リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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か、書けた

自分で一番の見せ場を切って自らハードルを上げるという自殺行為を行ってビクビクしながら書きました。
悪くはないと……信じたい。


ちなみに最後の方にまた叩かれそうな要因が入ってきます。
これは友人H.M.がモンスターハンターに対して文句を言っていたことを自分なりに変換してこういうことになりました。

くる~、きっとくる~~~、きっと誹謗中傷メールくるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! ギャァァァァァァア


あ~怖い、あ~怖い、ア~コワイ!!!



楽しんでいただけたら幸いであります。

ちなみに今回も長いっす!


決着! そして新たな命……

~リーメ~

 

 

ジンヤさんのお願い……僕がクックを倒したことにして、ドンドルマに向かい、僕のギルドカードを更新し、ジンヤさんのギルドカードを制作したその直後だった。

 

 

「緊急クエストの依頼です! 誰か私の街の近くに巣を作った隻眼のリオレウスを討伐してください!」

 

 

そういう依頼を持ってきた男の人が、酒場へと転がり込んできて、僕は心臓が鷲掴みされた気分だった。

 

 

ここまで来ていてジンヤさんには悪いと思ったけど……僕はレウスのがことが怖くて堪らなかった。

飛竜種、空の王者リオレウス。

その存在はもちろん知ってるけど、それを見たのはこの前が初めてだった。

 

 

赤い外殻の堅く、屈強な体。

ハンターが使う武器よりも遙かに鋭い刃のような牙。

その爪には猛毒があり、その動きは剛気にして獰猛。

雄々しく翼をはためかせたその姿はまさに竜の王。

その威圧感、殺気、こちらを攻撃し、喰らうという貪欲な欲望。

 

 

それはもう、人間が勝てるとは思えないほどの強烈な強さを放っていた。

少なくとも僕には絶対に勝てない。

 

 

でもジンヤさんは違った。

確かに最初は驚いてしまって反応が遅れて自分の武器を砕かれまっていた。

茫然自失としてしまうほどにショックな出来事だったのに、それでもジンヤさんは僕が呼びかけるとすぐに立ち直って武器を構えて威嚇した。

その時、両者の間にどんなやりとりがあったのかはわからない。

けど、レウスが撤退したんだ。

確かに左目がナイフで潰されてしまったけど、それでもレウスは逃げていった。

その時、僕はこの人には絶対に追いつけないと……並び立つことが出来ないとわかってしまった。

 

 

でも!!

 

 

それでもこの人について行きたい。

足手まといになるのはわかってる。

それがわかっていても、この人について行きたい、役に立ちたいと思っていた。

だからジンヤさんが僕に形だけとはいえ子分になりたいと言ってくれてすごい嬉しかったし、ジンヤさんに無理を言う形でジンヤさんと同じ武器を造ってもらうようにお願いしたんだ!

 

 

追いつけないだろうけど……追いつくように頑張ってみたい!

 

 

ジンヤさんを見ていると、僕はすごくそういう気持ちになるんだった。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

すぐに相手が見つかるとは俺も運がいい

 

 

竜車に揺られながら、俺は深く静かにゆっくりと呼吸をしながら、前回の森と丘で形的に引き分けとなった、飛竜、リオレウスとの戦闘を思い返していた。

狩りが終わった瞬間の不意をつかれたとはいえ、皆が恐れる竜種を一刀の元に切り捨てて、舞い上がる、というよりも油断していた。

慢心と言い換えてもいいくらいだろう。

確かに気を操る力を持っていた驚愕もあったことは事実だが……それはもはや言い訳にしかならない。

 

 

あの時…確かに俺は死んだ……殺されたんだ

 

 

現実としては夕月が折れ砕けて、痛み分けのような形になったが、あの時の状況から鑑みて、どちらが有利だったかなど考えるまでもない。

片目が潰れたとはいえ、ほぼ無傷のレウス。

それに対し、大型の敵相手にはあまりにも不利な得物、花月、水月しか手元になかった俺。

しかも尻尾に腕を浅くとはいえ刺されていた。

夜月はリーメの手元。

数に数えるのは不可能だろう。

脇差しと短刀、この二つの得物でも、レウスを倒すのは不可能ではなかったと思う。

だが苦戦は必至。

しかもリーメに被害が及んでいた可能性がある。

リーメに怪我をさせた時点で俺の負けだからな。

 

 

確かに負けた。だが……それがどうした?

 

 

確かに負けはしたが、俺はまだ生きている。

形や事実としては負けたが、心で負けたつもりはない!

俺がまだ戦う気だと……勝つ気でいるからこそ、夕月も砕け折れてなお、俺に忠誠を尽くし、狩竜へと生まれ変わってくれた。

ならば、俺がやることは一つ……。

 

 

俺の未熟さ、甘さ、油断の多さ……それらを教えてくれたレウスを……狩る!

 

 

拳をきつく握りしめる。

外見上では静かに……だが内面では厚く燃えたぎる炎のように気持ちを高ぶらせながら、俺は竜車に揺られながらイスに腰掛けていた。

 

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

わからない

 

 

それが私の、この目の前の男、ジンヤに対する評価だった。

確かに見た目が変、というよりも見たこともない男だ。

肌の色は変だし、髪と目の色は黒。

服装は見たこともない謎の服。

 

 

そしてその身に装備している武器の数々が異様すぎる。

全てが一様にして細長い。

長さに違いはあれど、どれも同じ種類の武器になるのかもしれない。

しかし、その武器からは全くモンスターの雰囲気が感じられない。

というよりも、何で出来ているのか全くもってわからない。

 

 

黒い棒のようなものだが……

 

 

共通なのはそれらはみな黒い色をしていて、取っ手の部分に紐が巻かれていることだ。

左腰に装備している二本には、取っ手の上部に丸い金属板がつけられている。

 

 

わからない。この男はいったい……

 

 

今もこうして武器を含めて観察しているが、全く、何一つわからない。

眠っているのか、目を閉じて静かに腰掛けているが……。

その雰囲気も穏やかすぎる。

恐怖も高揚も、何も感じていないのかその雰囲気は特に変化がない。

 

 

そして私自身のこともよくわかっていなかった。

確かに異様な雰囲気を纏っている。

レーファの手紙に書かれていた男だと言うことで興味もある。

だが、それだけでどうしてここまで私がこの男の子とが気なるのか……。

 

 

しかも、ギルドの条約まで無視してまで……。

内心焦るが、私はそれ以上に、この男のことが気になって仕方がなかった。

 

 

……わからないことだらけだな

 

 

そんな内心の私は、思わず小さく溜め息を吐いてしまうのだった。

 

 

竜車に揺られて、レウスが現れたという村に向かっている時、ドンドルマのモンスター売り場の市場が、大騒ぎになっていることを、私たちは当然知ることが出来なかった。

 

