艦日! ~ラバウル鎮守府艦隊日誌~   作:迷子屋エンキド

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この小説は二次創作です。つまり作者の妄想で出来ています。
『キモイ』とか、『妄想が過ぎる』とか、『頭おかしい』とか思っても、作者には対応しかねるので、改めて御了承下さい。


○月第二週

○月14日 天気:☁ 気温:生温い

 

 今日は久しぶりに執務室の外を見回っている。それでも休み時間以外は机に張り付くのだが。

 書類の内容が事後処理から備蓄管理に変わっただけでも、ここ二週間の努力は俺に勇気をくれる。

 俺はド素人だ。戦術のせの字も知らん。専門的に学んだこともない。俺に出来るのはこうした日常業務をコツコツと積み重ねた万全の準備だけだ。

 備蓄資材を管理する書類を確認し、次作戦に必要になるであろう資材量の見積もりを計算し、艦娘達の出撃メニューを考え、一日に消費した資材をチェックして無駄が無いか研究する。

 ああ、なんて地味な作業なんだろう。地味に重要だから放り出すことも出来ない。

 提督業、大変だなあ。ポチポチやってた頃が懐かしいぜ。

 思いつつ歩いていると、中庭の木陰付近に複数の人影。

 ボーキが無いなら艦載機を食べればいいじゃない。一航戦の赤い方赤城さん。

 クールな顔して激情家。私のボーキに手を出すな。一航戦の青い方加賀さん。

 二人とも木陰で佇みながらお茶会をしているようだ。

 ブルーシートの上にはステンレスボトルやら間宮さんの御菓子が並んでいた。

 頭使ったから甘いものが欲しい。御願いして分けて貰おう。

 

「おーい、赤城、加賀さーん」

「あら提督。どうかしましたか?」

「書類業務はもうよろしいのですか」

「ようやく目途がついたからなあ。昼休みが取れるようになった」

「そうだったんですか。良かったら提督も一緒にいかがです? 間宮さんの御菓子もありますよ」

「おう、正にそれが目当てだったんだ」

 

 二人の前でしゃがんで、お皿にあった御菓子を口に放り込んだ。

 

「あっ」

「ん? ああ、すまん。行儀が悪かったか」

「あ、いえ、それもありますけど、それ以外にもマズかったというか、提督が摘まんだ御菓子の持ち主がですね」

「赤城のだったか? そりゃ重ねてすまん」

「それは大丈夫です。私のはバケットごと抱えてますから」

 

 相変わらずの食い意地であった。

 しかし、俺は自ら犯した所業に若干冷や汗を掻いていた。ヤバい、やらかした。

 そう思いながら、そっと視線を隣りに移す。

 

「……頭に来ました」

 

 はい。ちょっと命のキケーンですよこれは。

 

「加賀さん、まずは一言いいでしょうか」

「何ですか」

「ごめんなさい」

 

 しゃがんだ姿勢から土下座に移行した。プライドも何もかも捨て去った無駄のないエントリーである。

 誠意を込めた謝罪であることを全力で表現する。土下座とはそのための戦闘姿勢であり、古来より磨かれてきた業なのだ。

 正中線より真っ直ぐ下ろされた頭と、それでも曲がらない背筋は、動作に美しさを与え、卑屈な態度を感じさせない。

 堂々とした混じりっ気の無い謝罪だけを表現している。

 加賀さんは沈黙している。だが、それでも頭は上げない。戦いは既に始まっている。根負けするのは俺か。加賀さんか。

 相手の許しを得るまで決して頭を上げない。その意思表示をした以上、相手は何らかの応えを返さなくてならない。

 相手の対応を強いることこそが、土下座の究極的な目的である。

 さあ、どう出る……。

 時間が過ぎる。一秒一秒が緊張を伴い。相手に攻めたはずのこちらが重苦しいプレッシャーを受けているかのようだ。

 加賀さんはどんな表情をしている? くそっ、頭を動かすな。視線を固定しろ。そんな好奇心染みた邪推を捨て去れ。

 完璧な謝罪が僅かでも綻べば、土下座による攻めは一気に陳腐化する。

 我慢だ。心を冷静に保て。注意一瞬怪我一生だ。相手の反応に備えろ。

 静かに。そして、穏やかに、だ。

 

「…………」

「…………」

「……あの、加賀さん?」

「はあ、安心して赤城さん。御菓子を取られたくらいで本気になったりしないわ」

 

 絶対嘘だ。と口に出そうになったが、ギリギリのところで耐えた。偉いぞ俺。

 

「顔を上げてください提督」

「……はい」

 

 ふう、何とか修羅場を脱することが出来たようだ。

 と思っていた瞬間、

 

「ところで、この前金剛さんに提督がカレーを食べさせたと聞いたけれど」

 

 一瞬で周囲の温度が下がった。

 

「……えっ?」

「金剛さんに、提督が、カレーを『あーん』として、食べさせたのでしょう」

 

 一々区切ってくるのがプレッシャーを増している。

 表情にあまり変化はない。だが、明らかに語意に込められた感情は強力になった。

 アカン、咄嗟に上手い対応が思いつかない。助けを求めて赤城に視線を送る。

 満面の笑顔を返された。あ、これアカン奴ですわ。

 ヤバいヤバいヤバい。と再び修羅場と化した状況で必死に頭を回転させる。

 土下座はもう使ってしまった。伝家の宝刀は一度だけ。二度目からはその効果を著しく低下させる。

 この質問、肯定しても否定してもヤバい気がする。というか絶対ヤバい。もう何度言ったか解らないが、何度でも言う。ヤバい。

 くそっ、唸れ俺のイケメソエンジン! ここがオサレな男の見せ所だぞ……!

