リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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ついに終わり!!!!

長かった……長かった戦いにようやく終止符が打たれる!!!!








終わり

~レーファ~

 

 

あの日……ジンヤさんが神域へと飛び立ってから早数日が過ぎた……。

その日、ジンヤさんが神域へと、煌黒邪神アルバトリオンを討伐して、大陸がいつものように日が差し、そして平和が戻った……。

 

 

というわけにはいかなかった……。

 

 

荒天神龍による天候操作での日光不足。

ユクモ村近辺はそれだけではなく、水の増大で自然環境がめちゃくちゃになってしまった。

そしてその次に煌黒邪神アルバトリオンの出現による、完全な日光不足。

期間が短かったけど、雷が、それに……大陸全土に雪が降ってしまったのだ。

普段降らないような箇所……砂漠や火山でも……。

それによって生態系がひどくダメージを受けてしまっている。

そしてそれによる……食糧不足。

ほとんどの作物がだめになってしまい、今まで収穫されていた食料しか残されていない。

どの村にもそこそこの備蓄量は合ったけど……とてもではないけどそれで全てがまかなえるわけがなかった。

まだ暴動は起きてないけど、それも時間の問題だっていわれてて……。

 

 

そして、ジンヤさんの存在

 

 

ジンヤさんが活躍しだした噂が流れ、それから出てきた古龍種達。

普段なら、こんな至高に行き着くはずがないんだけど、極限状態のこの状況では、ある意味で必然だった……。

 

 

あの男が古龍をおびき寄せたのだと……

 

 

ドンドルマや主要都市ではそういったうわさが流れていた。

ギルドナイトで活躍してしばらくして古龍種、ラオシャンロンが出現。

少し経ってからドンドルマにテオテスカトルが……。

それからどんどんと神、アカムトルムが出現して、荒天神龍アマツマガツチ。

 

 

そして煌黒邪神 アルバトリオン……

 

 

どれも伝説なんて言う言葉では収まりきらないほどのモンスターが出現してしまって……。

非公式だけど、他にも古龍種を狩猟してジンヤさんはしていて……。

そのジンヤさんに憎しみの矛先が向いてしまっていた。

本当は大陸を救ってくれたジンヤさんに、感謝しないといけないって言うのに……。

だけど、そんな余裕が今無い。

日に日に食料が減っていき、みんな不安に感じているんだ。

だから誰もが知っている存在が憎まれてしまった。

 

 

そして、それだけでは終わらなかった……。

 

 

以前からジンヤさんを危険視していた団体が合って、その団体が今、行動を起こすかもしれないと、フィーお姉ちゃんが言っていた。

以前から活動を行っていた非公式な組織で、余りにも強すぎるジンヤさんが人間ではなく、怪物であると言って回っている団体だった。

今までは活動を抑えることが出来ていたんだけど、この状況ではギルドナイトでも抑えきることが出来ないみたいで。

さらに悪いことに、ジンヤさんのそばにいる、伝説の存在……。

 

 

リオレウス稀少種 銀リオレウス

 

 

ムーナちゃんも問題になっていた。

ムーナちゃんが銀色になったのは、アカムトルムを討伐してから。

その時にはすでに貴族達は、出現したアカムトルムに恐れをなして、ドンドルマから遠くの国へと逃げていたのだ。

そしてそれから荒天神龍や、煌黒邪神がいたために、まだムーナちゃんの存在に目がいくことはなかったんだけど……。

今全ての問題が解決してしまい、さらにジンヤさんを目の敵にしている組織がいて……。

何でも貴族とその団体が手を組んで、ジンヤさんの討伐と、ムーナちゃんの捕獲作戦を画策しているとか……。

あまりの身勝手さに私は思わず叫びたくなるけど、でもそれほどまでにジンヤさんの存在と、ムーナちゃんの存在というのは、無視できない物となっているのだ。

ジンヤさんを直に知っている人間ならわかる。

ジンヤさんが決してその力を悪事に使うような人じゃないって……。

だけど知らない人にとっては恐怖の対象でしか無くって。

また銀リオレウスであるムーナちゃんはハンターだけじゃなく、貴族達も喉から手が出るほど欲しい物だった。

何せ銀レウスというのは、古龍種と同等……実際に存在していたことが確認されていたのでそれ以上の存在感があり、また価値があった。

それこそ一枚の鱗で、リオレウスの紅玉以上に価値があるって……。

 

 

だから今ユクモ村は危機に瀕している……

 

 

と誰もが予想していた。

だけど実際は今、ユクモ村は警戒をしつつ、村の復興を急いでいた。

警戒を厳重にしているけど、今のところ異常なことはなく、復興を行えていた。

実際、何度かユクモ村に攻め込もうと、団体と貴族達は下っ端に発破を掛けたみたい。

だけど、下の人たちは動かなかった……。

 

 

相手があまりにも、恐ろしかったから……

 

 

神を二匹も討伐したジンヤさんは、もはやいろいろな意味で人間と認識されていなかった。

誰もが見たあの異常気象を招いていた存在を討ち滅ぼしたと言うのは、それだけで恐怖になる。

またジンヤさん自身の腕前を、多くのギルドナイト隊員や、ドンドルマの住民が見ているので、誰も行動を起こせなかったのだ。

それだけならまだ明るい話で済むけど……。

 

 

そう考えるのは、何もドンドルマの住民だけじゃない……

 

 

他の村々でも……

 

 

 

 

そして何よりも、このユクモ村でも例外じゃなかった……

 

 

 

 

命を賭してあの荒天神龍の討伐任務に従事した人々はジンヤさんを擁護しているけど、けど避難した人たちはジンヤさんの奮闘を知らない。

もちろんジンヤさんには感謝している。

だれもがジンヤさんに感謝していることは嘘じゃなかった。

だけどそれ以上に、それほどの存在が自分たちの村にいることを不気味に思っていて……。

今、私が住んでいる村、ユクモ村はあまり明るい雰囲気にはなれなかった。

村がほとんど崩壊してしまったこと、そしてジンヤさんという存在がいる恐怖によって……。

 

 

私はそれに憤りを覚えた。

前みたいに必死になってみんなにわかってもらおうとした。

だけど、神様を討伐したというその事実は……予想以上にみんなの心に重たくのしかかっていた……。

そんな雰囲気を察していないはずがないのに……。

命を賭けて村を救ったことをもっと誇ってもいいのに……。

 

 

 

 

ジンヤさんは、煌黒邪神を討伐してから一歩も外に出ていなかった……。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

ついに俺がこの世界にきてから六ヶ月ほどの月日が流れた。

 

 

半年ですよ? 半年?

