第二五層 キルド「インビクタス」本部
「団長、大変です!」
「どうした、アスナ?珍しいな、そんなに慌てて。」
「キバオウ他5人が団長に面会を求めて門のところで待ってます。全員、土下座してます。」
「しようがないな。そんなの、放っておくわけにもいかないじゃないか。仕方ない、中に入ってもらえ。あと、メッセージを飛ばして、迷宮区にいる連中を除いて、主だったところを集めてくれ。まず、僕が一人で会う。キバオウに話を聞いて、それから僕がみんなに話をする。」
「わかりました。」
「ひさしぶりだな、キバオウ。」
「カイトはん、ワイ・・・」
「とにかくその土下座を止めろ。見ているだけで疲れる。どうして君はいちいち、そう大げさなんだ?」
「はあ、すんまへん。」
「こうやって、揃ってやって来てその土下座。用件は分かっているが、君の口から言ってもらわないとね。」
「こんなこと、いまさら、言える立場やおまへんが、ワイを除いたこの5人を、カイトはんとこのギルドで引き取ってもらえまへんやろかと、お願いに上がりました。もう、ワイの力ではついてきてくれたコイツらの命にも、責任持てなくなってしもうて。いえ、断りはって当たり前やと、それぐらいはワイにも分かってま。」
「いいよ。」
「えっ?」
「だから、いいよって言ったんだ。君だけはダメなんて、ケチなことは言わない。」
「でも、そんなあっさりと。」
「僕がそう決めた以上、これが決定だ。ただし、他の5人はともかく、キバオウ、君に対してはうちのメンバーともこれまでいろいろあった。キリトに対しては筋を通してくれ。まあ、確かに君が言ってたように、ガキではあるがね。あいつはこのギルドにとっても、僕にとってもかけがえのない人間なんだ。理由によっては少なくとも君だけは追い返すつもりだったがね。どういうつもりで来たかはよく解った。」
「おおきに、おおきに。ほんまに何と言うたらええのか・・・」
「泣くなよ、君らしくもない。確かに君には欠点が多い。だけど、いつも不思議に思ってたんだ。何で人がついてくるのかと。それでも人を惹きつける何かを持っているんだな。君のような男は僕も初めて見た。いやアクの強い関西人なら、たくさん見たさ。でもみんな人望なんか、なかったな。念の為に聞くが、攻略組に、いずれまた入りたい、などという野望は、よもやあるまいね?」
「めっそうもない。ワイでは無理やいうことが、ホンマ、身にしみて、よう分かりました。」
「君を引き取る理由だが、君を使いこなせるのは、おそらく僕しかいないからだ。そして、ここで受け入れないと、何をするかわからん。それを見張る手間を考えたら、ここに置いた方が10倍気楽だ。ははは。とにかく、食うにも困っていたのに、最低のことはしなかった。それはほめてやろう。ギルドもこれだけ大きくなると、いろいろと人が必要だ。君は頭はいいとは言えないが、さすが、関西人というべきか、商才はあるようだし。
とにかく、僕の恐ろしさを十分味わった上で、来たんだ。その度胸も買ってやろう。あと、聞きたいことがある。これはウチでも、限られた人間にしか聞かせられない、と言えば何のことか分かるな。キリトへのあいさつがすんだら、後で僕のところに来い。団長室だ。それぞれ何をしてもらうかは、皆と相談して決める。君たちの希望もできるだけ聞こう。それじゃ、悪いがここで少し待っていてくれ。」
「みんな、アスナから聞いているだろうが、キバオウが配下5人を連れて、ウチで世話になりたいと頼んできた。土下座してな。どう返事をするか、皆の意見を聞きたい。」
「団長が受け入れるって、決めたなのなら俺は文句ないよ。」
「キリト、僕はまだそうは言ってないぞ。遠慮はいらない。思った通りに言えよ。」
「だって、追い返すつもりなら、俺たち集めたりしないでしょ。」
「察しが良くて助かるよ。キバオウだけは嫌という者は?遠慮しなくていいよ。あの関西弁だけでも退く、普通はね。クラインは?」
「俺もいいと思うんだ。いくら師匠に敵わないって分かってても、アイツがあそこまでするなんてよっぽどだと思う。窮鳥懐に入れば、ってやつっすよ。」
「アスナは?」
「ええ、毎日一緒とか、じゃなければ。むしろリンドさんあたりよりは、嫌じゃないかなって。」
「ははは、リンドに聞かせてやりたいな。エギルは?」
「団長が問題ないって、判断したんなら、何も心配ないと思うぜ。」
「あいつは頭はあまり良くないが、銭勘定は結構しっかりしている。エギル、君の下につけてもいいか。」
「うわっ、いきなり隣に来られるのは暑苦しいな。」
「君はもともとアフリカ系だろ?この中で暑苦しいのには一番強いんじゃないか。」
「俺自身は日本とアメリカしか知りませんよ。」
