リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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まずはじめに謝らせていただきます。

ごめんなさい

何故謝ったのかは本文を読んでいただけるとわかります……

あと今回、自分でもびっくりするぐらい長くなりました。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


ようこそ! ○○○村へ!

~???~

 

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

 

私は、三匹のランポスを倒して、私の命を救ってくれた男の人へと話しかける。

 

素手でランポスを圧倒してしまった人だけど……なんていうか、ひどく不安そうにしていた。

今も地面に倒れたまま何かをぶつぶつと言っている。

さっきも何度か話しかけてきてくれたけど……全く言っている意味がわからなかった。

 

 

異国の人……なのかな?

 

 

私は改めて、そばで膝をついている男の人の外見を観察しだした。

 

見たこともない真っ黒な服装。

一番上に羽織っている服は、多少だけれど光に反射している。

背丈はさっき立ち上がっていたのを思い出すと……私よりもだいぶ大きいと思う。

 

 

お父さんくらい?

 

 

髪も瞳も、綺麗な黒色をしていて黒曜石みたいに思えてしまう。

ドンドルマみたいな大きな街には行ったことないけど……黒い瞳と黒い髪の人なんて、聞いたことがない。

 

 

私が田舎者だからかな?

 

 

肌の色が……なんて言うんだろう? 白ではないし……ひどく曖昧な色だと思う。

 

 

どこから来たんだろう?

 

 

高台から来たから、泉の方から来たんだとは思うけど……あっちの方角には村や町はなかったよね?

それになによりも、先ほど男の人が捨てた細長い棒状の物が、不思議でならなかった。

私はいったん男の人から離れると、細長くて黒い棒状の武器を傷つけないようにそっと持ち上げた。

 

 

か、軽い。でも木で出来てる訳じゃなさそう。多分武器なんだとは思うんだけど……

 

 

先ほどの戦闘で地面に大切そうに置いていた細長い棒。

見た目的に片手剣に分類される武器だと思うんだけど……こんなに細くて、折れたりしないのかな?

それを男の人の前に差し出すと、その人はずいぶんとゆっくりとした動作で立ち直ると、ぐっと大きく背伸びをしだした。

背伸びしながらまた何か言っているけれど、やっぱり私には何を言っているのかわからなかった。

命の恩人が困っているのに、私はまた何もすることが出来ない。

 

 

背伸びを終えた男の人は、私に向き直ると笑顔を浮かべながら何かしゃべってくる。

多分、お礼を言っているんだと思うんだけど……。

男の人は差し出した武器をしっかりと右手で握ると、そのままさっきまでこの人がいた高台まで戻ろうとした。

何故か直感的に、男の人がどこかに行こうとしているのに気づいた私は、思わず男の人の左腕に抱きついてしまった。

 

 

「え、えっとその、もしよかったら……」

 

 

私の村まで来てほしいと伝えようとして、言葉が通じないことを思い出した。

どうしてかはわからないけれど、私はひどく緊張していた。

この人がどこかに行ってしまうのが、ひどく寂しく思えた。

 

 

そうだ!

 

 

私は名案を思いつくと、先ほどまで持っていた特産キノコを入れたかごを探す。

するとすぐに見つかって私はいったん男の人から離れると急いで籠を取りに行った。

少し散らばっていた特産キノコを、また入れ直して再度男の人のそばへと向かう。

その間、男の人はどこかに行かずに待っていてくれた。

 

 

「あ、あのもしよかったら私の家に来てご飯を食べて行かれませんか?」

 

 

籠を前に突き出しながら、何故か緊張している胸の鼓動をどうにかして抑えながら、私は必死になって言葉を紡いだ。

それだけではわからないと思い、手振り身振りで食事のまねをしてどうにかして相手に伝えようとした。

 

 

最初は眉間にしわを寄せながら聞いていたけれど、身振り手振りを加えるとわかってくれたみたい。

苦笑しながら何度も頷いてくれた。

お礼が出来る以上に、私はこの人と意志が通じ合えたことがとても喜ばしかった。

思わず顔が笑顔になってしまう。

そんな私を男の人はさらに優しそうな微笑みを向けてきてくれる。

笑顔を見られたのがひどく恥ずかしくなって、私は思わず赤面してしまう。

そんな私に、男の人は右手に持っていた武器を差し出してきた。

 

 

渡したはずなのに? どうして?

 

 

不思議に思いながらもそれを両手で慎重に受け取ると、男の人は先ほど飛び出して来た高台に、ジャンプして着地していた。

その身体能力に、私は本日何度目かわからない驚きの声を上げてしまう。

 

 

「す、すごい」

 

 

モンスターの狩りを生業とするハンターたちでも、この高台に上るのは少し時間と手間がかかるはずなのに……。

重そうな武器とか鎧を着てないって言うのはあるかもしれないけど、それにしたってこの跳躍力は純粋にすごいと思ってしまう。

 

 

男の人は高台に上ると、そばの植木のような木の中に手を入れると、真っ黒な背嚢と、黒くて細長い四角い箱を取り出して背負った。

あまりにも軽装過ぎるとは思っていたけど、荷物は隠していたんだ……。

そこからまた一足で飛び降りてきて、私のすぐそばに着地した。

重そうな荷物を背負っているはずなのに、ちっともつらそうに見えなかった。

立ち上がり私のそばに寄ってくると、男の人は右手を私の方に、武器のそばへと持ってくる。

 

 

武器を渡したのって……荷物を取りに行ってそのままいなくなると思わないように?

