ミッドチルダの英雄(ヒーロー)   作:ロシアよ永遠に

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ミッドチルダの幽霊?(ゴースト)

日が昇るか否かの時間帯。

アインハルトは日課のロードワークの影響か、自然と目が覚めた。特別な事も無い限りは基本的に同じ時間に寝起きするので、体内時計がそう習慣付いているのだろう。

程よい眠気を押し留めながら、ベッドで上半身を起こす。グッと背伸びして、凝り固まった筋肉を解しながら欠伸を一つ。

…うん、今日も良い朝だ。

昨日の任務では、魔力の枯渇による気絶などという、何とも言えない醜態をさらしてしまい、健康チェックを済ませた後に帰宅して、そのまま疲労からか寝入ってしまった。

 

「…何やら摩訶不思議な、そんな経験をしたような…、そう!死んだはずの人間が見えるなどと、霊媒師とかそう言う人が必要とする特殊技能を身に付けたかのような、そんなの訳が分からないよっていう…!…ふぅ、私は疲れているのですね。幽霊が見えるなどと、少々オーバーワーク気味だったのでしょうか?不本意ではありますが、トレーニングの改善と、ストレッチなどの負担の少ないものをメニューに取り入れる試みを…」

 

『やぁ、アインハルト、お目覚めのようだね。』

 

「ぴゃぁぁぁあああっ!?!?」

 

いきなり目の前に飛び込んできたのは、自分と同じ髪色と瞳の青年。宙に浮きながら上から覗き込まれたのか、予想だにしない登場の仕方に訳の分からない悲鳴をあげながら、昨日に『見えた』のは決して疲労によるものではないと確信に至った。何故ならばその証拠…先祖であり古代ベルカの覇王『クラウス・イングヴァルト』その人が目の前にいたのだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で?」

 

『で?と言うと?』

 

「何処まで付いてくるんですか?」

 

『無論、君の行くところ私ありだよ。』

 

意味が分からない。

しかし幾つか質問してみても、自分の引き継いだ記憶と合致するものばかりであり、釈然としないが本人と認めざるを得なかった。本人にも何故こうなったのかも解らないらしいが、曰く、宿主であるアインハルトの魔力を媒介にして、出来る範囲が広がるらしい。

ちなみに、その出来る範囲、と言うのはアインハルト以外に視認とか、声が届くとかも含まれるようで、起きてきた際に見えない誰かに語りかける娘を見て、母親が絶句したのは言うまでも無い。

 

「これから私、学校なんですけど…?」

 

『なに、気にすることはない。』

 

「いや、気にしましょうよ。」

 

『無論、理由が無いわけではない。現世の勉学、と言う物を学んでおきたいのでね。』

 

「はぁ…、と言うかそもそも、なんでこうやって幽体化してるんですか?」

 

先祖が背後霊、と言うのはたまに聞く話ではあるが、魔力を通すことで実体化するなどと聞いたことがない。

 

『なに、気にすることはない。ご都合主義と言うもので良いんじゃないかな?』

 

「説明できない、の間違いでは?」

 

『ふむ、私の子孫は中々容赦が無いな。』

 

「…とりあえず、学校帰りに御祓いを…」

 

『いやいやいや!ちょっと待って思い直して!そんなことしたら私は成仏してしまう!』

 

「それが本来の末路では?」

 

『せめて少しは躊躇いとかないのかい!?』

 

「…はっ!?」

 

ふと周囲を見渡せば、近所のゴミ出ししてそのついでに井戸端会議しているおばさんや、通勤途中のサラリマンやOL、さらには同じ制服を着用した生徒も、独り言を決して大きくない声で喋っているアインハルトを不審に思い、ある者は口許を抑えヒソヒソと話し、ある者は奇怪な物を見るような視線を向けてくる。

 

「い、急ぎますよっ!このままでは御近所や学校で噂になってしまいます!」

 

『それは僥倖じゃないか?世の平和を守る覇王として…』

 

「変な人としてです!」

 

思わず大きな声が出てしまった。更に強くなる周囲の人からの視線とヒソヒソ話に耐えられなくなり、アインハルトの顔が見る見るうちに紅潮していく。

 

「も、もう知りません!!」

 

耐えかねて猛ダッシュだ。さすがに鍛えているだけあり、その全力疾走は特筆すべき物がある。普通なら置いてけぼりを食らいそうな程だ。しかし、先程からずっとではあるが、クラウスは幽霊の如く浮いているので問題なく追い付いてしまう。

 

『中々速いじゃないか?さすがに鍛錬を怠ってはいないね、感心感心。』

 

余裕綽々で追い付かれるのは癪ではある。…しかし、いくらスピードを上げようとも、恐らくはほぼ疲れることなく追い付いてくるだろう。正直、振り払おうにも無駄な浪費である。

 

「…ハァ…念のために言っておきますが、校内では口を慎んで下さい。いろいろと面倒なので…。」

 

『そのいろいろ、と言う部分が若干気にはなるが…。』

 

「良いからお願いしますホントに…。学校にも周囲の目と言う物がありますから…。」

 

