ミッドチルダの英雄(ヒーロー)   作:ロシアよ永遠に

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タイトル通り、彼女の登場です。ギャグ描写って中々難しいね。


ミッドチルダの空腹少女(チャンピオン)

「ククッ…!フハハハッ!」

 

薄暗い研究所の格納庫。照らされる照明の光に陰を作っている聳え立つ巨大なソレに、スカリエッティは狂気的な笑みを浮かべた。両手を広げ、作り上げた自らの作品を見上げる。

 

「名も知らぬ少女よ!君のために私は頭脳に縒りを掛けて仕上げた傑作だ!ククッ!一体どうやってこの逸品に対抗するか…楽しみにしているよ。」

 

モニターに映し出された少女―アインハルト―を見つめ、新しいオモチャがどのように遊べるか楽しみにしている子供のような、無邪気で、そして狂気的な笑みを浮かべる。

 

「ドクター。この作品の予算のために今月の食費がほぼ無いのですが…。」

 

「浪漫を求めるには時には忍耐も必要なのだ。そしてそれは空腹とて例外ではないのだよ、ウーノ。」

 

「はぁ。」

 

「須く浪漫の先に結果を求めるのは別問題だかね。私の中では今、あの少女への飽くなき執着が、食欲に勝っているのだ。済まないがウーノ。私は今からあらゆるパターンを想定してシミュレーションを開始する。」

 

「御随意に。」

 

そう言うと、おそらくはコクピットに当たるところへといそいそと潜り込んでいくスカリエッティを見送り、ウーノは溜息を一つ。

 

「さて…今月もあそこにお世話になりますか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました~。」

 

所変わり、クラナガン中央通りの沿い。

街路樹が立ち並ぶ歩道の沿いにこじんまりとだが、一軒の喫茶店があった。余り広くはない敷地ではあるが、多くはない座席数ではあるものの、日曜日だけあってカウンターを含めてほぼ満席、ウェイトレスの少女もせわしなく料理やスイーツを配膳していた。

 

「なのはママ!3番さんにケーキセット二つ!コーヒーとココア!7番さんはガトーショコラとモカのセット!」

 

「はいは~い!ちょっと待ってね!ヴィヴィオ!2番さんに日替わりランチお願いね!」

 

「は~い!」

 

翠屋ミッドチルダ店

管理局の教導隊に所属する傍ら、オフの時間帯にこうやって母から教えて貰った料理の腕前を振るうのは、高町なのはである。そしてウェイトレスとして配膳するのは、なのはの愛娘たるヴィヴィオ。今日は日曜と言うことで学校が休みなのもあり、こうやって店の手伝いをしていた。

先述の通り、教導隊がオフの時、と語ったが、やはりそこはシフトにもよるのか、不定期な開店はどうしても否めない。しかしそれを差し引いても、桃子直伝の腕前は客が足を運ぶには充分なほどであり、時折行列も出来るほどだ。

 

「なのはさん、こんにちは!」

 

「あ、スバルにノーヴェ、いらっしゃい!」

 

カウベルをならして来店したのは、六課時代に部下であったスバルと、事実上そのスバルの双子の妹のようなノーヴェだった。二人とも今日はオフなのか、仕事の休憩で良く着てくる所属隊の制服ではなく、ラフな私服姿だった。

 

「どもっ!ヴィヴィオも手伝い頑張ってんな?」

 

「もちろん!開いてるお好きな席へどうぞ!」

 

ちょうど窓際の席が空いていたので、足早に着席する。

キンキンに冷えたお冷やとホカホカのお絞りをそれぞれ二つ、ヴィヴィオは慣れた手つきで配膳し、注文票を手にする。

 

「二人とも、注文は決まった?」

 

「あたしは…今日はナポリタンのスペシャル盛り!ノーヴェは決まった?」

 

「ん~…じゃあ日替わりのスペシャルで。」

 

「確認します。ナポリタンのスペシャル盛り1点、日替わりのスペシャル。以上でよろしいでしょうか?」

 

コクリと頷く二人を確認し、

 

「それでは失礼いたします。」

 

ペコリと可愛らしいお辞儀を一つし、パタパタとオーダーしに向かう。

流石に畏まらなくても、と2人は思ったが、そこは顔見知りとは言えど、今は店と客の間柄に過ぎない。

 