 

 

 

~???~

 

 

「おい、あれ本物か?」

 

「見た目が完全にクックだな……。偽物には……見えないが……」

 

「ならあれはいったい誰があんな風にクックを殺したんだ? 武器はいったい何だ?」

 

「俺が知るかよ」

 

 

ドンドルマのモンスター売り場の市場で、誰もが一角に集まり、その目の前の光景に呆気にとられていた。

無論私も呆然とはならなかったが、驚いた一人だ。

私の目の前には、イャンクックの死体が、売り物として鎮座している。

それだけならば別に珍しくも何ともないのだが、そのイャンクックは驚くべき状態でその場に置かれているのだ。

 

 

首が綺麗に切られている……

 

 

そう、そのイャンクックは首が見事と言うほどに綺麗に切られていたのだ。

そして体には他に一切傷が見あたらない。

ハンマーなどの打撃武器で狩ったわけでもないようだ。

鱗も、骨も、傷ついたり折れている箇所が見つからない。

唯一、くちばしだけが何かで殴り壊したような後があるが、それしか外傷がないのでとても不気味に見える。

 

 

「おい! このイャンクックを狩ったのは本当にお前が住んでいる……ユクモ村のハンターなんだな!?」

 

「私も現場を見てないので誰が狩ったのかはわかりませんが……確かに私の村のハンターが狩ったことは確かです」

 

 

複数人数のグループが売り場でイャンクックの素材を売買している店主に話しかけている。

店主はすでに何十回も同じことを問われてめんどくさそうにしていた。

とりあえず驚くのは後にして、私はまず稀少とも言えるイャンクックの頭を買うことにした。

 

 

「店主、この頭はいくらだ?」

 

「頭ですか? 耳やくちばしなどの部位ではなく……ですか?」

 

「そうだ。丸ごと売ってくれ」

 

 

モンスターの内臓が貴重とはいえ、使える内臓と使えない内臓がある。

イャンクックで、というよりもモンスターの内臓で使える部位はほとんどない。

使えない部位は料理の材料にもなるが、ハンターの武器として使える内臓は少ない。

鳴き袋、毒袋、睡眠袋、火炎袋、電気袋、他にもあるが、稀少なものが多いので滅多にお目にかかれない。

それらは省いてもいいだろう。

イャンクックは鳴き袋と火炎袋の二つがとれることもある、ある意味でおいしいモンスターだ。

しかしその内臓は胴体にあり、頭にはない。

もちろん、イャンクックの頭は貴重だ。

くちばしは堅固で様々な道具になる。

耳は装飾品や防具に多用されている。

しかしそれだけだ。

頭の内臓には貴重な物はない。

剥製にして売り物としても売られるが、私の身なりは明らかにハンターだ。

訝しむ気持ちもわかる。

 

 

「店主、これで少し聞きたいことがあるのだが」

 

 

そう言って私はかなり多めな代金を見せた。

もちろん他の連中にわからないようにである。

店主は最初驚いたが、すぐに渋い顔をした。

それだけで私は十分な反応を得た。

 

 

誰かに口止めされている訳か……

 

 

「困らせてすまなかった店主。これは詫びだ。とっておいてくれ」

 

 

私は有無を言わさずに店主に多めの代金を支払い、その場を後にした。

後ろで様々な憶測が飛び交っていたが、私はさきほどの店主の反応だけで十分だ。

 

 

「隊長」

 

 

私が本部に向かって歩いていると、前から部下が走り寄ってきた。

目の前に来て右腕を胸に叩くような敬礼を互いに交わし、私は部下と本部に向かって歩き出す。

 

 

「あのモンスターをどこの村が持ってきたかわかったか?」

 

「はい、ユクモ村から持ち込まれたようです」

 

 

ユクモ村?

 

 

私は脳内の地図を広げた。

ユクモ村はドンドルマからそこそこ離れている田舎村だったはずだ。

そこまで強いハンターは存在しないはずだが……。

 

 

「誰が討伐した?」

 

「どうやらBランクのリーメというユクモ村のハンターが討伐したみたいです。あのイャンクックを証拠にして、つい先ほどAランクに昇格したみたいですが……」

 

「使用武器は?」

 

「どうも片手剣使いのハンターみたいです。先ほど酒場で見かけたときに装備していたのはフロストエッジとボーンブレイドです」

 

 

フロストエッジとボーンブレイド……か

 

 

その二つの武器はどちらもそこまで強い武器ではない。

しかもあのイャンクックのように綺麗に首を切断することなど不可能だ。

ありえないと言ってもいいだろう。

 

 

「他に何か変わった点はなかったのか?」

 

「はい、一応と言うか……」

 

「? どうした?」

 

「いえ、さきほどそのリーメというハンターが昇格する際に、親しげに会話しながらハンター登録をしていた男がいたのですが……」

 

「どうしてそんなに言い淀む? 何か変な点でもあったのか?」

 

「変な点というか……変な点ばかりでして……」

 

 

変な点ばかり?

 

 

「その男は、黒髪黒目で肌の色がなんと言いますが……すごく曖昧な色で、そして装備していた武器がランス並みの細長い黒い棒でして」

 

「黒い……棒だと?」

 

「はい。先ほど酒場にいたのでその場にいたほとんどが目撃していますが、湾曲したランスほどの細長い棒を一本。そして腰回りにそれを短くした武器が三本提げられていました」

 

 

棒を装備したハンター? なんだそれは? しかも黒髪に黒い目?

 

 

全く持って意味がわからないことを言っているが、少なくとも嘘を言っているようには見えない。

それが事実ならば確かに変なところだらけだ。

 

 

となると……その男が?

 

 

本部に着き、誰もが私に向けて敬礼を交わしてくるのを、私も敬礼を返礼しながら、私専用の部屋へ向かおうとした。

 

 

「隊長!! 大変です!!」

 

 

部屋へ入る前に、先ほどとは違う部下が私に声をかけてきた。

しかもあわてて走ってきたのか、随分と呼吸が乱れている。

 

 

「どうした?」

 

「た、大変です!! フィーアさんが勝手にクエストに出かけてしまいました!」

 

 

その言葉に、その場にいる全てのハンターたちに衝撃が走る。

フィーアは一般隊員ながらも、その実力はトップクラスの腕前を誇っている。

訓練では分隊長たちとも互角以上の戦いをして見せて、先日リオレイア討伐に出陣し、見事に他の仲間たちとともにレイアを仕留めていた。

彼女の特徴というか……彼女はとても規律正しい女性で、条約をきちんと遵守している。

他の仲間たちの条約違反も見逃さず、そういった輩には徹底的に罰を下している。

少し頭が固いというか、融通が利かないところがある彼女だが、私自身としてはとても好意を抱く、優秀なハンターだ。

その彼女が自ら条約違反など……。

 

