プロから見たSAO攻略   作:ベルクーリ2世

18 / 33
 ビーストテイマー、しかし、シリカではありません。シリカは後に登場します。


第18話 ビーストテイマー

 攻略は極めて、順調に進んでいた。第三五層のボス戦では、「黒の剣士」キリトと「閃光」のアスナの両エースを欠いたインビクタスであるが、彼らがいないことが、むしろトップギルドの抱える人材の豊富さを誇示する結果となった。

 まず「猛犬」と呼ばれるようになったクー・フーリン。もともと、ケルト神話の中でも「クランの猛犬」という通り名が特に有名で、カイトが彼を入団勧誘した際の「アイルランドの光の神子」というのはこの英雄を特に愛し、敬っているごく少数の者だけの呼称である。この段階で槍スキルをほとんどマスターしていることだけでも驚異であるが、彼の筋力値はインビクタスでトップのキリトに迫るし、敏捷値も高い。これらが、槍スキルの攻撃効果を大幅にブーストさせた。

 SAOでは、キリトやヒースクリフのように、ゲームとリアルの身体能力はかけ離れているのがむしろ普通であるが、リアルでの身体能力が特に優れていれば、話は別のようだ。その極致ともいえるのがカイトであり、それに次ぐのが、カイトの愛弟子シャル、そして、クー・フーリンだった。

 

 続いては「テーミス」ことグリゼルダ。彼女の類まれなる才能は、カイトの手によって余すところなく引き出された。盾持ち片手剣というオーソドックスなスタイルながら、洗練された剣技は華麗であり、その清楚な姿から「正義の女神」に例えられるようになった。アインクラッドでは、数少ない成人の女性でしかもかなりの美人。年齢を問わず男性プレイヤーのあこがれの的であり、特に「おっさん騎士団」と言われる血盟のメンバーからは、常に、熱い視線を浴びていた。しかし、彼女はカイト以外の男性には見向きもしない。ただ、アルゴとは異なり、カイトとの関係をとやかく言う者はいなかった。

 

 極めつけは、「舞姫」ことシャル。その優れた身体能力を活かした華麗な空中殺法。少年の姿でも妖精のようだ、と言われていたが、これまでは、カイトに目立たないように命じられていた。理由はとにかく、強すぎるのだ。しかし、正体を明かすと同時に、一気にその実力は開放された。要するに、カイトが今度は、見せびらかしたくなったのである。

 片手剣だけであっても、十分に目立つ彼女であるが、彼女自身ではなく、カイトがそれでは満足しなかった。体術と投剣をマスターしており、戦況に比較的余裕がある時に見せる大極拳の大技「旋風脚」は圧倒的多数の男性の、目も心も奪った。高く跳躍しての回し蹴りだ。他にも「後ろ跳び廻し蹴り」「三角跳び」などの大技も使えた。カイトは旋風脚をアスナにも教えるつもりだったが、キリトがこれに強く反対したため、断念した。

 女子組のユニのスカートは短い。「旋風脚」や「弦月」を繰り出せば、戦闘どころではないモノが、見られるわけだ。クラインなどは「師匠、はじめから、これを狙ってたんすね。」と感嘆した。 

 ここまで派手ではなくても、女性戦士には必要がなくても跳躍させることが多い。完全にカイトの趣味の世界であるが、もちろん、どこからも文句は出なかった。やるほうも全員ノリノリである。特にシャルはカイト同様、構派手好きだった。

 まだ17歳だというのに、とてもその年齢とは思えない、大人びた美しさを醸し出していた。彼女にはカイトという鉄板10枚以上の相手がいるわけだが、事情を知らない他ギルドのプレイヤーから、交際の申し込みはあった。それをなんとも魅力的な笑顔で、拒絶するものだから拒絶された方も思わずそれに見とれてしまうのだ。カイトが必死に自制しているのは、シャルの年齢を気にして、だけではない。一度そうしてしまえば、歯止めがきかなくなるのが、怖かったのだ。

