プロから見たSAO攻略   作:ベルクーリ2世

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 カイトのチートっぷりが、段々と現れてきます。


第4話 キリトの受難

 

 カイトSide

 

 アクティベートを終えてダッシュ。いきなり「牛」と出くわす。右手で石を投げる。石が光る。石でもスキルは作動するのだ。相手の額に命中。こんどはナイフでやってみる。少しはましか。怯んだところを短剣でトドメを刺す。

 

 「まったく、石なんか投げてる場合じゃないな。せめて早く毒が欲しいもんだ。この層からあるにはあるな。短剣も火力不足だしなあ。ま、なにもかもはうまくはいかないな。」

 

 その時、ダッシュで門を抜け、ウルバス草原の方へ走る女が目に入った。(あのスピードは「鼠」以外いない。追われているとはどういうことだ?追うか?いや、それは、キリトがどこ行くかわからん。やはり、シャルだけは連れてくるんだったか。)カイトの頭は高速回転していた。

 

 

 酒場にてアルゴと会う

 

 「いやあ、よく呼び出しに応じてくれたね。カイトだ。はじめましては、いささか、白々しいかな。」

 

 (この女には、できれば会いたくないんだが、利用価値はあるからな。)

 

 「あんたにハ、オイラの方で探シテ、礼をいわなくチャならなかったところだヨ。」

 

 「僕は、何もしてないよ。むしろ、君の商売の邪魔をしたかもしれない。」

 

 「カイトさんニハ、トテモ敵わなイってオレッチも分かってるカラ。」

 

 「カイトでいいよ。リアルと同じお願いをするけど、あまり、つきまとわないでくれると有難い。」

 

 「そう言われテハ、ますます、やめルわけニハ、いかないナ。」

 

 「ははは、まあ、要件に入ろう。あの妙に、高い山の頂上には、何があるのかな?知っているよね。」

 

 「オイラがなぜ。知ってイルと?」

 

 「ベータテスト時からエクストラスキル体術、の噂はあった。実在すれば、クエストの場合、噂は出てくるし、存在自体がデマということはまずない。だとすれば、その詳細を君が知っている可能性は高い。」

 

 「知っていたラ、公開してるヨ。」

 

 「その返事で解ったよ。かなり達成困難なクエストなんだね。達成の見込みがありそうなプレイヤーには売る、と?」

 

 「その情報ハ2万コル。」

 

 「うわっ高いなー」

 ニヤッと笑う。

 

 「今ので解ったよ。達成困難なだけじゃあない。他に教えたくない理由があるね?」

 

 「その情報ハ10万コル。」

 

 「なるほど、トップシークッレットか。ふふふふ、じゃあ質問を変えよう。キリト君と一緒にそのクエストを受けたい、と言ったら答えてくれるかい?」

 

 「ふーっ参ったヨ。オレッチの方から、こんなニ情報を抜かレルのは初めてダ。キー坊ニ確認シテ、OKなら教えるヨ。二人には大きナ恩ガあるカラナ。」

 

 「ありがとう。次はキリト君と一緒に会うよ。さて、他にも用があるんだ。君の情報収集力は、なかなかのものだ。さすがだな。しかし、攻略情報だけは迅速が命だ。遅れは命取りになることもある。大げさではなく、生存者全員の命がかかっている。一人で調査するのには限界があるよ。

 いいか、情報収集に協力が必要なら、必ず僕のところへ来るんだ。僕が秘密を守ることくらい、もう分かるだろう。それは情報屋のプライドが許さないというなら、仕方がない。僕は君を追っかけるよ、時々ね。僕の尾行、追跡は君でも気づけない。はったりかどうかはわかるよね。君が僕を追うのは難しいが、逆は簡単ということさ。」

 

 「その通りニ聞いテおくヨ。」

 

 「はっはは。納得してないようだな。僕はキリトを守らなければならない。だが、君が彼を弄るのは黙認しよう。僕も見ていて、面白いからね。」

 

 「悪イ人ダナ。キー坊に売ルヨ、この情報。」

 

 (この女に近づくのは危険すぎるが、「体術」は必要だ。前のボス戦でよく分かった。)

 

 「ハハハ、また会おう、アルゴ君。」

 

 

 キリトSide

 

 Mobを見たらとりあえず狩る。そいつが俺のやり方だ。なんちゃって、実はそれでやられた恥ずかしい過去が1回だけだが、ベータテスト時代にある。だが、ここはもう勝手知ったる第二層。蜂も牛も狩る。しかし、だんだんでかくなるんだよなあここの「牛」。ん、そうか思い出したぞ。ここの「牛野郎」たちには、確かに「投剣」は例外的に有効だ。やるなあ、カイト。あ、いた。

 

 「やっと来たか。ごゆっくりとは言ったけど。」

 

 (忍者みたいな格好をしている。何なんだ、こいつ?)

