昨日は楽しかった。カイト達の結婚披露宴を機に、カイトたちはもちろん俺たちやあのキバオウとも親しくなった「釣り師」ことニシダさんと俺で、この層の最大の湖に住む「ヌシ」を釣り上げたのだ。
ニシダさんが家にきたのではなく、ちょっとヒマを持て余した俺がその最大の湖で釣りをしていたら、ニシダさんが見つけて、声をかけてくれたのだ。
「釣れますか?」
「いやあ、さっぱりです。難しいものですね。難易度が高いのかな?」
「実はね、キリトさん、この層にある湖の中でこの最大の湖だけが飛び抜けて難しいんです。」
要するに、俺はビギナーのくせに、いきなり迷宮区に行って、狩りをしていたようなものだったということだ。命の危険がないだけマシだが。アスナには大笑いされてしまった。
「で、モノは相談なんですが・・・」
ここから、ヌシ釣りの話になったのだ。
その「ヌシ」は人間より大きいどころか、フィールドボスなみの大きさらしい。それでもこれまでに数回以上、針には掛けたと言う。だが、ニシダさんの筋力では、こいつを釣り上げることができない。そこで、針に掛けたところで、俺に「スイッチ」して何とか釣り上げようというのが、釣り師ニシダのヌシ釣り作戦だった。
こんな面白そうな話に俺が乗らないワケがない。ところが、ニシダさんたら、大々的に告知しちゃって、当日はそこいらじゅうに、のぼりや横断幕。最も、全てがニシダさんに期待するもので、俺はあくまでも通りすがりの助っ人である。しかし、派手好きなカイトと違って、やっぱり俺はこういうのは苦手だ。
「それでは、皆さん、本日最大のイベントであります、ヌシ釣りに挑戦したいと思います。」
観客は大拍手だ。ニシダさんが取り出したのは、片手では持ちきれないような両生類型のMobちゃんとカーソルがついてる。(どんだけ大物なんだ?)俺は段々不安になってきた。ニシダさんはそいつを生きたまま針に付けて無造作に湖に投げ込む。
泰然とした態度のニシダさん。釣りスキルコンプリートの貫禄だ。と、10メートルくらい先に浮いている浮きに反応があった。
「あの、引いてる・・・んじゃ?」
「いえ、まだまだです。」
さらに浮きはグッと引き込まれる。
「ニシダさん、引いてますよ!」
「なんの、まだまだ。」
浮きはさらに引き込まれ、ニシダさんも踏ん張り
「今だ!」と声を掛けて合わせる。かかった。
と思ったら、
「キリトさん、スイッチいきます、スイッチ!」
(ええっ!もうかよ!)
ナリはともかくとして、筋力値コンプリートの俺があっという間に湖畔、それも水面まであと数十センチのところまで引っ張られる。このまま、湖に引き込まれてはお笑いイベントになってしまう。何とか踏ん張る。さらに渾身の力で釣り上げようとした。あと一息だ。だが、どうしたことか、観衆が一斉に逃げ出す、ニシダさんも、そしてアスナまで(そりゃないよアスナァ!)。反り返っていた俺だけには、ヌシの姿が見えない。バラしたのか?そうではなかった。ヌシはやはり、Mobだった。陸に上がって歩いてくる。だが強さはたいしたことはない。一人残された呑気な俺は(ん、歩いてくる。「肺魚」なのか?)などとのんびり見ていた。
しかし、騒ぎは大きくなるばかり。そろそろ何とかしなければいけない。(いかん、今日は剣を置いてきてしまった。)剣を置いてきたのは目立ちたくないから。素手でも何とかなるが、そんなことをしたら余計に目立ってしまう。俺はアスナのところに行き、
「アスナ、剣、持ってる?」と訪ねた。アスナは苦笑して、
「もう、しょうがないなあ。」
と腰に隠していたランベンライトを抜いた。
