リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

44 / 52
……メインヒロインがなんか変わってる気がg;あjykg;うfは






孤高の出陣

~刃夜~

 

 

ギルドナイト本部より勅命として、煌黒邪神アルバトリオンの討伐を命じられた俺、鉄刃夜は、ギルドナイトの宿舎の部屋でベッドに横になって天井を見つめていた……。

最初はこのギルドナイトから直接赴けと言われたのだが、手持ちの武器が夜月と花月だけでは危ないので、俺はムーナで一旦ユクモ村に帰ることを許可してもらった。

なおムーナが銀リオレウスということで家畜小屋が一時パニックになりかけたが、大長老がどうにかしてくれた。

 

 

まぁ……あそこまで行くと普通の人間にはどうしようも出来ないだろうが……

 

 

睡眠弾とか、麻痺弾等を打ち込んでも余裕で弾くし、爆弾なんてへのかっぱ。

大剣で殴られようとも蛙の面に小便。

まさに鉄壁、まさに銀の太陽……。

非常事態と言うことも相まって、まだ手を出そうという動きはでないだろうが……(貴族連中は率先して隣国に避難したらしい)その内動きがあるかもしれないことは確実だった。

 

 

面倒なことで……

 

 

今は関係ないので一旦思考するのをやめた。

気分転換にと外を見るが、外は相変わらずの暗黒の雲に包まれており、雷が鳴って雪が降るという……なかなかにアッチョンブリケな天気になっている。

 

 

いやはや、すごいね。この天気は

 

 

もはや溜息しか出てこない。

こんな天気が続けばそらぁ全ての機能が麻痺するだろう。

ギルドナイト上層部が事態収拾に躍起になるのも無理はない。

火山奥地に生身で行くバカ、神に挑む無謀な阿呆……そう思われても仕方がない人間を送り出す位なのだから。

 

 

何にせよ、明日は本気で行かなければ……

 

 

敵がこのタイミングで動いたというのはおそらく、嵐龍が操っていた天気をそのまま自分が掌握するためだろう。

しかもより激しい天候で、地上を滅ぼそうとしている。

悠長にしている余裕はなかった。

といっても俺もまだ体の疲れが取れていないし、今は夜。

明日出陣することになったが……。

 

 

 

コンコン

 

 

 

そうして色々と考えていると、部屋のドアがノックされた。

非常事態中の非常事態に俺の部屋に来る人間……しかもその気配から誰が来たのかわかった俺は、静かに立ち上がり部屋のドアを開けに行く。

 

 

ガチャ

 

 

そこには……

 

 

「……はいっていいか?」

 

 

寝間着姿のフィーアがいた。

普段と違ってものすごくしおらしいというかおとなしいというか……沈黙しているその姿は……なんというか……ものすごく女らしかった。

 

 

 

 

………………………………嫌な予感しかしないんだが……

 

 

 

 

だがしかしこの状況でただ帰すわけにはいかないだろう。

仕方なく……俺はフィーアを自室へと入れる。

とりあえずフィーアをベッドに座らせて、俺はイスに腰掛ける。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

無言……。

ものすごく重い沈黙が俺の部屋を満たした……。

外の天気と相まって……もうなんかすごいことになっている……。

重すぎて重すぎて……俺すらも気分が沈みそうだった。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

何で来たのかは謎だが……その格好がもう嫌な予感を告げていて……。

 

 

「……ジンヤ」

 

「……なんだ?」

 

 

そう思っていたら敵から攻撃を仕掛けてきた。

俺は仕方なく思考を打ち切り、フィーアへと目を向ける。

ベッドに腰掛けてうつむいていて……膝に乗せられたその拳は……硬く握られていた……。

 

 

体全体が……震えるほどに……

 

 

「……明日」

 

「……」

 

「明日……どうしてもお前が行かなければならないのか?」

 

 

その言葉に……俺は無言で返す。

言うまでもないことだったから……。

普段ならば気づきそうな物だったが、しかし気が動転し……沈んでいる今のフィーアに気づく余裕はないようだった。

 

 

「お前が行かなくても……ギルドナイトが総戦力で向かえば……どうにか出来るかもしれない……! 他にも……もっと有効な手段だって……だからお前が……お前が……」

 

 