 

 

冬から初夏になるくらいの日数が経過してしまった……。

その事を俺はぼけ~と、縁側で日光浴をしながら考えていた。

 

 

煌黒邪神を討伐したその日は、俺は帰ってきた瞬間にぶっ倒れた。

限界を超えての活動というのは、出来ればもう二度と経験したくない事だった。

その日から丸一日寝て、次の日から活動を再開したが……どうやら神様を討伐してそれで終わりと言うわけにはいかないようだった。

 

 

食糧不足か……

 

 

荒天神龍による天候操作の弊害。

日光不足で作物がほど全滅。

また煌黒邪神の雪を降らせた行動で、さらに死滅。

はっきり言ってほとんどの作物がだめになったと言っていい。

そのために、今慢性的な食糧不足で問題が起こっているらしい。

また、俺の存在とムーナの存在が、ギルドナイトにとっては頭が痛いようだった。

 

 

今俺は神を滅ぼした超人として名を馳せている……らしい……

 

 

うざいな~

 

 

と言うのが俺の正直な感想だ。

まぁだが他の連中から見たらそうなるのも無理はないだろう。

実際にそのモンスターを見ていないとはいえ、あれほどの異常気象を招いていた存在だ。

恐ろしくないはずがない。

そしてそんな存在を単体で討伐してしまった俺。

普通の人間からしたら怪物に見られてしまうだろう。

 

 

さらに希少種 銀リオレウスことムーナ

 

 

これも結構やばいというか価値ある存在として貴族達がものすごくほしがっているとか……。

アカムトルムが出現し、さらに荒天神龍アマツマガツチ、煌黒邪神アルバトリオンと、連続して異常なモンスターが相次いで出現して、避難していたために、まだ問題が起きなかったが、それが解決してしまった今、ムーナは確実に狙われていた。

ドンドルマの大長老や、ディリートも何とか食い止めるように奔走しているみたいだったが、それだけでは無理があった。

しかしかといって、村に直接攻め込むほど貴族連中もバカではないようだった。

村人や俺の周囲に被害が出ないので安心したが……次に問題になったのは村人の反応。

俺という存在が、英雄という以上に厄介者という認識が強い……というが正直なところだろう。

 

 

食糧不足、俺、銀リオレウス

 

 

今渦中の問題となっているのはこれだろう。

しかし、ある伝言を聞いた俺にとっては、もはやどうでもいいことだった。

動き回ると危ないので、俺は家に籠もり、とりあえず余っていたオリハルコンの素材を使って、中断していた守りの短刀の制作に入っていた。

そしてそれが仕上がると、暁凜丸【覇崩】の|鎧櫃(よろいびつ)を制作し、その上に暁凜丸【覇崩】を座るように飾る。

中に骨組みのような物を入れて兜もかぶらせて、お面も装着するのも忘れない。

元々仮面を造ったのは、この「座った状態で飾る」時に、顔の部分が空洞になるのを防ぐために制作した、いわば趣味だった。

それと同時にやはり刀が飾られていないと間抜けなので、俺は暁凜丸【覇崩】の前に置くための打刀を制作した。

刀身その物はオリハルコンで制作し、鞘や鍔などにアカムとウカムの素材を使用して作り上げた。

その打刀の銘は……

 

 

封竜刀【覇崩】

 

 

実に我ながら単純なネーミングセンスである。

それらが終わると、いつでも出発出来るように俺は荷物を密かにまとめておいた。

無論レーファと弟子二人に気づかれないためにである。

 

 

そして、その日が……きた……

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

『……て』

 

 

 

 

夜。

復旧作業を手伝って精も根も尽き果てていた私は、泥のように眠っていたのに……その私の意識に、何かが語りかけてきていた……。

 

 

『…きて』

 

 

誰?

 

 

その声には聞き覚えがあった……。

いや、その声を耳で聞いていない以上、聞き覚えというのはおかしいのかもしれない。

だけど、その声は確かに聞いたことのある物で……。

 

 

『起きて下さい』

 

 

……あなたは? 桜火竜の

 

 

『今はそんなことどうでもいい。速くお行きなさい』

 

 

行く? どこへですか?

 

 

桜火竜が言う、行けという言葉……。

それは以前にも聞いたことだというのに、夢の中だからか、直ぐにそれを思い出すことが出来ず……。

そしてその声に悲嘆が混じっていることに、私は気づかなかった。

 

 

『おそらく、行く、行かないに関わらず、あなたは悲しむことになります』

 

 

……

 

 

『それを聞いてもなお行くというのならば、お急ぎなさい。彼が行ってしまう前に……』

 

 

彼……?