 

「詳しく話せ」

 

「はっ。フィーアさんは、酒場で一人で食事をしていたのですが、ユクモ村から来た、先ほどAランクになったハンターが受注した、緊急クエストに向かった模様です」

 

「緊急だと? 内容は?」

 

「飛竜種、リオレウスの討伐です」

 

「ユクモ村といったな? そのAランクの男とフィーアの他には誰かいなかったか?」

 

「はい、とても奇妙な男が……」

 

 

やはり……なんとなく予想していたが、その通りとは

 

 

「隊長……フィーアさんの処罰に関しては……」

 

 

部下が心配そうな声と顔をしながら、私にそう問いかけてくる。

少々融通の利かないところのあるフィーアだが、彼女は隊員にとても慕われていた。

そんな彼女が条約違反をしてしまったのが信じられないというのと、処罰がほとんどないことを願っているのだろう。

私はその部下に、ユクモ村のハンターの帳簿を持ってくるように命じると、今度こそ私の執務室に入り、中にあるソファーへと腰掛けた。

 

 

ユクモ村……か……

 

 

私は部下の報告に上がっていた、奇妙な男に関して思いを巡らせる。

見たこともない恰好をした男だというが、髪、目の色や武器、その他に特徴はないのか?

そう思案していると、先ほど頼んでおいた資料がやってくる。

私はそれに対して礼を言うと、その資料を読み漁り始めた。

 

 

Aランクに昇格したのはこいつで、先ほど登録したのは……こいつか

 

 

私は資料の二枚を選び出し、その二枚を机の上に並べた。

 

 

Aランクハンター、リーメ。そして登録したばかりの新米ハンタージンヤ

 

 

確かに部下たちの話通り、リーメという男は片手剣を使用しているようだ。

イャンクックを討伐して先ほどAランクに上がったばかり。

 

 

そして問題の男、新米ハンターのジンヤ

 

 

残念ながら文だけの資料では、得られるものはほとんどなかった。

名前と使用している武器の種類、出身の村のことしか書かれていないのでは、お手上げだ。

ただ、村長の下、基礎講習習得済み、というのが気になった。

 

 

村長の下で講習を受けたにも関わらず、どうして村長経由でハンターにならない?

 

 

確かにユクモ村は比較的近い。

だが講習を村で受けてハンター登録だけドンドルマで……というパターンはほとんどしないはずだ。

 

 

何か急ぐ必要でもあったのか? そして先ほどの店主のあの反応……

 

 

店主の反応から、ユクモ村の村長が何かを隠そうとしているのは事実だろう。

そこで私はユクモ村の奇妙な噂を思い出した。

 

 

ランポスを素手で百匹殺したという男……

 

 

証拠とでも言うようにユクモ村が大量のランポス素材を売りに来ていた。

私はその売り場には向かわなかったが……。

 

 

とりあえずフィーアの帰還待ちだな

 

 

フィーアがその男についていったのは、条約違反とはいえむしろ幸運だったのかもしれない。

私はいったん考えるのをやめると、残っていた書類仕事を行うために、執務机に向かった。

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

村に到着し、私たちはすぐに竜車から降りると、思い思いの行動を行う。

風が随分と不安定だ。

分厚い雲が空を覆っているので、日も差さない。

すぐに降り出してくる気配はないが、あまり狩りの状況としてはよくない環境だ。

 

 

用心しないと

 

 

リーメは雇い主である村長との会議。

謎の男は畑仕事の合間に体を伸ばしているように、随分と呑気に体を動かしていた。

私も一通り体をほぐすと、男に近寄る。

 

 

「おい、そこのお前」

 

 

声を掛けるのが、何故か少し勇気がいった。

不思議に思うがそれを無視する。

 

 

「名前は?」

 

 

端的に問いかけるが、男から返事がない。

言葉が通じていないのか、疑問に思い再度問いかけようとするが……。

 

 

『まずは自分の名前から名乗ったらどうだ?』

 

 

と、聞いたこともない言語でこちらに話しかけてきた。

当然私には何を言っているのかわからない。

それから口を開こうとしないので私はこの男が名前を言う気がないことがわかった。

それに気づいてすぐに睨みつけてやるが、男はどこ吹く風だった。

 

 

……嫌みなやつだ

 

 

もう一度、今度は脅しながら名を聞こうとすると、村長との話が終わったのか、リーメが慌ててこちらやってきた。

 

 

「ジンヤさん! フィーアさん! 何をやっているんですか!?」

 

 

私たちの間に入るようにやってきて、悲鳴にも似た声を上げている。

どうやら争いごとが苦手なのは全く変わっていないようだ。

 

 

「村長さんから事情を聞きました。リオレウスはどうやら、ここから見えるあの山の山頂に巣を作ったみたいです」

 

 

リーメはほとんど私に向けてそう言っていた。

ジンヤという男には、顔を向けてすらいない。

そう言い終わると、リーメはすぐにジンヤという男のそばに行くと、レウスと単語で言った後に先ほど指さしていた山を再び指さす。

 

 

言葉が通じていないのか?

 

 

そういえば酒場でもほとんど簡単な単語でしか会話を行っていなかった気がする。

ジンヤと呼んでいる男に思案を巡らせていると、男は一瞬、殺気を漏らすと、さっさと一人でその山の方に向かって歩き始めた。

 

 

「あ、ジンヤさん!? 待ってください!」

 

 

勝手に歩き出したことに驚きながらもリーメは慌てて男の後を追った。

随分とジンヤというやつになついているようだ。

 

 

レウスの討伐を受注したり……そんなにすごい男なのか?

 

 

私が知っていたリーメならばレウスを狩ろうとするわけがない。

先ほどからリーメの様子を見る限り、私が村を出る前から性格はほとんど変わっていないようだ。

そうなるとこの男がレウスを討伐したかったのだろう。

 

 

イャンクックを倒したとはいえ……無謀な

 

 

もう私は、このジンヤがイャンクックを殺したということを納得していた。

こいつならばそれが出来ると、わかってしまった。

しかし、イャンクックとレウスでははっきり言って天と地ほどの差がある。

 

 

きっと舞い上がっているんだろうな……

 

 

そう思った私は、この二人の代わりにレウスを始末しなければならないことに思わず溜息をついていた。

 

よく考えるべきだったのだ。

イャンクックを倒せた、というだけで、リーメがこんな自分では絶対に討伐できないレウスのクエストを受注するわけがないのだ。

この後私はすぐに、この男の恐ろしさを知ることになる。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

ドンドルマから竜車に揺られて三時間。

やってきましたどっかの村!

