プロから見たSAO攻略   作:ベルクーリ2世

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 ユイの登場から、アイテム化まで一話で一気に終わります。アルゴが活躍します。


第28話 森の中の少女

 キリトSIde

 

 俺たちとカイト達は同じように、ベタベタのカップルみたいに言われてきたけれど、結婚して、かなり変わったのが俺たち、カイト達は、ほとんど変わってないと思う。結婚なんて形だけのこと、なんて言う人もいるけれど、少なくとも、俺の意識は大きく変わった。力が抜けたというか、とても自然な感じになった。お互いに言いたいことが言えるようになったし、相手に何か隠す必要もなくなった。

 ゲームの中とは言っても、ちゃんと結婚して良かったと思う。とまあ、立派そうなこを言ってるけれど、傍から見ればもうやりたい放題の完全なバカップル、だと思う。

 ゲームが始まって以来、攻略のことを一切考えなかった日なんて1日もなかった。それがもう、4日も続いている。この層にはMobがほとんどいない。アスナと会わない日はあっても、Mobと戦わない日なんて、これまでなかった。そこまで、考えて、ここで、アスナと暮らしたいと思ったわけじゃない。けど、頭が良すぎるカイト兄貴は、「第二二層」という一言だけで、俺の心理を潜在意識まで含めて、すべて読み切り、攻略に関わる情報を一切シャット・アウトしてくれた。その中には、申し訳ないけど、ギルドの仲間も含まれる。

 アインクラッドの各層なんて、あたりまえだが、リアルに比べたら狭いものだ。いくらでも遊べると思ったが、たった4日でもうネタが尽きかけてる。湖があることから、ここでの主な娯楽は釣りだけど、俺の釣りスキルはお世辞にも高くはない。いよいよすることがなくなってきたら、カイトたちの結婚披露宴を機に親しくなった「釣り師」ニシダさんに釣りを教えてもらおう、なんて考えている。これだって、結婚前だったら、そんなカッコ悪いところは、アスナに見られたくないって、考えたと思う。

 

 この層に来てすぐ、ある噂を聞きつけた。木材で、家具などを作成することを業とするプレイヤーがこの層の東の森で材料集めをしていたところ、白いワンピースの幼女の幽霊を見たという噂だ。これは俺の興味を惹いた。幽霊を見てみたいという気持ちがないわけではないが、ゲームバカで、PCいじりくらいしか特技がないような俺だから、何らかの人為的なモノだろうと、つい考えてしまう。そうだとすれば、そのカラクリが見たくなる、知りたくなるわけだ。

 さて、そろそろ、見にいきたいと思って、出かけたが、行く途中で、この話をしたところ、アスナは、この程度でもう、俺にしがみついてきたり、悲鳴をあげるという始末。「アスナさんの弱点発見!」などと、喜んでいる場合じゃない。そう言えば、お化け、ホラー系のダンジョン攻略を休んだことがあったっけ。聞いてみたら、案の定だった。総じてギルメンには甘く、女の子には甘々、中でもアスナには、大甘のカイトが、当然のようにお休みを許したということだ。例によってアスナが、自己申告しなくても見抜いて。あの察知能力はもう異常としか言いようがない。

 でもここまで来て、引き返すのも癪だと思っているうちに、目撃されたというポイントに着いてしまった。

 

 

 「あっ いたっ!」

 

 「キリトくんのいじわるぅ!わざとそんなこと言ってぇ。」

 

 「違うって、本当に見えたんだ。」

 

 (ん?様子がおかしい。あれは幽霊なんかじゃない!人間の女の子だ。)

 

  素早く近づいて見ると人間?いやプレイヤー?もしかしたら、NPCであろう幼女が倒れていた。俺はその子が倒れるところを見たのだ。

 

 「いやぁああ!」

 

 「そうじゃない、幽霊じゃないよ。アスナ、こっちに来てくれ!」

 

 「プレイヤーかしら?」

 

 「一応その可能性はある。しかし、この子は8歳くらいだ。SAOは推奨年齢がたしか12歳、だったと思う。いくら何でも幼なすぎる。」

 

 「ねえ、この子、カーソルがないわ。」

 

 「うーん、変だな。確かめて見れば分かることだけど、NPCって感じがしない。」

 「とにかく、放ってはおけないな。家まで運ぼう。少なくとも運べたらNPCじゃないってことだ。」

 