 

 「待ってたのかよ。それに何だよその格好?」

 

 「今にわかるさ。実はね、早速、受けておくべきクエストがありそうなんだ。まあ、あの山の頂上と、見当はついていたんだけどね。それにふさわしい格好をね。ま、行ってみればわかるさ。」

 

 「何で山なんだよ?」

 

 「現実世界と違って、この世界では意味のない、ただの風景ってまずないだろう?例のエクストラスキルのクエストはあそこじゃないかってさっきアルゴに会って、あたりをつけたら、手応えアリだった。」

 

 「鼠からタダで、情報抜いたのかよ。すごいな。」

 

 「いや、実はね。彼女、門からいきなり走って、山を登っていったんだよ。案外ガードが甘いな、彼女は。まあ、追っかけられないこともないんだが、結構速いから面倒だ。そしたら、もう追っ手がいるじゃないか。二人組だった。それで降りてくるのを待ってたんだ。結論は、キリト君と一緒にクエストを受ける条件なら教えてくれるそうだ。」

 

 「何で、俺が関係あるの?」

 

 「第一層での恩だとさ。君を出汁に使って悪かったがね。ま、キリトへの恩が7分、僕へが3分、ってとこかな。」

 

 (本当はシャルも連れていきたいんだが、アルゴにはシャルの存在は、まだ、隠しておきたい。ビジュアル的にもアルゴなら飛びつくだろうからな。)カイトはそう考えていた。

 

 「うん、いいよ。付き合う。すぐには、他にやることもないしね。」

 

 早速、アルゴを呼び出す。

 

 「久しブリ、でもナイカ、キー坊。」

 

 「俺に恩があるって?またらしくもない。」

 

 「キリト、それは失礼だ。彼女はなかなか、義理堅いぞ。」

 

 「これはどうモ、カイトさん。オイラに目をつけタのは、あれだけガ理由じゃないナ?」

 

 「おう、一本返されたね。流石だ。君、追われてたろ?」

 

 「何ダ、見てたのカ?人が悪イ!」

 

 「助けなかったのは悪かったが、君ならどうせ逃げ切れる。僕は、無駄なことは嫌いでね。追っていた奴らの見当もつく。」

 

 「誰なんだよ?」

 

 「キリト、風魔忍軍の二人組って覚えてるか?」

 

 「ああ、あの敏捷値極上げの、前衛でMobのタゲ取って、結局、いつも他のパーティに押し付けてった、あいつらのこと?」

 

 「そうだ。普通の奴なら、そもそも、アルゴ君を追う前に諦める。彼らの夢は、忍者プレイだ。必須なのは何だ?」

 

 「体術!そうか、それで!」

 

 「ということで、いいかなアルゴ君。これからもあいつらに、追いかけられては、いくら君でも、少し面倒だろう。アレらは僕が片付けてあげよう。いやオレンジになるようなことはしないよ。あいつらも僕を敵に回すのは相性的に最悪だろうからね。」

 

 アルゴは返事をしないが、肯定と受け取っていいだろう。

 

 「キー坊。改メテ、礼を言うヨ。大変な迷惑をかけタ。」アルゴに頭を下げられたのは初めてだ。

 

 「ダカラ、お詫びのしるしとシテ、何デモ情報をひとツ提供スルつもりダッタ。この情報デ、本当にいいのカ?」

 

 「いいよ。これに代えられる情報はちょっとない。」

 

 「カイトさんの言ったとおりなんダ。奴ラ何度売らナイと言っても諦めナイ。だから、ヤツ等を止めるためニモオレッチガ、案内するヨ。」

 

 「ようし、じゃ早速行こうぜ。」

 

 この情報をなぜ、売らないことにしていたか。それはクエストを受けることで「鼠」の最大の秘密が明らかになるからであった。つまり、俺は今回、「鼠」のトップシークレット二つを同時に知ることができたのだ。

 

 

 ウルバス西平原はかなり大型の野牛型モンスターがいる。カイトもこいつを面倒臭がってアルゴを追わなかったのか?あれ、投剣投げてる。同時に2本?あっ急所に当たった。

 

 「キリト、出たモノは狩らなきゃ。」

 

 グォォオオオーン!

