プロから見たSAO攻略   作:ベルクーリ2世

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 ヒロイン差し替えの跡がある回です。作者はヒースクリフ=茅場晶彦の評価も低いのですが、これぐらいだと、アンチ、ヘイトになるのか、わかりません。


第12話 攻略と生存と

  キリトSide

 

 偵察で体験済みだが、この双頭の巨人の両手剣のソードスキルは一撃必殺に近い。絶対に喰らうわけにはいかない。さらに防御力が強く、通常のソードスキルでは一撃1ドットくらいしか削れない。いきなり突っ込んでも攻撃効果は期待できない。最初から持久戦を覚悟しなければならない。戦う前から、カイトはうんざりしていたが、ゲーマーである俺はこういう戦いは案外苦にしない。

 

 ガッシャァアアア!

 

 ボスの両手剣がヒースクリフめがけて振り下ろされる。これを正面から受け止める。普通は盾を持っていてもこんなのは避けるんだけどな。

 通常攻撃はヒースクリフ一人でも受け切れる。こっちにきたとしても、エギルたちの連携に不安はない。

 

 「行くぞ!」

 

 相手の攻撃の直後にカウンター。基本的にれ以外ない。だが、俺とアスナの二人がかりでさえ、普通に攻撃したのでは相手のHPは申し訳程度にしか削れない。相手が大きすぎて、急所に届かないのだ。やはりこれはアレ、しかないのか・・・俺はカイトの無茶とも言える作戦を思い出していた。

 

 「いいか、君たち二人はあいつの体を駆け上るか、空中ソードスキルで急所を連撃するんだ。攻撃し終わったら反対側へ飛び下がる。」

 

 それしか大きく削る手はない、と言う。だが、こいつの隠し芸を見てからでないと。飛び下がった直後に見たもの、それはボスの右胸部が赤く光るところだった。

 

 「下がれ!来るぞ!」

 

 グゥババアアアア!!

 

 ボスの新たな攻撃は赤い「光」だった。だが、これは光などではない、火炎放射だ。ヒースクリフらは俺の指示の前にもう下がっている。しかし、攻撃範囲が広すぎる。無傷とはいかない。

 

 「炎のタネはわかってる!胸が赤く光るんだ。その攻撃は僕に任せろ!」

 

 カイトだ。反対側にいるが、あのチャクラム二輪で防ぐつもりだろう。こちらのターンは相手の攻撃直後しかない。

 

 「アスナ!あれ、行くよ!」

 

 俺は飛び上がり、空中でバーチカル・スクエアを発動して巨人の胸を攻撃、アスナは巨人の体を駆け上り、首をレイピア3連撃ペネトレイトで突く。大きく削った、とは言い難い。だが、普通に攻撃した場合の10倍は削れる。だけど、これ、あと何回やらなきゃなんないんだ?

 

 戻ると、再び巨人が大剣を構える。ソードスキルが来る。刀を回して・・・これは両手剣スキル「ブラスト」だ。

 

 「来るぞ!」

  

 ガシャアアアア!

 

 エギルたちは下がった。ヒースクリフは下がらないで、これも盾で受け止めてしまう。だが、このソードスキルは二連撃なのだ。二発目は全方位攻撃が来る。するとヒースクリフは、そんなことは先刻承知とばかりに下がっている。

 

 「キリト、奴(ヒースクリフ)の心配なんか一切いらない。むしろ奴が盾でどう防ぐかを見ておくといい。余裕があれば、だけどね。」

 

 (カイトが言っていた通りだ。完全に見切ってる!スキルも全て知ってるんだ。)

 

 ヒースクリフを見てばかりもいられない。アスナが目で合図してくる。もう一回あれだ。

 

 今度はアスナが飛び上がり、俺は少し傾いた巨人の体を駆け上って、さっきとは反対の急所を攻撃する。

 (どっちでやっても変わらないか。)ため息が出るくらいタフな奴だ。俺たち以外のメンバーの攻撃は一撃1ドットくらいしか削れない。

 

 

 カイトSide

 

 

 グゥオオオオッ!

