カイトSide
カイトは、素は自分が面白ければそれでいい、という人間である。だが、周囲がなかなか、素のままに振舞うのを許してくれない。最近では、迷宮区の攻略はもうキリト、アスナ、クラインらに完全に任せている。シャルもいるし。彼らが出かける前に何か考えていた。楽しそうだ。
背広に着替えるとシャルを呼んだ。
「はい、ボクならここに・・・何、その格好!」
シャルは、僕の格好を見て、吹き出している。ここから、うまく切り出せたつもりだった、でも・・・
シャルSide
シャル、リアルでの名はシャルル・デュノア。だが、本名はシャルロット・デュノア。国籍は日本人、父はフランス人、母は日本人だった。母とは四年前に、死別している。シャルの父はフランスのエージェントだった。シャルの父は任務に忠実すぎる男だった。シャルの母の懇願でシャルに自分と同じ道を進ませることはしなかったが、シャルの母が亡くなってしばらくして、父による「訓練」が始まった。彼が特に非情なわけではなく、シャルに才能がありすぎたのだ。父の仕事の関係で以前から転校を繰り返し、多くの場合、男として生活させられてきた。訓練は過酷なものだったが、シャルが12歳になってから始められたため、シャルの素直で、優しく、それでいて強さを秘めた性格はそのまま残った。だが、15歳のころには射撃、格闘術等対人戦闘では既に一流プロの力があり、父について任務をこなしたこともあった。数はそれほど多くはないが人を殺したこともある。父は主に中国などアジアで不定期に活動していた。シャルが16歳になってしばらくした頃、任務で一人大陸に渡った父は還ってこなかった。
フランス諜報機関との秘密の約束で、父の死亡後もシャルは日本人として、普通に生活できるよう、配慮された。父の仕事を引き継ぐ義務も課せられなかった。優しい言葉一つ、かけてはくれなかった父ではあったが、シャルのことは心から愛していた。
父が死亡した時も、またその後、父が、シャルのためにしてくれたことを知った時もシャルは号泣した。
しばらくは、呆然としていたシャルはある日、父のパソコンとその前に置いてあった、ナーヴ・ギアを手に取った。なぜ父がこんなものを持っていたのかは知らない。およそ父には似つかわしくないものだった。シャルはその日のうちに、ゲームのやり方等を理解しした。そして、あの日、ログインした。父の匂いのするものなら、何でも確かめたかった。
デスゲーム宣言がされて、シャルは驚きはしたが、絶望はしなかった。死地に落とし込まれるのは、初めてではない。いきなり銃弾が飛んできたり、爆弾が落とされないだけでも随分マシだった。ただ、手鏡でいきなり「女の子」になったのには困惑した。顔を隠し、男の扮装をした。これはいつもやっていることだ。女であることが不利と判断すればそうすることは、シャルにとっては、あたりまえのことだった。しかもシャルにとって、それは容易なことだった。
同じような少女でもアスナとは経歴が全く違う。男装すると、稼いだコルをはたいて、できるだけの装備を揃えた。アニールブレードも既に取得しており、レベルは既に3だった。元ベータテスターの一人を尾行してスタードダッシュしたのだ。移動する途中で、一人の長身の男が目に付いて、彼いや彼女は立ち止まった。ちょうと、6人ほどの「教え子」に手本を示しているところだった。
その男は左手で石を投げ、石が光を発してフレイジ・ーボアの額を直撃したかと思うと、右手の短剣で止めを刺した。全く無駄のない動きであり、シャルは「父」と同じ姿をそこに見た。思わず近づいて言った。
「ボクもやってみていいですか?」
全員がシャルの動きに目を見張ったが、カイトだけは、その正体を半ば見破っていた。(これは僕と同じ種類の動きだ。キリトのようなゲームの天才のそれではない。)カイトは「彼」の境遇を察し、大いに同情したが、それとは関係なくシャルを気に入った。シャルも父とどこか似ていて、父よりもずっと優しいカイトが大好きになった。恋を知らない彼女には、それが父に対する愛情とは異質であるという自覚はなかった。
本来、人懐こいシャルはそのブロンドの美少年という、容貌と、それには似合わない驚異的な強さで「風林火山」のメンバーとも、たちまち仲良くなった。既にある程度、レベルが上がっていたので、シャルはカイトの愛弟子であると同時に、クラインたちにとっては「師範代」でもあった。