 つまり、この子は女の子だから、NPCならそれをすればハラスメントコードが発動するはずということだ。

 

 家まで運んでベッドに寝かせる。

 

 「ここまで運べたってことは、NPCじゃないわけだ。」

 

 ベッドは二つあるのでこの子を寝かしておいても問題ない。どうせ俺たちは一つしか使わないから。

 

 

 いけない。カイトが、そう言えばこんなことを言っていた。

 

 「ムダだと思うが、一応言っておく。ほどほどにしろよ。君たちは、お互いをあまりにも好きすぎる。24時間ベッドの中で、二人一緒に、過ごしたくなる。しかし、そんな生活をしたら、現実世界に戻ってからが、地獄だぞ。」

 

 いや、一緒に寝るだけだから(汗)。

 

 

 翌朝、女の子が目を覚ました。

 

 「キリトくん、ちょっと。」

 見るとその子が大きな目をパッチリと開けている。

 

 「きみ、なまえは?な・ま・え?」

 その子は少し戸惑っていたが、答えてくれた。

 

 「・・ゆ・・い・・」

 

 「ユイちゃんて言うんだ。俺はキリト。」

 

 「・・き・・と・・」

 

 「き・り・と 」

 

 「き・・い・・と?」

 

 「むずかしいかなあ?」

 

 「ユイちゃん、わたしは、アスナ。」

 

 「あ・・う・・な?」

 

 「うーん、じゃユイちゃんの好きなように呼んで。」

 

 「パパ!」

 

 (おいおい、新婚5日目で子持ちって、俺たち、そこまで、フライングはしてないからな。)

 

 

 「あ・う・な はママ。」

 

 「そうだよー ユイちゃん。ママだよー」

 

 アスナはユイを抱きしめる。

 

 「お腹空いたでしょ、ユイちゃん。今なにか作るからね。」

 

 今度はユイを抱き上げて、そう言う。ママって言われた瞬間からもう母親やって、それがもう、板についてる。アスナってやっぱりすごい。

 

 

 

 ユイが目覚めたので、今度はメニューを呼び出した。出ない。まさかと思ってやって見ると、左側にウインドウが表示された。

 

 最上部には「Yui-MHCP001」という表示。だが、HPバーもEXPバーもレベル表示もない。

 

 これはプレイヤーではない。NPCでないことも解った。では一体、何だ?

 

 ユイはまるで、俺たちの本当の子供のように懐いていた。戸惑いつつ、束の間の、幸福感を味わっていた俺たち。それが、本物でないことは、解っている。でも、もっと、この幸福感に浸っていたい。だが、本物ではない以上、別れは当然くる。何か具体的に問題が生じないとも限らない。ここは心を鬼にして対応すべきだ。

 

 「アスナ。ユイともっと一緒にいたい、という気持ちはわかる。俺も同じだからな。でも、これは少なくともこのままずっと、続くわけじゃない。プレイヤーでも、NPCでもないのだから、親探しも無意味だし、帰すべき場所もわからない。このような状況を、処理できそうな人物を、俺たちは知っている。本心はそうしたくない。カイトなら、必ず、何らかの結論を出してしまう。それは怖い。でも、ここはカイトに連絡すべきだろうと思う。」

 

 「わたしもキリトくんと、同じ気持ちだわ。放っておけないのだから、そうすべきよね。」

 

 カイトにメッセージを飛ばすと、シャルとアルゴを連れて30分以内に来るという。いつも通り、信じ難い速さの対応だが、この場合はありがたい。しかし、シャルは当然としてなぜアルゴ?と思ってるうちにもう現れた。挨拶もそこそこに、状況を説明した。

 

 

 

 「キリト、状況は分かった。アルゴを連れてきたのはね、このお姉さんは世界的なプログラマーだからだ。」

 

 「そんな、大袈裟よ。はっきり言っていいわ、カイト。そうね、世界だとベストテンは苦しいかな。日本なら3番目くらいまでには。但し、プログラマーじゃなくてハッカーのランキングでね。」

 

 俺は仰天した。アルゴってリアルじゃそんな大物だったんだ。アスナも驚いている。

 

 「今、見せてもらった限りで分かることは2つね。まず、この子が何者か、だけど、プログラムよ。他にないわ。AIと言えるかなあ?少なくとも今はAIね。次に、この子の行動は明らかにイレギュラーだわ。ということは何らかのバグがあることは確実。元々は、プログラムなんだから。」