 

 

武器を私に渡しておけば、少なくともそれを取りに来なければならない。

自分が勝手にどこかに行かないという意思表示をするためだけに、この人は私に自分の武器を渡してくれたんだ。

 

 

この世界ではハンターはもはやなくてはならない存在だ。

私を襲ったランポスレベルなら、まだ人と設備があれば村人だけでも追い返せるけど、竜種まで言ってしまうととてもではないけれど普通の人では倒せない。

そんな強力なモンスターを狩ることを生業にした人々がハンターだ。

彼らは自分の職業に誇りを持っている。

自分の愛用の武器には他人が触るのを嫌がる人は大勢いる。

それはそうだと思う。自分の命を預ける武器なのだから。

でも目の前の人は、私が不安にならないように……と、たったそれだけのために自分の得物を私に預けてくれた。

 

 

本当に……優しい人……

 

 

それを認識するとまた胸が高鳴った。

でも、不快じゃない。

とても不思議な感覚。

そうしていると、男の人は右手の人差し指で自分をさして、何かを私に訴えかけるようにこう言ってきた。

 

 

「じんや。じんや」

 

 

繰り返すように自分を指しながらそう告げてくる。

 

 

ひょっとして、この人の名前?

 

 

その意図に気づいた私は大きく頷くと、男の人の手を取って笑顔を向けた。

 

 

「ジンヤ。あなたの名前は、ジンヤさん」

 

 

名前が通じたことに、男の人はとても安心したらしく、安堵のため息をついていた。

ランポスすら簡単に追い払った人が自分の名前を伝えるのに必死になっている姿が、ひどくかわいく見えてしまった。

 

 

「私の名前はレーファです」

 

 

普段通り自己紹介をしてしまったため、男の人が首をかしげてしまう。

それを見て、私は慌ててさっき男の人がしていたように、自分のことを指さして名前を連呼する。

 

 

「レーファ。レーファ」

 

 

何度もそうしているとわかってくれたらしい。

男の人が笑顔になると、私の名前を呼んでくれた。

 

 

「れーふぁ」

 

 

ちょっと発音がおかしかったけど、意志が通じ合ったことに、私は思わず涙を流してしまうほど嬉しかった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

どうやら俺が自分の名前を告げていることを理解してくれたらしく、少女は自分の名前も俺がしたようにして教えてくれた。

 

 

レーファ……ね

 

 

レーファは、俺が自分の名前を呼んでくれたことが殊の外嬉しかったらしく、とびきりの笑顔を俺に向けてくれる。

先ほど籠の中身を見せてくれたが、中には先ほど俺が食したキノコが大量に入っていた。

どうやらこの森にはキノコを採りに来たみたいだ。

それを確認すると、俺は先ほど自分が採ってリュックの中に入れた同じキノコを、ビニール袋から出して籠の中に入れた。

 

 

すると、少女が慌てていたが、お礼に料理を振る舞ってくれるというのは先ほどのジェスチャーで確認済みだ。

俺には調理方法がわからないので、レーファに任した方がいいだろう。

俺にキノコを返そうとする少女をやんわりとなだめながら、俺はキノコを指さして、先ほどレーファがした食事のジェスチャーをまねした後、空を指さした。

 

 

太陽……この世界もお日様のことを太陽というかは謎だが……がだいぶ傾いてきている。この森がどれほどの規模で、またこの子が住んでいる場所までどれほどの距離があるかは不明だが、日が暮れた森を歩き回るのは危険だ。

空を指さしてようやくレーファも日が暮れてきていることに気がついたようだ。

ものすごく慌てて、俺の右手を掴むと、森の出口であると思われる方角へと歩いていく。

 

 

どれほどの時間がかかるかはわからないが、そこまで遠くはないといいんだが……

 

 

森での野宿も可能だが……異世界での野宿の経験なんぞありはしない。

先ほどの恐竜モドキ……あれくらい束になってかかってきても一蹴してやることは簡単だが、いつ襲われるかわからない状況ではおちおち寝てもいられない。

今は非常事態だ。

体を壊すないし、疲労させることは極力避けたい。

だがこうして多少なりとも急いで歩いているということは、急いで歩いていけば日が暮れる前に村に着く距離であるということだろう。

 

 

先ほどのモンスターがいるような世界だ。

野宿がどれほど危険なことか、この世界の住人ならば十二分に理解しているはずだ。

俺は右腕を掴んで歩くレーファに引きずられるように、彼女の後をついて行った。

 

 

 

 

二時間ほど歩くと、急な坂道があり、そこを上ると下った坂のその先に、木で出来た塀に覆われた、そこそこ大きな村が眼下に広がった。

下り坂のはじめあたりに看板があり、レーファはそこまで走っていくと、その看板と村を交互に指さしながらこういった。

 

 

「ユクモ。ユクモ」

 

 

看板にかかれた文字は当然読めないが、状況からしてこの看板は眼下の村の名前がかかれていると判断するのが正しいだろう。

 

 

この子が住んでいる村はユクモというのか……

 

 

すぐそばには海があり、山々にも囲まれた自然豊かな大地だ。

近くには温泉もあるらしく、ちょっとした硫黄の香りを俺の鼻はとらえていた。

俺はユクモ、と連呼するレーファに頷くと、坂道を降りていく。

何とか日暮れまでに村に着いたことに安堵しながら。

 

 

とりあえず多少は安心して寝ることが出来る寝床が確保できそうだ。

 

 

最悪馬小屋などの家畜小屋でもかまわない。

人が住んでいるというのはそれだけで安心して眠ることが出来る。

しかも村規模ならば、そうそうモンスターが襲ってくることはないだろう。

 

 