 

 (こっちはハンマーか。「アステリアス」よりまた一際、でかいな。まあいい。その芸はもう、見飽きたよ。)

 

 「来るぞ!下がれ!」

 

 ハンマーを振り上げる直前にアルゴが手首を狙ってチャクラムを投げる。額には何もない。おそらくは、首の宝石のようなものが急所。だが、偵察ではそこまではっきりしなかった。護衛は雑魚とはいえ、六人だけでは、手空きが少なく、倒しきるのは無理だ。挟撃された状態での偵察になった。ボスの攻撃の種類を見極めるだけで精一杯だった。それだけだって、本当はとんでもない話だ。10人、いや20人で行っても無事では帰ってこられなかっただろう。

 

  キュイーン!

 

  パァアアーン!

 

 クリティアカルだ。完全には止められないが、これでかなりの威力減だ。すかさず。僕は巨人の体を駆け上がって閃打を奴の首の後ろに連打する。足場が悪いので威力は今ひとつだ。だが僕の体術はスキル後の硬直はないに等しい。

人間ならマウント・ポジションだ。これでギブアップ、なんだがなあ。仕方がない。体が倒れるまでとにかく辛抱だ。

 

 戻って左を見るとまた、胸が光りかけている。僕はすかさず、「零式円月輪」をくるくる回しながら投げる。

 

 ギュイィーン!

 

 パカァアアアーン!

 

 (やはり、こっちの方がだいぶ威力があるな。炎を一部でも止められるのは大きい。)

 だが、もう片方の相手をしているとこっち側が削れない。大きく削れる火力はシャルだけだ。キリトたちに比べると少々火力不足なのがつらい。

通常のソードスキルでは剣でも槍でも一人1、2ドット削るのがやっとだ。

 (あっちにはヒースクリフがいるからな。こっち半分が残るのは面白くない。)

 

 すると巨人がなにか吐こうとしている。ん、これはブレスじゃない、毒だ。

 

 「下がるんだ!毒だぞ!」

 

 これは避けるしかない。だが攻撃範囲が、異常に広く、完全には避けきれない。僕は解毒ポーションをあらかじめ飲んでおくように右側の部隊に指示していた。そして間隔を空けて退避中にも飲みながら戦え、と。攻撃を喰らってから飲むのでは遅いのだ。どうだ、リンド、僕の言ったとおりだろう?惜しみなく使え、という僕の指示に渋い顔をしていたので、会議のあとポーションをくれてやった。その数の多さにたまげていたが。

 

 シャルが体術「弦月」をお見舞いして、大きくのけぞった隙に、閃打でボコる。実に華麗だ。

 

 巨人が今度は大きく息を吸った。今度はブレスだ。

 

 「ブレスが来るぞ!」

 

 「グォォオオオオ!」

 

 パァァアアーン!

 

 こいつの、プレスは「アステリアス」同様一発目から麻痺だ。ということは、やはり止める急所があるのがお約束。こいつの場合は首のところにある宝石だ。アルゴがそこを狙ってチャクラムを投げる。また、クリティカルだ。腕を上げたな。

 

 30分も以上もこうした戦いを続けたが、やっと一本削れたくらいだ。取り巻き担当のクラインたちは問題なく倒しているが、倒しても次がPoPするので手が離せない。あと二時間くらいこういうのをやって、最後の一本がどうなるか。時間をかければ何とか倒せる。だがヒースクリフと違って、僕にはそういうかったるいのが我慢できない。少し練習しただけだが「奥の手」を出すことにした。

 

 「悪い、そっちのもちょっと貸してくれ。」

 

 アルゴのチャクラムも借り、左手に持つ二つ同時に投げるのだ。ブレスが来る前に首の宝石を狙って同時に放つ。「ダブルショート」というソードスキルだ。さらに敏捷値極上げの僕にはスキル補正がかかる。

 

 グァィイイイン! 

 

 バァァアアアーン!!

