アスナSide
黒ずくめの少年が去って、しばらく、その場所にいた私は一人ごちた。
「何なのかしら?あの人?」
と、後ろからすかさず声がする。
「気になるカイ?」
「情報屋さん?!」
「気になっちゃったネ?噂ダヨ、アーちゃん。昼夜を問わズ、コボルドを狩り続ける、赤ずきちゃんッテ。」
「誰のことです?」
「プレイヤーネームデ呼ばれるヨリ、いいダロ?ダカラ『アーちゃん』。」
「もーっ違いますからねっ!」
「ハテ、何のことカナ。」
「あの人のことですっ!今だって『攻略会議』のことを、教えてもらっただけなんですから。とにかく、ついさっき会ったばっかりの人ですっ!」
「アア、そういうことネ。ハイハイわかったヨ(いいネタドウモ)。」
アスナの自爆である。例の「隠しログアウト」の時のことは勿論、あの時アスナに目をつけたアルゴは当然、彼女をマークしていて、昨夜、迷宮区の外で寝ているアスナを見守るキリトの姿の目撃情報もキャッチしていた。迷宮区で何があったかは、アルゴにしてみれば推測以上のこと。『鼠』のアルゴは従軍記者にも芸能?記者にもなるのだ。プレイヤーの間では「アルゴと五分話をすると100コル分以上の情報を抜かれる。」と言われていた。何も知らないアスナは、アルゴにとって絶好のカモであった。
「まあいいわ、情報屋さん。で、あの人のこと知ってるんですよね?」
「気になル彼の氏素性をお望みとハ、アーちゃんモなかなか隅におけないネ。」
「え、ちょっと・・・何でそうなるのかわからないんですけど?」私は眉間に皺を寄せる。
「オレッチモ商売だからネ。対価サエ頂けれバ、情報を提供スルニ吝カではないヨ?」
「ただし、アーちゃんガ、彼の情報を買ったという事実そのものガ、オレッチの新たな商品になるケド、それでモいいナラ・・・」
「結構ですっ!別にあんな人、興味ありません!」
アルゴは思った。(面白クなってきたゾ。それにしても、キー坊のクセにあんな美少女ニ。オ姉サン、ちょっと妬けちゃうカモ。)
キリトSide
(44人、か。)俺の期待した数よりはるかに少ない。ベータテスト時代の経験からすれば、ボス戦はフルレイド(48人)を二つ組んで臨むのが、定石だ。これではフルレイド一つ分にも足りない。
すると、隣から声が・・・
「すごい!こんなに大勢!」
(全滅するかもしれないのに)隣のフェンサーさんはそう思って思わず声を上げたのだった。
「真面目なんだな、君は。」彼女の心中を察した俺はそう言った。
「ここに集まった連中の皆が皆、純粋な自己犠牲の精神で、集まったと思うかい?もちろん、そういう奴がいないわけじゃないけど、何よりも自分が遅れる、他の奴らに置いていかれるのが、怖いんだよ。」
「死ぬのはもちろん怖い。でも、俺も含めて、自分がいないところで、ボスが倒されて、誰かに先に行かれるのが、同じくらい怖いのさ。」
「それって・・・模試で学年ベストテンとか、偏差値70以上はキープしたい、とかそういうのと同じ?」
逆にそっちの世界は、俺にはあんまり実感がない。
「まあ、多分・・・そうなの、かな?」
曖昧に俺は答えた。
「ずいぶん、仲ガいいんダネ。」
「ってアルゴ!いつの間に?!」「アルゴさんっ!」
「イヤその話ハ、また機会を改メテ、キー坊とアーちゃんを攻めるとシテ、今日は例の話ダ、キー坊。」
「その話なら断るって言っただろう?」俺は声を落とす。
「2万9800コル出スソウダ。」
「ニッキュッパと来たか。強化+6のことは言ってないよな?」
「アア、言ってないヨ。」
「やっぱり乗れないな。その話には。と、ちょっと待てアルゴ、この話の依頼人は誰だ?」
「その情報ハ1000コルダナ。相手ニ確認シテ、それ以上出すのならまた高くなるけどナ。」
「ったく、このぼったくり野郎!」