 

 「なるほど。それでは、解明すべき点は?」

 

 「疑問は山ほどあるわ。一体どんなバクか、なぜ生じたのか、この子は管理システムカーディナルから現在は独立しているのか、どういう条件で現状を維持することが許されているのか。ってとこね。」

 

 「どうすれば解る?」

 

 「そうね、解析は不可能ではないわ。この子をただのプログラムとして扱うなら、だけど。でもキー坊、あ、結婚までしたんだから、もうキー坊はないわね。キリトとアスナはそういう扱いには耐えられないでしょうね。あたしもやれといわれても、お断りだわね。絶対に失敗できないし。」

 

 「どうだろう、アルゴ。似たような例が、他にもあれば、もっと何か解るんじゃないかな。」

 

 「そうね、探してみる価値はあるでしょうね。このユイちゃんだけ、とは考えにくいものね。」

 

 「じゃ、はじまりの街に行くか。10歳くらいのプレイヤーは全員、第一層に留まっている。しかもその大半はサーシャさんの教会にいる。あとシンカーとユリエールにも聞いてみよう。あっちにも変わったことがあるかもしれない。」

 

 カイトとアルゴのやりとりについて行けない。二つの人外の頭脳が高速回転している感じだ。この二人はこの世界でも指折りの凄さだが、リアルではきっと、もっと、凄いんだ。

 

 「こんにちわ。ユイちゃん、僕はカイト、よろしくね。」

 

 「か・・とはオジサン。」

 

 「オジサン?いいよ、キリトは弟、アスナは妹みたいなもんだから。確かに『オジサン』だ。」

 

 「こんにちわ。ユイちゃん。あたしは、アルゴよ。」

 

 「あ・う・ご?」

 

 ところが、何度問いかけてもアルゴだけは「ユイちゃんの呼び方」が出てこない。ちなみに実年齢18歳のシャルは既に「オバサン」と呼ばれて、大ショックだ。

 

 「おい、これ偶然じゃないぞ、きっと。ユイはキリト、アスナ、そして僕とシャルを知っている。事情はわからないが、アルゴは知らないんだ。第一層で確認すればわかる。同じような子を探す、だけじゃなく、何らかのきっかけでユイの記憶が戻れば、一気にわかるんじゃないかな。」

 

 「そうね。ここではマシンもないから、検証できないけど、あたしの勘でもそれは脈ありだわ。」

 

 「ようし、はじまりの街に行くぞ。」

 

 

 

 第一層 はじまりの街

 

 NoSide

 

 「アスナごめんね。なんかあたしたちが来て、新婚ムード、吹っ飛んじゃったね。」

 

 「ううん、そんなことない。わたしたちだけじゃ、どうしようもなかったもの。」

 

 「なんか、あの人、とんでもないことに気がついたみたい。」

 

 「うふふ、あの人、だって。なんかシャルったら貫禄出てきたね。妻って感じ。」

 

 「新婚のアスナに冷やかされるとは思わなかったわ。冷やかしてやろうって楽しみにしてたのに。アスナなんて、いきなり、母親してるじゃないの。サマになってたわよ、ママ。」

 

 「シャルってさ、カイト兄さんの影響で、みたいに、よく言われるけど、そうじゃないんだね。もともとシャル自身が凄いんだ。カイト兄さんに似てきたとか、言われるとシャルは喜んでるけど。わたし、やっとわかってきた。」

 

 「人を化物みたいに言わないでよ。本当にあたし、ここにくるまでは何も知らない、ただの小娘だったわ。」

 

 「ずっと、小娘じゃなくて美少年、だったけどね。」

 

 

 アスナとシャルがそんな会話をしているうちに教会に着いた。

 

 「ご無沙汰しておりました。カイトさん、シャルさん。キリトさん、アスナさん、ご結婚おめでとうございます。」

 

 「「ありがとうございます。」」

 

 「お元気そうでなによりです。サーシャさん。今日はちょっと、お尋ねしたいことがありましてね。」

 

 全員中へ入る。カイトとシャルはここの子供たちのヒーローだ。キリトとアスナは、それこそ子供たちでも知っている。アルゴだってここは何回か訪れたことがある。「鼠」じゃなくて今は、かなり目立つ美人である。つまり5人全員ここの子供たちには、大人気なのだ。