まあ、この程度のMobは、アスナの相手じゃない。観客は「大丈夫か?!」などと騒いでいたが、一撃で倒す。覚悟していたことだが、これでせっかく顔まで隠していたのが、台無しになり、「閃光のアスナ」であることがバレてしまった。それからは握手責め、サインを求められるなど大騒ぎ。俺たちが結婚したことは公にされていないので、俺が「黒の剣士」であることはバレてはいない。
ヌシがドロップしたのは「スペシャル釣竿」素晴らしいモノというのはど素人の俺でもわかる。これはニシダさんに進呈した。ニシダさんは恐縮していたが、こんな逸品は「釣り師」が持つべきだ。俺が持っていても飾りにもならない。
デュエルの目的
しかし、解らないなあ。カイトはこう言った。
「君のスターバースト・ストリームはシャルでも初見では避けられなかった。つまり誰にも避けられないということだ。僕だって今の速度でギリギリ、まだまだ速くなるはずだからな。いずれ、避けられなくなる。だから、君に勝とうというならあれを使わせなければいい。しかし、それができるのは、僕とシャルだけだ。ヒースクリフはそれでも君との勝負を望んできた。ということは、あの盾で受けられる何かがあるのだ。
あいつの計算通りなら、君は負けるし、君があいつの想定より速かったら君の勝ちだ。もちろん、必ず勝つつもりでやれ。この勝負が終わったら、君には大事な話がある。話の内容は勝負の結果で変わってくる。あと、システム外スキルは奴に見せるな。これからはボス戦でも隠しておけ。」
「何かヒースクリフが敵みたいな話だね。」
「実際の戦争は、誰が敵で、誰が味方か見極めるところから、始まるんだ。どっちつかずが、必ず参戦するからな。戦争の最中でもそれは変わる。寝返りなんて、普通にあることさ。」
(やっぱりわからない。だって敵はボスモンスターなんだから、ヒースクリフは味方じゃないか。寝返りようもない。でも、それなら何で俺とやりたがる?俺に勝ったって、まだシャルとカイトがいる。最強は名乗れない。何の意味があるんだ?それに俺もカイトも、ヒースクリフは嫌いだけど、ヒースクリフは、俺たちのどちらも、好きみたいだ。特にカイトのファンクラブの会員番号1番つまり、クラブの会長だ。何考えてるんだろう?あのおっさん。)
第五五層 グランザム 血盟騎士団本部
NoSide
「そないなこと言われましても、チケットはもう印刷終わってま。看板かて、横断幕かてあんじょう用意したのにいまさら変えれまへん。」
困惑の声をあげているのは、血盟騎士団会計のダイゼンだ。キリトとヒースクリフのデュエルを前にして、看板、チケット等の制作は血盟騎士団に任せた。ところが、問題が生じたのだ。
伝説の男「神聖剣」ヒースクリフ VS 「二刀流の悪魔」キリト
「ふざけるな!!」インビクタス本部で、この声を聞いた者は仰天した。これを見たカイトが、激怒したのである。毒舌、時に猛毒舌のカイトだが、言葉を荒げることなど、いままでなかった。問題は「悪魔」という表現である。ヒースクリフを祭り上げるのはいい、「伝説の男」というのも血盟騎士団にとってはそうなのだろう。だが、キリトはインビクタスのエースだ。勝手に悪役にするとは何事か!「神聖剣」と「二刀流の悪魔」では、神と悪魔の対決ということになるではないか。狙ってやったのなら、万死に値するし、うっかりならあまりにも軽率だ。大人の世界では、こういうのは過失ではすまされない。少なくとも「重過失」だ。「悪魔」という表現はキリトに対する侮辱である。カイトは怒って見せたのではなく、心底激怒したのだ。
キバオウはカイトの前でガタガタと震えていた。
「キバオウ!相手が全部やり直さないと答えたら、以下を僕の言葉として、そのまま伝えろ!いいな!」
「貴ギルドの代表に神の名を冠し、我がギルドのエースに悪魔の名を冠する斯様なタイトルはキリト個人に留まらず、我がギルドに対する侮辱である。我がキルドが受けた侮辱は、マスターである私が晴らそう。キリトの代わりに私が出場する。そちらが望むのなら、完全決着モードも辞さない。むしろ望むところだ。これは文字通り、決闘である。娯楽でも余興でもない。したがって、こちらの好意で、用意していた演物はすべて中止する。」