 

 飛んでいる時の音もなかなか凄かったが、命中音もチャクラムの音ではない。さすがに円月輪一輪の倍以上削れた。しかし、そもそも、削るのが目的の攻撃ではないのだ。チャクラムはクリティカルではない。もう少し削れるはず。2つともすぐ戻ってくる。スピード補正もあるのだ。周りは呆れているばかりで、なかなか褒めては、くれない。

 

 「今の・・・何ですか?」

 

 リンドが聞いてくる。

 

 「ごめん、説明してる暇はないんだ。後でね。」

 

 と言っておきながら一転して微笑しながらアルゴに、

 

 「今の、やってみたいか?」

 

 「あたしには、無理だわ。左手なんて使えない。」

 

 ところがどっこい、裏ワザがあるのさ。

 

 「じゃあ左には持つだけでいいから、2つ持って、間髪を入れず、右手で交互に投げてこらん。左側の奴の胸!」

 

 アルゴは言うとおりにする。僕の言うことは、決して疑わない。こいつ、これで案外、可愛いところがある。

 

 グアァイイイーン!!

 

 さっきと同じ音がする。いや、むしろさっきより、大きな音だ。威力は・・・さっきより凄い。円月輪一輪の三倍削れた。どちらもクリティカルだ。タネ明かしはこれもソードスキルだということ。「ラッシングシュート」だ。これが発動する条件はとにかく投げる前に二本とも手に持っていること。敏捷値が高いとダブルシュートとほぼ変わらない威力を示すのだ。アルゴも敏捷値極上げだからこれが使えるのだ。

 

 「うわぁ こんなの初めて!」

 アルゴは大喜びだ。

 

 周りの視線はその威力に驚くと同時に、ボス戦の最中に何をやってるのか、という目だった。

 

 「じゃあ、両方をよく見て、炎とブレスの前にこれをやるんだ。」

 

 「うん、わかった。」

 

 さあ、いつまでもこんなことはやっていられない。僕は今度はストレージから投剣3本を取り出す。

 

 (ふふふ、見てろよ。)

 

 シャッ

 

 3本同時に投げる。剣には麻痺毒が塗ってある。これもソードスキルで「トリプルシュート」というやつだ。敏捷値で速度、筋力値で機動が修正される。狙ったのは開けかけた右の奴の口の中。

 

 (どうだ?僕特製の毒剣の味は?)

 

 両手で口を押さえ、苦しみだした。

 

 (ほう、これだけでかくても効くのか。)

 

 モンスターは生物ではない?そんなこと言えば人間だってそうだろう。実体が、ここにあるわけじゃあない。僕は最初からMobにも効くと思っていたが、これまでは、相手が大きいとあまり効かなかった。毒が強力化したということだろうか。

 

 HPは大して減らないが、体勢が大きく崩れた。

 

 「今だ!全員で一気にボコれ!」

 

 右側の部隊が一斉に掛かっていく。HPがみるみる減っていく。こいつがタフなのはでかすぎて剣が急所に届かないからだ。寝かしてしまえばなんとかなる。右側は見通しがついてきた。

 

 

 キリトSide

 

 「何なんだよ、それ!」

 

 アルゴの二輪投げにはたまげた。しかもなんだよ!ボス戦の真っ最中にイチャイチャしやがって!と、見てる場合じゃない。アスナと二人で空中ソードスキルで攻撃する。労力と攻撃効果、どう見ても俺たちが割に合わない。次の攻撃がこないうちに下がる。

 あ、また何か取り出した。3本持ってるって、まさか、同時に投げるの?それ?クリティカルは当然として、何で、たかが投剣がどうしてあんなに効く!

 

 

 こっちもアルゴの連続攻撃でかなり弱っている。身長の低いアルゴは、それを補うかのように、空中で戻ってきた二輪を受け取り、反対側の巨人に投げる。なんとも華麗で美しい。しかし、別にこんなことしなくても攻撃効果は変わらないと思う。見栄えがするようにカイトが練習させたんだ、絶対。

 

 あいつらばかりにやらせるかよ!ボスの体勢が崩れてきた。大剣を振り下ろしてくるが、ソードスキルは使えない。ヒースクリフが軽々と受け止める。

 

 「今だ!キリト君!」

 

 (言われるまでもねえよ!)

 

 アスナと同時に襲いかかる。ボスが弱ってきたからかなり削れた。

 

 「グッ、グォオオン」

 

 叫んでいるが弱々しい。ようし次で終わりだ。

 

 グァイイーン!

 

 またこれか。ただ投げるだけでこの威力、理不尽だよなあ。右側が消滅したので、クリスはアルゴが投げるのをニコニコして見ている。ちくしょう!いい加減にしやがれ!