 

 

その言葉を聞いた瞬間に……私は跳ね起きた。

そして急いで着替えて、夜のユクモ村を走っていく……。

すると村の裏門にさしかかったところで、二人の人物に出会った。

 

 

「フィーお姉ちゃんにリーメさん!?」

 

「!? レーファか?」

 

「レーファさん!」

 

 

裏門を開けようとしていたフィーお姉ちゃんと、それを手伝っているリーメさんがいて、私たちは互いに互いの名前を呼び合った。

何故いるのかとか聞こうとしたけど、みんな一様に必死になっているその仕草で……私たちは理解した。

 

 

「ジンヤさんの所へですか?」

 

「あぁ、変な夢を見てな。念のために」

 

「やっぱり。僕もですよ」

 

 

……全員が一様に同じ夢を見ていた。

その異常性を感じた瞬間に……私たちは走り出していた。

 

 

「ジンヤさん、何かあったのかな!?」

 

「あったじゃなくて、何かをするんじゃないか!? 何をやらかすかわからないからな!」

 

「そうですね! このままだとジンヤさんが……」

 

 

 

 

どこか遠くへ行ってしまう……

 

 

 

 

そんな単語が私たちの胸に去来する……。

そして直ぐにジンヤさんの家に着いたのだけれど……中には誰もいなかった。

 

 

「いない!?」

 

「どこに!?」

 

 

いないとわかってフィーお姉ちゃんとリーメさんが悲鳴にも似た声を上げた。

けど私はいないとわかった瞬間に、家の外へと走り出していた。

 

 

家にいないならジンヤさんがいる場所は一つしかない!

 

 

私はその場所へと走る。

それが正解であると信じて疑わなかったし、証拠もあった。

何せ……

 

 

ムーナちゃんがいない!!!!

 

 

ムーナちゃんがいないというその厳然たる事実が、ジンヤさんがどこにいるのかを教えてくれていて……。

 

 

 

 

そしてその予想は外れることなく……ジンヤさんはその場所、ムーナちゃんの発着場にいた……。

 

 

 

 

「ジンヤさん!」

 

「……レーファ」

 

 

私が叫ぶと、その薄闇に見えるその姿が露わとなった。

 

 

私が初めてであった時……森と丘の森の中でしていた格好。

真っ黒な背嚢を背負って、真っ黒な四角い箱を左肩に掲げていて……。

 

 

そして、その余りにも論外な得物、狩竜を右手に持っていた、ジンヤさんがいた。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

それは、俺が全てをやり終えた夜に見た……夢。

 

 

【使者よ……】

 

 

いや、夢ではなく、それは俺を誘っていた……。

とある場所……。

特別な存在しか入ることを許されない……聖域にして太古の遺産……

 

 

 

 

古塔

 

 

 

 

へと……。

 

 

【お主を招き入れる準備が整った。今宵、お主の火竜と供にこの場所へと来るがいい】

 

 

それだけだと俺はおそらく行く気にはならなかっただろう。

だがその最後に、この気配はとてつもない言葉を、口にした。

 

 

 

 

【お主の……を叶えよう】

 

 

 

!?

 

 

それへと返事する前に、その気配が消える。

その夢を見ても、俺は普段通りに生活をしたはずだった。

だが……どうやらこの子の……こいつらをごまかすことは出来なかったようだった。

 

 

 

 

「レーファ」

 

 

 

 

森の中に入った時点で複数の気配が俺の……俺の家だった場所へと向かっているのが分かった。

その時、すぐに飛び立てば三人の追撃から逃れることはたやすかった。

だが、今この時間に、俺の家だった場所へと急いで向かうその三人に対して……俺はそれをすることはできなかった。

 

 

「……どこへ、行くつもりですか?」

 

 

レーファがそう問うてくる。

その疑問に答える前に、遅れて二人が……リーメとフィーアがやってきた。

息を切らしてやってきた三人に、俺は心の中で嘆息をつきつつ、とりあえず答えた。

 

 

「夜の散歩……」

 

「……本気で言ってるんですか?」

 

「冗談だ」

 

 

俺のわかりきった嘘に、レーファがものすごい怒気を放つ。

俺はそれを感じて仕方なく、

改めて答えた。

 

 

 

 

「古塔とやらに呼ばれたんでな。ちょっとそこまで行くつもりだ」

 

 

 

 

「……古塔?」

 

「……本気で言っているのか? ジンヤ?」

 

 

リーメとフィーアが口々に、自分の正直な感想を述べる。

俺はその古塔というところがどういう場所かはわからないが、二人の反応から鑑みるに、いつものように普通の場所ではないようだった。

だがその程度で行かなくなるような俺ではない。

それを態度で示すと、レーファが息を呑んだが、直ぐに毅然とした態度に戻ると、俺へと一歩近づいてきた。

 

 

 

 

「私も連れて行って下さい!!!!」

 

 

 

 

とんでもないことを言ってきた。

 

 

「レーファさん?」

 

「レーファ!? 正気か!?」

 

「正気だよ!!!!」

 

 

二人の反応に、レーファが怒鳴った。

そして俺を睨みつけてくる。

 

 

「いいですよね?」

 

「……」

 

 

その問いはもはや確定事項らしかった。

断るというか、強制的に退場させることも一瞬頭によぎったが……俺は嘆息をすると肩を竦めながら答えた。

 

 

「言って止まるつもりはないだろう。わかった連れて行こう。だが……」

 

 

連れて行くのは構わない。

だがそれでもどうしても言っておかなければいけない言葉があった。

 

 

「何が起こっても……俺は一切責任を取らないぞ?」

 

「構いません!」

 

 

だがその問いに即答したレーファの覚悟というのは相当な物だった。

毅然とした態度に少しの怒気を加えたその態度は、堂々とした物だった。

 

 

「なら私も連れて行ってもらおうか?」

 

「ぼ、僕も連れて行って下さい!」

 

 

レーファがついて来るとなると、当然とでも言うように人数が増えるわけで……。

俺は盛大に溜め息を吐きながら、ムーナへと向き直った。

 

 

「……いけるか? ムーナ」

 

「ゴアァァァ!」

 

 

俺の問いにムーナは力強く答えてくれた。

俺は仕方なく、三人をムーナの背に乗せると、自分自身は能力を使用することにした。

 

 

「荒天顕現 風雲の羽衣」

 

 

嵐の神、荒天神龍アマツマガツチを討伐して敵の能力を身につけて得た、空を飛翔する力。

まだ俺には自由自在に空を飛び回ることは出来ないが、それでも宙に浮くことは可能だった。

宙に浮いた俺を見て、三人が呆気にとられている。

俺はそれに苦笑しながら、宙に浮いたまま、ムーナの口にある手綱へと手を伸ばす。

 

