ミッドチルダの英雄(ヒーロー)   作:ロシアよ永遠に

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今回ちょっとギャグ控えめ。
一人だけ古いネタを繰り出してきてますが。


ミッドチルダの新入り(ニューカマー)

モダンな色合いの廊下をひた進む少女…高町ヴィヴィオは、暫くぶりに生徒会長に呼び出しを受けた。

今までは自分の属する小等科の学年の書類などを持っていくこと、つまり自分から呼び出される前に行くことはあれど、会長から呼び出しを喰らうことは余りない。

呼び出された理由を考えながら、生徒会室へと歩を進める。

書類の出し忘れ?…は恐らくはない。

新しい仕事?…であれば、大抵は担任を通じて来るはずだ。

そもそも直接提出する書類でもなければ、中等科に足を運ぶこともないものだ。

普通なら小等科の生徒が中等科の校舎に居たら物珍しい目で見られそうな物だが、ヴィヴィオは中等科の生徒にとって見慣れた物なのか、特に気にするまでもなく、むしろにこやかに歓迎されていた。これも彼女の人懐っこさと愛嬌の賜物だろう。

話を戻すが、理由を考えている間にもすれ違う中等科の先輩とにこやかに挨拶を交わす。

さて、前回呼び出された理由は何だったか…。

挨拶はかわせど、考え事をしているとその注意力はやはり普段よりも散漫に必然となってくる。

 

「わっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

廊下の曲がり角でぶつかってしまった。お互い、強かに臀部を打ち付けたのか、片や涙目に、片や痛む尻を撫でている。

 

「ご、ごめんなさい。」

 

「い、いえ、こちらこそ…私の不注意で…。」

 

「…あれ?確か貴女は…アインハルトさん…でしたか?」

 

「そう言う其方は…ヴィヴィオさん?」

 

ぶつかった相手は、生徒会室で出会った先輩のアインハルトだった。

 

「どうしてヴィヴィオさんが中等科に…?」

 

「生徒会長に呼ばれまして…」

 

「そちらも生徒会長に?」

 

「も…と言うことは、アインハルトさんも…ですか?」

 

そうなると二人連れ立って生徒会室へ向かうことになるのは必然だ。アインハルトはもちろん、ヴィヴィオもある程度歩き慣れた廊下を、横並びになって歩いていく。

 

「アインハルトさんは…生徒会長に何故?」

 

「何故…と言いますと…まぁいつも会長閣下が私でもこなせる『雑務』を任せてくれるんです。その件かと…。」

 

彼女の言う『雑務』、というのは『特務』を意味する隠語であり、特務関係の人間間で通ずるキーワードとなっている。何らかの探りを入れられない限り、大抵はこれで分からない者には分からない。

はてさて話は変わるが、前回のポニ男事件において生徒会室で邂逅して以来、出会わなかった二人。しかし、こうして歩きながらも面と向かって話すとなると、なかなか話題が出て来ない。物静かなアインハルトならまだ分かるが、社交的で明るいヴィヴィオですら引き出しがないともなると八方ふさがり。無言のままに生徒会室前に辿り着いた。

 

『入りたまえ。』

 

「「失礼します。」」

 

凜としたエリカの入室許可、がちゃりとスタンダードな効果音を伴い、入り口のドアを開ける。室内最奥の、どっしりとした机と、その附属である椅子に座り、堂々とした佇まいの彼女が待ちかねたと言わんばかりに椅子を180°回転させて二人の方を見る。

 

「ふむ、二人連れ立って来たのか。それは重畳。お互いに待つ手間が省けたと言うものだな。」

 

「…会長閣下。まさか…私の『雑務』にヴィヴィオさんを…?」

 

「察しが良いのもまた重畳、だな。そのまさか、だよ。…ふむ、この言い回し、一度使ってみたかったのだ。」

 

「あの~…正直、話が見えてこないんですけど…。」

 

話を進めるエリカとアインハルト。その二人の会話についていけずに怖ず怖ずと小さく手を上げるヴィヴィオ。

 

「なに、君にもストラトス君が請け負う生徒会の『仕事』、その一部を手伝って貰おうと思ってね。」

 

「…やはりそうなりますか…。」

 

溜息しか出ない。特務の危険性。それを肌身で、そしてそれを現場で感じるからこそ、アインハルトはエリカの発案に否定的だ。

だが生徒会長の決定に、実質部下に当たるアインハルトは拒否権がないのだ。…彼女なりの熟考の末に弾き出した決定。…何らかの考えあっての物だと信じよう…念の為。

 

「わかりました。それで…何をすれば…?」

 

「一度君の力量を測りたい。ストラトス君。」

 

「…わかりました。」

 

「???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…えーっと…?」

 