問題は村が歓迎してくれるかどうかだな……

 

 

レーファに悟られないように、心の中でひっそりと溜め息を吐いた。

明らかに文明レベルが違うのはレーファの服装や、村の作りを見ると簡単に推測できる。

下手をすれば追い出されるかもしれない。

襲われても簡単にあしらえるだろうから、命の危険と言う意味では問題ないが……。

俺の心ににわかに暗雲が立ち籠めるが、それに気づかずレーファは坂を下っていく。

 

 

虎穴に入らずんば虎児を得ず、の精神で行くとしますか

 

 

腹を括ると、俺は肩を竦めつつレーファの後へとついて行った。

 

 

 

 

大きな門には勝手口があり、そこの門番らしい人がレーファの姿を確認すると、慌ててレーファに近寄り声をかけている。

どうして慌てているのかは謎だが、レーファの体を心配そうな目つきで見つめているのを見ると、どうやら体に怪我がないかを確認しているらしい。

レーファはそんな門番の男に苦笑しながら何か伝えているが、男はそれを聞いて軽くレーファの頭をたたいた。

どうやら怒られているようだ。

そうしたやりとりをしていると、男はようやく俺の存在に気がついた。

最初は驚き、そして訝しむような目を俺に向けてくる。

 

 

門番だってのにずいぶんと対応が危なっかしいな

 

 

レーファのことに気をとられたとはいえ、仮に俺がこの村に悪さをしに来た人間ならばどうなっていたことやら……。

門番の男は右手に小型の盾を装備しており、腰にはずいぶんと大きな剣を装備していた。

腰の剣を左手で抜き放つと、盾を構えながらこちらに近づこうとしたが、レーファが慌てて間に入って何かを矢継ぎ早に話している。

先ほどの事情を説明でもしているのだろう。

そのレーファの事情と思われる言葉を聞いているうちに、男は驚愕すると、再びレーファの体を心配そうな目つきで見つめる。

そうして何度かやりとりすると、門番の男が勝手口から中へと入り、複数の男がやってきた。

装備の形状は様々だが、小型の盾と大きめな剣という意味では同じ武装だ。

 

 

気を自然と放っている武器か……。しかしそれにしては……お粗末といえるような武器だな……

 

 

男たちが装備している武器をさりげなく観察しながら俺は内心でそうこぼした。

一人の男が装備している武器が青地に黒模様の色合いをしている。

そこから判断するに、先ほどの恐竜モドキの素材を使って作られた武器を判断するのが賢明だろう。

武器から放たれる気も、それとなく先ほど殺した恐竜モドキの気と似ていなくもない。

 

 

この世界では武器防具はモンスターの素材などを使って作るのか?

 

 

男たちの格好を見ると幾人かは恐竜モドキの素材を使って作られたと思われる防具を全身に装備している。

茶色や緑の混じったまだら模様の色違いの装備をしている者もいる。

ほかの男たちは見慣れた鉄の防具だ。しかし武器に至っては何かしらの気を放っているところを見ると、やはりモンスターの素材を使って作られた武器なのだろう。

 

 

男たちはレーファにすら聞かれないようにひっそりと会話をすると、門番を倍の二人にし、俺のそばに二人、そしてレーファに付き添う形で先ほどレーファと話していた男がレーファとともに勝手口へと入っていく。

俺はそばの二人のうち一人が、門の勝手口を指さしながら先に入り、一人は俺の後ろに付いた。

 

 

なるほど、賢明な判断だ

 

 

装備からのぞく髪の色だけ見ても、男たちは茶髪や金髪などの色をしており、一人として黒髪の男はいなかった。

レーファが森で俺の顔を凝視していたのは、黒髪の人間がいない、ないし、珍しいからだろう。

おまけにその男は言葉が通じない上に服装が異様。

警戒しない方がおかしい。

 

 

武器を装備しているから警護の人間なんだろうが……どうやら未熟なようだな

 

 

警戒は怠っていないようだが、俺の武器を見ても何も気にすることなく俺のすぐそばに付いている。

俺の間合いを全く考慮に入れていない。

 

 

自分の間合いを優先したのだろうが、相手を見て実力が見抜けないようではまだまだだな

 

 

そう思いながら俺は特に嫌な顔をせずに、従順に男たちの先導について行く。

前でレーファが文句を言っているのが何となくわかったが、先ほどの男はそれを必死になだめていた。

そうこうしていると、広場が見えてきて、そこには大勢の人が集まっていた。

 

 

中央の机にはがっしりとした体格のおっさんが、涙を流している女性の肩を抱いている。

その前には白髪と長い白髭が特徴の老人が祈るように腕を組んでいる。

しかも……。

 

 

耳長くないか?

 

 

普通の人間よりも遙かに長い耳をしている老人だった。

よく見ると周りの人間にも同じような耳の長さをしている人種が混じっている。

 

 

異人、亜人までいんのかよ

 

 

完全に異世界にいることを決定づけられた瞬間だった。

思わず溜め息が出てしまう。

 

 

その夫婦らしき二人を見た瞬間に、レーファは大声を出して走り出した。

その声に集まっている皆が一斉に声がしたほう、レーファへと振り向く。

女性の方は顔を上げると涙を流しながらレーファへと走り、そのまま抱き合った。

 

 

顔がずいぶんと似ていたな。母親ないし、姉だろうな

 

 

となると、先ほどまで肩を抱いていた男はレーファのお父さんだろうか?