カイトはシャルを男の子、として扱ったので、宿屋でも同じ部屋どころか、同じベットで眠った。もっとも、シャルにとっても、この世界はカイトほどではなかったが、気楽だったがら、やはり寝る必要はそれほど感じなかった。シャルは幸せだった。大好きなカイトといつも一緒にいることができ、カイトは自分の秘技をほとんどすべて教えてくれる。現実世界よりよほど満ち足りていた。この世界では風呂やシャワーは原則不要だ。注意するのは着替えだけだった。第四層ではかなり、苦労したが、なんとかごまかせた。だが、それどころではない事態が生じた。
シャルの身の回りが、一変したのは、「アルゴ」という女性がカイトの前に、本格的に現れてからだった。現実世界でもカイトの知り合いらしく、アルゴが追い掛け、カイトが逃げ回るというのも、同じだったようだ。だが、カイトは迷惑そうな顔をしながらも、それを本気で嫌がってはいない。大人の男女の関係であることが分かり、カイトが大人の男なのだということをいやでも認識させられた。それが、まだ少女のシャルには辛かった。カイトがただの遊びで、そういうことをする男ではないことも知っていたからこそ、許せないと思った。でも自分には咎める権利などない。いっそ女であると告白してしまおうか、それから、カイトに「告白」してしまおうか、そうしたい、でも怖い。シャルは悩んでいた。
カイトSide
「笑うけどシャル、君こそ、いつまで男の子の格好をしているつもりだい?」
(こんなに軽く、訊けることではなかった。でも、はっきりさせずにはいられなかった。)
「知って・・・たの?いつから?」
「会った時から、もしかしたらって、思ってた。しかし、ここでは、どちらであるかはそんなに、意味はないからね。最近だよ、確信したのは。証拠なんかないけど。」
「意味・・・あるよ。」
「えっ?」
「だから、ボクが女だって知ってたのなら、意味あるよ。そりゃボクは、ガキだしさ。カイトはその、いい歳だし、優しいし、カッコいいからモテるし。アルゴさんはキレイだし、しょうがないじゃないかって、でも・・・・」
「ま、待て、話せばわかる。」
「言い訳無用だよ。昨日だって、アルゴさんと一緒だったでしょ。これでもう、三度目だよ。そりゃカイトが呼んだんじゃないことくらいわかるけど、あの人が嗅ぎつけてくることくらい分かってるくせに。ボス戦でもボクの目の前でイチャイチャするし、奥様、なんてみんなが言ってるのに黙認してるし・・・」
美しい大きな瞳に涙が溢れている。
「きみが男の子だったとしても、それでもいい、と思ったこともあった。」
「何を言いだすの?」
「だけど、自分が男の子を愛してしまうような、そういう人間であることを認めるのは、嫌だった。ぼくは偏見は少ない方だけど、自分自身が、そうであるのは嫌だった。認めるのは怖かった。いや、そうじゃない、もし男だったらどうしようって、それでそう思ってたんだから、もう半ば気づいていたんだ。他のことだったら自分の判断を信じるんだけど、きみが男の子の格好をしていることを自分への言い訳にしてた。だって、僕はきみの気持ちを知っていた。それは嫌じゃないどころか、すごく嬉しかった・・・」
「どうして本当は女だって分かったの?いままで一度もバレたことなかったのに。」
「それは、きみの成長だよ。どんどん成長していくに従って、隠してるつもりでも、仕草や考え方に、女性特有の特徴が出てきてしまう。ひとつ、ひとつを、説明するのは難しいけど、全体として、感じてしまうんだ。これは男とは違うって。アルゴにも言われたんだ。女から見てもそうなら間違いないって、確信した。だから、本当にわかったのは最近だよ。だから、100%は昨日だな。アルゴがそう言ったんだ。」
「アルゴさんが?じゃあ、昨夜は・・・ねえ?もう一つ聞いていい?ボクが女だって、はっきりして、カイトはどう思う?」
「きみが女で・・・本当に、よかったよ。」
「うっ うわぁあーん!」
シャルはカイトに抱きついて大泣きした。嬉し泣きだった。
「ごめんな、シャル。僕は女であるきみと向き合うのが怖かった。僕にとって最高の相手と確信しているから、そうしてしまったらもう、逃げ道はなくなるから。いつも一緒なのに、ずいぶん寂しい思いをさせたね。」
「うん、うん、もう、いいの。ごめんなさい。あたし、子供で、わがままで。」