フィーアもわかっているのかもしれない。

自分が言っていることが無理難題で、意味のないことだと。

だが言わずにはいられない……そんな感じだった。

だから俺はあえて何も言わず、何も返さず……ただじっと……フィーアが話すに任せて……じっとしていた……。

 

 

ただ……フィーアを見つめるだけだった……。

 

 

 

 

「……どうして……どうして何も言ってくれない!!!???」

 

 

 

 

「……」

 

 

フィーアの苦痛にも似た悲鳴。

だがそれを聞いても、俺はただ黙ったままだった……。

その俺の態度が癇に障ったのか……フィーアが思わず立ち上がったが……俺を見ても何も言えず……ただうつむくことしかしなかった。

 

 

 

 

「……どうして……どうしてお前が……お前が……いかないと」

 

 

 

 

絞り出すように言ったその言葉……。

にぎりしめたその手は……血の気を失って真っ白になっていた。

だがそれでも俺は何も言わない……。

ただフィーアが静まるのを待つばかりだった。

 

 

「……くっ」

 

 

しばらくして、何も言わない俺に耐えきれなくなったのか……フィーアは口惜しそうに一言唸ると……後ろを振り向いてしまった……。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

何を言っているのか……自分でもよくわからなかった……

 

あの声も……あの黒い靄の存在も……そしてジンヤも……余りにも強大すぎて……

 

そしてさっき会議で決まった……ジンヤを神域へと送り出すという作戦……

 

確かにジンヤ以外に出来る人間はいないかもしれない……

 

こいつはいつでも……どんなときでも不可能を可能にしてきた男で……

 

だから今回だって……それを可能に……邪神を討ち滅ぼしてくれるんじゃないかって……

 

嵐龍を倒したときの、ジンヤは……太陽を背にしたジンヤは本当に神々しくて……

 

ただの人間じゃないって……こいつは改めてすごいやつなんだって思った……

 

 

だけど……それでも……

 

 

今度の相手は余りにもすごすぎて……

 

本体を見たわけでもないのに……あの黒い靄を見た瞬間に、私の心を恐怖で縛り付けて離さなかった……

 

だって……それほど恐ろしくて……怖くて……

 

でもそんな存在と普通に話していたジンヤ……

 

会議でも誰にも束縛されずに……俺が行くと言ってのけた……

 

だけど……だけど……

 

行かせてしまったらジンヤがいなくなってしまいそうで……

 

今度こそ死んでしまうんじゃないかって……

 

それが怖かった……

 

苦しかった……

 

私の前から……いなくなってしまうんじゃないかって……

 

 

「……少しは落ち着いたか?」

 

 

そんな私に気づいていないはずがないのに……ジンヤは平然としていて……

 

ただ私が落ち着くのを待っていた……

 

その冷静さが……悔しくて……苦しくて……

 

 

「何か暖かい飲み物でももらってこよう」

 

 

そう言って席を立つ……

 

私はうつむけていた顔を上げてジンヤを……立ち上がってドアへと向かっていくジンヤを見つめて……

 

その背中が……もう大きくて……

 

 

 

まるでそのまま……どこかへいってしまうんじゃないかって……そう思ってしまって……

 

 

 

 

「……!? ジンヤ!!!!」

 

 

 

 

だから私は、急いでジンヤの元へと走って……その背に手を添えて……ジンヤの足を止めた……

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

ドアノブに手を掛けたジンヤが止まる……

 

背の高さはほとんど変わらないのに……今私の目の前にある……

 

その背に私は……

 

 

 

 

「…………行かないで…」

 

 

 

 

そう、言った……

 

 

 

 

「行かないでくれ……ジンヤ」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

ジンヤは何も言わずに……ただ無言を返すばかりで……

 

けど、ジンヤの背中が呼吸で膨れあがって……何かを言おうとしているとわかった私は……それを遮るように、声を発した……

 

 

 

 

「……どこか遠くに逃げよう……ムーナがいるから……絶対逃げられる」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「誰もいない……誰も知らない……そんなところへ逃げれば……誰も」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

全てを棄てて逃げる……

 

それがどういう事かわかりきっていた……

 

だけど言わずにはいられなかった……

 

だって……明日こいつが向かおうとしている場所は……本当に死地で……

 

今まで危ない戦いなんて何度もあった……

 

けど、そんなのがかわいく見えるくらいに……今度のは……敵は……

 

