プロから見たSAO攻略   作:ベルクーリ2世

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 話を一気にはしょりました。このあたりの原作はありませんが、作者の構想力ではあまりオリジナルも考え難かったですね。とうとうアルゴも取り込んでしまいました。この後、終盤で意外に活躍します。


第11話 停滞と暴走

 カイトSide

 

 2023年5月14日、現在第二五層迷宮区まで攻略は進んだ.順調、とは言い難い。現実世界に残したままの生存者の肉体全部が確実に無事といえるのはせいぜい2、3年くらいではないか。僕やキリト君の場合は、ほぼ万全の処置がされており、10年、20年どころではなく、それこそ天寿以上に生き延びてしまいかねないのだが、他のプレイヤーはそうはいくまい。仮に2年が期限だとすると、単純には約4分の1で約半年だから第一〇〇層まではギリギリ間に合うということになる。しかし、この先ますます攻略が困難になっていくとすれば、この皮算用は成り立たなくなる。僕は焦っていた。この第二五層のフロアボスはこれまでとは全く比較にならない強さだということが、次第に判明してきたからである。

 

 以下、ここまでの主な出来事を振り返ってみることにする。

 

 まず、わが「インビクタス」であるが、団員は総勢40名を数える大所帯になっていた。他のギルドと著しく異なるのは生産系スキルを主なスキルとする者の割合が多いことである。最も多いのが、鍛冶屋で5名、その他にも商人が4人、裁縫スキルを取って衣服や防具の一部を作成する者が4名、料理スキルを取って小さいながら既に飲食店を営んでいる者が、4名を数えた。これら生産職の取りまとめはリアルでも喫茶兼BARを営んでいるエギルにお任せした。ただ、団員は多くなったものの成人はクラインたちのようにアルゴ以外は、ほぼ全員「脳筋族」だし、戦闘では相変わらず図抜けた活躍を見せるキリトは相変わらずバトルジャンキーだ。リアルでも委員長タイプのアスナと、同じく万能のシャル、やらせれば家事以外はなんでもこなすアルゴの3人だけは、事務処理でも大変に有能で、この三人のおかげで何とかもっているようなものであった。大所帯になったから、事務職というのも本気で採用を考えなくてはならない。

 

 アルゴは第一五層から正式に団員になった。肩書きは諜報部長だが、団員は「奥様」などと呼ぶことが多く、アルゴ本人もそれを好むようだ。もちろん、こいつと結婚などしていない。但し、アルゴもキリトとアスナにだけは絶対にそうは呼ばせなかった。僕もいちいち取り消すのは、面倒だからある程度は黙認しているが、調子に乗るなよ。

 第五層から続いていた、アルゴの僕への猛アタックはすさまじく、相次ぐ反則攻撃には参った。とにかくこれをやめさせないと困る。不意討ちでキスしてきて、「へへへ、やっちゃった。」としてやったりの顔。「おい、ちょっと待て、ハラスメントコードはどうした?」実はメニューの深いところの、さらに深ーい奥の方に「倫理設定解除コード」というのがある。いや、あるらしい。アルゴは僕と会う時は、第五層以降は常に「解除した」状態だったと言うのだ。さすがのアルゴしか知らなかった情報だ。これ、男性の方にはない、って片手落ちだろう、茅場!さらにトドメは、その後のアレだって向こうから「あたしとじゃ嫌?」といかにも心配そうに訊いてくるという超反則技。第三者には都合の良い言い訳にしか聞こえないだろうが、アルゴの真の姿で、あれをやられて、抵抗できる男なんているだろうか?しかし、その直後、いつも明るいシャルに妙に元気がなく、心配して声をかけると機嫌が悪かった。わからない。ずっと妙だと思ってたけど、本当に女の子みたいな反応だった。ここではっきりさせておくべきだったかもしれない。アルゴと付き合うことに、罪の意識がある僕の方も変だ。男の子のシャルにそういう感情を?いや、シャルはやっぱり女の子だ。でも男の子だったら・・・はっきりさたくないと思っている自分もいる。