「人聞きが悪いゾ、キー坊。オ姉サンは良心的ナ商売しかしないヨ。『野郎』じゃないシ。」
これこそが『鼠』の真骨頂だ。情報を売るだけではなく、売らないことまで商品にしてしまう。こんなことを繰り返していては「客」も怒るが、その辺は引き際をよく心得ている。全く大した女だ。
「ああ、わかった、わかった。それも今はいいや。とにかく断ってくれ。」
これ以上、こいつと話をすると何を聞き出されるかわかったもんじゃない。最後に冗談のつもりで一言。
「ああそうだ。俺の情報を買うという女性プレイヤーが現れたらそのプレイヤーの情報を売ってくれ。」
「ホウ。これは珍シイ。心当タリの女性デモ、いるのカナ?」
「ないない、なんだその怪しげな目つきは!用は済んだんだからさっさと俺から離れろ。」そう言われて一瞬、隣のフェンサーさんを意識したが(ありえない。この優等生っぽいツンツン美少女がゲームバカの俺なんかの情報なんて)すぐに打ち消した。
しかし、もうひとりこのやりとりを聞いていた男がいた。キリトもアルゴまったく気付かなかったが。
「やあ、キリト、久しぶりだね。」
「カイト!いたのか!ああ?『隠蔽』使ってたろ、マナー違反だぜ!あ、そう言えばクラインたちは?」
「いや、『鼠』が居たろ?あいつには、今、会いたくないんだ。クライン君たちは順調だよ。なかなか筋がいい。武器も手に入れたし、クラインはもうすぐレベル10だ。そうそう僕に弟子ができてね。シャルっていうんだ。彼はもうレベルは12」
「シャルって女の子?どっちにぢても、それならクラインとその子はボス戦参加できるじゃん。何でここに居ないの?」
「いや男の子だよ。超美形で、女の子でも十分通るけど。確かにこの2人なら問題ない。他の5人、あと最低でもレベルは7だから、参加できないこともないのだが、参加権争いになると面倒だろ?シャルには、他のことをやらせてるし。まあ、みんな僕がつきっきりだから、レベルよりは少し強いのだがね。クラインもボス線に参加するときは、みんなと一緒がいいと言うし。」
「そうか。遠慮することないと思うけどなあ。」
「ちなみに、第二層でも参加しないつもりだ。」
「えーっ、もったいないじゃないか。ボス戦は経験値もコルも段違いだし。」
「だから、争いになるんじゃないか。それを踏まえて、僕なりに、作戦を立てた。まあ、君にすぐにギルドに入れとは言わないから、そのまま、やっていてくれていいよ。」
「ああ、すみません。初めましてお嬢さん。僕はカイト。キリト君とはベータテストの時からの知り合いでしてね。」
「ぱっと見、怪しいけど、この人、まあ・・・頼りになるから。」
ちょっと文句はあったし、「作戦」というのも聞きたい。でもカイトに丸投げしていったのは俺だ。ちょっと言いにくい。
ディアベルSide
「みんな、今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう。俺はディアベル職業は・・・」
「気持ち的に、ナイトやってます!」
「このゲームにジョブ制なんてあるのかよ?あっても、ナイトなんてないだろ!」「ホントは『勇者』って言いたいんだろう?」
(すかさず、掛け声がかかる。実は予定の演出だ。ここに集まったプレイヤーの半数以上は直接面識があるのだが、まずは掴みが大事。)
「さて、こうして最前線で活動しているみんなは、このSAOの中でもトッププレイヤーだ。そんなみんなに集まってもらったのはほかでもない。」
持ち上げてプライドをくすぐる。ディアベルはゲーマーの心理をよく知っていた。
「俺たちのパーティーが今日、ついに第一層のボス部屋に到達した!俺たちの力でボスを倒し、第二層への扉を開く時が来たんだ!」
(オオッという歓声が響く。いいぞ!)