 

「では済まんがムーナ。一人から一気に増えて四人分だ。頼む」

 

 

手綱を掴み、俺はムーナに全てを任せた。

そしてそれが嬉しかったのか、ムーナは嬉しそうに一声鳴くと、雄々しく翼をはためかせた。

 

 

そうして、俺、レーファ、リーメ、フィーア、ムーナは、伝説の地である、古塔へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

その夜……各村々、そして街の監視員は、不思議な物を見た……。

今だ天災の神、荒天神龍と煌黒邪神の爪痕が深く残って、誰もが不安を覚えるそんなときに……。

 

 

 

 

燦然と輝く鱗を……太陽と思わせる光を放つ、飛竜種を……

 

 

 

 

それは警報を発すると言った危機感や、珍しい物を見た感動ではなく、ただただ……美しかった。

見る物誰もが、思わず見上げ、祈ってしまうほどの美しさ……。

その感動から目が覚めたときには……すでにその竜は遙か遠くへと飛翔していた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

夜闇の中を銀の輝きと供に貫き、俺たちはその場所へとやってきた。

雲を突き抜け、天を貫かんと聳える、巨大な塔。

その周囲には、不思議な力を感じる何かがあり、とてもではないがただの人間が到達できるような、そんな場所ではないことを言外に伝えていた。

暗きこの夜でも圧倒的な存在感を放つそれは、まさに神々の遺産だった……。

 

 

 

 

とりあえず一旦中腹部の広場へと向かい、俺たちは一旦降りた。

本来であれば夜にこんな高いところまで登ってくれば寒いはずなのだが、まったく寒気を感じなかった。

それどころかどこか暖かさすら感じることの出来る……そんな不思議な空間だった。

 

 

「……すごい」

 

 

今まで気球にも乗ったことの無かったレーファが、思わずといった感じに口から感想をこぼしていた。

夜とはいえ、これほどの高さに登るのは初めてのことなのだろう。

しかも山と自分の足場以外に周りに高い物がほとんど無い。

あまり見たことのない物にとっては感動する場所だろう。

 

 

ここへ来いと言っていたが……何も起きないな?

 

 

夢で俺に話しかけてきた存在は、今いるこの場所を指定していた。

だから何か起こるはずなのだが、今のところその兆候が見受けられなかった。

が直ぐに変化が起きた。

 

 

……でかいな

 

 

下から、巨大な気配が近づいてきていた。

しかも気配だけじゃなく、威圧感……つまり強さも相当な気配が……。

 

 

 

 

【よくぞきた……使者よ】

 

 

 

 

そんな思念が届く。

そしてそれと同時に、下から山のような物体……が……

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………たこ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

フィーアが思わずと言ったように、口から胸の内の言葉がこぼれだしていた。

まさにその通り、たこだった。

いや四つ足でもたこと言えるのかは謎だが……。

 

 

というかその図体で浮くとか……

 

 

丸く膨らんだその体躯。

四方によっつの足を備え、目が赤い。

そして全身が苔や樹に覆われており、大きな髭が特徴的なモンスター? だった。

 

 

 

 

【貴様……死にたいのか?】

 

 

 

 

その言葉に切れたらしい。

威圧感が倍加しました。

しかもなんかでかい……って口あんのか!? ……を開けて、吸い込もうとしてるんだけど……。

 

 

「わ~連れが悪かった! 何をしようとしているのかわからないがやめてくれ!」

 

 

俺は慌てて謝罪してとりあえず三人が吸い込まれないように服を掴んで踏ん張った。

俺の謝罪を聞いて直ぐに相手もその行動をやめてくれた。

その事に安堵しつつ、俺は質問する。

 

 

「お前は?」

 

 

【我は富岳龍ヤマツカミ。この地、古塔を守護する者なり】

 

 

富岳……龍?

 

 

この見た目で果たしてどこが龍なのか……?

と聞いてやりたかったがまたぞろ問題が起こっても面倒なので、俺は何も言わない。

 

 

【よくぞきた使者よ。貴様を三界の神の元へと案内する……が】

 

「? 何か問題でも?」

 

【何故使者とその使役する飛竜以外の存在がここにいる?】

 

 

あぁなるほど

 

 

確かに夢の中で俺にこいとは言っていたが、誰かを連れてきていいとは言っていなかった。

そしてこの反応を鑑みるに、だめなようだ。

だがそれですんなりと引き下がるつもりはないが。

 

 

「別に構わないだろう? そこまで問題視する必要性もないだろう」

 

【いやある。ここは神聖なる古塔。許しなき存在がきていい場所ではない】

 

 

どうやら結構頑固というか、硬いようだ。

俺はそれに嘆息をつきつつ、どうしようか考えた。

その時……

 

 

 

 

【よい、ヤマツカミよ】

 

 

 

 

そんな声が、この場に響いた。

 

 

【ですが祖よ! この者達は……】

 

 

 

 

【良いと言っているのだ。案内せよ】

 

 

 

 

【……はっ】

 

 

どうやら話が付いたようだ……。

 

 

 

 

思念だけで、それはもうものすごい威圧感を放つ存在と……

 

 

 

 

……チート?

 

 

 

 

それぐらいにおかしい威圧感だった。

その事に思案していると、たこ……もといヤマツカミの足が、三人の元へと向かい直前で止まる。

 

 

「な、何ですか?」

 

【貴様ら魔を用いていない人間では、古塔上部へと行くことは出来ない。だから私が運ばないといけないのだ。掴まれ】

 

 

差し出された触手を、三人はおずおずと手にとった。

そしてそのまま優しく巻き上げると、ヤマツカミは自身の頭に三人を乗せた。

さらに体に生えている樹が、三人の体の一部にまかれ、転落を防いでいる。

 

 

【使者よ。お主は火竜に乗れ。行き先は火竜が知っている】

 

 

何?

