グリゼルダがインビクタスの本部で、ラムレイをお披露目した時の反響は、凄まじかった。最も残念がり、羨望の目で見ていたのはクラインだった。カイトも、もともとは、戦国最強と謳われた武田騎馬軍団の再現を語っていたからだ。
「俺たちも欲しかったなあ、騎馬。」
「諦めろ。どうもリアルで乗れないと、馬のテイムは無理らしい。それにあれはどうも騎馬というより競走馬っぽい。クラインじゃ乗るには重すぎる。グリゼルダは牧場の娘なんだ。」
「俺に内緒でなんかやってると思ったら、また、こんなの連れてきて!ズルいよなあ、いつも。」
さすがのキリトも羨ましさは隠せない。だいぶ元気になってきた。
(よし、アレ、見せてやるか。)
「今晩、久しぶりに僕と遊びに行こう。いいモノを見せてやる。アスナも連れていくか?」
「アスナはいいよ。」
「あれ、どうして?」
「だって、ここんとこ、ずっと一緒だから・・・」
「おうおう、聞かせてくれるようになったじゃないか。」
「カイトには負けるよ。」
「僕と張り合うなって、じゃシャルとウインリィを連れていくからな。」
「なんで、ウインリィを?」
「うん、そのアイテムがドロップした時、一緒だったんだ。」
女子組も男子組同様の興味を示したが、ラムレイを小さくして、建物の中に入れた時がすごかった。ぬいぐるみ大になったラムレイを見て、
「カワイイー!」「あたしもこういうのほしーい!」「いいなあ。」
「ねえ、これ一緒に寝るとかできるの?」
ウィンリィがグリゼルダに聞く。グリゼルダは今や、年少組のお姉さん隊長なので、ウインリィもすっかり懐いている。
「大丈夫よ。わたしが、寝ると一緒に寝てくれるし、起きると一緒に起きるわ。お話も聞いてくれるわよ。返事はヒヒーンだけだけど。」
「人間の言葉分かるの?」
「ちゃんとわかるみたい。」
「うわぁ! いいなあ。」
「団長、得意のチート技でもっと、こういうの、連れてこれませんか?」
「こら、身内なのにチート言うな!そうだな、ちょっと難しいな。」
「「「えーっ!」」」
「まず、成功するにはかなり難しい条件が、あるみたいだ。特にテイムの時に餌として何を与えるか、が難しい。ラムレイは馬だから分かりやすかったが、狼なんかだったら肉だろ、やっぱり。何の肉かが難しい。他のは架空の動物が多いが、こういうのになると、何をやったらいいのか、見当もつかない。グリゼルダのようにテイムするビーストとリアルで縁が深いと成功しやすいのかもしれないけど、それもあまりないだろうからね。」
テイム成功のニュースはギルド外でも、大変な反響を呼んだ。テイマーはグリゼルダということが、ますます評判になった。インビクダスの誰かが、何かをすれば、ほとんどカイトが絡んでいる、と思われているが、特に「テーミスは軍神の女」というのは、噂ではなく、既に常識になっていたからである。
この情報を公開するについては、アルゴとも相談し、結局、後で知れた場合の混乱よりはまし、という判断で公開することにした。カイトはシャルには、さんざん怒られたし、アルゴにも睨まれたが。
内容は「こうすればあなたもビーストテイマーになれる。」とは正反対で、「成功は極めて難しい。仮に同じようにやったとしても、結果は保証できない。」というものだった。それでもゲーマー連中は、諦めはしないであろうが、とにかく、「同じようにやったのに、テイムできなかった。どうしてくれる?!」という苦情だけは願い下げだ。
あまりにも見た目が邪悪な武器
カイトはその後、久しぶりにアスナを連れて第一九層へ向かった。目的地はナーザの作業場である。開発を依頼していた新武器が完成したという連絡を受けたのだ。
「おう、ついにできたか!」
「はい、もっと素材の質が上がればさらに威力が増すでしょう。これだけでも普通の投剣の3倍以上の威力があります。麻痺毒を塗るのが、ちょっと面倒ですが。」
「うわー 綺麗!」
ナーザが三本ほど並べて見せた投剣は、アスナが見たこともない形をしていた。普通の投剣よりずっと大きい。