 一方頭の冷静な部分が失笑している気がするが無視する。今は、今だけはイケメンになれ俺!

 

「加賀さん」

「何ですか、言い訳は手短にお願いできますか。時間の無駄ですから」

 

 セメントだ! と心の中で肝を冷やしつつ、先程摘まんだ皿を取り、一口サイズの栗ようかんを手に持ちながら言った。

 

「加賀さん、口開けて」

「……!」

「あーん、だ。加賀さん」

「……そんなことで私が誤魔化されると思いますか」

「いいや。ただ俺は、加賀さんに栗ようかんを食べさせたいんだ」

 

 加賀さんの目を真っ直ぐ見つめ、真剣な表情で言い放った。

 何かを言われる前に、立て続けに言い放つ。

 

「加賀さんに食べて欲しい」

「…………」

 

 加賀さんの視線が、俯き加減に逸らされた。

 その隙を逃さず、チャンスを掴むべく動いた。

 皿を置き、加賀さんの至近まで迫った。驚き、身を引く加賀さんの肩を抱き、もう一方の手に持つ栗ようかんをゆっくり差し出す。

 最早吐息のかかる距離で言う。

 

「食べてくれ、加賀さん」

 

 再三の御願いに、加賀さんは躊躇いがちに何度か視線を彷徨わせながらも、こちらを見ないように目を閉じながら口を開けた。

 余計な感情を振り払い、俺はその瑞々しい唇に栗ようかんを挿入した。

 咀嚼する加賀さんからゆっくり離れ、しかし、視線は逸らさない。

 嚥下するの待ってから、加賀さんに問う。

 

「機嫌直った? 加賀さん」

「……ええ、そうね。良い栗ようかんだったわ」

「そりゃよかった」

 

 さっきから加賀さんの周囲が滅茶苦茶熱いからね。激情家なのも史実の仕様から来てるのかもしれんね。

 しかし氷点下から一気に40℃くらいに上がった気がする。さっきとは別の意味で汗掻いてきた。

 修羅場を潜り抜けた証として受け入れるとしよう。

 

「提督、加賀さん、御茶入りませんか?」

 

 そうしていると、横から声が掛かった。

 見れば赤城が茶飲みにお茶を注いでいた。水分を失っていたのでちょうどいい。

 御礼を言って受け取り、一服していると赤城が更に続けて、

 

「加賀さん、せっかくだから提督にお返しをしてあげたら?」

「ゴフッ」

「なっ……! 何を言っているの赤城さん」

 

 御茶が気管に入ってむせる。本当に何言ってんの赤城さん!? いや、よく考えれば悪い考えじゃないな。ナイスだ赤城さん!

 内面で赤城への熱い掌返しをしていると、珍しく動揺した加賀さんを赤城が説得成功したようだ。赤城さんマジぱねえっす。

 今度は加賀さんがこちらを見つめて、

 

「提督、飲んでくれるかしら」

 

 そう言って茶飲みを差し出してきた。

 

「ああ、勿論だぜ」

 

 加賀さんが飲みやすいようにと、再び身体を近づけたときだ。

 凄まじい熱気を感じた。

 茶飲みの中身である御茶が、沸騰してるのだ。

 ……不覚っ! 現在加賀さんは極度の排熱中……! そんな状況で熱を伝える陶器を持てば、飲み物が沸騰するのも必然ッ!

 ま、まさか……!?

 俺は赤城を見た。先程と全く変わらない満面の笑みが、そこにはあった。

 

「どうしたのかしら提督?」

「……いやっ、何でもない」

 

 本当に珍しく加賀さんが不安そうな声音だ。

 ……どうやら、覚悟を決めるしかないようだった。

 もう修羅場を回避するといった状況ではない。加賀さんの不安を感じたならば、それを払拭するのが男の役目だ。

 頑張れ俺。頑張れ男の子。だらだらと汗を掻きながら自らを叱咤する。

 ええい! ままよ!

 飲んだ。

 

    ●

 

 それからしばらく、火傷のため食事が出来ずひもじそうにしている提督の姿が鎮守府内で見られた。

 残当。

 




 いや、ちゃうねん。他の小説でもイチャコラしてるところみてわいもやりたかっただけやねん。
 本当にそれだけなんです反省はしているが後悔はしていない。
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