カイトSide
(これ以上奴らを生かしてはおけない。)とカイトは考えていた。「ラフィン・コフィン」は自分たちが、多くのプレイヤーを手にかけるだけでなく、チンピラ風情の連中の、後ろ盾にまでなっている。手口を教えるなど、手助けし、用心棒紛いのことまでしている。カイトたちは、防犯に努めてきたが、このところ、PKの被害者はまた増加しているのだ。彼らにとって最も「美味しい獲物」であるプレイヤーは、ある程度、カイトが保護してきたが、逆に連中も多くの獲物を狩る必要が生じ、獲物を選んではいられなくなっていた。
(まず、やつらに、恐怖感を与え、追い詰める。削るんだ。)つまり、ズバリ暗殺である。自分たちが、いつ殺られるかわからない、そう思わせれば、奴らは自己防衛のため、固まらざるを得ない。そこを一気に叩いて殲滅する。さらに「オレンジは何者かが殺しに来る」ラフコフ以外のチンピラどもは、ラフコフのメンバーが次々やられれば、恐怖でかなり、動きにくくなるだろう。カイトはアルゴを使って、情報操作まで行うつもりだった。
カイトはこの仕事を愛妻であり、愛弟子でもあるシャル、そしてアルゴの3人だけで実行するつもりだった。アルゴは黒鉄宮への護送専門である。ほとんどは黒鉄宮送りで済ませるつもりであったが、真の恐怖を与えるには、何人かは殺す必要があった。カイトだって、シャルに、こんなことはさせたくない。殺す場合はすべて自分で手を下すつもりだった。リアルで人を殺したことがあるのは、オレンジ以外ではカイトとシャルの二人だけだ。そうする必要があることを十分に理解しているのも二人の他には、アルゴとモルテの件を承知しているキリトしかいない。
アルゴが、積極的に協力するのは、任務だから、カイトがやるから、だけではない。彼女も、すべての元凶である、PoHとはリアルでカイト同様浅からぬ「悪縁」があるのだ。
オレンジプレイヤーの弱点は、転移門を使って移動できないことである。別の層に移動するためには転移結晶を使うしかない。逼迫したオレンジどもにそんなものを手に入れる余裕はそうはない(PoHのような連中は別)。つまり、隠れ家は出没した層のどこかにある。カイトはアルゴに探らせると同時に、罠を仕掛けた。ラフコフを含めたオレンジどもの「狩場」をメンバーに不定期に、交代で見晴らせた。犯行を防ぐだけで、わざと泳がす。すぐに動くと、ほかのギルメンに解ってしまう。それも好ましくない。「処理」までにはある程度時間を置いた。一気にやるよりは、じわじわ締め付けた方が効く。
ラフコフのメンバーは、音もなく現れるカイトとシャルにより、20人近くが黒鉄宮送りになり、4人はカイトに殺された。リアルでも悪質な常習犯罪者である者は、プロであるカイトとアルゴなら識別できた。ラフコフメンバーは30人ほどに減ったが、すべて集まり、容易に発見されない洞窟に潜んでいた。
「あれは人間業ではない。」カイトとシャルによって、処理された何人かの者から発せられたこの言葉はそれだけで「執行者」がカイトとであると想像された。これを聞かせるために、わざと何人かを逃がしもした。「人外の力」と言えばこの男の代名詞なのだ。「あいつに狙われては助からない」まさか、と思っても、ラフコフを含むすべてのオレンジプレイヤーは恐怖し、震え上がって巣に篭った。
(さあ、どうする、PoH!逃げてばかりでは、ジリ貧だぞ。仕掛けてこい。)カイトは待っていた。さすがに30人を一気に処理するのは3人では無理だ。
(奴は、結局、逃げることしか、考えていない。あいつの下で、使えるのはせいぜい赤目のザザ、とジョニー・ブラックくらいだ、こいつらもいざとなれば、見捨てるつもりだろう。なせなら、PoHは「イエロー大っ嫌いの人種差別野郎」だからな。)そう、カイトとアルゴに何回してやられても向かってくるのは、自分が日本人に敵わないことが我慢できないからなのだ。逃げ回ってはいても、執念深く隙を伺っている。「牙を剥く負け犬」だ。
PoHは思わぬところから、仕掛けてきた。カイトは血盟騎士団団長ヒースクリフから、ラフィン・コフィンのアジトについての情報を得た、という連絡を受けた。直ちに、血盟騎士団、インビクタス、聖竜騎士団、数名のソロプレイヤーによって対策会議が開かれることとなった。インビクタスからは、僕とシャル、キリト、アスナ、アルゴの五名、聖竜騎士団からは、リンド以下、10名が出席していた。