 

 「・・・ということで、サーシャさん、これまでに似たようなケースはありましたか?」

 

 「お役に立てずに残念ですが、この層ではないですね。」

 

 その時だった。ユイが突然しゃべりだした。

 

 「みんなの、みんなの、こころが・・・」「怖い・・・壊れていく・・・暗い」「暗い・・・ずっと深く」「ずっと・・・ひとりで・・」

 

 何を言っているのか全くわからないが、ユイは錯乱したように、こんなことを言って気を失った。

 

 「アルゴ!これは・・・」

 

 「ええ、思い出してるんだわ。ねえ、カイト、あなたの『完全記憶能力』なら今の、全部覚えてるわよね。」

 

 「ああ、問題ない。しゃべりだしたところから全部な。」

 

 カイトは知識量も異常だが、記憶力も異常である。I.Cレコーダーとデジカメを標準搭載しているような脳なのだ。これが、彼の過去の仕事にどれだけ役立ってきたか。

 

 「これが何回か起これば、つながるかも知れないわ。」

 

 ユイは比較的、短時間で気がついた。何事もなかったように元気にビスケットなどを食べている。

 

 シンカーとユリエールがやってきた、あいさつもそこそこに、最近起きた、異変について話し出す。

 

 「お知らせしようと思いましたが、何分我々では、調査すらままならない状況で。」

 

 (すぐ、連絡してくれればいいのに)とカイトは思う。だが、これは、仕方がない。カイトのように常に最短距離でものを考えられる人間などほとんどいない。シンカーの話によれば、最近になって、この第一層に「隠しダンジョン」が発見されたという。ところが、第一層にしてはMobがやたらに強い。レベルにして60代くらいが多いという。このため、第一層にいる者では突破どころか、調査もできないというのだ。

 

 「キリト、どう思う?」

 

 「変だよね。もうボスはいないわけだし。まさか復活するわけないし。ということは、このダンジョンを攻略した先にイベントなり何なりがなきゃおかしい。行ってみるしかないんじゃない?」

 

 「行くのはもちろんだが、これは、ユイにもおそらく関係がある。」

 そう言ってカイトはアスナに何事か耳打ちする。アスナが頷く。

 

 「ねえ、ユイちゃん。これからオジサンたち、地下の深ーいところを探検にいくんだけど、ユイちゃんも来るかい?もちろん、パパとママも一緒だよ。」

 

 「うん、行く。」ユイは顔を輝かせる。アスナが言った。

 

 「だめよ、ユイちゃん。そこは、危ないの。サーシャさんとお留守番してようね。」

 

 「いやっ ユイも行く!」

 

 キリトにもお留守番の説得を試みさせたが、結果は同じ。しかもユイにしては、これまでで、一番強硬だ。

 

 「間違いない。ユイは、そこを知っている。未攻略ダンジョンなのに、なぜ知っているのか?奥まで行けば、必ずカギはある。」

 

 「そうなのか?」

 

 「まあ、楽しみに、とは言えないかもしれないがね。とにかく行ってみよう。」

 

 

 はじまりの街 黒鉄宮

 

 町並みの向こうに黒い大きな建物、ここは、はじまりの街、最大の施設だ。門をくぐってすぐの広場には、プレイヤー全員の名簿である「生命の泉」がある。

 

 一行はずんずんと奥へ進んで行く。宮殿の地下水道の先がダンジョンの入口だという。

 

 

 「隠しダンジョンなんてベータテストの時にはなかったぞ。ううん、見落としてたのかも。」

 

 「キリト、人の話はもっと良く聞け。ベータテスト時の、あの程度の攻略進度で、レベル60代のMobが出るダンジョンなんかあるものか!」

 

 いつになくカイトの言葉は厳しい。カイトの欠点として、頭が良くない者に、厳しすぎるところがある。キリトには期待してるから、なぜそのくらいの判断が、瞬時にできないのか、と苛立っているのだ。

 

 「言われてみれば、そうだけど・・・」

 

 大好きで、尊敬もしているカイトだが、一緒にいると、キリトのコンプレックスが、刺激されまくっているのも確かである。ダンジョンに突入した。眼前には、大量の巨大ガマガエル型とザリガニ型のモンスター。

 

 

