プロから見たSAO攻略   作:ベルクーリ2世

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 自らの主宰するプロジェクトのために、キリトを観察し、さらに仮想世界に適応した人物をも求めて、SAOにログインしたオリ主。その男はリアルでの戦闘のプロだった。

 初投稿で、取説も読まずに投稿したため、拙作をご覧いただいた方には大変ご迷惑をおかけしました。ここにお詫びします。改題して改めて投稿しました。


第1話 デスゲームの開始

 

 「いいか、クライン、良く聞くんだ。俺はこれから、隣村のホルンカへ行く。お前も一緒に来い。じきに、この周辺のフィールドには人が溢れて、レベル上げも思うようにできなくなる。隣村には今のレベルでは、ちょっと危険なMobも出るが、俺がついていればまず安全だ。」

 

 「悪いが、キリト、それはできねえ。」

 

 「どうして?」

 

 「この広場にあと5人俺の仲間がいるんだ。俺、前のゲームでアタマ張っててよう、俺を信頼してくれてるそいつら見捨てて、俺だけ行くことなんて、できねえよ。」

 

 キリトが困惑していると、声がかかった。

 

 「ちょっと待ちたまえ。」

 

 「カイト!」

 

 キリトは驚く。

 

 「話は聞かせてもらったよ。キリト、彼らの面倒は僕が見るから、心配するな。スタードダッシュが、肝心だというのだろう?いいから好きなようにやりなさい。ただし、僕と、それから、ここにいるクライン君とはフレンド登録をしていくんだ。」

 

 「・・・・」

 

 勝手に話を進めていくカイトに唖然とする、クライン。

 

 「ああ、いきなり割り込んで、すまなかったね。クライン君。僕はカイト。キリトとはベータテストの時からの知り合いでね。」

 

 「はあ、その、はじめましてカイトさん。」

 

 「キリト、僕なら、もうスタートダッシュを決めて、既にレベルは4だ。武器も手に入れた。」

 

 「クライン、この人に任せろ。はっきり言って、俺よりずっと強い。とにかく、このおじさんの指導に従っていれば間違いない。ちょっと人間離れしてるから、びっくりするけど。」

 

 「その、よろしく、お願いします。カイトさん。」

 

 「ひどいな、キリト。もう少し、まともに紹介してくれよ。クライン君、カイト、でいいよ。さあ、早く仲間を集めるんだ。僕も手伝おう。それでは、キリト、また会おう。」

 

 カイトはとクラインは広場に残る仲間を呼び集めた。カイトの指導で、全員ソードスキルの使い方など基本的なことをマスターした。慎重を期して、もう1日、はじまりの街付近で狩りを行い、クラインは3、他の5人も全員レベルを1上げて、2になった。ウインドもレベル5に上がった。そこでカイトは愛弟子となる一人の「少年」にも出会った。彼も訓練に参加した。既にレベル3だったが、「彼」はレベル4になった。

 

  ディアベルSide

 

 ディアベルはベータテスターであった時、その統率力を活かし、かなりの人数を集め、ギルドを組んで、攻略していた。しかし、ボス攻略戦において、最もおいしいところである、LAボーナスの半分をソロプレイヤーのキリトに持っていかれてしまった。常時、10人以上のメンバーで臨み、多くの場合、レイドのリーダーまでつとめたのに、LAボーナスが取れたのはたった2回、キリトの半分である。正式サービスが始まる前、「あいつにだけは、やらせない。」と誓っていたのである。

 通常、最後は全員攻撃、になるが(機会均等)これはスピードに優るキリトに有利だ。キリトがLAボーナスを2回取った後、他のプレイヤーは、事前の「攻略会議」でなるべくキリトをボスから遠ざけようとした。ディアベルのパーティはボスを倒すことよりも、ディアベルにLAボーナスを取らせること、そのためにキリトの邪魔をすることに腐心した。キリトの方は、「そこまでするんならやったろうじゃん」とむしろ前より発奮した。ボスから最も離れた最後方に閉じ込めたはずなのに、いつの間にか前に出てくる。そして最後は狙ったように、ボスのHPを0にした。