まず、ヒースクリフから齎された情報について、説明があった。昨日、ラフィン・コフィンのメンバーの一人が投降してきた。そのライムという男は、「このところ、20名ほどの団員が、黒鉄宮に送られた。数名は殺された。確認はできていないが、それはどうやら、一人か二人の仕業らしい。黒鉄宮へ護送した者がもう一人いるかもしれない。こんなことが、たった一人でできるのは、インビクタス団長のカイト以外にありえない。首領のPoHもそう言う。自分は殺されたくない、アジトの場所を教え、自首するから殺さないでくれ。」と供述した、と言う。そのまま、黒鉄宮に送ったがその供述は録音結晶に保存されていた。
「確認する必要はありませんね。そうです。やったのは僕ですよ。」
あっさりと自分の仕業と、認めた僕の言葉に出席者は静まり返ってしまった。
「あなたの実力なら、行動不能にすることもできたのでは?」リンドが言う。当然の疑念だ。
「もちろん可能でした。殺した4人は殺すつもりはなかった、のではなく、殺すよりないと判断したのですよ。リンド君。僕は以前そのようなプレイヤーが存在することは説明し、君も納得したはずだ。同じことは、ヒースクリフさんにも説明して、納得していただいている。殺した4人はリアルでも極めて悪質な常習犯罪者だった。僕とアルゴならそのくらいのことは分かります。」
まだ納得できない者も居たが、自分たちの団長が納得、了承したことなのだ。場は一応、落ち着いた。
僕はここへ来る直前に言われたアルゴの言葉を思い出していた。
「二人目は誰?って言われたら、絶対に言っちゃダメよ。あなたならその場を切り抜けるくらい、簡単でしょ?」
「きみだろうって、言われたら、本当のことを話すよりないだろう。」
「だから、それが、ダメっていうのよ。誰かって問われたら、明らかにしないでおくのよ。」
「勝手にきみだって思われるじゃないか。」
「それくらい、どうってことないわよ。リアルでだって相当悪名高いし。」
「きみがシャルを守るって・・・」
「勘違いしないで。あなたがあんなに、必死に守ってきた、あたしでさえ、全く知らないあの子の過去。それをあなたのために、守りたいだけよ。」
ヒースクリフから今後の対策が提案された。
「オレンジギルド「ラフィン・コフィン」については、説明するまでもないと思う。彼らはこの世界で、自分たちが好き勝手に犯罪を行うため、攻略そのものを妨害しようとしている。その企みそのものは、インビクタス団長のカイトさんの努力で、くじかれてはいるが、彼らを駆逐することは、ゲームクリアを目指す我々攻略組の義務と考える。また、それができるのは我々だけだ。彼ら全員が一箇所に固まっているのもカイトさんの策が奏功したということだ。そこで、インビクタス、血盟騎士団、聖竜騎士団を中心に討伐隊を結成し、一挙に彼らを殲滅したい。」
「その通り!」「やりましょう!」など、声が挙がる。
「メンバー構成については、私よりも実力、経験が圧倒的に上のカイトさんの意見を尊重したい。」
僕はしばらく、目を閉じて何も言わなかった。
「申し訳ない。いろいろと思うところがあってね。率直に言わせてもらう。これは罠だ。」
「そんな!」「どうしてですか?!」「理由は?」などと声が挙がる。
「まあ、聞いてもらいたい。罠ではあるが、あえて、それに乗ってやろうと思う。理由はこんなチャンスはもう二度とないからだ。まず、PoHはわざとアジトの場所を我々に教えた。」
「どうして、そんなことを?」聞いてきたのは聖竜騎士団のシュミットだ。
「PoHはラフコフのメンバーなどもともと、仲間だなどとは、思ってもいないのだよ。」
「そ、そんな?!」
「あいつはリアルでも快楽殺人者であり、お尋ね者のハッカーだが、同時に、極端な人種差別論者だ。特にアジア系の黄色人種を毛嫌いしている。リアルでは、負けても、負けても僕を付け狙ってきたが、その理由は僕が日本人だからだ。 だから、あいつはむしろ、一人でも多く、我々にラフコフのメンバーを、殺してもらいたいくらいなんだ。無論我々の中から、死亡者が出ればもっといい。その間に、自分だけは逃げるつもりだ。まあ、腹心の二人くらいは連れていくつもりかもしれないが。PoHの狙いはあくまでも、僕から逃げること。要するに、面白がってメンバーを集めたはいいが、集まりすぎて、お荷物になってきた、こんな構図だろう。危険な討伐隊に僕が加わらないわけには、いかないからね。メンバーを犠牲に、逃げようと、いうわけだ。しかし、奴とあと二人を除いて、残り全員を殲滅できるのは大きい。」