だから、私は叶わない……無理だと本当はわかっていた……

 

だけど、言わずにはいられなくて……

 

 

「……フィーア、俺は」

 

 

ジンヤが何かを言おうとしている……

 

それが直感で、私を拒絶する言葉だと……私の願いが崩れ去ってしまう物だとわかって……

 

私はさらに言葉で畳み掛ける……

 

もっとも卑怯な……言葉で……

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が好きなんだ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

最低の言葉だった……

 

今このときに言うなんて……最低の行為だった……

 

でも言わないと……これだけの言葉を重ねないと……

 

行ってしまう……こいつはそういうやつだから……

 

これぐらいの言葉を言わないと……立ち止まってさえくれないから……

 

 

 

 

「……あの蒼リオレウス……あれを討伐しに行ったときに……お前の体の古傷を見た」

 

 

 

 

あの時、洞窟で見た……目の前の体に刻まれた古い傷跡……

 

あれは、想像を絶するような深い傷がいくつもあって……

 

それがジンヤの武器と同じような武器の古傷であると気がついて……

 

私は自分がただこいつに嫉妬しているだけなんだって気がついた……

 

あの絶望的な状況でも全く諦めていなかったあの姿勢が……格好良くて……

 

そしてその後……討伐した後に油断した私の命を救ってくれた……ジンヤに……

 

 

 

 

惚れてしまったんだ……

 

 

 

 

「すごいことだと思う。そんな大きな傷を作るまでに修行をして……そして私では絶対に勝てないようなあの蒼リオレウスを討伐して……私の命を救ってくれた……」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「それからもお前は全てにおいて諦めず、私を……私たちを奮い立たせてくれた……。私を弟子として迎えていろんな事を教えてくれた……」

 

 

 

 

半ば無理矢理弟子になって……それでもこいつは弟子になった私を厳しく鍛えてくれた……

 

武器を作って欲しいと言って、いくつも武器を作ってくれた……

 

今まで手にしたことがないような最高の武器を……

 

本当に色んな事を教えてくれて……

 

そのたびにこいつに惚れ直してきたんだ……

 

一時期、こいつが本当に人間なのかと疑ってしまったことがあったけど……

 

私がそういう目で見ていることをジンヤが気づかないはずだがない……

 

だけどこいつは……それすらも見守って、私が結論を出すのを見守ってくれた……

 

そんな私を受け入れてくれた……ジンヤが……私は……

 

 

 

 

「私は……私は……! お前の事が……好きだ!!!!」

 

 

 

 

恥ずかしかったけど……私は吼えた……

 

こいつに届くように……

 

私の思いが……

 

私の願いが……

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それでも俺は行かなければならない」

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつは……ジンヤは……

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてだ!? お前が行かないといけないなんて……お前を殺すような指示を出しているギルドナイトなんて……放っておけばいいじゃないか!!!! みんな……他の連中のためにお前に死ねって……そう言ってるんだぞ!? なのに……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでも……だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………どうして!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしようもなく……こいつは……ジンヤは……

 

 

 

 

 

 

 

 

「今逃げたら……俺は俺でなくなってしまう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンヤは……ジンヤだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

背を向けたまま……顔を見せないまま……ジンヤは……

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かに強要された訳でもない。誰かのために行くわけでもない……。俺は……俺自身のために、赴くんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……死ぬことになっても……か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「例えそうなっても……死ぬことになっても……俺は……自分から逃げずに……生きていたい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

何も言葉を返すことが出来ない……凄まじい意志の強さだった……

 

他者がなんと言おうと、他者がなんと思おうと、がむしゃらなまでに突き進んできた……

 

 

 

 

ジンヤその物だった……

 

 

 

 

そんなジンヤだから……こんな事が言えるジンヤだから……

 

私は……こいつに惚れたんだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は行く……神域に、己の意志で……。それが……例え…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他者を傷つけることになっても……

 

 

 

 

 

 

 

 

!?