名前がわからないので名前は省略。

俺は竜車から降りると、幌に掛けておいた狩竜を取り出し、体中をほぐしだした。

三時間も座りっぱなしだったので、体中がばきばきと音を立てる。

 

 

「おい、そこのお前」

 

 

そうしてほぐしていると、竜車では全く話しかけてこず、じっと俺の方を観察していた飛び入りの女ハンターが俺に話しかけてきた。

 

 

「名前は?」

 

 

話しかけて理解できたが、応えてやる気にならない。

 

 

「まずは自分の名前から名乗ったらどうだ?」

 

 

俺が普通に日本語をしゃべるが、当然理解できていない様子。

いい加減自由にこの世界の言語話したいもんだ。

相手も迷惑だろうし、俺自身がとても不便だ。

俺の言葉に訝しげな表情になるが、最後問いただそうとする前に、リーメがこちらに来て間に入ってくれた。

さすがにリーメが仲裁に入っては相手としても止まらざるを得ないようだ。

それからリーメが何か言っているがわかりゃしない。

しかしさすがにレウスという単語はわかった。

それからすぐにリーメがここから見える山の山頂を指さす。

 

 

どうやらあそこにいるみたいだな……

 

 

山頂、となると巣でもあそこに造ったんだろう。

ここまで近いとなるとなると村としても恐怖以外の何物でもないんだろう。

だからわざわざドンドルマまで行って討伐を要請したんだろう。

方向がわかればこちらのもの。

俺はすぐに前回の戦闘で、レウスの左目に投げたスローイングナイフの気を探ると、すぐに見つかった。

 

 

間違いない。俺のナイフの気配がある

 

 

レーダーになるように相当気を込められて投げたからさすがに半月も経ってないので消えなかったようだ。

俺はすぐに山頂に向かって歩き出した。

 

 

「あ、ジンヤさん!? 待ってください!」

 

 

勝手に歩き出したにも関わらず、リーメは特に怒ることもなく、慌てて俺の後についてくる。

フィーヤとやらは最初はその場に立ちつくしていたが、すぐに俺の後についてきた。

器用に重そうな武器を持ち、弾丸を込めている。

膂力は十分あるみたいだ。

 

 

これなら安心できるか……

 

 

無論リーメの子守的な意味合いである。

昔からの知り合いなのだから、そう簡単に見捨てるようなことはあるまい。

先ほどからあの女を観察したが、そんな人間には見えない。

というよりもむしろ逆のタイプだろう。

レウスの気配を感じたのか、狩竜が微細に震えている。

 

 

気持ちは同じだ……狩竜よ。さぁ始めようか……

 

 

狂喜にも似た嬉々とした気持ちで、俺は足早に山へと向かう道へと、歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

~フィーア~

 

 

歩くの速いな……

 

 

私は自慢のガンランス、マリンフィッシャーを担ぎなおしながら、先行する男を見る。

あの男の武器は数が多いとはいえ、細長いのでそこまでの重さはないのかもしれない。

また、男が着ているのはどう見ても重そうに見えない。

そのせいなのかその足取りはとても軽快だった。

対して私は全武器の中でも一番重いガンランスに、結構な重量を誇るレイア装備だ。

体力にも持久力にも自信はあるが、さすがにこの森の中ではきつかった。

リーメもハンター装備とはいえ武器が大剣と片手剣の二種類を装備しているので重そうにして歩いている。

 

 

こちらのことも考えろ……

 

 

呪詛にも似た気持ちで歩いていると、突然視界が開けた。

どうやら森を抜けて草原へと出たらしい。

ちょうど上から見て円を描くようにぽっかりと草原が広がっていた。

ようやく足下が平らになると、私とリーメは一安心した。

 

 

「リーメ……あの男に少しは他のやつのことも考えろと言ってやれ」

 

「む、無理です……」

 

 

私は少しきついくらいだが、リーメはもうすでに限界近いみたいだ。

いつレウスが現れるかわからないので緊張して余計に疲労が早いのだろう。

ジンヤという男がどういうやつなのかはわからないが、ここまでの勝手な行動から鑑みるに、あまり協調性はなさそうだ。

いざというときは私がリーメを守らなければならないそう思っていた。

 

 

「ゴアァァァァァァ!」

 

 

そうして二人で少しへこたれていると、どこかからか咆吼が響く。

それを聞いた瞬間に、私は素早く背中に装着しているガンランスを右手で持ち、厚さを減らして軽量化した盾を左手に装備する。

リーメも慌てながら腰からフロストエッジを抜きはなっていた。

しかし、モンスターの咆吼が聞こえてきたにも関わらず、男は何もせずにただ目を閉じて突っ立っている。

 

 

「おいお前! 武器を構えろ!」

 

 

言葉が通じていないのは先刻承知済みだが、それでも私は叫ばずにはいられなかった。

敵がどこにいるかはわからないが、少なくともすぐそばにいるはずなのに、男は突っ立ったままだ。

 

 

恐怖に震えているのか!?

 

 

私が男の肩で突き飛ばそうと近寄ろうとしたその瞬間、ゾクッと殺気を男の左側から感じた。

 

 

くる!!

 

 

私は殺気を感じたその森の方と相対するようにして、男とリーメの前に出た。

 

 

火球を吐かれては厳しいが、それでもリーメの盾よりは大きく、ジンヤとやらの武器よりは防げる!

 

 

盾を持つ手に力が入る。

足手まといと言える人間が二人いて果たして無事に帰れるか不安だったが、レイアをすでに三頭葬っている私だ。

何とかなる。

 

 

そう覚悟を決めていると、突然後ろからドン、と背中を押された。

前方のみに集中していた私は、その力に耐えられず前へと転んでしまう。

突然すぎて私はガンランスを取りこぼしてしまった。

前転してどうにか地面に倒れ込むのを回避すると、後ろを振り向く。

するとリーメも同じように押されたのか、私とは反対側の方向へと地面にうつぶせになっていた。

吹き飛ばすような力で押したのか、リーメは五メートルほど先ほどの位置から突き飛ばされていた。

 

 

何をする!?

 

 

そう抗議するように叫ぼうとしたが、その言葉は発する前にしぼんだ。

男が先ほどまで自分たちが歩いていた、後ろの森へと体を向き直っており、そして静かにあのランス並みに長い武器を地面に静かに置いていたのだから。

 

 

武器を捨てた!?

 

 

あまりにも馬鹿げた行動に私は呆気にとられてしまう。

そうしていると、すぐに後ろの森、先ほどまで私たちが歩いてきていた、森の木々の上すれすれから、なんとレウスがこちらに飛翔してきていた!

 

 

「グアァァァァァァァ!」

 

 

馬鹿な!? 殺気は確かに私がいた方から……

 

 

先ほど感じたあまりにも重厚な圧力は間違いなく殺気のはずだったのに、レウスは私たちの後方から向かってきていたのだ。

男はただ一人それに気づいて私たち二人を突き飛ばして攻撃から庇ったのだ。

だが、その後自分が回避する余裕も十分にあったはずだ。

なのに何故?