 

 キリトとアスナに攻略を休ませることには、特に異議は出なかった。カイトの「問題ない」の一言で片付いた。ギルド立ち上げ以来、公約通り一回たりとも負けを引いたことはない。「軍神」と呼ばれるようになって久しかった。その傍らには、「舞姫」シャル。ボス戦に必ず彼の参戦するようになったアルゴ。もちろん、いろいろ異名はあったが、姿は大きく変わっても未だに「鼠」の印象は強い。「鼠」と呼ばれるのは仕方がなかった。ほとんどの場合、この三人を中心に偵察戦を行う。総大将が毎回偵察戦を行うなどありえないことだが、カイトにはいかなる常識も通用しない。ゲームの世界であってもそれは同じことであった。リアルの現代戦争は情報戦そのものである。インビクタスの強さの一番の秘密はその圧倒的な情報収集力であった。

 以前の約束通り、3回に1回はヒースクリフに指揮権を譲った。偵察戦が独占できれば、指揮権を譲るなど、そうたいしたことではない。キリトによればその指揮は「ゲーマーの感覚からは完璧」とのことだが、リアルでの専門家であるカイトからすると、特に目を見張る点はなかった。どこが悪いというのではないが、凡庸だ。ゲーマーというのは、部隊の指揮などには、向いていないようである。ディアベルが、あの程度で、勇者気取りだったことが、いまさらながら、無理もないことと、理解できる。カイトが指揮をとる場合は、突出したプレイヤーの能力を最大限に発揮させることが、何よりも優先される。現代軍事思想の基本は外さないが、キリトに言わせると「やられてみるとなるほどって思う」という評になる。こうした戦いになると、血盟や聖竜は完全に脇役になってしまう。時々ヒースクリフに指揮を委ねる目的は、そこから生じる不満を多少なりとも、解消することにもあった。その場合はインビクタスはレイドの一部であることに徹し、カイトはキリトにも、LAボーナスを取りにいくことを厳禁した。現在の最前線は、第三八層に達していた。

 

 SAOの中には、Mob以外にも様々な動物が存在する。これらの中には、食用に供しうるものもあり、希少なものも含まれていた。ただ、貴重な食材は、それに見合った料理スキルがないと、結局食べることはできない。が、今回はその話ではない。

 これらの動物の中には「テイムする」つまり、馴致して飼うことができる「動物」がいる。ただの「ペット」ではない。テイムできる動物の多くには「ヒール」つまり、プレイヤーのHPを回復させる能力があった。そこそこの攻撃力がある「ビースト」もおり、詳細は不明だが、プレイヤーの能力に比例して成長する、とも言われている。また、特殊な餌を与えると、大きく成長させることもできるらしい。

 テイムができること、テイムできるビーストの種類はアルゴの攻略本にも書かれているが、SAOの正式版ではまだ、テイムに成功したという実例は報告されていない。それもそのはずで、テイムの成功率は1%をはるかに下回る。

 しかし、ゲームで表示されている確率など、実はほとんど無意味である。現実世界でもそうであるが、「ありえないなんてことはありえない」のだ。特にゲームは所詮、人間が作ったものにすぎない。人間か作ったものであるならば、人間が攻略できないものなどない、というのがカイトの考えであった。そしてゲームの天才キリトは、教えられなくともこのことは、知っていた。SAO以外のゲームでも、レアアイテムが、ドロップする確率は、ゲームマスターが設定した確率を、大幅に上回ることが少なくない。

 

 カイトはテイム成功の鍵はまず、その際に与える餌にある、と考えた。ここまでの、ゲームの内容を見るとそれこそトリビア的な知識が、結構有用だ。例えば、そういう知識が豊富なキリトにクエストを受けさせると、予定されている報酬を大きく上回る成果を挙げてくることが多い。あの事件の後、久々にキリトとアスナのコンビでクエストを受けさせた。彼らのようなトッププレイヤーに受けさせるようなクエストではないが、気分転換である。しかし、本調子にはほど遠いのに、やはり、予定外のレアアイテムをゲットしてきた。