「この第一層を俺たちトッププレイヤーの力で見事攻略し、このゲームの攻略は決して不可能じゃないってことを正銘するんだ。それは俺たちに課せられた義務だ!そうだろう!みんな!」
(こういう奴がデカいギルドを起ち上げるんだろうな)この時点のキリトは単純に感心している。自称コミュ障のキリトにはこういうアジテーションはできない。アスナもクリクリと頷いていた。そこへ・・・
「ちょお待ってんか!ナイトはん!」
トンガリ頭は、ここにいる中でも嫌でも目立つ。それでなくても関東人にはうるさい関西弁が、声がでかいので、ますますうるさい。飛び降りてきて、ずんずんと前に出てくる。
「仲間ごっごする前に、こいつだけは言わしてもらわんと気がすまん!」音量だけではなく、うるさい、耳障りだ。
「積極的な発言は大歓迎さ。でも、まず名乗ってもらうのが先、かな?」
「フン、ワイはキバオウってもんや。」
「こん中に既に死んでいった2000人に土下座して、ワビ入れんならん奴が、5人や10人はいるはずや!」
「キバオウさん。それはもしかして、元ベータテスターのことなのかな?」
(打ち合わせ通り!)
「そうや!あいつらがウマい狩場やらボロいクエやら何もかんも独り占めしくさった所為で、2000人も死んだんや!正直に名乗り出えや!ほんでもって溜め込んだ金やアイテム全部差し出せ!」
(本当はウマい狩場とか、第一層にはあんまりないんだけどね。)
実は元ベータテスターは、ディアベルのパーティーにも彼を含めて5人居る。彼らにはディアベルと同じように元ベータテスターであったことは絶対に秘密にするように言ってある。自らが元ベータテスターである情報屋『鼠』のアルゴは「誰が元ベータテスターであったか」という情報だけは、いくらコルを積まれても絶対に売らない。理由は、そんな情報を売れば、その元ベータテスターは集団PKされかねないからだ。もちろん、八つ当たり、逆恨みの類である。だが、すべての元凶である茅場晶彦がこの場にいない以上、どこかに怒りの矛先は向けられる。生贄の山羊となったのが元ベータテスターたちだった。
キリトSide
キリトは青ざめていた。いや、アバターにそんなエフェクトがあるのかは知らないが、(恐れていたことが・・・)と思った。キリトなりにこういう「意見」に対する反論は用意していて、それがアルゴに依頼していた調査であった。その結果は、実に2000人の死亡者のうち、400人余りが元ベータテスターだった。つまり、死亡率にすると全体で約20%。ビギナーの死亡率は約18%で全体よりも僅かに低いのに、元ベータテスターの死亡率は何と約40%!全体の約二倍である。この結果にキリトは驚かなかった。むしろ、こうであろうと思ったからこそ、調査を依頼したのである。元ベータテスターの案外の弱さは、ただ先に行かなければという焦り、それが、原因であった。「安全マージン」はベータテストでは、重視されなかった。SAOにはデスペナルティもなかったので、ゲームで死ぬのはそれほど問題ではなかったのだ。
これに対し、キリトは彼にしては、いつになく慎重にマッピングしていた。そうでなければ、キリト自身がとっくにボス部屋に到達していたはずである。(ベータ版と正式版との差は軽視できない。今のところ違いは確認できてないが。このゲームはデスゲームになってしまった。うかつには動けない。)わざとマッピングを途中で切り上げただけでなく、アルゴにも第一層フロアボスの攻略情報は期が熟するまで、発表を控えるように頼んでいた。だれかが焦って、急ぎ過ぎだ攻略に走っては危険すぎるからだ。
「バカバカしい。」
アスナは言う。
「いるのよねえ。こういう人って。自分だけが、不幸なのは嫌。他人も不幸でなきゃ気がすまないって人。」
「フロントランナーには彼らならではの存在意義があるはずだわ。元ベータテスターであろうと、攻略に役立ってくれるのなら有り難くその力を借りればいいじゃない。」
「みんながみんな、君のように、合理的に考えるわけじゃない。むしろその逆だよ。」
彼女が言っているのは正論だ。でもこんな異常な状況で、堂々と正論を言えること自体が妬まれることになりかねない。俺はそんなことを心配していた。自分の尻に火が付いているって言うのに。
