ミッドチルダの英雄(ヒーロー)   作:ロシアよ永遠に

12 / 17
すいません。以前途中投稿誌てしまってたので、再投稿です


ミッドチルダの執務官(オーガ)

「今の俺のムーブメントはな…『ギャップ』、だ。」

 

とあるシックな雰囲気漂うバーのカウンターで。

彼はグラスを傾けながら、隣に座る彼に語る。

その顔にはニヒルさがありありと浮かび、グラスのロックと相まって、()()()()()()二枚目の男として女性の目線を釘付けにしているかも知れない。

しかし、

しかし、だ。

 

「普通ならば、これに当てはまるのが外では縄張りを争い合うか、盛りのついた猫の如く爪を立てる女も、二人だけの時にはまるで愛に飢えているかの如く甘えに甘える…そんなツンデレにも似た物を意味するかも知れない。」

 

「はぁ…」

 

隣に座る男性…いや、少年や青年と見紛う彼は、このバーに通うに少し幼く見えた。ツンツンとした赤毛と、肩辺りまで伸びた髪を首の付け根で纏めている。隣に座る男性の語りに、話半分で聞き流す。

 

「しかし外見のギャップは違う。考えてみろ?幼いはずの年齢。例えるなら第二成長期を迎える頃合いの女の子。その頃になれば、女としての成長を始め、成人に近付くにつれて大人の体つきへと成長していく。いわば蝶になるために、青虫が蛹へとその身を閉じ込める時期だ。それはそれで魅力的なものでもある。」

 

「はぁ…」

 

やはり話半分の少年に語りながらも、意気揚々と男性は小休止と言わんばかりに乾いた口腔を潤すためにロックを口に含む。口に広がる独特の風味。それが彼を更に饒舌なものへと変えていく。

 

「しかし、しかしだ。そんなゆっくりと…まるで砂時計が時を刻むかのように流れるべき物を通り越して、突然変異とも取れるかの如く急成長を遂げる奴らも居る。そう、雨後の竹の子とも言うべき程に。」

 

「………。」

 

「考えても見ろ。未だ幼い顔付き。しかしその胸部には男の…否!人類の還るべき場所がたわわになっている女性を!身体は大人!心は未だ子供!見た目は問題なくとも、年齢はアウトを通り越して、スリーアウトどころか、コールドゲームのゲームセット。手を出そうものならば社会的に抹殺される。しかしその禁断の果実という意味合いの背徳感が実に甘美だ。」

 

「…晴さん?」

 

「逆もまた然り!年齢は立派に成長したもの。心も大人としての落ち着きを持っている。しかし!身体は未だ幼く、背丈も低い。俺達(人類)の還るべき場所はいまだ大平原で、山も谷もない。しかし、年齢としては問題ない!故に合法!そんな二つのギャップが、今の俺の心を鷲掴んで止まないんだ。」

 

「…真壁晴臣さん?」

 

「…んだよギル。」

 

晴臣と呼ばれた彼の後ろで吞んでいた紫のキャップを被った黒いロン毛のギルと呼ばれた男―ギルバート・マクレイン―は、釣り目で鋭い目を、更に細く鋭くして睨み付ける。しつこく呼んでくる彼に、晴臣は渋々、と言った様子で応ずる。

 

「俺の弟子に変なこと吹き込むのやめてくれませんかね?ただでさえエリオは多感な時期なんだ。悪影響を受けるのは、やぶさかじゃない。」

 

「何言ってんだよ。多感な時期だからこそ、大人の嗜みをだなぁ…」

 

「あ、あの。お二人とも、あまり騒がしくしない方が…」

 

エリオと呼ばれた少年は、言い争いを始めかねない目の前の二人に、慌てふためいて吞んでいたミルクをおいて止めに入る。

エリオ・モンディアル

自然保護隊の若き騎士にして、時空管理局執務官フェイト・T・ハラオウンの養子でもある。

 

