リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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エピローグ

「それじゃ、頼みましたよ」

 

「おばあさま、私も大人なんですからそんなに心配なさらないで下さい」

 

「そうだけどねぇ。ちょっとお調子者だから心配なのよ。あなたは」

 

「大丈夫です。しっかりと村長を務めて見せますから」

 

 

そう言って、孫娘が私の家から出て行く。

不安におもいながらも、私はゆっくりと、イスに腰掛けた。

 

 

 

 

あれから……ジンヤさんがいなくなってから、数十年。

私、ユーナも孫が生まれるような年齢になってしまった。

 

 

もう、随分と経つのね……

 

 

あの日、突然ジンヤさんがいなくなってしまった。

食糧問題で危機に陥っていた。

そして神を滅ぼしたジンヤさんを、私たちは恐れた……。

 

 

その空気を敏感に察していたのかもしれない。

 

 

ジンヤさんがいなくなって初めて、私たちは村を……当時のユクモ村を救ってくれたジンヤさんにお礼も言っていなかったことを思い出して、自分たちを恥じた……。

 

 

 

何とか食糧危機を乗り切り、ようやく真の平和が訪れた……。

 

 

ジンヤさんが消えた次の日になって、ジンヤさんと共に旅立っていたと思われていた三人、レーファさん、リーメさん、フィーアさんがジンヤさんの家で発見された。

三人とも意気消沈としていて、ただ哀しんでいた。

そしてジンヤさんが故郷に帰ったことを、私たちに教えてくれたのだ……。

 

 

レーファさん。

レーファさんは、ジンヤさんがいなくなってから数日間はずっと、暗くなって落ち込んでいたけど、ある日ジンヤさんの家に行って直ぐに何か、短い剥ぎ取りナイフのような物を大事そうに抱えながら、こういった。

 

 

「私、少しでもジンヤさんと同じ物が見たい!」

 

 

そう言って、なんと実の父親である鍛冶屋のリオスさんの鍛冶を引き継いだ。

今ではハンターの主流武器の筆頭として上げられる太刀……。

ジンヤさんが使っていて、その武器を作り上げたリオスさんに師事して、血のにじむ努力を行って彼女は太刀の伝説の鍛冶士として、今でも語り継がれる存在となっている。

そんなレーファさんは、いくつもの名刀を作り上げた後、突然姿を消した。

結局私がこの年になっても、彼女はユクモ村へと帰ってこなかった……。

 

 

リーメさん。

鉄すらも切断することの出来る、伝説の双剣使いとして、後々有名になった。

余りにも鋭いその閃きで、鉄だけじゃなく様々な強力なモンスターをも両断して、狩猟していた。

ギルドナイトの隊員として勧誘されたけれども、彼はそれを断った。

 

 

「ジンヤさんも本当ならギルドナイトに入らなかったと思う。だから僕はそのジンヤさんの思いを叶えて上げたい」

 

 

そう言っていた。

それからいくつもの年月が過ぎ、後に、リーメさんの名前を体現している、二振りの剣が、リーメさん以外に抜くことが出来なくなったのを目の当たりにして、彼はうれし涙を流していたという。

後にギルドナイトの総本山、ドンドルマの酒場でウェイターをしていたファルナさんと夫婦になって幸せな生涯を送った。

リーメさんが生涯に大事に使用していた、ジンヤさんが造ったという二つの剣、火竜刀【紅葉】、雷狼刀【白夜】は、リーメさんの子供へと託されて、リーメさんの家系の家宝となり受け継がれていった。

 

 

フィーアさん。

ギルドナイトの最強のハンターとして今でも語り継がれる存在となった。

滅多に送られることのない、二つ名を名誉を賜り、「鉄の雷」は今でも多くのハンターの目標となっている。

「鉄の雷」という異名には二つの意味があった。

一つは蔑称。

「ジンヤよりかっこいい男がいたら結婚を考える」、と結局生涯独身だった彼女の口癖を茶化し、あるいは悪意を持って人々はそれを語った。

処女だった彼女のことを「鉄の女」という悪口が流れていた。

 

 

だけど一度でも彼女とクエストに出かけたのならば、それは直ぐに尊敬の言葉として誰もが再認識することになった。

 

 

鉄の武器は基本的に強度がない。

強度がないと言ってもあくまでもモンスターの素材を使われた武器に比べれば強度がなくもろいと言うことで決して鉄の武器が弱いわけではない。

だけどモンスターの素材に使われた武器よりも、鉄の武器は弱い。

これはハンターそして鍛冶屋の人間共通の認識であり、常識だった。

 

 

だけどその常識を覆したのが、フィーアさんが持っていた鉄の太刀、斬破刀だった……

 

 