 怒りと言うより既に苦しんでいる叫びだ。麻痺毒が塗ってあったのか。

 

 「ちぇっ、わかったよ。」

 すかさず、バーチカルアークを放つ。やはり、まだ一撃とはいかない。カイトも今度は短剣で、ラウンドアクセルを放つ。もう一丁俺が攻撃したところで、消滅した。確かに「投剣」さえあれば、こいつも手間はかからない。カイトは俺にLAを譲ってくれたのだ。ボスでなくても、LAには、経験値等が多少上積みされる。

 

 

 Mobは片付けたが、前を行くのが、敏捷値極上げの二人だ。アインクラッド最速じゃないのか?追走には骨が折れる。と、急にスピードが落ちた。ん、何か出たか? 

 

 「貴様、何奴!」

 

 「其を問うならば、まず貴殿らから名乗るが定法。」

 

 「拙者、風魔小太郎と申す!」「同じく伊助!」

 

 「二人がかりで、落花狼藉に及ぶか!御公儀お庭番としては見逃すわけにはゆかぬな。」

 

 (カイト、ノリノリじゃん。そういえば特技は?って聞かれると「忍術を少々、趣味でね」とか言ってるよな。忍者に見えないこともないか。御公儀って、確かにリアルでは一応、公務員だし。)

 

 「公儀だと!貴様、さては伊賀者か!名を、名を名乗れ!」

 

 「風魔風情に名乗る名など無いが、『風』とでも呼ぶが良い。押して参る!」

 

 てっきり、ここからは、スーパー忍者大戦が、見られると期待したのだが、さんざん挑発しておいて、カイトは何も抜かない。まあ、圏外じゃあ当然だ。しかし、気圧されて二人の忍者はずるずると後ろへ下がる。と、

 

 「君たち、後ろに気をつけた方がいいよ。」突然、いつもの口調に変わる。

 

 「「その手は喰わないでござる!」」

 

 「ああそう。ちゃんと、忠告はしたからね。」素早く逃げて隠れる(隠蔽)カイト。アルゴはもちろん、俺もそこに何がいるのか、気がついていたから退避している。

 

 そこには巨大牛型モンスター、「トレブリング・オックス」が出現していた。全長約二メートル半。タフで攻撃力も強い。こいつとやるのは確かに面倒だ。二人組はまだ、それほどレベルは高くないはず。第一層のボス戦でも見なかったし。

 

 「ブモォォォオオ!」

 

 牛だけに当然、突進してくる。

 

 「「ご、ござるぅー!」」

 

 二人共、全速力で逃げていった。

 

 「ふ、埒もない。あの程度で忍者を名乗るとは笑止。」

 

 再び現れて、見栄を切るカイト。

 

 「いつまで浸ってんだよ!」

 

 「アハハハ!カイトさんの正体ハ、伊賀ニンジャッテコトデ。」

 

 「いいよ、それで。僕も合わせて、あげてもいい。嘘も100回言えば真実になる。」

 

 (こいつ、どこまでも遊んでやがる。何が「遊びじゃない」だよ。)

 

 ちょっと洒落た寸劇の後の道行きは、なるほど難儀だった。これでは、カイトでも手間をかけてアルゴ自身に案内させるわけだ。テーブルマウンテンをよじ登り、地下水流を潜る。数度の戦闘は俺が担当し、その場所にたどり着いた。着いてみれば確かに東の端にひときわ高くそびえる岩山の頂上だ。

 周囲はぐるりと岸壁に囲まれ、泉と一本の木、そして小屋。ここがそうなのか?

 

 老人の姿をしたNPCが

 

 「入門希望者か?」

 

 「如何にも」カイトは即答だ。

 

 「修行の道は長く険しいぞ?」

 

 「覚悟の上でござる。」

 

 こいつ、まだ忍者モードかよ!クエストマークが「!」から「?」に変化した。

 

 老人(いや「お師匠様」か?)がカイトを何処かへ連れていった。

 

 「おい、これ、本当に達成できるのか?」

 

 にわかに俺は不安になった。内容も知らないはずなのに、即答って何だよ。大人のはずだろ、あいつ。

 

 「ナゼ、オイラガコノクエストの情報ヲ、売ラナカッタノカ?ソレガ答ダ。」

 

 「ここで何すりゃいいんだよ?」

 

 「その情報ハ有料ダ。」

 

 くそう、足元見やがって。どうせクソ高いんだろ?ままよ、やってやるよ!

 

 カイトと同じ問答をして、連れていかれたのは、小屋の外、岸壁に囲まれた庭の端にある、巨大な岩の前だった。高さ2メートル、差渡し1メートル半!