 カイトがテイムしたかったビーストは「馬」である。クラインたちは、そこまで考えてはいなかったが、「風林火山」、「武田」と言えば、戦国最強の騎馬軍団だ。ここまで、今ひとつ目立たない、クラインたちに、これを作らせてやりたかった。馬は三層に一層くらいの割合で存在するが、その層でしか使えないのでは、実用的ではない。できればテイムしたかった。だが、鍵はあるはずとは言っても何頭も、というのはさすがに無理であろう。それに彼らの中には、リアルで乗馬経験のある者はいなかった。カイトは馬にも乗れたが、この世界の馬は現実よりもはるかに乗り難しい。カイトの真似をしてキリトも散々振り落とされた。だが、どうにか、乗ることはできた。しかし、乗るのがやっとの馬を戦闘にはとても使えない。騎馬軍団の結成は断念せざるを得なかった。

 

 テイムしたビーストには、テイマーとの強い繋がりができるが、それはそもそも、そのプレイヤーにビーストとのつながりがあるからではないか、とカイトは考えていた。「馬」ということならば、それがありそうなプレイヤーが一人いた。グリゼルダである。彼女の実家は北海道の日高で牧場を営んでおり、彼女自身も子供の頃から馬に乗っていて、かなり高い騎乗技術を持っていた。プレイヤー同士では、リアルの話は厳禁とされる。だが、彼女はもともとコアなゲーマーではないからでもあろう。カイトにだけは、自分のことを何でも良く話した。カイトの方も、さすがに、もともと素性を知られていたアルゴに対するようにはできないが、差し支えない範囲でリアルでの自分のことを話した。

 第一九層にはリズベットの店とナーザの仕事場がある。二人共、カイトの期待通り、着々と成果を上げていた。「瞑想」スキルは鍛冶スキルの熟練度を上げるのにも役立つようだ。二人共熟練度は700を大きく超えていた。カイトは密かに、ナーザに作らせている「新兵器」について進行を確認するため、久しぶりにこの層へ行ったのだが、そこで興味深いものを見つけた。林檎の木である。この世界では林檎の形をしていても味までは再現されていない。円月輪を使って実を落とし、食べてみたが、何かの果物の味はする。いろいろ混じっているようだが、どうってことない味だった。その木の上の方に、一つだけ色の違う実が生っていた。黄色がかっているが、金色にも見える。これを見て、(いくら何でもこれだけ揃えば当たりだろう)カイトは成功を確信した。

 カイトはグリゼルダを連れて、第一九層へ向かった。グリゼルダにしてみれば、この層は元の夫であったグリムロックとラフィン・コフィン一味に殺されそうになった、避けたい場所とも思われたが、彼女の中では「カイトと初めて遭った場所」と位置づけられており、むしろいい方の「思い出の場所」であった。

 

 「どう!どう!どう!」

 

 グリゼルダは見事に馬を乗りこなす。リアルでの野生馬ほどではないが、もともと乗馬用ではなさそうだ。そもそも捕まえるのが、容易でない。カイトやキリトはさすがに捕まえるのは苦労しなかった。だが、その後が一苦労で、に力づくで、言うことを聞かせようとしたキリトなどは、さんざんに振り落とされた。

 

 「いや、聞いてはいたが、たいしたものだね。僕はどうにか、乗るのが精一杯だった。キリトなんか振り落とされてばっかり。」

 

 「ふふふ、いきなり、思うとおりになんて、動いてくれないわよ。ただ、気持ちが通じるのね。『あなた、よかったら乗せてくれない?』みたいな感じ。それに馬だって、ただ、言うことは聞いてくれないわ。」

 

 そう言って、グリゼルダは「林檎」を与える。

 

 ブルルルゥウ!