「ヴィヴィオ、スッゴくウェイトレスが様になってきてない?」

 

「そーだな。なんつーか…看板娘って感じがしてるよ。…多分、この中にはヴィヴィオ目当ての奴とか居るんじゃねぇの?」

 

「あっはは!まっさかー!」

 

しかし、ノーヴェの懸念は的中していた。

 

「ハァ…ハァ……ヴィヴィオタソ…ハァ…ハァ…」

 

鼻息を荒くし、その目は一点。ウェイトレスとして走り回るヴィヴィオを追い続ける。目深に被った白いハット、白いスーツに赤いネクタイ。緑の髪をハットに仕舞い込み、さらにはサングラスまで着用している。

しかも怪しまれないようにしての配慮か、一応コーヒーを頼んで、それを啜ってはいるものの、かれこれその一杯で2時間近く粘っている。おかげでホットだったのが、既にアイス寸前にまで冷え切っていた。

 

「…今の僕にはこの時間が至福だ。ヴィヴィオを見ている時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……。」

 

「あの…コーヒーのお代わりは…」

 

「是非ともお願いしようじゃないか!」

 

いつの間にやら空っぽにしていたカップを気遣ってか、ヴィヴィオがお代わりを尋ねたところ、即答。コンマ一秒の間もなく、返事が返ってきた。若干引きつりながらも、お代わりのコーヒーを注ぐため、一旦カップを下げる。彼の口元は嬉しいのかなんなのか、常に釣り上がっている。

 

「ふふふ…サボってこの様なことをしているなどと、義姉さんにはとてもじゃないが言えないねぇ。」

 

「そうですか。仕事をさぼっていた挙げ句、陛下にいやらしい目を向けていた、と?」

 

「いやいや、いやらしい目だなんて人聞きの悪い。」

 

「どちらにせよ、折檻ですね。ヴィンデル・シャフト。」

 

「って!なんで義姉さんがここに!?」

 

「黙りなさいヴェロッサ。サボるのみならず、陛下への背信ともとれる行為…例え聖王閣下が許そうとも、このシャッハ・ヌエラが断じて許しません!天誅っ!」

 

振り下ろされたトンファーが、数少ないテーブル席を真っ二つのVの字に叩き折る。監査官とは言え、そこは管理局員。咄嗟の判断で変態―ヴェロッサ・アコース―は飛び退いた。

 

「大体貴方はいつもそう!いつも目を離したらどこかへふらふらするか、人目に付かないところでサボっているか…!貴方のそう言ったところをシャンテも…!」

 

「いやいやいやいや!僕は関係ないよ!?シャンテには大したことを教えてないよ!?ただ、こっそり昼寝をするのに適した場所とか、お祈りの時にバレないように居眠りする方法とか教えただけ…」

 

「やっぱり貴方かぁぁぁあああっ!!」

 

どったんばったんと、人目も憚らずに始める聖王教会に属する2人。客は悲鳴を挙げ、振り回されたトンファーは、買い揃えたインテリアを無慈悲且つ無残に破壊していく。

なのは、スバル、ノーヴェは、そんな光景をどこか遠い目で見つめ、ヴィヴィオに至ってはどうしたものかとオロオロしている。

 

「死になさい!一度生まれ変わって、聖王閣下に懺悔なさい!」

 

「だが断る!!」

 

あぁ…、オークションで落札した年代物の椅子が、原形を留めないくらいに…。

もう店長であるなのはの眼には光は無く、無表情に取り出した携帯端末を、まるでロボットのように正確に、的確に操作。通話のスタンバイが出来たのか、端末を耳に当て、呼び出し音に耳を傾ける。その間にも店のガラスは割れ、扉は吹き飛び、もはやこの店はなんの店なのかすら分からないようになってきていた。数回のコール音の後、相手が呼び出しに応じたのか、それが途切れると同時に、なのはは一言。

 

「もしもし、騎士カリムですか?」

 

暴れていた2人が凍ったのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ありませんでした。2人には私の方から厳しい処罰と、双方の給料から店の修理費を天引きしておきますので、この件はどうか穏便に…。」

 

「あ~、いえいえ。もう直ったんですし、まぁ…気にしない方向で。」

 

翠屋ミッドチルダ店前の歩道

なのはからの連絡を受けて、聖王教会から特急でやって来たカリムに平謝りされ、なのはは正直タジタジだった。しかも、連れてきた謎の魔導師数人が店内に入ったかと思えば、一瞬のフラッシュバックの内に内装が新品同様に修復されていた。

ちなみに暴れていた2人はというと、カリムに連絡が行ったことを察し、次の瞬間にはまるで借りてきた猫のように大人しくなり、それはもう静かになったものだ。因みに今二人は、カリムの後ろで並んで仲良く正座で猛反中だ。

 

(あぁ、なんでこんなことに…!)