「わかった。いきなり、はやめておこう。よし、僕の考えを説明する。キバオウを受け入れた方が意外にメリットが大きいと思う。
第一に先日の無謀な抜けがけの、真相がはっきりする。第二にここで、キバオウを放り出すと何をするかわからん。それを監視する手間を考えたら、いっそ取り込んでしまう方がどれだけ楽か。第三にキバオウをも受け入れるということは我々の度量を示すことになる。つまり、血盟以下他ギルドに対してより心理的にも優位になる。第四に使い方次第であいつらもそれなりに役に立つ、こんなところだ。キバオウも命が惜しいからウチを頼ったのであり、僕に造反することなど考えられないからな。以上だ。」
「やっぱり、団長は考えが深けえや。」「よく、そこまで考えるよな、一瞬で。」などの反応。拍手があった。
「まあ、みんなに限って心配してないが、受け入れる以上は、あのキバオウといえども肩身の狭い思いはさせたくない。おそらく、あいつは大きく変わるよ。おかしな夢を見さえしなければ、根はそう悪い男ではない。よし。あ、キリトはちょっと。」
「君には筋を通すようにあいつに言った。まあ聞いてやってくれ。」
「いいよ。俺、別にいいし。あいつ苦手だし。」
「君は苦手を少しずつでも減らせ。」
「無理だよ、俺、カイトみたいにはとてもなれないし。」
「そうやって自分を安く見るんじゃない。アスナのためにもな。」
「何だよ、アスナは関係ないだろ。」
「アスナに関係ないことなど、何かあるのか?それに、これは君のためじゃない。あいつのためだよ。ちゃんとケジメをつけさせたいんだ。もういいよ、なんて言わないで聞いてやってくれ。」
「わかったよ。」
「じゃ、キバオウをここに呼ぶからな。」
団長室
「少しは気が楽になったろ?まあしばらくは大人しくしてろ。落ち着いたらいつもの調子出していいぞ。ただし、ウチはよそよりは、女の子が多い。悪いが、全員君よりだいぶ強いぞ。特にシャルとアスナは別格だ。これまでみたいな調子で接すると、エライ目に遭うぞ。それだけは特に注意しておく。」
「へえ、気いつけます。」
「で、嫌な話だろうが、聞かなければならん。早急に決着をつけないとな。ガセ情報を流したのは血盟のクディールか?」
「な、何で、そないなことまで、解るんでっか!」
「僕との付き合いも、そこそこ、長いだろ。驚くようなことじゃあるまい。で情報の内容は?」
「ナミングはあるけど、毒攻撃と炎はないゆうことに、なってました。そいから、武器は両手にハンマーやと。つまり、第二層のラスボスとあまり変わらんゆうことで。」
「何で、信じるかねえ、それを。今まで、同じのなんかいなかっただろう?結局、両手剣のスキルと炎で大打撃、毒攻撃も解毒結晶不足、さらに転移結晶も半分の人数分くらいか。
結晶はかなり余計に持ってるウチにも責任はあるが、ALSが参戦するなら、当然配慮した。少なくとも、人数分は無償で出す。」
「焦ってたんや思います。なんてアホなって、後から。」
「だが、君は自分で、行かなかっただろう?なぜ、行きたくないと思ってるのかをもっと考えるべきだった。あの時、僕がどれだけ怒ったか。僕が本気の時は、何も言わなくなるんだ。」
「あの殺気は一生忘れまへん。ボスモンスターどころやない。」
「それで、クラディールを呼び出すことはできるか?」
「へえ、まだ可能や思います。ワイ自身を囮に使えば。」
「理由は何でもいい。とにかく、奴を引っ張り出してくれ。あいつはもともと君を始末したがってる。自分の手でやるつもりはないかもしれないが、心配するな。隠蔽を使って僕は君のすぐ近くにいるから。そうだな、PoHの奴に備えて、もう二人連れていく。」
「へえ、分かりました。」
「カイト、俺も行くよ。」
「こら、盗み聞きはいかんねえ、キリト君。何でだ。君まで行く理由はないだろ?」
「相手がクラディールだからだよ。俺あいつに何度も絡まれてるんだ。殺してやるって毎回言われてる。」
「それ、何で僕に言わなかった?」
「くだらないことだし、その、絡まれるのはアスナのことでなんだ。」
「ほう、何て言われた?再現してみろ。」
「アスナ様はお前のような汚い黒ビーターが、近づいていいような方ではない。お前たちのような素性も知れぬ烏合の衆の中におられるなど、何とおいたわしい。あの方のような気高い聖処女にはわが血盟騎士団こそがふさわしいのだ。」
「あーはっはっははは。『アスナ様』ねえ。それに、烏合の衆か、これはいい。『気高い聖処女』も雰囲気出てるじゃないか。真逆は惹かれる、か。笑わせてくれるねえ。」
「ゴキブリって、言われたこともある。」
「言うに事欠いて、Gかよ。君もよくそれで、ブチ切れなかったな。」