40センチくらいある。グリップは10センチほどだ。四方に刃を伸ばしていて、鈎のような形になっている。刃は全部で八本付いているが、どの刃が当たっても威力は同じである。これは単に威力があるだけでなく、クリティカル率が大きく上昇する。
カイトは北アフリカ戦線で、この武器相手に苦戦した経験があった。もともとは中央アフリカの部族が使う武器らしい。カイトはこれを忠実に再現した絵を描いて、ナーザに渡した。カイトの頭の一部は、デジカメみたいになっており、一度見たものは、完全に再現できる。それを何度も見たとはいえ、寸分違わず作って見せるのだから、ナーザの腕は大したものだ。じきに、鍛冶スキルもコンプリートするだろう。
「さすがはアスナだ。これを見て、綺麗という人は、あまりいない。一目見ただけで、これの価値が分かるとはな。」
「ええ、僕も団長からお話を聞いて、絵を見た時は、ぞくぞくしましたが、最高の機能を備えた武器は、それだけで美しいんですよ。それが解るなんて、やっぱりアスナさんです。」
「アスナ、これはね『アフリカン投げナイフ』と言ってね。初めて、アメリカでこれが紹介された時の説明は『信じられないほど見た目が邪悪な武器』だったんだよ。」
「じゃ、わたしの感覚って、異常ってことじゃないですか!」
「これだけ、僕やキリトと一緒にいるんだ。影響を受けないはずがない。諦めるんだな。キリトとはこれからもずっと一緒なんだし。」
「またあ!ひどーい!」
「ま、とにかく論より証拠だ。試してみよう。」
木の切り株を狙って投げる。
ビシュッ!
まず音が違う。普通の投げナイフよりも、かなり大きい音だ。
ザシュッ!
チャクラム系のように当てることに重点があるのではなく、斬るので、命中音は大きくはない。
アスナも投げてみたくなった。アスナはシャルが華麗に投剣を使うのを見て、自分も投剣スキルを取った。スロットに空きはないけれど、実はアスナはキリトも羨む、超レアアイテムを持っている。その指輪はスキルを入れ替えても、本来なら捨てなければならないスキルの熟練度を保存できるのだ。最大限3つまでスキル熟練度を保存できる。 これを利用して、アスナはバトルタイプなのに、キリトのために料理、裁縫スキルを保存していた。つまりいつでも入れ替えてスキルを使用できる。早くもさながら、献身妻である。アスナもまたとても16歳とは思えない、でき過ぎた少女だった。
「いいか、上から投げるんじゃなくて、水平に投げるんだ。」
ビシュッ!
「うん、いいぞ。」
アスナは(シャルもそうだが)何をやらせても、ほとんどすぐにできてしまう。投剣のソードスキルというのは、どうも相当いい加減で、とにかくちゃんと投げれば、ソードスキルが発動する。この恐ろしい武器でソードスキルまで発動するなら、片手剣の単発スキルより、威力ははるかに上だ。連撃は効かないが、最大3本いっぺんに投げることができる。もっとも、こんなのをいっぺんに3本も投げるのはカイト以外にいない。
「ありがとう、ナーザ。これで十分使えるよ。しかし、これだけ凄くてもやはり、投剣だ。耐久値が低いな。こいつについては、これ以上の威力は要らないだろう。これをな、リズにも見せて、彼女のところにも置いてきてくれ。メインの仕事じゃないから、合間に、しかし、作れるだけ作ってくれ。まあ、かなりの本数が必要なのは僕ぐらいだろうからね。」
投剣の弱点は3本という謎の本数制限と、耐久値が異様に低いことである。つまり、この剣自体を強化することはできないし、抜いたり拾ったりして使うのも難しい。つまりこれだけのモノを作っても使い捨てなのだ。
「まさか、団長、これ、いっぺんに投げるんですか?」
「おうさ。2本で3倍、3本で5倍近い攻撃効果だ。やらない手はあるまい?」
「・・・・」
「もったいないから、今はやめとく。さて、これ、あと何本ある?」
「15本あります。」
「よくそれだけ作ったもんだ。じゃあアスナに3本、僕は8本貰っていく。数が揃ったらまた、連絡してくれ。ああこれは報酬とは別に僕から。」
20万コルをナージャに渡す。
「こんなに。申し訳ないです。」
「全然少ないさ。お手柄だよ、ナーザ。」