 

 

 

 

それは……決定的な一言で……

 

どうしようもない……拒絶の言葉で……

 

聞きたくなかった……

 

受け入れたくなかった……

 

別の言葉を……聞かせて欲しかった……

 

私と今まで通りに接して……だけど今まで以上の関係で……傍にいて欲しかった……

 

だけど今の言葉は……それを……否定していて……

 

私の手から……ジンヤの服を握っている手から力が抜ける……

 

そして……ジンヤがドアを開けて……行ってしまう……

 

 

 

 

私は……それを見送ることしかできなくて……その場に崩れ落ちた……

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぅ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

目から涙が溢れてきた……

 

何も出来ない自分が悔しくて……

 

止められない自分が悔しくて……

 

ただ泣くことしかできない自分が……悔しくて……

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~~~~~っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

泣いた……

 

何もかも流したくて……

 

自分の醜い感情も……

 

自分の情けない一面も……

 

自分の弱さも……何も出来ない悔しさも……

 

 

 

 

流したくて……

 

 

 

 

けどどんなに涙が流れても……

 

どんなに泣いても、喚いても……

 

 

 

 

胸の痛みは……取れてくれなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が更ける……

 

もはや朝なのか昼なのか……夜なのか……この漆黒の雲に包まれた天気では誰にもそれを知ることは出来ない……

 

ただ皆が一様に恐れ、不安に陥り……ただ祈るしか出来なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

早朝。

相変わらずの漆黒の雲に雷に雪。

そんな中俺とフィーアは一般人が起き出す前に、ムーナのいる家畜小屋へと赴き、ユクモ村へと帰還していた。

相変わらずの空模様で、辟易していたが……それ以上に……俺とフィーアの空気が重かった……。

ちなみに昨夜はムーナがいる家畜小屋で眠りました。

さすがドンドルマ。

家畜小屋も衛生的だったので普通に気持ちよく安眠できました……。

 

 

まぁあまり気分はよくなかったが……

 

 

しょうがない事だろう……。

 

 

何せ一人の女の想いを振ったのだから……

 

 

 

 

……なんと声を掛ければいいのか

 

 

 

 

彼女いない歴=年齢、の俺としてはどう対処していいかわからない。

もちろん冗談を言う雰囲気でもない。

 

 

それ故の……沈黙……。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

「クォルルル?」

 

 

ムーナが心配そうに鳴いていた。

だがそれにも曖昧に返すことしか出来ず……そのままユクモ村へと帰還していた。

 

 

 

 

「……昨夜は」

 

 

「?」

 

 

そんな中、耐え切れなくなったのかどうかはわからないが……フィーアが声を掛けてくる。

その言葉に……重さはなかった。

 

 

「……昨日のことは……その」

 

「……気にするな」

 

「……え?」

 

 

こいつに任せると、どんどん自虐的になりそうだったので、俺は言葉をかぶせて黙らせる。

 

 

「どんなに屈強な力、すばらしい技を身につけて、実力を持っていたとしても、人間というのは弱い物だ」

 

「……」

 

 

昨日フィーアが言っていたことは結構危ない発言だった。

何せギルドナイトなんてどうでもいいと、こんな組織くそ喰らえだと言っていたようなものだから。

感情が高ぶっていたから思わず口に出してしまったんだと思う。

本来であればそんな言葉をいう訳がない。

だから俺は言う……。

 

 

ただ、気にするな……と。

 

 

「昨夜偉そうに物を言ったが……触ってみろ」

 

 

そう言って俺は手綱を握っていない方の手を後ろに差し出す。

直ぐに触れることは出来なかったが、やがて、おずおずといった感じに、フィーアが俺の手へと触って驚いているのが何となくわかった。

俺の手が、微かに震えているからだ。

 

 

「偉そうに言ったが俺だって怖いんだ。だから昨日のお前の行動は、何ら恥じることない」

 

 

煌黒邪神、アルバトリオン。

あの遠くに発せられた黒い靄でさえ凄まじい力を発していたのだ。

怖いはずがない、逃げ出したくもある……。

それが本音の一部だった……。

 

 

「それでいいんだよ」

 

「……怖いことがか?」

 

「そうだ」

 

 

不思議そうに俺に問いかけるフィーアに、俺ははっきりと頷いてみせる。

 

 

昨夜全てを話してくれた……俺に弱さを見せてくれたこいつに……俺は……。

 

 

 

 

「逃げ出したい気持もある、死にたくない気持ちももちろんある。だが……それでも俺は、僅かな勇気を振り絞って……行きたい……」

 

「勇気……か」

 

 

 

 

 

「死ぬのは怖いさ。俺だって……。だがその怖さに耐えて……過ちを、過去を……乗り越えて、それでも俺は前に進んでいきたい……」

 