 

 「全員攻撃!」

 (分かってるっておっさん。でもそれだとLAボーナスは・・・)

 

 勢い込んで攻撃したのだが・・・

 

 「Conguratulations!」

 

 (って、あれっ?同時だと思ったのに!)

 俺にはLAボーナスの表示はなかった。今までこういうケースではアスナと同時でも取るのはいつも俺だった。すっげえ悔しい!クリスたちにおいしいトコ全部持ってかれたし!そうかあ、俺、いっつもアスナにこんな思いさせてたんだな。逆の立場にならないと分からないもんだな。

 

 「おめでと。」

 

 アスナとハイタッチ。

 

 「悔しいでしょ?わたしの気持ち、少しは分った?」

 

 「うん、でもいいよ。アスナが喜んでれば。」

 

 あてが外れてアスナが赫くなっている。うん、俺にしては上出来だ。あのチートくさい連中には負けるけどね。

  

 

 「師匠!何やってるんすか!夫婦で!」

 

 「断じて、夫婦じゃないぞ。」

 

 「誰が見たってそうじゃないすか?」

 

 「そんなことはないさ。勝手に決めつけないでくれ。」

 

 「俺たち、取り巻き退治の単純労働で・・・見せ場ないっすよ!」

 

 「悪い、悪い。脇へやっちゃって。次はもっといい役振るからさ。」

 

 「カイト!何だよ!ひとり、いや二人舞台じゃないか!自分たちが目だとうと思って作戦立てたんだろう。」

 

 「それは誤解、いや邪推だよ。目だとうなんてこれっぽちも思ってなかった。」

 

 ヒースクリフが来た。

 

 「いや、いいものを見せてもらった。マイナースキルである投剣を主役にまで押し上げる戦略と技術、見事だった。あれがなかったら、まだまだ時間を要しただろう。」

 

 (ふふ、どうだ。おまえの作ったシステム、思い切り使い倒してやったぞ。)

 

 「それほどでもありませんよ。しかし、連携もうまくいった。これからもしっかり協力していきましょう。」

 握手する。(心にもないけどね。)

 

 横ではアルゴがみんなに囲まれていた。今回はうまくいきすぎたな。

 

 

 その夜、アスナを連れて、ヒースクリフと会談する。相手の本拠に乗り込むのだ。連れていくならシャルの方が便利なのだが、アスナの方がいいこともある。今回の話、シャルもアルゴも十分解っているが、アスナには教えてやらなければならないことだ。この娘は賢い。人材がいないから、大人の役もこなしてもらわなくては。いや、いろいろ理屈をつけているが、要するに、連れ回して見せびらかしたい。ならアスナだ。キリトがうるさい?まさかあいつを今、ヒースクリフのところに連れて行けるか!

 

 (おうおう、雁首揃えて。しかし、どいつもこいつも人相が悪いな。とにかく不細工だ。このゴドフリーとかいうのはむさくるしくていかん。せめて髭は剃れ!そしてクラディールという奴、こいつはおそらく犯罪者だ、リアルでも。また見るからに悪相だな。僕ならこんなやつは面を見るだけでもごめんだな。女性は一人もいない。そう言えばリンドのとこでも男しか見たことないな。改めてこうして見ると美女ばかり、6人もいるウチってすごい恵まれてるんだな。)

 

 「いやいや お疲れ様でした。」

 

 「いや、そちらこそ。投剣も見事でした、奥様も。カイトさんは格闘技の達人でもあられると聞いております。一度拝見したいですな。」

 

 「いえ、あれは嫁じゃないですよ。デュエルでもやって見ますか?初撃決着モードで。」

 

 「そうでしたか、失礼しました。デュエルですか?望むところ、と言いたいが、とてもじゃないが、私ではまるで相手にならないでしょう。」

 

 「リアルで拳法や合気道を少々、趣味でね。それだけです。達人なんて大げさですよ。」

 

 (リアルの半分の威力もないぞ!もう少しましなシステム作れよ!)