さりげなく男の顔を見てみるがあまりレーファの顔と類似点が見つからない。

まぁ似ていない親子なんてそれこそごまんといるので顔が似ている、いないなんぞ瑣末ごとだろうが。

 

 

母と娘が抱き合っているのを見て、周りの人たちは口々に何か言っている。

まぁこの状況からいって、よかったね、とか言っているに違いない。

そうしてレーファはいったん母から離れると、先ほどのがっしりとした男へと緊張しながら歩み寄った。

男もそれに答えるようにイスから立ち上がり、静かにレーファを見下ろすと……。

 

 

パン!

 

 

右手を軽く振り上げてレーファの左頬をたたいた。

その行動に周りがざわつく。

レーファもきょとんとした表情をするが、次の瞬間、男はレーファを力強く抱きしめた。

 

 

心配させられたから一応叱ったつもりなんだろうが……すぐに抱きしめてあげたら意味ないだろ……

 

 

何となく、この男は不器用な男だと判断した。

レーファは抱きしめてくれた男に抱きつくと、声を上げながら泣き出した。

命の危機にさらされたのに今まで我慢していたのだからなかなか胆力のある子のようだ。

周りの人たちもレーファの無事を確認して友達と思われる女の子たちは同じように涙していた。

俺のそばに付いている警護の人間たちも、涙こそ流さないものの、とても安心したような表情をしている。

 

 

村規模での付き合いのある村か……。なんか暖かくていいな

 

 

警護の人間が弛緩しているのに内心呆れつつも、村人たちの暖かい気持ちに当てられて、俺も思わず微笑を浮かべてしまうのだった。

 

 

 

 

レーファが泣きやみ、レーファの無事を確認できたら、今度はその場にいる人間が一斉に俺の方へと視線を向けてくる。

その視線のほとんどが、怪しい者を見る目つきだ。

ぶっちゃけていうと、ものすごく不愉快な目線。

 

 

わからないでもないけど……あからさまに怪しい男を見る目つきで見られるとむかつくな……

 

 

ほかにもひそひそと内緒話をしている奴らもいる。

言葉が通じないんだから内緒話しても意味ないって言うのに。

俺に聞かれないようなことを話しているって言うのが丸わかりだ。

 

 

それに気づいたレーファが俺のそばへと歩み寄ると、俺の名前を村人たちに告げてくれる。

それから何か長々と話していたようだが、レーファが自慢するように何かしゃべると、ざわめきが一斉に村人たちからあがった。

 

 

素手で恐竜モドキを倒したのがそんなにすごいのか?

 

 

森でレーファが同じように驚いていたことを考えると、おそらく恐竜モドキを倒したことを説明したんだろう。

後ろに控えていた二人が一斉に剣を抜き放つのが音でわかった。

レーファに付き添っていた男もレーファを俺から離し、かばうように後ろにやると、自分自身も剣を抜いた。

 

 

え~いきなり非歓迎ムード~~~?

 

 

予想していたことではあるが、武器を向けられるとさすがに俺も気が立ってしまう。

レーファが男の後ろで何かわめいているが、同年代の女の子たちが、必死になだめている。

村人たちは誰もが俺から距離をとるように離れていった。

しかも広場にいた屈強な体格をした男たちも手持ちの道具などを武器にして、先ほどの男たちと一緒に包囲網を敷いてくる。

 

 

…………え~と……何? 殺されたいのかおまえら?

 

 

さすがにこの対応にはカチンときた。

考えてもみてくれ?

明らかな敵意を向けてくる男たち十数人に囲まれたらさすがに気分悪くなるだろう?

 

 

しかしここで攻撃を仕掛けでもしたらここから逃げ出さなくてはならない。

現実世界ならば野宿だけで一ヶ月ほど暮らしたこともあるから問題ないんだけど、さすがに異世界ではしたくない。

モンスターが恐竜モドキだけならばいいが、男たちが装備している武器の多様性を鑑みるに、ほかにも様々なモンスターが存在するはずだ。

どう対応するか悩む。

 

 

まぁとりあえず俺には戦う意志がないことを告げるため、俺は森からずっと右手で持っていた夜月を刀入れの中へとしまい、気で施錠した後、地面へと静かに置いた。

リュックサックも同様に地面へと置き、やる気なさげに両手を上げる。

それを見て一斉に囲んでいた男たちから嘲笑があがった。

 

 

ポーン (怒りレベル上昇)

 

 

あからさまに馬鹿にしている声が上がる。

それを不快に思いながらも必死に俺は耐える。

レーファをかばっていた男が嘲笑しながら俺へと歩み寄ると、リュックサックの中身を盛大にぶちまけた。

 

 

ポーン |(怒りレベル、さらに上昇)

 

 

これをされても我慢した俺、えらい。

自分自身に拍手喝采を送りたいくらいだ……。

見慣れない物を見て、男が不思議そうな顔をしている。

鍛造道具一式や袴の上下。

見慣れない物なので訝しげにしながらも、それを他の男に渡す。

どうやら怪しい物がないかどうか調べているようだ。

壊そうとはしていないが、その手つきはひどく乱暴だ。

レーファが円の外から何か叫んでいるが誰も聞いちゃいない。

 

 

いや、何人かはいるな……

 

 

他とは違う視線を感じそちらを向くと、レーファの親父と思われる男と、その対面に座っていた老人がこちらを静かにじっと見つめていた。

その視線には侮蔑は一切感じられず、冷静にこちらを観察していた。

 

 

どこにでも冷静で鋭い人間はいるようだな……

 

 

内心感心しながら、俺は二人から視線を外し、再度道具をあさる男に目を向ける。

ちょうど鍛造道具一式を見つめていた。

武器防具を作っている以上一度なりとも鍛造するための道具を見たことがあるのだろう。

男が道具と俺を交互に見つめてくる。

が、すぐに鼻で笑うと、それまた乱暴にそばにいる男に手渡す。

 

 

ポンポンポーン |(怒りレベル、臨界点突破寸前レベルまで急上昇)

 

 

鍛冶士にとって命ともいえる鍛造道具をなんてぞんざいに扱いやがる!!!