 

 

 

死なせてしまったあの子……

 

どんなに悔やんでも悔やみきれない……、大切な子だった……

 

だが、それで立ち止まるわけにはいかないのだ……

 

俺は今まで数多くの人を殺してきた……

 

その俺が立ち止まるなど……許されることではない……

 

死ぬことを最後まで諦めない……

 

目の前の現実から逃げないこと……

 

そして……がむしゃらなまでに頑張って生きていくこと……

 

それが、俺に唯一出来るあの子への弔いであり、償いだった……

 

 

 

 

「だから、お前も考えるんだ……。昨夜、自分の弱さを、醜い自分を晒け出せたお前なら……きっと、それを乗り越えていくことが出来る……。何せ……」

 

 

 

 

「?」

 

 

ずるいかもしれない……。

こんなことを言うのは……。

だけど俺は、俺の本心に従って……言った。

 

 

 

 

「俺の、自慢の弟子の一人なんだから」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

背後でフィーアが驚いている気配を感じる。

そして……涙を必死にこらえている気配も……。

だが俺は何も言わなかった……。

これ以上語る言葉はないと……これ以上、お前に渡せる言葉はないと……言外に伝えるために……。

フィーアも分かっているのか……ただ涙ぐむだけで……何も言ってはこなかった……。

この言葉を、フィーアがどう受け取ったのかはわからない。

だが、それでも背後でフィーアの気配と雰囲気が変わったことから……こいつは強い人間であることが伺える。

だからきっと……こいつは何があっても乗り越えていける……頑張って生きていける……。

俺はそう、信じた……。

 

 

 

 

そうして話しているうちに……ムーナがユクモ村へと……到着した。

既に連絡が来ているのか、俺が帰ってきた瞬間に、気球の準備が始められた。

俺は、ムーナをムーナの小屋に戻すと、そっと耳打ちをする。

 

 

「もしも何かあったときは、お前だけが頼りだ。レーファやリーメ、フィーアをよろしくな」

 

「クォ!」

 

 

元気に俺の言葉に返事を出してくれるムーナに礼を言う。

フィーアはギルドナイトとの連絡事項があるといって、すぐに家を出て行った。

居づらいのだろう。

俺はそれを止めず、すぐに行動をする。

まずは武器の点検。

入念な手入れを行い、そして武装を確認する。

とりあえず今回持っていく武器を選択する。

夜月、花月、狩竜はほぼ当然として、次に持っていく物を考える。

一度に触れる武器の数というのは人間である以上、そんなに扱うことはできなのだが、少ないよりはいい……かもしれない。

蒼月、雷月、封龍剣【超絶一門】、水月……そしていくつかのスローイングナイフ。

いつも通りの装備にした。

イロナシや、暁凜丸【覇崩】は、重くなると言うことで留守番してもらうことにした。

アルバトリオンとやらがどんなモンスターかは謎だが……いつも通りで行く方が個人的に気が楽だったからだ。

神域という場所は普通にマグマのまっただ中とはいえ地面が合ったので、普通に闘うことが出来ると思う。

敵が飛ぶことは飛ぶが、常時滞空しているわけではないと、直感が告げているのでそれに従う。

まぁ仮に違ってもどうにかするが……。

しないといけないし、しなければ俺が負けて死ぬことになってしまう。

まだ死ぬわけにはいかないので、死ぬつもりは無かった。

服装は普段着……つまり現実世界での格好だ。

これがもっとも動きやすくて信頼性がある。

まぁズボンが裾の方がずたずたになってしまっているが……。

 

 

「……ジンヤさん」

 

 

そうしていると、俺の家に入ってきた人物がいた。

俺の家には入れるのは少人数しかいない。

そして今の声は間違いなく……。

 

 

「レーファか」

 

 

後ろを振り返ると、縁側から俺のいる部屋、居間へと上がっているレーファがいた。

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

昨日、ギルドナイトの人がガウシカに乗ってやってきて、ジンヤさんが明日……つまり今日、どうするかを知らせに来てくれて……私は心が締め付けられる思いだった。

 

 

たった一人で……行くと言うこと……

 

火山の奥地に……あの有名な神域に……神が住まい、災いが降りかかるという……あの神域に……。

止めたい……止めたいけど……けど……。

 