 

 「ご謙遜を。それに、あの速さは尋常ではない。」

 

 「褒め殺しはそのへんにして、攻略の話をしましょう。攻略はわれわれ2ギルドの競い合い、というのは動かせない事実ですが、何もしないでおくと、トラブルが生じかねない。どうでしょうか?当分、階層3つのうち1つはあなたにボス攻略の指揮権をお渡ししますよ。無用の競争はよろしくない。状況に変化があれば、また話し合いましょう。」

 

 「それはインビクタスと、われわれ血盟騎士団との実力差からすると、随分寛大なご提案ですね。何か条件が?」

 

 「そうですね。多少レベル的に落ちますが、先のことを考えると、聖竜騎士団の人数は必要だ。血盟騎士団からの参加人数を数人削ってでも、聖竜をボス戦に参加させて下さい。無論、我々もそうします。まあウチはこれまでもそうしてきましたが。」

 

 「全く異存ありません。当然、考慮すべきことです。」

 

 「次に、これはお願いなんですが、無謀な戦いでかれらの中での、最強部隊が壊滅した『軍』についての問題が確実に生じるでしょう。いやもう生じています。我々のギルドだけで対処しうることではない。可能な限りで結構ですから問題解決にお力をお貸し願いたい。」

 

 「問題、とは?」

 

 「まず、前のボス戦で、脱走した団員がかなり居ます。ざっと数えても50名近く。彼らがどうなるか、です。どこかのギルドに入るとかでしたらいいのですが、僕のところはですね、その、人外とか悪魔とか言われている僕がマスターをしているせいか、他ギルドに所属していたプレイヤーは一切寄り付かないのですよ。その点、血盟騎士団はかなり他ギルドからの移籍が多いと伺っていますが?」

 

 「いや、うちでも今回の『軍』からの離脱者を加入させるつもりはありません。」

 

 「そうでしょうね。血盟騎士団は団員の平均レベルも非常に高い。」

 

 「我々は少数精鋭を理想としています。いや、まだ精鋭というにはお恥ずかしいが、それで、できるだけ攻略に専念して一日も早くゲームクリアをと考えております。それ以外にはなかなか手が回らないのですよ。」

 

 「なるほど、それはひとつのお考えです。しかし、もっと具体的に言いましょう。僕は『脱走者』の多くが食うために犯罪者化すると、思っているのですよ。具体的には強盗、恐喝の類ですね。確かにハラスメントコードはあります。しかし、抜け道はあります、かなり多くね。さらに、最近、リアルでのプロの犯罪者の影がチラチラ見えます。こういう輩が手ほどきして、集団犯罪化することを恐れているのです。根っからの犯罪者には、この世界は天国です。現実世界に還っても、罪に問われることはまずない。だから、攻略を妨害してくる奴まで出てくる。いつまでもゲームクリアしてほしくないわけです。今回の軍の暴走もおそらく、この連中によって偽情報が流されたと僕は見ています。」

 (おたくが一番怪しいんだよ。多分、クラディールだな。僕の勘が奴を示している。まったく、団員はもっと選べよ。不細工なおっさんばかりというのは仕方ないが。)

 

 「私はそこまで思い至りませんでした。いや、お恥ずかしい。確かにそれは見過ごせませんね。」

 

 「それでは済みませんよ。攻略組プレイヤーの殺害まで、やってこないとも限らない。オレンジのレベルははっきりわかりませんし、レベル差だけで大丈夫とは言えない相手です。これも内通者がいたりするとさらに危険だ。聖竜のリンド君にはもう警告しました。血盟さんには、その、失礼かなと思って遠慮したのですがね。」

 

 「具体的には、こういう連中がやりそうな手口を解説したガイドブックを、アルゴを中心に作ります。講演会もやりましょう。まず一般プレイヤーに自衛手段を教えることですね。しかし、やはり、元を断つことは必要でしょう。それは荒仕事ですから、攻略組トップのギルドの一つである血盟騎士団には場合により、ご協力いただければ。」

 

 「それでしたら否やはありません。要請があれば団員は必ず出しましょう。」

 (要請するつもりはない。腹の内を知りたかっただけさ。)

 

 「次ですが。『軍』は大きくなりすぎた。1000人を優に超え、あれほどの惨敗を喫したのに、はじまりの街で人を集めようとし、加入者は増えている。」

 

 「なぜ、加入者が・・・」

 