 

 

その疑問に答えるわけではないだろうが、男はレウスと激突するほんの少し前に、ほとんど予備動作なく跳躍した。

 

 

な!? 上部に跳んで回避した!?

 

 

私の驚きをよそに、レウスの頭の上でしゃがみ込むと、左目に刺さっている何かに一瞬だけ触れた後、すぐに再び跳躍する。

しかしそこからレウスはすごかった。

敵が尻尾を通り抜ける前に、尻尾を上部へと上げて、男の進路を塞いだのだ。

 

 

当たる!?

 

 

障害物を置いただけとはいえ、レウスの飛行速度は相当速い。

そんな速度でぶつかっては尻尾のとげに刺さって大怪我をしてしまう。

しかし、男もただ者ではなかった。

 

 

『二度も同じ手はくわね~よ』

 

 

何事か呟くと、あり得ないことに何もないはずの空中でさらに跳躍した。

 

 

「「え?」」

 

 

あまりにも不思議な現象に、私もリーメもそろって間抜けな声を上げてしまった。

レウスは尻尾が当たらなかったことに悔しそうにうなりながら、再度飛翔し、低い雲の中に隠れてしまった。

風が吹いているせいで敵の羽ばたきの音は消され、雲によって視界も若干悪い。

はっきり言ってよくない状況だ。

相手がレイアのような陸上での活動が主体なモンスターならばまだ簡単だったが、飛行による、空襲、奇襲が得意なレウスにとって、この環境は最高な状況だ。

しかも周りが森に囲まれているので、この暗い天候では木々の上すれすれを飛ばれると視認が困難だ。

いったん引き上げて天候が回復するのを待った方がいいと思い、ガンランスを拾い、男に駆け寄ろうとしたが、その足が止まった。

 

いや、止められた。

 

 

ブワッ!

 

 

こ、この重圧にも似たのは……殺気!?

 

 

男が先ほど地面に置いた細長い棒の紐が巻かれている部分を右手で持つと、左手で真っ黒な場所を持ち、その左手を上部へと持って行く。

するとそこには、鏡のように銀色に輝く鉄が姿を現した。

 

 

な!? 武器の入れ物だったのか、あの黒いのは!?

 

 

男は私の驚きなど気にもせず、その左手を勢いよく上にやると、まるで打ち出されるようにその入れ物が宙を舞った。

そして武器の入れ物から解放されたその武器は、今まで見たこともないほどに美しく、この曇天おいてもなお銀に輝く全身が露わとなった。

 

 

……き、綺麗

 

 

思わず見惚れてしまいそうなほどに、その武器は、今まで見たこともないほどに美しかった。

男はその武器の銀に輝く部分を口にくわえ、先ほど宙に投げた入れ物を掴むと、それをいくつかの部分で折りたたみ、背中に装備していた黒い布に縛り付けるように固定した。

戦闘準備が終わると、男は再度右手にその武器を持ち、そのあまりにも長大な武器を右手で振るった。

 

 

ヒュン!!

 

 

この風が吹く中でも、その武器が空気を切り裂く音は明瞭に私の耳に届いた。

あの長い武器を軽々と扱うことにも驚いたが、それ以上にそのことが私には驚きだった。

 

 

『さあ、始めようぜ! 第二幕にして終幕を!! 頼むぜ相棒……狩竜!』

 

 

先ほど同様男が何を言っているのかわからなかったが、その身からあふれ出てくる殺気が雄弁に戦うことを物語っていた。

そしてその男の言葉に反応するように、男の武器が淡く発光する。

 

 

「……本当になんだあの武器は!?」

 

 

あまりにも理解不能なことの連続で耐えきれずに思わず私は叫んでしまった。

 

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

皮肉とでも言うのか、俺が前回投げて差したスローイングナイフに込められた俺の気は、予想以上に残留していたみたいで、ある程度近づくと、明確に俺にレウスの位置を告げてくれていた。

そのおかげと言うべきなのか、俺は敵の奇襲を事前に察知し、難なく躱して見せた。

が、このままでは復讐……というよりも前回の意趣返し……意味同じだった……になりはしない。

俺は跳んで回避するついでに敵の頭に着地して一瞬だけ俺のナイフへと触れる。

その時、ナイフの残留していた気を残らず吸い出して、ただのナイフへとする。

これでレーダー的な役割を果たすことはない。

そうしてレウスの頭で再び跳躍すると、前回と同じようにレウスが俺の進路上に尻尾を上げてきた。

が、二度も同じ轍を踏むほど俺も馬鹿ではない。

 

 

「二度も同じ手はくわね~よ」

 

 

俺の足下に気の力場を発生させて、再び跳躍する。

さすがの怪奇現象とでも言うべきこの行為には、二人から驚きの声が上がる。

それにも俺は一切取り合わず着地すると、地面に置いた狩竜を持ち、鞘を上に打ち上げるようにして抜刀した。

長すぎて普通には抜くこと出来ませんからね。

抜いた後、俺は狩竜を口にくわえていったん手放すと、降ってきた鞘を受け止めて、仕込んでいた折りたたみ機能を使用して短くし、背中の鞘のシースに縛り付けて固定した。

そして狩竜を軽く振るった。

空気を切り裂く音が俺の耳朶を打ってくる。

その音がさらに俺の興奮を高めてくれる。

 

 

「さあ、始めようぜ! 第二幕にして終幕を!! 頼むぜ……狩竜!」

 

 

準備が全て整ったのを確認して、俺は終幕を高らかに宣言して、俺は右肩に狩竜の峰を乗せて、楽に構える。

すると挑発が効いたわけではないだろうが、レウスが再び木々すれすれに飛翔してきて、俺に気を当てて、錯覚を起こさせようとする。

しかし、敵が気を扱うことが出来るとわかってしまった以上、よくよく探れば殺気の大本がわかる俺にはもはや無意味!

避けるだけではつまらないので、俺はレウスのちょうど上で俺の足が上に、つまり空中で逆立ちした状態になるように跳躍する。

そしてレウスが真下に来た一瞬前に力場を俺の足下……上空に向かって発生させると、その足場を利王して気を使って超跳躍を行うと、その勢いを乗せて、レウスの背中に強烈な蹴りを浴びせてやった!

 

 

ズガン!