 

「どうした? こんな朝早くに?」

 

 

振り返ったその姿は……もう既に戦闘準備が終わった後で……止められないと、嫌でもわかってしまって……。

 

 

……だから私は

 

 

「……ねぼすけのレーファが……早起きできるようになったよな」

 

「……え?」

 

 

何の関係もない話を切り出すジンヤさんに……私は面食らってしまった。

だって……そんなこと話してくるなんて……思って無くて。

そんな私を気にせず……ジンヤさんは言葉を続ける。

 

 

「最初はお前の家……リオスさんの家に世話になっていたんだよな……」

 

「……そうですね」

 

 

……何となくだけど、ジンヤさんが何を言いたいのかわかって……私はそのまま会話を続けた。

 

 

「最初はお前を起こしにいけというラーファさんの神経が信じられなかったが、すぐに納得した物だ。あれだけ寝起きが悪かったらな」

 

「……だって朝は眠いじゃないですか」

 

 

それから……いろんな事を話した……。

 

初めてであった時のこと……

 

村に来たときの話……

 

それからの生活で、ジンヤさんに毎朝起こしてもらって、二人で仕事をしていたときのこと……

 

そしてレグルお兄ちゃんがイャンクックに襲われて……ジンヤさんが討伐しに行って……

 

帰ってきたと思ったら怖いくらいに鉄を打って何かを鍛造していたこと……

 

ジンヤさんがハンターになって……リオレウスを討伐したこと……

 

またまた帰ってきたと思ったら……リオレウスの卵を抱えてきて、それが孵ってしまったこと……

 

その卵から孵ったリオレウス、ムーナちゃんのために村の外に家を造ったこと……

 

温泉という……暖かいお湯につかる喜びを教えてくれたこと……

 

村にお店を作って……それが大繁盛したこと……

 

渓流に異変が起きて……それの調査に行ったこと……

 

その後フィーお姉ちゃんがギルドナイトの隊長さんと一緒に、ジンヤさんの家にやってきてギルドナイトに入隊して……

 

ギルドナイトに入隊して、すぐに蒼リオレウスと闘って大けがしたこと……

 

ムーナちゃんをほしがる人が、レミルちゃんを誘拐して……それに起こったジンヤさんがドンドルマの貴族の邸宅に行って大暴れしたこと……

 

その罰で、一ヶ月間ドンドルマで生活をしたこと……

 

伝説の存在……ラオシャンロンが出現して……それを討伐したこと……

 

お父さんと一緒になって……ジンヤさんの武器を元にした新しい武器を作ったこと……

 

私の我が侭で、一日だけハンターになって……ジンヤさんに迷惑を掛けて……ジンヤさんが大けがを負ってしまったこと……

 

桜火竜に助けてもらって……ジンヤさんに告白したこと……

 

ジンヤさんが……はじめてジンヤさんの過去を聞かせてくれたこと……

 

それでも私はジンヤさんが好きだって……互いに大切な約束をしたこと……

 

それからほとんどジンヤさんは一人でクエストに行ってしまうようになったから……私はよくわからないけど……

 

雪山に行って……帰ってきたらギルドナイトでも栄誉な天地狩猟ノ覇紋を送られてきて……きょとんとしてた……

 

火山の調査に行って……帰ってきた次の日に、ドンドルマにテオテスカトルが襲撃してきて、それの討伐に行って……

 

夜にこそこそとムーナちゃんと一緒にどこかに行こうとしているのを見送ったり……

 

そして帰ってきたと思ったら、またどこかに行って古びた鉄の板を拾ってきて……

 

そして嵐龍が表れて……

 

 

そして今に至る……。

 

 

いつも忙しそうに走り回っていて……どんなところにでも向かっていって……

 

そんなジンヤさんの無事を祈っていた……

 

 

思い返せばきりがないほどに……思い出がたくさんあった。

 

 

この半年間で……本当に、今までの人生が霞んでしまうくらいの……大切な思い出……。

 

 

「帰ってきますよね?」

 

 

だからこそ不安だった……

 

ジンヤさんだったら帰ってきてくれるってそう信じたいけど……

 

けど今回挑むのは……そんな簡単な相手じゃなくって……

 

普通に考えたら神様に挑むなんて……考えることだってできない……

 

天候を操ることの出来るモンスター相手に……どう闘うのかなんて私にはわからない……

 