 

 その馬はグリゼルダから、貰った林檎を嬉しそうに食べる。馬の好物は人参と思っている人が多いが、実は一番の大好物は林檎である。今与えたのは、赤い林檎だ。例の「金色」ではない。

 

 「試しに、アレをやってみてくれないか?食べないことは分かっているんだけど。」

 

 興味は示したが、やはり食べない。だが、ここまではカイトもすでに試した。逆に食べないことで期待が膨らんだのである。 

 (どこかにテイムできる馬がいるはずだ。)

 

 「なあ、佑子、馬って色々、毛色があるんだよね?」

 

 リアルの名前で呼ぶなど反則もいいところだが、カイトは「グリゼルダ」というネームが好きではなかった。「アルゴ」という名も嫌いだ。結果として、特別に親密な女性だけが、二人きりの時はリアルの名で呼ばれているわけであり、グリゼルダにとっては、反則どころか、そう呼ばれること自体が、喜びでしかなかった。

 

 「ええ、鹿毛、栗毛、栃栗毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛、芦毛、細かく分ければもっとあるけど。」

 

 「ここ、数は結構いるけど、毛色ってみな同じみたいだね。」

 

 「そうね。鹿毛しかいないみたいね。」

 

 「いや、チラっと見ただけなんだけど、黒いのはいたような気がするんだ。」

 

 「それ、なにか、意味があるの?」

 

 「いや、SAOは、魔法がないということで、印象が薄いかもしれないけど、神話、御伽噺やファンタジーの世界に登場する馬って、大概白か黒なんだよ。もしかしたらチラっと見たあいつなら、あの林檎も食べるかなって思って。」

 

 「じゃ、探す?」

 

 「そりゃあ、きみ、僕がすることだもの。その前に一休みするか。」

 

 二人は並んで木陰に座った。グリゼルダにとっては、テイムが成功するか、とか、黒い馬が見つかるかということは二の次だった。カイトと二人きりでいられる時間が延びるなら理由は何でも良かった。

 グリゼルダはアルゴのところへ行った時のことを想い出していた。グリゼルダが入団してしばらくは、彼女はカイトの「迷宮区妻」と言われたくらい、つきっきりでレベル上げを行っていたのであるが、すぐにシャル、そしてアルゴという存在を知った。大変なショックだったが、誠実なグリゼルダは申し訳ないと思い、まずアルゴに謝罪に行った。激怒して追い返されることも十分考えていたが、アルゴは笑顔でグリゼルダを迎えた。

 

 

 「よく来てくれたわね。あたしもあなたに会いたかったのよ。」

 

 さらに平身低頭して謝罪しようとするグリゼルダにアルゴはこう言った。

 

 「謝るようなことじゃないわ。もともと、あたしとカイトはリアルはもちろん、ここでだって特別な関係じゃないんだから。認めたくないけど、シャルのところへ行くべきだったわね。」

 

 「ええっ?!団長も愛弟子って言ってらして、確かに一緒に暮らしてるし、いつも一緒ですが、その、男女の関係なんですか?」

 

 「カイトはそれは弁えてるわよ。シャルが大人になるのを、待っているんだと思うわ。」

 

 「言われてみるとそうかなって。いろんな意味で、普通の関係ではないですよね。ほとんど一体という感じで。」

 

 「あの二人は年齢差とか、とっくに超えてるわ。シャルもとても17歳の少女じゃない。無茶苦茶強いし。」

 

 「初めて会った時、わたしも驚きました。自分の倍くらいある男を、普通に引張っていくんです。相手は全然逆らえなくて。」

 

 「あの子の強さは、そんなもんじゃないわよ。まあ、それはそのくらいにして。」

 「あたしはね、リアルでカイトに一目惚れして、それこそ必死で追い掛け回したわ。彼の方もさんざん逃げ回ってた。ふふふ。」

 

 「でもね、どういう風の吹き回しか、ここに来て、しばらくしてから、逃げないでちゃんと相手をしてくれるようになったのよ。あたしはもう、ドキドキしっぱなし。彼の殺し文句って凄いでしょ?」