 「簡単なことですよ。『軍』に入っていれば、一応は食える、からです。最前線に場所を失った彼らが、どうやって生きるためのコルを稼ぐか。それは低層での狩りが主になるでしょう。問題はただでさえ狭隘な狩場を彼らが独占しているということです。攻略には何の役にも立たないが、なまじの武力だけは持っているから始末が悪い。このため『軍』に所属していない一般プレイヤーは生活していくにも困る。とりあえず生きるためには『軍』に入る、という悪循環ですよ。さらにキバオウというリーダーはとんでもないことを言い出しました。自分たちが、警察になる、というのですよ。これは、当然、代価を要求するための、方便にすぎません。実態は暴力団のみかじめ料と何も変わるところはない。」

 

 「そこまで深刻なのですか。」

 

 「全く資質のない人間、いや資質がないだけならいいが、目先のことしか考えられない視野が狭い人間がリーダーになって、悪いことに構成員がとんでもなく増えてしまった。もうネズミ購みたいなものです。このゲームがデスゲームでなかったら、自治組織がはじまりの街などには必要です。しかし、そもそもここにいたい、暮らしたい人がいるわけじゃないからそんなことは考えられない。しかし、最低限このような狼藉を許すわけにはいかない。」

 

 「どうするのですか?」

 

 「圏内ですからね。逆に遠慮なくやれます。時々第一層まで出かけていって力づくでやめさせますよ。」

 

 「そちらはどうも・・・」

 

 「いいですよ。協力よりも、非常に深刻な問題であることを理解していただくことのほうが重要です。」

 

 「しかし、あなたは凄い方だ。そこまで問題を把握し、対策まで立てておられる。情報も速い。」

 

 「リアルでは、汚れ仕事もやりますからね僕は。情報はアルゴは元『鼠』。彼女がいればこれくらいはね。

 ヒースクリフさん、我々は最前線に居ますから、どうしても攻略を第一に考える。しかし、攻略組が一体何人いるか?トップは50名強ですよ。我々とあなたのところがほとんどのね。あと、聖竜連合とソロの連中を加えてもせいぜい100人。これから攻略組に上がってくる可能性がある予備軍を入れてもせいぜい200人にすぎない。

 圧倒的多数は非戦闘員です。我々にそこまで考えている余裕はない、聖竜連合のリンド君などはそう言うでしょう。

 確かにすべての責任を負うことなどできない。ですが一般プレイヤーについてもできることはすべきでしょう。このアインクラッドは人材が少なすぎる。その上、少ない人材を発掘している余裕はない。あなたのようなしっかりした方には多少は攻略以外のことも考えていただきたい、と思うわけです。」

 

 「いや感服しました。そしてお恥ずかしい。大変、勉強させていただきました。これからもぜひご指導いただきたい。」

 

 「かえって恐縮です。ヒースクリフさんは、なかなかに博識と伺っています。私のほうこそ教えていただきたいことがたくさんありますよ。ゲームには詳しくないですから。」

 

 

 握手をして別れる。

 

 

 

 僕の宿で(シャルは探索に出した。今夜は不在)

 

 「あんな重大な問題があるのに、あたし、何も考えてなくて・・・」

 

 「何を言ってるんだ。そこまで解かれば十分すぎるよ。なあ、アスナ、自分だけ、いや自分たちだけがあの世界に帰れればいいって思うかい?」

 

 「そう・・・思ってました。いや、他の人がどうなるかなんて全然考えてなかった。」

 

 「うんうん、それであたりまえだ、君は優秀だし、気性も真っ直ぐだ。自分が知らなかったことを教えられると何で知らなかったのよ、って自分を責めちゃう。自分を責める必要はないんだ。わかったろ。ここで死ぬってことはボス戦や狩りでモンスターにやられること、とは限らないんだ。

 僕が今日、君を連れて行ったのは、君がそういう性格だからだよ。君は無事に帰れた。まあキリト君も他に君が知ってる人も全員ね。しかし、ふと見ると、生きて帰れなかったかった人がたくさんいる。なぜ、帰れなかったのか、もだんだん分かる。後でそういうことが解って平気でいられるかい。」

 

 アスナはぶんぶんとかぶりを振る。

 

 「だから、今、できることはしなくちゃいけない。弱い人たちのためじゃない。自分のためなんだ。情けは他人のためならず、って言葉、知ってるだろ。」

 

