ミッドチルダの英雄(ヒーロー)   作:ロシアよ永遠に

16 / 16
今回、『ふーあいあむさん』の作品『鮮烈なのは構わないけど俺を巻き込まないで下さい………』の主人公こと、篠崎チヒロと、暗黒邪神ことダース・ベクターをコラボとしてお借りしています。
二人らしさを出せているかどうかは分かりませんが、楽しんで頂けたら光栄です。


☆コラボ小説・中二病でも玩具にしたい!その壱!

「そういえば知っていますか?」

 

「ん?何が?」

 

今日も今日とて喫茶翠屋クラナガン支店。四人用の席で、一人の少年と2人の少女が向かい合ってお茶会を開いていた。

 

「最近クラナガンで噂になっている女の子ですわ。」

 

「ん~、聞いたこと有るような無いような。」

 

「ウチもあんまりやね。あ!ヴィヴィちゃん、シュークリーム追加で!」

 

「は~い。」

 

「ジーク…あなた人の驕りだからって遠慮なさ過ぎですわ。」

 

「え?むしろ奢りやから違うの?」

 

「親しき仲にも何とやら、と言うものです。遠慮がないも考えようですわ。」

 

「え~?別に良いんじゃね?奢りなんだし…。なぁジーク。」

 

「せやろ?チヒロもそう思うやろ?」

 

隣り合って座る何処かの高校の制服を着た少年―篠崎チヒロ―と、黒髪ツインテールジャージ少女―ジークリンデ・エレミア―は、まるで仲の良い兄妹のように顔を見合わせる。

 

「お待たせしました、シュークリームです。」

 

「ありがとなヴィヴィちゃん。」

 

「いえいえ、チャンピオンもごゆっくり。」

 

ペコリとお辞儀して次のオーダーを取りに行く、店の看板娘ににこやかな視線を向けるのはジークだけではない。

 

「やはり天使か…!」

 

「む…!ヴィヴィちゃんが天使なら、ウチは女神―」

 

「いや悪魔か魔王だろ。色的に。」

 

「ムッキー!!」

 

「いてっ!!おい馬鹿止めろ!足の小指を踵でぐりぐりするな!」

 

涙目になりながらも、運ばれてきたシュークリームにパクつくジーク。

 

「まぁ奢り云々は…奢る本人が遠慮するなと言ってるわけですし、私もそうすると致しましょう。」

 

「は?」

 

「ヴィヴィ。私に数量限定スペシャルイチゴのショートケーキを1つ。あとお土産用に同じ物を2つお願いしますわ。」

 

「はーい。」

 

「ちょっと待て。誰の奢りって…?」

 

「それは勿論チヒロ、貴方ですわ。」

 

「………。」

 

チヒロは時間が止まったかのようにフリーズする。

その間も、オーダーをとったヴィヴィオがなのはにそれを伝え、着々と飲食料金が加算されていく。

 

「そして時は動き出す…!」

 

「はっ……!ちょ…俺はお前の奢りだと思ってたんだぞ?」

 

「あら、ごめんなさいチヒロ。私、カードしか持ち歩きませんの。ここはキャッシュしか支払いできませんから、現金()()持ち歩かない貴方以外に選択肢はありませんの。…それに、流石にジークにたかるなんて、男としてどうかと思うことは致しませんでしょう?」

 

「ぐ、ぐぬぬ…!」

 

どう見ても確信犯。ゲスい笑みを浮かべてこちらを見つめるヴィクター。

 

「あれ?どーしたんチヒロ。目ぇから赤い涙流して…」

 

そして何も知らずに、もむもむと頬を膨らませてシュークリームを頬張るジークに、チヒロの中でぷつりと何かが切れる。

そして、DSAAチャンピオンの目にも留まらぬ速さで、彼女の頬張るシュークリームを奪い取り、一瞬で平らげた。

 

「あー!!!ウチのシュークリームゥ!!」

 

「うるへーうるへー!!」

 

「あらあらうふふ。」

 

目の前で揉める2人を、してやったりと言わんばかりに健やかな笑みを浮かべて見つめるヴィクターは、端から見れば計画通りという、黒い笑みにも見えなくもない。

 

「と、所で話は逸れたけど、噂になっている女の子ってなんだよ?」

 

「…急に戻しますわね…。まぁ噂という物が一人歩きしているようにも聞こえるのですが。」

 

