リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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ついに始まる!
個人的にはあんまり格好良くなかったモンスターアルバトリオン!
防具とか武器は結構かっこいいんだけどね~
っていうか……双剣ないとか喧嘩売ってんのか!?
3rdは武器の種類が少ないよね~。双剣とか他にもいろいろ
ではでは最終戦、始まり~





煌黒邪神

~フィーア~

 

 

それは……信じがたい光景の連続だった……

 

 

 

 

「龍剣……【朧ノ光】!!!!」

 

 

 

 

ジンヤが腰に装備していた大剣が変化し、禍々しい色をした剣へと姿を変える……

 

そして、敵の凄まじい暴風を受けながらも……まるでその鎧で切り裂きながら進むかのように……刃夜はその風を物ともせず、突き進んだ……

 

そして……

 

 

 

 

ドスッ!

 

 

 

 

刃夜が手にした大剣……龍剣【朧ノ光】が深々と敵の……嵐龍の背中へと突き刺さり……

それが貫通して胸まで貫いた……

 

 

「……すげぇ」

 

「やったのか?」

 

 

深々と剣が体を貫いているのだ……。

どう考えても致命傷だろう。

だが普通のモンスターではないので……私たちにはわからない。

 

 

 

 

「人間を舐めすぎたな……。俺だけじゃなく、他の連中も……」

 

 

 

 

ジンヤがそう言う……。

まるでモンスターに言っているかのように……。

そして敵が中へと霧散し……ジンヤが地面へと降り立った……。

 

 

 

 

そして……日が差した……

 

 

 

 

「……一週間ぶりの太陽か」

 

 

 

 

ジンヤの言うとおり……私の位置から見たジンヤの後方……黒く厚い雲から、まぶしく光が差し込んでいた。

 

一週間ぶりの太陽だ……。

喜ぶべき事だった……。

 

 

だが私たちはその太陽以上の存在に……目を奪われていた……

 

その太陽を背にしたジンヤが……あまりにも神々しくて……鎧の神秘さと、その驚異的な強さによって……童話に出てくるような、最強の力を持った戦士であると、思えてしまう……。

 

太陽を背に堂々と立つ……その姿……

 

そして……

 

 

「ゴアァァ!」

 

「ムーナ! よく頑張ってくれた。礼を言うぞ」

 

 

傍らに降り立った……銀の太陽、銀リオレウス。

それを従えた姿は……まさに……

 

 

 

 

竜騎士……

 

 

 

 

そう思えてしまう物だった……。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

あ~久方ぶりの日差しは目にまぶしいな……

 

 

虹まで架かりそうな天気だった……。

今まで夜のように曇天だった暗い景色が晴れ渡り、明るい太陽が顔を覗かせていた……。

 

 

「……勝った……のか?」

 

「嵐龍は……?」

 

 

皆が呆然としている。

仕方のない事かもしれない。

何せあれほどでかい龍が忽然と姿を消したのだ。

死骸がないぶん、実感が湧かないのかもしれない……。

 

 

 

だから俺は……声を大にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちの、勝利だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

イロナシを上空へと掲げて……俺は吼えた……。

それでようやく実感したのか、他の連中も同様に声を……勝ち鬨を上げる……。

 

 

 

 

下にいるレーファやレグル、そしてリオスさん達に届くように……。

 

 

 

 

「勝った! 勝ったぞ!!!!」

 

「これで村は救われる!!!!」

 

 

 

 

皆一様に嬉しそうにして、友と肩を抱き合っていた。

俺はそれを笑顔で見つめつつ、イロナシを納めた。

そこに。

 

 

 

 

「お疲れ様だな」

 

「……あぁ」

 

 

 

 

珍しく笑顔なフィーアが俺へと近づいてきて……俺の肩を叩いた。

作戦が完遂できた……それ以上の何かがこいつの中であったようだった。

俺はなんとなくそう感じて、弟子の成長を素直に喜んだ。

俺はそれを静かに受け入れる。

 

 

「……これで村は救われる」

 

 

肩に置かれた手は……微かに震えていた。

結構な苦労を強いた作戦だったのだから緊張していたのだろう。

俺はそんなフィーアの肩に手を回す。

 

 

「!?」

 

 

フィーアが硬直して顔を真っ赤にした。

 

 

「崩れ落ちるなよ? 無事に帰るまでがクエストだぞ?」

 