 ゲーマーというのはなかなかに、嫉妬深い。相手の技量を素直に認めようとはしない。最前線にいた ベータテスターの大半はキリトを、「いつも抜け目なく、LAボーナスをかっさらっていく奴」としか見ていなかった。それはその通りなのであるが、状況判断が極めて的確であり、さんざん邪魔したのにそれでも取ってしまった事実の重みを考えるべきであった。要するに、力が上なのである。

 さらに、デスゲームと化したSAOでキリトがベータテストと全く同じように考え、同じように動くとは限らない。いみじくも茅場晶彦が宣言したとおり、もうこのゲームは「遊びではない」のだ。ディアベルが自分がLAボーナスを取る必要性をキリトに説明し、相当の対価をもって依頼すれば受けたと思われる。

 ディアベルはこの合理的な判断ができなかった。「今度こそはあいつの好きにはさせない。それにこれは俺のエゴじゃないんだ。突出したキリトの存在はむしろ攻略の邪魔になる」とディアベルは考えた。いや、そう考えている、と自己を正当化した。少なくとも、ここでLAボーナスを取りたい動機には、キリトへの嫉妬もかなり含まれていた。

 

 「キバオウさん、ちょっと頼みがあるんだが・・・」

 

 「ワイに出来ることやったら、何でも、言うてください。ディアベルはんには、えろう世話になってますさかい。」

 

 「いや、『鼠』のアルゴは知ってるよね。」

 

 「あの『情報屋』の女でっか?へえ、知ってます。」

 

 「キリトから武器を買取りたいのだが、アルゴに仲介させて、その交渉をしてほしいんだ。」

 

 「また、何で?」

 

 「うん、あいつが、ベータテスターの時に、ソロなのに8回のフロアボス戦のうち、4回もLAボーナスをかっさらっていったという話は聞いたよね?」

 

 「へえ、ホンマ、ふざけた奴でんな。」

 

 「今回はなんといっても初戦だ。俺はいずれギルドを立ち上げて、攻略組の中心を目指すが、最初が肝心だ。ベータテスト時のように、キリトにやりたい放題やられては、人も集めにくくなる。できれば、じゃなくて、なんとしても第一層のフロアボスのLAボーナスは俺が取りたい。」

 

 「そら、ディアベルはんが取らなあきまへん。で、それが、武器の買取りとどう繋がるんでっか?」

 

 「うん、あいつの剣はね、かなり強化されてるはずなんだ。それを取り上げてしまえば、いくら剣技が優れていたとしても止めは刺せない。」

 

 「なるほど。しかし、乗ってきまっしゃろか?」

 

 「うーん、成功率は30%くらいかな。序盤は金が不足しているし・・・だからね、同じ武器を買い取れる金額に上乗せして交渉するんだ。抜け目のない奴だから、損のない話なら乗ってくるんじゃないかと思う。」

 

 「買い取っても、同じ武器を買われたら、一緒やないですか。」

 

 「あいつの持ってるアニーブレードという剣はね、難しいクエストの報酬なんだ。もう1本取ってくるのは、さすがに面倒だろう。だから、俺のリスクはその剣の相場の額と俺の申し出額との差にすぎないと言える。アニールブレードが欲しい奴はたくさんいるし。持っていても邪魔にはならない。それから強化は+5以上の成功率は70%だ。つまり+6までの強化まで考えると可能性は50%以下。これなら賭ける価値はあるんじゃないかな?」

 

 「任せとくんなれ。こんな話、ディアベルはんが、表に出たらあきまへん。」

 

 「そうか、助かる。『鼠』には話を通しておくから宜しく頼む。」

 

 ディアベルはキリトが既にアニールブレードを+6まで強化していると確信していた。キバオウとはこのゲームがデスゲームになってすぐ、新たな仲間を集めた時に知り合った。元ベータテスターを激しく憎んでいる人物であり、ディアベルは彼を利用した。意外に見えるが、キバオウについてくるプレイヤーも結構いた。ディアベルはこの者たちも自分の陣営に取り込みたかった。彼は組織の力でこのゲームをクリアしようとしていた。攻略は個人の力だけでできるものではない、というのが、彼の信念であった。

 