「悪いのは全部、僕の方だ。もっと前に、きみに言わなくちゃならないことがあったんだ。」
「えっ?」
「シャル、愛してる。」
「本当?本当なの?」
シャルはまた、僕にしがみついてきた。やっぱり、泣いている。
「誓って本当だとも。これからは、きみを一人のレディとして、一生、愛することを誓う。きみが女性であったら、きみを誰にも渡さないことは、僕の中ではもう、誓っていたことだ。愛弟子であることは変わらないけど。」
「ボクも、ボクも、愛してるよ、もちろん。・・・嬉しい、こんなに嬉しいことって、いままでないよ。それに、カイトの弟子っていうこともボクにはすごく大事だから。」
「で、どうする?しばらくは、このまま?それとも華麗に変身する?」
「カイトが好きな方にする。」
「シャルはどっちでも、ものすごく可愛いから、二人だけの時には、女の子っていうのにも正直、魅力はあるが、バレた時に、収拾がつかない。きみは僕が、これまで見た女性の中で、文句なく最高だ。これからは今までより、どんどん女っぽくなる。隠しきれなくなると思うよ。」
「完全に女の子していいの?カイト、困らない?」
「そんなことは、どうにでもなる。姿も女の子でいてくれた方が嬉しい。いや、そうしてくれ。」
「服、選ぶの手伝ってね。そうだ、アスナにもいろいろ教えてもらおっと。」
カイトが女の子でいろ、と言ったのは、抑圧されたシャルの気持ちを理解していたからだった。心から喜んでいる、彼女本来の明るい笑顔に、カイトはこうしてよかった、とほっとしていた。
「服は帰りでもいいだろ?仕事しなくちゃ。明日には変身するんだから、ここで二人で、何してたのって、ことになる。きみはまだ17歳なんだから。はじまりの街に行くよ。例の仕事だ。」
「「転移!はじまりの街!」」
はじまりの街に着く。
「ここ、こんなに広かったか?ん、やけに人が少ないな。」
「人は結構いるはずなのに、変だね。」
はじまりの街に残っている人たちは約2000人以上いる。しかし、意外に、外には人が少ない。「索敵」に反応あり。人数は、ん、14人か。まあいい、多い方が面白い。
「子供たちを返して!」
若いシスターの姿だ。
「三人とも、コルなんていいから渡しなさい。」
「そ、それが、こいつら、コルだけじゃダメだって。」
子供の声だ。
「あんたら、随分税金を滞納してるそうだな。コルだけじゃ足りねえんだよ!」
(ほう、チンピラそのものだな。)
「装備に防具、何もかも渡して貰おうか!」
「きみは子供たちを保護して。」
シャルに小声で言う。
シャルは10人以上の「軍」の「兵士」を飛び越えて3人の子供を保護し、片手剣を構える。
「なんだ、なんだ。ガキが!」「ここじゃ見ねえ顔だな。」「邪魔するんじゃねえよ。」
「ちょっと待ちたまえ!」
「何だてめえは!っていうか何だ!その格好!」「おっさん、頭、可笑しんじゃね?」
「その子は僕の連れなんだ。話は僕が聞こう。」
「怪我したくなかったら、帰んな!おっさん。」
「さあ、怪我をするのはどっちかな?構わんよ。かかってきたまえ。幸い、ここは圏内だ。」
「そこまで言うならやってやらあ!後悔すんなよ!」片手剣で斬りかかってくる。
(ふ、これだから安物は。)
僕は左手の「閃打」で、刀身を真っ二つに叩き折り、相手の腕を掴んで、上へ上げ、相手の胸に、頭をつけるように踏み込んでいく。さらに両肩に乗せて横担ぎにし、頭から落とす。システム外スキル、八極拳奥義「金鶏抖翔」(きんけいとうしょう)という技だ。見た目は派手だが、八極拳の技の中ではそれほど威力があるほうではない。
「グェエエエ! 」
相手は気絶する。
「圏内だからね。どうということはない。もっとも、気がついても、しばらくは、うなされるだろうがね。」
「てめえ、何者だ!」
「通りすがりのサラリーマンさ。単身赴任のね。」
「何言ってやがる!さっきの変な技は何なんだよ!」
「ああ、拳法を少々、趣味でね。とにかくだ。恐喝、いや武器を持ってるから強盗だな。強盗はいかんな。」
「俺たちは『軍』だ!」
「そんなに大声を出さなくても、その悪趣味で、ダサい格好を見間違えるものかね。『軍』を名乗るなら、まず、その言葉使いを何とかしたまえ。」
「テメェー!」