 

 

「ムーナ。本当か?」

 

 

意外なその言葉に俺は思わず振り返ってムーナに聞いた。

 

 

「クォルルル!」

 

 

すると元気よく反応してくれる。

ムーナの反応を見る限り嘘ではないだろう。

俺は色々と疑問に思いつつ、ムーナに跨った。

そしてそのまま飛翔する。

 

 

 

 

雲を越え、空を越え……もはや宇宙まで行くのではないかと一瞬不安に思ったが……そんなことはなく、雲を越えてすぐに塔の頂上部へとたどり着く。

ムーナが着地して俺はムーナから降りて、三人が降りるのを手伝う。

三人を降ろすと、役割は終えたヤマツカミは下へと降りていった。

 

 

「……ここが古塔」

 

 

皆一様に感動して、辺りを見渡している。

特にハンターであるリーメとフィーアは非常に興味深そうに首を巡らしている。

だが何が在るのかわからないので、あまりうろちょろと出歩こうとはしていないが。

 

 

そんなに珍しいのか?

 

 

先の件、銀リオレウスの時もそうだったが、どれほどの希少性かわからないので、この場所がどれだけの価値を秘めているのかわからないからだ。

だが雲の上を突き抜けるほどの塔というのもすごいので、俺も辺りを見渡す。

 

 

右、何もいない

 

正面、何もいない

 

左、何もいない

 

 

……何もいないな?

 

 

姿も見えず気配もない。

完全にこの場には俺とレーファとリーメ、フィーア、さらにムーナしかいない。

だが、先ほどから左手のラオシャンロンの力がうずいているので、恐らく何もいないと言うことはないはず……なのだが。

 

 

再度右、いない。正面、いない。左…………あれ?

 

 

もう一度辺りを見渡したその時……左側に、ちょうど何かの柱が数本残っているその場所に……黒い何かがいた。

 

 

いるはずなのに、全く気配を感じさせないまま……

 

 

「え、何?」

 

「な!? 何だ!?」

 

「火龍!?」

 

 

他の連中も気付いたようで、突然出てきたこの巨大な龍に驚いていた。

 

 

そう、巨大だった。

 

 

後ろ足で立ち上がるその姿。

細身の体ではあるが、この世界の竜というのは基本的に上体を起こさない姿勢なので、頭が下がっている。

だがこの左にいる黒い龍は上体を上げているので高さがあり、大きく見えてしまう。

 

漆黒の鱗に白い鱗を持ち、翼は黒に近い紫色をしている。

その日体に生えた角は恐ろしく硬そうで、牙は鋭そうだった。

そして前足が合った。

 

 

|龍(ドラゴン)か?

 

 

古龍種の特徴(と、勝手に思っている)、龍種であること。

翼竜とは決定的に強さに差があるとされる龍。

しかも上体を起こしたその姿は……

 

 

 

 

まさに、これこそ龍と思わせるような姿だった……

 

 

 

 

【我、黒龍神 ミラボレアス】

 

 

 

 

その言葉を放った途端……物理的に吹き飛ばされそうなほどの威圧を発した。

今までどこにこれだけの気迫を隠していたのかと思わず聞いてしまいそうなほどの重圧。

はっきり言って他の連中がぶっ倒れないか心配だった。

だが杞憂だったらしく、みんなポカンと、呆気にとられていた。

というかすごすぎて何がすごいのかわかっていないのかもしれない。

 

 

【よくぞきた使者よ。そして、使者に縁深き者達よ。歓迎しよう】

 

 

そうして語りかけてくる、黒龍。

その言葉にすら、圧倒的な気迫を感じて、俺は思わず下がりそうになってしまう体を懸命に抑えた。

 

 

【ふん。この古塔にただの人間が訪れるとは。安くなったものだ】

 

 

その黒龍の言葉を真っ向から否定する言葉。

その言葉が放たれた方向……俺たちを挟んで黒龍のちょうど反対側へと目を向けると、そこに赤と黒の粒子が舞い降りてきており、それが徐々に形を形成する。

 

 

漆黒の鱗。

黒龍の白き鱗の箇所は紅に光り輝き、その荒々しい力を隠すことなく周囲へとばらまいていた。

鱗の色以外ほとんど黒龍と同じ体をしているが、その額の角……対面して右側、つまり紅の鱗を持った龍の左角は異様に肥大化しており、猛っていた……。

 

 

 

 

【我、紅龍神 ミラバルカン】

 

 

 

 

もしも黒龍が静とするならば、こちらの紅龍は動と言い表せることが出来るような存在だった。

存在すらも、気配すらも掴ませることがない黒龍と、隠すことのないその裂帛の気配を放つ紅龍。

まさに対極といえた。

だが、それだけではないと……まだいると……。

 

 

 

 

【よくぞきた、使者よ。我ら三界の神が歓迎しよう……】

 

 

 

 

そして中央……

 

俺たちがいるその目の前に、それが現れた……

 

 

 

 

全ての色を白く染めたその鱗……

 

白亜に輝く胸部……

 

だがその胸部は白だけでなく、紅の色も併せ持っている……

 

他の二匹と違い、その首に白く輝く毛を生やす……

 

それに何より一番違うのは……その角……

 

 

他の二体と違い、額に生えた大きい方の角が分岐しており、二つに分岐した角は巻き上がっていた……

 

 

そしてその双眸は……赤かった……

 

 

 

 

【我、祖龍神 ミラルーツ】

 

 

 

 

その姿は、果てしなく、限りなく、強大で……

 

 

 

 

だがそれ以上に、優しく、穏やかだった……

 

 

 

 

【よくぞきてくれた。異世界よりの使者、鉄刃夜よ】

 

 

 

 

その声は、強さを持ち合わせながらも、優しさを備えていた、不思議な声だった。

だがそんなことはどうでも良かった。

鼓動が激しくなっていて、俺は自分を抑えるのに必死だったからだ。

 

 

「異世界?」

 

 

異世界という単語に、フィーアが反応していたが、それに返す余裕は、今の俺には無かった。

 

 

「三界の神に出会えるのは光栄だ。お招きいただき感謝する」

 

 