キバオウの暴論に対して、キリトは立ち上がろうとしたが、カイトに止められた。元ベータテスターの死亡率が高いことは、有力な反論だが、証拠が不足している。『鼠』の調査に間違いはないはずなのだが、証明できない。さらに悪いことには、アルゴ自身が元ベータテスターだ。それにその結果を見てもなお、キリトは自責の念が消えなかった。他人を犠牲にして自分だけが助かろうとした、そう思っていた。カイトはこういうことが得意でないキリトがあえて、反論などしても、いい結果にはならない、という判断でキリトを止めたのである。
NoSide
(あちゃー、ちょっとやりすぎてくれちゃったかなあ。こりゃ。)ディアベルがそう思っていると、明らかに日本人ではないと思われるチョコレート色の肌でスキンヘッドの長身の男が手を挙げた。
「発言いいか?」
「どうぞ。」
「俺はエギル。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元ベータテスターがビギナーの面倒をみなかったからビギナーがたくさん死んだ、その謝罪と賠償を求めると、こういうことだな?」
「そ、そうや。こんクソゲームが、始まったその日のうちに、元ベータテスター共は、右も左もわからんビギナーを見捨ててダッシュで一斉にはじまりの街から消えよった。奴らが、ウマい狩場やボロいクエストを独り占めにしよったせいでろくにレベル上げもできんと危険な狩場に追いやられて、死んでいったビギナーが、あんたの周りにもおるやろ?」
「確かに、SAOのシステムでは、リソースは限られている。しかしな、キバオウさん。あんた自身が仮にベータテスターだったとして何かを独占できるとしたら、何を選ぶ?」
「な、何を言うとんのや?」
「俺が言いたいのはこいうことだ。俺なら何か独占できるとしたら、『情報』を選ぶ。この「第一層攻略本」というガイドブック、これは無料でプレイヤーに配布されている。しかも、武器屋や食い物屋など、誰もがどうしたって立ち寄るところに山積みで置いてあった。あんたも貰わなかったか?」
「貰ろたで、それがどうしたって言うんや。」
「無料だって?!俺からは500コルも取ったくせにあんにゃろ!」とキリト。
「私も貰った。すごく役に立った。」とこれはアスナ。
「しかし、いくら何でも情報が速すぎるだろう?この本に載っている情報は元ベータテスターでなくては、知りえないものばかりだ。」
「いいか、情報はあったんだ。オレたちビギナーにとって、これ以上の贈り物があるか?俺は多くのビギナーが死んだのは、他のゲームと同じと即断して、SAOがデスゲームになっていることを甘く見た結果だと思う。この本の情報に導かれて、現に俺たちはビギナーだが、こうして生き残り、この会議にも参加できている。この会議では多くのプレイヤーが、なぜ死んだのかやその責任を追求することではなく、どうやってこの第一層のボスを攻略するか、が話合われる、と俺は思ったんだがな。」
「ふむ。なかなかだな。誰も言わなければ、僕も同じようなことを言うつもりだったが、ビギナーの彼が言った方がずっと説得力がある。」
カイトがつぶやく。
(見たところ腕もしっかりしているようだ。この男は使えるな。)
(勝負あったな。キバオウもやりすぎだったけど、アルゴに矛先が向くのは俺としてもありがたくない。却って良かったかな。)とディアベルは思った。この程度しか考えられず、キバオウの好きにさせたあたりが、彼の思慮の少々浅いところであった。
「キバオウさん、君の気持ちはよくわかるよ。でも今は前を向く時じゃないのかな。元ベータテスターが俺たちに力を貸してくれるならこれ以上頼もしいことはないだろう?」
その時、プレイヤーが一人、一冊の本をが持って走ってきた。
「ディアベルさん、これ!」
アルゴの攻略本の「ボス編」だ。つい今しがた、広場の書店で購入したばかりだという。
「何だって!」
実はこの本はとっくにできていた。ギリギリまで発表するな、というのはキリトの意見であり、アルゴは無条件に賛同し、従っていたのである。ディアベルはすぐにパラパラとめくって、
「さすがの情報量だ。これを見る限り、ここにいるプレイヤーの実力なら十分攻略できる。いけるぞ!みんな!」
(アルゴの奴、攻めるなあ。)キリトは思った。自ら元テスターと名乗っているようなものである。