 ディアベルは『鼠』のアルゴから得た情報を確認していた。その中身は、現在のハイレベルプレイヤーが誰と一緒に行動しているか、であった。ボス攻略戦で6人ずつのパーティを組ませれば、確実にキリトがあぶれることを確認して、ほくそ笑んだ。

 

 

 アスナSide

 

 「帰りたい!帰りたいのよっ!」2022年11月22日。

 

 「全国統一模試、今日なのに・・・」

 

 結城明日奈は茅場晶彦によるデスゲーム宣言があった後も、はじまりの街に居た。外部から助けが来ることを信じて。それは、生存者の大半の選択でもあった。アスナはゲーマーではなかった。容姿端麗、頭脳明晰、それでいて性格もいわゆる「最低系」ではなく、人あたりもそれなり。有名女子中に通っていたが、他校の男子生徒から声をかけられることもしばしば。しかし、彼女の興味を引く少年は(声をかけるのは「少年」に限らなかったが)一人もいなかった。アスナは未だ恋を知らない少女だった。

 

 「隠しログアウトスポットだぁ?!」アスナが、街をふらふらと歩いていると、そんな声がした。

 

 「どうせ、また、ガセネタだろう?」「いや、今度こそホンモノかもよ。何たって『鼠』の情報だからな。」

 

 「マジかよ、それ!で、行ってみた奴は?」「ここ三日で10人以上も帰ってきてねぇって!」

 

 「で、何処よ?その場所って。」「いや、『西の森』にいかにもって洞窟があってな・・・」

 

 普段のアスナなら、歯牙にもかけない話だったが、まだデスゲームの実感もなく、帰りたい一心であったアスナはこの与太話に食いついた。

 

 「あのう、あっあの、『西の森』ってどこですか?!」思わず大声で訊いてしまった。

 

 「ああ、まんまだよ。西門から歩いて1時間ってとこかな。」

 

 「あ、ありがとうございます。」慌てて西門に向かう。

 

 「おいおい、せめてもうちょっと確認してからの方がいいぞ。お嬢ちゃん、初期装備のまんまじゃないか。あの辺は最低でもレベル3くらいは要るって話だ。」

 

  別の男が言う。

 

 「外からの助けを待ってたクチだろ?悪いコト言わねえから、止めとけって。焦ってモンスターにやられたら元も子もないぞ。」

 

 「ダメなんです。それじゃあ間に合わないんです!」

 

 「リアルで大事な用でもあるのかい?」

 

 「今日、模試の日なんです。」

 

 「モシって?」

 

 「わたし、受験生なんです。」

 

 「ははは、そりゃ大変だ。」「模試ときたか。」「そんなこと気にしないで、おじさんとさあ。どっかいいトコで。」

 

 「ご忠告ありがとうございます。」

 

  無視して西門へ急ぐ。途中で何匹か、青いイノシシと遭遇したが、木の陰に隠れてやりすごす。

 

 「ここだわ。早くこんなところから脱出しなくちゃ。」

 

  洞窟を見つけ、迷わず中に入る。

 

  (嫌な風。生暖かくって臭い。)

 

 「えっなに?何なの?」突然狼の顔をした、人型のモンスターが、襲ってきた。現れたのは、レベル6亜人型モンスター『ルインコボルド・トルーパー』だった。手に斧を持っている。

 「いやぁー!」思わず伏せて隠れようとしたが、コボルドは追ってくる。

 

 (このままじゃ見つかっちゃう!)

 

 (何なの、これ!私、死ぬの?こんなところで、何もできずに。嘘でしょ?こんなにあっけなく。)

 

 (嫌だ!私の人生、15年間戦い続けてきたのに、こんなに無様な最期なんて!)

 

 なおも攻撃してきたコボルドが目に入り、気を失いかけたところに・・・

 

 突然、一陣の黒い風が吹いた、と思うと・・・

  パァァァン!という音がしてコボルトは真っ二つに裂け、青白い光とともに消失する。

 

 「誰?誰なの?」

 

 その少年はキリトだった。

 

 「やれやれ、終わったぜ。」

 

 「ヤアヤア、ご苦労サン。全く、オレッチの名を騙ってデマトハ、いい度胸ダヨ。」

 