 

 

「グワァァァァァア!?」

 

 

今までこんな経験などありはしなかったのだろう。

レウスが困惑の声を上げている。

そのまま地面に激突し、勢いが殺しきれずに十数メートル先へと滑っていってしまう。

俺は蹴りを放ったままレウスの背中に立ってちょっとしたサーファー気分を満喫した後、レウスから跳躍して、敵の前方数メートルの距離に着地すると、狩竜を器用に肩に乗せて安定させ、大げさに肩を竦めてやった。

 

 

「一芸しかないのか? 種の割れた技は何度も通用しないんだぜ?」

 

 

無論、俺の言っていることが通じているわけではないだろうが、レウスは立ち上がると、俺に向かって突進を仕掛けてくる。

 

 

「ゴワァァァッァァァ!」

 

 

しかも自分が焼けるのもかまわないと言うほどの距離で、火球まで吐いてきた。

俺はあえてその火球を狩竜でなぎ払わずに、左手で受け止めてやった。

気を手のひらを中心に前方に俺を覆うように半円に展開。

それとぶつかった火球は俺が展開した気壁に遮られ、俺に当たることなく後ろへと流れていく。

敵がそのまま突進をしてくるのかと思ったら、なんと、俺の少し前で回転して、突進の勢いを乗せて自慢のとげとげした尻尾を振るってきた。

 

 

ゴォッ!

 

 

風がうなるほどの攻撃。

重さと速度からいって、当たれば確実に吹っ飛ばされて THE END だろう。

が、慌てる必要など皆無。

俺は狩竜を右手で掴むと、左手を柄頭に軽く添えて、長大な野太刀を俺と尻尾の間に滑り込ませるようにすると、それで敵の尻尾をまるで下から上に受け流すように振るうと同時に、尻尾の一番細いところを切断して、尻尾と永遠におさらばさせてやった。

 

 

「ギュアァァァァァ!?」

 

 

……結構堅いな

 

 

見た目の柔らかさとは裏腹に、下側の皮だけっぽそうなところも十分に堅かった。

あまり気を十分に込めていなかったとはいえ少々意外。

 

 

レウスは最初こそじたばたしていたが、すぐに立ち直り、こちらを向くと、口を大きく開けて、こちらに向かって咆吼してきた。

 

 

「ゴアァアァァァァァ!!!」

 

 

その場の空気を残らず振るわせるほどの悲鳴が、木霊する。

それと同時に敵から噴出される怒気と殺気、おまけに気の量が増える。

 

 

まぁ端的に言うと怒ったわけですね

 

 

再び突進しくるレウスの動きも先ほどよりも遙かに速い。

当社比較1.4倍! 攻撃力もきっとそれくらい上がっているに違いない!

 

 

俺は突進を再び上空に跳ぶことによって回避し、体の向きを反転させながら、レウスの背中に向けて狩竜を振るった。

 

が……

 

 

ギンッ!

 

 

「む!?」

 

 

予想外にも、狩竜が弾かれた。

敵の鱗だけでなく、その身に纏う気壁も随分と強固なようだ。

気を纏っているその密度が先ほどよりも遙かに高い。

大きいだけあって、気の総量は俺よりも遙かに上回るようだ。

尻尾が斬られたことによって、防御力を上げようと思ったのかもしれない。

 

 

敵との距離がだいぶ開けた。

レウスは俺に向き直ると、頭を振りかぶり、また火球を吐いてくる。

 

 

「ガァァァァァア!」

 

 

飛来してくる火球も先ほどよりもさらに威力が高くなっている。

敵としても必死なようだが……逃げるという選択肢はないようだ。

 

 

というか、だいぶ必死? 何で?

 

 

敵の怒気に紛れて、どこか必死な感じがしてきているのだが。

しかし考えている余裕もない。

というか一瞬考え込んだその隙を突いて、レウスはその翼をはためかせて、遙か頭上へと飛翔した。

 

 

「あらま?」

 

 

それから再び遠くへと飛んでいき滑空攻撃をしてくるのかと思えば、その場に滞空しだした。

何をするのかと不思議に思っていると、そのまま火球ブレスを連発しだした。

 

 

「げ、面倒な……」

 

 

速度も威力も上昇しているが、それでも大して速くない。

俺はそれを普通に避けながら、どうするか考える。

 

 

まぁ相手よりも高く跳躍して狩竜叩きつければいいんだけど……

 

 

と、呑気に考えていたその時……。

 

 

『目を閉じろ!』

 

 

その叫び声とともに、後ろから先ほどまで全く不参加だった女、フィーアが俺に駆け寄ってくると、なんか玉みたいなのを投げた。

それは数メートル先へと進むと、目を潰さんばかりの眩い光を放った。

 

 

閃光弾!?

 

 

よもやこの世界にそんな物があるとは思わなかった俺は、それに対する防御が一瞬遅れた。

少し目が痛くなったが、問題なさそうだ。

そしてその光をレウスはもろに浴びて、方向感覚を失い、そのまま地面へと落下した。

幸い高度がそこまで高くなったおかげでたいした怪我は負ってない様子。

そのレウス目掛けてフィーアが盾を背中に装着して動きやすくなった状態で、右手でランスを構えて突撃していた。

 

 

人の獲物に何しやがる!?

 

 

俺は走ってレウスと女の間に入り込むと、女のガンランスの先端部分の鱗の固まりのようなところを左手で掴み、動きを止めた。

 

 

『な、何……』

 

「お前、見てるだけ! 邪魔!」

 

 

決闘とも言えるこの戦闘を邪魔されたので俺は半ば切れそうになりながら、俺はこれ以上一歩も進ませないように体に力を入れる。

ついでに簡単な単語を女に向けて怒鳴ってやった。

 

 

お前としては援護してるんだろうがこっちとしては迷惑なんだよ!!!

 

 

こういってやりたい気分だが、話せない。

言語の壁が厚すぎると思える今日この頃。

 

 

『な、何をする!? 目が回復しきらないうちに……』

 

「言ってる意味なんざわかりはしないから喚くな女! 邪魔をするな!」

 

 

最後の邪魔をするなだけ通じるように現地語で怒鳴ってやった。

そうこうしているうちにレウスが目を回復させていったん待避のつもりで空へと舞い上がっていく。

が、殺気や怒気が消えていないところを見ると逃げるつもりはないようだ。

飛翔しながらもこちらに常に殺気を放ってきている。

 

 

『お前は馬鹿か!? 敵が再び飛翔しないように閃光玉で動きを止めたのに!?』

 

「だから聞こえないんだよ!? 頭に脳みそあんのか!? 邪魔! 見てろ!」

 

 

先ほど同様、最後の方の簡単な単語だけわかるように現地語で怒鳴る。

未だに怒っていたようだが、女は呆れたように怒鳴り散らすと、リーメがすでに避難している森の中へと向かっていった。

 

 

俺はそれを見届けてようやく安心して、再度レウスへと意識を向けるが……

 

 

殺気が消えた?

 

 

先ほどまで向けられていた殺気が完全に消失していると思ったが、微かに感じるだけで方向が掴めない。

なんと相手は野生動物であるにも関わらず、完全ではないにしろ、殺気を消失させる術まで身につけているようだ。

 

 

敵ながら天晴れだ!

