 

 

 

……この感じ

 

 

 

 

あの炎の先……炎を受けていたであろうリオレウスへと意識を傾けてみると……微かにだけど……何か別の力を……感じた。

そしてその別の力の先……つまりそのリオレウスに抱かれているであろうそこに……魔を……感じて……。

 

 

【!? いけない!!!!】

 

 

それに気づいた瞬間に、私は走り出していた。

 

 

 

 

ゴワッ!

 

 

 

 

燃えさかっていた炎を食い破り……その両手に凄まじい怨念……魔を宿した双剣を振りかぶりながら……使者が突進してきていた。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

よし! 完全なる奇襲!

 

 

敵の炎を受けたムーナを楯にして……俺は封龍剣【超絶一門】と協力し、大気に満ちる魔を吸収し、その双剣に纏わせていた。

無論吸収、纏わせるのも悟られないようにかなり神経を使って作業を行った。

幸いと言うべきか……敵である紅炎王龍が完全に油断していたおかげもありどうにかばれずに十分な魔を込められた。

 

 

「クォ」

 

 

しかしその間……あまり込められていないとはいえ、魔を帯びた炎を一身に浴びて俺を救ってくれたムーナが気がかりだった。

集中していたために何が起こったかも正直わかっていない。

だから……

 

 

この一撃で仕留める!!!!

 

 

気を……魔を……極限まで練り上げてそれを剣へと宿した。

その力……龍刀【朧火】の足下くらいには及ぶ……。

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

勝負は一瞬……

 

 

その鍛冶において究極とも言えた武器を鍛造し、剣に怨霊として宿ってまで……復讐に身を投じた……この封龍剣【超絶一門】

 

 

その凄まじさに敬意を表し、こいつは……この封龍剣【超絶一門】で倒すと決めた……

 

 

 

 

大切な物を、人を奪われた悲しみ……

 

 

 

 

俺もそうだった……

 

 

大切な物を奪われて、嘆き悲しんだ……

 

 

そしてその悲しみを怒りに変えて……荒れ狂い、暴走した……

 

 

今はまだ、こいつは寝ていたこともあり、魔剣になりきっていない……

 

 

だからその前に止めてあげなければ……

 

 

 

 

ジンヤさん……

 

 

 

 

俺の過去を……想いを救ってくれた……あの子のように……

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

生物として形を成しているのならば、そこには主要機関という物が存在する。

脳みそ、心臓……生物におけるこの二つの器官は正に急所だ……。

そこを破壊ないし傷つけられてしまうと、生物というのは簡単に死ぬ。

それ故に人を殺すのならば大仰な武器はいらない……。鉛筆一本で事足りる。

 

 

仮に……

 

 

もしも敵にそう言った内蔵がなくても……弱点というのは存在する。

例えば……

 

 

 

 

その胸部にある、凄まじい魔力を放出しているその部位……

 

 

 

 

「くらえぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

双剣を交差させ、腕を畳んで柄頭を胸部に接し突進する。

敵の内部にめり込ませても、完璧に固定した剣がぶれることはなく、突進の勢いを余すことなく剣に伝えることが出来る。

 

 

俺はそれを……驚いている紅炎王龍に向けて、突進する。

 

 

 

 

敵との距離が狭まり、目前となったその時……

 

 

 

 

【させません】

 

 

 

 

青紫色の何かが、視界を覆った……

 

 

 

 

そしてその遮ったその物体に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

封龍剣【超絶一門】が突き立った……

 

 

 

 

~テオテスカトル~

 

 

……なんだこれは……?

 

 

目の前の光景に驚愕し、ただ呆然と見ることしかできなかった。

確かに私が吐きだした魔炎は敵を……リオレウスを、使者を焼き尽くしたはずだった。

だがそれはもろくも崩され、敵は私へと突進してきている。

気と魔で強化されたその脚力は凄まじく……とてもではないが避けることは出来なかった。

 

 

 

 

【させません】

 

 

 

 

そんな私の前に……青い何かが……道をふさいだ。

 

 

 

 

ドスッ

 

 

 

 

ひどく鈍い音が……辺りを響かせた……。

 

 

 

 

何も音が発せられない。

 

妙に静寂な時間が流れる……。

 

 

 

 

ズリュ

 

 

 

 

そんな中……私の前に躍り出た……ナナテスカトリの体から……濁った水の音が響いた……。

 

そしてそれに呼応するかのように……ナナテスカトリの体が地へと沈む。

 

視界を遮っていたナナテスカトリが沈み、視界が開けた……。

 

その先に……古の竜人族の武器を手にした使者がいた……。

 

 

 

 