「あんなクズに怒っても仕方ないし、ぶち切れたりしたら、ギルドにもカイトにも迷惑かかるし。」
「おお、きみも成長してるじゃないか!」
思わず頭を撫でてしまう。
「なんだよう。ガキ扱いしないでくれよ。」
「ごめんごめん、嬉しくてついな。で、アスナには言ったのか?」
「そんなの、言えるわけないじゃん。」
「ま、そうだな。言ったら、血盟の本部に乗り込んで行って、奴の胸ぐら掴んで、直談判たぞ、きっと。」
「そうだね、そのくらいは十分ありうるね。」
「ちゃんと、分かってきたじゃないか。でも知らないだろう?シャルだったら、もっと凄いぞたぶん。たまには、誰かにわざと罵られてみようかな。」
「そうなの?」
「おうさ。いや、冗談言ってる場合じゃない。うん、それなら、あいつに引導渡すのは、君でなくてはいかん。男としてな。じゃ、君がデュエルを申し込め。やつは、間違いなく受ける。完全でやるかって、煽るのは忘れるなよ。」
「完全決着モードを受けたらどうするの?」
「アームブレイカーを使え。あれはまだ広まってない。君だけのオリジナルだ。コトが済んだら公開だな。いずれ他の団員にも、教えるつもりだ。その時は君も講師やるんだぞ。他の者がやっても、ああはうまくはいかないだろうがね。素手でやるのもいいんだが、剣で叩き折られるのもまた相当ショックなはずだ。すぐ終わって、つまらないだろうが、君が本気でやると、奴が死ぬからな。」
「わかった。こんな時に、いけないんだろうけど、何か楽しくなってきた。」
「いいんだよ。僕なんか、いつもそうだ。モンスターとワルには、遠慮はいらない。こっちが、損しないように遊んでやれ。」
キバオウが来た。
「連絡がつきましたわ。コラルに夜8時いうことで。」
「コラル?また、何であんな、ど田舎に?そうか、この間PoHの奴、あそこに逃げたっけな。やはりな。奴め、キバオウを始末すると言って、クラディールも一緒に始末する気だ。ふふん、まさか、僕の罠だとは思うまい。シャル!」
「はっ御前に!」
「いいぞ、気分が出る、それ。8時にコラルだとさ。」
「すると今宵の敵は、奴ら、と。」
「そ、やるとしたら、またあの黒ポンチョだ。もっとも僕がいるのに気づいいたら即逃げるかもな。まあ、僕もきみも用心のために行くようなもんだが、キリトの勇姿を見ようや。」
「あたしもすごく楽しみだわ。」
第二二層 コラルの村 転移門にほど近い広場
「何だ、しばらく何の連絡もなかったのに、何の用だ。例の件か。確かに情報は間違っていたが、それは俺も知らなかったことだ。」
「とぼけるんやない!ジブンのガセネタのおかげでワイらは、全滅も同然や。ノコノコ出てきよって。ワイを始末できれば好都合とでも思ったか?フン、ワイが殺られても、インビクタスが敵を取ってくれよるわ。どの道、逃げられへんで!」
「ほう、攻略組、血盟騎士団にその人あり、と知られたこのクラディール様に、一人で挑むと?いい度胸だ。相手をしてやろう。」
その時、黒づくめの少年が跳躍して、クラディールとキバオウの間に降り立った。
「悪いが、クラディール、貴様の相手はこの俺だ。」
「お前は!黒ビーターの小僧、いつの間に?」
「ビーターってのはとっくに死語だぜ。俺は結構、気に入ってたんだがな。」
「ここは圏外だ。俺に手を出せばオレンジだぞ。」
「別にかまわねえよ。どうせたった二日のことだ。ウチの団長は、お前のところと違って、寛大でな。それぐらい笑って許してくれるさ。そうか、お前、オレンジになるのが嫌か?いいぜ、デュエルでやってやる。」
キリトはデュエル申請を出す。「完全決着モード」の表示を見て、クラディールは驚き、すぐにはYESが押せない。
「何だ。いつもの調子はどうした?俺から、アスナを奪うんじゃなかったのか?」
「言わせておけば!ええい!この俺様が、貴様などに遅れを取るものか。」
逆上したクラディールはYESを押す。
カウントダウンが始まった。
クラディールは両手剣を構える。キリトも背中の片手剣を無造作に抜く。
カウント0 「DUELL!!」の文字。双方同時に間合いを詰める。
クラディールは両手剣上段突進技 「アバランシュ」非常に攻撃力は高い。並の力では跳ね返せない。避けられても回避した相手には余裕がなく、続けて攻撃できる。
キリトは片手剣突進技 「ソニックリープ」
クラディールはニヤリと笑う。そう、この衝突自体は、火力上位のアバランシュがほぼ必勝だ。しかし、キリトのスピードは、クラディールの予測をはるかに超えていた。クラディールの剣の刃ではなく、横腹にキリトのソードスキルが炸裂。
「ふっ 予定通りだが、あっけなかったな。」
姿を現したカイトが呟く。
ガキィイイイン!
