リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語? 作:刀馬鹿
人は何かを願い、それを叶えるために奔走する……
足掻いて、藻掻いて……
それでもなお届かなかったその願いはどこへ行く?
届いたその願いはさらにその先へと行き……どこへ向かっていくというのか?
異次元より引き出し……引き出し続けている、漆黒の穢れた魔を纏って、煌黒邪神アルバトリオンが俺へとその力を使役しながら突進する……
天を貫かんと、憎念と混ざり合ったその角が、激しく明滅している……
白と……漆黒に……
漆黒は己を包むその色……
だがその白は?
【■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!】
だがそれを考えている余裕はない……
敵は間違いなく全力を持って俺を殺しにかかってきている……
ならば俺も全力を持って相手せねば勝てそうにない……
だから俺も……
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」
様々な想いを込めた……その咆吼……
互いに互いの全力を込めたその慟哭……
そしてそれに呼応するかのように、互いを包む、正と負の力が共鳴する……
漆黒の稲妻で自らを加速し、敵がその巨大な角を俺へと向けて突進す……
俺はそれに迎え撃つために、ありったけの気と魔を込めた、狩竜と龍刀【劫火】で斬りかかる……
激突……
辺りを……地上その物を揺るがしかねないその激突は……一瞬の拮抗の後……
俺を吹き飛ばした……
「ぐっ!?」
異次元の無限ともいえる憎念を纏ったために、出力が膨大に膨れあがっているのだ……
地上全ての命の力を預かる俺をいとも容易く吹き飛ばし、さらにそれだけでは終わらない……
【■■■■■■■■■■!!!!】
咆吼……
その凄絶な咆吼につられるように、足場の地面がいくつも岩となって浮き上がり、俺へと飛来する……
漆黒の稲妻と、穢れし魔を内包して……
「はぁっ!!!!」
慌てることなく、吹き飛ばされて宙に浮いたまま、俺は両手に持った野太刀を振るい、敵の岩を吹き飛ばす……
だがそれだけでは終わらない……
漆黒の穢れし魔に包れ、内包した炎が、雷が、氷が……そして憎念その物の黒き魔が……
一斉に俺へと襲ってくる……
「ちっ!?」
さすがにこれだけの数と種類が襲ってきては、いかな野太刀二刀流とはいえ、そう簡単に捌ける物ではなかった……
軽く四桁はありそうだった……
荒天の力「風雲の羽衣」を使用し、吹き飛ばされた勢いも利用しながら、徐々に後退してどうにか敵の攻撃を捌ききるが……
それで終わるわけもない……
再度敵が漆黒を纏って、俺へと超速度で突進してくる……
雷の電磁
風の風圧
炎の爆発
今まで戦ってきた速度に優れた敵の加速方法を全て用い、さらにその穢れた魔によってブーストが掛けられている……
その速度はもはや……
音速ですら生ぬるい……それほどの速度を持ち得ていた……
光にはさすがに届かないだろうが……間違いなく最強の速度に達したその速さは……
漆黒の光となりて、俺を襲う……
「!?」
俺は狩竜と龍刀【劫火】を交差させて、その衝撃を受け止めた……
だが受け止めきれず、俺は後方にあった山へと吹き飛ばされ、山のその岩壁へとめりこんだ……
「がはっ!?」
あまりの衝撃に、気と魔の防護を突き抜けて、俺の体を叩く……
口から赤い血を吐き出す……
意識が飛びそうになって、視界が真っ白になったが、どうにか気絶しないように己自身に活を入れる……
俺は血を右腕で拭い……岩壁から体を起こした……
なんて、威力だ……
究極の魔で極限まで強化されたこの俺を、ここまで吹き飛ばす力というのは凄まじいものだった……
何せこの世のありとあらゆる命の力を預かる俺を吹き飛ばしたのだ……
生半可な力ではない……
いや、それも当然か……
こちらがありとあらゆる命の力と言うのならば、敵はありとあらゆる負の力を持ち得ているのだ……
それを全て解放し、身に纏えば当然恐ろしいことになる……
今の攻撃の威力にも納得がいくという物だ……
対して俺は、命の力、魔によって保護された人間だ……
魔を全面開放せず、身に纏うことによって相応の力を得ているが、全面開放には叶わない……
かするどころか、衝撃波でさえも死ぬかもしれないが……
このままではジリ貧になってしまう……
敵は全ての力を解放している……
それを相殺、ないし上回るには……
一つしかない……
俺も全てを解放しよう!