「一番大事なことを言っておく。なるべく、殺さないようにという方針は正論だ。だが、実際に、それができるかは、別の問題と考えるべきだ。大変に難しい。安易に、考えないで欲しい。連中の実力は詳細は不明だ。しかし、決して侮れない。レベル自体は、ここにいる諸君より上ということはないだろう。だが、そこに落とし穴がある。モンスター相手とは、違うのはもちろん、デュエルとも違う。」
「問題は、相手のHPがレッドになり、残り少なくなった時だ。ここで、大人しく投降してくれれば、いいのだが、中には、それでも向かって来る奴が、必ずいる。ゲームクリアを妨害したいんだぞ、奴らは。元々、命が大して惜しくはないという奴が少なからずいる。こういう奴に止めが刺せるか、つまり、殺せるかということだ。
これは実は、殺す方が怖い。誰しも殺人者には、なりたくはない。自分は、その場合、確実に殺せる、という者だけ参加してほしい。本来なら、僕一人で始末したいが、さすがに、それは無理だ。どうか、今のことを確認した上で、志願者は、再び明日集まって欲しい。ヒースクリフさん、リンド君、メンバーが決まったら、僕に連絡してください。場所は、今度はウチの本部でいいでしょう。ご異存がなければ、ですが。」
「いいでしょう。結構です。」「異存ありません。」
会議は解散したが、僕とシャルは素早く、ヒースクリフとリンドに耳打ちして、残ってもらった。ヒースクリフと血盟の団長室で密談だ。ウチも僕とシャル以外は帰した。
「いやすみません、ヒースクリフさんの肝いりで、行われた会議なのに、独演会にしてしまって。」
「いえ、お気になさらず。」
「ところで、おふたりは、討伐隊に参加されるおつもりですか?」
「いえ、私は。私は対人戦闘の経験があまりない。私が、いてもいなくても、戦力的に大差ないだろう。船頭多くして、という言葉もある。」
「俺は、当然、参加するつもりですが。」
「リンド君、君も参加しない方がいい、いや参加しないでくれ。」
「どうしてですか?」
「万が一ということがある。僕がやられ、君までやられたら、攻略は難しくなる。奴が本当にやりたいのは我々を消すことなんだ。例えば、僕でも5人以上に包囲されたら危ない。ヒースクリフさんも、そういう判断さ。さすがに僕みたいに、露骨にはおっしゃらないが。」
「恐縮です。私としてはあなたにこそ、参加を控えてもらいたい。攻略組の中心なのですから。」
「いえ、僕の狙いは、別にあるのですよ。いいですか、PoHさえいなければ、あとは烏合の衆です。奴を始末するのが、決定的に重要です。だから、僕は奴の手に乗ったふりをして、肝心な3人を片付けます。殺るのはあくまで僕ですが、逃がさないために、シャルが必要です。他の者では、力が足りません。チャンスというのは、本当はPoHを始末するチャンスなのですよ。」
「でもあなた達までいなくては、危険では?」
「ヒースクリフさんのお言葉ではないが、僕がいても、危険は同じです。ボス戦とは違って仲間を庇って戦うというのは困難です。しかし、そのような危険を承知で、討伐戦に参戦したいという決意は、無にはできない。僕にとっても、苦渋の選択です。奴らが、なんとかしたいと思っているプレイヤーの一人ですが、ウチはキリトは出しますよ。僕が止めても、本人が納得しないですから。PoHがいなければ、彼の力は圧倒的です。囲まれなければ5、6人くらいなら、楽に倒せるでしょう。」
「具体的には、表面上は討伐隊に参加して進軍します。洞窟に入ってから、隠蔽を使って離脱し、PoHたちを追います。奴らは、僕に捕まらないことを確認して、逃げたいわけですから。」
「分かりました。具体的な作戦は、すべてお任せします。」「俺もお任せします。」
「必ず、全滅させましょう。但し、他人を庇って戦えない以上、さっき申し上げた覚悟がないと、死亡者は出るでしょう。ここまで注意しても数人の犠牲は覚悟してください。」
第五〇層 ギルド「インビクタス」本部 団長室
「ふうっ 参ったな。PoHは始末できるが、これでは何人かは、必ず死ぬ。」
「やめとけ、とは言えないもんね。」
「そう、連中にもプライドがあるからね。先に血盟と聖竜を引っ張り出されてしまった。」