 

(義姉さんが暴れるからてしょうが…。)

 

(それを言うなら、そもそも貴方がサボるのが一番の要因でしょう!?)

 

(僕は壊してない!義姉さんが勝手に暴れただけじゃないか。)

 

(あ、貴方って人はぁ…!)

 

「お二人とも?」

 

にこりと、満面の笑みで振り返るカリム。しかしその振り返る動作はとても穏やかな雰囲気はなく、圧倒的な威圧感と怒気を孕んだ物となっていた。

 

「帰ったらお二人とも、私と楽しいO☆HA☆NA☆SHIしましょうか?」

 

「き、騎士カリム!こ、これには深い事情が…!」

 

「そ、そうだよ!話を聞いて…」

 

「ねぇ…?」

 

彼女のその一言と同時に周囲へどす黒い負の波動が、まるで水面に広がる波紋のように浸透していくのが見て取れた。一瞬だけだが、大気が、星が、否、軽い次元震すら思わせるような『歪み』を生み出したかのような…。

 

「それでは私はこれにて失礼いたします。」

 

スカートの端を摘まみ、淑女のように一礼。とても手慣れ、そして様になっている。小動物の如く抱き合って怯える男女を、ずるずると引きずりつつ彼女は聖王教会所有の物であろう車に乗り込み、現場を後にした。

 

「さてっ!せっかく開店してるんだし、お仕事しよっか!」

 

「はぁ~い!」

 

「スバルとノーヴェも、今から作り直すから待っててね!」

 

「あ、はい、ありがとうございます。」

 

わいのわいのと、あっという間に修復された翠屋に戻るなのは。その服の裾を引っ張る手があった。振り返ると、黒いジャージを着込み、フードを目深に被った少女。俯いているので顔は見えないが、体つきから女性だろうか?

 

「す、すいません。」

 

「ん?どうかしたの?」

 

「……を……さぃ……」

 

「………?」

 

ボソボソと、か細い声。耳を澄ませても聞こえるかどうかという小さな声に、なのはは思わず首を傾げる。

 

「どうかした?私に何か用があるのかな?」

 

「えっと……お願いがあるんやけど…よろしいですか…?」

 

少し上げた顔。フードの陰からブルーの瞳が顔を覗かせ、その目は余程重大なお願いなのだろう。ごくりとなのはは固唾を飲み込んだ。

 

「わ、私に出来る範囲なら大丈夫だよ。言ってみてくれる、かな?」

 

「そ、それやったら…。」

 

いよいよだ。

二人の間に緊迫した空気が漂う。

どこからともなく

『┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″』

『コ″コ″コ″コ″コ″コ″コ″』

そんな効果音が周囲に浮かぶ。

1秒の時が流れるのも長く感じ、そして息苦しさすらなのはを支配していく。幾度となく戦場に立ってきたなのはですら、ここまでの緊張を味わったことは片手で数えるくらいだ。一番近しいのは9歳の時、クリスマスに『彼女』と対峙したときだろう。懐かしいなぁ、などと思い出に耽ることで余裕を持とうと思ったが、空気がそうはさせず、再び張り詰めた雰囲気へ意識を向けさせられる。

喉が渇く。

嫌な汗が頬を伝う。

心拍数が上昇していく。

手が、足が若干震えている。

 

「パ…。」

 

ようやく口を開いた。一文字目は『パ』。

…一体何を願うのか?出来る範囲、と宣ったが、それでもいざここまでの雰囲気となると、何を言われるか不安になってくる。

 

「パ…?」

 

思わず聞き返してしまった。

その声は、身体と同じく若干震えていたかも知れない。

どうなる…?