 「落ち込んでないで、前にいる奴をさっさと片付けろ。Mobに会うのも久しぶりだろう?」

 

 「ぬぅおおおお!」

 

 「うぉおおおお!」

 

 キリトは二本の剣で片っ端から片付けていく。

 

 「ん、後ろにも湧いたか。」

 

 「あたしが、やるわ。」

 

 シャルが後ろにPoPしたMobを処理する。こちらは、日頃からカイトに「優雅に」と言われており、叫んだりはしない。

 

 「パパァーっ 頑張れぇー!」

 

 ユイの声援に、キリトは、ますますハッスルする。まるで娘の運動会で、父兄参加競技に出たお父さんそのものである。

 

 「凄いですね。お二人共、噂には聞いてましたけど、これほどとは。」ユリエールが感嘆する。

 

 「キリトくん、今日はユイがいて、張り切ってますから。二人共、病気ですから、あれ。やらせときゃいんですよ。」アスナが答える。

 

 

 「あーっ 戦った、戦った。」

 

 「戦ったのはいいけど、何か足しになったの?」

 

 アスナの実利を確認するこの言葉は「主婦」のものだ。

 

 「アイテムも大量に。ほら。」

 

 そう言って一つ示す。カエルの脚肉だ。

 

 「何なの?それ?」

 

 「スカベンジトートの肉だ。後で、料理してくれよ。ゲテモノほど美味いって言うぜ。」

 

 「キャーッ!」悲鳴を上げて、アスナがそれを投げ捨てる。お化けだけじゃなく、こういうのも嫌いらしい。まあ、こういうのが好きっていう女の子はあまりいない。キリトは、これでもか、というくらい出し続けたが、アスナに全部捨てられた。

 

 「ちぇっ 一つくらい食べてみたかったな。」

 

 「うふふふ」ユリエールが笑う。

 

 「あっ お姉ちゃん、笑った。笑った。」

 

 ユイが喜ぶ。

 

(そう言えばユイは、人のポジティブな感情の発露に喜び、ネガティヴな感情の発露は、嫌うし、悲しむ。これ自体は、不自然ではないが、必ず反応するってところが、妙だ。例外なしか。)

 

 カイトはこんな時でも、ユイを観察していた。

 

 シャルはずっと、無言だ。(多少気持ち悪くても、強ければ許すけど、弱いわ、気色悪いわじゃ取り柄がないわ。)

 

 シャルは相手が弱すぎると、いつも、不機嫌になる。

 

 さらに奥へ進んでいくと、アストラル系のMobも出てきた。アスナも戦うようになったが、カイトとアルゴは全く興味を示さない。二人にとってはこんな雑魚Mobはどうでもよく、ユイのこと、またさらにその先を考えていた。

 

 

 だが、

 

 「待て!止まるんだ。」

 

 「うん、この先に何かいる。!」キリトの索敵にも反応した。

 

 「出てこない、ということは」

 

 ここからだと、大きな闇にしか見えない。

 

 「みんな!下がれ!何が来るかわからん!」

 

 行く手に待ち受けるののは巨大な「死神」の姿。

 

 

 「The Fatal-scythe」

 

 

 ボロボロの黒いローブを纏っており、右手には巨大な鎌を持っている。

 

 (いかん、こいつ、強さが判らないだけじゃなく。攻撃方法も思いつかない。クレイジースロットの鎖ならあるいは。しかし、6分の1以下に賭けるわけにはいかない。)

 

 強さについては「unknown」と出ている。カイトは既にレベル95。これより強いということだ。

 

 キリトも同じ表示を見ていた。

 

 「帰るぞ、あれはどうにもならない。」

 

 「そうだね。しかし、また出直してきても、何とかなるって奴じゃないね。」

 

 (おかしい、なぜこんなバケモノが、ここにいる?そうか、茅場、この先に、行かせるわけにはいかないってことか。ならば、行かねばならないのに。悔しいなあ。)

 

 今なら、離脱だけなら、無事に済ませることができる。カイトが号令しようとした時だった。

 

 トコトコと小さな足音で歩いていく白い影、ユイだ。

 

 眼前の「死神」の元へと進んでいくあどけない少女。真っ直ぐに、巨大な死神を見据えて正面に立つ。

 

 「ユイ!下がれ!」「ユイちゃん!ダメよ!戻って」

 