まぁ正直な話、三界の神と言われてもそれがなんなのかはいまいちよくわからないのだが……。

だが今はそんなことどうでもいい。

 

 

 

 

どうしても聞かなければいけない……事……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の望みを叶える……つまり、俺は元の世界に帰れるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「へ?」

 

「世界に帰る?」

 

 

俺の言葉に、後ろの三人がそれぞれの反応をする。

レーファ、リーメ、フィーア。

レーファを除く二人は事情を全く知らないために完全に置いてけぼりになっている……。

それに気づきながらも、俺は自分の願いを……優先した。

 

 

 

 

【可能だ。そのために、お前を呼んだのだ】

 

 

 

 

返答は……俺に希望を、他の三人には絶望をもたらした。

さすがに事情がわかっていない二人でも、今の会話がお気楽に済ませられるような会話でないということはわかったようだった。

 

 

「ジンヤ……帰るって言うのは、どういう事だ?」

 

 

フィーアが重い表情で俺に話しかけてくる。

その後ろでリーメも同じような顔をしていた。

 

 

そして誰よりも……レーファが、今にも泣き崩れてしまいそうなほど、顔が崩れていた……。

 

 

 

 

「……文字通りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺の故郷へと帰るんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前の故郷か」

 

 

 

 

半ば呆然としながら、フィーアが言葉を返す。

しかしどこかほっとした様子だった。

帰るだけ……そう思っているに違いない。

リーメも同様でどこか安心した様子だった。

 

 

 

 

だがレーファだけは、わかっていた。

 

 

 

 

異世界の人間である俺が、故郷に帰るその意味を……

 

 

 

 

だがそれでももしかしたらと、そう思っているのかもしれない……

 

 

 

 

「あぁ。そして二度と……」

 

 

 

 

残酷だと思いながらも、俺ははっきりと、言葉にして……言葉を紡いで、俺の言葉でレーファの希望を砕く……

 

 

 

 

 

 

 

 

「そしてもう、二度とお前達と会うことはない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

「そしてもう、二度とお前達とあうことはない……」

 

 

その言葉は、決定的な言葉で……ジンヤさんは私の目を見ながら、そう言った……

 

祖龍という龍が言った言葉でわかっていた事実……

 

信じられなくて……

 

信じたくなくて……

 

だけどそれは容赦なく私の心をえぐる……

 

 

「二度と会わないだって……?」

 

「ど、どういう事ですか!?」

 

 

フィーお姉ちゃんとリーメさんが、驚きの余りに食って掛かるようにジンヤさんへと走り寄っていた。

だけど私は、動くことすら出来なかった。

 

 

「二度と会えないって……故郷に帰るだけなんだろう!?」

 

「その故郷がこの世界には無い場所にあるんだ。気軽に行き来できるわけがない」

 

「この世界には無い場所って……い、意味がわからないですよ!」

 

 

二人が叫んでいる……。

直ぐそばで大声を上げているのに……今の私には、それがひどく遠く聞こえた……。

 

 

「俺はまぁ、この世界の人間じゃなくて別の世界の人間でな」

 

「べ、別世界って……一体何を」

 

「ともかく、俺はお前達とは違うところで生まれたと思えばいい。だからもう帰れないと思っていた……けど、俺は帰ることが出来ると、祖龍が教えてくれた」

 

 

 

 

「まぁ意味はわからないだろうが……だがそれでも、俺は帰らないといけないんだよ。やることがあるしな」

 

 

最後の方、それは私へと向けられた言葉で……。

その言葉の意味を知っている私は、胸が締め付けられる思いだった。

 

 

「俺がこの世界にきてから、願い続けてきた願い……俺の故郷に帰ること……」

 

 

そして、私の思いがわかっていないはずがないのに……ジンヤさんは、言葉を続ける。

 

 

 

 

「お別れだ……みんな」

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

意味がわからない。

この場所も、目の前にいる三匹の圧倒的な存在感を放つ龍も……。

 

そして何より……ジンヤの言葉も……。

 

 

 

 

「お別れだ。みんな」

 

 

 

 

どこか哀愁を漂わせた、悲しげな微少をジンヤが浮かべる。

そして呆気にとられている私たちをおいて、後ろの祖龍という存在へと振り返った。

 

 

「どうやれば帰れる?」

 

【この穴へと飛び込め】

 

 

祖龍の声が……耳に響かない不思議な声が聞こえてきたと思うと、ジンヤと祖龍の中間……三匹の龍の中心部に黒い穴が生まれた。

それは、まさにこの世のものとは思えない不思議な物で……。

 

 

【ここへ入れば、お前はお前の世界に帰ることになる。……望めばこの世界に留まることも出来る】

 

「……ムーナはどうなる?」

 

【銀リオレウスとなってしまった以上、もう人間界にいるわけにはいかないだろう。私が面倒を見る。ムーナが幸せになれるように、尽力しよう】

 

「感謝する。その穴のタイムリミットは?」

 

【あまりない。今夜中でなければ帰れなくなる】

 

 

今夜だって!?

 

 

「……そうか」

 

 

その言葉に、静かにジンヤが頷いた……

 

複雑な感情が込められていた声だった……

 

そして、それが風になって消え去る前に、ジンヤが私たちの方へと振り向く……

 

 

 

 

「……行くのか?」

 

 

 

 

「……あぁ」

 

 

 

 

私のその問いかけに、ジンヤははっきりと頷いた。

それを聞いた瞬間に……私の心は激しくぐらついた……。

 

 

告白したが、振られてしまった……

 

だがそれでも、一人の女としてではなく、一人の弟子として、こいつのそばにいられればいいと思っていた……

 

もしかしたらその長い年月でこいつの考えが変わるかもと……

 

そう思ってすらもいた……

 

だがもしも今……今度こそこいつを止めなければ……

 

もう会うことも、言葉を交わすことも……

 

何もかもが出来なくなってしまう……

 

 

 

 

だが……

 

 

 

 

あの時、私は必死の思いで止めた……

 

だがそれでも届かなかった……

 