 

安心しきっているフィーアに、俺は苦笑いしながらそう言う。

するとフィーアが一瞬きょとんとして、すぐに俺と同じように苦笑した。

 

 

「ジンヤさん!」

 

 

そうしていると、下のベースキャンプにいたレーファとリーメが俺たちへと駆け寄ってきて、俺たちの胸へと飛び込んできた。

 

 

「……よかった。無事で」

 

「……ありがとうよ」

 

 

どうやら心配をしてくれていたようだった。

心配してくれる人間がいるというのは実にありがたい事だった。

 

 

「お疲れ様です、ジンヤさん」

 

 

レーファの後にゆっくりと近寄ってきたリーメも、実にいい表情をしていた。

どうやらハンターの弟子二人、そして鍛造の弟子のリオスさんも、俺が知らぬ間に著しい成長を遂げていたようだった。

そして、レーファも。

 

 

「……お疲れ様でした。ジンヤさん」

 

 

なんとまぁ、すがすがしいほどの笑顔を向けてくる。

本当に俺が無事で良かったと、そう思っている証拠だった。

 

 

これで十四? ……将来はすごい女になりそうだな

 

 

そんなしょうもない事を思っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時……ついに始まった……

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴロゴロゴロゴロ

 

 

 

 

 

 

 

 

「? 何だ?」

 

「雷?」

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の戦いが……

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまで晴れそうになっていた雰囲気が一変し、再び雲が荒れ出した……。

せっかく顔を出した太陽も再び暗雲へと隠れてしまう……。

 

 

 

いや……同じじゃない

 

 

 

 

先ほどまでの嵐の雲と同じかと思ったが違った……。

黒さの度合いが違う。

先ほどまでの雲が灰色だとしたら、今度の雲は……漆黒だった……。

 

 

「な? なんだ?」

 

「……何が起こっているんでしょう?」

 

 

俺のそばにいるフィーアにリーメも、不安そうに空を眺めている。

だが……俺は不安の度合いがそれ以上だった……。

 

 

 

 

……桁違いだ

 

 

 

 

奔流する魔力の渦が……。

しかもそれだけでなく、その確たる存在がここにいない……。

確かに俺の上の方の空で、凄まじい魔力の奔流が出来ているというのに……。

そう唖然としていると、ついに最悪と災厄が形となって現れた……。

 

 

 

 

ビュゴォォォォォォ

 

 

 

 

「!? な、何だ?」

 

「さ、寒い!? 寒すぎるぞ!?」

 

 

突然だった……。

突然天候だけでなく……気温すらも激変した……。

なんと、真冬並みの寒さになったのだ……。

嵐が吹いていたとはいえ、ユクモ村の気温は温暖なほうだった……。

日本で言えば春先ぐらいの気候はあったはずだった……。

それが一変した……。

しかも……。

寒さが形となって表れる。

 

 

「……雪?」

 

「!? ば、馬鹿な……この時期に雪だと?」

 

 

そう、白い塊が……次々に降ってきていた……。

そして、それだけではない……。

 

 

 

 

カッ!

 

 

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 

 

突然の雷鳴に、レーファが悲鳴を上げる……。

それは一面の真っ黒な雲で覆われており、そこから激しい稲光を発している……。

 

 

さらに……それだけではなかった……

 

 

ボコッ

 

 

「へ?」

 

 

霊峰の頂上……その所々が突然下から盛り上がった……。

それもいくつも……。

皆一斉に盛り上がったその土へと意識を傾けるが……。

 

 

そこに、魔力が溜まっているとも気づかず

 

 

 

 

!? いかん!?

 

 

 

 

「それから離れろ!!!!!」

 

 

「え?」

 

 

勝利ムードからの突然の変化に呆然としているのか、みんな呆気にとられている……。

俺は直ぐに駆け寄り、何人かがのぞき込んでいたその盛り上がった土から強制的に退避させた……。

その次の瞬間に……。

 

 

 

 

ボッ!