だが、またもやキバオウが裏表紙を示して、
「これ、見てみい!」
そこにはこう書いてあった。
注意事項 データはあくまでもベータテスト時のものです。正式版ではデータ、仕様等が変更されている可能性があります。
「やっぱりあのアルゴちゅう女自身が元ベータテスターだったんや。これはボス攻略後にとっつかまえて、じっくり話を聞かんとアカンなあ。」とキバオウ。
すると、「その情報鵜呑みにしていいのかよ。」「アルゴって奴俺たちに、ガセネタを流してンじゃないのか?」「わざわざ公開するってことは、美味しいところは隠してるんじゃないのか?」「これが正しいってことを、このアルゴを含めて元ベータテスターたち自身に、証明させるべきじゃないのか?」もうめちゃくちゃである。
この雰囲気を救ったのは、アスナであった。彼女は進んで前に出ると、凛とした声でこう言った。
「今は感謝する以外、何をすると言うの?」
思い切って言ったのはいいが、注目が集まって、もじもじしている。その可憐な容姿にみなが目を奪われた。もう、元ベータデスター批判どころではない。
「女の子だ!」「かなり可愛い・・・かな。」「でも所詮はネトゲ廃人?」
ディアベルはすかさず言った。
「そうだ。彼女の言うとおりだ!俺たちの敵はプロアボスであって、元ベータテスターじゃない。今はただ、この情報に感謝しようじゃないか!」
「ああ、一番危険な偵察戦を省略できるんだ。死人を最小限に、抑えられるかもしれん。」
と、これはエギル。
「いや、死人はゼロだ。ナイトの誇りに賭けて俺がみんなを守る。この情報に漏れがあっても俺が補って見せる!」
(あの娘、キリトの隣にいたけど知り合いか?うーん、できればこっちに引き込みたかったけど、まあ仕方ない。ボス攻略戦が終わればこっちにきてくれるかも。)などと、虫のいいことを考えて、アスナを見ながら一言。
「お誂え向きに『お姫様』もいることだし。」
「じゃあ実戦の話に移ろう。みんな、とりあえず、自由にパーティーを組んでみてくれ。」
(えーっ)とアスナ
(うわあ)とキリト
アスナはリアルでは、完璧優等生だけに、何かグループを組むという話になると、結構敬遠されることが多かった。彼女を入れると他のメンバーは、引き立て役になってしまうからである。キリトは言うまでもなく、ベテランゲーマーと言ってもソロプレイ以外やったことなし。自称コミュ障のネクラである。何のことはない。ディアベルの仲間は予定通り、6人ずつ4つのパーティーを組み、その他のプレイヤーはディアベルの予想どおりに3つのパーティーに分かれた。結局あぶれた二人。カイトは(そういうことなら)と先ほど目をつけたエギルのパーティーにもぐりこんだ。キリトがると、3人のパーティーというのは中途半端なのである。それなら2人の方がムダがないだけマシだ、というのがカイトの判断だった。
(カイトは?あれっどこに消えた?)隣にはアスナしかいない。
「あの、あぶれたってわけじゃ・・・ないですよね?」とキリト。
「あぶれたんじゃない。他の人たちは既にお仲間がいるみたいだから遠慮しただけ。」とアスナ。
「(そういうのを、あぶれたっていうんだけど)あの、良かったら俺とパーティーを組んでいただけませんか?」
「あなたから申請するなら受けてあげなくもないけど。」
こうして二人だけの即席パーティが出来上がった。「二人だけ」で喜ぶような状況でないことはもちろんである。カイトがまた、現れた。
「キリト君、僕は、さっきのエギル君のパーティに入れてもらうことにしたよ。さっきの反論は見事で、彼が気に入ったんだ。とにかく、パーティはできたようだからね。」
とカイトが言う。まったく、どうやって、もぐりこんだんだか。いつもながら謎だらけだ。カイトは実は、最初から、どこかに潜り込む狙いだった。だから、参加可能な二人をあえて連れてこなかったのだ。
ディアベルがてきぱきと、各パーティーに役割を振っていく。てきぱきと決まるのは、当たり前で「あぶれペア」以外のパーティーはほぼ予定通りで、既に大半には攻略会議以前に通達済み。そのディアベルがキリトたちのところにやってきた。
「申し訳ないっ!」いきなり頭を下げるディアベル。