『それはまぁ…引き受けよう。今しばし、覇王改め空気王となろうか。なに、気にすることはない。』

 

若干の不安を残しつつ、魔法学院の校門に辿り着いた一人と幽霊(?)。さて、どうなる事やら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………。」

 

『どうかしたのかい?アインハルト。』

 

「どうかしたのか、ですって…?よくもそんなことを言えますね…!どの口がそう喋るんですか…!」

 

『何を怒っているのか、私にはさっぱりだよ。』

 

昼休み。

アインハルトは憤慨していた。何にって?勿論、後ろですっとぼけている先祖に、である。

授業中、確かに彼は喋らなかった。ここまでは良い。

しかしだ。だからと言ってチョークとか黒板消しとか、その他諸々を持ち上げて遊ぶなどと…!

 

『喋るな、とは言ったが、何もするな、とは言っていないだろう?』

 

とまぁ、こんな屁理屈を並べるのだ。

基本的にアインハルト以外視認できない彼のお陰で、結果としてクラスメイトと先生はポルターガイスト染みたものを目撃した。

 

(こんなのが…私の先祖だなんて…!)

 

果たすべき悲願。

覇を以て和を成すという、アインハルトの戦う理由の大本たる人物が、よもやこの様なおちゃらけた性格だったなど…!

認めたくない。

断じて認めたくない!

 

「…あのぅ…」

 

「…ぁぅぁぅぁぅ…!どうしましょう…!このままでは私のアイデンティティと言うものが崩壊しかねません…!」

 

「あの~…」

 

「そうだ!やはり御祓い!やはり除霊して貰いましょう!このままでは…!」

 

「あの!アインハルトさん!」

 

「はっ!?」

 

どうにかしてあの背後霊を抹殺(既に死んでいるが)しようと画策するアインハルトの傍らに、ヴィヴィオがいつの間にか佇んでいた。彼女の目だけではなく、弁当を食べているクラスメイトからも視線が釘付けだ。

 

『今日は変な日だよね。』

 

『うんうん。物は勝手に浮くし、ストラトスさんはいきなり叫び出すし…。』

 

『見てたら何だかコミカルで面白いけどねww』

 

既にクラスの中でのイメージは、

クールビューティーな二枚目(自己評価)

    ⬇

二枚目半な不思議ちゃん(他評価)

へとシフトして行っていた。

 

「ヴィヴィオさん!」

 

「ひゃいっ!?」

 

いきなり大声を出すものだから、変な返事になってしまった。アインハルトが放つ妙なオーラに若干押され気味でもある。

 

「ここで立ち話もナンです!場所を移しましょう!」

 

「え?は、はい、そうですね!」

 

「では!」

 

ここまでの会話は何ら問題ないだろう。しかし、混乱と羞恥を極めた彼女が起こす行動は、やはり斜め上を行くもの。

 

「ああああアインハルトさん!?」

 

ヴィヴィオの首と膝の裏に手を回し、抱え上げる。女子が憧れ、そして男性にされたい(であろう)抱っこのされ方NO.1(多分)。

人それを、お姫様抱っこという…!

 

「逝きます!」

 

「え?それ、文字が違くないですか!?しかもそっちに窓ですよ!?まさか飛び降りたりしないですよね!?ちょっ!待って下さいアインハルトさん!早まらないで!私を巻き添えにしないでぇぇぇええ!!あぁぁぁぁ~………!」

 

怒涛の展開と、ヴィヴィオの断末魔(?)を残して教室は静まり返る。

ややあって

 

教室には黄色い悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、心臓が止まるかと…!」

 

「す、すいません…!なんと謝罪すれば良いか…。」

 

「あ、いえ。怪我はなかったですし、そこまで気にしなくても。」

 

結局、無難に着地したアインハルトと、彼女に抱えられたヴィヴィオは連なって中庭へとやってきた。ヴィヴィオが言うには、中庭で紹介したい友達がいるので、一緒にお弁当を食べるのもかねてどうか?と誘うつもりで中等科へとやってきたらしい。正直、今日の朝から気疲れしていたアインハルトにとって、その申し出はとても有り難く感じたので快諾するに至った。

 

「怪我と言えば…昨日の負傷の具合は?」

 

「え?あ~、傷は浅かったので、後は残らないだろうって。痛み自体も今は殆ど無いですし。」

 

「そうですか。」

 

内心安堵した。いくら特務に参加しているとは言え、幼い彼女にとって後々残る傷跡を作るというのはよろしくない。

 

「すいませんヴィヴィオさん。危険な目に遭わせてしまって。」

 

「あ、いえいえ!その…私も役には立てなかったので…」

 

「………。」

 

「………。」

 

気まずい空気だ。

正直、ヴィヴィオにこの空気は耐えられそうにない。

なんとか…なんとかこの雰囲気を打開しなければ…!

 

「そ、そういえば!昨日のあの男の人はいったい…?」

 

「……ぁぁ…彼ですか?」

 

しまった!これは地雷だったか!?