 アルゴの僕への猛アタックは、アルゴは第一五層をもってもう「鼠」ではなくなることで終了した。入団記念にトレードマークだった髭のペイントを消し、話し方も普通になった。声も地声じゃなかったことも明らかにした。既に第五層から僕と二人で会う時はペイントを消し、服も着替えて、話し方も普通になっていたのであるが。これにより、「アルゴが師匠をデレさせた。」(クライン談)「カイトがアルゴに攻略された」(キリト談)などが「公式見解」になってしまった。アルゴの情報操作の成果だ。あの女、商売抜きで全力出しやがって。アスナは「どっちもどっちじゃない?」と言っていた。ここまでに見られたのは、いくらなんでも放置しすぎで、僕の失策だ。

 断じてデレてなんかいない。僕だって30前の男だ。そんなにストイックに生きられるものではない。それだけのことだ。決して遊んだわけではないが、これでは、払った代償が大きすぎる。閑話休題。

 

 僕が焦っていたのは、攻略ペースのことだけではない。新たなライバルとして現れた、「血盟騎士団」の成長スピードが異様に速いのである。第一〇層でギルドを立ち上げたのにも拘らず、団員は既に20名以上だ。全員が高レベル戦闘員なので、高レベル戦闘員の数だけなら既に「インビクタス」に匹敵する。ついでだが平均年齢も高く、一部では「おっさん騎士団」などと、揶揄されている。しかし、レベル上げのペースがどう見ても異常だ。うちのキリアスコンビは経験値をより多く獲得できるように僕が配慮しているから、キリトが53、アスナが51。そして、相変わらずろくに寝ない僕は56、シャルは54、他人のこと言えるか状態であるが、これはこれまでの貯金もモノを言っている。それがないはずのヒースクリフの46はどう見ても異常だ。他の団員もほぼ40前後。まだ我々が優位ではあるが、追いつかれる日が来たとしても不思議ではない。僕とシャル、アルゴは一つの推論に達し、それは時とともにますます真実らしく思えてくるのであった。血盟騎士団は第一〇層から欠かさずボス戦に参加しただけでなく、第一九層で初めて我々を出し抜いて単独でボス攻略を果たしてしまった。

 これは、反則だ。僕は、ウチにもっとレベルが高い団員がいるのにも拘らず、血盟騎士団はもちろん、DKBや、ALSにもボス戦参戦の機会を与えてきた。苦情を言おうと思ったが、第三層をウチが単独で攻略した時、僕が使った言い訳をされるに決まっている。あの時は、同じことをするギルドができるなどとは思いもしなかった。

 今後、続けて同じことをされると、実は困るのだが、それはまずない、と思われた。おそらく、血盟騎士団の力を示すためにやったことだ。実力は証明されたのだからもう、やってこないだろう。一応念は押しておいたが。

 

 

 僕の宿で(実はシャルは宿もずーっと一緒)

 

 「やっぱり、ヒースクリフはあの男、と考えるしかなさそうだね。」

 

 「ボクもそう思う、事実がますますそれを示してるよ。」

 

 「あの男」とは、ズバリ茅場晶彦のことである。こういう「密談」はキリトにはまだ聞かせられない。伝える時はアスナに話し、キリトを抑えてもらわなくてはならない。あと話しても大丈夫なのはアルゴの他ではエギルぐらいか、しかし彼は根っからの善人でこういう話自体に向かない。結局、僕たち「ステルストリオ」だけで話すしかない。今、アルゴはいない。シャルはアルゴの猛攻に対する防波堤になってくれている。彼がいなかったら、リアルでは使われなかったらしい「女の武器」でそれこそ僕は、完全攻略されていただろう。

 「他人がプレイしているMMORPGを横から眺めているほど、ゲーマーにとってつまらないことはない。」らしい。つまり、茅場晶彦もゲーマーである以上、単なる観察者、観戦者に甘んじるはずはなく、必ずこのデスゲームに参加しているはずだ、ということ。なるほど、そう聞けば容易に納得できる話だ。そしてその目的からすれば、茅場は攻略組トッププレイヤーの一人に違いない。それなら該当するプレイヤーはどこをどう探してもヒースクリフしかいないのだ。