「君たちは二人って、ことだから、取り巻きコボルド専門のサポート役ってことで、お願いできないだろうか?」
「フルレイドを組める人数が、揃ってないんだから仕方ないさ。取り巻き潰しだって重要な役目だし。」
「そう言ってもらえると助かる。それに・・・『お姫様』の護衛はナイトとしては羨ましい限りだね。」
(はは、何かうっすらと、殺気を感じるんですけど)
精神的に冷や汗をかきながら
「はは、ますます重要な・・・役目、だな。」
ちなみに殺気を放っているのは、ディアベルではなくアスナである。
「じゃあ、決まりだね。」
立ち去るディアベル。
「それじゃあ、みんな!ボス戦本番は明後日の正午過ぎの予定だ。それまでは、休養、連携の確認など自由だ。あと、A隊との合同練習に参加する人は残ってくれ。」
キリトSide
「何が重要な役目よ!取り巻きのそれもおこぼれ担当じゃないの!」
フェンサーさんは、不満そうだ。
「合同練習に参加する?フェンサーさん。」
「いえ、わたしは、いいわ。それより、ねえ、『隠蔽』って何?」
「ああ、スキルの1つなんだ。そうだなあ、ほら、影が薄い奴っているだろ?大勢でファミレス行って、なぜか一人だけ、水もってきてもらえない、みたいな。それをスキル化したもの、だね。気配を消せるんだ。本当に消えたわけじゃない、そこにいるんだけど、誰にも悟らせないというスキルだよ。これを味方に使うのはマナー違反とされているんだ。」
「へぇー そんなのもあるんだ。」
「これを得意としているのが、情報屋のアルゴさ。でもカイトはその上を行くな。彼はリアルでも、ほとんど気配がないんだ。足音もしない。味方に隠蔽を使うのはマナー違反だけど、カイトの場合は、使ってるか使ってないかも、よくわからない。知らないとちょっと気味悪い、かな。」
「二人っキリで何話してルのかナ?」
「またお前かよ。何だよ。隠れてたのか?どこから聞いてた?」
(噂をすれば影とやら、かよ。)
「オイラがどうかっテ、とこカラ。それハトモカク、キー坊。例の件だガ。3万9800コル出すということダ。」
「何だって?バカじゃないのか?アニーブレード買って+6まで強化したって、楽勝でお釣りがくるだろ?」
「オイラもそう説明したヨ。3回くらいネ。それでもいいんだってサ。」
「おかしいじゃないか。依頼主は誰なんだ?」
「その情報ハ1000コルダ。ああ、そう言うだろうと思っテ、相手には確認済みダヨ。名前、明かしてもいいそうダ。」
「ほう?ほらよ。」1000コルアルゴに支払う。
「依頼主ハ、キバオウダ」
「こりゃあまた・・・」
「知ってるノカ?」
「ああ、さっき、ちょっとな。あいつ、お前のこともボス戦が終わったら、とっ捕まえてすべて吐かせるって息巻いてたぜ。」
ちょっとだけ誇張して伝える。アルゴを代理に立てて無理な交渉をさせるんだから、キバオウの反ベータテスターも怪しいもんだ。ただの反キリトじゃないのか?ん、待てよ?
俺はどうもおかしい、と感じた。うまく言えないが、どうみてもキバオウがこの交渉を依頼するのは似合わない。背後に誰かいるんじゃないか?あっさり名前を明かしたし。呑気な俺は、ここにきて、やっと自分について何かを狙われていることに気づいた。
(アニールブレード+6自体が欲しいのではないことは明らかだ。今の相場は1万5000コル。強化しても3万5000止まりだ。だが、+5からは結構失敗もあるからな。+6がもう1本持てるとは限らない。そうすると、狙いはやはり、俺から今のこの剣を取り上げることだ。強化の失敗を狙って。そいつは今回のボス戦で、どうしてもLAボーナスが欲しいんだ。だとすればそいつの名は・・・)
思い浮かぶのは一人しかいない。まさか彼が、と思うが、あいつだとすれば、全てが符合する。攻略会議でキバオウが乱入したこと。早々にパーティーを組ませ、俺をボスから遠ざけたこと。
アルゴと入れ替わりにカイトが現れた。
「またかよ!今の聞いてたんだ。情報収集じゃなかったの?」
「これも情報収集の一つさ。予想通りだな。」
「やっぱりディアベルが・・・」
「後で君と話をするつもりだったが、彼自身が、元ベータテスターなんだよ。愚かだな。LAボーナスを取りたい理由が、攻略組をまとめることだと君に説明すれば、君だってLAボーナスそのものを譲ってもよかっただろう?」