「そ、そんな、たかが、肩書きやないですか・・・殺生や、堪忍しておくれやすキバオウはん。」
「ワイにはどもなりまへん。あんさんかて、よう知ってはりまっしゃろ?うちの団長は、やるいうたら必ずやるお方ですよって。『たかが肩書き』いう、あんさんのお言葉も、そのまま伝えまんが、よろしいでんな?」
ダイゼンの顔から血の気が引いた。この男は生まれて初めて、本物の恐怖というものを実感した。
「後生や、後生でっから、そいだけは、かんにん!な、キバオウはん!」
ダイゼンはキバオウの足に縋り付いて懇願した。
心底、震え上がったダイゼンが、ヒースクリフに伝えたところ、厳しく叱責され、直ちに、すべてやり直すことを命じられた。そしてヒースクリフは、自ら単身でインビクタス本部へ赴き、カイトに謝罪した。
カイトはむしろ自分が大人気なかった、といい、極めて穏やかに応じた。滅多に表には、現れないが、これこそカイトの本性である。紅蓮の炎と清流の静けさを併せ持つ。まさに、ユイが指摘したとおりなのである。
キリトがこの事実を知ったのは、対決後のことであったが、カイトの自分に対する愛情の深さに感動した。涙が出そうになった。カイトが激怒したところなんて、一度も見たことがない。確かに、カイトらしくない大人げないところはあったが、他のメンバーも体を張って、キリトを守るカイトの姿に、一様に感銘を受けた。
決戦当日
第五五層 グランザム 闘技場
このゲームが始まってから、これほどの人が集まったのは、はじまりの街でのデスゲーム宣言以外では、前代未聞であった。何と観衆の数は4000人を超えた。つまりアインクラッド全部の生存者の約3分の2だ。実は観衆の多くのお目当てはヒースクリフ対キリトの決戦ではなかった。「前座」の方がはるかに豪華かつ煌びやかであった。
最初は「テイム・シスターズ」 共にビーストテイマーであるグリゼルダとシリカの共演である。
グリゼルダはユニフォームではなく、黒を基調とした乗馬服で現れた。これがまた清楚な感じの容貌をさらに引き立てていた。シリカもカラフルなアイドルチックな衣装に小さなシルクハット。これにはシリカファンならずとも萌えた。ラムレイに乗ったグリゼルダの見事な馬術。これをシリカがピナと共にサポートした。最後はラムレイの背中にピナが飛び乗るアクションで締められた。グリゼルダはシリカをとても可愛がり、ラムレイとピナもまた非常に仲がよかった。特に調教など必要なかったくらいである。
次の演物がまた、凝っていた。最初に登場したのはシャル。男装して登場し、「シャルル」と名乗ってマジックを披露した。マジックも見事であったが、宝塚歌劇団の男役も負けそうなその華麗な姿に観衆は魅せられた。
シャルは続いては、アルゴ、ウインリーと共に今度は、「シャルロット」と名乗り、アイドルユニットとして登場した。歌と踊りも見事だったが、圧倒的に目立ったのはシャルロットのアクロバットであった。同じシャルが男性と女性を演じ分け、しかもその容姿はいずれも文句なく美しい。男装は凛々しく、女装は優雅でセクシー。現実世界に戻っても文句なしにトップアイドルが務まる。シャルルもシャルロットも本名であるが、プレイヤーネームがシャルなのでどうということはなかった。こういうのは、絶対嫌と言っていたアスナでさえ、(一回くらいやってみようかしら)と思ったほど、素晴らしいショーだった。すべての演物の企画・演出はもちろんカイトが行っていた。
さていよいよメインイベントである。
伝説の男「神聖剣」 ヒースクリフVS.黒の剣士「二刀流」 キリト