 

 「汝の修行はただ一つ。この岩を割るのじゃ。成し遂げれば、汝に我が秘術の全てを授けよう。」

 

  背中の剣を抜こうとしたが、 

 「汝の両の拳のみで割れ。もっとも頭は使ってもよいぞ。中身があればじゃがの、小童。ふぉっふぉっふぉっ。」剣は取り上げられた。

 ゲームバカの俺には大体の硬度は勘でわかる。これは「破壊不能オブジェクト」一歩手前だ。

 

 (うん、ムリ。)エストをキャンセルしようとしたが・・・

 

 「この岩を割るまで、山を降りることは許さん!汝にはその証を立ててもらうぞ。」

 

 何か取り出したと思ったら、あっという間に「髭」のペイントが施された。

 

 「ソレ、ここから逃げテモ消えナイカラ。」

 

 この瞬間、俺はアルゴの「髭」の秘密を知った。

 

 

 「どーすんだよ。こんなの!割れるわけないだろう!」俺はカイトに詰め寄る。

 

  カイトは岩の前で瞑想のポーズ。目を開けてこう抜かしやがった。

 

 「ねえ、キリト、地球上で一番硬いのは?」

 

 「ダイヤモンド。」

 

 「でもあれ、割れるんだよ。鉄製のノミで。」

 

 なるほど割れなきゃカットなんてできないもんな。

 

 「ダイヤを粉々に砕く方法はね、カットとは逆方向に結晶の中心へカットとは逆の方向から一撃を加えること。あの岩がいくら硬いといってもダイヤよりは硬くない、でしょ。きっと。」

 

 「あのジジイは素手て割れって、言ってるんだぜ?」

 

 「同じことだよ。いいかい。やみくもに殴っても、疲れるだけ、弱点は一点だけだ。それを探すんだ。」

 

 「どうやって?」

 

 「殴った時の衝撃が岩に伝わるだろ。それを感じるんだ。弱点は中心部の付近に違いない。見当がついたら次は方向だ。正しい方向から、決定的な一撃を加えなければ、おそらく絶対に割れない。」

 

 「じゃあやって見せろよ!」

 

 「もちろんだよ。」

  

  ハッ!

 

  ハアーッ! 

 

 掛け声と共に正拳突きが、繰り出される。非常にサマになっているというか、明らかにリアルでは拳法の達人だ。それでも、かなり試みていたのに、ひび一つ入らないから、盛大に笑ってやろうと思ったら、約30分後。

 

  イエーッ! 

 

  岩にひびが入った。

 

 「ふん、ここか。」

 

 どうやら、弱点を見つけたらしい。いろいろと、方向を検討しながら、ひたすら正拳突き。一段と凄い威力だ。リアルでこれができるなら人、殺せるな楽勝で。ひびが入ったのとは、全く逆方向からの正拳突きが入ると岩は見事に砕けた。この怪しい忍者男は何と、殴り始めて、たった一時間あまりでクエスト達成である。俺はこの時改めて、このおじさんは本当に人外ではないかと疑った。

 

 「あんた、本当に人間か?」

 

 「失礼だな、キリト。こんなの、誰でもできるだろう?」

 

 「できねーよ!あんたのリアルでの拳法使っての話だろ、それ?」

 

 「力だけでは割れない。僕にできたんだから、キリト君なら必ずできるさ。」

 笑ってやがる。できるかよ。俺は人間だ。それもリアルでは、どちらかといえばひ弱なモヤシッ子だ。

 

 それから日が暮れるまで、カイトからコーチを受けたが、なかなか、ああ巧くはいかない。ちくしょうめ!自分は簡単にできるからって、見通しもなく、俺を巻き込みやがって。

 

 「おかしいなあ。キリトなら、やみくもに殴ってもひびくらい入るはずだが・・・」

 「それじゃあ、僕はゆっくりもしてられないから、行くよ。まあ、明日には、大丈夫なんじゃない?ああアスナ君には黙っておくから心配しないで。」

 置いてく気かよ。こんな「魔境」に俺一人!ちくしょう、恨むぞカイト!

 

 

 アスナSide

 

 (全く、どこで何やってるんだか?)キリトもカイトもいない。二人ともアスナのことを忘れていたわけではないのだが、キリトはよんどころない事情で、ちょっと面倒臭い場所に「軟禁された状態」であり、カイトは戻ってくるや、クラインたちの訓練に付き合い、さらには「隠蔽」使いまくりでシャルといろいろと探っていた。

 

 結果的に一人ぼっちのアスナであった。毎日お風呂にも入れるし、あのクリームパンだって食べられる。以前よりずっと気が楽だけど、なんとなく物足りない。現実世界では経験がない感覚だった。

