艦日! ~ラバウル鎮守府艦隊日誌~   作:迷子屋エンキド

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某年某月某日より

 ○月×日

 

 さる第十一号作戦。我が艦隊は万全の事前準備で当作戦に望んだ。

 改二艦の優先育成。バケツの備蓄。ボーダー十万の資材。完璧だ。まさに完璧な準備。

 そう、思っていた。

 

    ●

 

「くそっ! あと一歩、あと一歩及ばないだと!?」

 

 作戦最終段階。ステビア海を制圧し、この作戦を完遂しようと当艦隊は高練度艦娘、惜しみない支援、キラ付けを行い試行回数で殴りつけた。

 しかし、敵の編成、そしてこちらの夜戦への不備が祟り、あと一歩のところで出撃《ラストダンス》を繰り返し続けていた。

 

「ば、バカな。十万もあった資材が半分以下だと……!?」

 

 数字を見て驚愕する。イベント発令前からマメに備蓄した資材。それらを溶かしてもなお、首の皮一枚届かない敵戦艦水鬼。

 

「化け物め……!」

 

 悠々と殴り込み、この海域を制覇してきた私は、初めて執念深さに恐怖した。

 この世には、自らの及ばないものが存在することをまざまざと見せつけられたのだ。

 だが、諦めるわけにはいかない。ここで諦めれば、何のためにこの作戦に挑んだのか解らなくなる。

 無知であったと認めれば、反省も出来るだろう。幾らでも仕切り直せるだろう。

 

「それでも……!」

 

 認められるものか。この世に絶対などない。その考えが愚かな人間の傲慢に過ぎないなどと。

 

「カンパンになっても諦めないぞ! 全艦隊このまま殴り続けろ!」

 

 焦燥と冷静の間で精神を削られる。ギリギリのところで大破進撃を防ぐ。自らとの綱渡りなど冗談ではない。一体何と戦っているというのだ。

 一体何度目になるだろう。打倒すべき敵はそこにいるのに、変わらずに奴はいた。

 

「イマイマシイガラクタドモメ……!」

「その台詞、そっくりそのまま貴様に還すぞ!」

 

 だが、届かない。あと一歩。ほんのわずかな行き違いによって、またも戦艦水鬼にトドメを刺すには至らなかった。

 何故だ。一体何がいけないというのだ。練度か? キラ付けか? それとも自分の欲望が作戦に影響しているとでもいうのか? わけがわからない。

 

「まだだ……! まだ……!」

 

 なけなしの資材を溶かし、手を伸ばし――――

 

「駄目だった、か……」

 

 その手は、届かなかった。

 画面に映る『メンテナンス中』の文字。肩の力が抜け、姿勢を崩す。

 及ばなかった。ありったけの力で挑み、果たしてその力は不足だった。

 まだ、準備が足りなかったのか。無能な自分にはそれしか思いつかない。編成や装備も無駄は無かったはずだ。ならば、まだまだ練度と試行回数が足りなかったに違いない。

 敗北感をそうして紛らわせた。そうするしかなかった。己の自己満足を貫いて、その責任を果たせず無様を曝した。その惨めな気持ちを忘れたかった。

 

「……また明日から、だな」

 

 次の作戦に向けて、準備を進めなければならない。だが、もう二度とあの海域で雪辱を果たすことは出来ないのだ。

 事実として噛み絞め、淀んだ気持ちに蓋をして、一人の負け犬は目を閉じた。

 今は疲れた。また目が覚めれば、艦隊運営に精を出さなくてはならない。幸い自分には次があるのだ。次の作戦の為に、鋭気を養おう。

 そう思いながら、意識は深く沈んでいった。

 

    ●

 

「提督! 起きてください提督!」

 

 声が聞こえた。

 

「んあ?」

「もぉ~また飲み過ぎたんですか? あんまり飲まないで下さいね、って五月雨注意しましたよね?」

「ん~……」

「ああもう、起きてくださいよ提督!」

 

 身体が揺らされる。浅い眠気が徐々に薄れ、覚醒を促されてきた。

 なんだなんだ一体。こんな風に起こされる経験なんてないぞ。哀しいことに。

 頭の隅でそう思いつつ、目を開き、眠りを邪魔した相手を気怠く見つめる。

 

「あ、やっと起きましたね! おはようございます提督! 今日も五月雨と一緒に頑張りましょう!」

「……おお」

 

 軽く感動した。視界に映ったのは、水色の長い髪を伸ばし、清楚な笑みをこちらに向けた美少女だ。

 というか、見覚えがあった。最古艦として初期運営から現在に至るまでの苦楽を共にした我が最愛の艦娘、五月雨だった。

 何だ、夢か。そう判断して、どうせ夢なら、と湧き出た欲求に任せて身体を動かす。

 

「えっ、て、提督なんですか? ――きゃあっ!」

「んむ~」

 

 華奢で小さな五月雨を抱き寄せ、共にベッドに寝転んだ。

 柔らかな感触とふんわりとした臭いが鼻孔を擽り、覚醒を始めていた意識を再び眠気が襲う。

 ああ~こころがふんわりするんじゃ~……。と妄言で頭を埋めながら、そのまま静かに吐息した。

 

「ひゃっ!? て、提督! 頭に息が! 息が! そ、それよりも提督! 寝ないで下さいよお!」

「ああ~気持ちいいなあ~」

「ひゃああああ! うなじはくすぐったいです! う、うわあーん! 誰か助けてえ~!」

 

 抵抗しようとする柔らかい物体を強く抱きしめる。ますます抵抗するので、脚も使って全身で抵抗を抑えた。

 

「はぅ……」

「zzzzzz……」

 

 ようやく抵抗しなくなった柔らかい物体に安堵し、そのまま微睡みに任せて眠ろうとしたときだった。

 

「Good morning! テートク! Breakfastを食べながら紅茶を――ってワッザ!? 五月雨! 一体何をしてるデース!?」

「こ、金剛さん! ち、違うです! 提督を起こそうとしたら逆に捕まってしまって……!」

「幾ら秘書艦で最古参だからって、抜け駆けは許さないネ!」

「あーん、なんでえ!?」

「問答無用! ワタシも失礼しマース! トォ!」

「ちょっ、金剛さん艦装したまま……!?」

 

 衝撃が来た。それも割と命にかかわる洒落にならない奴。

 

「オゲロォ!?」

「んきゃあ!?」

「テートクー!」

 

 意識が一瞬で浮上し、再び沈下するという経験は中々無いな。と割と冷静に考える。

 同時に、目を背けてきた状況が現実であると理解した。主に身体に悪い挨拶によって。

 しかし、意識できたのはそこが限界だった。

 ほ、骨が折れたみたいだ……。と自分に対するネタも忘れず、今度は痛みに対する反射機能によって、意識を暗く染めたのだった。

 

「…………」

「テートク!? どうしましたネ! テートク! テートクゥゥゥ――!」

「お、重いです金剛さーん!」




続け。
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