「エリオは心配すんな。悪い知識を教え込もうとするなど、俺が許さん。」

 

「そう熱くなるなよギル。個人の趣向を押し付けているように見えるかも知れないけどな、俺はそんなつもりはねぇ。女性の魅力を見付ける、と言うのは全人類の半数を占める彼女等に対しての礼儀で、男としての嗜みでもあるんだよ。だからさ…」

 

「あ、もしもし?ケイトさんですか?」

 

俺の婚約者(ケイト)に電話するのは止めてぇぇぇっ!?」

 

ケイト・クロウリー

真壁晴臣の婚約者にして、地上部隊に所属する女性だ。サバサバとしながらも気さくな人柄で、上司、部下共に信頼は厚く、戦闘能力も申し分ない、まさにエースと呼ぶに相応しい人物。そして、真壁晴臣の暴走を食い止めることが出来る絶対的なエース、いや切り札(ジョーカー)。元々管理局勤めの晴臣は、婚約者がいるにも関わらず、男性局員は元より、女性局員にもこのようなことを言って回り、査問への呼び出しを喰らった回数は数知れず。その度にケイトは引受人として出頭させられていたのは言うまでもない。

婚約者、と言う立場としてのアドバンテージもそうだが、ケイトには先述のような事から頭が上がらないのもまた事実。それが彼女は晴臣に対する切り札(ジョーカー)たる所以なのだ。

 

「俺とエリオの鍛錬の打ち上げに乱入しておいて、変なことを吹き込まれちゃ、ハラオウン執務官やシグナム二尉に何を言われるかわからないのは俺なんすよ?そこんところしっかり自覚しておいて下さいよ。」

 

「固ぇなギル。コイツくらいの年にゃ、ちょっとくらいワルな方がモテんだよ。」

 

「モテるもなにも…そいつにゃ彼女が居るんすよ?」

 

「なん…だと…」

 

「えっ?えぇぇぇっ!?ぼぼぼぼ僕に彼女!?」

 

突然のカミングアウトに、晴臣はともかくとして、当の本人たるエリオまでもが驚愕していた。

 

「なんだ…違うのか?同じ隊に居る…桃毛の子だよ。」

 

「へ?キャロのこと、ですか?」

 

「あぁ…確かそんな名前だったか。」

 

「キャロはその…言っちゃえば兄妹みたいな間柄なんです。僕と同じように、彼女もフェイトさんの養子なので。」

 

つまり義兄妹。血の繋がりはなくとも、家族であると言うこと。ハラオウン執務官の家庭事情について、詳しくはギルも晴臣も知らないが、こうして二人を引き取っていると言う行動原理に、多少なりとも思うところがあるのも事実だ。

 

「…となれば、義兄妹での恋慕と言うことになるのか。」

 

「だ、だから違いますって!」

 

「心配すんな。俺がサポートしてやる。ここで昔俺が培った『禁忌』のムーブメントの知識をだな…」

 

「晴さん…?」

 

またろくでもない知識をエリオに吹き込もうとする晴臣に、怒気を孕んだ声と共にギルが彼の肩を掴む。

酒飲み二人と、少年の夜は更けていくばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付も変わろうか、と言う時間帯。

飲兵衛の二人とは別れて帰路に着くエリオの体に、梅雨入り前の肌寒い風が吹き荒ぶ。二人が別れたのは、やはり未成年を日付が変わるまで連れ回すのは宜しくない、と言う理由だ。この辺は大人としての分別があるのか、エリオを家まで送ろうともしてくれた。しかし、たいした距離でもない上に、武装隊としての経験もある為、問題ないと断った。それでも食い下がる二人だったが、自分に遠慮して回りにくいだろう、ということを伝え、半ば強引に納得させたのもつい先程の話。

思えば、この選択が間違いだったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

「うぅ~、近道近道。」

 