 一人でいるものだから、リンド、そしてはキバオウまでがやってきて盛んに自分たちのパーティに勧誘してきた。そのおかげで、旧ディアベル陣営は、リンド派とキバオウ派に分かれて、激しい勢力争いになっていることがわかった。

 

 リンドは「君のような素晴らしい人材は、攻略の中心にいてこそ輝く。」などと美辞麗句を並べて掻き口説いたが、アスナは何の興味もなかった。しっかり、キリトのことはディスっていく。ぶっちゃけ、リンドはアスナの一番嫌いなタイプの男だった。実力もないのに、「しょってる男」が大嫌いなのだ。

 キバオウも勧誘にきた。勧誘に成功すれば、自分の率いる勢力の戦力が、大幅にアップするからでもあるだろうが、「とにかく元ベータテスターでさえなければいいの?」と言いたくなる。そもそもこの暑苦しいトンガリ頭の勧誘に応じる女の子って、いるのだろうか。この二人はもともと仲が悪いらしい。特にキバオウはキリトより、はるかにリンドの方が嫌いのようだった。

 一人でいるところからすれば、キリトと特別仲が良いわけではなく、アスナは当然勧誘に応じると見ていた彼らは少なからず落胆した。

 

「あの姉ちゃん、やっぱり黒ビーターのガキと、出来上がってるんとちゃうか?」

 

 キバオウが言うように、第三者から見れば、キリトとアスナは、既にカップルに見えないこともなかった。その認識が全然ないのは、ご当人たちだけであった。

 

 

 とある喫茶店で

 

 「そう言えば、あの人、ここ数日、前線に出てこないんですけど・・・どこで油売ってるか知ってます?」

 

 何気なく聞いているつもりで、バレバレのところが可愛い。「あの人」とはもちろんキリトのこと。アルゴもにんまりと笑う。そう言えばも何も、それだけを聞くためだけに、こうしてアルゴと会っているのだ。

 

 「なんですか!その顔はっ!」

 

 「知りたイ?知りたイ?教えて欲しイんだネやっぱり。」

 

 「あ、言っておきますけど、コルは出しませんからね。わたしはフィールドボス戦が近いから、その、確認のために・・・」

 

 「ヒ・ミ・ツ!」

 

 「えっ」

 

 「キー坊がサ、アーちゃんにだけは教えるなってサ。」

 

 「それはどういう意味ですか?」

 

 「さあ、女の子と一緒じゃないのは保証するヨ。」

 

 「そんなこと、知りたいわけじゃありません。」

 

 そう言いつつ、ちょっと安心する。

 

 「キー坊も男の子だからネ。アーちゃんにだけは見られたくナイ姿になってルのカモ。」

 

 

 フィールドで

 

 

 「黒っぽいってことは、『黒毛和牛』なのかなあ。ステーキにしたら、何人前かしら?」思わず独り言。

 

 「あれを倒して、肉がドロップしたら、食べてみるかい?料理できれば、の話だけど。」

 

 「誰?あ、カイトさん!どこ行ってたんですか?」

 

 「ちょっとヤボ用でね。ごめんね、一人にしちゃって。で状況は?やっぱりハブられてるの?」

 

 「ひどいですよ!キリト君も。勝手にどっか行っちゃうし。ボス戦に参加させてやるから、パーティに入れって、もう毎日うるさくて。」

 

 「そりゃ仕方ないよ。第一層のボス戦で、あれだけ活躍したんだから。姫を守るのはこの俺だってね。人気アイドル顔負けだ。」

 

 「その呼び方、やめてください。」思わず膨れてしまう。

 

 その時、気がついた。隠れている「気配」に。

 

 「出歯亀一匹捕獲!」わたしは、草むらに隠れていたキリト君を引っ張り出した。

 

 「ちぇっ隠蔽、使ってたのにぃ。カイトが見逃してくれてたからラッキーと思ったんだけどな。」

 

 「索敵、も持ってないのに、よく判ったね。」カイトさんが感心する。

 

 「何となくわかったんです。知っている気配がして。キリト君!一体どこで何してたの!」

 

 「それはカイトに聞いてくれよ。こいつが、俺を巻き込んだんだから。」

 

 「罰としてあとで、わたしの剣の強化素材集め、手伝いなさい!」

 

 「あのアスナ・・・さん?」

 

 「何かしら?」

 

 「一緒にっていうのは、その・・・小心な俺には、この状況はキツイかな・・・って。」

 

 「一緒にいて、何か言われるのが嫌なら、わざわざ、引っ張り出したりしないわ。」

 

 (まったく、モンスター相手にはふてぶてしいくせに!)