「ほう、なかなか感心だな。今のを見て、まだやってみたいと?圏外へ出て、デュエルでもするかね。構わんよ。それだけ柄が悪くても、オレンジにはなりたくないだろう?それともここでやりたいか?圏内戦闘は傷は負わないが、心に恐怖を刻み込むんだ。さっきのはまだ序の口だよ。」
カイトは徹底的に煽る。リアルでもこの男の煽りは日本代表クラスだ。
「お、おい、ヤバいぞ。」「ああ。」
「君たちの大将のトンガリ頭に伝えたまえ。なあに、僕のこの格好、技、口調を言えば彼は誰だかすぐわかる。いいかね。今後、このような狼藉は、僕が許さない。文句があるのなら第二六層まで来たまえ、いつでも聞こう、とね」
「覚えてろ!」「ちくしょう!」気絶した仲間を担いで逃げる。
「わあーっ」「すげえ!」「かっこいい!」「ねえねえ、今の技、俺にも教えてよ。」
子供たちが飛びついてきた。
「うーん。それはちょっと、難しいかな。おじさんはね。君たちぐらいのころから、稽古を続けて、そうだな、10年ちょっと前くらいにやっとできるようになったんだよ。」
「ね、ね、それじゃさ。今から稽古するからさ。」
「こら、こら、無理言うんじゃありません。」
「あの、困っているところをありがとうございました。私、サーシャと言います。」
「初めまして、カイトと申します。サーシャさん、これで、まずこの辺は当分、大丈夫ですよ。私はギルド『インビクタス』の団長をしております。」
「『インビクタス』ってあの攻略組トップの、それで、団長って、あの、『軍神』て言われてる・・・」
「その二つ名は大袈裟で嫌なんですよ、広まってるのか。『黒の剣士キリト』と『閃光のアスナ』の兄貴分、こっちでお願いします。」
「ええ、ええ、そのお二人も、もちろん、存じています。・・・攻略組のトップ中のトップの方が、こんなところへ・・・」
「こんなところへ、今の用で来たんです。だから、礼など要りません。こちらがシャル。まだ可愛い少年ですが、立派な攻略組の一員ですよ。はじまりの街に時々見回りの団員を出します。ご安心を。」
「とにかく、何もございませんが、お茶でもさしあげないと。私の気が済みません。どうか教会の方へ。」
「そうですか。もう少し伺っておきたいこともありますので、お邪魔しますね。」
「ねえ、あれ、やりすぎでしょ?」
「おいおい、シャル、あれは笑うとこだろう?そしたら、逆上する奴がいて、もっと遊んでやれたじゃないか。それに今日は何もやってないぞ。」
「あれだけやっといて、何もしてない、はないよ。ボクにはとてもマネできない。」
「あれくらい、もうできるだろう。まあ、型は何回も見せてないけど」
「あれ、剣を折るくらいでも良かったんじゃない?」
「頭から落としてやりたくなったんだ。ま、気分の問題だな。」
「ひどいなー それにあの煽り、ボクにはムリ。」
「だって、女の子だもん、か。」
「カイトのいじわるぅ。」
シャルが女の子宣言したばかりだというのに、既にバカップルである。
教会で
僕は必ず人が来ると予想していたので、戦闘服に着替えた。あの格好が普通だと思われてはいけない。僕って、案外有名だったから。
子供たちが寄ってきて「軍神だあ!」とか言ってる。まずいなあ。恥ずかしいよその名前。サーシャさんは一人で身寄りがない子供のプレイヤー、それも多勢の面倒を見ている。うん立派だな。
「ご立派ですよサーシャさん。我々はゲームクリアが使命ですが、このゲームにはその『人』が足りませんでね、できることはやるよりないんですよ。」
「カイトさんこそ。お忙しいのに子供の相手まで、子供たちにも良く言い聞かせます。」
「いいんですよ。そのくらいのこと。」
誰かが、訪ねてきた。
「ALSのシンカーと申します。」「同じくユリエールと申します。この度はとんだ失礼を。お詫びとそしてお礼に伺いました。」
サーシャさんに断って中に入ってもらう。ユリエールと名乗る女性が、現状を説明してくれた。僕の予想通りの経過になってる。僕が予想して来たという言葉に二人は驚く。
「なあに、キバオウのことは良く知ってますよ。今頃は、あいつも僕が来ていることを知って逃げたか、震え上がってますよ。はははは。」
「さすがは攻略組全体を一人で動かすと言われているお方です。噂通りの慧眼、ほとほと感服しました。」
「何、ここにはわかり易い人間が多い、それだけのことですよ。あなた方を待っていたんです。僕は。」
二人はまた驚く。