火花が散る。その瞬間、クラディールの剣は、真っ二つに砕け、消滅した。
対人戦では、初披露のシステム外スキル「武器破壊」(アームブラスト)だ。
この技、キリトのオリジナルだが、原型は剣技ではなく、体術である。そう、体術スキル取得のクエストで「人外」としか思えない正拳で岩を叩き割ったカイト。カイトの教えは対象物の弱点を見極めることであった。カイトは言う。
「どんな物にも弱点はある。だが、本当の弱点はただ一箇所だ。それを見極めた上で一撃で破壊できないのであれば、改めて次の手を考える。だが、それこそ魔剣でもないかぎり、一撃破壊できない剣などそうはない。」
カイトはこれを素手でつまり、手刀や正拳でやるのだが、それなら剣で、できてあたりまえ、と考えたのがキリトである。キリトが可愛いからこそだが、なかなかほめてはくれないカイトも、これをやって見せた時には、珍しく褒めてくれた。キリト自慢の技なのだ。
「ばかな!偶然か?いや、なにか手を使ったんだ。ビーターのチートな手を!」
「武器を替えて、まだやるなら、付き合ってやるぜ。でも、もういいんじゃないかな。潮時だぜ、クラディール。」
「うぉおおおお!!」
逆上したクラディールは短剣を持って突っ込む。キリトは剣を抜かず。クラディールの手首を手刀で打つ。
スキルでも何でもない。だが、短剣はクラディールの手から落ちた。また、呆然とするクラディール。
「解ったか。相手は子供と、侮りおって!貴様が二人いようとも、キリトに敵うものか。」
「貴様は・・・カイトか。」
「お前如きに、呼び捨てにされるほど、僕は安くはないぞ、クラディール!貴様、PoHに唆されたな。その腕の入墨は何だ?」
棺桶の上に笑う髑髏、そうオレンジギルド「笑う棺桶」(ラフィン・コフィン)のマークだ。
「あくまで俺様は血盟騎士団の一員だ。あの方に精神的に入団させてもらった。」
「あの方だと?愚かな奴だ。お前まだPoHたちがまだ、ここにいるとでも思っているのか?」
「そ、そういえば。なぜだ?」
「バカだバカだと、前から思っていたが、本当に、どうしようもないバカだなお前は。あいつらは、キバオウを始末したかったんじゃない。お前を始末するつもりだったのさ。キバオウは言ってみればついでだ。3人ともキリトがいるのを見てさっさと逃げたよ。いや速い、速い。逃げ足だけだがな。PoHはお前ほどバカじゃない。わざわざこんなところに、キリトがいるなら、自分たちがここにいるのも、悟られていると、瞬時に判断したのさ。やり方は少々荒っぽいが、僕たちはお前を殺りに来たんじゃない、助けにきたんだ。」
「何も分かってなかったのは、俺の方か。」
悄然とクラディール。
「貴様など殺す価値もない。シャル、こいつを黒鉄宮まで送ってやれ。クラディール、これはおまえが命だけは助かる唯一の手段だ。これ以上、手間をかけさせるなよ。」
クラディールは力なく頷き、大人しくシャルとともに転移していった。
「良かったぞ!煽りといい、完璧な技といい、120点だ。こいつめ!」
カイトはキリトの首に抱きつき、黒い髪をぐしゃぐしゃに弄る。
「やめろよぅ もう!」
キリトも嫌がってはいない。笑顔だ。
「本当に、このところの成長は、めざましいよ。ところで、これアスナに言う?」
「うん。自分で言うよ。」
「僕が手放しで、褒めたことも言うんだぞ。」
「もちろんだよ。初めてじゃない?こんなの。」
「気分良かったろ?」
「うん。あいつが、逆上していくのがHPバーみたいに解った。」
「だんだん、分かってきただろう。僕がいつもやってることが。何でこんなに楽しそうなのかも。」
(昔のこととは言え、ワイ、こんなバケモンみたいな連中と張り合おうと・・・)
キバオウはただ呆れて、二人を見ていた。あのキバオウが言葉もなかった。
続く
アスナが血盟騎士団に入らないので、クラディールはここで、出してみました。