 頷くアスナ。アルゴが紅茶(正しくは紅茶風だが)を持ってくる。シャルがいないと狙ったように襲来する。

 

 「大変だったでしょ。アーちゃん。」

 「あなたも、そんなシビアな話、いきなり聞かせて!」

 

 (こいつ、完全に嫁気取りだ。まあ、今日だけは、許してやろう。)

 

 アルゴは僕の原初的欲求を見抜いて、襲撃してきたのだ。物騒な女だが、僕に対する気持ちに嘘はない。いろいろ役立ってもらった。少しは応えてやらなければ、とも思う。

 

 「アスナは賢い子だから大丈夫。ここは人材が少ないんだ。優秀な人には、頑張ってもらわなくてはどうにもならない。」

 

 「でも、すごい皮肉と毒舌っていうか、ヒースクリフさんに。」

 

 「あれはね、彼が年齢の割に、あまりにも世間知らずだからだよ。うん、僕はかなり怒ってた。引き抜きだってね、いい歳をして何やってんの、あんたって話さ。僕が、絶対やらないの、知ってるだろ?」

 

 (本当に気がつかなかったのかな、奴は。まさか、折り込み済みじゃないだろうな。)

 

 「ええ、なんとなく分かります。その欲しい人もいないかな・・・って。」

 

 「ハハハハ、正解だ。だけど仮にこいつなら欲しいって思うプレイヤーがいても、僕はやらないさ。大人気ないでしょ、そういうの。リンドとかを相手に。もしSAOが単なるゲームなら、少年少女、成人でもごく普通の人たちがプレイヤーのほとんどなのにここに僕がいるのはそれ自体、反則なんだ。でも、デスゲームなのに青少年の中に大人が出てきてって話じゃもっとおかしい。」

 

 「団長は、人によってはすごく厳しいのにどうして、キリト君やわたしには優しいんですか?」

 

 「あ、優しいって思ってくれる?嬉しいなあ。うーん理由?やっぱり可愛いから?」

 

 「違うって、可愛いって言ってもいろいろあるだろ?」

 

 (隣から肘打ちがくる。おい、おまえのそれはもう凶器だぞ。)

 

 「だって、事実すごい美少女じゃない。」

 

 (確かにそれはある。ここまて可愛いと、いくらこの娘が15歳といっても、いけない気持ちになることがない、とは言えない。)

 

 「ホントのこと言うとアスナ、嫌がるからさあ。」

 

 「聞きたいです。わたし。」

 

 「しょうがないなあ。あのね、アスナは若い頃の僕に性格が似てるんだよ。だから本当の妹みたいに思ってたんだ。会った時から。」

 

 「わたし、嬉しいです。兄、いますけど、カイトさんがお兄さんだったら。」

 

 「じゃあ、妹と思って、以後そういう扱いになるからよろしく。」

 

 (妹にしておけば、僕も、間違いは起こさないだろう。アスナはキリト一筋だし。)

 

 「もお、調子に乗って!」

 

 「でもカイトさん、アルゴさんのことヒースクリフさんに自慢してましたよ。」

 

 (頼むから、余計なことを言わないでくれ。)

 

 「もおっ、恥ずかしい人ねっ!」

 

 「自慢なんかしてないさ。事実を述べただけ。」

 

 「でも、あたし羨ましいです。あんなに堂々と好きな男の人に言ってもらえるなんて。」

 

 「あら、キー坊だっていい男っぷりじゃない?特にこの世界では。」

 

 「でも、戦闘の時以外はボーっとしてるし、意気地がないし・・・」

 

 「キー坊も大変ね。」

 

 「大変なのはアスナの方さ。アスナはキリトにはもったいないよ。」

 

 「それは言えるわね。」

 

 「そんなこと・・・いや、キリト君にも少しはいいところも・・・あるかなって。」

 

 「ハハハハ、大丈夫。心配ないよ。あいつはきっと、文句なしのいい男になる。アスナが付いてればもうに万全。」

 

 「あら、アーちゃんたら、否定しないのね。」

 

 「だって、キリト君のことそう言ってもらって、その、嬉しいっていうか・・・」

 

 「ふふふ。」

 

 「ねえ、カイトさんとアルゴさんて、どうして結婚しないんですか?」

 

 (その質問は禁句だ。これだから少女は。)