今家に向かうために近道である公園を全力疾走する彼は、ごく一般的な管理局員。

強いて違うところを挙げるとすれば、生まれが違うってとこカナ――。

名前はエリオ・モンディアル。

そんなわけでなのかどんなわけでなのか、近道のためにやって来たのだ。

 

ふと見ると、

ベンチに、白衣を着た一人の眼が少々イッてる男が座っていた。

 

ウホッ!如何にもマッドサイエンティスト……。

 

そう思っていると、突然その男は羽織った白衣の懐に手を忍ばせ、細長い筒の様なものを取り出した。

 

「(私と一緒に)い か な い か」

 

そういえばこの公園は不審者がでる事で有名なところだった。以前、ヴィヴィオが通称『馬の尾事件』の実行犯に襲撃された場所だというのも思い出した。

そう思い出している隙を突いた不審者の彼により、ホイホイと細長い筒の正体を身を以て知っちゃったのだ(はぁーと

首元にちくりとする痛み。筒の先をこちらに向け、反対側を口に咥えた不審者―スカリエッティ―の持つそれは、ジャパニーズ・アンキである吹き矢と気付いたときには、針に仕込まれた薬が効いてきたのだろう。薄れていく意識とともに、暗転する視界が最後に見た光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、所変わって高町家。

一般の一戸建てよりも広く、キッチンと一室化したリビング。その一角に備えられた3人ほどが座るには充分なほどのソファに、フェイトは少々気が気でない表情で時計を気にしながら座っていた。日付は既に変わっており、そろそろ1時になろうかという時間だ。起きている理由は、勿論エリオのこと。件の男2人と共に飲みに行って、今から帰りますと連絡が入ったのが今から一時間半前。何処の店で飲んでいるのかは知らされていないが、クラナガン市街地からこの家まで、歩いても30分ほど。何処かコンビニに寄ったりしたにしても遅い。

 

「どうしちゃったのかな、エリオ…。」

 

ぽつりとこぼれ出た言葉は、夜の静寂に消える。

元々は、久々に纏まった休暇が取れたエリオとキャロが、フェイトと過ごすためにクラナガンへやって来たのは今日の午前。翌日にヴィヴィオと訓練をする予定で、この際に高町家で止まることになった2人。地上本部に着いたエリオは、休暇に入る前に、一度槍の先生との訓練をしておきたい、とのことでキャロと別れたのが正午過ぎ。その後、訓練の手ほどきをしてくれたギルバートと、後から乱入してきた晴臣と飲みに行くと連絡が入ったが18時過ぎだった。ギルバートについては、一度休みの訓練の際に出会ったことがあったが、無愛想ながらも熱心にエリオを指導してくれていた。その強さもさることながら、B級デバイスマイスターの資格も持っており、デバイスの改良に余念が無い。あれこれと気を遣ってくれているようで、エリオから来るメールの内容からも、彼に強い信頼を置いていることが見て取れ、安心感と共に、フェイトの中でエリオが徐々に大人になっていく所から感じるちょっぴりの寂しさと、そしてギルバートに取られたとも感じられるほんの少しの嫉妬が芽生えたとか。

 

閑話休題。

ともあれ、いくら武装隊員で信頼置ける人間と共に居るとは言え、その実は14という年齢の少年に過ぎない。未だ成長しきっていない心身であると言うものもあれど、その身を案ずるのは親心所以だろう。

 

「確かに…ちょっと心配だね。」

 

ヴィヴィオの部屋のベッドで2人並んで寝ているヴィヴィオとキャロの様子を見て、二階から降りてきたなのはも、改めて見た時刻にその眉をハの字にする。以前、ヴィヴィオが変質者に襲われた事もあるからか、元教え子である彼が心配になってくる。そんじょそこらの悪漢程度なら軽くねじ伏せられるほどの戦闘力を有してはいるが、心配には変わりない。

 

「わたし、探しに行ってくる。」

 