けどジンヤさんなら出来るって思ってしまう……

 

けど……それでも不安はぬぐえなくて……

 

だから聞いてしまった……笑顔……とは言えないかもしれない……

 

けど、頑張って見送ろうと決めたのに……引き留めてしまいそうで……

 

そんな私にジンヤさんは近づいてきて……私の頭を優しく撫でてくれた……

 

 

 

 

「約束しよう……。絶対に帰ってくるって……。ここに……お前が、レーファが……待ってくれているこの家に……」

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 

その一言で思わず涙が溢れそうになってしまった……

 

本当は引き留めたい……行かないでって言いたかった……

 

でも……止めたって聞いてくれる人じゃないってわかってるから……

 

約束を破らない人って……わかってるから……

 

だから私は何とか涙をこらえて……満面の笑みを浮かべて、ジンヤさんを見つめた……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい、待ってますね。ジンヤさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

なるべく自然な笑顔になるように……心がけて、笑った……

 

その私の言葉に、ジンヤさんははっきりと……頷いてくれた……。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

本当に出来た子だ……

 

 

レーファとユクモ村の裏門へと向かいながら、俺は内心で驚いていた。

俺を信じ切った、複雑な思いを秘めながらも、浮かべたその笑顔は……本当に綺麗だった。

俺とレーファは並んで、普段通りに歩く。

そして呼ばれた場所が俺の店、「和食屋」だったのでそちらへ行くと……。

 

 

「お、来たか」

 

 

結構な人数が集まっていた。

ユクモ村のハンター、そして有志で残っている人々、フィーアにギルドナイトの面々。

みんな見知った顔だった。

 

 

「……ジンヤ」

 

 

そんな全員を代表してか、フィーアが俺に歩み寄ってきた。

そして差し出される……手ぬぐい……。

 

 

「お守り……みたいな物だ。受け取って欲しい。みんなの言葉も入っている。お前は字が読めないからどうするか悩んだのだが……それでもみんなで何かを送りたいと言うことになって……」

 

「……わかった。ありがたく頂戴しよう」

 

 

確かに俺は字が読めなかったが、それでもこの気遣いはありがたかった。

それを素直に受け取り、そして促されて席に着く。

するとキッチンアイルー達が、次々に食卓へと料理を運んできた。

 

 

「店長さんのために、腕によりを掛けて作ったニャ!」

 

「たくさん食べて英気を養って欲しいニャ!」

 

 

この店の店長のグラハムとジャスパーが、胸を張ってふんぞり返りながら、そう言ってくる。

俺だけでなくこの場にいる全員の分を作ったのか、相当な量だった。

そして量だけでなく、味も抜群だった。

間違いなく、和食を結構なレベルで極めていた……。

 

 

「……帰ってきてニャ、店長」

 

「もっと旦那さんにいろんなこと教わりたいニャ……」

 

「帰ってくるよ。それと店長な」

 

「ニャ!? 申し訳ないニャ!」

 

 

それに皆が笑い、暖かい食事を食べて……ついに……出陣の時が来た。

 

 

 

 

 

 

「……乗ってください」

 

 

今回、飛行禁止区域の神域に行くと言うことで、気球を操作する人間も緊張していた。

墜落死するかもしれないことを考えると、しょうがないのだろうが。

他にも何人か、乗っていた。

見届けるためなのかもしれない……。

 

 

仕事のために命を賭けるか……

 

 

実にご苦労なことである。

まぁ死骸がまた消えるかもしれないことを考えるとそうせざるを得ないのだろうが。

そして意外なことにそのメンバーに。

 

 

「私も今回は同行することになった。よろしくな」

 

 

ディリートがいた。

ハンターとして乗っているのはディリートだけだった。

まぁ別に邪魔をすることはないだろうから素直に頷いておく。

そして俺は体力気力ともに、十全な状況で……出撃した。

 

 

「んじゃ、行ってくるわ」

 

「ジンヤ君……なんと言えばいいかわからないが……頑張ってな。帰ってくるんだぞ」

 

「もちろんですリオスさん。まだ死ぬつもりはありませんよ」

 

「ジンヤさん……頑張ってください! 僕は何も出来ないけど……応援してますから」

 

「ありがとよリーメ。雷が降ってくるかもしれないから気をつけろよ」

 