 「情報屋も大変だな。いいろいろと。じゃあ俺は帰るぜ。デマの犯人は自分で探してとっちめるんだな。そこまではごめんだぜ。オレンジにでもなったら第一層じゃ元に戻せない。」

 

 「わかってるヨ、キー坊。ありがとサン。」

 

 「それと頼んだ件、よろしく。」

 

 頼んだ件、とはこのゲームでの元べータテスターの死亡者数を確認することであった。

 

 

 「ビギナーサン、生きてるカ?おお、生きてル、生きてル。ほら回復PoTダ、飲メ。」

 

  自分の責任ではないが、『鼠』の名前を騙ったデマで他人が死んでは寝覚めが悪い。商売にも差し支える。

 

 「回復PoTハ、オレッチノ、サービスダ。落ち着いたカナ?ビギナーサン。」

 

 「はい、ありがとうございます。あの・・・」

 

 「何ダイ?」

 

 「『情報屋』って何ですか?」

 

 「文字通りだヨ。あらゆる情報を売ル。売るために情報を買ウ仕事ダ。因ミニ、この情報は10コルダ。」

 

 「じゃあ、はい。」言われた10コルを支払う。

 

 「ふふ、変なの。まるで現実の世界みたい。」

 

 「そりゃそうサ。オレッチも含メテ、今ここにいる者にはココガ現実ダカラネ。」

 

 「『隠しログアウト』って、デマだったんですね。」

 

 「アア。」

 

 「じゃあ、一つ情報を売ってくれませんか?」

 

 「何の情報カナ?」

 

 「私を助けてくれた人は誰なんですか?」

 

 「アア、その情報は売れナイ。あんたを助けた奴との約束でネ。」

 

 「売れない情報っていうのもあるんですか?」

 

 「まあネ。情報ヲ売るためにハ、情報ヲ仕入なくちゃならないからナ。良い仕入れ先トハ、持ちツ持たれツサ」

 「そうそう、これ、第一層ノ攻略本ダ。特別ニ無料にしておくカラ。」

   

 (ええっと、あの青いイノシシはフレイジーボアっていうのか。非アクティブ?あ、索引がある。なるほど、こちらが何もしなければ、攻撃してこないのね。そうか、逃げ回らなくてもよかったんだ。)

 

 「データの出展が今ひとつ曖昧だわ。著者はちゃんと検証してるのかしら?」

 (ス、スミマセン)

 

 「でもビギナー向けには、なかなか良くできてるわね。脚注、索引はしっかりしてるし、図解まであるし。」

 (ド、ドーモ)

 

 「攻撃方法はっと。私の持ってるのは『細剣』ね。えっと、ソードスキル?あった、あった。モーションをシステムが認知すると、自動的に起動し、システムが標的に命中させてくれる、か。」

 

 「細剣の初期スキルは『リニアー』?」

 

 「フェンシングの構えで、切っ先を意識して捻る、か。」

 

 とアルゴの目の前でいきなりやってみようとする、アスナ。

 

 (なかなか、アクティブな娘だなッテ、おい、これっテ?)

 

 初めてのはずなのにいきなり「ピギィ」という効果音。システムがモーションを認識したのだ。細剣がオレンジ色に輝き、直後に「パリリィーン」というさらに大きな効果音が。

 

 (嘘ダロ!最初から、一発で!ってユウカ・・・速ッ)唖然とするアルゴ。

 

 「なあんだ。やればできるじゃない。」

 

 「前言撤回!情報料とシテあんたの名前を教えてクレ。」『情報屋アルゴ』の双眸が怪しく光る。

 

 「えっ結城明日奈ですけど。」

 

 「そうじゃナイ。プレイヤーネームだヨ。」

 

 「アスナです。」

 

 「まんまかヨ。まあいいヤ。他人ニ名前を訊かれたらレイヤーネームで答えるコト。覚えておきなサイ。」

 

 コクコクとうなずくが早いか、アスナは早速目に入ったフレイジーボアを狩りに行く。いきなり命中!