覚悟を決めて、俺は立ち上がり、再度「風雲の羽衣」を形成……
そして龍刀【劫火】を天へと突き上げる……
「解放せよ……」
その力を……解放する……
「龍刀【劫火】よ……」
この世に生きる、全ての生命が預けてくれた……この力を……
俺の想いに応え、龍刀【劫火】が抑えていた、魔の力を全て解き放った……
暗雲を貫く程度では収まらず、ここら一帯の雲を全て吹き飛ばす……
雲だけではない……
敵の穢れし魔さえも、唸りを上げて畏怖するほどの、眩い光……
そして解放されたその力を、俺は身に纏った……
頼みました……
お願い……
頼んだぞ……
森羅万象……
ありとあらゆる存在の思念が俺へとなだれ込んでくる……
膨大な……それこそ星の数ほどありそうなその思念を浴びて、一瞬脳が焼き切れそうになるが……それに耐え、俺は全ての想いを……胸の内に秘めて再度、双刀を構える……
「……ゆくぞ」
【よかろう……参るぞ! 人間よ!!!!!】
神域より俺を睨む敵が、再度身を低くし、突進の構えを取る……
しかもそれだけでは飽きたらず、穢れし魔が敵の周囲にいくつも集まり、それが徐々に形をなす……
それが出来たとき……
敵が増えた……
「……ほう」
増えたと言っても何もアルバトリオンが増えたわけではない……
アルバトリオンの形をした黒い漆黒の穢れし魔で形成された、形だけの分身が出来ただけだ……
そして、本体……煌黒邪神アルバトリオンではなく、先にそのいくつも出来たその黒い分身が、俺へと迫る……
それを見て、俺もそれに負けないように虚空を駆ける……
本体ほどではないにしろ、その分身は凄まじい速度を誇っていた……
それがまるで大砲のように俺へと迫り、俺を貫き、破砕せんと迫る……
「風雲の羽衣」によって飛んでいる俺は、迫ったそれを、問答無用に狩竜で……
もしくは龍刀【劫火】で……
敵の憎念によって形成された分身の龍を、俺は二つの刀で食い破る!!!!!
薙ぎ払い、突き刺し、打ち下ろし……
ありとあらゆる斬撃を用いて、俺は敵の分身を吹き飛ばしながら進む……
そして最後の一帯を滅ぼし、先へと進もうとしたその目の前に……
幾千、幾億もの矢が……存在し、俺へと飛来した……
雷…… 炎…… 氷……
そして、穢れし魔……
それらによって形成されたそれを……俺は左手の龍刀【劫火】で問答無用に薙ぎ払う!!!!!
「オォォォォォォ!!!!!」
左手の龍刀【劫火】から溢れ出している、魔が……
飛来してきたその全ての矢の魔を吹き飛ばし……
全て霧散させた……
【ちぃっ!】
「だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
敵の矢を全て吹き飛ばし、その勢いのままに敵へと斬りかかるが……それはあっけなく躱されてしまう……
薙ぎ払いを行ったことで僅かながらも俺の突進の速度が落ちたからだろう……
俺は宙に浮いたまま振り返り、再度敵と正面から対峙する……
「その程度の攻撃が効くものか!!!! 俺を殺すのならば小細工ではなく、全力でかかってこい!!!!」
荒く息を吐きながら、俺はそう吼える……
龍刀【劫火】に秘められていた力を全解放したことにより、先ほどの究極の状態ともいえたあの時よりもさらに強力な力を、俺は身に纏っていた……
だがいくら命が俺に全てを預けてくれていると言っても、それら全てをこのちっぽけな人間の身で受け止めきることは出来なかった……
常に刃魔解放をしているような状態だ……
飛びそうになる意識を何とかつなぎ止めて、俺は敵を睨む……
だがそれは敵も同様だった……
【ぐ……きさまぁ!!!!!】
自らが浴びしその憎念が、敵の体を締め上げているのを感じる……
中で内包されて自我を保つことと、その全てを操り、身に纏うのでは、天と地ほど、負荷に差がある……
その証拠に、敵も苦しいのか、必死に抑えているのがわかるが、その口より、赤き血が垂れている……
どちらも命を削りあいながら、攻撃を行っていた……
【あの負の空間を食い破り、そしてあの膨大な数の負を纏い、使役する私に……ここまで食らいつくか!!!!????】
「……お前に理由があるように……俺にも引けない理由があるんだよ!!!!」
命を預けてくれる……森羅万象の命達……
そして俺を信じてくれている……親しき人間達……
俺が造った酒を、うまいと言いながら飲んだくれていた小柄な老人……
最初こそ反発し合ったが、それでも俺を信じてくれたあの男……
異人とも言えた俺を、迎え入れ、工房を貸してくれた……あの人が……
俺を好きだと言い……俺のことをもっとも考えてくれた、あの女が……
それに何より……俺を前へと進ませてくれた少女……
そして……
【……人間ごときに、我が願いの邪魔はさせん!!!!】
だが敵もただでは引かない……