「シャルには僕が教えるから、アスナはそれ、練習に使っていいよ。右手は、いつもレイピア持ってるから左手で投げられるといいんだけどな。」
「ええ、やってみます。」
アスナもシャルもできません、とか無理ですなんて、まず言わない。まだ少女なのにたいしたものである。
インビクタスで投剣スキルを取っているのは、御大カイト、その愛弟子「舞姫」シャル、「閃光の」アスナ、「猛犬」クー・フーリン、アルゴの5人である。これは異様に多いといえる。血盟にもDKBにも投剣スキルを取っている攻略組メンバーなど一人もいない。つまり、このチート武器はインビクタスの独占なのだ。実はこれには裏があって、投剣スキルがなくたって、ソードスキルは発動する。しかもこのアフリカン投げナイフはそんなに上手く投げる必要がない。攻略のためなら、他所にも与えろと言われても、ヒースクリフにこれを使わせる気にはなれない。
これがもし、片手剣などの改良だとすると、「独占」はしにくい。スキル保有という建前がなくなるからだ。ここまで、カイトはスキルでも戦術でも、革新的なものを編み出してきた。だが、カイトは実はキリトには自分をはるかに超える「発明」の才能があると睨んでいる。カイトの新戦法、新武器はオリジナルではない。リアルで存在するものをゲームに持ち込んだにすぎない。周囲はいつも驚愕するが、カイト自身はたいしたことだとは思っていない。
第二七層 通称 狼ヶ原
夜になるのを待って、カイトはキリトとシャル、ウィンリィを連れてここに来ている。
「こんなところに来て、なにしようっての?」
確かに、狼Mobをいくら狩っても、たいして経験値の足しにはならない。
「まあ、見てなさい。シャル、僕が投げるのを良く見てろよ。」
出来立ての「アフリカン投げナイフ」を取り出す。
「うわっ 何、それ!まさか、それでも投げナイフ?」
「面白ーい!」
シャルは一見無邪気だ。しかし、無邪気にすごいことでも、やってのけるのが、この子の怖い所。
「味もそっけもないなあ、きみたちは!アスナはこいつを見た瞬間、綺麗!って言ったぞ。」
投げて見せる。
ビシュッ!
ズサッ!
狼Mobは一発で吹っ飛ぶ。素早く拾ってシャルに渡す。
「いいか、上からじゃなくて、水平に投げる感じだ。あんまり狙わなくてもいい。」
「はい。」
真剣な顔だ。いつもニコニコしているが、決してふざけたりしない。
ビシュッ!
ザッ!
ちょっと可愛い効果音になったが、威力に問題はない。
「アスナもシャルもやっぱり天才だな。一発でできるんだから。ほとんど十分だ。練習の必要もないくらい。ナーザとリズが来週までには、たくさん作ってくれる。使い捨てにしては、ちょっと贅沢すぎるかな。」
「ちょっと、じゃないよ!こんなのが、使い捨て?投げナイフなんかじゃないよ、これ。」
「いや、リアルでもちゃんと存在する。アフリカン投げナイフ、と言うんだ。」
「ちょっ、ちょっと、俺もやってみていい?」
こんなのを見せられて、キリトが黙って見ていられるわけがない。投剣スキルを取ってなくても、投げるくらいはキリトなら容易だ。
「すげぇ!外した、と思ったのに」
「良く見てごらん。こいつには刃が八本付いていてね。どの刃が当たっても攻撃効果は同じだ。」
「また、なんちゅうチート武器を!」
「な、な、ワクワクしてきたろ?シングルシュートで十分だから、こいつならスキル取ってなくても十分使える。真の狙いはそこさ。相手によってこいつを全員に持たせる。」
「あっという間に終わるじゃん。20メートル離れてたら、相手のどんな攻撃もまず届かない。すげぇ、すげえよ!」
「ほんとにすごいです。でもキリトさん、驚くのはまだ、早いですよ。ね、団長。」ウインリィが言う。
「まだ何かあるの?」
「ふっふっふ、キリト君、きみが落ちている間、僕が奮闘して、その時ドロップした自慢のアイテムさ、ほら。」
「出た目によってぇー武器が変わる!それが俺様、クレイジー・スロットだ!」
「わあ、久しぶりぃ。」
ウインリィがうれしそうに言う。
「おう、また会ったな、嬢ちゃん。お、何だ、黒っぽい坊主もいるじゃねえか。じゃいくぜ、いい目出せよ!」
「トゥルルルー 2!」