 

 (マダ話は、終わっテないんだけどナ。まあいいカ。思わぬ大収穫ダ。この情報ハ、いつか高値で売ロウ、キー坊以外にネ)何とも抜け目のない『鼠』であった。

 

 

 キリトSide

 

 一度だけ本物の流れ星を見たことがある。その時は・・・

 「どうか、次のモンスターがレアアイテムをドロップしますように・・・どうか・・・」

 当時俺は11歳。それにしても情緒の欠片もない『お願い』ではある。その時は、あるMMORPGにハマっていてレベリングの真っ最中だった。ま、事情は3年余り経った今でもあまり変わらない。

 しかし、確かに俺は見た。「それ」は空ではなく、薄暗い迷宮区の奥底に輝いていた。

 ルインコボルドの斧をぎりぎりで見切って、躱す、躱す、躱す。繰り返すこと三度、体勢が崩れたコボルドにすかさず『リニアー』を叩き込む、のだが・・・そのスピードが凄まじい。細剣の基本技である『リニアー』はベータテスト時からさんざん見ているこの俺でも・・・

 

 剣先が見えない!

 

 見えたのはソードスキル特有の青白いライトエフェクトだけ。その光が、あの日見た流れ星にそっくりだった。

 

 (凄いな!)

 

 俺はわくわくしてきた。

 そのフェンサーは同じ動きを三回繰り返し、見事、コボルドを屠ってみせた。しかし、無傷ではなかったようだ。HPは結構減っている。俺は決断し、彼女に近づいて声を掛けた。

   

 「見事なソードスキルだった。けど、さっきのはオーバーキルすぎるよ。」

 

 フードを被っていて顔は見えなかったが、女だということは判った。いや、断じて「相手が女の子だから」声を掛けたんじゃない。リアルでも自慢じゃないが、女の子に自分の方から声をかけたことなんてない。鬼神の如き剣技なのだか、反面、大変に危なっかしい。自分一人しかいないのだから、スタン(一時的行動不能)になることは絶対に避けなければならない。このフェンサーの戦い方では、躱しそこねたら、そうなる。スタンになるってことは、デスゲームでは本当の死に直結することを意味する。こんな基本的なことを知らないのは、初心者に限る。

 

 「それ(オーバーキル)のどこに問題があるって言うの?」

 

 想定外の答が返ってきた。「関係ないでしょ。」か、「大きなお世話よ。」と返ってくるとばかり思っていた。「ですよねー失礼しました。」と言って立ち去るつもりだったが、そう訊かれては仕方がない。俺は危険について具体的に説明し、

 

 「・・・そこまでの危険はなくても、効率が悪いのは問題だよ。肉体的疲労は感じなくても、精神的に消耗すると動けなくなる。帰り道だって何が出るかわからないんだから。」

 

 「だったら問題ないわ。わたし、帰らないから。」

 

 「えっ?」

 

 「だってポーションの補給とか、装備の補充、睡眠だって・・・」

 

 「十分用意してるわ。それにわたし、寝ないから。」

 

 「寝ないって・・・」

 

 「疲れたら、安全地帯でちょっと休めばまた戦えるわ。」

 迷宮区に真の「安全地帯」などどこにもない。

 

 「あの、ここ(迷宮区)に篭って何日目?」

 

 「三日目、かしら。さ、もういいでしょ。そろそろ、次のMobがポップする頃だから、わたし、行くわ。」

 

 思わず言った。

 「そんな戦い方をしていたら死ぬぞ。」

 それに対する少女の答えは・・・

 

 「・・・どうせ、みんな死ぬのよ。」

 「一ヶ月で2000人も死んだのに、未だ第一層すら、クリアできていない。一〇〇層もあるんでしょ。どう考えたって、クリアなんて不可能よ。最後はみんな死ぬ。早いか遅いかの違いだけ・・・」

 

 初めて聞く、彼女の感情がこもった言葉に、俺はしばし呆然としていた。

 

 彼女と別れて、手当たり次第にMobを狩っていた俺だが、どうにも気になった。彼女にはああ言ったが、実 は他人のことを言えた俺ではない。まだ二日目、そう「まだ」だ。迷宮区に住んでいる、と言っても過言ではない俺だが、ベータテスト時よりは慎重だ。今のところベータテストと何もかもが変わらない。でも何だろう。不安がある。いや具体的に不安になる理由もあった。テスト中、本当に腕が立つプレイヤーはカイトくらいしかいなかったが、腕はたいしたことないにしても元ベータテスターと思しき奴がかなり死んでいる。それも必ずしも迷宮区に限らない。やはり焦りだろうか?知識があることが裏目に出たのか。