「ヴィヴィオさん、手加減無しでお願いします。」

 

ヴィヴィオは気付けば学院の敷地内にある模擬戦闘用のフィールドにいた。周囲半径50メートル。直径100メートルの円形状のフィールドに、周囲には夜でも試合が出来るように上から照らすライトが設営され、観戦も出来るように観客席がフィールドを囲っている。フィールド中央の天井には、試合時に対戦者同士の情報表示用の大きなディスプレイが四面各方に向けられていた。

ここまで大がかりな物を設営している理由として、学院の成績上位者同士による模擬戦トーナメントを行うためである。観客席を設けてあるのも、応援の他に観戦することでの技術吸収を目的としている。

そしてその中央。

アインハルトとヴィヴィオ、双方が5メートルほど距離を取って向かい合っていた。

 

『高町君。遠慮は要らん。ストラトス君を倒す気で行きたまえ。』

 

離れた実況席でマイク越しにエリカは言う。

 

『なお審判は…。』

 

『実況席からで悪いが、俺がさせて貰うぜ?』

 

「だ、誰ですか?」

 

「ヴィヴィオさん!あの人にその台詞は…!」

 

『誰だ彼だと聞かれたら…答えてやるのが世の情け!』

 

がんっ!と実況用の器具にブーツで片足を乗せる。口にはどこからか取り出したバラをくわえている。とげが唇に刺さったようで、涙目だ。

 

『次元の破壊を防ぐため…次元の平和を守るため…愛と真実の教職を貫くラブリーチャーミーな教師役!』

 

『時間もないサクサク行こう!』

 

『ちょっ…会長ちゃん!?』

 

『毎回毎回名乗りが長いのだ。巻いていくぞ。』

 

「ヴィヴィオさん、あの先生に名乗りを求めてはいけません。長ったらしい名乗りを聞かされますので。」

 

「は、はぁ…。」

 

『気を取り直していこう。ルールはインターミドルの形式に則り、ヒットポイント形式。持ち点10000から始まって、勿論ゼロになった方の負け。有効打…クリーンヒットであればあるほどごっそり削れる。クラッシュは無しで。…両者用意!』

 

「えっ?えっ?」

 

「構えて下さい…!」

 

『始め!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言おう。

開始1分で予想通り…アインハルトの圧倒的な押しにより、ヴィヴィオのHPは300、アインハルトは9600と大差を付けていた。アインハルトの減少値は、ヴィヴィオの必死の抵抗を防いだ際のダメージのみである。

 

『…おいおい、会長ちゃん。こりゃあ…マズいでしょ?』

 

『………。』

 

片や覇王流を極め、特務での実戦経験も豊富なアインハルト。それに対して魔法の成績が優秀とはいえ、格闘戦に対しての経験があると言う情報が無いヴィヴィオ。この結果は火を見るよりも明らかだった。

 

『もう良いんじゃねぇのか?ここまでやり込める必要は…。』

 

『いや…まだだ…。』

 

『おい…!』

 

『当人の闘志が未だ灯っているのに、我々がタオルを投げることが出来ようか?…私は彼女の底力を見てみたいのだ。』

 

打ちのめされようと、その目は鋭く、焦点も定まっているヴィヴィオ。実力差を目の当たりにしても、その意志は折れることなく、それどころかアインハルトに一矢報いんと狙っていた。

 

「その闘志…まだやるのですか?」

 

「…まだ諦めません…!成り行きだけど…それでも何もせずに試合に負けたくはないんです!」

 

最後の一撃になるかも知れないとっておきの切り札。

初めてだから上手くいくか分からない博打。

しかし

それでも

何某かの結果を残せるなら。

 

「行きますアインハルトさん!」

 

虹色の古代ベルカ式。

聖王が受け継ぐというカイゼル・ファルベ。

それを見たとき、アインハルトの中で…彼女の受け継がれた記憶の中でフラッシュバックが起こる。

 

(オリヴィエ…ゼーゲブレヒト…)

 

かつて先祖であるクラウスが護れなかった女性。ゆりかごのコアとなり、人としての生涯を閉じた彼女への想いがあふれかえる。

 

(覇を以て和を成す…。オリヴィエ…クラウス……私は…!)

 

その瞬間、現実へと意識を戻された。

どれくらい時間が経った?

長いように見えて…しかし短かったのか…、ヴィヴィオとの距離は未だある。

 

「これが今の私の…全力全開っ!!」

 

ありったけの魔力を総動員してきたのか、今までの比ではないほどの間合いの詰めだ。二人の距離が一瞬にして無くなる。

しかし、

アインハルトがそれを目で追えない物でも無かった。

 

(踏み込むその勢い…それを利用して…終わらせます…!)