 

 「お見通し、ですか。」

 

 (やっと、観念したわね。ここでもう一言)

 

 「あなたがSAOのプロなら、女子校育ちのわたしは、心理戦のプロよ。」

 

 ナナメになって髪をかきあげ、得意のポーズ。

 

 「顔色読むくらい、朝飯前だわ。」

 

 (キリト君は、わかりやすいしね。ふふ、決まったかしら?)

 

 「キリトならあと一日でクリアできると、踏んでいたんだけどね。」

 

 カイトさんが、ニヤニヤして言う。

 

 (しまったあ!この人、いたんだ。何で普通の時でも気配消すのよ!)

 

 「冗談じゃないよ!あんなの!結局三日もかかったぞ。」

 

 「あの、話がさっぱり、見えないんですけど?」

 

 (やっぱり怪しい、何やってたのかしら?)

 

 「ああ、ごめんごめん、後でちゃんと、説明するから許して。ん、そろそろ始まるみたいだね。」

 

 (話を逸らすのも上手い。やりにくいなあ、もう。)

 

 ボスから離れたところにいた、二つのパーティのうちの一つが先に距離を詰めていく。

 

 「あのパーティ、役割分担はどうなってるのかしら?」

 

 私はアルゴさんの攻略本の基本知識は、すべてマスターしていた。キリト君と違って第二層でも無料だったし。

 

 「確かに壁役と攻撃役の区別がない。役目に合わせて、構成してないってことだな。」

 

 キリト君がカイトさんの方を向いてから答える。

 

 「要するに役割より、構成員ありきってことなんだろう。もう一つのメンバーとは、一緒にやりたくないっていうね。」

 

 (なるほど。さもありなんてとこね。)

 

 「何か、二つに分かれて、勢力争いしてるみたいです。」

 

 勧誘にきた。リンドさんとキバオウさんを思い出してそう言う。

 

 「ああ?両方でタゲ取りに行ってる!」

 

 キリト君が驚いて言う。どうやら、ゲームの常識では、ありえないことらしい。

 

 二つのパーティから、重戦士が出てきて「威嚇」の雄叫びを上げたのだ。双方から挑発を受けたボスは、近い方のリンドさんが率いるパーティに向かっていった。すると、相手にしてもらえなかった、キバオウさん率いるパーティの重戦士はもう一度「威嚇」する構えだ。

 

 「これは『協力』ではなく、ただの『競争』だね。」

 

 カイトさんが呆れながら言う。リンド組の連携もいかにも危なっかしい。顔の前で手を振って何処かへいってしまった。もう観るに耐えないということなのだろう。

 

 「大丈夫なの?あんな状態で。」

 

 「うん。いくらあいつらがへなちょこでも、敵も弱いからね。ま、ここで見ていても、誰か死ぬようなことはない。」

 

 危なっかしい戦い方だったが、なんとかリンドさんが曲刀の一撃でトドメを刺して、戦闘が終わる。

 

 

 キリトSide

 

 キバオウでなくても、「なんでや!」と叫びたくなるこの状況。

 

 目前には蜂型の飛行小型Mob「ウインドワスプ」がブゥーンと音を立てて浮いている。全長50センチ。現実世界には蜂はもちろん、こんなでかい「虫」はいない。ボスである「牛さん」には、手を出さないという約束で、仕方なく雑魚を狩っているのだが、無駄ではなかった。このMobの「針」がアスナの剣の強化素材になるのである。

アスナに協力しろと、言われて、一応抵抗してみたが、簡単に押し切られたのは既にご案内の通り。

 ボスはそう強いわけではないが、やたら大きくて、軽装の俺たちでは、ちょっと不安がある。雑魚でもまあいいや、と思って付き合ったのだが・・・

 「4匹目!」の声。おいおい、冗談だろ。こっちはまだ0匹だ。「ウインドワスプ」は毒を持っていて刺されると数秒スタンする。二度刺されると麻痺が来る。現実世界でも、蜂に二度刺されると、死の危険すらあるが、忠実に再現されている。スタンした際はお互いにフォローという簡単な取り決めだけで、始めたのだが、初めてのはずのアスナの方がどうみても上手だった。

 

 このモンスターは小さいので、急所に当て続けるのは困難だったが、アスナは全く外さない。それだけでなく、ほとんどが、クリティカルヒットだ。このクリティカル率は、どう見ても異常だった。何度も言うが、アスナはビギナーなのである。仕方がない。相手が正確さなら、こっちは手数で勝負だ。俺は覚えたばかりの「体術」を使うことにした。右手でソードスキルを発動、外したら発動後の硬直の間に今度は左手で体術を使う。いつの間にか競争になっていた。

 

 「また怪しげなスキルを!もしかして、それを覚えて来たの?」

 

 なんて勘がいいんだ。必死の形相で追いつこうと頑張る。

 

 「25匹目!」やっと追いついたか、やれやれ。

 

 「26匹目!」なにぃ?!!