このように改められた。これが普通であろう。インビクタス側からすると、ヒースクリフの肩書きが癇に障るのだが、それは彼らの頂点に位する「軍神」カイトに対するリスペクトが欠けているからであった。初撃決着モードである。
キリトSide
(俺、何しに来たんだろう?どっちが主役なんだか。やりすぎだよ全く。)
演物はいずれも素晴らしく、キリト自身も夢中で、見てしまったが、いざ自分の出番になってみると、何となくやりにくい。確かに仮に負けたとしても、これなら全然目立たない。しかし、それはそれで、釈然としないものがあった。(戦いが始まればやる気も出るさ。)そう思って臨んだ。
「とにかく怪我しないでね。勝って怪我するより、負けても怪我がない方が、わたしは嬉しいわ。」
アスナのこの言葉は戦いに臨む夫に対するものとしては、少々疑問だが、愛情たっぷりであり、キリトにはこれで十分だった。
カイトSide
カウントダウンが始まり、タイマーが0になった。
キリトはいきなり、突っ込んでいく。ソードスキルは発動しない。ヒースクリフは盾と剣の両方で防御しているように見えるが、カウンターを狙っている。
(こうして見ると「神聖剣」の正体が分かる。一見、盾が主役だ。剣じゃない。だが、実は注目すべきは剣の方だ。)
攻防を繰り返すうちに、盾でキリトが吹き飛ばされた。キリトのHPが減っている。
(あの盾には攻撃判定があるのか。また自分に都合良く作りおって。ただ、初撃決着なら、あんなのは、スリップダウンみたいなものだ。)
キリトの闘志に火が付いたようだ。攻撃が一段と激しくなった。
(もう観客のほとんどにはキリトの剣は見えないだろうな。)
キリトの剣のスピードが増した。ヒースクリフが押され始めた。ここでキリトは決めに出た。
スター・バースト・ストリーム
ゲームとはいえ、キリトはやはり天才だ。16連撃が後半になるほど速いというのは、仕様だけではあるまい。ユニークスキルってのはそこがはっきりしない。ここまでの打ち合いを見ても、最後の一撃は受けきれないはずだが。
(15擊目でとうとう盾を弾いた。やはり最後の一撃で終わりか。シャルですら受けきれなかったからな。)
カイトがこう思った瞬間、盾が倍速以上の動きで戻ってきて、最後の一撃を受け止めた。
(なるほどそういうことか。しかし、これならば勝算は立った。)
カイトはキリトの負けを確信したのに、ニヤッと笑った。
最後の16連撃目を受け切られてしまえば、長い硬直が来る。これに対するカウンターは簡単だ。
勝者はヒースクリフだった。
地元のヒースクリフが勝利した割には歓声が少なかった。キリトの勝ちを予想した人が6分4分で多かったからである。観衆の70%以上が賭けに参加していた。
「ごめん、負けちまった。」
「謝ることはないさ。まあ、新婚休みで、少し実戦の勘が鈍っていたかもな。少々ムダな攻撃があった。初撃決着の一発勝負では実力はわからないさ。」
「でも、最後のアレはおかしいよ。」
「人の耳もある。その疑問は当然だ。あとでじっくり説明してあげよう。」
第五〇層 ギルド「インビクタス」本部 団長室
「あの最後の攻撃を受けた盾の動き、何だと思う?」
「あそこまでの動きの倍以上の速さだった。本当はあの速さがあって温存していたとは考えられない。そんな余裕はなかったはずだ、。ムダな攻撃って言われちゃったけど、俺なりに計算して、受けきれないって思って、決めにいったんだ。ありえないよ。だってシャルより反応が速いなんて。あれじゃあカイトよりも速い。」
「そうだ、シャルが受けきれないものが、奴に受けきれるはずがない。」
「それじゃあ、やっぱり。」
「そうだ。システムのアシスト以外ない。倍速以上、も正しい。実際に倍速、三倍速で動ける僕が言うんだから間違いない。」