 

「パンの耳を下さいッ!!!」

 

「パ、パンの耳ィッ!?そ、そんな、まさか…!パンの耳…って……へ?」

 

「アカンの…ですか?」

 

唖然とした。アレだけの前振りがありながら、まさか要求されたのがパンの耳。なのははへにゃりとうなだれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これ。これくらいでいいかな?」

 

「こ、こんなによーさん…えぇの?」

 

ビニール袋一杯にぎっしりと詰められたパンの耳。それを見ながら、フードの少女は目を輝かさせた。

 

「特に使う予定もないし、もし良かったらいつでも取りに来て?…まぁ店自体はたまにしか開けてないけど。」

 

「は、はい!おおきに!」

 

手を伸ばし、袋を受け取ろうとした

 

 

 

その時だった。

吹きすさぶ突風に、なのはと、そして少女は煽られる。フードが捲れ、2本の大きなツインテールが姿を見せる。吹き付ける風圧に吹き飛ばされないよう、微々たるながらも必死に足を地に着けて堪える。

 

「だ、大丈夫…!?」

 

「な、なんとか…!」

 

ようやく収まった突風。互いの無事と周辺を状況を確認する。

突発的な突風だったので、特に大きな被害はなく、木々の小さな枝が折れたり、道行く人々かよろけたり、まいっちんぐな事になってたりしたくらいな物だった。幸いヴィヴィオ達も、店の中に入っていたので被害は皆無である。

 

「こ、こんな突風、自然に発生する物なの!?」

 

ビル風とは言え店を開いてからと言うもの、ここまでの強い風は今までに経験はなかった。それだけに思う。

 

『ククク…!出て来たまえ、謎の少女よ!今日はこの傑作【ガジェットTypeS 皆で叫ぼう!究極のキック!小道具という意味なのに幽霊とはこれいかに!?】で相手をしよう!』

 

ガジェットの胴体、それは変わらない。しかし前回の物に比べ、四肢の肉付きがしっかりしてマッシヴさが増加。その重厚さと力強さが見る者にインパクトを与えるには充分。

 

「…またスカリエッティか…。」

 

なのはは頭を抱えた。前回はなぞの格闘技者によって粉砕された彼の機ではあるが、こうして相手が科学者なだけに自分で開発した作品でリベンジをしてくるのは厄介だ。

 

「レイジングハート!セットア…!」

 

『出来ません。』

 

拒否されたでござる。

 

「どどっどうして!?」

 

『複数のアプリケーションのアップデート中です。終了まで残り30分。』

 

「アプリケーション!?って何!?」

 

『パ○ドラとモン○ト、Amaz○nのアプリケーションetc.…。』

 

「こんな時に限って!?」

 

再びなのはは頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!硬い…!」

 

『フフハハハ!!どうした!?その程度かね?装甲材質を変えただけでこの体たらくとは…!』

 

なのはがレイジングハートのアップデートに追われる最中、アインハルトは既に交戦を開始していた。しかし、アインハルトの防戦一方。強固な装甲がアインハルトの拳を一切通さず、まともな損傷を与えられずにいた。

 

『拍子抜けだよ。覇王だか何だか知らないが、興を削がれる。』

 

「私は…まだっ…!ぐっ!」

 

打ち込んだ拳。それはやはり装甲をひしゃげさせるどころか、へこみすらしない。逆にその硬度が、アインハルトの拳にダメージを与え続けていた。

 

『2回の邂逅で終わるとはね。しかし、この武装でとどめを刺して、全滅の最後というわけだな。ククク…。』

 

ガジェットの胸部と思われるシャッターが観音開きに開き、内部から大口径レーザーのバレルが展開される。

 

『塵と消えたまえ!メガ・ブラスターキャノン!』

 

照射される大口径の魔粒子による砲撃。その光は、アインハルトの真横を掠め、ビル街を抉るように迸った。どこかの108のロゴが描かれた装甲車を吹き飛ばして、その奔流はクラナガンの街を大きく、そして深く、まるでモーセの十戒の海の如く二つに文字通り大きな溝を創り出して左右に隔てた。

 

『ふむ…照準に難があるか。いや、彼我のサイズの相違かな?』

 

まるでわざと外したと言わんばかりににやりと口許をつり上げる。

ちなみに、

 

この小説に死人は出ないので、街の人々はギャグ補正により無事だったりする。

 

 

『さぁ!次こそは…』

 

めしゃり

 