「そうだな。そういうことなら。しかし、元ベータテスターか。それで俺のこと知ってたのか。」
「これで一気にディアベルの評価が、下っただろう?キバオウを使ったのも愚かだ。どうせ切り捨てる人間と秘密を共有するなんて、頭が悪すぎる。」
「そこの酒場、ではちょっと危険だな。キリト君の宿で。ああ、お嬢さんも、よろしかったら、一緒に。」
カイトSide
カイト、現実世界での名は風岡海渡。総務省VR関連問題処理課の事実上の責任者であるが、表には決して出ない。彼の真の肩書きは、陸上自衛隊二等陸佐である。だが、それすらも仮の姿といって良い。風岡は最近まで通称「ウインド」と呼ばれる特殊工作員であった。中東やアフリカ、それも紛争の最激戦地で傭兵に紛れて活動していた。あらゆる武器を使いこなし、銃でもナイフでも毒でも素手でも爆弾でも、相手を殺すことができる。特に射撃と格闘術に優れていた。こんな危険な「職業」を選ぶ必要は、実はどこにもなかった。名の通った旧家の一人息子であり、大変な資産家であった。両親は近年、相次いで、他界し、現在は当主である。風岡家には5人の執事がいる。執事、というのは表向き、無論執事としての仕事も十分にできるが、真の仕事は、風岡の私兵である。全員、傭兵の経験があった。本人が強すぎるため、多くは、風岡の指定した人物の警護をしたりする。だが、主人の命令に逆らってでも、必ず一人は、風岡についていた。風岡は分かっていたが、護衛がついているのは、黙認している。実家は最新兵器完備の要塞のようなものであり、ここに篭っている限り、戦争を仕掛ける覚悟でもなければ、襲ってはこれない。しかし、現在は、屋敷には、ほとんど、戻らない。
風岡がSAOに飛び込んでいった目的は、プレイヤー名キリトこと桐谷和人にあった。風岡はもちろん生粋のゲーマーではない。SAOに関わるには理由があった。VRMMORPGは急激に進歩し、ゲームの世界での仮想世界は現実世界にますます近づいている。科学の進歩は軍事とともにある、というのは人類の歴史が証明するところだ。最新の技術は当然、軍事利用が考えられることになる。
風岡が最近までやっていた仕事は、軍事訓練用のMMOの開発であった。その過程で協力を得たのが、大学では茅場晶彦と同じ研究室の後輩だった、比嘉タケルであった。比嘉はいとも簡単に、プログラムを作成して見せただけではなく、さらにその先の、とんでもないことを思いついた。簡単に言えば、「現実世界と仮想世界がイコールに近くなっているとすれば、仮想世界で人間を成長させることもできるはず。それを数歩進めて人間の脳をコピーし、仮想世界で成長させて、それを現実世界に持ってくる」ことを思いついたのである。
こんな研究が、表沙汰になったら、それこそ大変なことになる。研究は絶対の秘密であり、MMOの軍事利用とともに計画の存在を知る者は、自衛隊でも上層部の限られた人間だけであった。この研究の推進、管理ができるのは風岡以外いなかった。肩書きは二等陸佐だが、実質権限は幕僚長クラス。陸自だけでなく、必要に応じて海自も空自も動かすことができ、どの省庁であろうと入り込める。いわば超法規的な存在であった。
風岡はSAOのベータテストに裏技を使って参加していた。その目的は研究に必要なモニターを探すことであった。研究の最もネックになる点は、仮想世界に適応てきる者が、ほとんどいないことである。現実世界で優秀な者でも仮想世界にはなかなか適応できない。それならば逆に、仮想世界に最適な人間を探した方が、早いというのが風岡の考えであった。
ゲーマーと呼ばれる人種が現実世界で無力というのは、これだけ仮想世界が現実世界に近づいた現在では誤った認識だ。「ネトゲ廃人」などと呼ばれる連中は、ゲームの中でも、さっぱりうだつがあがらず、ただゲームに惑溺しているだけの連中のことである。このゲームで優秀な者は、必ず現実世界でも優秀なはずだ。ベータテストに参加したのは「スカウト」ではなく、正式サービスに備える目的であったが、風岡はそこでキリトを見出し、たちまち彼に惚れ込んで、テストの後半は影のようにキリトに付き添っていた。キリトこと桐ヶ谷和人の素顔はちょっといたずら好きのやんちゃ坊主といったところであり、なかなか言うことを聞いてくれないのが、悩みだったが、風岡は仕事抜きで、キリトが可愛くて仕方がなかった。。