 攻略は慎重に進めたが、それでも俺のレベルは既に12になっていた。この層のMob相手ならもう結構余裕だ。 第一層ではMobが弱すぎて、もうレベル上げの効率が悪い。いささか緊張感を欠いていた俺はいろいろ考えていた。

 

 (カイトに丸投げしちゃったけど、クラインのやつ、うまくやってるかな。もう、会ってもおかしくないんだけど、なぜか会わない。)

 

 (俺の剣を買取りたいって、一体誰が?何のために?)

 

そう、そういう申し出をアルゴを介して受けた。第三層までは使える剣だが、売りにも出てる。

 

 さらには、さっきのフェンサーのことだ。まさか付いて回るわけにはいかないが(それじゃストーカーだ)、やはり気になる。美少女だったから(顔は良く見えなかったが多分)じゃないぞ。ビギナーであれだけの剣技、こんなところで死なせるには惜しい。

 

(余計なことを考えてる場合じゃない。油断はできない。迷宮区では何が起きるかわからない。)

 

 

 アスナSide

 

 (やっぱり、なのかしら?)

 

 いまさらながら、さっきの少年の忠告が身にしみる。なんといってもここは迷宮区なのだ。モンスターだらけの最深部で、疲れて、注意力散漫になれば当然、ピンチになる。彼女は今、3頭のコボルドに囲まれていた。

 

 (この囲みを突破するのは、さすがに無理かな。でもやるだけやってみなくちゃ。)

 

 一頭にリニアーを叩き込むべく、まず相手を挑発する、が、いきなり斧を避け損ねた。

 

 (あっスタン・・・)表示されたHPバーが黄色を通り越して赤になる。残り20%。

 

 (ここまでか。あっけないな。でも最期まで頑張れたから、もう・・・いいや。)

 

 その時だった、目の前に漆黒の影が、竜巻のように現れて・・・バキィーン、バキン、バキーン。全部一撃で三頭のコボルドは粉々に消失した。さっきの少年だった。(この感じ、見たことがある。そうだ、あの時と同じ。)

  

 「だから、言ったろ。危ないって。」

 

 「貴方、誰なの?」

 

 「通りすがりの用心棒さ。」振り向いた少年はニヤッと笑う。

 

 「余計な、ことを!」

 

 「そりゃ悪かったな。でも目の前で人が死ぬのは嫌なんだ。」

 

 「戦い抜いたその先で、せめて満足して死なせてよっ!」

 

 「はいはい、わかったから、ほら、さっさと回復PoT飲んで。」と差し出す少年。

  

 しばらく、何も言えなかった。少年の方も何も言わない。

 

 (いけない。私ったら。二度も助けて貰ったのに。)

 

 「あの、ありがとう。あの時も・・・」 

 

 「あの時って?」

 

 「隠しログアウトの・・・」

 

 「ああ、あの時も君だったのか。あれは災難だったよな。」

 

 「でも、貴方が助けてくれた。」

 

 「あれは『鼠』に頼まれたからだし、さっきだって、わざわざ助けにきたわけじゃない。帰るところでたまたま、通りかかっただけさ。言ったろ?ただの通りすがりだって。」

 

 (変な人。何を考えてるのかしら?)

 

 「さっ回復したら、さっさと安全地帯へ行くぞ。俺に付いてきて。背中は任せた!」

 

 「ちょっと、指図しないでよ。」私の話を聞いているのか、いないのか、少年はどんどん歩き出す。

 

 (この人、どれだけ強いのよ!)