 

 アスナが近づいてきて言う。

 「ねえ、アルゴさんに聞いたんだけど、この先に美味しいショートケーキが、あるんですって?50匹先に狩った方に負けた方がケーキ奢りってことでどう?」

 

 挑まれた戦いに背を向ける俺ではない。ましてビギナーに、負けるわけにはいかない。応じるしかなかった。1匹差だ。しかし、勝ってもアスナに奢らせるわけにはいくまい。

 

 (確かにあれ、美味いんだけど、値段がバカ高いんだよなあ。)

 

 この時は、負けるなんて考えてもいなかった。

 

 勝負に夢中で、見ていなかったが、肝心の「牛さん」攻略の方は例によってさっぱりだった。その時である。1匹のウンドワスプがプレイヤーには見向きもせず、「牛さん」に止まるとチクリと刺した。

 

 

 ブゥモウウウ!

 

 

 牛さんMobは怒って、狂乱状態になり、キバオウたちのPTに、向かっていった。蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うキバオウたち。

 

 「競争は中断だ!アレをなんとかしよう!」

 

 「解った。」

 

 牛さんには手を出さない約束だったが、こうなってはもう正当防衛だ。それでも一部のプレイヤーが立ち向い、何とかソードスキルをヒットさせた。

 

 「グッジョブ!スイッチだ!」俺はそう叫んでアスナと二人で向かっていく。

 

 「スイッチったって、たった二人で?しかもあんな軽装で、無茶だよ!」他のプレイヤーが叫んでいる。

 

 このMobには、致命的な弱点がある。それは額の瘤だ。しかし、とにかくデカい。

 

 「どうするのよ!あんなの!届くわけないじゃない!」

 

 「セオリーから言えば、投剣なんだけど、カイトはいないし。仕方ない。アレ、やってみるか!」

 

 「アレって?」

 

 答えている暇はない。

 

 「前脚を狙ってダウンさせよう。向かって左、頼む。レイピアだから、クリティカル必須で膝関節!」無茶な注文だが、アスナならできる。

 

 「了解!」

 

 ドッドッドッドと突進してくる。俺は向かって右を狙う。

 

 「ごめん!少しブレた!」

 

 何を言ってるんだ。普通は当てるのだって無理、しかも俺の注文通り、クリティアカルだ。俺も何とか前脚に「スラント」をヒットさせる。

 

 「大丈夫!十分削れた!」

 

 突進を止められればいい。あとはそう、俺はMobに向かって大きく跳躍した。

 

 「ダメよ!そんなの、届くわけないじゃない!」

 

(ところがどっこい)俺はニヤリとして、空中でソードスキル「バーチカルアーク」を放つ。

 

 ギュバーンという効果音。見事に急所にヒット。

 

 モボォオオオーン!

 

 叫び声をあげながら敵は消滅した。

 

 「今の、なに?」

 

 「ふふん、どうだ。空中ソードスキル。簡単そうに見えて、結構タイミング、難しいんだぜ。」

 

 「また私の知らないスキルを・・・」

 

 アスナが膨れている。

 

 「おう、LAボーナス!これは!」

 

 それはカイトにうってつけの武器だった。ここでドロップするとは。その武器の名は「戦輪」(チャクラム)リング状で、外側に刃がついている。武器としてもレアだが、使い手はもっとレアだ。その理由は二つある。第一に投剣スキルなんて取っているプレイヤーはごく少ない。SAOでは投擲武器は非常に冷遇されている。しかし、持っていれば、それなりに便利。特に今のような大きくて、急所に命中させるのが必須という敵に対しては。

 第二にこのチャクラムに限ってはエクストラスキル「体術」が必須なのだ。あの面倒臭いクエストをクリアしたプレイヤーはそれだけでもレアだ。カイトはこの厳しい条件を早々に二つともクリアしている。その上、敏捷値が高いと投剣はいろいろ補正がある。

 何よりいいことは、チャクラムは「戻って来る」武器だということ。しかもブーメランのように、外れた場合だけでなく命中しても戻ってくる。本数制限の問題はなく、何度でも使えるのだ。しかも耐久値が異常に高く、かなり長持ちする。俺も含めて、ほとんどのプレイヤーには、せいぜいアクセサリーにしかならない「残念な武器」だが、カイトが持てばチート武器に化ける。くれてやるのは惜しいが、ここまでハマってると、俺もその威力を見てみたい。

 

 「空中ソードスキル」をアスナさんに見せつけて、チャクラムまで手に入れ、上機嫌の俺だったが、中断した競争は、最後まで1匹差を守りきられて、アスナの勝利。トレンブル・ショートケーキを奢らされる羽目になった。

 

 なんでや!