 推測通り、ヒースクリフ=茅場晶彦だとすると、何もかもが符合する。異常な高レベルは、何かチートな状態でログインしたからだろう。新規加入の団員のレベルが高いのも何らかの細工をした可能性が高い。なぜ、そう言えるかというと、僕とアルゴは団員だけでなく、他ギルド所属、あるいはソロのハイレベルプレイヤーを把握していたはずだからである。またDKBやALSからの、引き抜きの成功率も非常に高い。この点、僕の方針にも問題があったかもしれない。ウチは引き抜きはしない。どうしてかというと、リンドとキバオウは僕からすると「使えない男」だからだ。このような男の下に好き好んで(かどうかは知らないが)居ることだけで、その人間に対して魅力を感じない。不安はウチでは、僕の意見は何でも通ってしまう、ということである。大きな間違いはないと思うものの、やはり、偏りはあるだろう。しかし、いかにも大人気ないではないか。子供がもっているもの(もの、ではないが)を横取りするなんて。僕はとてもやる気にならない。

 また、新規加入団員の構成にも問題がある。ウチは入団希望者に対しては即答はしない。見込みがある者でも慎重に調査する。見込みのありすぎる者はむしろ危険だ。モルテのようなケースを警戒するわけだが、困ったことに希望者のほとんどは「攻略組に参加したいから」が動機ではではない。男性ならまず、七割がアスナ目当て、二割くらいがアルゴ目当てである。男なのにシャル目当てが若干いる。どういう心理なのか僕はこれが一番許せない。こんなのはほとんど全部が使えない。一方、女性の割合は、そもそも少ないはずなのに、キリトがちょっと遠征したりすると、彼についてきてしまって入団を希望するケースがほとんどだ。決まって若くてそれも可愛い子だから、その度にアスナの機嫌が、よろしくない。入団を断る場合もあるが、ちょっともったいない気もする。キリト本人は、声をかけたつもりなんかなく、ただ会って、自分についてきてしまったという。メンバー不足は早急に解決しなければならない問題である。引き抜きはともかく、ソロプレイヤーにはもっと声をかけるべきかもしれない。

 話を戻そう。要するに茅場晶彦=ヒースクリフであることを暴いて、直接対決でショートカットのゲームクリアも視野にいれる、ということだ。政府は茅場を消すなというが、ゲームクリアの手段としてならやむを得ないとしている。つまり、政府は茅場の才能が惜しいのではなく、後の世論を考えると暗殺という手段は取れないというだけなのだ。その手段が許されるなら、僕の任務は茅場の暗殺だったはずである。

 

 「第一に確証を挙げること、第二にいつ対決するか、第三にどうやって逃がさないかだよね。」

 

 「そうだ、証拠は状況証拠だけでなく目に見える証拠が必要だ。僕がPKを決行するのはリスクが大きすぎる。リアルなら簡単すぎる仕事だが、ゲームの中ではゲームマスターは神様だからね。どんな対抗手段だって用意できる。失敗するだけじゃなく、僕が消される恐れが大だ。」

 

 「そんなことしないよね?」

 

 (心配している。完全に女の表情だ。正直、ドキっとする。)

 

 「ああ、やらないよ。最善はヒースクリフ自身が対決を求めてくることだ。こちらとしては今からそれに備え、かつ、そのお膳立てを考えなければならない。」

 

 「そんなにうまくいく?」

 

 「正体が暴かれれば十分可能性はあるだろう。『バレちゃったか、ごめんね、じゃ第一〇〇層で』ってわけにはいかないからね。」

 

 「そこでカイトが対決するのならいいのにね。」

 

 「僕はキリトとは全く異質だ。神だの人外だの悪魔だの言われているけど、要するにシステムの中で優秀なのではなくて、システムの埒外の存在なのだろう。リアルでの戦闘のプロがまさかゲームプレイヤーとして参加してくるなんて、そもそも想定するはずがない。現に僕はまっとうなスキルよりもシステム外スキルを断然多くもっている。だからね。茅場の直接対決の相手としては僕は絶対に選ばれない。ただシステムを使って僕を殺しはしないな。これは根拠はないが、確信がある。これまでそれに類する意思決定を茅場はしたことがない。