 

 「ええ、あたしも、その、前の夫と、あんなことがあってすぐなのに、なんか、ときめいちゃって・・・」

 

 「そうなのよ。無意識って、彼自身もあたし以外の人もそう言うけど、そこだけは信じてない。今でも。あれは、わざとやってるとしか思えないわ。でも明らかに妹みたいな関係のアスナにもやるのよねあれを。」

 

 「あたしが、彼を攻略したなんて、言われたりするけど、あたしの方が、最初から攻略されてるだけ。ねえ、グリゼルダさん。あなた、身を引こうとかけじめをつけようとか思ってる?」

 

 「ええ、やはりそうしないと。知った以上は、シャルに対して申し訳ないです。少なくともわたしのレベル上げが済んだら。」

 

 「彼の特訓って『鬼』でしょ。優しいけど。」

 

 「ええ、これまでだったら、とても考えられないです。でもついていけるんですよね。自分でも驚いてます。」

 

 「あの人はそういうこと、他人の能力を最大限に引き出すことがおそらく、一番得意なのよ。それなのに、リアルではほとんど一人で動いてたの。もちろん超人的にね。やったことがなかったことが、一番得意だなんて、どんだけって思ったわ。だからリアルで、女性と付き合った経験は、それほどないっていうのも信じてあげてるわけ。」

 

 「普通、女なら、男でもそうでしょうけど、独占欲ってあるわよね、誰でも、でもね、彼に関する限り、あたしは考えたことない。だってムリよ、どう考えたって。」

 

 「すごく、大きな人だっていうのは、わかりますけど・・・」

 

 「分かってないわね。この世界でも、人外とか言われてるけど、リアルではその比ではないわ。普通に怪物扱いされていて、実際にその通り。そんな大きな存在、あたしなんかの大きさに、入り切るわけがない。」

 

 「あたし、リアルでも、ここでも、彼に猛アタックかけて、やっと、参ったって、言ってくれたわ。わたしの気持ちに応えてくれた。攻略はできなかったけど。だから、あたしはそれでもう、満足してるの。シャルにはもちろんほかの誰かに負けても。哀れみとかじゃなく、確かに、彼があたしを必要としてくれる。それだけで十分。」

 

 「でも、そんなことって・・・」

 

 「結婚までしないと、リアルではいろいろ言うわよね、まあ、愛人、だとか。でもあなたの彼のことが好きだっていう気持ちが、変わらないならば、必ず彼はそれに報いようとするわ。彼ならできるの。だってあなたのことも好きだもの、彼。」

 

 「そんな、それは許されないことじゃ・・・」

 

 「自分の気持ちにウソはつけないわ。カイトは本当に自分に正直なの。シャルが、絶対嫌っていえば、抑えるでしょうけど。ねえ、グリゼルダさん。あたしたちが好きになった男はね、とんでもなく、大きなものを持ってるの。一人じゃとても支えきれないわ。あなたは、あたしにはないものがある。シャルにもね。だからあたしは構わないわ。シャルだって、理解してると思う。」

 

 「失礼ですけど、わたしのような存在に、そこまで寛大っていうのは、どうしてなんですか?」

 

 「わたしの立場はシャルとは違うから。信じられない?まあそうでしょうね。でもあたしそれでも彼のこと愛してるから、ものすごく好きだから。だからあなたがあたしと同じくらい彼のこと愛してて、好きだっていうのが解るのよ。誰かがいるからきっぱり諦められるような気持ちじゃないことも。」

 

 「今日お会いして、アルゴさんにはとても敵わないって思いました。そのアルゴさんが敵わないって言うシャルって一体どんなにすごいかって。でも正直言って、それでも彼から離れられるかって言われたら無理です。ここにいる間にどうすべきか、もっと考えてみます。」

 

 「いつまでもそんなこと言ってて、あなたの役までシャルに取られても知らないわよ。」

 