そしてあの時と違い、あいつがもっとも望んだ事……渇望した事……

 

それを止めることが、私に出来るとは思わなかった……

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 

 

一つ息を吐く……

 

未練や葛藤が、口から出てしまいそうだったから……

 

代わりに息を吐いて……私はそれを追い出した……

 

だけど後から後から、より醜く、醜悪とも取れる、私の願いが生まれてしまう……

 

 

 

 

だけど……

 

 

 

 

それ以上に……あきらめというか……自分らしくしていたかったから……

 

 

 

 

「……元気でな」

 

 

 

 

「フィーアさん……」

 

 

その私を見て、リーメが私の名前を呼んだ。

声音に、様々な感情を乗せて……。

 

 

「……随分と物わかりがいいな?」

 

「……止めたらやめるのか? 私の告白さえも切って捨てたくせに」

 

 

私の言葉に、レーファとリーメが驚きに目を見開いていた。

それはそうだろう。

あまりみんな……レーファにさえも、恋愛関係の話をしたことはないのだから。

私は、いつものように……

 

 

 

 

普段通りに、私は接した……

 

 

 

 

泣いても、喚いても……何をしても変わらないのなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、私らしくありたいから……

 

 

 

 

 

 

 

 

自分らしくあること……

 

 

 

 

その大切さを……気高さを教えてくれたこいつに……ジンヤに……

 

 

 

 

それを見て欲しくて……

 

 

 

 

私の思いが伝わったのかはわからない……

 

 

 

 

だけど、ジンヤはそんな私を見て、ふっと柔らかく……微笑んでくれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

~リーメ~

 

 

初めて見たのは、夜……

 

ユクモ村にきた、ジンヤさんが無数のランポス素手で討伐したとき……

 

呆気にとられた……

 

そしてそれ以上にすごいと思った……

 

涅槃の夜に……もう一つの月が出て……その光がランポスを縦横無尽に狩っていた……

 

それから、ジンヤさんの元で、数多くのことを学ばせてもらって……

 

学ばせてもらうだけじゃなく、武器も造ってくれて……

 

戦い方、武器の使い方……

 

 

 

 

逃げないこと……

 

 

 

 

そして何よりも頑張ることを……教えてくれた……

 

 

 

 

そんなジンヤさんが行ってしまう……

 

寂しくないわけがない……

 

引き留めたい気持もある……

 

だけどそれ以上に……

 

僕が好きになったのは……

 

僕が好きだと……尊敬したジンヤさんは……

 

 

 

 

がむしゃらなまでに生きることに必死で……人のため、僕らのため……

 

 

 

 

そしてなによりも自分のために必死だった人で……

 

 

 

 

もしもここで引き留めて、仮にジンヤさんがここに留まることを選んでしまったら……

 

 

 

 

 

 

 

 

ジンヤさんは僕が憧れて尊敬したジンヤさんでは無くなってしまう……

 

 

 

 

 

 

 

 

自分のことは、自分の意志で決めていた人だから……

 

その人が願っていること……

 

帰りたいという欲求……

 

それを止めてしまったら……

 

自分の意志で突き進んできたジンヤさんじゃなくなってしまう……

 

いなくなっちゃうのは寂しいけど……

 

けど、最後までジンヤさんらしいジンヤさんでいて欲しいから……

 

 

 

 

「……今までありがとうございました!」

 

 

 

 

僕は思いきり頭を下げたのだった……

 

万感の想いを込めて……

 

出会った喜びも、弟子にしてくれた感謝も……全てを胸に秘めて……

 

 

 

 

そんな僕を見て、ジンヤさんが笑ってくれていた……

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

リーメに礼を言われた……

 

弟子二人は、俺の事をよく理解してくれていた……

 

いや二人だけじゃない……

 

この場にいる三人は、俺ともっとも親しくしてくれた、また俺も親しくした人間だ……

 

無論全てを理解しているとは言えないだろうが、それでも十分に理解し合い、わかり合っていた……

 

 

 

 

だから、レーファが悲しむのも、わかっていた……

 

 

 

 

「お別れだ……レーファ」

 

 

 

 

「……ジンヤさん」

 

 

 

 

涙を流すのをこらえた顔……

 

それは、十分に俺の心をかき乱した……

 

自分にとって大切な人を、俺が泣かせている、悲しませている……

 

俺が違う世界からきたことを知り、過去を知り、俺の願いを知っても、俺と大切な約束を交わしてくれた少女……

 

約束は約束……

 

そう言い切れたらどんなに楽だろう……

 

だが、それを口にするつもりもなければ、言いたくもない……

 

だけど、これを逃せば、俺は帰ることすらも怪しくなってしまう……

 

だから、俺は……

 

 

 

 

「すまないな」

 

 

 

 

「……なん、で。まだ、私……」

 

 

 

 

余りにも突然すぎて言葉がうまくまとまっていないらしい。

俺はそんなレーファに微笑みかけて、フィーアへと振り返った。

 

 

 

 

「ありがとう。フィーア」

 

 

 

 

「……なんだ突然」

 

 

 

 

「お前がいなければ、俺は下手したら本当にギルドナイトと対立していたかもしれない。いや、実際にしていただろう。勝つ事は簡単だが、勝ったところで賞金首になるだけだ。俺が平穏無事に過ごせたのは間違いなくお前のおかげだ……ありがとう」

 

 

 

 

ギルドナイト隊員のフィーアがいてくれなければ……俺は間違いなくギルドナイトと全面戦争を行っていただろう。

ムーナのために。

勝つ事は造作もないが、それでも俺が犯罪者になるのは間違いない。

そうなれば俺は無事に過ごせなかった。

そうしなかったのも、常に俺と行動を共にしてくれたこいつがいたからだ……。

 

 

 

 

俺に告白をした女、フィーア……

 

 

 

 

生涯忘れることはない……

 

 

 

 

そう誓う……

 

 

 

 

「リーメ」

 