その武器は……真っ赤に……古龍の血で真っ赤に染まっていた……

 

 

 

 

そしてその血を吸収する、竜人族の古の剣……

 

それは歓喜に震えていて…………むせび泣いているかのようだった……

 

そしてその剣をもったまま、敵は……使者はリオレウスの元へと行き、少し様子を見てから跳び去っていってしまった……

 

私はただそれを……呆然と見送り……再度目の前の現実と向き直った……

 

 

 

 

【……ナナよ】

 

 

 

 

何故か……全身の体に力が入らなかった。

 

 

それどころか視界さえも歪んでいる……。

 

 

わからない

 

 

体に支障を来すような異常はなく、魔力が枯渇しているわけでもない

 

 

であるにも関わらず、何故か四肢に力が入らなかった……

 

 

自慢の膂力が……全く四肢に込もらない

 

 

何かが……抜け落ちていくような感覚……

 

 

 

 

【……無事ですか?】

 

 

 

 

そんな間抜けとも言えた私に、ナナが……妻が語りかけてくる

 

 

それでようやく力を……動く程度の力を込められた私は、そっと横たえているナナの傍へとよった

 

 

【……油断しすぎです。私が前に出なければ死んでいましたよ】

 

 

言葉が出ない……

 

 

……前に出なければ死んでいた

 

 

それはつまり……それを受けてしまったナナは……

 

 

【もうすぐ私は死ぬでしょう……。だから私の力を使って、本来のあなたの力を……】

 

 

【もうよい……】

 

 

【それを使えばあなたは……】

 

 

【しゃべるな!】

 

 

死ぬというナナに怒鳴り散らし、私は自分の魔力をナナに渡そうとするが、しかしその前に止められた

 

 

【心臓を突かれました……。長くはありません】

 

 

何を言っているんだ?

 

 

我々は古龍

 

 

死をも超越した存在

 

 

そしてその中でも我ら炎王龍は特別なのだ

 

 

【死など……】

 

 

【……ごめんなさい】

 

 

【え?】

 

 

 

 

 

 

……もっと、あなたの傍にいたかった

 

 

 

 

……もっと……あなたの傍であなたの存在を感じていたかった

 

 

 

 

……もっとあなたと供にいて……あなたが認めた好敵手との死闘を、見守りたかった

 

 

 

 

 

 

語られる

 

ナナから語られて……しまう……

 

信じたくはない……別れの言葉を……

 

 

 

 

 

 

勝ってください……テオテスカトル……我が夫よ……

 

 

 

 

 

 

やめてくれ……

 

 

 

 

 

 

先に逝き、あなたが好敵手に勝ち、末席を超え、神となるのを……見守っています……

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後に……ナナテスカトリが魔力の粒子となって宙に飛散する……

 

 

今までナナを構成していた粒子が……想いが……霧散していく……

 

 

そしてそんな中に残ったのは……青紫の光の玉……

 

 

 

 

炎を操り、使役することの出来る……力……

 

 

 

 

 

 

それを取ってしまえば……それを手にしたら……亡くなってしまう……

 

 

 

 

 

 

 

最後の……ナナテスカトリを……私の妻を構成していた……物が全て……

 

 

 

 

 

 

妻という存在……ナナテスカトリが完璧に消失してしまう……

 

 

 

 

 

 

一瞬躊躇してしまうだが……敵を思い浮かべて……浮かべた瞬間に、私の心に……今まで感じたことのない感情が、猛然と吹き荒れた……

 

 

 

 

■■

 

 

 

 

今まで抱いたことのないその感情……

 

 

 

 

■■

 

 

 

 

それがなんなのかわからない……

 

 

 

 

■■

 

 

 

 

だが知っていた……

 

 

 

 

■い

 

 

 

 

先ほどまで対峙していた相手……使者が持ち得ていたその剣……

 

 

 

 

■い

 

 

 

 

それが発していたどす黒い想い……

 

 

 

 

 

 

 

 

そうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

これが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

……さてと

 

 

ユクモ村、自宅……。

時間は夕方を超え、既に夜。

本日の活動、火山にてどうにか二匹の炎王龍の内、魔法使い的な立場の紫炎妃龍、ナナテスカトリを葬ることに成功し、俺は安堵していた。

 

 

あの時……ムーナが何とか紅炎王龍より吐き出された魔炎をその身で防いでくれた。

最初こそ耐えられないと思った俺だったが……ムーナの毅然とした態度と、その決意を信じ……身を任せた。

 

大気より魔を吸収し、それを練り上げ、気と共に手にした双剣……封龍剣【超絶一門】へと注いでいく。

その間……俺は周りに意識を割くことが出来なかったのだが……何かムーナだけではない、別の意志を感じ取った気がしたのだが……。

 