「……帰ってこい」

 

「……あぁ。フィーア」

 

 

皆に挨拶を交わし……気球に乗り込もうとしたときに……レーファが歩み寄ってきた。

 

 

「いつものように……祈ってますね」

 

 

朗らかな笑顔で……そう言ってくれた……

 

だから俺も普段通りに笑いかけた……

 

 

「あぁ。行ってくる」

 

 

 

こうして気球は飛び立った……。

俺と幾人かの人間を乗せて……。

だが気球は無言だった。

誰も話す気配もなく、そして俺も誰かに話しかけようとは思わなかった……。

 

 

だが……一人だけ……

 

 

「……どういえばいいのかわからない。だが……生きて帰ってこい」

 

 

ディリートだけは……静かにそう言ってくれた。

 

 

「あぁ」

 

 

だから俺も一言だけ帰しておく……。

 

 

そして……決戦の地、神域へと……たどり着いた。

 

 

 

 

 

 

カッ ゴロゴロゴロ

 

 

さすがこの天気の原因が住まう場所……すげぇ状況だな

 

 

正に地獄絵図というか……すごい光景だった。

 

 

火山の奥地……相当な熱があるはずであるにもかかわらず、そこには凄まじいほどの巨大さを誇る氷柱がいくつも生えていた……。

マグマが滾るその大地でだ……。

それだけでただの氷柱でないことは一目瞭然だった。

さらに螺旋状の炎……炎柱も同様にいくつもあった。

まだ雷雲はひっきりなしに鳴いており、とてもではないが気球が近寄れる物ではなかった。

そのためこの気球も、神域よりも少し遠くの場所で待機していた。

 

 

「ど、どうします?」

 

 

気球の操舵士もどうするか考えあぐねているようだった。

他の連中も同様だ。

だが……ディリートは違った。

 

 

「……行ってくれ」

 

 

その言葉は、若干の震えを有しながらも、毅然と行っていた。

 

 

それに俺は甘えさせてもらって、神域の……溶岩に包まれ、所々で溶岩が猛る場所へと、気球から飛び降りる。

 

 

 

 

フワッ

 

 

 

 

地面へと着地する直前……俺は「鋼殻の守り」を使用し、下から吹き上がった風に吹かれて、静かに着地した。

 

 

……威力が上がった?

 

 

その時感じた違和感。

威力というか……風が吹き上がってくる力が上がっているように思えた。

否、それどころか……俺は……空を……

 

 

 

 

【見物だな。よもや風翔龍の力をもう使いこなしていようとは……】

 

 

 

 

その俺に話しかけてくる……何か……。

俺はその方向へと、ゆっくりと振り向いた。

マグマが滝のように流れ落ちてくる、高台……その上に……いた。

 

 

 

 

【人間は人間らしく、多種多様な力を使わなければ飛ぶことすらもままならんか】

 

 

 

 

「あいにく翼は生えていないんでな。弱い人間だ俺は」

 

 

 

 

敵の言葉に俺は皮肉げに返す。

そんな俺を、敵は見下して笑っていた。

 

 

 

 

【ふん、まぁ所詮は人間よな】

 

「あぁ、俺は人間だよ。どうしようもないくらいに人間だ」

 

 

 

 

そんな言葉を交わしながらも、互いに気と魔を練り上げていく。

俺は最初から全開で行くために、龍刀【朧火】を狩竜に顕現させる。

そして敵は……この地に満ちた魔を……雷、マグマ、氷の柱……その全てから力を吸収している。

そしてその体に……幾重もの螺旋状の炎、青白く光る雷、そして凍てつく空気を纏っていた。

 

 

 

 

間違いなく……最強の敵だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【我は煌黒邪神アルバトリオン。貴様を喰らい、天を掴む者なり】

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の名は鉄刃夜。鉄の錬鉄者にして……煌黒邪神、アルバトリオンを討つ者なり」

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに、互いを殺す宣言を交わす……

 

 

 

 

そして……同時に吼えた……

 

 

 

 

【死ぬがいい、人間】

 

 

 

 

「滅びろ……邪神龍」

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに……この大陸の命運を賭けた……最後の戦いが、幕を開けた……。

 

 

 

 




ようやくラスボス戦開幕!
さぁどうなるどうなる!


俺の執筆もどうなるどうなるw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。