冷えないように、寝間着の上に上着を羽織って玄関へと歩み始めるフェイト。

 

「待ってフェイトちゃん。」

 

「止めないでなのは!エリオがわたしを呼んでるんだ!14になってもまだ女性声優で、顔立ちも中性的で整っている!そんなエリオの容貌に目が眩んだ極めて特殊な性癖を持った危険な犯罪者に目を付けられたりなんかしたら、わたしは…わたしはぁぁぁっ!!!」

 

…おかしい、先程まで至極冷静に見えたのに、何のスイッチが入ったのか変な方向に思考がシフトしてきている。普段冷静かつ着実に職務を熟し、他の局員への優しい気遣いを忘れない、局でも指折りの人気を誇るフェイト・T・ハラオウン執務官の姿は、なのはの目の前にはない。そこにいるのは、養子である少年への愛を拗らせている、良く言えば親バカ、悪く言えばヘタすれば変質者と成り果てた親友だった。

…やはり親子か。

3話で、親バカを爆発させて一悶着起こした一人の母親の姿が重なって見えた。

 

「わ、わかったよフェイトちゃん。私も一緒に行く。」

 

「で、でもなのは、ヴィヴィオ達は…」

 

「大丈夫、クリスもケリュケイオンもいるから、いざという時にはエマージェンシーコールするようにしておくし。それに、この家のセキュリティはそこそこに高いの忘れた?並大抵の犯罪者じゃ引っかかるよ。」

 

「…本当に良いの?」

 

「友達を助けるのに理由なんている?」

 

思わず涙腺が崩壊しそうになる。

あぁ、そうだ。この大切な初めての友達は、こうやっていつも寄り添って気持ちを汲んでくれる。15年前のあの日から、ずっと…。

 

「ありがとう、なのは。…行こう。」

 

「ん。」

 

短く、そして力強く頷き、玄関を飛び出すフェイトの後ろ姿を追って、なのはも飛び出す。

もし犯罪者と相対したときには、全力全開で止めなければならない。

 

 

 

 

この盲目的な親バカを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう…やめて…」

 

一人の長い赤髪の人物は懇願する。

薄暗い一室で鎖で繋がれたそれは、複数の視線の元に晒されていた。その目は虚ろで、しかしその頬は上気しているのか赤みを帯びている。

 

「むふふ…やはりこれは中々の上物じゃないですかぁ♪」

 

視線の一対である女性が、丸い眼鏡のレンズに僅かな光を反射させ、怪しく光らせる。その口許はまるで裂けていると彷彿させるほどに吊り上がり、まるで三日月のようだ。そしてその鼻息は、興奮した猛牛の如く荒い。その手には高性能のデジタルカメラがあり、絶えずそのフラッシュを焚いていた。

 

「これは…なかなか…。」

 

さらに一対である長身で紫髪の女性は、目の前にある人物の全容が刺激的なのか、口と鼻を手で覆い隠しながらも、顔を赤らめて、しかし眼を細めつつそれを見やる。

 

「ん…。」

 

桃髪の少女はというと、使用した物を綺麗に整理して収納。代わりにスーツケースから未使用の物を取り出している。淡々と仕事を熟しながらも、その目は件の人物に時折向けられ、無表情なその顔とは裏腹に、扇情的とも言えるその光景を見て頬を赤らめていた。

 

「いい!いいですよ!その表情!堪りません!」

 

狂気的なまでに撮影用のミラーを掲げる薄い紫の長髪の女性も、最初の女性と同じくして興奮の極みであり、眼もクスリをキメているのかとも見えるほどにヤバかった。

 

「ふふふふふ…これが売れれば我々は10年は戦える!見よ!これが我々の成果だ!」

 

変わって男が指をパチンとならす。すると、まるでスポットライトかのように照明が照らされ、壁一面びっしりと張り巡らされた写真がその姿を露わにする。

その内容はと言うのも…

 