「キバオウはとにかくもう、自分が生き残ることしか考えない。いずれ、ALSから追放されるか、自分から出て行くか。ただ最期っ屁は、警戒してくださいよ。そういう奴ですから何をするか分からん。絶対に信用しないように。説得できるとも思わないで下さい。あいつが、いたたまれなくなって、出ていくのを待つんです。なあに、もう、あいつについていく人間なんかそんなにはいませんよ。
本当に、今言ったことを忘れないように。キバオウ、あれはもう黒鉄宮しかいくべき場所のない男です。ただね、あんなのでも、一時は、攻略組にいたでしょう。全く役に立ちませんでしたが。無駄にステータスが少々高いわけです。それが邪魔なんですよ。」
「お恥ずかしい限りです。私もキバオウよりレベルが低いくらいで・・・」
シンカーが言う。
「ALSがここまで追い詰められて、なお、きちんと、生きていこうとしている。立派ですよ。何も攻略だけがすべてじゃない。攻略以外に生き方を考えて、生き残るというのは、立派な考え方です。何をやっても生き残ってやる、というのがダメなんです。キバオウ一派を一掃するのに何かお困りでしたら、いつでも力をお貸ししましょう。ああ、お二人とフレンド登録をしておきましょうね。」
「本当にありがとうございました。すべてお見通しで、今後のことまで。」
シンカーとユリエールは深々と頭を下げて帰った。
「それじゃサーシャさん。我々は帰ります。ああ、フレンド登録をしておきましょう。それから、これは当座のしのぎにお遣いください。」
5万コルほど渡す。
「さんざんお世話になって、そんな、コルまで・・・頂けませんわ。」
「何、モンスターを倒した、不浄のコルですよハハハ。このくらい、帰ってからこのシャルと狩りでもすればすぐ稼げます。お気になさらず。」
サーシャさんは何度も頭を下げていた。子供たちも名残惜しそうだった。
「それじゃ、シャルの服選びに付き合うか。」
「本当に?!」
シャルの目が輝いている。
「早く僕も見たいんだ。」
僕たちは転移結晶を使って、ブティックがある第一九層に移動した。
(ところで、今夜からベッドどうしようか?ま、困ったら、ずっと起きてればいいや。その間に考えよう。)
ブティックに行って、試着を終えて出てくるシャルを待っている。ここも、我がギルドご用達だ。ちょっと高価なので、一般プレイヤーには申し訳ないが手が出しづらい。店員は総出で大喜び。団長の僕が来たからではない。シャルみたいな子が客としてくるなんて、初めてだからだ。アスナにも言っておくか、いや、知ってるかな。
「お待たせ。似合う・・・かな?」
「・・・・」
黒を基調としたシックなドレスだ。息が詰まりそうだ。僕は本当に声が出ない。
(絶対に可愛いと思ったが、ま、まさか、これほどとは!もう子供なんかじゃない。立派なレディだ。)
「ほほ、団長様、見とれてらっしゃいますの?そうですよね。素敵てすものね。」
「シャル、もっといろいろ、着て、見せてくれないか?」
それからは、シャルのファッションショーだった。途中からは、僕まで着せ替え人形にされてしまった。
「だって、お二人ご一緒の時が、ほんとんでございましょう?」
すまし顔で、そう言われてしまった。一目カップルということだ。それもベタベタの。ほんの何時間か前に女の子に戻ったばかりの相手に。
全部は持ち帰れないので、届けさせることにした。
「でも、いいの?改めて考えたら、大散財じゃない。」
「問題ないさ。みんなあまり気がつかないが、僕はこの世界一の大富豪でもある。それに、大きく見ればギルド内のコルの移動にすぎない。」
「こんなの、本当に現実なのかな?ボク、シンデレラみたい。」
「そう言わせたかったんだ。それこそ、この世のものとは思えない、美しさだったよ。」
シャルがぴったり、寄り添ってくる。
第二六層に戻り、僕の宿アスナを呼んだ。シャルには今夜は、別の部屋を取った。勢いで行くところまで行ってしまうのではいけない。そういうことは第三者にもわかってしまうものだ。
「ああ、アスナ、例の『軍』の件、面倒臭い方がまだだが、キバオウの方は、あらかた片付いたよ。」
「シャルから聞きました。本当にすごいですね。あんな大変なことをたった一日で大体終わり、なんて。それにシャルったら・・・」
「それ、ちょっと待ってくれ、先に話を済ませておこう。何かなかったか?」