 

 

 

 

突然螺旋状の炎が巻き上がった。

 

 

 

 

「なぁっ!?」

 

「なんだこれは!?」

 

 

 

 

巻き上がった炎を見て、みんなが驚きの声を上げている……。

だが俺にそれを気に掛けている余裕はなかった……。

辺りを見渡してみても、特にここ以外に炎が吹き上がっている様子はない……。

これは明らかに……。

 

 

 

 

宣戦布告……

 

 

 

 

【おやつまらん。今ので少しは潰せると思ったのだが……】

 

 

 

 

そんな声が……聞こえてきた……

 

 

 

 

「……なんだ?」

 

「今の声は……」

 

 

聞こえている?

 

 

意外な事に、今の思念は俺だけではなく他の連中にも聞こえているようだった。

この支離滅裂とも言える天候といい……生半可な相手ではない事だけは確かだった……。

 

 

 

 

【嵐を討ち果たすのに随分と手間取っていたようだな? 使者よ】

 

 

 

 

「使者? 何を言って……」

 

「お、おい……あれ」

 

 

誰かが声を上げ……とある一点を……空へと指を向ける。

先ほどから魔力が集中している場所だった。

わかりきっていた俺は、そちらへと鋭く目を向ける……。

そこに……

 

 

 

 

【使者といってもその程度か? 人間】

 

 

 

 

邪が……いた……。

 

実体はないのか、魔だけが奔流していて、それ以外に気配を感じなかった……。

 

よほど遠くから思念を送ってきているのか……。

 

そして上空へと出来た、邪を纏った黒い靄のような龍……。

 

 

 

 

間違いなく、最凶の敵だった……。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

空中に現れたそれは……とてつもない何かを秘めた怪物だった……。

強さの度合いで言えば、私にはよくわからないが……私たちが必死になって討伐した龍、嵐龍と同じくらいだとは思った……。

だがこれは強さだけではない……何か黒い……巨大な何かを秘めていて……。

その巨大な何かが……私の心を完全に鷲掴みにした……。

 

 

……なんだこれは?

 

 

あまりの存在感に胃が縮み上がる。

それだけでなく、体が小刻みに震えていた……。

私だけでなく、他のやつらも同様だった……。

ほとんどの連中が腰を抜かしている……。

それを見て……思った……。

 

 

これには絶対に……勝てないと……

 

 

もう挑むことすら考えることが出来ない、そんな存在……

 

人間がどうこうできるわけがないと……魂が訴えかけていた……

そんな存在に……

 

 

「……随分と面白い事をしてくれるな?」

 

 

普段通りの態度で……それどころか挑発的とも取れる言葉を投げかけている……ジンヤがいた。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

俺はそれに向かって言葉を返す。思念を送ってくるが実体無いという事は、今ここで俺と争う事は無いという事だろう。

俺は若干警戒しながらも、返事をする。

 

 

【何。貴様が嵐を一応倒したので祝儀のつもりだ。お気に召したか? 人間】

 

「そんな侮蔑混じりに言われてもちっとも嬉しくないな」

 

 

人間、と言ってくる時の嘲りの含み具合は異常だった。

虫とかそう言うレベルではなく、汚物レベルで人間を見ているのかもしれない。

だが、それが出来るほどの力を有しているのは事実だったようだった。

 

 

【ふん。まぁいい。嵐がいなくなった今、ついに私だけとなってしまったわけだ……。まぁ元々操っていた連中の事など、知った事ではないが】

 

 

操った?

 

 

その言葉に引っかかりを覚え、記憶をさかのぼってみると……一つあった。

クシャルダオラとの戦闘中……クシャルダオラの言動がおかしくなったときがあった。

そしてその時漏れ出した黒い靄……、それが今上空に敵が形作っている靄とほとんど同じ物だと気づいた。

そして、テオテスカトルが言っていた言葉……。

 

 

 

 

邪を超えるため、ナナの敵を討つため…………そして我自身の欲求を満たすために……全力を持って貴様を討つ!

 

 

 

 

邪を超える……。

それが目の前の敵を超えるという意味だったとしたら……。

 

 

まさか……

 

 

「四古龍はお前が操っていたのか?」

 

【いかにも。雑魚が神の力を手に入れたらそれを喰らおうとしていた。そちらの方が楽だからな】

 

 

……なるほど

 

 

【テオテスカトルだけは操られていたことに気づいていたようだが、結局死んだ。それでは気づいていた意味がない。やつも脆弱な物よ。そしてついに嵐も貴様に討たれた……。ならば今までの力を全て宿した貴様を喰らえば、私は一気に奴らへと上り詰める事が出来る】

 

 

奴ら?