 最後に対決する相手は99%キリトだ。だからキリトをもっともっと鍛えておく。システムをどんなに弄ろうと無意味なくらいに。システムの外で鍛えるのさ。茅場には絶対に受けきれない、必殺技をキリトに授けておく。システム外のね。」

 

 「ふーっ大変だね。」

 

 「何をいう。君だってここは楽でしょうがないくせに。退屈なんだよ、そうでもしないと。だが、それはあくまでもショートカットだ。基本は完全クリアさ。奴がどういうつもりか知らんが、途中まではヒースクリフを攻略の駒として、使い倒してやる。」

 

 「それはいい手だね。さすがカイト。茅場はラスボスで敵だけど、ヒースクリフは防御の要として、味方か。並の人間だったら同一視するものね。」

 

 「奴の目的からすれば、『ヒースクリフ』は攻略の中心でなければならないはずだ。しかし、それはここに僕がいる限り、無理だね。」

 

 「あいつ、本当に性格最悪だよね。プレイヤーが苦しんでいるのが、楽しくて仕方がないって感じ。ねえ、勝負に出るとして、何時になるかなあ?」

 

 「どんなに早くても、第五〇層までは無理だろう。第七〇層でもどうだろうか。仮に直接対決で奴が負けても一応奴が描いた世界というのが実現されている必要があるからね。」

 

 「それまで我慢するのも大変だね。キリトは勘の良い奴だから、自分で気づいてしまうかもしれない。」

 

 「そう、その可能性はかなりある。あいつのことだから、そうなったらヒースクリフに即、斬りかかるか、少なくとも直談判だろうな。そうする理由があるんだよキリトには。」

 

 「アスナだね。」

 

 「そう、あいつは、もうアスナを苦しめた奴ってだけで判決は死刑だ。」

 

 「ボクももっと探ってみるよ。」

 

 「何処で何を探るかは必ず言うんだぞ。絶対に一人で動くなよ。」

 

 「わかってるってば。」

 

 (どうしてだろう、最近はシャルと話をするのが妙に楽しい。シャルもそうみたいだ。一時混乱していたが、はっきり心に決めたことがある。シャルが女の子だったら、僕は誰にもこの子を渡さない。)

  

 「ところで、君・・・」

 

 「なに?」

 

 「いや、何でもない。」

 

 僕は言葉を飲み込んだ。そう、最初から薄々感じていたが、はっきり気がついていた。シャルの本当の姿に。いつまでもこのままにはしておけない。

 

 

 

 「軍」の暴走

 

 「攻略会議」はウチがボス部屋に到達した、5月16日の翌々日同月18日に行われ、ボス戦本戦は20日正午ということになった。陣営の内訳はウチがキリアスコンビをはじめ、24人、血盟騎士団から18人、DKBから6人というものである。こうして、今回も6人ずつ8パーティと整然とした編成になった。陣容に不満はなく、攻守のバランスにも満足できた。

 しかし、今回のボスは僕とキリト、アスナ、シャル、クライン、アルゴの偵察から、これまでのどのモンスターよりもはるかに難敵であることがわかっていた。取り巻きは2頭であるが、これ自体には特殊攻撃ははない。しかし、次々PoPするタイプなので相手をするには根気が要る。根性ならキリトの上を行くクラインの部隊にこれを任せる。脇役で悪いが。もう一つは血盟騎士団の一部隊。ヒースクリフはクラインの指示に従うように厳命していた。DKBはここには入れづらい。1パーティのみなのでボス相手の方に回さざるを得ない。

 ボスは「モンスター総登場」みたいな奴だった。特殊攻撃全部アリである。持っているのは両手剣とハンマー(腕は四本ある)なのだが、さらにブレスと毒攻撃がある。こいつは頭が二つある「巨人」であった。両手剣のソードスキル(最大二種)、ナミング、ブレス、毒攻撃の4つを全部回避しなければならない。これを全部見切れるのは、キリト、僕。アルゴ、ヒースクリフの4人しかいない。これだけいても事前に全部を見切るのは難しい。