 「・・・」

 

 「あの子はいつだって本気よ。凄いでしょ。あの歳で年の差なんか全然気にしてないのよ。この世界でもいい加減凄いんだけど、もっと凄いのは、あの子の『女子力』よ。とても子供だなんて侮れない。あの子は彼の女性版だわ。天然の男殺しね。それでいて、最初っから彼しか目に入らないの。だから彼に対して最強なのよ。残念だけど、リアルで第二ラウンド、はないわね。」

 

 

 

 

 カイトとグリゼルダの二人はその後も探したが、黒い馬は見つからない。諦めて、引き返そうとした時だった。何頭かの馬の群れの中に、確かに黒い馬がいた。ただ黒いのではなく、黒光りして見えた。ほとんどの馬は人を見ただけでも逃げる。だが、この馬はグリゼルダに寄ってきた。

 

 ブヒヒィイイーン!

 

 「早く、林檎を与えるんだ!」

 

 だが、食べない。今まで食べなかった馬はいないのに。

 

 「そっちじゃない、あの金色の方だ!」

 

 今度はゆっくりと食べ始めた。途端に表示が出る。「このビーストをテイムしますか?」当然YESを押す。テイム成功だ。

 

 「すごーい!成功しちゃった。あなたってほんとに・・・どこまで凄いの?」

 

 「僕が凄いんじゃないよ。きみだから成功したんだ。それだけ、きみはこいつと縁が深いってことさ。」

 

 「縁って?確かに馬には縁があるけど。」

 

 「それだけじゃないさ。こいつに与えたのは黄金の林檎、だろ。」

 

 「あっ そう言えば!」

 

 「この世界でも、こんな偶然あるかってことが、すでにたくさんある。僕が愛用している円月輪だって、使用条件が物凄く厳しい。でもああいうチャクラム系の武器って第二層で初めてドロップしたんだけど、使用条件はあそこでクリア可能だったんだ。しかもあれは、あの層のボスを倒すには不可欠だった。第二五層では二頭分必要だったからそこでもう一輪ドロップした。

 今回も、ここまでハマれば狙ってテイムできるって考えたのさ。それだけのこと。」

 

 「ねえ、あなたがこの子の名前つけて。」

 

 「ラムレイってのはどうだい?」

 

 「いい名前だわ。どんな意味なの?」

 

 「固有名詞だね。ラムレイって言うのは、有名なアーサー王の愛馬なんだ。アーサー王の愛馬は3頭いたとされているが、全部黒い馬なんだよ。その当時のブリテンでは、黒い馬というのは神の使いって、信じられていたらしい。」

 

 「いい、お前はこれから、ラムレイよ。」

 

 ラムレイの頭を撫でるグリゼルダ。

 

 ヒヒィーン!

 

 理解したようだ。

 

 「3頭ってことは他にも2頭いるのよね?」

 

 「有名という点ではドゥン・スタリオン。こいつは今でも時々村はずれに出るそうだ。あとは、スプマドールっていうのもいる。まあ、この二つは少し、呼びにくいから。」

 

 「相変わらずすごい知識ね。」

 

 「トリビアだけどね。リアルでは、こんなのはパソコンを使って検索すればすぐ出てくる。ここではそれができないから、こんなことでも驚いてもらえる。それより、こいつをどう育てるかだ。」

 

 「どうすればいいの?」

 

 「馬については、きみの方が詳しいだろ?」

 

 「最初のころは、あんなに丁寧に扱ってくれたのに、最近はなんだかなあ。」

 

 「丁寧がよろしいか?お姫様、リクエストにお応えしよう。誰も見てないしね。」

 

 そう言いつつ、グリゼルダをさっと「お姫様抱っこ」してしまう。

 

 「えっ えっ こんなのって・・不意打ちだわ・・・」

 

 真っ赤になって一応抗議はするが、もっと続けてほしいグリゼルダ。

 