 

 

【使者よ。貴様をこの地で待つ】

 

 

その思念と供に送られてきたその内容は……どこかの場所の映像が俺に送られてくる。

そこは火山地帯のとある一画だった。

 

 

 

 

【我は寛大だからな。疲れ切った貴様を癒す時間をやろう。それから我の元へ来るがいい……。存分に絶望という物を味わわせてやろう】

 

 

 

 

その思念と供に、敵が消える。

黒い靄が消えて、気配も威圧も霧散した。

だが……黒い雲と雷、そして雪は消えなかった……。

いや、より強まっている。

猛吹雪だった……。

 

 

「……今のは……一体」

 

 

誰かが呆然とそう呟く……。

その問いに答えられる物は……誰もいなかった。

 

 

 

 

それからとりあえず俺たちは下山し、ユクモ村へと帰還する。

濡れきっていた体にこの寒風は応えた……(俺は全く問題なかったが)。

各々装備を集会所に預けた後、俺の温泉銭湯を開いて、作戦に従事していた連中は体を温めた。

俺は集会所に預けられなかったので、家に一旦帰って鎧を脱いで普段着になる。

そしてとりあえず飯という事で、この人数でも入る事の出来る和食屋へと集まり、皆で造った料理で適当に食事をする。

その雰囲気は……とても重かった。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

誰もが無言で食事をする。

何が何だかわかっていないのだろう。

勝利の余韻に浸る事も出来ずに、何か余りにも常識外れな事と直面したのだ。

自分たちでもどう処理していいのかわからないのだと思う。

 

 

「……ジンヤ君」

 

 

そんな中、食事を終えたリオスさんが俺へと近寄ってくる。

その顔には、色濃い疑念が浮かび上がっていた。

リオスさんと俺の言動を……皆が見守っていた。

 

 

「……さっきのは?」

 

「? さっきのとは?」

 

「……君と何かが会話していた事だ」

 

 

聞こえていたのか?

 

 

リオスさんのその言葉に俺は驚いたが、しかしそれを表には出さなかった。

リオスさんは作戦で霊峰へと向かう途中にあるユクモ運河の橋の氾濫を防ぐ役割を担っていて、そこから霊峰までは来ていない。

つまり少なくとも敵はリオスさんまで聞こえるように、俺との会話を飛ばしていたのだ。

そしてどうせ飛ばすというのならば……そんな中途半端な事はせずに……もっと広い範囲に……。

 

 

「……どういう事なんだ?」

 

「……俺にもいまいちわかっていません」

 

 

リオスさんが真剣に聞いてきている事はすぐにわかったので、俺も真剣に答える。

実際わかっていない。

何故わざわざ敵は……休憩させるような事を……。

 

 

「わからないって……。アレは確かに君に向けて話しかけていて……それに君は答えていたは……」

 

「お父さん……。まさかジンヤさんを疑っているの?」

 

 

リオスさんが言い切る前に……レーファが口を挟む。

リオスさんもそれがわかっていたのか、特に動揺する事はなく、レーファへと言葉を返す。

 

 

「疑っている訳がない。ジンヤ君がいなかったらこの村がどうなっていたのかわからないんだぞ?」

 

「そうだぞレーファ。少なくともこの場に……ジンヤを疑うようなやつはいない」

 

 

リオスさんに続いたレグルの言葉に、この場にいる全員が力強く。

その目には全く曇りが無く、その言動に嘘偽りがない事を教えてくれる。

……だが、それでもおびえの色はあった。

 

 

「だけど……」

 

「あんな存在と普通に会話をするなんて……」

 

「その……どういう事だ?」

 

 

それが口火を切る事になったのか、皆が一斉に話を始めてざわざわと話し始める。

俺を見ながらだが。

 

 

どうしたものか?