あの空間に食いつぶされることもなく、逆にその憎念を吸収し、長い長い、遙かなる時を経て蘇ったその願いは、そう簡単に潰せる物ではないだろう……
その身に纏っていた憎念……
そしてその穴より溢れ続ける憎念を使役し、俺へと飛ばしてくる……
数は不明……
数える気にもならない……
俺はそれを双刀を持って撃ち落としながら、徐々に徐々に……敵へと近づいていく……
そして全てを打ち払ったその先に……
【受けるがいい!!!! 気と魔、そして穢れし魔を、憎念を練り上げたこのブレスを!!!!】
敵の角よりあふれ出ている、白と黒の光が混じり合う……
そして漆黒の穢れし魔を帯びて、それが口内から俺へと……放たれた……
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敵の放たれたブレスより、あふれ出す……怨念……負の感情……
それを気と魔で圧縮し、全てを……
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あの時受けた……否それ以上の憎悪が俺へと襲いかかってくる……
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「っ!?」
一瞬……心によぎった憎念の恐怖……
今の俺に……全ての命を預かり、刃魔解放を常にし続けている俺に恐怖を抱かせるほどの……攻撃……
認めなければならなかった……
神は神でも……眼前の敵、煌黒邪神アルバトリオンは……
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最強の存在であったと……
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回避を!?
そう思うが、それをすることが出来そうにない……
突っ込んでいる最中だったのだ……
とてもではないが、今から回避を行えるとは思えない……
受ければ……確実に死ぬ……
刃魔解放すらも行っている俺を、呪い殺せるだけの究極の魔……
これを浴びれば、俺の自我など……
塵に等しい……
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願い……
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その時、俺の胸中に宿った……言葉……
この空間を……生き抜いた敵の言葉……
願い……
何故、俺はここへきたのか?
皆を救うため?
命を救うため?
逃げないため?
生きるため?
死ぬため?
約束を……守るため?
様々な思いが俺の中で駆けめぐっていく……
それでも消えない願い……
それは……
俺の原点……
この世界にきてから常に願い続けた……
想い……
そうか……
俺はそれを把握したその瞬間……
双刀を逆手に持ち、前面へと突き出してそれを真っ正面から受け止めた……
耳ではなく、心に響く轟音……
両手にかかる負荷は並大抵の物ではなく……
また心を覆いつくさんとする敵の攻撃は、激しく俺の心を……魂を揺さぶった……
だが……
それでも……
揺るがない願いがある……
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オォォォォォォォォォォ!!!!
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心からの叫び……
憎念に負けないように……
貴様らの怨みに負けない……
一点の曇りもない俺の願い……
それを胸に掲げて、それをしのぐ……
【!? な、何だと!?】
憎念が通り過ぎた、それと同時に見えてくる、敵が驚愕しているその姿……
俺の全身を気怠げな疲労が襲っていたが……それも直ぐに魔によって回復する……
そしてその時……俺の体が軽くなった気がした……
これは?
今まで俺を圧迫し続けていた魔が、魔を解放した俺にかかっていた重圧が消えた……
まるで素直になった俺を褒めるかのように……
それを確認して……そして、俺は敵を見据えた……
「なるほど……そう言うことか……」
【貴様……何がなるほどだと?】
俺の言葉に、敵が疑問を投げかけてくる……
俺はそれに一旦構えを解いて、応えた……
「俺も貴様も一人ではない……。俺には魔が、貴様には憎念が力を貸してくれている」
命の力、魔力……
穢れし憎念の力……穢れし魔……
相反する二つの力を互いに俺たちは持ち得ていた……
それによる戦闘……
互いに全力を持っての攻撃……
だが今俺は……余裕が出来ていた……
敵は未だに、その全てを解放した憎念によって身を焦がし続けているというのに……
先ほどまでは俺もそうだったが、しかし今は違う……
何を望み、何を得るのか?