「特に異常ありません。あっ、これ、使って下さいフィールドボスがドロップしたんです。」
アスナはストレージから何か散り出して渡してくれる。
「こんないいものをすまないね。いやあ、自慢の妹からプレゼント貰うって、いいね。」
アスナがくれたのは手袋だった。指が出るようになっている。普通のプレイヤーにとってはどうってことないものだが、体術の攻撃効果がかなりブーストされる。これを装着するとただの閃打がリアルの80%くらいになる。ほぼ必殺。ますます、チートになってしまった。
「しかし、これ、自分で使えば?アスナの正拳は凄いよ。専門家の僕から見てもね。キリトよりもう威力は上。筋力値はキリトが上なのにね。」
「それ、男物だし、私が使うより、団長が使えば戦力大幅アップだし、何より団長が喜んでくれる物ってあまりないし。」
「ありがとう。いや、アスナから貰えばどんな物でも嬉しいと思うけど、これはいい。特に欲しかったものの一つだ。」
「アスナ、僕から言おうと思ってたが、シャルの『告白』、聞いたみたいだね。」
「ええ、本当にびっくりしました。買ってきた服に着替えて、さらにびっくり。あんなに可愛かったなんて!知ってたんですか。それに何ですか、あの服の数!」
「もしかしたら、と思ってたが、確信したのはごく最近。服はさ、その、何着せても似合うからつい。」
「でも大変ですね。」
「何が?」
「だってあんな可愛いシャルが傍にいて、団長のことが大好きで、アルゴさんも熱烈で。」
「断じて、フタマタなんかじゃないよ。アスナ、その、僕がわざと、男の子の格好させてたって思うか?きみでも。」
「あんなに可愛かったら、少しは疑いますね。」
「そうか。いや、それは構わないんだ。シャルがいろいろ言われるくらいならその方がずっといい。」
「でも、明日から大変ですよ。メンバーの羨望と嫉妬の的!」
「まあ、ほら、キリトがいるから、僕だけには集中しないよ。」
「キリト君が、どうして?」
「アインクラッドのトップアイドルを独り占め。」
「もおっ やっと団長に反撃できると思ったのに。」
「アスナは負けず嫌いだな。それもまた、チャームポイントだよ。」
「わたしにまでもう!シャルに言いつけますよ。モテる男性ってみんなこうなんですか?」
「誰がモテるって?」
「ご自分がですよ。すごい人気ですよ。キリト君と同じで、既にファンクラブ、できてます。」
「えーっ、全く思ったこともない。アスナのファンクラブが3つあるのは知ってるけど、キリトは、まあ十分人気あるよな。でも僕はたいしたことないよ。だって、時々怖いでしょ。それにダレるし、デレるし。」
「そんなことないです。アインクラッド一の・・『伊達男』とか『モテ男』とか。」
「一の、との微妙な間、が気になるんだが。しかし、男ばっかりのこの世界じゃ僕のファンたって数は知れてる。」
『』には当然、「女たらし」、が入る。
「自覚がないってところが、キリト君と同じですね。でもキリト君はともかく、こんなに何でもわかる人が。」
「人間誰しも苦手なことはあるさ。」
「そうじゃなくて、団長のファンクラブって男女の比率だったら、男性がずっと多いんです。だって会員番号1番は・・」
「あ、それ、いい、言わなくていい。もう解った。」
「ご想像通りだと思います。」
もちろん、ヒースクリフ。
「これは真面目な話なんだけど、シャルの相談に乗ってやってね。年下でもアスナのこと女の子の中で一番頼りにしてる。彼女、女の子するの今日が初めてだから。」
「わたし、そういうの、大好きなんです。もともとシャルとは仲良いですし、喜んで、任されました。やっぱり優しいんですね。でも、団長がいても、シャルのファンが、爆発的に増えますよ。わたし負けます、絶対。」
「それだけの気持ちを彼女から貰った、いやもう貰ってるからね。ファンが増える、のはアタマが痛い。」
「そういうの、平気で言えるのって、凄いなって思います。わたし、シャルが羨ましい。」
「アスナもさ、一緒に買い物する時は僕のツケで何でも買っていいよ。アドバイス料だ。」
「そんな、それじゃ、申し訳ないです。」
「君は、それだけの仕事はしてるさ。気にすることはない。」
「すみません。じゃ、失礼します。」
続く
オリ主の恋愛を書くにしても、キリアスと同様に、同年代では面白くない。そう思ってこういう設定にしました。流すつもりだった割には、熱が入ってしまって。