 

 

正直どうしようもない。

うまく説明できる自信もない。

その時……。

 

 

ガラララ

 

 

店の入り口の引き戸が開かれて、一人の男が入ってきた。

 

 

「皆さんここにお集まりでしたか。ギルドナイトの者です。ジンヤさんはいますか?」

 

「ここにいる」

 

 

リオスさんが会話を聞いていたので、何となくギルドナイトの連中が来るとは予想していた俺は、直ぐに席を立ち、そいつの方へと向かう。

 

 

「緊急招集が駆けられました。ギルドナイト隊員、ジンヤさんとフィーアさんは至急ギルドナイト本部へ出頭願うという事です」

 

「拒否は?」

 

「出来ません。意地でも連れてこいと言われています。またもう夕方近くの時間ですので、ギルドナイトに本部に宿泊するよう手配されていて、今準備が行われています」

 

 

なるほど

 

 

緊急招集で拒否が出来ない、意地でも連れてこい、ということは間違いない。

あの時の会話はドンドルマ……それだけでなく大陸全土に伝わったのだろう。

それの事情説明をしにこいと言っているのだろう。

難儀な事だった。

 

 

一難去ってまた一難……

 

 

本当に、この世界に来てから退屈しない。

俺は内心苦笑しつつ、俺は了承の意を伝えて後ろへ振り向く。

みんな俺の言動に注目していた。

 

 

「すまない。呼ばれたから行ってくる。レーファ、店の戸締まり頼んだぞ?」

 

「は、はい! ジンヤさん……気をつけて」

 

「おう」

 

 

レーファの心配そうにしているその表情に、俺は不安を和らげようと微笑しながらそう答えた。

急いだ方がいいと言うことで、俺は緊急招集を知らせに来てくれた隊員には悪かったが、ムーナでドンドルマへと向かう。

そうして俺とフィーアは、この雪と雷が舞う中……ドンドルマにあるギルドナイト本部へと赴いた。

 

 

 

 

~ディリート~

 

 

……頭が痛い

 

 

もう何が起こっているのかわからない。

ようやく雲が晴れたと思ったら直ぐに曇り……今まで以上に真っ黒な雲で覆われたかと思うと、雷が轟き、滅多に雪が降らないこのドンドルマで大雪が降っている。

さらに何か強大な存在と話をするジンヤの会話が聞こえてきて……。

あまりの超常現象に、ドンドルマは一時パニックに陥りそうだった。

だがギルドナイトのみんなが奮戦してくれたおかげでどうにか最悪の事態だけは回避できた……。

だが都合の悪い事に、ジンヤと何者かの会話は私だけでなく、全ての人間に聞こえていたのか、一部の過激派の連中が勢いづいており、暴動になるのは時間の問題だった。

以前から下火ではあった、ジンヤを排斥しようとしている輩……というか組織があったが……今回の件はそいつらに格好の餌を与える事になってしまった。

 

 

「大丈夫かディリート? 最近休めていないのか?」

 

「!? すいません大長老。会議中でしたのに」

 

 

ドンドルマのリーダー、大長老に声を掛けられて、私は沈んでいた気分を強引に上げる。

今はこの異常な状況に対する会議中なのだ。

ぼんやりとしているわけにはいかなかった。

 

 

「気にするな。会議といっては大したことは論議できん。彼が来ないと正確な状況判断はできない」

 

「……そうですね」

 

 

確かに、今のこの状況ではまともな会議になるわけもなかった。

何せ会話が聞こえてきたのだ。

どこで話しているかもわからない会話が、しかもドンドルマ中に。

そうなると他の地域にも聞こえていると考えて差し支えないだろう。

ドンドルマはまだギルドナイトの統率力でどうにかなったが、他の都市がどうなっているのか……考えたくもなかった。

 

 

「失礼します! ジンヤ殿、そしてフィーア殿が到着しました!」

 

「!? 来たか! すぐに通してくれ!」

 

「はっ!」

 

 

報告してくれる者に急ぎこちらにその人物を連れてくるように言う。

直ぐに踵を返す兵士、その目の前に……。

 

 

「失礼します」

 

 

すでにやってきていたジンヤが会議室へと入ってくる。

それに続いてフィーアも。

その瞬間に……この大長老の部屋の雰囲気が一変した。

皆が口々になんかを言おうとする前に……まず大長老が話しかける。

 

 

「わざわざ呼び出してすまなかったな、ジンヤ殿。とりあえず嵐龍が討伐できたのか結果を教えてくれないか?」

 

 

大長老がジンヤに対する口撃を見事にくじいていた。

確かに、その件も重要事項であったため、誰も口を挟めなくなっていた。

 

 

「討伐はしました。前回同様、塵になって霧散したので証拠はありませんが」

 

「何だと!?」

 

「それでは討伐したかどうかわからんだろう!」

 

 