 僕とアルゴの2人を中心とした部隊は向かって右を引き受けた。こちらは、ブレス、ナミング、毒の3つだ。

 この層のフィールドボスからチャクラム系の武器が、またもやドロップした。その名は「零式円月輪」。一般に円月輪と呼ばれる武器よりはやや小振りだ。アルゴに持たせてあるチャクラムよりも切断力が重視されていて、流線型の刃が外円部に追加されている。実際に投げてみると、軌道は従来のチャクラムのように一定の美しい軌道ではない。変幻自在で、障害物を自動的に避けて飛んでいく。従来よりさらに5割増ほどの威力である。過去の例からすると、このタイミングでドロップしたからにはこれが必要になる戦いになるのであろう。とにかく、ナミングとブレスがあるので、チャクラムが二輪あるのは大きい。しかもクリティカル率は僕が9割5分、アルゴもほぼ9割を誇る。最も「零式」の方は投げ始めたばかりであるから額面通りとはいかないかもしれないが、9割は下るまい。

 対処が面倒臭いデバフ攻撃だが、普通に相手をするのとでは、大変な違いだ。ただ、第二層と同じようにいくか?

 いや待てよ?この層はベータ版のデータは当然ない。僕たちは時系列的に第二層が、第二五層の後だなんて考えない。しかし、事実はそうなんだ。作られたのは第二層のデータが後、なんだ、そうか!

 むしろ、わざとヒースクリフに教えを乞うってのも、手じゃないか?奴が茅場である証拠を積み重ねるために。意地なんか張ってる場合じゃない。

 もう一部隊はウチの新入団員の中心部隊、これはちょっと心配だ。年少者が多い。「少年隊」とか言われてる。シャルを隊長にしたが、僕の横に置くのは絶対だ。そう言えば、キリトだって14歳なんだ。それ、あまり心配したことないな。剣技抜きでもキリトって並の14歳じゃないよな。「少年隊」を鍛えれば歳の若い順に1パーティ作って・・・いかん、いかん何を遊んでる。だが、シャル、アスナ、キリト、ウィンリィ、エドワードこいつら、全員、アイドルで十分通るぞ、リアルでも。この思いつきはなかなか捨て難いな。よし、後の楽しみのためにエドとウィンリィは僕が直々にもっと鍛えよっと。

 DKB中心の部隊もこちらに置く。ますます火力不足になるが、まず全員の安全が第一だ。リンドは手柄を欲しがって無理をする傾向が強い。あいつも目が離せない。うーん世話が焼ける。ちょっと厳しい構成だが、僕の隣にはアルゴがいる。僕が飛び出しても、なんとか僕の代わりが務まる。アルゴももっと実戦慣れすれば、シャルに続いて、3人目の軍師として僕から離れたところに置くこともできそうだ。

 向かって左は両手剣のソードスキルと炎攻撃がある。炎はデバフ攻撃の中でも最強だ。こちらには、わがギルドの最大火力を誇るキリアスコンビ、そしてエギルらのタンク4人の部隊を置く。ヒースクリフ率いる血盟最強部隊と血盟のもう一部隊を配置する。ヒースクリフには人間離れした防御力ともう一つ、卓越した指揮能力がある。奴の指示には従うようにキリトとアスナに命じた。奴の指示は正しいに決まってるのだ。

 

 第二〇層以降「結晶」アイテムがドロップするようになった。回復、解毒等は、即効性があり、ポーションよりもはるかに便利である。しかし、値段もはるかに高価だ。さらに、「転移結晶」というのも大変便利だ。いちいち転移門まで行かなくても、これを取り出して、その階層にある街を「転移!○○○○!」と唱えれば、それだけで瞬間移動できる。まだ他にも結晶アイテムはあるらしい。僕はこれが初めてドロップした瞬間にその有用性を悟り、直ちにエギルに種類、値段を問わず市場に出たら、即確保するように指示した。これが出たからには、これまでのようにわざと宝箱を空けないなどという、ヌルい方針は採れない。僕たちは、それこそ結晶アイテムを求めて、第二〇層以降は飢えた狼のように、狩りを続けた。しかし、独占にはほど遠く、結晶アイテムは市場にもなかなか出回らなかった。僕と全く同じ考えの男が、もう一人いたからである。もちろんヒースクリフだ。