 パパとママの必死の叫び、しかし、ユイは下がろうとしない。

 

 アスナがたまらず、飛び出そうとする。

 

 「ダメだ!あの鎌が届く!レイピアではとても受けきれない。キリト、アスナを止めろ!力づくでも!」

 キリトは必死にアスナを止める。

 

 (二人の気持ちは解る。だが、ここは、ユイにやらせてみるべきだ。)

 

 キリト、アスナがあまりにも必死なので、カイトがユイを全く止めないという事実は見過ごされた。

 

 「ユイちゃん!どうして!、どうしてなの!」「逃げるんだ!ユイ!」「ユイちゃん!お願い!やめて!」

 

 

 「だいじょうぶだよ。パパ、ママ。わたしはだいじょうぶ。」

 

 その言葉と同時にユイの体が宙に浮いた。ユイは小さな右手を「死神」に向けて構えた。

 

 巨大な死神はユイに向けて鎌を振るう。凄まじい閃光と轟音。

 

 

 さらに現れた紫色の表示

 

 『Immortal Object』

 

 (そりゃそうだよな。だが、あと、どうするんだ?ユイ。)

 

 カイトだけが、キリト達とは全く、別のことを考えていた。

 

 

 

 ユイの右手から、紅蓮の炎が生まれ、一瞬にして巨大な炎の剣が現れた。

 

 ユイは無表情で、剣を振り下ろす。 一撃で死神は消滅した。

 

 (これは、凄い!敵無しだ。だが、ユイを使って、この先、攻略させてはくれまいな。)

 

 カイトはそう思った。

 

 「ユイちゃん・・・よか・・った。」

 

 アスナはユイが無事であること以外、何も頭になく、ただ安堵した。

 

 

 「パパ、ママ、ぜんぶ・・・思い出したよ。」

 

 

 ユイは一行を真っ白な部屋へ誘導した。中央に黒い立方体の石机。ユイはそこに座った。

 

 「パパ、ママ、カイトさん、シャルさん、アルゴさん。私はご推察のとおりプログラムです。カーディナルは本来、人間の手によるメンテナンスは不要です。ですが、私はプレイヤーのメンタル・ヘルス・ケア用のプログラムです。

 

 『メンタルヘルス・カウンセリング・プログラム』MHCP試作第一号コードネーム『Yui』

 

 これが私です。これだけは、人間の手によるメンテナンスを要します。その担当の手当がつかなかったので、私は本来の役割を果たすことが許されなくなりました。カーディナルによって、プレイヤーへの一切の干渉を禁じられたのです。」

 

 「私はそれでも、プレイヤーのメンタル状態のモニタリングだけは続けました。

 状態は最悪と言えるものでした。ほとんどのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常時支配され。狂気に陥る人も少なくありませんでした。私はそんな人たちの心の状態を見続けてきました。

 私の本来の役割はそうした状態の改善・解消です。ただ見ているだけで、何もできない。私の中には膨大なエラーが蓄積されていきました。

 そんな時でした。他のプレイヤーとは、全く異なるメンタルパラメータを持つ、ふた組みの男女に気付きました。」

 

 「最初に気づいたのはカイトさん、そしてシャルさんでした。お二人の間の大きな感情は他のプレイヤーに全く見られないばかりでなく、私には、未経験のものでした。この大きな感情の内容を知りたいと私は思いました。このお二人は全プレイヤーの中で最も感情が安定していました。

 私は最初、このお二人に近づこうとしました。私には、プレイヤーに違和感を与えないための、感情模倣機能がついています。しかし、このお二人、特にカイトさんの感情は模倣不可能でした。カイトさんは実は、感情の起伏は激しい方です。しかし、一時的に大きくバランスを崩しても瞬時に、本当に瞬時に平静に戻してしまいます。このような統制能力は、私のプログラムには全くないパターンでした。ですからそばにい続けることが難しい。さらに、私がこのお二人、特にカイトさんの前に現れたら、直ちに正体を見破られる恐れも大きかった。現にさっきもカイトさんは私を止めませんでした。私の正体を既に見破っておられました。」

 

 「次に、私はカイトさんたちよりは、やや不安定であるものの、やはり負のパラメータが小さく、正のパラメータが大きいもうひと組の男女に注目しました。お二人の間にも大きな感情がありました。それがキリトさん、アスナさんこのお二人です。私は今度こそと思い、このお二人にとにかく、会いたかった。幸い、キリトさん、アスナさんの感情の動きは私にも模倣可能でした。また、すぐに私の正体を見破られる心配もなかった。