「そんなことができるのは、それじゃあやっぱりヒースクリフは・・・」
「そうだ。そんなことができるのは、ゲームマスター以外ありえない。」
「いつ、知ったの?」
「驚くかもしれないが、あいつが出てしばらくそう第二〇層あたりだな。あのころは、よく、まだ男の子だったシャルとそのことを相談しててさ。」
「そうね、懐かしい気さえするわ。」
「どうして、教えてくれなかったんだ?」
「君がまだ、未熟だったからさ。教えたらヒースクリフに問い詰めるだろう。それじゃあ、台無しなんだ。いいか、考えても見ろ、奴はいつでも僕らを消せるんだぞ。だからな、これは度胸比べなんだ。あいつは絶対にそれをしないという前提で、コトを進めるわけだからね。あの時、僕の考えた作戦をシャルが見事に表現したよ。『茅場晶彦はラスボスだが、ヒースクリフは味方』ってね。君があいつと喧嘩したら、この構図が崩れるじゃないか。あいつは第一〇〇層に篭ってしまう。使えるモノは使い倒してやればいいじゃないか。」
「タイミングを測って、燻り出すわけなんだね。」
「そうだ。あいつは僕が気づいていることなんて、とっくに知ってるさ。もう心の中では、僕に対して負けを認めていると思うよ。ただ、あいつは一〇〇層で最終決戦と考えているが、そんなに待ってられるかってことだ。」
「どうやってチャンスを掴むの?」
「実は君がトラップにはまった時、作戦はほぼ完成した。具体的には、ボス部屋に結晶無効化空間が出現した時だね。ここで完全に奴は敵になる。」
「ごめん。俺、頭悪いから判らない。」
「頭が悪いんじゃなくて、経験不足だな。いいか、結晶無効化空間がボス部屋に生じたら、どんなに危険か君なら実感として解るだろう。」
「うん。危険すぎる。」
「ひとつ、ひとつをもっと詰めて考えてごらん。まず、それに出会うのが偵察隊だ。今、偵察戦は、我々が一手引受けだけど、奴はどこから結晶無効化空間になるかは知っているわけだ。まあ、我々なら切り抜けられるさ。でもな、これの次には何が来る?」
「そうか!扉も閉まる!」
「そうなったら、いくら僕でも偵察はしない。さあ、ここだ。偵察戦なしで戦う、という僕の提案に応じればまあ、一緒に戦ってやってもいい。だけど、どっかで、投げナイフでもかましてやるさ。あの紫色の表示(破壊不能オブジェクト)さえ出せば、まず、決戦になるからな。実際、このあいだの死神、あれを見るまでは最後まで付き合ってやるかくらいに思った。しかし、遅くも第九五層からは、あのくらいのが続くかと思うと、無理にでも決戦したくなる。」
「あれとやるのは嫌だな。」
「あたしもごめんだわ。」
「そうだよ。頼れるユイちゃんもいないしな。」
「ユイまで使おうなんて、考えるなよな。」
「まったく、すっかり親バカなんだら。まあ、ユイについてはまた話すことがたくさんある。それはまた別の機会にな。」
「だから、少々無理でも決戦に持ち込むのが基本。次に、ヒースクリフがそれでも偵察戦をやっぱりやりましょうと答えた場合。 こう、答える公算が大だ。ゲーマー的思考なら、それが基本だからさ。リンドは同調する。しかし、それにはウチは応じないとすれば、結果、血盟と聖竜から大量に犠牲者が出る。これが、許せるか?」
「全部やられるのを、知ってるんだもんな。許せるわけがない。」
「奴は、僕たちが偵察戦を行い続ける場合には、何も言わない。犠牲を避けるためにはそれしかない。しかし、考えても見ろ、扉が閉まったら、あの死神みたいなのを一発勝負で、倒さなければならないんだぞ。例えば、クォターポイントの第七五層あたりだったらな。いくら僕らでも、少なくとも、死者0とはいくまい。それを黙っているのは、やはり許せることではない。もちろん、奴には黙って偵察戦を続けるが、ここで策がある。」