 

 

必死に抑えようとするがさすがに限界が近い。

まだまだ未熟だが、これでも俺の鍛造した刀を気に入って購入してくれた客は何人かいる。

親父やじいさんに比べたらまだまだだが、それなりに誇りと自信を持っている。

それを全否定された気分だ。

 

 

耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ

 

 

それでも俺は必死に耐えた。

レーファのことを心の底から心配していた村人たちに怪我をさせたくないと思ったからだ。

そうして耐えているとリュックの中身を確認し終えた男は刀入れに手を伸ばし、上の蓋を開けようとしたが、開かない。

 

 

それもそのはず。

刀入れは俺の気で施錠されている。

仮に開いたとしても刀と鞘は、刀入れ以上に厳重に気で封印しているので、俺以外には絶対に刀を抜くことは出来ない。

唯一の例外は俺の肉親であり、俺よりも気の練度が高い親父とじいさんくらいだ。

ちなみに刀入れも気で強化してあるので、百キロのハンマーでぶったいても壊れない頑丈さを誇っていたりする。

 

つまり一言で言えば、親父とじいさんがこの世界にいない以上、愛刀達は俺以外に扱うことが出来ない武器だ。

 

 

武器を納めた入れ物が開かないことに男はいらだちを募らせ、剣の柄頭で乱暴に叩き始めた。

が、当然開くわけもない。

 

 

開くわけないから乱暴に扱うな

 

 

そういってやりたい気分だが、言葉が通じないので仕方なく黙っている。

するとついに切れたのか、男が刀入れを乱暴に地面に叩きつけた。

 

 

ブチッ!

 

 

愛刀達を入れた刀入れを叩きつけた瞬間、堪忍袋の緒が切れた。

 

 

「なにしやがんだてめぇ!!!」

 

 

 

 

~???~

 

 

レーファの話によれば、目の前で皆に睨まれている男はランポスを素手で、それも一撃で倒したという。

その言葉に誰もが疑いのまなざしを向けるが、娘の必死さが、それが本当だいうことを私に教えてくれた。

確かに立ち振る舞いを見ても全く隙が見えない。

様々なハンター達を見てきた私にも、この男の実力は計り知れなかった。

そうしていると、男は持っていた武器を仕舞うと、荷物を降ろして両手を挙げた。

交戦の意志がないことを告げているのだろう。

それを見た瞬間に、若手のハンター達から嘲笑が上がる。

 

 

わかっていないのか?

 

 

若手の……近所に住む、知り合いの息子達の態度を見て、私は呆れてしまった。

あの男がとても強いことに気づいていないハンター達に。

確かに人間同士で戦うことがあまりないこんな片田舎では一流と呼ばれるハンターはあまり見かけない。

しかしそれでもあれほどの異質な男のことを全く推し量れないとは……。

 

 

そうして私が見ていると、村長も同じ思いなのか、男のことを深く、じっと静かに見つめていた。

どうやら私と同じ考えのようだ。

 

 

あえて私たちはハンター達の言動を見守ることにした。

レーファが必死になってみんなを止めようとしているが、友達に止められてしまう。

 

 

「お父さん! みんなを止めて! あの人は私の恩人なんだよ!」

 

 

レーファが私に止めてくれと訴えかけてくるが、私は非情にもそれを無視した。

そうしていると男が背負っていた背嚢の中身がぶちまけられ、飛散した。

それをレグルが一つずつ確認していく。

 

 

レグルは新米ハンターの兄貴的存在でリーダー的存在だ。

ハンターとしての才能もある。

この間もドスランポスを仲間とともに狩ってきて意気揚々としていた。

 

 

それで天狗になっているのかもしれないな……

 

 

そう思っていると、何か布にくるまれた道具一式をレグルが開いた。

布に包まれていたのは鎚や、鑿(のみ)、砥石、はさみといった道具が仕舞われていた。

 

 

鍛造道具?

 

 

工房に置いてある私の愛用の道具達と同じ雰囲気を放っていたため、それが武器を作るための道具であることが私にはすぐにわかった。

レグルもさすがにその道具が鍛造道具だとわかったようだ。

男と道具を訝しげな目で交互に見つめると、まるで男がどこかで盗んで来た物であると言うように鼻で笑うとそれを乱暴に舎弟に渡した。

 

 

ザワッ!

 

 

乱暴に道具を扱った瞬間に、男から濃密な殺気が一瞬あふれ出した。

道具を乱暴に扱われて怒ったということは、あの道具は間違いなく男の持ち物なのだろう。

 

 

あれほどの若さで武具が鍛造できるのか?

 

 

私はその事実に驚きを隠せなかった。

男の見た目から言ってどう考えてもまだ、青年と言っていい年齢だ。

確かに雰囲気や、態度が大人びているため誤解しそうになるが……。

レグルは最後に男が自分の武器を入れた箱のような物を手に取るが、そこで困惑しだした。

 

 

開かないのか?