それを明確化したことによって、俺は自身の魔を、そして敵の憎念すらも退けている……
それに何より……
「お前はその力を利用しているが、俺は違う! 俺は様々な力に協力してもらい、そして俺を支えてくれている人間がいるからこそ、こうして立っていられる!!!!!」
命が俺に与えてくれた力……
俺の目を覚まさせてくれた、俺を信じてくれている人間……
敵のはただ利用するだけだが、俺は大きな力の協力の下立っている……
一人だが……しかし一人きりでは決してない……
それが俺と敵の、明確な差……
【ば、馬鹿な!?】
「……」
【それだけであの憎念がどうにか出来るわけがない!!!! あの憎念を……あれほどの魔を放ったというのに……貴様何故生きている!?】
「……お前と同じ事をしたまでだ」
【……何?】
「憎念をもしのぐ……純粋な願い……。誰にも変えられない……、変えるつもりもないその願いを、俺は再認識しただけだ……」
あの憎念を破るのはただ一つ……
あの憎念にも食いつぶされない自我を保つためには、己の一番の想いを胸に抱けばいいのだ……
かつて敵がそうしたように……
【我が願いを超える願いだと……馬鹿な! あり得ん!!!! たかが人間ごときが!!!!】
やけくそなのか、無駄だと知りながら、敵が俺へと憎念で攻撃してくる……
俺はそれを、双刀で……
右手に持った狩竜で……
左手に持った龍刀【劫火】で……
捌きながら敵へと近づいていく……
突進していく……
「オォォォォォ!」
そして全ての憎念を切り払い、俺は敵の頭部へと、両手の野太刀を一斉に振り下ろした……
音が、響いた……
敵の角が、砕ける音が……
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【■■■■■■■■■■!!!!】
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絶叫……
敵の悲鳴がこの神域だけでなく、大陸中を揺るがした……
俺はそれを背に浴びつつ、敵の背後へと着地……
ゆっくりと敵へと振り向いた……
【ば、馬鹿な!? 我が角が!? 我の力が!? 貴様に……人間ごときに!!!!!】
「荒天神龍にも言ってやったが……余り人間を舐めるなよ?」
俺は狩竜を敵へと向けながらそう言う……
だがそれで敵が納得するわけもなく……
だが敵がその角で、穢れし魔を操っているのは明白だった……
その角が折られた今、勝敗は決したと言っていい……
【負けるというのか!? この私が!?】
だがそれで諦められる物ではないのだろう……
敵は凄絶に吼えながら、残った力で俺へと攻撃を仕掛けてくる……
【我は欲した! 天の上を! 天の下を! 天も地も!!!! 全ての生命を、全ての存在を!!!!! それを貴様……貴様ごとき人間にこの我が!!!!】
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「はっ。強欲だな」
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その敵に対して語る言葉は多くない……
「お前の願いと違い、俺が願うのはただ一つ!!!!!」
【うるさい! 消えよ人間!!!!!】
角の折れた敵のどこにそれほどの力があるのか……
敵は再度その穢れし魔を圧縮したブレスを俺に向かって放ってくる……
だが俺はそれすらもすでに効かない……
目を背けることは出来ないのだ……
人間である以上……
感情がある以上……
負とは邪であると同時に、願いでもある……
何故人はそれほどまでに負を抱くのか?
何故人は人を殺してまでその負のままに行動するのか?