「そういうのが、さっぱりわからないんだ。もどかしいよ。」
「いいんだよ、わからなくて。君は、現実世界で戦争に行くわけじゃない。僕ももうごめんだ。シャルがいるからな。それはともかくだ、ここで、オレンジを使う。」
「最初に、オレンジを誰か、突っ込ませるってこと?それ、あまりに非人道的って言うか、酷くない?」
「黒鉄宮送り、ではなく、死刑相当の奴にチャンスをやるんだ。扉が閉まらなければ、黒鉄宮送りで、勘弁してやるってね。もちろん、助かっても、そいつは、リアルに戻ったら、捕まえて、司直の手に委ねる。逃がしはしないがね。」
「話を続ける。扉が閉まれば、偵察戦はなしだ。だから、そのケースで、決戦を挑めば、奴も、負い目があるから、『ばれちゃったか、ごめんね、じゃ第一〇〇層で待ってるから』はできないだろう?もちろん、僕は勿論本気で怒る。自分では、そこまでわからないんだが、これは、相当、怖いらしい。」
「あっ それ言わなくちゃ、ごめん。いきなり大事な話になったからさ。」
「何のこと?ああ、あれか。」
「俺のために、激怒してくれたんだって?ありがとう。俺、そこまで思ってくれてるなんて、嬉しくて。」
「気持ちが通じて嬉しいよ。あれは、本気で怒った。まあ、ダイゼンが嫌いっていうのもあるけどね。ああいう小賢しい奴は、どうも好きになれない。」
「キバオウはガタガタ震えてたし、キバオウから、あなたの言葉を聞いたダイゼンは、キバオウの足に縋り付いて泣いて懇願したって。あなたのやることに文句なんかないけど、あそこまで怖がるなんて。ねえ、キリト。ヒースクリフまで、その日のうちに、ここに来て、90度に折れて詫びてたのよ。ヒースクリフでさえ、恐れていたわ。」
「あいつら全員、根性なさすぎるんだよ。キリトはちょっと、泣き虫だけど、根性はしっかりしてる。」
「俺の、そういうの、知ってるのって、カイト兄貴とアスナとシャルぐらいだもんな。」
「つまり、その3人が、きみが、一生勝てない相手さ。少ないほうだぞ。」
「ちぇっ でもいいや、どうせ、勝てる気がしないから。」
「そうさ、だって、戦う相手じゃない。きみの一番の味方だよ。なあ、シャル。」
「そうよ。あたしだって、一番の味方って言えば、あなたたち、ふたりになるわ。」
「分かった。決戦とゲームクリア、一応、両方覚悟しておく必要があるんだね。」
「そういうことだ。さ、これでも第二二層のログハウスに戻るか?」
「戻れるわけないじゃん。アスナだってきっとそう言う。どうせ、ここまで読んでたんでしょ?」
「それはそうさ。うんうん、嫁の考えまで、つかめればなかなかだ。キリトの考えることは、アスナは大体わかるからな、もともと。分からなければ僕に聞けばいいんだし。」
「そうかあ、でもシャルは大変だね。この兄貴が考えてることなんて解るの?」
「あら、わかんないわよ、ほとんど。」
「いいのかよ、それで。」
「カイトは強いから、あたしが助けなくても、大丈夫。」
キリトとヒースクリフのデュエルはアインクラッドの人々の心に・・・あまり残らなかった。双方秘術を尽くした、ということは解る。だが、ほとんどの人には剣の動きも盾の動きも見えなかった。ヒースクリフがなぜ勝ったのかも、本当には理解できなかった。
それよりも、その前のショーの印象が強すぎた。もともとそれを見に来た人の方がずっと多かっのだ。登場した5人の女性はいずれも美しく、アインクラッドでも人気上位だった。中でもシャルは二役を見事にこなし、このイベントをきっかけに、アスナにかなりの差を付けて、アインクラッドのトップアイドルになった。
続く
「二刀流の悪魔」はキリトがギルドに所属してたら、クレームはつけるでしょう。「完全決着モードも辞さない」は大人げないですが、本気で怒ってるのを示すためです。