 

 

俺はあえて平原の中心部へと静かに歩いていく。

内部の気を前回のドスランポスの時のように、極限まで練り込みながら……。

 

 

気のみで切断できたあの時。

あれは間違いなく俺が人生の中で最強レベルまで精神が集中していた時だった。

つまり、言い換えればあの時の戦闘力が、俺の今の最高レベルということになる。

 

 

あの状態にいつでもなれなければ意味もなし

 

 

俺はあの時……最後のドスランポスとの戦闘の心理を意識して再現し、夜月をイメージして込めた気を、右手に握る狩竜に込めていく。

 

 

キィィィィィィィ!

 

 

それに呼応して、狩竜が淡く白く発光していく。

辺り一帯を照らすほどの光量を放つ。

それを徐々に徐々に精錬していき、刀身内部に込めていき、それとは別にとても薄く……紙よりも薄い気で刀身を纏う。

 

 

キィン!

 

 

一瞬強く発光すると、狩竜は穏やかな光を纏ったまま、静かに決戦の時を待つ。

 

 

そして俺の準備が完了したその瞬間、なんと四方から俺に向けて今までの層倍の殺気が俺を襲う。

 

 

ほ!? お前本当に野生生物か!? 稚拙とはいえ、同時に殺気を放つとは!!

 

 

一瞬驚いたが、それも所詮は一瞬。

俺は正確に敵が飛翔してくる方向へと体を向き直らせると、狩竜を大上段へと構えた。

 

 

「ゴアァァァアァァァァァァ!!!!」

 

 

雄叫びとともに、レウスがこちらに飛翔してくる。

そして前回と同じように俺の数メートル前で火球を放ってくる。

しかし、俺はそれを受けず、先ほどと同じように、宙で逆立ちになるようにして跳躍し、回避した。

 

 

気の総量では確かに負けている。

だが、総量で負けたらそれは勝負の敗北へとつながるのか?

 

 

否! それは違う!

 

 

武器を多く持っているから勝てる訳ではない!

それを使いこなしてこそ、勝利は訪れるのだが!

つまり気の総量で負けていても、それに打ち勝つことの出来る最強の一撃で攻撃すればそれでいい!

 

 

そこまで込めていない通常の狩竜の力だったとはいえ、俺は再びお前を侮った……侮った詫びと、俺に……俺自身が慢心していたということを教えてくれた返礼に、俺も命をぶつけた最強の攻撃でおぬしを……葬ろう!

 

 

「あばよ……火竜。縦閃」

 

 

そう言い放つと、俺は大上段に構えていた狩竜を宙に浮いたまま勢いよく降った。

 

 

フヒュゥゥゥン!

 

 

それは何の抵抗もなく振り切られると、レウスを通り抜け、その狩竜の勢いと重さで俺は空中で一回転する。

その回転で地面に足を向けた形になった俺は、狩竜を上に投げ捨てると綺麗に地面に着地して狩竜の鞘を組み立てる。

そしてその鞘を地面に立てると、そこに吸い込まれるように狩竜そのものが綺麗に鞘へと収められた。

 

 

キン

 

 

鍔はつけていないが、切羽《せっぱ》はつけているので乾いた金属音があたりに響く。

 

 

バッ!

 

 

その音につられるように、レウスの体が見事に身中線(体の左右の中心線)になぞるように真っ二つになった。

 

 

「なっ!?」

 

「え?」

 

 

森の方から驚愕の声が聞こえてきます。

が、それはどうでもよく。

俺はレウスの死骸に近寄ると、先ほど弾かれた鱗は、特につぶれた様子もなく綺麗な断面で見事に真っ二つになっていた。

狩竜にも、気の感触から言って刃が欠けたり、潰れてはいないようだ。

 

 

完全勝利!

 

 

俺は心の中でガッツオーズを取ると同時に、敵に対して静かに頭を下げた。

その時だった。

 

 

キィン

 

 

「ん?」

 

 

俺も狩竜も、何かを感じた。

 

 

何だ?

 

 

俺はその何かを探して辺りを見渡すと、それを見つけた。

 

 

「尻尾?」

 

 

そこには先ほど斬った尻尾が鎮座していた。

尻尾の内部から何かを感じた俺はそれに歩み寄る。

すると、尻尾の内部からとても強い何かを感じた。

 

 

ふむ……

 

 

気になった俺は、狩竜をいったん地面に置くと、水月を手に取り、その気になる部分の周囲をささっと斬った。

そしてそれを持ち上げると、尻尾に綺麗な真四角の穴が空く。

そのブロック状の切り取った中に何かがあるので、俺はそれを斬らないように周囲の肉を剥ぎ取るように切り取った。

 

 

「……これは?」

 

 

さすがにここまで斬ると、それがなんなのかがわかった。

手のひらほどの大きさの紅玉だ。

俺はそれを尻ポケットに入れてある血ぬぐい用の手ぬぐいで軽く引き取る。

するとそれはまるで燃え盛んばかりの光を発した。

 

 

あつ!? ……いや? そう感じるだけ?

 

 

それは魂に訴えかけるような発光を繰り返す。

そしてそれは、山頂の方へと、俺を導いているようだった……。

 

 

……行ってみるか

 

 

それが妙に気になった俺は、討伐が終わって呆気にとられていたリーメに、大声でこう言った。

 

 

「すまんリーメ、ユクモに先帰れ! 用事ある! これ、好きにしろ!」

 

 

俺は大声でリーメに向かって叫び、レウスを指さしながら頭を下げた。

また放置していく形になったが、今度はフィーアとやらもいるし大丈夫だろう。

俺はそれだけ大声で叫ぶと、狩竜を右手に持ち、左手に紅玉を持って、気になる場所、山頂へと足を向けていた。

 

 

 

 

「ここか?」

 

 

紅玉が必死に何かを訴えかける場所、山頂の登頂付近の穴の中へと俺は入っていった。

気配からしてモンスターの類はいないようだ。

が、とても弱々しい、何かが脈動しているのを感じた。

それに導かれるように俺は洞窟の中をゆっくりと進んでいくと、妙に広く、そして明るい場所に出た。

 

 

上の方が一部、レウスが通れるくらいの穴が空いており、そこから薄暗い雲が顔を出している。

これが光源となっており、洞窟を明るく照らしていた。

何かの骨が床一面に散らばっており、そこら中にまき散らしたかのような血痕があった。

そして奥の方に草が編まれている巣があった。

 

 

レウスの巣か? そういえば村の近くに巣を作ったレウスの退治が目的だったか……

 

 

俺は一人で納得すると、洞窟内部を散策する。

脱皮でもしたのか、骨だけでなく、レウスの気が枯渇した鱗も所々散らばっている。

俺はそれには目もくれずに、草が編んである寝床へと足を進める。

するとそこに、一抱えあるほどの大きな卵が……

 

 

でん!