負
それは人間が背負うべき業……
願いともとれるその負という感情を、抱かずに人間は生きることは出来ない……
だが全てが負で支配されているわけでもない……
正と負
陰と陽
その二つの……相反する感情という力を抱いて人間は生きているのだ……
負を憎むことは出来ない……
それは人間その物を憎むことに相違ないからだ……
だから……否定せず、目を背けず……受け入れて生きていく……
俺はちっぽけな人間だ……
どうしようもないくらいに人間だ……
だから俺は負を受け入れる……
その醜い感情に身を晒す……
すると、身を焦がすはずのその負の憎念は……俺をすり抜けていく……
それが効かないとわかると、敵はさらに魔を形成し攻撃をする……
穢れし魔で生み出した、炎で、雷で、氷で……
俺はそれを切り払いながら進んでいく……
「俺は」
敵が放った氷を、俺は狩竜で一刀両断する……
「ただ……」
炎を、雷を……左手の龍刀【劫火】で魔を切り裂き、無効化する……
全ての攻撃を捌き、敵がさらに攻撃をしようと魔を放つ……
それをする前に……俺は全力で……全速で……突進する……
俺の純粋な願いを……俺という人間を表す気を纏わせて……俺は振りかぶった狩竜を敵の胸部へと向ける……
そして……俺の願いを口にする……
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「家に帰りたいだけだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
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その思いを乗せて狩竜が……敵の胸部へと深く突き刺さる……
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レーファの告白すらも断った、俺……
その俺が抱く、この世界にきてから今でも変わらない……純粋な願い……
罪を償う……いや、建前であり本音でもある……そんな副次的な願いなどどうでも言い……
俺は俺の故郷たるあの家に帰ること……
ただそれだけが、俺がもっとも望む願い……
「虚仮の一念岩をも通す……お前の全てを欲する願いよりも、俺のたった一つの願いが上回った……」
【ぐ、ガァ、ア、ガァ……】
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「それだけの話だ……」
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敵は何も言い返さない……
言い返すことが出来ないのか……
俺は宙に浮いたまま、右手を狩竜ごと鋭く突き込んだまま止まっていた……
役目を終えたと感じたのか、左手の龍刀【劫火】が紫の粒子となって霧散し、俺の左手から消えた……
先ほどまであった確かなその感触を、俺は心に刻みつつ、命へと感謝した……
ありがとう……
感謝してもしたりない……
全ての命の想いを……重さを……
俺は生涯忘れることはないだろう……
そして敵にも変化が訪れる……
敵の体が、霧散した……
漆黒と赫い粒子となって……
そしてそれは宙に霧散して消滅せず、まるで引き寄せられるように、狩竜へと吸い込まれていく……
これは?
俺の胸中に宿った疑問に答えてくれる存在はいない……
俺が疑問に思っていたその間も、それは狩竜へと吸い込まれていき……やがて全ての粒子が狩竜へと吸い込まれた……
吸い込まれた中心……そこにあるのは赤黒い刀身と化した……狩竜だった……
「……これは一体?」
見た目が変わったというのに、これには何も感じられない……不気味なほどに……。
刀身に触れてみようとしたその時……神域に異変が起きた。
「むっ?」
突如として起こった揺れ。
神域にあった力が消えて、神域が崩れ去ろうとしているのがなんとなく理解できた。
だが、俺はそれを理解しても。
動けなかった……
「ぐっ」
何とか狩竜を鞘に収める、散っている俺の武器を回収することだけは出来たのだが、とてもこの崩壊から逃れることが出来るほどの活動は出来ない……それだけだった……。
今の俺に、この神域から逃げ出すだけの力は無かった。
「ちっ。まずいな」
命の危機に瀕した。
全ての力を出し尽くした。
だからこそ体がいうことを効かないのは当然のことだった。
だが恐怖はない……
何故か?
答えは……明白だった……
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「ゴァァァァァァァ!!!!」
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魂を揺さぶる……咆哮……
それが聞こえたほうへと目を向ける……するとそこには……
漆黒の雲に日が遮られて、薄暗いその中で、燦然と輝く……それこそ太陽のように燦めく、銀の鱗の竜……
それが俺のそばへと着地する……
「ムーナ」
俺はその竜の名を呼んだ……。
そしてその俺の呼びかけに応えて、竜が俺に甘えてくる。
「クォルルルル」
「すまない、助かった。頼んでいいか?」
「ゴアァァァァ!」
俺のその願いに応え、ムーナがたたんでいた翼を雄々しくはためかせる。
俺はムーナの背に乗り、神域から飛翔する……。
その瞬間に崩れる、神域……
まるで俺が去るのを待っていたかのように……
そんな俺に差し込む……光……
暗雲が一部晴れ、そこから光が漏れて、俺を照らしていた……
それに伴い、徐々に晴れていく漆黒の雲……
暗雲の雲が晴れていくことで、俺は漸く敵を倒し、無事生き残れたという実感を得ることが出来た……。
「……終わった」
俺は一言だけ……そう呟いていた……。
――――――――――――
こうして、世界を未曾有の危機に陥れた煌黒邪神アルバトリオンは討伐された……
一人の男、異世界の男によって……
そして、幕を閉じようとしている……
一人の男の……物語が……
次章 第五部 第十一話
「終わり」