ST.ヒルデ魔法学院小等科制服

同じく中等部制服

第97管理外世界のU市にある私立小学校制服

ブルマ

スク水

メイド

バニー

チア

etc.etc.…

 

多岐にわたるその手の趣味趣向を持つ顧客を相手取るに問題ないほどに、あらゆるコスプレを網羅した写真の数々だ。

 

「これを97管理外世界で執り行われるという夏の祭典に写真集として売り込めば、我々の活動費もさぞかし潤うだろう!」

 

「さすがドクター!我々の懐も潤って、更には我々も眼福という甘い汁を味わうことが出来る!まさしく一石二鳥!!」

 

「いよ……流石ドクター、狡い……そこにシビれる憧れるぅ……」

 

ドクターと呼ばれた男…今更ながらジェイル・スカリエッティを絶賛するのは、眼鏡の四番であるクァットロで、高揚のない声でぱちぱちと拍手するのは七番目のセッテ。しかしこれでも彼女なりの精一杯の賞賛だ。

 

「というか…僕の女装写真をばらまいて、そんなの誰が買うんだよ…」

 

呆れと怒気を孕んだ声が室内に響いた。

赤い長髪のウイッグを、首を振って振り落とし、彼―エリオ―は件の四人を睨んだ。

事の発端は、先程吹き矢で眠らされて、そのままお持ち帰りで、そんでもって気付いたときには着せ替え人形にされていたのだ。無論、身の毛もよだったのは言うまでもなくだが、目の前で興奮する、特に女性達が不気味で仕方ない。

 

「というか…セッテ…だったっけ?」

 

「ん。」

 

「もっとその…大きくなかった?」

 

こくりと、最低限の返事で返すのは、自分が知る桃髪の髪をした女性と瓜二つの髪型の少女だ。しかし、自身の知るセッテは…もっとこう…無表情ながらも自身よりも年が上の様な気がしたのだが、今目の前に居る少女は、自身が出会ったときと同じくらいの…外見で10歳そこそこと言った所だ。

 

「…博士曰く、こっちの方が精神年齢と合っている。それに合わせて、躯体の肉体年齢の調整をしたらこうなった。」

 

「ど、どうやって…?」

 

「…魔法って便利。」

 

最早訳が分からない。

とにもかくにも、一先ずここから脱出するのが先決で…。思考を巡らせて、様々なシミュレーションと脱出プランを立ててみる。

しかし、両腕にはAM(アンチマギリンク)のコーティングが施された拘束具で固定されている。電気の変換資質を以てしてぶち壊そうかとも思ったが、魔力結合を阻害する術式だ。魔力変換も難しい。こんな変態的な事に使うよりも、管理局にこの技術を売り込めば、そっちの方が懐の潤いも良くなるだろうに…。最近、町で暴れさせているロボットといい、管理局に戦争でも仕掛けるつもりなのか。いや、四年前、ある意味戦争を吹っ掛けたのには変わりないか。

 

「ふっ…何を言っているのかね少年。男子の…否、男の夢はいつだって世界征服さ!」

 

思っていたことに対して律儀に解答する彼に、末恐ろしさすら感じる。まさか声に出ていたわけでもあるまいに。

 

「さて、次は何をお召しになるかしら?」

 

「そ、そうだな。ありきたりな物はほぼ網羅したから…。」

 

「…じゃ、ナンバーズの機人のフィットスーツはどう?」

 

「そ、それはナイスアイデア!」

 

何やらとんとん拍子に次のコスプレ。しかもいろんな意味でヤバい物をチョイスし始める機人の四人。スカリエッティも、異論は無いのか、何も言わずにそれを見ている。

これは非常にマズい。早くコイツらを何とかしなければ、社会的に殺されてしまう!