曰く

あらゆる反社会的な奴らにカチコミをかけては壊滅的なダメージを与えている人物が居るという。しかもその噂というのが、

やれハート様並に巨大且つデンドロビウム級の女だった。

だの、

やれその拳一つで未開の次元世界を踏破した

だの、

やれ厨二病真っ盛り

だの…

どれもこれもが信憑性に乏しいものだけに、ヴィクターの中でも十中八九信じていないに等しい。

 

「確かにそりゃ信じろというのが無理ってもんだな。」

 

「でしょう?…まぁ実際にそんな人間が居たら逆に見てみたい物ですけど。」

 

「そうだな。特に一番最初とか、見てみたいよな。どんな拳も、腹の脂肪で緩和してしまうってか?」

 

「ウチは二番目やねぇ。どんな戦い方するんやろ。」

 

「まぁアレだ。どんな噂が立っていようとなかろうと、俺にとっての価値観の判断材料は2つに1つだな。」

 

「あら、奇遇ですわね。私もそうでしてよ。」

 

「「弄んで、楽しい玩具になるかどうか。」ですわ。」

 

「実際、噂が三番目の厨二病真っ盛りだったら、それはそれは楽しい事になりそうだよな。」

 

「うふふ…、確かに。」

 

「なぁなぁ、厨二病って何なん?」

 

こうして…『噂の少女玩具化計画』と言う、なんとも末恐ろしいものが、喫茶店の片隅で立てられていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ちっくしょ……ヴィクターの奴にまんまとしてやられた…!」

 

翠屋を後にして。

1人帰路に着いたチヒロは、誰にともなく悪態をつく。

というのも、支払いの際に諦めて全員分支払おうとしたら、クレジットカード払い用の端末が目に付いたのだ。

 

「あの…なのはさん?」

 

「ん?何かなチヒロ君。」

 

「ここってカード払いっていけますよね?」

 

「うん。大体のカード会社は出来るようになってるよ?」

 

「…ヴィクタァァァァアアア!!」

 

叫んだところで時は既に遅く。

既に執事の運転するリムジンにジークと乗り込み、

 

「ではチヒロ?ごきげんよう。」

 

そんな言葉を残して車を発車させたのだ。

 

「…あん…にゃろ……!」

 

「あ、あはは……じゃ、チヒロ君。支払い、お願い出来るかな?」

 

「…はい。」

 

日本円にして、樋口一葉が描かれたお札が飛んでいくほどのティータイムとなり、今月の小遣いの大半が消し飛んだチヒロは、心中泣く泣く翠屋を後にすると共に、ヴィクターへと復讐という名の仕返しを硬く心に誓って、今に至る。

 

「はぁ…暫くは節約だな…ったく。…ん?」

 

ぽふんと、自分の胸元に何かがぶつかった。

 

「なん…」

 

「フーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃん……」

 

まるで呪詛のようにブツブツと呟くそれは、チヒロにぶつかっているにもかかわらず、しかもそれに気付かずにずいずいと歩いていく。

 

(え?なに?なんなのこれ?強制連行だとかそんな生温いもんじゃないぞ?というか、こいつ、俺に引っ掛かっているのに、頭だけで押してくるとか…なにこれ怖い…。)

 

「フーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃん……」

 

(しかも何なの?フーちゃんてだれだよ!?)

 

来た道を押し戻されていくチヒロ。このままでは再び翠屋だ。天使であるヴィヴィオを見れるならばそれはそれで僥倖だが、生憎とこれからライジンさんとネトゲをする予定がある。

故に…

 

「おい、ガキンチョ。」

 

「フーちゃんフーちゃ……何ですか貴方は?なんで私に密着してるんですか?」

 

「それはこっちの台詞だ。フーちゃんフーちゃん連呼しながらプッシュされ続けたんだよ。軽く50Mほどな。」

 

「なん…だと……」

 

見上げたそいつの目は、アメジストの如く綺麗な色だった。…たしか別次元で自身のストーカーをしていた少女の片眼もこんな色だったな、とチヒロは思う。

しかし、決定的に違うところ。

それは、このちびっ子が濁った眼をしていたことだ。

 

「…私の潜在的な闇の力を引き出すための瞑想が…いつの間にかフーちゃんへの妄想に変わっていた…。私の闇をも払う存在というのか…フーちゃんめ…!だがそれがいい…!」

 

え?なに?何なのこの子。闇だとか、潜在的な力とか、患ってるの?10代前半に掛かる特有の病気に?