研究に必須の人材を探すのが、最重要の任務であったが、デスゲームとなってしまっては、キリトを無事に、現実世界に還すことが、第一の目的になってしまった。自信はある。これまでどんな死地からでも生還してきたのだ。カイトは比嘉タケルに命じて、ベータテスト終了時のデータを改竄してそのステータスでログインしていた。レベルやスキルの多くは、危険なので底上げできなかったが、筋力値、敏捷値は管理システムであるカーディナルに露見しない限度で、底上げされ、「隠蔽」はコンプリートされた状態であった。茅場晶彦の後輩にして、茅場晶彦に迫る能力を持つ比嘉だからこそ可能なことだった。
「言っておくけど、まだ、あんたと一緒にやるって、決めたわけじゃないからな。」
「そう、つれないことをいうなよ。僕がいると何かと便利だよ。とにかく、今回は完全なソロはダメだからね。」
「ソロでしかやったことないし。つるむの嫌いだし。」
「いいか?もう、ベータテストの時とは根本的に違うんだ。」
『これはゲームではあっても、遊びではない!』
「・・・」
「キリト、きみはテスト中に、一体、何回死んだ?」
「む、それを言うか!」
「ああ、言うとも。お嬢さん、彼はね、たった二ヶ月のテスト中に108回、死んだんですよ。」
「死んだって?108回もですか?!」
「普通は死んでもすぐにゲームに戻れるのさ。一旦スタート時の場所に戻されるけど。」
「デスゲームでは、ソロの利点なんかふっとぶ。生き残ることと、ゲームクリアという二つの目的の前ではね。」
「俺に、誰かと組む資格なんかないよ。」
「資格など要るのかね?」
「クラインたちのこと、カイトに任せっきりにして、俺、ダッシュでホルンカへ行っちゃったし。」
「それの一体どこに、責任があるのかな?僕がそうしろ、と言ったんじゃないか。クラインも十分納得している。それに君のことだ、目の前にいるプレイヤーはもう何人も助けただろう?レベルが上がってなければ、助けることはできなかっただろう。生き残るために、さらにはゲームクリアのために、誰かと協力するのは当然じゃないか。」
「わたし、もう二度も助けられました。彼に。わたしだって、彼の立場だったら、スタートダッシュすると思う。」
「自分が生き延びることをまず、考えるのは、あたりまえだろう。デスゲームなんだよ。これは。」
「でも、ああやって、元ベータテスターが責められること自体、俺にも責任が・・・」
「君が、ビギナーにどんなに尽くしても、今あるビギナーと、元テスターとの確執はあっただろう。あれは八つ当たりなんだから。それに、あのナイト君はとにかく君が邪魔なんだ。君がどうしようとディスられてるよ。それを君の責任というのは酷だ。ゲームには強くても、そういう争いには君は弱い。人が良すぎるんだ。それにレベルが上がっていなければ、人助けだってできなかったんだよ。何もかも理想的に動くなんて無理さ。」
「少しだけど、気が楽になったかな。」
「最初は必要に応じて、誰かと一緒にいる、それだけでもいい。生き残るためには絶対に孤立してはいけない。君がソロでいた真の理由は、レベル上げ等の効率と組むに値する相手が、これまではいなかったというだけのことだ。 今回は僕も本気だよ。僕の本当の力をお見せしよう。僕はこれから、できるだけ情報を集める。アルゴだがね、茅場の手鏡のおかげで、リアルの誰だか見当はつく。マナー違反だから、それはキリトにも言えないがね。彼女は敵ではないが、危険な女だ。情報を独占することは許さないつもりだ。」
「わかったよ。考えてみる。とりあえずパーティのスイッチ、ローテとかの練習はどうしようか?」
キリトはアスナの方を向いて言う。
「スイッチ、ローテって?」
「ああそうか、君は初めてだよね。練習用にいいクエストがあるから、一緒に行こう。ただ、朝限定なんだよね。カイトも行く?」
「いや、僕はいいよ。パーティーも今回は別々だす。君たちの邪魔はしないさ。」そう言って、カイトはまた、音もなく何処かへ消えてしまった。
続く
好みの問題でしょうが、ディアベルは人格、能力とも、あまり高く評価していません。彼を生かしてみてもあまり活躍する話が、作者には書けませんでした。