 「このくらいならOKということで。僕でよければ、いつでもどうぞ。」

 

 「そんなこと言って、後悔しても知らないから。」

 

 「後悔だけは、したことない。反省もほとんどしたことないな。」

 

 「もうっ!口では、じゃなくて口でも全然敵わない。これに対抗できるシャルってすごいわ。」

 

 「彼女にだけは、僕は一生、勝てない。ああ、話を戻すぞ。要するにビーストって言うのはアイテムを食うらしい。」

 

 「もったいないじゃない。」

 

 「多分、ムダにはならない。ほら、あいつ、金色の林檎は欲しがっただろ?多分欲しい餌があれば、おねだりするんじゃないか。とにかく、ラムレイはここでは、初めてのテイム成功例だ。アイテムが、いくつかムダになったって、どうということはないさ。」

 

 「それ、普通はむちゃくちゃな考えよね。」

 

 「僕に、その普通っていうところが、どこかあると思う。」

 

 「そう言えば一つもないわ。」

 いまさら気づいて驚くグリゼルダ。

 

 「ま、やってみよう。まず、基本能力関係、あとこいつは、何ができる?ヒールとシールド?ふむ。」

 

 ストレージから見繕って取り出す。キリトには、少し負けるが、それでもとんでもない数だ。

 

 いくつかのアイテムの中でラムレイが、興味を示したのは、敏捷値アップの効果があるブレスレットと回復結晶、解毒結晶だ。いずれも高価なレアアイテムである。

 

 「いいよ、ラムレイ、お食べ。」

 

 ラムレイは嬉しそうに、三つのアイテムを食べてしまった。と、体が光っている。どうやらステータスが上がったらしい。敏捷値はもともと高いが、更に50ほどアップしている。他は数値は出ないが多分アップしてるだろう。テイマーのグリゼルダほどではないが、カイトにも親しみを示している。

 

 「解毒結晶も食べた。こいつのシールドというのは特殊攻撃を防ぐものだな。口から霧のようなものを出して防壁が作れるらしい。これで解毒まで、できるなら相当使えるな。テイムできるビーストとしては、おそらくエース級だ。」

 

 「でも、アイテムは貴重じゃない。」

 

 「ラムレイが代わりにやってくれる。どうやら結晶より、はるかに効果的だな。それに、結晶無効化空間でも通用する。これが大きい。」

 

 カイトは結晶無効化空間というトラップの出現によって、結晶アイテムの相対的価値は下がると見ているのだ。

 

 「定期的に結晶を欲しがることはないと思うけど、おねだりしてきたら、躊躇なく与えてくれ。補充は自由にしていい。ラムレイは隊全体を守るからね。」

 「きみがかまわないのであれば、エギルの店にも寄っていくけど。支店だからエギルはいないけどね。」

 

 「二人でっていうのは、ちょっと恥ずかしいかな・・・」

 

 「そうか、じゃ本部に戻ろう。しかし、この大きさだとアイテム扱いにできるか、こいつを?」

 

 そう言うと、ラムレイはみるみる小さくなって、ぬいぐるみ大の大きさになった。

 

 「おお!これは便利だ。それに、こいつ、人の言葉、解るみたいだぞ。」

 

 「ほんとだ!一緒に寝ても大丈夫かな?」

 

 「いいなあ。ここまで都合の良い奴とは思わなかった。」

 

 「いくら、あなたでも、この子だけは譲れないわ。」

 

 「心配しなくても、テイマーであるきみの言うこと以外は、聞かないさ。よし、これなら大丈夫だろう。ただ、みんなの嫉妬はすごいぞ、きっと。それだけは覚悟しておけよ。」

 

 「仕方ないわ。この子に会えたんだもの。」

続く

 

 

 

 




 無理矢理、こじつけ、ご都合主義だらけの本作の中でも、この「林檎」はひどかった気もします。しかし、代案を思いつきませんでした。ん、何も馬でなくても良かったか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。