 

「クォォォォ」

 

「大丈夫かムーナ?」

 

 

俺は傍らに寝そべっている火竜、ムーナの頭を軽く撫でる。

普段ならば気持ちよさそうに鳴くのだが……さすがに今日は無理だった。

あの時俺の変わりになって受けたその火傷……そんなに深くもなかったが決して浅くもなかった。

飛ぶのに支障もないし、死ぬことはないのだが……あまり軽少でもない。

火山でナナテスカトリを殺した後、復讐を遂げて歓喜に震える封龍剣【超絶一門】の咆吼を聞きながら、俺はムーナへと寄り添った。

痛そうにしていたが、しかしかといってそのまま放置なんて出来るわけもない。

茫然自失となっていたテオテスカトルを殺すこともひょっとしたら出来たかもしれなかったが……それでも俺はそれよりもムーナを優先し、急いでユクモ村へと帰還した。

村長にわざわざ俺の家へと出向いてもらい、薬を塗ってもらったりして治療を行った後、俺はこうしてムーナに寄り添って、気で治療を行っていた。

 

 

「クォルルルル♪」

 

 

気で治療すると心地いいのか、嬉しそうにムーナが声を上げる。

俺はそれに微笑を返しつつ、思案を巡らせる。

 

 

……俺の所にナナテスカトリの玉がこなかったところを考えると……紅炎王龍、テオテスカトルに吸収されたと見るのが妥当か?

 

 

今まで……オオナズチ、クシャルダオラの時に出てきた光の玉。

それぞれの皮膚の色をしたその玉は、膨大な魔力と特殊な力を備えていた。

今まではそれは俺の左腕……ラオシャンロンの力も収納されている、前腕部に吸収されてきたのだが……今回はそれがなかった。

とどめを刺したことは間違いない。

確かに敵の中心部とも言えるその場所に剣を突き立てたのだ……。

それによって敵の体に変調を来していたことも確認した。

さらには敵に剣を突き立てているときに、封龍剣【超絶一門】が、敵の血から膨大な魔力を吸収していたので、絶対に無事ではない。

そのおかげで、封龍剣【超絶一門】の妖しい雰囲気は倍以上に膨れあがっていた。

そしてそれに伴い、その剣身より発せられる魔力も数倍に跳ね上がっている。

 

 

末恐ろしい剣だ……

 

 

まさに吸血の剣。

いや吸血ではなく、魔を吸収する得物。

正に呪われた武器にふさわしい。

 

 

ずれてるな……

 

 

考えるべき事柄がずれていることに気づき、修正する。

とりあえず光の玉が俺の前腕部に吸収されていない以上、残った敵……テオテスカトルが吸収したと見て間違いないだろう。

ひょっとしたらナナテスカトリには光の玉がないのかもしれないが……それはないと……ナナテスカトリの光の玉はテオテスカトルが吸収したと、直感が告げていた。

 

 

……何が起こるかわからんな

 

 

あの時……敵が茫然自失と成っているときに同時にテオテスカトルもとどめを刺せばよかったのかもしれないが、それが出来なかった。

何故かはわからない。

だが、油断でもなく、慢心でもなく……ただ失った物の大きさに気づいていた……気づかされていたあの紅炎王龍に攻撃することは……俺には出来なかった。

 

 

……とりあえずディリートには事の顛末を伝えたが

 

 

デウロさんに代筆をお願いし、今日の報告書は帰ってきた瞬間にドンドルマへと早馬……ならぬ早ガウシカ? で届けさせていた。

気球があるために基本的にそれで伝達をするのだが、そこまで遠くない場合は早ガウシカですませてしまうのが通例だった(気球飛ばすのも金かかるしな)。

まだ敵が残っていることを考えれば、色々と対策を取ってもらわねばまずいからだ……。

 

 

……そう遠くないうちに、敵が何かしらのリアクションを行うはずだ

 

 

その時俺は、何とかして勝たなければ成らない。

だが、勝てるか正直謎だった。

 

 

……純粋にあの力が二倍になるかもしれないしな

 

 

ナナテスカトリの力を吸収したことでどんな力が芽生えるかわからない。

下手をすれば二倍ではなく強さが総合的に見て、二乗になっているかもしれないのだ(TDシステムみたいな?)。

その時勝てるかどうかは……謎だった。

 

 

とりあえず万全の対策だけはしておかないとな……

 

 