 

 

武器で叩いたりしているがいっこうに開く気配がない。

あの入れ物はいったいどういう構造になっているんだと思うと武具屋としての血がうずいた。

レグルは開かないことにいらだちを募らせ、武器が入った入れ物を地面に叩きつけた。

 

 

そして次の瞬間……男の咆吼があたりを震わせた。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「なにしやがんだてめぇ!」

 

 

男が刀入れを叩きつけた瞬間に切れた俺は、相手に向かって怒鳴りつけると同時に動いた。

切れても冷静さを保ちつつ、俺は気を使わず行動する。

男もそこそこの腕を誇っているようで、反応速度はそこそこだった。

左手に持っていた剣を大振りで振るってくる。

俺はその攻撃を半歩斜め前に出て威力が乗り切る前に、左手で軌道を変えて躱し、そのまま腕を掴んで投げ飛ばした。

 

 

気を使わずとも鍛え上げたこの体、相手が多少重かろうとも吹っ飛ばすことくらい造作もないわ!

 

 

リーダー的存在がやられたことで包囲網を敷いていた連中が一斉に俺に襲いかかってきた。

片手で振るう剣、なんかの道具なのか金槌、農具の鍬など様々だ。

俺はそれらを紙一重で躱したり、指一本で剣を受け止めたりして攻撃を防御する。

 

 

まさか剣を指一本で受け止められるとは夢にも思っていなかったのだろう。

震ってきた男達が驚愕するが知ったことじゃない。

俺は近くにいる奴ら全てに額に指を当てて、気を流し込み、内部の気の流れを乱してやった。

 

 

生物は生きている以上体中に気を無意識に張り巡らしており、その気の循環はとても繊細だ。

脳は生物の中でも最重要ともいえる内蔵の一つだ。

そこに指一本を動かすほどの少量の気を流し込むだけで、まるでひどい船酔いにあったかのように、気分が悪くなる。

俺は避けることと、左右の人差し指二本だけで次々と、屈強な男達を跪かせる。

大量に流し込んでないから五分位したら気分もよくなるだろう。

 

 

そうしてあらかたの人間を片付けると、怒声があたりに響いた。

声がした方を見ると、先ほど投げてやった男がずいぶんと馬鹿でかい大剣を担いでいた。

 

 

青地に黒の縞模様……さっきの恐竜モドキの武器か? いや……それにしては気がでかい

 

 

見た目が完全に先ほどの恐竜モドキだが、それを使って作った武器にしては気が大きすぎる。

どうやらそれよりも強い恐竜モドキの素材で作られた大剣のようだ。

 

 

 

 

~???~

 

 

それはまさに思わず溜め息を吐いてしまうほどに、見事な立ち振る舞いだった。

男は複数の攻撃を、まさに紙一重で躱し、あるいは指一本で剣を受け止めたりして攻撃を回避し続けている。

それはまるで演武を見ているかのようだった。

 

 

「……ほぉ」

 

 

思わず私は口から感想がこぼれてしまった。

村長も呆気にとられており、周りを囲んでいる他の村人達もまるで魅入られるように男の立ち振る舞いを見つめている。

しかも男は人差し指で相手の額を突くだけで相手を行動不能にしていた。

一瞬殺したのかと思ったが、突かれた相手は酔ったかのように気持ち悪そうにしているだけで命に別状はなさそうだった。

 

 

「調子に乗るなよ、この化け物が!」

 

 

そうしていると先ほど投げられたレグルが帰ってきた。

その背には先日私がドスランポスの素材から作り上げた、蛇剣「大蛇」を背負っている。

さすがに止めに入ろうと私は輪の中に入ろうとしたが、村長に止められた。

 

 

「大丈夫じゃ」

 

 

何が大丈夫と言っているかわからなかったが、その言葉に、私は妙に納得してしまった。

 

 

確かに……これほどの実力の男ならば怪我を負うことはないか……

 

 

片手剣を一度に複数振るわれてもそれを全て躱した男だ。

心配する必要はないだろう。

そう思っていた。

が、男は右拳を力強く握りしめると、それを引くように後ろへと持って行き、振りかぶる姿勢をする。

しかも左手で挑発までかましている。

 

 

何をする気だ!?

 

 

さすがに予想外な行動に私も村長も、そしてレグル本人も驚いてしまう。

男はそれでも挑発を続ける。

さすがにカチンと来たのか、レグルが全力で走りだす。

それを見ても男は一歩も動かなかった。

 

 

「ジンヤさん! 危ない!」

 

 

レーファがそう叫ぶが、それでも男は動かない。

 

 

カハァ~

 

 

男の口から猛獣の息吹のような呼気が流れ出てくる。

それに呼応するかのように、振りかぶっている男の拳が、薄ぼんやりと発光しだした。

 

 

あれは?

 

 

不思議な光だった。

とても暖かいと感じてしまう、不思議な光が男の右拳を包むように淡く発光する。

しかしレグルは怒りのあまりにそれに気づかない。

そのまま背負っていた大剣を全力で振り下ろした。

そして男はレグルの大剣が間合いに入ったその瞬間、振りかぶっていた右拳を打ち上げるように振るった。

 

 

ズガン!!!