何か金属のひしゃげる音が周囲に木霊した。当事者であるアインハルト、そしてスカリエッティは目を丸くする。

途方もなく大きな破壊音。

それが一体何によって生み出された物なのか。

その正体。

 

どす黒いオーラ。

揺れる二つに結われた、少々クセのある長い黒髪。

同じく黒い戦闘衣装。

 

俯きながらも、前髪による陰りで目元は見えないが、その圧倒的な威圧感は肌を、そして機械を通して心の臓と脳に恐怖を与えるには充分すぎる物だ。

そしてその片手には、

3本の鋼鉄の突起が備え付けられた【ガジェットTypeS以下略】の左腕であった。魔力の流れを失った回路が、バチバチとスパークを起こして火花を散らしている。

 

『な…!電気的に中性な異種構造の宇宙合金の装甲を…意図も容易く破壊したと!?実弾、ビーム兵器が全て無効の超強度で、アインヘリヤル三機をゆうに爆破する爆弾を、直に付けられ爆発されてもまったくの無傷。理論上は、彼のエースオブエースの集中砲火を受けても全く問題無し!しかもノンオプションで大気圏突入、ノンオプションで大気圏離脱が当たり前なこの金属ををををっ!?』

 

「………アンタ。」

 

ぼそり、と。しかし【ガジェットTypeS以下略】の集音マイクがしっかりと拾え、そしてアインハルトにも聞こえる声が紡がれた。

 

「かけがえの無い物…奪われたこと、あるんか?」

 

『な!何を藪から棒に!?』

 

「ウチは…昔から奪われたもんある。…それもたくさん、失った記憶が生まれたときから、この頭ん中に入っとるんや。」

 

金属の腕を掴んでいた掌を握る。金属特有の甲高い音。そして小規模な爆発音と共に、それは爆発四散した。スカリエッティは思わず、ひっ!と情けない声を漏らしてしまう。

 

「ヴィヴィ様特製クッキー。…ケーキ。アイス、スコーン、サンドイッチetc.…。それを…アイツは…あの男は……!!!許せんッ!!!」

 

一体何をキレているのか?アインハルトにも、そしてスカリエッティにもそれは分からない。しかし、先ほどの威圧感とはまた違った空気が周囲を包んでいた。

刺し貫かんばかりの、冷たく、そして底知れないナニか。

そして見上げた瞳に宿るその視線。否、これは…

 

『死線…!?』

 

スカリエッティは震え上がる。

これは…

この眼はマズい。

見ただけでこれから起こる惨劇を想像できてしまい、正直少しチビった。

 

『しかしぃ…私とて科学者の端くれ…!目の前の事象!それを科学の力で乗り越えず何とするのだ!!』

 

操縦レバーを握り直し、自らに活を入れた。

そうだ、銀碧の髪の少女を超えるために自らの科学と金をつぎ込んだのだ。ここで負けるとあっては…!

 

「食べ物の恨み…!食べ物だけにしっかり味わいや…!」

 

瞬間、彼女の瞳からハイライトが消え失せる。威圧感に加え、滲み出る魔力。右の拳がぎしりと握り締められる。

 

『ここで叫ぶのはやぶさかではないのだがね…!整備士泣かせのこの武装で、君を屠ろうではないか!!』

 

そう。

究極にして至高の一撃。

その威力と、パーツの摩耗具合をシミュレーションした所、途轍もないくらいの部品がイカれる、という結果が弾き出された。

しかしそうまでしてでも勝たねばならない。

いつの間にか科学者として、スカリエッティに意地…プライドが芽生えていた。

 

「パンの耳の仇ィ!!」

 

パンの耳。

喫茶店などでよく要らない部位として破棄されることがある。人によっては食べない人も居るが、栄養としてはパンと変わりなく、むしろその歯ごたえが好きだという人も居るだろう。

彼女―ジークリンデ・エレミア―はそんなパンの耳をこよなく愛する一人だった。

遥か後方…大通りの道路の隅には、安物の透明ビニールに入れられていた、翠屋のパンの耳。それが突風に煽られたときに散乱。見るも無惨に道路へと鏤められていた。

今日の夕食、そして明日一日の食事を不意にされたこと。

その怒りが、無意識による超攻撃モード…通称『エレミアの神髄』の発現へと至らせた。

 

「殲撃…!」

 