 お二人は私をまるでご自分の本当の娘のように扱ってくださいました。私はお二人の間の大きな感情の内容を知ることができただけでなく、自分にそそがれる愛情という、本来私では、体験しえない感情まで体験できました。しかし、私は本来のプログラムでは、なくなってしまいました。自分が今、何であるかも、認識できないのです。」

 

 

 「ユイは自分の意思で俺たちに会いに来た。それは自分の願望があるってことだ。だからそれを言葉にできるはずだ。ユイは何がしたい?」

 

 「私は一緒にいたい。ずっと、パパとママと一緒にいたいです。」

 

 「ユイは俺とアスナの娘だ。ただのプログラムなんかじゃない!」

 

 「そうよ、これからもずっと一緒よ。ユイちゃん。」

 アスナはユイを抱きしめる。

 

 「でも、もう遅いんです。私は「The Fatal-scythe」をシステムに干渉してデリートしてしまいました。カーディナルはこのイレギュラーにすぐに気が付くでしょう。こんどは私がデリートされるはずです。」

 

 「ちょっと待って!」

 

 アルゴから声がかかった。

 

 「さっきから、ずっと見てたんだけど、ユイちゃん、カーディナルが、あなたをデリートする機能に干渉できるとすればこのコンソールの向かって左よね?」

 

 「はい。ですが、手順までは、わかりません。」

 

 「デリートを阻止することは、はできないわ。でも時間を稼ぐことはできそうよ。あたしのハッカーとしての勘に賭けることになるけどね。問題は、稼いだ時間で何をするかよ。」

 

 アルゴは宝石の形をした容器がついているペンダントを取り出した。鎖の先の宝石状のものは涙の形に見える。

 

 「これは『心』アイテムの入れ物よ。なぜこれを持っているかは説明している時間がないわ。キリト!あなたはここにカーディナルからユイちゃんの『心』を切り離しなして、これに保存しなさい。キリト、アスナ、ユイちゃんを今の姿のまま残すことはできないわ。ただ、今あたしが言ったことができれば、例えばゲームクリアした後でもまたSAOがプレイできるとすれば、そのアイテムで今の姿を再現できる。さらに現実世界でユイちゃんを再現することだって不可能じゃない。キリト、あなた、ユイちゃんのパパでしょ。それくらいやって見せなさい。」

 

 「俺やってみる、いや、やるよ。ユイを消させやしない。」

 

 「よく言ったわ。さすが、男の子って、もうパパだったわね。とにかく、カーディナルが、デリートしに来た瞬間が、あたしたちの勝負どころよ。あとはどこまで粘れるかだわ。」

 

 「今、アルゴさんのおっしゃった方法しか、ないと思います。ですが、綱渡りを何度も繰り返すような奇跡的に低い確率です。パパ頑張ってください。お別れは言いません。パパを信じています。でも、失敗しても私はパパを恨みません。」

 

 

 コンソールである石机が光った。

 

 「きたわよ!キリト、急いで!」

 

 猛烈な勢いで、コンソールのキーを叩くアルゴ。キリトも負けないくらいのスピードで、向かって右側のキーを叩く。

アルゴが「案外やるじゃないの」という表情で、チラッっと見る。しかし、とうとう、ユイの姿が、消えてしまった。

 

 「動揺するんじゃないの!ホログラムが消えただけよ!ユイちゃんはまだ消されてないわ。あと30秒が限界よ!」

 

 タイムアップ!その瞬間、石机全体が大きく光り、キリトは衝撃で、後ろへ吹っ飛ばされる。ギリギリで成功したようだ。

 

 

 「大丈夫、キリトくん?」

 

 アスナが助け起こす。アスナは泣いている。

 

 「泣かないで。これがユイの『心』だよ。ユイは消えてない。ちゃんとこの中にいる。さ、これはきみが持っていて。」 

 

 アスナに「ユイの心ペンダント」をかけてやる。ペンダントの先の涙型をした宝石状のものは、小さな心臓が動いているように、点滅しているようにも見える。アルゴはそれを確認して、カイトにVサインを送った。

 

 

                           

 エピローグその1 アルゴとカイト

 