 

「なぁ。」

 

「…なんですか?」

 

「いい加減離れてくれね?」

 

「失礼しました。…何となく闇の匂いがしましたので、それを補給しようと…。」

 

「闇の匂いってなんだよ…。」

 

ここでふと思う。上手くすれば、この厨二病患者、とってもとっても面白い方向に調きょ…もとい、向かわせることが出来るんじゃないか、と。そしてゆくゆくは新しい玩具に…。

そうと決まれば、

 

「フッ…我が闇の匂い(ダーク・スメル)を感じるとは、中々の使い手と見える。」

 

話を一旦合わせるに限る。らしく見せるために、片眼を手の平で覆い、いかにも高貴であるかのように振る舞い、口もつり上げて悪者っぽく演じてみた。

すると…

 

「やはり…!貴方も闇の使い手…!私が感じた匂いに間違いは無かった!」

 

だから匂いって何だよ。というか、年頃の女の子が匂い匂い連呼するんじゃありません。

とまぁそんな感じで警戒心を解かせることに成功したチヒロは、その心中でニヤリと笑みを浮かべた。

 

(コイツwwチョれぇww)

 

自身と共感できる人物という物に飢えていたのか、濁っていた眼が濁りを増したようにみえた。

 

「フッ…だがその齢では我の領域には未だ及ばぬな。まだまだ青い。」

 

「なっ…!確かに私は…闇の使い手となって日は浅いですが、力その物は負ける気はしません…!」

 

「だが力だけだ。1つのことのみに特化していて満足するようでは、この覇道を歩むことは夢のまた夢。諦めることが懸命よ。ククク…」

 

しかし話を合わせる内に、かつて自身が患った病気が再びその息吹を吹き返そうとは…。次から次へと厨二病患者らしい台詞が飛び出してくる。

 

「ぐ…ぬぬ…!」

 

そしてその言葉を真に受けて、この上ない屈辱を味わったかのように、恨みったらしくチヒロを睨みつける。だが背はチヒロの方が頭1つ大きいために、上目遣いに睨みつけているので、小動物の威嚇程度にしかならない。

 

「そう睨むな。別に俺とて、未だ力を覚醒していない蕾を握り潰そうなどと、そこまで鬼畜ではない。」

 

「へ?」

 

どの口が鬼畜ではないというのか。散々ジークをヴィクターと共に弄り倒して来た彼がそう言ったところで、周囲の人間からは失笑を買うだろう。

 

「我が元へ来るならば、その力をより一層高みへと轟かせることが出来る。しかしそのままでは力を目覚めさせぬまま…。さぁ、選べ。力を求むるかどうかを。」

 

勿論、返ってくる答えは決まっているだろう。ここまで落として、そして優しく手を差し伸べるならば…

 

「…わかり、ました。…我が力の為…貴方の軍門に下りましょう。」

 

いとも容易く落ちる。

 

(よし!玩具ゲッツ!!!)

 

とまぁ内心彼はこんなことを考えているわけだが、件の少女は知る由も無いわけである。

 

「そうと決まれば…貴様に紹介するべき同胞がいる。」

 

「同胞…ですか?」

 

「そうだ。志を同じくする者で、俺と浅からぬ因縁もある奴だ。」

 

そう言うだけ言って携帯端末を操作して、登録電話番号の一覧から目的の人物を見つけ出すと、迷うことなく通話へ移す。数コール後、目的の人物が応じた。

 

『あらチヒロ。ごきげんよう。』

 

「おうヴィクター。」

 

先程の飲食代の恨みは何処へやら。いつも通りのフレンドリーとも呼べる口調で彼は相手に応じる。

 

「実は…」

 

かくかくしかじか

かくかくうまうま

 

『それは私としても興味深いですわね。だったら丁度良いですわ。今から言う場所に2人出来ていただけますかしら?多分そこからそう遠くないところにありますわ。』

 

「OKだ。じゃあ場所は…」

 

最早2人は止められない。

そして何も知らない少女…リンネ・ベルリネッタ。

 

「では、向かうとしようか。」

 

「どこへ、ですか?」

 

「決まっているだろう?」

 

新たなフロンティアへだよ。

そう言ったチヒロの顔は、第三者から見ればどこまでも黒く見えた。




何か予想以上に長くなりそう…なので一旦切りです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。