 全て思う通りとはいかなかったが、かなりの数の結晶アイテムを確保し、ポーションもたっぷり買い込んで戦いに備えた。特に転移結晶を人数分確保しているのは心強い。準備万端だ。ところが、である。

 

 突如、通称「軍」ことアインクラッド開放隊が動いた。攻略会議と本番との間の「空白の一日」である5月19日、単独でボス部屋に突入したのである。飛助とアルゴの調査によれば、これを指示したのはキバオウであるが、こいつはなぜか、レイドの中にはいなかった。無謀な戦いの直後、このことが最も僕を怒らせた。しかもキバオウは今回に限って、わざわざALSは参戦しない、と通告してきたのだ。攻略会議にも出てこなかった。これは、自分たちがレベル制限をクリアできないからだ。しかし、いきなりのボス戦はあまりにも無謀だ。確かに聞きにきたところで教えてやるつもりなどなかったが。おそらく、どこかから、偽情報を掴まされたのだろう。第二五層が第二四層までと大して変わらない強さ程度の認識だったはずだ。だが、それを信じた理由は?まさか、血盟か、DKBの中の誰かが?

 1000人をはるかに超えるほど巨大化した「軍」の中では派閥争いが激しい。それでなくてもこれだけ巨大化すれば、メンバーを養っていくだけでも、大変、金がかかる。ここにきて、攻略最前線からかなり遅れを取っていた彼らは無謀にも戦うことで資金不足を補おうとしたのである。敵の強大さにも、自らのレベルも、そして装備も、そして、結晶アイテムは勿論、ポーションも十分な備えがなかった。

 以前から、キバオウの数多ければ何とかなるという考え方を危惧していた僕であるが、まさかここまで無為無策で愚かな戦いをするとは思わなかった。

 キバオウは本気で人数さえ揃えれば何とかなると思っていたらしい。あわよくばこの機会に攻略最前線に復帰するつもりだったようである。人数だけはフルレイド2つ分掻き集めたが、あきれたことに+10の安全マージンが取れていたのは全体の中でたった5人だった。これではわざわざ死にに行ったようなものだ。しかも指揮官の命令は戦況も何もなく、ただ全員突撃を命じるのみ。腕が立つメンバーでさえ、それは最もやってはいけない戦い方だというのに。

 第一部隊だけで、死者24名。空前の犠牲者数であった。もともと高レベルプレイヤーが少ない「軍」であったから、そのほとんどを失ったことになり、少なくとも攻略への参加は事実上、完全に不可能になった。第一部隊よりさらに力が落ちる第二部隊に戦意の残っていようはずはない。指揮官の静止を振り切って散り散りに逃げるだけであった。彼らの多くは脱走し、事実上「軍」から離脱した。

 この無謀な戦いの後、言い訳という名の謝罪に顔を見せたキバオウはウチが(血盟も、なのだが)結晶アイテムを独占したことを詰るつもりだったようだが、既に「悪魔化」して、一言も発せず、周囲を凍らせていた僕に対してそれを言う度胸はなかった。資金調達の最も有力な手段を失った「軍」が次にどうするかは容易に想像でき、その悪影響は大いに懸念された。

 攻略は4分の1も達成できていない。それ以外に、こんな問題を抱えてどうなるのだろうか。犠牲者の多さだけでなく、さらに問題が続くことが僕の心を重くした。

                                       続く

 

 

 

 

 

 

 

 




 ヒースクリフが登場して、それほど時間を要さず、カイトは正体を見破ってしまいました。この設定は無理ではないと思います。SAOは人材が少ないですから。
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