 

 

爆発したのではないかと思えるほどの爆音があたりの空気を振動させる。

男の拳と大剣がぶつかった音とはとても思えない。

互いに拳と武器を振りかぶり終えていた。

しかしレグルが持っていた剣は無惨にも半ばから砕けて折れていた。

 

 

「……なっ!?」

 

 

あまりにも驚愕の事態にレグルが思わず悲鳴じみた声を上げた。

それもそうだろう。

ドスランポスは確かに竜種ほどの力はないが、それでもモンスターとしては十分厄介な存在だ。

小型と言われるモンスターではあるが人間から見れば十分に大きい。

そんな生物の素材を使った武器なのだ。

少なくとも素手で破壊できるような物ではない。

しかも破壊した武器は頑丈さと威力でハンターの定番武器である大剣だ。

 

 

ヒュンヒュンヒュン、パシ

 

 

その場にいる皆が誰一人として例外もなく呆気にとられていると、空気を切り裂く音とともに、大剣の一部が空から落ちてきた。

それを男は右手で難なく掴み取った。

 

 

「く、くそ……」

 

 

武器が破壊されてレグルは悪態を吐く。

もうレグルは武器を持っていないはずだ。

距離を空けながら、レグルは腰に備え付けてある剥ぎ取り用の小型ナイフを掴む。

さすがに往生際が悪い。

しかし男はそんなレグルには目もくれず、折れてしまった剣先を興味深そうに凝視していた。

武具が鍛造できるならば武器がどんな構造になっているのか気になったのだろう。

しかし男が手にした武器は定番中の定番武器、ドスランポスの素材を使った蛇剣だ。

誰でも作れるような武器なはずなのだが、まるで初めて目にした、というようにじっくりと眺めている。

 

 

やがて納得がいったのか、男はそれをレグルがいる方へと差し出すように前に出す。

それを見てレグルが訝しんだ顔をしたが、次の瞬間再び驚愕することになる。

 

 

バキャン!

 

 

なんと、掴んでいた部分を男が握力で握りつぶしたのだ。

それだけでは飽きたらず、全身にヒビが入ると、ばらばらに砕けてしまった。

 

 

シーン

 

 

その男のあまりにも規格外な行動に、誰もが口を開くことが出来ず、あたりは奇妙な静けさに包まれた。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

あ~~~~~~~すっきりした

 

 

刀入れを叩きつけて、俺の命に等しい愛刀達を傷つけたカス野郎の武器を、全身の気を練り上げた最強のアッパーで破壊し、おまけに砕けた剣の一部を握り潰してやって俺はようやく溜飲を下げた。

 

そしてそれと同時に襲ってくる…………やっちまった感。

 

 

やっちまった~な~……まぁいいか

 

 

怒りにまかせてやってしまったが後悔はしていない。

俺の命を乱暴に扱いやがったんだ、殺されないだけありがたいと思え。

 

 

俺は先ほど男がぶちまけた中身を一つ残らず回収する。

その間も誰も口を開くことはなかった。

脅かしすぎてしまったかもしれないが、どうでもいい。

 

 

どうすっかね~。言葉が通じたら街でも紹介してもらうんだが……

 

 

脅しすぎてしまったから俺とまともに口を聞くやつはいないだろう。

聞くやつがいたとしても言ってる意味はわからないけど。

 

 

まぁ森の中に家でも築けばいいか

 

 

気楽に考えながら荷物を担いで出口へと行こうとすると、レーファが飛び出してきた。

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

「ジンヤさん! 待ってください!」

 

 

ジンヤさんが出口へ向かおうとしていることに気づいた私は、慌てて駆け寄ってジンヤさんの腕に抱きついた。

ジンヤさんはとても申し訳なさそうな表情をしていた。

きっと手を出してしまったことを後悔しているんだと思う。

でもジンヤさんがそう思うことはおかしい。

確かにジンヤさんは見たこともない服装をしていて、髪の色も真っ黒だけど、それだけで命の恩人に私達は武器を向けてしまったのだから。

 

 

「レーファ、離れろ! そいつ、何をしでかすかわからないぞ!」

 

 

レグルお兄ちゃんがそう怒鳴り散らしてくる。

私のことを実の妹のようにかわいがってくれるレグルお兄ちゃんだけど、今回ばかりは私は怒っていた。

 

 

「何でそんなこと言うの! この人は……ジンヤさんは私の命の恩人なんだよ!」

 

「しかし、見たこともない服装に、どこへ行っても見たこともない漆黒の髪。何より素手で大剣を破壊する力。そいつは人間じゃない。化け物だ!」

 

「化け物なんかじゃないよ! ジンヤさんはとっても優しくていい人だよ!」

 

 

出会ってからまだ一日もたっていないけど、村に来るまでの仕草や、私を救ってくれた時に向けてくれた笑顔が、私の脳裏に走る。

何よりも、武器が入っている入れ物を地面に叩きつけられて激怒するほどに大切にしている物を、ジンヤさんは一時とはいえ私に預けてくれたのだ。

私を安心させるだけという理由で。

そんな人が悪い人なわけないじゃない!

 

 

「しかもそいつはどこかから鍛冶道具までかっぱらって来ているんだ。ギルドに差し出すべきだ!」

 

「それに関しては私が否定させてもらう」

 

 

そうしてレグルお兄ちゃんと言い争っていると、お父さんが輪の中に……私とジンヤさんのそばへと歩み寄ってきた。

 

 

「リオスさん!?」

 

「お父さん……」

 

 

厳しい表情のまま、お父さんはこちらに歩み寄ってくる。

 

 

「この男……ジンヤ君の態度から、あの道具は間違いなく彼の物だ。レグル、お前が乱暴に道具を扱ったときに、ジンヤ君から殺気が漏れ出たのに気づかなかったのか?」

 

「そ、そんな馬鹿な」

 

「それにお前の大剣を壊して破片を見つめていたときの視線は、間違いなく武器を鍛造している者の目だった」

 

「こんなやつが武器の鍛造なんて出来るわけが……」

 

「黙れ小童! 鍛造に関して私に意見しようなんぞ百年早いわ!」

 

 