 

 「一撃必殺」なんて、小説や漫画だけの話で、実際に見るのは初めてだった。本当に一撃で全部倒す。速くて、力強い。それに動きにまったく無駄がない。

 

 後の「黒の剣士」も「閃光」も初めての出会いでお互いの剣技に魅了され、すっかり眼と心を奪われていたのだった。しかし、二人とも今は全く、そのことに気づいていない。

 

 「ようし!突破口が開けたぞ!」

 

 突破口も何も鎧袖一触で(鎧など着けてないが)全部倒してしまうのだから、少年の行く先には何もいないのと同じことだった。

 

 「早く安全地帯に逃げ込め!・・・ってフェンサーさん?」

 

  私も道中四頭のコボルドを倒していた。追ってくる奴はいない。

 

 「って・・・まさかの皆殺し、ですか・・・」絶句する少年。

 

 目が覚めると、傍にさっきの少年が居た。どうやら、あの後、倒れて、そのまま寝てしまったらしい。

 

 「おはよう、よく眠れた?」

 

 「どうして、置いていかなかったの?」

 

 「せっかく助かったのを、わざわざ置いていく奴はいないだろ?それにしても、よく寝てたね。まあ三日も寝てないんじゃ無理ないか。」

 

 そこで初めて気がついた。言葉より先にレイピアを抜いて、少年に剣先を突きつける。

 

 「あなた・・・わたしの・・・体に・・・何を・・・したの?」

 

 「してない。してないって。ハイ、寝顔を見たりとかも決して。」

 

 「ううう・・・嘘おっしゃい!寝てるのを幸い、わたしの体にあんなことや、こんなこと、色々したんでしょ!モミゴコチがいまいちで、悪かったわねっ!」

 

 「濡れ衣だぁー。」

 

 「問答無用よっ!」勢い込んで再び剣先を突きつけたのだが・・・

 

 ぐぅううう・・・・(そう言えば三日間何も食べてない。)

 

 「ゲームのくせに!ゲームのくせにっ!ゲームのくせにっ!」

 

 「あははは、こんなのしかないけど食べる?」

 

 「何、これ?一番安いパンじゃない?でもまあいいわ。せっかくだから頂くわ。」

 

 「えっ、結構いけるだろ?それ。」

 

 「本気で言ってるの?」

 

 「もちろん。ここに来てから、一日一個は食べてるよ。ま、ちょっと工夫はするけど。」

 

 「工夫?」

 

 少年は小さなポットをストレージから取り出す。

 

 「そのパンに使って見ろよ。」

 

 戸惑っていると、自分もパンを取り出し、ポットをの上部を押すと何か出てきてパンに乗っかる。見よう見まねでやって見る。少年はもうパクパク食べている。恐る恐る一口食べて見ると・・

 そのパンはリアルで食べたどのパンよりも美味しかった。「使え」と言われたものの正体は、クリームで、それを乗せたというただそれだけで、リアルのクリームパン、いやケーキなんかよりも数段美味しかった。一気に食べてしまった。

 

 「もひとつ、行く?」

 少年はどこまでも飄々としている。

 

 「いい。」

 さっきの「一気食い」がはしたなくて、ちょっと、恥ずかしかった。

 

 「これ、『逆襲の雌牛』っていうクエストの報酬なんだ。やるなら教えるよ。君なら上手くやれば、2時間くらいで出来る。」

 

 「いいわ。おいしいものを食べるためにこの町に来たわけじゃないもの。」

 

 「じゃ何のために来たの?」

 

 「わたしが、わたしでいるため。最後の最後まで精一杯頑張って。何もしないでこのゲームに負けるのだけは嫌。」

 

 「君は十分強いよ。いや、必ず強くなる。MMORPGは初めてなんだろ?」

 

 「どこがよ?貴方にも、助けられてばっかりじゃない。MMOが初めてっていうのはそうだけど。」

 

 「俺はMMOは、何年もやってるけど、初めてであの速さと正確さ。君みたいなプレイヤーは今まで一人も見たことないよ。正直思ったさ。才能って残酷だなって。」

 

 「その言葉、あなたには、あなたにだけは、言われたくないわ。」

 

 「俺はさ、その、こればっかりやってるから・・・」

 

 「ねえ?」

 

 「うん?」

 

 「あなたは、本当にこのゲームをクリアできると思ってるの?」

 

 「思ってるよ。」即答だった。

 

 「4時から劇場で『攻略会議』があるんだ。第一層のフロアボスの部屋が、見つかったらしい。君の実力なら攻略に参加できるよ。来るだろ?」

 

 「行くわ。」

                                         続く

   

 

   

 

 




 プログレッシブがコミックまで出ており、特にコミックのストーリーは気に入っています。序盤はあまり、オリジナルは入りません。
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