焦点の合わない瞳で今日の朝から今までの大惨事を掻い摘まんで話すアインハルト。いつも物静かな喋りだけに、テンションの低いときのそれは、もはや呪詛か何かを唱える領域に達していて不気味であった。

 

「…だからもうどこかの神社で御祓いをして貰って、身を清めて、それで以て家の周りに塩を撒いて…」

 

「アインハルトさ~ん…、戻ってきて下さいよ~…。」

 

『…やれやれ、わが子孫は後ろ向きでいけない。常に上と前を向かねば、英雄にはなれないよ。』

 

「だからぁ…誰のせいだと…」

 

「お!ヴィヴィオ~!アインハルトさ~ん!で良いのかな?」

 

「あ!リオ!コロナ!」

 

丁度良いタイミングで着いたようだ、数メートル先でヴィヴィオのクラスメイトである2人が大手を振って呼んでいる。中庭に植え込まれた芝生の上にランチョンマットを敷いて、お弁当を食べる準備は万端!と言ったところだろう。

 

「アインハルトさんも!ほら、食べましょう!」

 

「え?あ、はい。それでは…失礼します。」

 

ランチョンマットの端でブーツを脱いで、行儀よく正座。こう言ったシチュエーションに不慣れなアインハルトはどこか余所余所しく、落ち着かない様子で視線を泳がせている。

 

「えっと…紹介しますね。私の友達のリオとコロナです。」

 

「よろしくお願いしまぁっす!リオって呼んでください!」

 

「コロナ・ティミルです。アインハルトさんのお話は、ヴィヴィオからよく聞かせて貰ってます。」

 

「そ、そうですか。アインハルト・ストラトスと申します。」

 

まるで性格が正反対のような2人。

元気いっぱいのリオに、若干大人しめのコロナ。

…成る程、ヴィヴィオの友人らしく、社交性が高そうだ。

 

「自己紹介も程ほどにして、そろそろお弁当を食べませんか?」

 

「賛成っ!アタシもうお腹ペコペコだよ~!」

 

「リオってば、2時間目が終わった辺りからそればっかりだよね。」

 

各々、自分の持ってきたお弁当包みを開く最中、アインハルトは致命的なことに気付いた。

 

「お弁当…教室に忘れて来ちゃいました…。」

 

「「「………。」」」

 

三者の目が丸くなってアインハルトを見つめる。呆れか、はたまた驚愕か…。もしくは哀れみだろうか?

 

「うぅっ…。そんな目で見ないで下さい…。」

 

こうなると先輩の威厳も何も無い。ただのドジッ娘である。小っ恥ずかしげに赤面する彼女に、意外な一面をまざまざと見せられるヴィヴィオは苦笑い。

 

「それじゃ、少しずつ分け合って食べましょう!2人とも良いかな?」

 

リオとコロナも、元々そう言う結論に至るつもりだったのだろう。勿論!と満面の笑みで同意する。

 

「あ、ありがとうござ…」

 

『それには及ばないよ。』

 

聞きたくもない声だった。どこから聞こえるのかとアインハルトはキョロキョロと周囲を見渡すが、声はすれども姿は見えず。ただただ周囲には、彼女達と同じように昼食を摂る生徒達ばかりであり、あの声の主は見当たらない。挙動不審にも見えるアインハルトを不思議に思い、顔を見合わせる小等科の三人。

 

今度は何を企んでいるのか?

 

そんな不安と疑念が渦巻くアインハルトの心中は誰にも察することは出来ない。

 

『上を見てごらん。』

 

また奴の声だ。懐疑的な思念を浮かべながらも、恐る恐ると言ったように上を見上げる。

 

ごちんっ!

 

何かが顔面にクリーンヒットした。

 

「~~~っ!?!?!?」

 

思いっきり潰れ、涙目になりつつ赤くなっていく鼻を両手で押さえる。顔の向きを戻した影響で、顔面に降ってきた物は放物線を描き、ヴィヴィオがあわやとキャッチする。黄緑の包みのそれは楕円形で、それこそヴィヴィオ達の弁当箱と同じくらいのサイズだ。

 

「これって…?」

 

「わ、わらひのおへんほうへふ(私のお弁当です)…。」

 

鼻血こそ出てはいないが、未だ抜けきらない痛みゆ耐えながら、落ちてきた物の正体を認識する。

つまり、だ。

あの認めたくないアホな先祖が教室から持ってきて、上空から投下したのだ。

 

『何、礼には及ばないよ。』

 

もう顔を見なくてもドヤ顔しているのがありありと予想できる。

持ってきてくれるのは有り難いが、それにしても渡し方という物があるだろうに。

 

「…一応感謝します。が、後ほど覚えておくことですね。」

 

『………。』

 

「不思議なことがあるんですね~。空からお弁当が降ってくるなんて。」

 

「アインハルトさん、大丈夫ですか?」

 

「…大丈夫です。問題ありません。」

 

「は…はは…。」

 

何も知らない後輩2人は普通に心配し、真実を知るヴィヴィオは苦笑い。

…ともあれ、

少々のトラブルがありつつも、ようやく昼食と相成ったわけである。




青年クラウスの口調と一人称が合っているかわからない…。違ってたら、指摘お願いします。
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