他の会議に参加している人々から次々に声が上がった。

確かにその通りで、緊急クエスト、討伐クエストに出発したならばそれを討伐した証がいる。

大体はモンスターの死骸をギルドナイトが手配した竜車で運ぶために、基本的にそんなことは気にしなくていいのだが……死骸がないとなるとどうしようもないのが現状だ。

といっても死骸の残らないモンスターというのは普通にあり得ないことなので、誰もジンヤの言うことを信じない。

私は一応、前回、ドンドルマに襲撃してきたテオテスカトルが、紫の粒子となって消えるところを目撃したので……信じられなくもなかったが……。

 

 

「静かにせよ」

 

 

そうしてジンヤに集中砲火がされている中、大長老が一言そう呟いた……。

その言葉には威厳と威圧が込められていて、それだけで皆が黙ってしまっていた。

 

 

「今はそんなこと詮無きことだ。ジンヤが討伐したというのならばそう言うことなのだろう」

 

 

その一言で会議室は静まりかえってしまった。

大長老が言うから仕方がない、という訳ではなく誰もがその言葉に納得させられてしまう……。

そんな言葉だった。

 

 

「しかし大長老……。討伐の証がなければ報告に……」

 

「それは大した問題ではない。……それよりも」

 

 

さすがの大長老も、次の言葉には行き詰まった。

それよりも……。

この状況でその言葉が出た以上、次に出てくるべき言葉は分かりきっていた。

 

 

「……先のあの会話。あれの説明をしてくれないか?」

 

 

さすがにこれは聞かざるを得なかった。

この場にいる誰もがジンヤの声を知っていて、その全員が……さっきの不気味な声とジンヤが会話をしているのを聞いてしまったのだ。

さすがに聞かないわけには行かなかった。

他の連中も聞きたいのか……これに関しては誰も言葉を発せず、ジンヤの言葉を待っていた……。

 

 

 

 

「……話しかけられたから言葉を返しました。……あぁそう言えば名前聞くの忘れたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい爆弾発言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様!!!!」

 

「ふざけているのか!?」

 

「そういうことではない!」

 

 

予想通り……一気に場が紛糾した。

さすがにフィーアもジンヤを弁護する気も起きないのか、顔に手をやってうつむいていた。

 

 

「静かにせよ!」

 

 

だがそれも大長老の言葉で一気に沈静化する。

体の大きさもそうだが、それ相応の迫力があるので……誰も言葉を発せられない。

一応現役ハンターの私でも、震える位の迫力があるのだ。

だがジンヤは平然としていた。

 

 

「すまないがジンヤ君。ふざけている場合ではないのだ。教えて欲しい……あれはなんなんだ?」

 

 

大長老にもそれほどの余裕がないのかジンヤを睨みつけるように話している。

確かに、この天候のせいで、とてもではないが我々に余裕はなかった。

いつまで続くかは謎だが、そんなことは瑣末ごとだ。

こんな異常な状態での天気では、人間の心が持たない。

ジンヤもそれがわかっているのか、真剣な面持ちに戻ると、さらに言葉を紡いだ。

 

 

「……とりあえず火山奥地……神域というところで待っていると最後に言われたんですが……それは聞こえませんでしたか?」

 

 

その一言で……先ほどまでとは違った意味で、場が静まった。

 

 

「し、神域……だと?」

 

 

大長老もその単語に、言葉を無くしていた。

ジンヤはわかっていないのか、ただ頷くだけだった。

 

 

火山の奥地……神域……。

神域というのはあくまでも人間が勝手につけた名称だ。

 

そこは古来より飛行禁止区域だった。

記述では、その周辺を飛んでいると飛行船が次々に謎の墜落事故を起こすのだ。

墜落した飛行機は、凍り付いている物、雷で焼けただれた物などがあり、ギルドナイトでは複数の大型モンスターの仕業ではないかと一時期推測されたが、火山という特性上、冷気を使用するモンスターがいないということで疑問が生じ、結果としてそれは神の怒りが降り注ぐ場所とされ……「神域」と名付けられたのだった……。

そしてその墜落した場所に、一つの航行日誌が見つかり、そおに「炎の雨」「落雷」「猛吹雪」という急激な天候変化と観測記録と供に、「あるときは炎を従え、あるときは雷光と氷の刃を従える」という記述を発見。