 

「さぁさぁ、逃げられないんですから、ここはまな板の鯉の如く受け入れちゃって…」

 

「…ん…?」

 

「あら?どうしたの?トーレお姉さま。」

 

「なにか…聞こえる。」

 

戦闘特化のトーレとセッテは強化された五感を研ぎ澄ませ、その大本を探る。不審に思った残り3人と、そしてエリオも、耳を澄ませる。楽器もないはずなのに、ピアノの旋律が奏でられる。

 

【今は前だけ、見れば良い。】

 

『!?』

 

【信じることを、信じれば良い。】

 

「こ、このフレーズは…この歌声は…!!」

 

ぶるりと身体を震わせるは、スカリエッティだ。何故かは分からないが、トーレとセッテも顔を青ざめている。

 

『愛も絶望も羽になり、不死なる翼へと。』

 

「ど、ドクター!これは戦術的撤退を…!」

 

「………!!(コクコク)」

 

普段の冷静さが微塵も感じられないトーレ。そして、無言ながらもその顔に多量の汗を滲ませて、壊れたロボットのように同意して首を何度も頷くセッテ。

しかし、その逃亡案は、突如として吹き飛んだ壁面と同じく、粉々に砕かれてしまった。

 

『蘇れ、僕の鼓動…!!』

 

もうもうと立ち上る粉塵。

そしてその奥からは一対の長剣。

その刀身は黄金。

魔力で出来た剣。

雷を帯び、スパークがその光を散らす。

 

クアットロとウーノは警戒する中、セッテとトーレは互いに抱き合ってへたり込み、ガタガタと震えている。

片や男性にカテゴライズされるスカリエッティとエリオは、唖然と口を開き、最早顎が外れているのかと思うほどに大きくあんぐりとしていた。

 

「…えりお、ミツケタ。」

 

粉塵越しに見えていた人影。恐らくその頭部、眼に当たる部分に、怪しく紅い光が走る。そしてそれが、『彼女』の眼光であることに気付くまで、そう時間はかからなかった。

 

「ふ、フェイト…さん?」

 

「ウン、ソウダヨえりお。助ケニキタヨ。」

 

おかしい。いつもの凜とした『彼女』の声と何処か違う。むしろ…もっと恐ろしい、いや、おぞましさすら感じさせるそれは、例の二人はともかく、助けられるはずの側であるエリオをも戦慄させる。

 

「ふ、ふふふ…!早くもここを嗅ぎつけるとは…流石執務官と言ったところか。しかし、こちらには人質が…」

 

「きゃうん!?」

 

「あべしっ!?」

 

一瞬だった。

『彼女』と思しき人影が消え、粉塵が突風でも吹いたのかと感じるまでに消し飛んだかと思えば、次の瞬間には、ウーノとクアットロは変な悲鳴と共に壁に打ち付けられた。しかも顔面から、まるで漫画のようにめり込んでいる。

慌てて振り向けば、まるで幽鬼のようにゆらりと、そしてその魔力は黄金色であるはずなのに、おぞましい形容しがたい色として滲み出ている。

 

【暗闇の、月も星も、孤独を嘆くonly tears。】

 

「歌いながら…剣を振るう…だと!?」

 

姉と妹が吹き飛ばされて正気を取り戻したトーレ。その腕と足にライドインパルス及びインパルスブレード用の光を展開すると、突貫。

 

「歌いながらでは、捌き切れまい!」

 

彼女の得手とする高速格闘戦に持ち込み、攻め手を徐々に強めていく。以前戦ったときよりも、鋭く、そして重い一撃ばかりだ。

 

「あれから4年!脱獄前も後も!いずれこの日が来ることを予期して鍛えに鍛えてきた!」

 

しかし、肉体ばかりを鍛えたからか、突如して現れた『彼女』に対するトラウマを拭いきれなかったのは何たる皮肉か。

 

「それに、そちらの癖は見抜いて…」

 

ここだ!と、幾度も見直した先の戦闘。その中で見つけた癖の中での僅かな隙。高速格闘戦下において、自分の一撃の速度を以てすれば致命打となるだろうそれを、寸分狂い無く拳で突く。

