○月19日 天気:☀ 気温:まだやんわりしている
最近は練度を効率的に高めるための出撃を考案している。現場の意見を聞き、資源や各所と相談しながら煮詰め作業である。
こうした余裕が生まれたのも、全力遠征出撃による備蓄がようやくボーダーラインに乗ってきたからだ。
これを機に、全快の反省点である練度不足を解消するため、今までなあなあにしていた海域の攻略や全体練度の向上を目指していた。
「で、これか」
入渠中と書かれた部屋の前には、死屍累々と化した艦娘達が折り重なっていた。部屋からはみ出し廊下まで埋め尽くす勢いだ。
まあ、これは予想できた事態である。現在も艦隊ローテンションを組んで疲労が抜けたら即出撃させている。
ここに居るのは低練度帯の艦娘達だ。多くが中破しており、大破を優先して入渠させているものの、やはり装甲の薄い駆逐艦などがあぶれてぐったりと座り込んでいる。
このローテンション練度向上作戦のため、我が司令部も寝る間を惜しんで計画立案と事務処理を行っている。しかし、実際こうした現場を目にすると、労いの言葉を一つでも掛けるべきかと思った。
最近入隊してきた那智に声を掛けてみた。
「おう、那智まだ大丈夫か?」
「……っ! 提督か。書類の山を抱えてどうした」
「んにゃ、そっちもそっちで大変そうだと思ってよ。命令した俺が言うことじゃねえけど」
「ふん、この程度どうということはない」
「そうかいそうかい。那智には先任の羽黒(Lv.67)や妙高(Lv.74)に追いついて貰わんと行かんからなあ」
「う、うむ……」(Lv.23)
笑顔でそう言ってやると、那智は思いっ切り顔を背けた。
作戦発令当時は強気で姉や妹に追いつこうと宣言していた那智も、最近の重ローテンション出撃には気が滅入っているようだ。まあ、流石にね……。
因みに飢えた彼女の妹はもの凄いテンションでMVP取り捲くるので全然出撃から帰ってこない。練度が上って良いことだ。
「まあ、もう少しで終業時間だ。そんときゃ大人組年少組全員に間宮アイスを出してやるから」
『ッ!?』
周囲から刺すような視線が集中した。
「クソ提督……アンタ一体何考えてるの……?」
「ちょっ、曙ちょっと言い過ぎだって」
「でも朧ちゃん、最近備蓄強化週間だって言って色々緊縮してきたし……」
「確かに、最近の御主人様いつにも増して書類に埋もれて死んだ目だったよね」
曙、朧、漣、潮の第七駆逐隊が口々に疑りを掛けてきた。
「はぅ~間宮さんのアイス食べたいよお!」
「何? そんなんで私達を労わろうっての? ……まあ、悪くないかもね!」
「うふふ~満潮お姉様の嬉しそうな顔可愛いわ~。勿論、間宮さんのアイスをくれる提督も好きよ」
第八駆逐隊の面々はどちらかと言えばアイスが気になるようだ。長女の朝潮は今頃天龍に率いられ遠征任務中である。遠征班に休みは無い。
「やったね如月! ごーぼうびのアイス楽しみだね!」
「もう、提督ったらいけずなんだから……」
「う、卯月はそれだけじゃ騙されない……ぴょん……」
「卯月……キャラ付け……忘れかけたでしょ」
「文月、ボクと一緒に食べようよ!」
「うん、わかった皐月ちゃん」
睦月型の面々は大破多めだなあ。やっぱ装甲が……。早く練度を上げて優秀な遠征班になってほしいものである。菊月と望月が待っているぞ。
そんな感じでどんよりとした空気が一気に和やかになったところで、俺は頭の中で私費が幾ら残っていたか計算する。
……まあ、食わなきゃ大丈夫だろう。ここで慌てて取り消しても俺の命が物理的に消されるだけだ。
皆の笑顔を見れただけ良しとしよう。
そう自分を納得させていると、後ろから誰かが抱き付いてきた。
「むおっ!?」
「あ~提督ぅ~出撃班ばっかズルいぞ~! アタシにも酒に合う御摘みくれよ~!」
「隼鷹、俺の記憶が確かならオマエも出撃班だった筈なんだが」
「流石にもう限界だって! 今日だけで四九回も出撃したんだよ!? 明日から頑張るからさ~」
「初雪みたいなこと言ってんじゃねえ、と言いたいとこだが、俺も限界だ。酒飲ませろ」
「だろ!?」
既に出来上がっている隼鷹の酒気に当てられたのか、俺は今一度皆に向き直って言う。
「聞いたな諸君。入渠完了次第全員多目的ホールで宴じゃあああ――!」
そう叫ぶ俺に対し、殆どの者は返事をする。一部「ああ、遂に壊れたかコイツ」みたいな目で見られたが。
こうしてはいられない。最高練度や改二完了で暇してる奴らに準備をさせなくては……!
●
書類を抱え直し、入渠待ちの艦娘達に一言告げて急ぎ廊下を歩く。
書類を各部署に配ると同時に早目の終業を告げ、多目的ホールに集まるように指示。
間宮さんや鳳翔さんらお艦組に料理の手配を依頼し、自分自身もバーホールに保管してある酒を抱えて多目的ホールに向かう。
途中、五月雨にぶつかり酒が宙を舞いつつも、なんとか多目的ホールに辿り着くと、所狭しと艦娘の群が出来ていた。
「しゃあ! お前ら! 最近お疲れのようだな、お疲れ! つーわけで宴じゃ宴! 机並べて卓囲め卓を!」
「て、提督目が! 目が充血して危ないですよ!?」
「ヒャッハー! 五月雨は肩車してやるぜぇ――!」
「あわわわわ、きゃああああ――!?」
そんな感じで、最近の疲れが妙なテンションを引き出した結果宴が始まる。
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翌日、私費どころか溜めたはずの資材まで消費してたので、結局仕事量は増えた。
これも全て焚きつけた隼鷹のせいと言うことにして、改二になるまで旗艦にして出撃&禁酒になった。
提督囚人のように机に張り付くことになったので、主犯達は自業自得である。
その後鎮守府では、無理な労働を控えるように指示が出たのであった。