 

 「僕たちは、そういう関係ではない、かな。」

 

 (怒って、ないか。良かった。)

 

 「アーちゃんがさ、試しにキー坊と結婚して見れば?」

 

 「えーっ だってわたしまだ15歳ですよお。キリト君だって・・・」

 

 「ここでは年齢制限ないよ。16歳になるのも、ももうすぐだし。で、相手がキリトというのはもう決まってるんだね。」

 

 「やめてください!キリト君だってわたしとじゃ嫌かもしれないし。」

 

 「断言する。それは、絶対にない。」

 

 「そうよね。」

 

 「もうっ」

 

 (アスナ顔真っ赤!)

 

 「あの今日の話、キリト君にもして、いいですか?」

 

 「アスナとの結婚の話かい?」

 

 「そこから離れてくださいっ!ヒースクリフさんとの話ですよ。」

 

 「ああ。してやって。アスナから聞くのが一番いい。いやキリトも連れてってもよかったんだけど、あいつ喧嘩っ早いから。ヒースクリフに向かって何言うかわからない。」

 

 「はい。ほんとよく知ってるんですね。」

 

 (笑ってる。よかった。すっかり落ち着いた。)

 

 

 アスナが帰ってから、僕とアルゴは、お互いに分かりきっていた予定通りのコトを済ませて・・・

 

 

 「なあ、その『倫理設定解除コード』な、バカ、赫くなるな!真面目な話だ。秘密管理、厳重にな。こんなことが知れ渡ったら必ず性犯罪が横行する。ヒースクリフに、そこまで言ってやろうかと思ったよ。アスナがいるから言えなかったが。人間ヤケになったら一番やりたいことってそれだからな、男は。きみ以外にこれを知ってる奴を始末したいくらいだよ。」

 

 「本当にまずいわよね。何でこんなのつけたのかしら?」

 

 「わたしはソレを使われて、あなたの猛攻を受けました。」

 

 「もおっ。」

 

 「いや、きみは凄腕のハッ、いやプログラマーじゃないか?仮に相当プログラムに詳しいやつがいるとこちらが秘密にしても広まるおそれがある。プレイヤーは悪意に気がつかない。」

 

 「心当たりでもあるの?」

 

 「あるにはある。ほら、君よりはるかに格下だけど、方々の武器商人の手先のハッカーと言えば、な。」

 

 「あーあの悪趣味な人種差別男!」

 

 「そ、クマの・・・アレだよ。」

 

 「あたしが、殺してやりたい。」

 

 「物騒だな。まあ、仕方がないな。たった40人ばかりで、7000人の面倒みようなんて無謀極まりない。ただ、ウチには青少年が多いからなあ。少ない方を切り捨てるって感じが嫌だろうな。」

 

 「そうねえ、難しいわね。」

 

 しばらく間があった。

 

 「ねえ、あなた。いつまで、あの子を、あのままにしておくつもり?とっくに分かってるんでしょ、女の子って。」

 

 「ああ、シャルも僕の気持ちは分かってるさ。」

 

 「はっきりしないのね。そこにつけこむあたしも、あたしだけど。もうこれで終わりって、今日は覚悟して来たのよ。いい、あなたはあの子を大事にしているつもりかも知れないけど、あれじゃあ可哀想だわ。」

 

 「でも、まだ、若い、というより、子供だから。」

 

 「ううん、もう子供なんかじゃないわ。わかってるくせに。それじゃあ、ちっとも愛してることにはならない。あーあ。あたしも、あの子さえいなければ、もっと強気になれるんだけどなあ。」

 

 「いまさらというか、何て言えばいいかって。」

 

 「いつだって、一言で済むのよ、女には。あなたが、あたしには、とうとう、言ってくれなかった言葉をシャルに言ってあげて、ねっ。」

 

続く

                                                 

                                                   

 

 

 

 

 

 

 

 




 ヒースクリフ=茅場晶彦は、才能は認めざるを得ないにしても、作者はそれほど、人間的魅力を感じません。ディアベルもそうでしたが、そんなに求心力のある人物には見えない。原作で、死んでからあそこまでのさばり続けるとは・・・・
 結局は作者の好き嫌いにすぎませんが。アスナは作者はかなり好きですね。
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