 

 

突いた、

 

そのはずだった。

 

「なん…だと……?」

 

手に感触は無かった。鋭く、そして射貫くような拳は、空を切るだけに終わる。

 

【十字架を、紡ぎ描こう。共に輝き尽きるまで。】

 

一閃。背後から叩き付けられた刃の腹で、トーレは頭から地面にめり込んだ。

 

「な、なんだこれは!?魔力が跳ね上がっている!?こんな現象、私は知らない!?」

 

「コレハ『絶唱』。己ノ魔力ヲ歌ニ乗セテ瞬間的ニ爆発サセル裏技。」

 

「絶唱…だと!?」

 

錯乱…いや、興奮するスカリエッティに対して、律儀に説明する彼女は、流れるように腰を抜かすセッテをバインドで拘束。二振りに別れていたザンバーを、一振りの巨大な斬馬刀と思しき大剣へと形を変える。

 

「私ハ護ルベキ者ノ為ナラバ、魔力ナド幾ラデモ捧ゲヨウ。ソレガ…」

 

彼女はザンバーを構え、まるで野球選手の打法。それも一本足打法にて自分の得物を振るう。

狂気的に嗤うスカリエッティの横顔を物の見事に捉えたザンバー。彼はまるで野球ボールのように見事に吹き飛び、部屋の壁を突き抜けていった。

 

防人(さきもり)、ダ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、エリオ。待たせちゃって。」

 

「い、いえ。ありがとうございますフェイトさん。」

 

「家族だもの。当然だよ。」

 

拘束から解かれたエリオにバリアジャケットのマントを羽織らせ、無事を喜ぶ。その顔は、先程の修羅と思しき彼女とは違い、慈愛に満ちあふれていた。とても先程大立ち回りをした人と同一人物とは思えないほどに変容している。

 

「それにしても…」

 

壁一面に張り巡らされたそれを見て、フェイトは目を鋭くする。

 

「こんなうらやまけしか…コホン!卑猥な行為と撮影をするなんて、スカリエッティも何を考えているんだろうね。」

 

「あ…あはは…」

 

今言い直したけど、何を言いかけたのかは大体の予想が出来てしまうだけに、エリオは苦笑するしかない。

 

「これは…私が責任を持って…有効かつよ…もとい!処分しないと!ブフォッ!?…こ、この服装は…!」

 

顔を…恐らく…いや絶対に鼻を抑えながらその写真を、痛まないように丁寧に剥がして、手に持ったバルディッシュの格納領域に収納していく。

…何処か、バルディッシュのコアが、物憂げに点滅していたのは、エリオの見間違いではない、はずだ。

 

「フェイトちゃん!エリオ!?大丈夫!?…って、もう終わってた?」

 

「あ、なのはさん…。」

 

遅れてやって来たなのは。この時間差を見るに、手分けして探していたのか、それともフェイトが尋常ならざる速度でなのはを引き離したのか…。前者であって欲しいと願うのは何故だろうか。

 

「もう…酷いよフェイトちゃん。あんな速度、追いつけるわけ無いんだから!」

 

願いは容易く打ち砕かれるものだった。

狂気にも似たその思いが、人の限界すらも突破させたのか。

 

「ご、ごめんねなのは。これを回収したらもどろうか。」

 

「そうだね、手伝うよ!」

 

「あ!いいんだなのは!私がやっておくから、エリオをお願いね!」

 

せっせと写真を集めるフェイトに首を傾げながら、苦笑いを浮かべるエリオにも更に首を傾げるなのはだった。

 




フェイトさんの恐怖…
原作でアジトに残ってた組のトラウマです

セッテのロリ化についてはINNOCENTを参考で。


歌詞を少し入れてしまいましたが、違反だという場合修正しますので、よろしければ御一報ください
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。