お父さんがレグルお兄ちゃんに対して怒鳴った。

昔はお父さんもハンターをやっていたってお母さんに聞いたことがある。

その時も有名だったけど、武器を作る鍛造士になってからはこの大陸で知らない人もいないほど有名になったって言ってた。

レグルお兄ちゃんも、さすがにこれ以上は言い返せないのか、渋々と悔しそうにしながら口を閉ざした。

 

 

「レーファ、こっちに来なさい」

 

「う、うん……」

 

 

お父さんはジンヤさんに抱きついていた私を呼ぶとジンヤさんの正面に立って、私の頭に手を置いて、静かに頭を下げた。

その際に頭に置いた手を同時に下げているので、私も頭を下げる形になった。

 

 

「娘の命を救ってくださって、ありがとうございます。それと数々の無礼をお許しください」

 

 

お父さんが人に頭を下げているところを、私は初めて見た。

見たと言っても、そばにあるお父さんが頭を下げている顔を見ていただけだけど……。

 

 

「リオスさん!? そんなやつに頭を下げる必要なんて」

 

「レグル、いい加減にしなさい」

 

「村長まで……。仮にこいつが何も盗んでなかったとしても怪しい人間に代わりはないはずです! それに俺たちに攻撃してきたのはそいつからですよ!」

 

「確かにそうかもしれないが、レーファの命を救ってくれたのは事実だ。お前がジンヤさんの大切な物を乱暴に扱ったのが事の発端だろう? それに手を出したと言っても、お前さんの大剣以外に被害があるか? 誰もかすり傷一つ負っていないぞ?」

 

「そ、それは……」

 

お兄ちゃんがまた何か言おうとする前に、村長が私たちへと歩み寄ってきた。

その顔には深い笑顔が刻まれていた。

 

 

「ジンヤ殿。私からも村人達の無礼をお詫びさせていただきます」

 

 

そう言うと村長までもが、ジンヤさんに対して頭を下げてしまった。

これにはさすがに村人から動揺が走る。

けれど、村長に、お父さんまで頭を下げてしまったものだから、誰も何も言えなかった。

それに私の必死の態度が効いたのか、何人かがばつの悪そうに頭を下げてきていた。

 

 

頭を上げた私たちに、今度はジンヤさんが頭を下げてきて、何かをしゃべってくる。

何か言っているけど私たちはわからないけど、その態度から謝罪の言葉を言ってきていることだけはわかった。

 

 

「リオス、申し訳ないんだがジンヤさんにお詫びとお礼をかねて、食事会をおぬしの家で開いてはくれまいか?」

 

「わかっています。娘の命の恩人です。何もしないで返してしまったら私の気が済みません」

 

「わ、私が料理を作ります! 今日はお父さんの大好きな特産キノコのバター炒めだよ!」

 

 

手に持っていた籠を、私はお父さんに向けて差し出した。

私の言葉に、お父さんは最初驚いていたけれど、溜め息を一つ吐くと、私の頭を叩いた。

 

 

「今度からは絶対に一人で勝手な行動をするな。村人みんなが心配してくれたんだぞ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

喜んでくれると、褒めてくれると思っていた私は、叱られてしまってシュンとなってしまった。

でもお父さんの言うことが正しいので、頷くことしかできなかった。

 

 

「……だが、その気持ちは嬉しいよ。ありがとう」

 

 

ぼそっと他の人には聞こえないような小声だったけど、私にははっきりとそう聞こえてきた。

お母さんはお父さんが何を言ったのかわかっているのか、クスクスと小さく笑っていた。

それが合図になって、自然と村人のみんなも歓迎ムードになってきてくれた。

私はそれが嬉しくて、思わず子供ようにはしゃいでしまった。

 

 

「さ、行くぞレーファ。お客様を案内しろ」

 

「うん! ジンヤさん、こっちですよ」

 

 

私はお父さんの声に頷くと、取り残されてぼけっとしているジンヤさんの腕をとって家まで走り出した。

慌てながらも、ジンヤさんは私に案内されるままについてきてくれた。

 

 

 

 

これが、私の命だけでなく、私たちの村を救ってくれる、私の大事な人との、初めての出会いの日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

なんかみんなで騒いでるけど、結局俺はどうなるんだ?

 

 

笑顔で俺のことを歓迎してくれているっぽい雰囲気だったが、耳の長いじいさんの言葉も、レーファの父親と思われる人の言葉もわからない俺には……ただただ、困惑するしかなかった。

 

 

 

 




後書きなんて面倒な者を読んでいただいた方ならば何故前書きで謝ったのかおわかりいただけたと思います。

そう!

今回予定の○○ランポス登場までいきませんでした!
書きながら思ったんですよ。

脳内設定では黒人っぽいのと白人っぽいの、それに竜人族としての特徴の耳が長い人種しかいない世界に、
モンスターを一撃で吹っ飛ばす、見たこともない謎の格好をした黒髪黒目の黄色人種の男を歓迎するってあり得なくね? って。

だから今回分割させていただく形となりました。お許しください。
次回こそハンターの最初の関門、○○ランポスが登場する予定でございます。ご期待いただけたら幸いです。


投稿してから数日しかたっていないのに、なんか感想とか来たり、評価ポイントがじわじわと高くなったり、なんかアクセス解析? とかで結構な人に読まれているとわかって……

作者は怖くなった! 作者は怖くなった!! 作者は怖くなった!!! 

大事なことなので何度でも言います!

作者は怖くなってしまいました!!!!!!

ちょ、どうして? なんか無駄に高評価? おかしい。前回の話はバッシングを覚悟していたのだが……
恐怖で震えながらも執筆をしています……

いや、本当に何で?

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