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

「お前のおかげで、俺は村の連中とより速くうち解けることが出来た。そしてお前のおかげで俺はハンターになることが出来た。俺の愛刀、夕月の敵を討つことも出来た。本当にありがとうな」

 

 

 

 

ハンターになれたのは間違いなくリーメのおかげだった。

リーメが俺のわがままを聞いてくれたそのおかげで俺はハンターとなって、己を律し、戦うことが出来た。

それになにより、その人なつっこい笑顔で俺を励ましたくれた……。

それを俺は忘れない……。

 

 

 

 

そして最後に……俺は再度レーファへと相対し、目を見つめる。

 

 

 

 

「レーファ」

 

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

こらえきれずに溢れてしまった一筋の涙……。

その双眸より流れ落ちる涙を、俺は右手で拭ってやった……。

 

 

 

 

「ありがとう。お前に会ったおかげで、俺はこの世界でも生きていくことが出来た。もしもあの時……森と丘でお前と出会っていなかったら……俺はひょっとしたら未開の住人になっていたかもしれない。それになにより……俺とあの約束をしてくれた……今を見ることの大切さを教えてくれた。本当に感謝してもしたり無い……」

 

 

 

 

「……行かないでください……。だって、私……私まだ……」

 

 

 

 

思わず口にしてしまったその言葉……

 

レーファの本心……

 

俺に残って欲しいという願い……

 

 

 

 

一瞬心がぐらついてしまう……

 

 

 

 

この子は……俺を前へと進むきっかけを与えてくれたこの子は、間違いなく俺にとって大切な子で……

 

 

 

 

その望みを叶えて上げたくなる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが俺は……その願いを……希望を……

 

 

 

 

 

 

 

 

他者を傷つけてでも……俺は前へと進む……

 

 

 

 

 

 

 

 

だから俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう……レーファ」

 

 

 

 

頭を撫でる……

 

それを望んでいないことを……他のことなぞわかりきっていた……

 

だがそれを叶えて上げることは、俺には出来なくて……

 

しばらく撫でてから、俺はレーファの後ろにいる、ムーナに近寄った……

 

 

 

 

「お別れだ。ムーナ」

 

「クォルルルルル」

 

 

 

 

俺がそう言うと寂しそうにムーナが鳴いた。

だがムーナは、決して俺に行かないで欲しいとは言わなかった。

むしろ行ってらっしゃいと……俺を暖かく送り出してくれる。

そんなムーナの頭を、俺は静かに抱きしめた……。

 

 

その温もりを、しっかりと体に刻みつけて……

 

 

「こんな親で、ごめんな」

 

「クォ!」

 

 

そんなことないって、言ってくれている……

 

あなたの息子で幸せだったと……

 

何故かムーナの思念が流れ込んでくる……

 

ひょんな事からこの子の親になった……

 

何故かどうしても殺す気になれなくて……

 

だから俺は、この子を必死になって育てた……

 

今巣立ちの前に俺が旅立とうとしている……

 

複雑だったが、それでも俺は静かにムーナから体を離した……

 

 

 

 

そして祖龍が出した黒い穴へと振り返り、真っ直ぐに進んだ……

 

フィーアを、リーメを、ムーナを……

 

 

 

 

そしてレーファを置いて……

 

 

 

 

俺は、元の世界へと帰る……

 

 

 

 

「ジンヤさん!」

 

 

 

 

そんな俺の腰に、しがみついてくる、少女……

 

俺の背中に顔を押しつけて……

 

背中に妙な暖かさを感じた……

 

それが涙だと直ぐに気がついた……

 

俺は一旦歩むのを止めて、腰に巻かれたレーファの腕を優しくほどいた……

 

そして振り返る……

 

涙で真っ赤になったレーファが、俺の言葉を待っている……

 

 

 

 

最低だな……俺は……

 

 

 

 

泣かせてしまった……

 

大切な少女を……

 

 

 

 

だけど、それでも俺は……

 

 

 

 

最後に俺は笑った……

 

これ以上ないほどの笑顔をレーファへと向ける……

 

 

 

 

「こんな、自分のことを優先するくそ野郎の事なんて速く忘れろ」

 

「そ、そんなこと……私……私は……!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「元気でな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

最後にもう一度レーファの頭を撫でた……

 

それから何かを感じ取ったのかもしれない……

 

レーファの腕から力が抜ける……

 

涙を流しながら……

 

必死になって悲しみをこらえているその表情……

 

その姿に胸を締め付けられる……

 

ここに留まるろうと、そういう感情がわき上がってしまう……

 

 

 

 

だがそれで止まるわけにはいかない……

 

 

 

 

俺はレーファからゆっくりと離れた……

 

そして振り返り、黒い穴へと進んでいく……

 

 

 

 

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

頭がぐちゃぐちゃになりそうだった……

 

このままジンヤさんのそばで泣き叫んでお願いしたかった……

 

だけど、そんなことをしても、ジンヤさんは止まってくれなくて……

 

 

 

 

ラオシャンロンが出てきたあの時、腹部に傷を負って血を流しながらも武器を鍛造していたジンヤさん……

 

 

 

 

そんな鉄のように固い意志を持った人の事を止めることが出来るなんて思っていなくて……

 

 

 

 

「元気でな」

 

 

 

 

そう言って私の頭を優しく撫でてくれる……

 

それは本当に心地よくて……

 

本当に暖かくて……

 

私の手から力が抜けてしまう……

 

その隙を逃さずに、ジンヤさんが私から離れて行ってしまう……

 

崩れ落ちそうになってしまったけど……

 

でも私は崩れずに、ジンヤさんを……

 

ジンヤさんの姿を見つめる……

 

言葉を出すことすら……出来なかった……

 

 

ジンヤさんが穴の手前で振り返って頭を下げた……

 

そして顔を上げて……笑った……

 

今まで見た中で、もっとも綺麗に、朗らかな優しい笑顔で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてジンヤさん黒い穴へと飛び込み……私は意識を失った……

 

 

 

 

 

 




刃夜君外道だな~~~wwww
友人に言われたwwww

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