 

 

と鎮座していた。

 

 

「紅玉が気になっているのはこれか?」

 

 

俺は寝床へと足を踏み入れると、卵に手を当ててみる。

すると、とても弱々しいが確かに、命の脈動が俺の手に響いてきた。

レウスが必死だったのはどうやらこれらしい。

 

 

「生きてるのか……」

 

 

いや、生まれてないのに生きてるのかよ? と言われたら俺も返答に窮しますがね?

 

 

とりあえずこの卵はまだ死んでいなかった。

確かに内部に新たな生命の息吹を感じた。

 

 

……壊すべきなのだろうか

 

 

俺はそれにすごく悩んだ。

生きているのだ……。

必死に生まれようとしている。

それを生すら与えずに殺すのは……俺には出来なかった……。

 

 

持って帰るか……

 

 

都合がいいことに、勝手ではあったが先ほど俺はリーメに先に帰れと言っておいた。

まぁ俺の方が先に帰るかもしれないがそんなことは瑣末なことだろう。

俺は左手に持っていた紅玉を、村長からもらったポーチに無理矢理突っ込んだ。

それから空いた左手で抱えるように卵を持つと、俺は入ってきた入り口から、ユクモ村へと直接帰るべく、走り出したのだった。

 

 

 

 

卵を抱えていたので、だいぶ時間がかかり、俺がユクモ村へ着いたのは、真夜中だった。

村に入った瞬間に気配を探ると、リーメはすでに無事に帰ってきているようだった。

俺はそのことにほっとしつつ、見つかると何を言われるのかわからないので、抜き足差し足忍び足で静かにリオスさんの家へと入る。

そして極力音を立てずに自室へと入ると、ようやく一息ついた。

 

 

「ふう。疲れた」

 

 

俺は音を立てないように静かに狩竜を造っておいた壁のフックに掛けると、ベッドへと歩み寄り、静かに卵を置いた。

実は結構重かったり……。

ついでに本日の戦利品である紅玉もそばに置いてあげる。

そうして残りの刀も置こうと机に歩み寄った瞬間に座っていたやつに気づいて、俺は思わず飛び上がるほどに驚いてしまった。

 

 

「レ、レーファ?」

 

「ん、んぅ。ジンヤしゃん?」

 

 

どうやら俺が帰ってくるのを俺の部屋で待っていたようだ。

机に突っ伏していたレーファが、俺の声に気づいて身を起こした。

 

 

普段寝起きが悪い癖にこちらの都合が悪いときはすぐに起きやがる!

 

 

内心慌てそうになるが、平静を装い、俺の体でレーファから卵が見えないような立ち位置に立ち、レーファに声を掛ける。

 

 

「待ってた?」

 

「待ってました。リーメさんは帰ってきたのに……ジンヤさんがいないから」

 

 

なら男の部屋で待たないで自分の部屋で待ちなさいこの小娘! もしも俺が変態趣味の男だったらどうするの!?

 

 

こう叫びながら説教したい気分だが、当然そういう語学力もないし、怒っている余裕もない、そしてそういう趣味など微塵もない。

俺は無駄に爽やかな笑みを浮かべながら、レーファの脇に手を入れて優しく、限りなく優しく立たせてやった。

 

 

「待ってて、ありがとう。レーファ、部屋で寝ろ」

 

「う~嫌です。言いたいことが……」

 

 

ピキッ

 

 

その時、俺はこの世が理不尽と不条理に満ちていることを再確認した気分だった……。

 

 

「え? 今の音何?」

 

 

そして再びこういうときに限って限りなく寝起きがいいですねぇレーファさんんんんんんんんん!!!

 

 

ピキ、ピキ 

 

 

だんだんと卵に亀裂が入っていく。

さすがにもう隠すことなんぞ出来はしない。

というよりもレーファが俺が止めるよりも速く音の発生源に気づいてしまいました。

 

 

っていうか卵って暖めないと孵化しないんじゃ……

 

 

そこで俺は卵のそばに置いた紅玉が、発光ではなく気を使っているのがわかった。

 

 

てめぇの仕業かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 死んだはずなのに意志でももってんのかレウスの紅玉!?

 

 

当然俺の心の声など聞こえるはずもなく……それは無情にも、完全に割れた。

 

 

パキャン!

 

 

「キュー……キュルルル」

 

 

羊水なのかどうかは不明だが、だいぶしっとりとした液体に包まれた飛竜が生まれちゃったw(もう笑うしかないw)

 

 

それは小さいながらも真紅の鱗に包まれた、赤ちゃんレウスそのものだった。

 

 

「クゥ~、キュル?」

 

 

それからもう見えているのかどうかわからないけど、レウスはまっすぐに固まっている俺を見つめてきた。

 

 

わぁ~かわいいなぁ~~~~~~(現実逃避)

 

 

俺はものすごく無垢な瞳をしてくるレウスの瞳攻撃に耐えられず、そばへと歩み寄ると、その頭を優しく撫でてあげた。

 

「ジ、ジンヤさん……これって」

 

 

レーファがとっても震えながら震える指でレウスを指して、震える声で俺に問いかけてくる。

フルフル震えて、バイブレーションかよ~。

 

 

「…………………………………生まれちゃった」

 

 

通じるかどうか不明だが、俺は思わず苦笑いしながらレーファに向けてそう言った。

 

 

 

 

 

 

これが、俺が後の生涯をともにする飛竜種、リオレウスが生まれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




第一部終了まで後一歩。
これで後はユクモ村を○おこしをし始めたら第一部は終了だぜ!


日本人として、ど~しても耐えられないことにずっと我慢してた刃夜。
だがしかし、ついに耐えきれなくなった刃夜は、この世界にない文化を開拓(本人にその気はまったくない)するために、ピッケル持って山へと向かう!
硫黄の香りを頼りに、ピッケル振るって○○を掘り当てる!

そしてそれに続いて食生活にも切れた!
こ○、み○、しょう○がないと日本人は生きていけないんじゃ~!!!!!(作者の持論)

隠された知識、○んぼを作りで、れっつお○め作り!
ついでにお○そと、お○ょうゆもセットだぜ!


商売に来ていた商売人がなんと○を持っていた物だから、それを買って自分で調理して食事しているとレーファやリオスだけでなく、村のみんなにも大好評で!?
それを元に刃夜は以前から思っていたこの村の活気のなさ、というよりも寂しさをどうにかしようと立ち上がり!?

そうして村で必死になって活動していると、ドンドルマのギルド本部の隊長の部屋で、刃夜に関わる計画が密かに立てられて!?

次回「ユクモ村 刃夜プロデュースの村おこし!」(仮)
↑これに関してはほぼ確実にタイトル変わりますw(じゃぁ書くなw)



無敵主人公だけでなく、もはや万能といっても差し支えない刃夜君にどうぞご期待ください……

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