それがロックラックに残る伝承の古龍アルバトリオンと合致したために、ギルドナイトは調査を行ったのだが……結局何もいなかったという……。

 

そういった経緯から結局、神の怒りが降る場所として有名になり、古来より今日まで、誰も近づかないようにしている場所だった……。

そこに来いと行っているということは……それは……。

 

 

 

 

「……まさか……アルバトリオン」

 

 

 

 

誰かが呆然とそう呟く。

直ぐに反対意見が出そうになるが……だれもそれを口にしなかった。

確かにもしも本当に神域にモンスターがいるというのならば……それはアルバトリオン以外にあり得ない。

一部地域では邪神として恐れられている……究極の古龍……。

 

 

 

 

「……大長老」

 

 

 

 

皆が困ったように大長老に意見を求める。

だが大長老も直ぐに返答が出来なかった。

相手がわかったが……その相手があまりにも絶望的な相手だった。

伝承や伝説でしかでていない古龍なのだ。

それを鵜呑みにしていいわけではないが……しかしその伝承や伝説には、「大陸全土、全てを氷と雷、炎で埋め尽くし……全ての存在を死に追いやる」と語られている。

そして外の天候……この状況はまさに伝承通りで……。

どうすればいいか誰にもわからなかった……。

 

 

 

 

「悩む必要はない。呼ばれているんだから俺が赴けばいいだけの話だ」

 

 

 

 

皆が押し黙る中、この沈黙を作り出した本人、ジンヤがそんなことを言い放った……。

 

 

「……な」

 

 

 

最初こそ誰もが唖然とジンヤの言葉を聞いたが……直ぐにそれが怒りへと代わり、ジンヤを怒鳴りつける。

 

 

「貴様! 自分が今何を言ったのかわかっているのか!?」

 

「相手は神なんだぞ!? そんな存在に人間が立ち向かえるわけがない!」

 

「しかも場所は火山! そんなところでどうやってモンスターと立ち向かうというのだ!?」

 

 

次々に、ジンヤに向けられる罵詈雑言……。

それがわかっていたのか、ジンヤは何も言わずただ一点を……大長老の方へと目を向けていた……。

それを受けて大長老は……。

 

 

「……いいのか?」

 

 

ただその一言を口にした……。

 

 

その言葉に、皆が驚きの表情をする。

無論私もだった。

神域と言えば火山のど真ん中だ。

マグマの高熱は人間に耐えられる物ではない。

火山用装備を装着してどうにか活動できるレベルだというのに……。

しかも奥地はよりいっそうの重装備が必要になってくるほどの高温だ。

そんなところに人間が一人でモンスターを狩るなど……現実的ではなく、正気の沙汰ではなかった。

そんなこと、大長老がわかっていないはずはないのだ……。

だが……

 

 

「いいも悪いも、呼ばれたのは俺ですよ? 俺が行かなくてどうするんです?」

 

「だが、敵は紛れもない神なんだぞ? それをどうやって……」

 

「考えても仕方のないことですよ。ただ全力で武器を振るうだけです」

 

「……勝てるというのか?」

 

 

 

 

「わかりません。だが……逃げるわけにはいかんでしょう? ならば……行くだけです」

 

 

 

 

揺るぎのない……力強い声だった……。

誰もがその声に……納得させられてしまうかのような……。

まだ何人かはぶすっとした顔をしていたが……大半の人間が、ジンヤを呆然と見つめていた。

 

 

「……ならば任せていいか?」

 

「任せられなくても俺は行きますよ?」

 

「……わかった」

 

 

ジンヤの返答に、大長老は一度息を吐くと、きっと鋭い目をして……ジンヤへと向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではギルドナイト本部より、遊撃隊員、ジンヤへと直接の辞令を出す! 明日気球にて神域へと赴き……煌黒邪神、アルバトリオンを討伐してくることを……ここに命ずる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

重苦しいとも言える大長老のその言葉に、ジンヤはたった一言……そう返した……。

 

 

 

 

こうして、絶望的な状況の中……一人の男を……死地へと送り出すことが……決定した……。

 

 

 

作戦決行は明日……。

 

その自信がどこから来るのか……ジンヤのその自信と信念がどこから来るかわからない私たちには……ただ、一人の男を生け贄に捧げようとしているようにしか……思えなかった。

 

 

 

 




最終戦始まりとかいいながら戦いは始まらないという……w
申し訳ない。

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