「2か、外れ、だな。」
出てきたのは「大鎌」である。
「うるせえ!俺様の武器に外れなんかねえんだ!ありがたく使え!」
「何、こいつ、しゃべるの?!」
「ああ、まったくもって、うっとおしい。」
「何おぅ!」
「返事もするんだ。相当高度なAIだな。」
「へぇー うん、面白い、面白いよ。ところでそれ、どうやって使うの。」
「それが、この状況ではちと難儀でな。とりあえずほら、君の得意な鳴きマネ、あれ、やってよ。」
「わざと仲間呼ばせるの?」
「そうだよ、敵の数が少ないと、こいつの真価はわからない。」
「しょうがないなあ。別に得意じゃないよ。」
「ウォォオオーン!ウォォオオーン!」
「ウォォオオーン!ウォォオオーン!」
全く同じように狼Mobが鳴き出す。わざと仲間を呼ばせるなんて、普通は論外だが、インビクタスではあたりまえに行われている。
「すっごーい。キリトさん、そっくりー!」
「こんなんで、感心されたくないよ。ほら、集まってきたぜ。」
「いいか、3人共、合図して5秒後に5メートル以上、上に跳べ。」
「行くぞ!」
間を置いて、キリトとシャル、ウインリィは跳びあがる。5メートルなんてこの3人なら余裕だ。
カイトはやや控えめに跳んだ。Mobの背が低いので、タイミングが難しい。
「俺様の美技に、酔いな!」
シャーッ
青白い光とすごい風圧。次の一瞬、MObの首がすべて、切り落されて消滅する。10頭以上いたが、一撃で全滅だ。
「・・・何、今の?」
さすがのキリトも声が小さい。
「『死神の円舞曲』というスキルだ。この武器はこの使い方しかできない。しかも出たら必ず一回以上使わないと消えない。もっと大きいMobの方が使いやすいが、大きすぎても困る。」
「何?その制限!あの決めゼリフって必要なの?」
「ったく、おせーんだよ!さっさとやれ!」
「うるさい!消えろ!」
ピエロの頭をひっぱたく。
「セリフは別に、要らない。ちょっとやってみたかっただけ。威力は確かにもの凄い。だが、状況を考えないと、下手な時にこんなのが出たらえらいことになる。」
「確かに。そうだね。」
それから、キリトに見せるため、何回か使ってみる。ヨーヨーと釣竿と三節棍が出た。カイトはどれも鮮やかに使ってみせた。
「ちぇっ ずるいなあ。自分だけ、またこんなチート武器!」
「しかし、何が出てくるか分からんのだぞ。きみ、どれが出ても使いこなせる自信、ある?」
「うっ 確かに。ああはいかないかも。」
「まあ、これ使えるのが僕の他にいるとしたら、きみしかいないけど、僕ならではのアイテムでしょこれ。」
「でもこんなの、ボス戦で使えるの?」
「確かに難しいな。例えば血盟のおっさんたちや、聖竜の鈍臭い連中では、5メートル上に跳べ、と言っても無理だろう。連中がいない時とかかなあ。」
「あんまり使えないかあ。」
「いや、偵察戦では使えるし、本当にピンチの時に強く念じれば、思った通りの目が出せる気がする。念じるとかなり思った目の確率が上がる。ほら、4回やって同じの出なかったでしょ。」
「うーん、それができれば。」
「瞬時の状況判断ができるか、がより大事なんだ。それが僕と君くらいしか、できないってこと。条件がよければ武器そのものは僕でなくても使える。」
「よく聞いてみると、自分で持っていたい、とはあまり、思わなくなったよ。」
「僕はさ、戦いも、魅せることが、必要だと思うんだよ。ウチの主力は全員華があるでしょ。だからぼくはビジュアルも重視だ。見栄えがする人しか、スカウトしない。クー・フーリンもグリゼルダもそこを重視したのさ。」
「グリゼルダさんは、それだけじゃないんじゃないの?」
「うるさいな。」
「うふふふ。」
(ここで笑うか、シャル。もう「正妻」の余裕なのか?)
「とにかくだ、こいつを使って、そのうちみんなの度肝を抜いてやる。」
「出てきただけで、十分びっくりすると思うけどね。」
(ちょっと、羨ましがらせてしまったが、やはり筋金入りのゲーマーだ。また少し元気になったな。)
続く
アフリカン投げナイフというのを見たことがあって、どこかで使ってやろうと思いました。