「でも、PoHを何とかしないと、もっと大勢殺されるわ。」
「そうなんだよ。大きな被害を避けるため、小さな犠牲は止むを得ない。しかし、この理屈は命のやり取りを経験した者にしか通じない。確かにPoHだけ始末すればいい、というものでもないからね。しかし、」
「失礼します!」
「まずい時に来るもんだ。キリト、心配しなくても、君は行くな、とは言わないよ。」
「よかった。でもお願いがある、いやあります。」
「アスナのことか?」
「はい、アスナは参加しないよう、団長が説得してください。」
「シャル、もし、僕にそう言われたら、なんて返事するか、キリトに教えてやってくれ。」
「カイトが一人で危険なところに行って、あたしだけ、安全なところで待ってて、それでカイトが帰ってこなかったら、あたし、自殺するわ。もう一人でなんて生きていけない。」
「い、いくらなんでもそれは。」
「いくらなんでも、じゃないわ。カイトがいないのに、あたしだけ生きてたって、意味ないもん。アスナだってきっとあたしと同じことをキリトに言うと思うわ。」
「キリト、こういうことだ。待ってろ、と言われるのは、一緒に行ってくれ、と言われるよりも、ずっときついんだよ。だから、僕はシャルを連れていく。一番やらせなくないことだけど、待ってろ、って説得できない。仕方がないんだ。君たちも、もうそういう関係なんだよ。」
「だから、キリトはアスナに、あたしが今、言ったのと、同じことを言わせないで、ほしいの。大丈夫、アスナは死なないよ。」
「わかったよ。」
「君はアスナを守る。アスナは君を守る。これで、どちらかが、死ぬようなことだけはないさ。」
キリトは納得したが、肩を落として団長室を出ていった。
「ふうーっ 本当は、あいつらにも、やらせたくないよ。アスナに何かあった時、あいつが、バーサク化するのも心配だ。愛情も度が過ぎるのは考えものだな。」
「カイト、あなたが、それを言う?」
「シャルはすごく強いから、心配してないよ。何も。」
「アスナだって強いわ。」
「うん、さてウチからは、参加する者より、除外する方を選ぶか。どうせ、全員志願するに決まってる。」
「そうだね。まずウインリィはダメね。」
「うん、あと、エドとアルもな。最年少はちょっとな。」
翌日
第五〇層 ギルド「インビクタス」本部 会議室
結局、我がインビクタスからは、「黒の剣士キリト」「閃光のアスナ」「猛犬クー・フーリン」「テーミス」ことグリゼルダ、元風林火山のクライン以下三番隊6名、さらにオルランド、ベオウルフ、カインズ、の計13名が参戦することになった。建前上は僕とシャルそしてアルゴも含まれる。ほとんどエースメンバー総出だ。これは仕方なかった。むしろ誰かを参加させないという理由が難しい。それほど我がギルドのメンバーは粒ぞろいだった。
血盟騎士団からは10名、聖竜騎士団からは6名の参戦ということになった。
「いいか、君たちの実力なら、1対1なら、まず、絶対に負けることはない。逆に言えば、必ず常に1対1の戦いになるように注意することが肝心だ。対人戦闘では、まず絶対に包囲されないこと。特に1人が包囲されるという状態が最も危険だ。
したがって必ずツーマンセルで行動すること。相手は毒を使用してくる。麻痺毒は最弱でも十分は動けない。投げナイフが当たるくらいは覚悟せねばならない。その場合は回復するまで、パートナーは防御に専念すること。
次に退路を塞がれることは絶対に避けること。あとは、灯りだな。ヤケクソ気味に灯りを消してくることは十分ありうる。灯りを持って戦うのは容易ではないが、片手剣、短剣、レイピア使いの諸君はこの中でも実力上位だ。左手に灯りを持つこともできるだろう。
昨日言ったことを繰り返す、相手のHPがレッドになっても、投降せずに向かってきたら躊躇なく止めを刺せ。これができないと、多分、何人かは死ぬ。
最後に万が一、苦戦になっても、撤退は不可能だと思え。撤退しようとすれば、必ず、大きな被害が出る。相手が待ち構えているところに殴り込むのだから、いくら実力が上でも、絶対に油断できない。以上だ。出陣は明日12時。ここに集まってくれ。
続く
第一段階の「削り」は小説の書き方だと、途中、少しずつ描写があって、時間をかけてやっていることが、自ずとわかるように書かれますが、本作はいい加減な読み物なのでまあ、そのへんは。