本日はムーナの小屋で寝ることになりそうだが、武器の手入れはしっかりと行っておく。

本日持っていった夜月、花月、封龍剣【超絶一門】。

他の武器達、雷月、蒼月、水月。

そして最大の得物……狩竜。

敵が強大になっている以上、こちらも全力を持って応戦することになる。

ならば、龍刀【朧火】を顕現することになる。

今のところ龍刀【朧火】を顕現したことのあるのはこの武器だけだ。

やろうと思えばきっと、他の武器でも出来るのだろうが……敵のサイズを考えると、やはり狩竜で顕現することになるだろう。

 

 

 

 

……よろしく頼むぞ。相棒よ

 

 

 

 

生まれてまだ間もないこの野太刀に祈りを込める。

 

 

キィン

 

 

それに応えて……狩竜は淡く光り輝き、俺に安堵の息を吐かせてくれた。

 

 

 

 

~ドンドルマ監視塔 監視員~

 

 

「ふ、あ~~~~あ」

 

 

早朝。

俺はいつものように起きて、身支度を調え、朝食をとり、夜間の監視員と監視を交代する。

雄大なヒンメルン山脈を一望できる。

ここ、ドンドルマは巨大な街だ。

そのため、気球なんかも相当な数がこの街の外へ、中へと行き来する。

それを見張り、不法侵入者がいないかを確認し、さらにはモンスターが飛来したときにそれをいち早く知らせ、市民の安全を守る大切な仕事……それが俺の監視員としての仕事だった。

 

 

まぁ……滅多にモンスターなんてこないけど……

 

 

人間がモンスターを嫌っているように、モンスターだって人間のことは嫌いなのだ。

互いに互いの事を天敵と認識している。

そんな天敵が蠢くようにして生活しているこの場所へ、好きこのんでやってくるモンスターはほとんどいない。

だがそれでも伝説である大型モンスター、ラオシャンロン対策である『砦』へと通じている巨大通路上に、それはあった。

 

開かれることなく、その門は堅く閉じられている。

その奥にはモンスター闘う広場と、いくつかのバリスタ、そして簡易撃龍槍が設置されている。

普段はこの場所は開かれることはなく、ここ数百年はラオシャンロンなんかも訪れなかったことから、ほとんど不要な場所であるとされており、居住区にする計画も上がってきていていたほどだった。

 

 

だが最近ラオシャンロンでたんだよな

 

 

伝説であり、知らぬ者はいない存在であった巨大モンスター、古龍種ラオシャンロン。

半ばただの伝説上の存在と思われていたその時に、それは顕れた。

だがどうにか決戦場である『砦』で討伐することに成功し、今のところこのドンドルマが危機に陥ることはなかった……。

 

 

「……ん?」

 

 

そこで俺は気がついた。

 

登りつつある太陽……。

 

その眩しい光の中に……黒い点のような物が見えてのだ。

 

 

……あれは?

 

 

最初は何か全くわからなかった……。

 

寝ぼけているのかと思った……。

 

だがそれは近づいてきており……徐々に形を成していく……。

 

 

 

 

血のように紅い体躯……

 

その翼は巨大で、その翼に生えた爪はどんな剣よりも鋭そうだった……

 

巨大な鉤爪を生やし、その顔に生えたその毛は、そんじょそこらの防具よりも丈夫そうで……

 

そしてその角……

 

額より生えた一対の角は……恐ろしい何かを秘めていて……

 

 

 

 

「あ、あれは何だ!?」

 

 

 

 

見たこともないモンスター。

 

だがこれだけは言えた……。

 

 

 

 

人間が対抗できるモンスターではない……と……

 

 

 

 

考える余地も、それに反論する気さえも起きない……

 

 

本能が……生命としての直感が告げていた……

 

 

呆気にとられてしまい……そして何よりもそれ以上に恐怖を覚えて、俺は何も出来なかった

 

それは恐怖で震えている俺がいる監視塔を超え……普段解放されず……またここ数百年……一度も開かれず無用の長物とされていた迎撃区へと……悠然と降り立った

 

 

 

 

 

 

 

【ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!】

 

 

 

 

 

 

そしてそれは吼えた……

 

その瞬間に凄まじいまでの鬼気が迫り……俺は気づかずに漏らしてしまった。

 

 

 

 

 

 

【出てこい!!!! 使者よ!!!! 否……鉄刃夜よ!!!!】

 

 

 

 

 

 

しかし当然そんな俺に気づくわけもなく……敵はさらに吼えて、そして叫ぶ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【炎帝王、紅炎王龍テオテスカトルが……貴様に勝負を挑む!!!!】

 

 

 

 

 

 




ちなみに、テオさんの声は普通の人には聞こえていません。
聞かせようと思えば聞かせられますが、虫けらに聞かせる言葉はないと思っているので……
次回、決着……

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