彼女が手にした、鉄をベースにした太刀だけは、何もかもが他の太刀と一線を画していた。

ありとあらゆるモンスター……それこそ硬いことで有名なグラビモスやバサルモス、イャンガルルガ……を一刀両断するその強さと鋭さ。

モンスターの首を切ることで一撃でクエストを終了するその腕前に、誰もが憧れ畏怖した。

またフィーアさんの斬破刀だけが、驚くべき事に太刀の中でモンスターの攻撃をガードできるあり得ない強度を持っていたのだ。

それらの様々な尊敬、畏怖などを込められて送られたのが、彼女の二つ名「鉄の雷」だった。

後にギルドナイトから「天地狩猟ノ覇紋」を、女性として初めて授与した人だった。

またハンターを引退しても、その腕前からハンターを師事する教官養成学校の教導官として、後輩達を指導する。

そしてフィーアさんの生涯が幕を閉じようとしたその時、一つの問題が起こった。

彼女が持っていたいくつかの武器、封竜槍【超滅一門】、封竜薙【魔断牙】は、彼女自身が自分の親しかった人物に譲っていたのだけれど、斬破刀だけは誰にも譲る気はなく、自分の遺体と供に埋めて欲しいと願ったのだ。

だけどそれを誰もが反対した。

もはや伝説の武器と化していた斬破刀を、埋めてさびさせるのはあまりにももったいないと……。

何せ斬破刀はその生涯で一度も鍛冶士に世話にならなかった伝説を持っていたから……。

傷つくことなく、それどころか刃こぼれ一つしない……。

誰一人として彼女が鍛冶屋に武器を造りに、あるいは武器の修理のために足を運んだのを見たことはなかった。

だからこそフィーアさんには秘密裏に斬破刀をどうするべきか問題になったのだけれど、それは結局杞憂に終わる。

 

 

彼女が息を引き取ったその瞬間、斬破刀も死を迎えたのだ。

 

 

安らかに、永遠の眠りについた彼女のそばで、とつぜんひび割れ、刃をこぼし、傷が付いて……。

 

 

 

 

まるで今まで受けてきた傷全てが、死んだ瞬間になって傷ついたのだと……言わんばかりに……

 

 

 

 

ジンヤさんがいなくなって、三人が帰ってきた。

その三人と話し合った結果、私たちはジンヤさんが教えてくれたすばらしい温泉とジンヤさんの故郷の料理を名物として売り出した。

 

 

少しでもジンヤさんの遺業が、人に伝わるように……

 

 

それによって農村から、観光地としての需要が高まり、レーファさん、リーメさん、フィーアさんの強い要望もあって、山の麓……ジンヤさんが造った家を村の中心部として、新しく大きな村を……温泉観光地、ユクモ村を建設した。

以前の村も漁港として、今も栄えている。

だけどそれ以上に今私たちが住んでいるこの村……山の麓に作り上げた温泉観光地のユクモ村は毎日お客様でにぎわっていた。

温泉は、誰もが入ることの出来る、湯浴みとして人気を博し、さらにその温泉には効能が数多くあって、様々な人に重宝されている。

また飲食物、つまりジンヤさんの故郷の飲み物や食べ物は、他の追随を許さなかった……。

当時ジンヤさんと供に料理を造り、ジンヤさんの弟子であったことを鼻高々と自慢していたグラハムちゃん、ジャスパーちゃんは、今も伝説のキッチンアイルーとして名を馳せていた。

これほどの恩恵を与えてくれたジンヤさんを奉って、村では毎年欠かさず、ジンヤさんが初めてこの村を訪れた日……その日を「ジンヤ祭り」と称して、お祭りを行い、その年取れた穀物やお酒、魚を、神社と村のみんなで奉っているジンヤさんの家の門の前へと捧げていた。

 

 

そしてようやく未熟とも言える自分の孫が晴れて村長になって、最後の肩の荷が下りた。

 

 

といってもまだまだ大変だろうけど。

最近になって再びこのユクモ村付近でモンスターが活発化してきたのだ。

荒天神龍が現れて猛威を振るった静もあってか、近年までは凶暴なモンスターはほとんど村がある麓付近に姿を見せなかった。

だけどさすがに数十年も経って存在が薄れたのか、もしくはこのユクモ村の自然につられたのか……アオアシラやジャギィ、そしてジンオウガがこの人里まで降りてきた……。

観光地としての意味合いが強くなったこの村は人が増えたため、また村の規模が大きくなったからか、この村専門のハンターはここ十数年存在していなかった。

だけど、このままでは危険と言うことで、ユクモ村にハンターにきてもらうことにしたのだ。

まだ新米だと言うけれど、きてくれるだけでもありがたかった……。

 

 

 

 

まだまだ問題もあるし、孫の面倒も見ないといけないのだけれど、もう私が表だって動くことはないだろう。

そう思うと嬉しくもあり、寂しくもあった。

だけど、それでも私は私の役目をきちんと果たしたのだ。

 

 

「まぁまだ死ぬつもりはありませんけどね」

 

 

私の最後の役目。

それは語り部となって一人でも多くの子供達に、この村の英雄の存在を知ってもらうことだった。

 

 

こんな男の人がいたのよ……って……

 


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