 

そう、ヴィヴィオが踏み込み、一撃を繰り出すであろう事は容易に読める。ならばその力を利用すれば良いだけ。

無慈悲とも思うかも知れないが、これに自分が勝てば、ヴィヴィオを戦場に出さなくて済む。

そう…

クラウスがオリヴィエの身を案じて挑んだ戦いと同じく、この戦いに勝利したならば、オリヴィエ…否、ヴィヴィオの身を危険に曝さずに済むかも知れない。

 

(あの時のように…あの時のような絶望は…もう要らない!)

 

意を決したその右手、そして両足に白銀の風と魔力を纏う。拳足から練り上げた力を拳に込めて打ち抜く、アインハルトが持ちうる覇王流最大奥義。

距離を詰めるヴィヴィオが射程圏内に収まった。

全力を以てして、この一撃を打ち込む。

そうすれば…

戦いとは無縁の平穏な人生を送って欲しい。

その一途な想いを乗せて。

 

「覇王っ!」

 

「一閃必中っ!」

 

ヴィヴィオが更に身をかがめた。

一撃を打ち込んでくる。

それを躱してカウンターを打ち込む。

下手をすればオーバーキル。

しかしそれで危険な特務から離れられるなら。

 

それで

 

構わないっ!

 

「断空…っ!?」

 

打ち上げた拳。

それはヴィヴィオのボディを捉えた。

そのハズだった。

しかし、振りあげた拳は、文字通り空を切った。

躱された!?

 

「セイグリッドォ…!!」

 

「ハッ!?」

 

躱されたと判明した瞬間、いや、カウンターの断空を放ったときから感じていたスローモーションのような空気と、引き寄せられた意識。それは相対する彼女の声によって現実に引き戻される。

 

「ブレイザァァァァァァッ!!!」

 

虹色の閃光を最後に、アインハルトの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!?」

 

ゴチン!

 

「いったぁぁぁ!?」

 

「つっ!?」

 

目が覚めて勢いよく起き上がると、額に鈍痛が走る。ぶつかったであろう恐らく女子とアインハルト、二人して額を抑えて悶絶する。

 

「つぅ……あれ…ヴィヴィオさん…?」

 

「あ…アインハルトさん…おはようございます…。」

 

「…ここは…保健室、ですか?」

 

見渡せば、暫く前に貧血で担ぎ込まれた場所に変わりなかった。いつも通りの消毒液に塗れたような匂いと、嫌と言うほど白さを強調した風貌である。

 

「どうして私は…?」

 

「えっと…。」

 

「それについては私が説明しよう。」

 

しゃっとカーテンを勢いよく開いたのはエリカだった。

 

「はっきり言おう。ストラトス君。君は高町君と模擬戦をしていたのは覚えているか?」

 

「…えっと…はい。そうでした。朧気ながら…ですが。」

 

「うむ。…それで君は高町君に負けたのだ。」

 

 

……

 

………

 

「えっと?」

 

「まぁ覚えていないのも驚くのも無理はない。なんせ九割以上残っていた体力を一撃で根こそぎ奪われたのだからな。」

 

「…はぁ。」

 

「君は最後に、ヴィヴィオ君の一撃に対してカウンターを打ち込もうとした。」

 

「…そこまでは大体思い出しました。たしか…断空を放ったように…」

 

「そう。しかし、だ。高町君の繰り出した一撃はそれを躱し、君のカウンターに『カウンター』を放った。それがもうものの見事に、芸術的なまでに綺麗に、な。」

 

…そうだ、思い出した。

断空の打ち上げを、文字通り掠めるくらいにギリギリに躱して、身体の勢いを利用され…そして…

 

「セイグリッドブレイザー…でしたか。それの打ち下ろしをモロに食らった、と。」

 

「思い出したようだな。そう言うことだ。」

 

正直ショックは隠しきれない。最大奥義を見事に利用されてしまった。これでは覇王流を受け継ぐものとして、クラウスに顔向けできないではないか。

 

「さて、高町君。『雑務』の件だが…。」

 

「は、はいっ!」

 

「後日、生徒会室に顔を出すように。ストラトス君と共にこなして貰う『仕事』があるからな。」

 

「わ、わかりました!」

 

その元気な返事に満足したのか、エリカはクールに口元を緩めて保健室を後にした。

残された二人の間に漂う微妙な空気が息苦しい。

 

「え、えっと…よろしくお願いします。アインハルトさん。」

 

何とかしようと、当たり障りのない言葉を選んだ。

 

「…わかりました…、よろしくお願いします」

 

未だ敗北よりも、オリヴィエの血を受け継ぐ彼女が戦場へと出ねばならない事実…何の因果か、まるであの時と同じだ。受け入れられない現実と、止められなかった無力さに打ち拉がれるアインハルト。何処までも巡る因果だった。

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