 「いや、すまなかったね、しほり。苦労かけたし、損な役回りだった。リアルで埋め合わせはするからさ。」

 

 「あたしの一番欲しいものはもらえないけどね。ま、いいか。」

 

 「キリトはどうだい?」

 

 「なかなかやるわよ。超天才茅場晶彦の作ったプログラムから一部を切り離すなんて至難の業よ。」

 

 「頭自体はそこまで優秀ではないが、いくつかの、特化した能力を持ってるタイプだね。ゲームバカで終わるようなやつじゃない。」

 

 「ユイを現実世界で呼び出すどころか、肉体まで与えて具現化するくらいのことはやっちゃうかもしれない。大偉業だけどね、それ。たった二日であの親バカぶり。ああいうのが、あの子のエネルギーね。」

 

 「ホントはきみがやった作業の方が、ずっと難しいんだろ?」

 

 「いいのよ。アスナもいるんだし。ちょっとはいい格好させてあげないとね。それより問題はあの『ユイ』よ。あれ、大変なバケモノね。」

 

 「そんなに凄いのか?」

 

 「だって、考えてもごらんなさい。ユイは成長してるのよ。成長するAIなんて、見たことない。下手をするとユイは世界中から狙われるわ。しかも超優秀。一体、どこに自分のバグの原因を正しく指摘できる、AIがいるというの?みかけの可愛さと中身はかけ離れてるわ。そう言えば、人間の女の子にもいたわねえ、そういう子。」

 

 「夫婦揃って、目出度く人外認定か。あと、あのコンソール、ログアウトの時に作動するかな。」

 

 「するでしょうね。おそらく、カーディナルはゲームクリアと同時に、アインクラッド全体を消しにかかるだろうから。」

 

 「その時は、また、あそこに居てもらうことになるだろう。よろしく頼む。」

 

 「わかったわ。あなたに、頼りにされるって、いい気分だもの。そうね、あと何回か、あそこに行って、調べてみるわ。」

 

 「必ず二人以上つけるから、一人で勝手に来るんじゃないぞ。」

 

 「わかってるわよ。」

 

                                   

 

 エピローグ2 シャルとアスナ             

 

 「良かったわね、アスナ、ユイちゃん、助けられて。」

 

 「カイト兄さんとアルゴさんのおかげだわ。わたしなんて、ただ、おろおろしただけ。いつものことだけど、カイト兄さんって凄すぎる。今日来て、その日のうちに解決なんて。」

 

 「ありがと、アスナ。でもそう言っても、あの人はきっと『ユイが優秀だっただけさ』て言うわ。ユイちゃんがあの死神に向かっていった時でも、『プログラムなんだから、そりゃ破壊不能でしょ』みたいな顔だったわ。一人だけ平気で見てた。そういうのを散々見ているあたしだって、何それって、思うわよ。」

 

 「だけど、あの凄いバケモノを一目見ただけで、『帰るぞ』でしょ。それなのに、ユイちゃんが、向かっていったら『この子なら大丈夫』なんて判断は、人間にできる範疇超えてるわ。」

 

 「だから、ユイちゃんにまで、人外認定されちゃったじゃないの。ユイちゃんは、あなたたちを自分の両親に選んだのよ。あなたたちには、あたしが羨ましいこと、いっぱいあるわ。あたしたちは、ユイちゃんが自分達の娘、なんて感情は絶対に持てないもの。」

                        

 「だけど、シャルもすごいわ。わたしじゃあ、とても、カイト兄さんの奥さんは、務まらない。」

 

 「そんなことないわ。あの人がもう10歳若くて、先にアスナに会ってたら、アスナを好きになってわよ、きっと。でもそうなっていても、やっぱり先にあの人の会うのは、あたしって信じてるの。いいじゃない、それぞれ、自分が世界で一番幸せ、って思ってれば。」 

                                          続く

 

 

 

 

 

 




 キリトはユイがプレイヤーでないことはわかるはずで、原作の「親探し」はちょっと変だなあと感じました。

 作品とは離れますが、以前、キリトの現実世界での将来が不安視されていたのを見て作者は笑ってしまいました。キリトはユイのお守りをしてさえいれば、生活にも仕事にも困らないでしょう。アリシゼーション編が終わるとアリスも味方?世界最強クラスのAI二台持ってるようなものです。まあ、所詮はラノベのお話ですが。
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