ジークの右手に、洗練された魔力が集約され、それによる半透明な魔力の爪が精製される。他には何も要らない。拳、その『鉄腕』こそが彼女の最もたる武器なのだ。

 

『ガジェットTypeS以下略』は背中のブースター、そして脚部の跳躍により空高く舞い上がった。

高く、

高く、

そしてスカリエッティは、攻撃に向けてジェネレーターの出力を上昇させる。

 

『リミット…解除!出力…マキシマム。さぁ…!受けたまえ!浪漫と!情熱と!喜びと!愛と!怒りと!哀しみの!究極ゥ!!ガジェットォォォォッ!!!キィィィィックゥゥゥゥウウッ!!!!』

 

それは全てを賭しての一撃。そして魂を込めた叫び。そのスカリエッティによる凄絶なるシャウトに、ガジェットのマイクは火花を散らして破損。

降下に向けて、背後のブースターを上方向に。点火された火は、その残滓を残して対象を推進させる。

そして右爪先にエネルギーフィールドを構築。

一点突破。

その一言に尽きる攻撃だ。

 

「一撃…必殺!!!!」

 

迫り来る、自分の十倍はある体躯を持つ『ガジェットTypeS以下略』。その右足のエネルギーフィールド。それにカウンターのタイミングに合わせて、右手の『鉄腕』を爪と共に打ち込んだ。

直後、

恐らくは誰も予想はしなかったはずだ。影ながら戦っていたアインハルトも目を疑った。あの強固な装甲に、覇王の拳は通じなかった。自らが最強等という自惚れはなかったはずだ。しかし、目の前に自分の力を上回る相手が現れた。

そして、ソイツを…一人の少女が…。

 

 

滅した。

 

「ガイスト…!ナックル!!!」

 

殲滅する拳。空を切る拳が、エネルギーフィールドを意図も容易く、それこそ薄い氷の膜を砕くかの如くすんなりと破り、迫り来る爪先にめり込んだ。

 

「まだやぁぁぁぁっ!!」

 

まだ突き出しきっていない。

振り抜く拳は、勢いを付けて突っ込んだ分、モロにカウンターを受けたガジェットを貫く。

鉄腕、その名に恥じぬ力と、殲滅、その名に恥じぬ破壊力。その壊れ行く彼の機を見、アインハルトは呆然としていた。

 

『わ、私の頭脳は……私の頭脳はぁっ!次…元世…界……一ィィィイイイ!!WRYYYYYYYYYYYY!!!』

 

謎の断末魔を残し、爆発するガジェットから操縦席ごと吹き飛ぶ奴。恐らくはまた性懲りもなくやってくるだろう。その時が来るなら彼女の出番だ!戦え!ジークリンデ・エレミア!孤独のグルメ、その先まで!!

 

「覇王の私が負けに次ぐ負け…。ハッ!?これはもしや、パワーアップのフラグ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ…!うぅ…!!ウチの…パンの耳ィィ……!」

 

「あぁっ!ほらほら泣かないで!まだあるから、ねっ?」

 

めそめそと地に手を付けて泣きつくジーク。余程堪えたのか?そこまでパン耳を愛しているのか?

そんな彼女を甲斐甲斐しく慰めるなのはの手には、再びビニールに入れられたパンの耳。

 

「で、でも、あの転がってもうたのも勿体ない…。」

 

「あ~。あれは流石にばっちいから、新しいのをあげるよ?」

 

「でも…食べ物粗末にしたらあかんよってに。」

 

ここは卑しいと捉えるのか、それともがめついと捉えるのか、はたまた倹約家と捉えるべきなのか。

 

「あの…すいません…。パンの耳を…分けて頂けないでしょうか…?」

 

背後から話し掛けられ、振り返ったなのはは、目を丸くして驚いた。

目深帽に膝下当たりまであるトレンチコート。口にはマスク。目にはサングラス。…どこからどう見ても不審者だ。帽子の影には紫の髪を結っているのか、見え隠れしている。

 

「なんだか今日はパン耳が大人気だなぁ…。」

 

不思議なこともあるものだ、となのはは疑問符を浮かべつつ、パン耳を求めて店内へと姿を消した。




こんな感じで最新話です。拙い文章ですが、ご容赦を。こうした方が良いかも、って言う人はどしどしお願いします。もちろん感想も。
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