 

 食事を終えてケーキを待っていると、アスナは愛剣のウインドフルーレを撫でていた。

 

 「その剣、随分大事にしてるね。」

 

 「ええ、もちろん。わたしのパートナーは『この子』だけだもの。」

 

 (おいおい、俺は?)

 

 「でも最大限強化しても第三層後半では、その剣は使えないよ。」

 

 別に剣に嫉妬したわけじゃないぞ。

 

 「これからも生き残るためには、より強い剣への換装は必須だよ。」

 

 事実だ。それにアスナの剣技には、ウインドフルーレでは既に力不足だ。既に剣が足を引張っている状態になっている。

 

 「わたし、そんな風にしたくない。」

 

 悲しそうな顔だ。

 

 「剣なんてただの道具だと思ってた。壊れたら取り替えるだけ、そう思って何本も持って迷宮区で狩りをしたりしていた。自分の腕だけで戦うんだって。

 でも、あなたが『この子』に引き合わせてくれた時、感動したの。羽根みたいに軽くて、透き通るように綺麗で、まるで自分の意思があるかのように、私を助けてくれるのよ。一緒に生き抜いて来たの。捨てるなんて可哀想でできないわ。」

 

 俺はゆっくりと、自分のことを話す。

 

 「小学生の頃、初めてマウンテンバイクを買ってもらったんだ。めちゃくちゃ大事にしててさ。『一号機』なんて名前もつけて。でも、新しい自転車を買ってくれることになって、一号機は近所の子にあげることになっちゃってさ。俺は近所の自転車屋のおっちゃんに『一号機を匿って』って頼んだんだ。」

 

 「うふふふ。」

 

 「そしたら、おっちゃんはさ、一号機のボルトを一個外して、なんて言ったと思う?『坊主、このネジは自転車で一番大事なネジなんだ。それを新しい自転車に取り付けてやる。これで、一号機の魂は受け継がれる。』ってドヤ顔でそう言ったんだ。」

 

 「今の自転車、三号機にも一号機と二号機のボルトが、付いてるんだよ。子供だましだって笑うかい?」

 

 「ううん、その気持ち、分かるわ。私のあの子も同じだもの。」

 

 「剣もね、魂を受け継がせる方法はあるんだ。前の剣をインゴットにして、それを材料にして新しい剣を作るオプションがある。まあ、効率、つまりより良い剣を求めるということからすると最善とは限らないんだけど、俺は効率よりもそっちにこだわる方かな。」

 

 「私もそうしたい。」

 

  

 トレンブル・ショートケーキが運ばれてきた。でかい!そして値段も半端なく高い!今日の狩りは、無報酬になって、さらに持ち出し。

 

 「これを一人で全部食べようなんて、わたしもそこまで無慈悲じゃないわ。」

 とアスナ。半分分けてくれるのかと思ったが、四分の一だって。(現実世界と違ってカロリーオーバーの心配はないからな。)さすがに、口に出すほど、俺も怖いもの知らずではない。

 

 「美味しかったァ。」うっとりとアスナ。

 

 「ううむ。ベータテスト時よりも美味かったかも。」

 

 (それにこの「幸運判定ボーナス」こんなのはなかった。さてどう使うか。あと15分じゃあ、狩りに出るには間に合わない。いっそ思い切って・・・)

 

 「ねえ、キリト君、付き合ってくれる?」

 

 (ま、まさか向こうから言ってくれるとは!)

 

 「そりゃもちろん、喜んで!ん?」

 

 「この子の強化!」

 

 ウインドフルーレを握り締めて、顔を輝かせるアスナ。俺は心の中で、盛大にズッコケた。

 

 (仕方ないか。もともと狩りの目的はそれだったんだから。)

 

 強化素材はウインドワスプの針。上限まで持っている。既に成功率は95%。それに幸運判定ボーナスで上積みで97%、と思っていると、アスナが俺の指を握ってくる。今日はなんか積極的だなあ。

 

 「あなたの幸運も貸して!」

 

 「の、残りの分はご随意に!」

 

 (何を言ってるんだ、俺は。)

 

 指でもドキドキしたが、どうせなら、手を握ってくれればいいのに、なんて思ってた。

 

 アスナのウインドフルーレの強化は、二回とも成功し、上限の+6になった。

                                       続く   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ネズハ君のチャクラムをオリ主が奪ってしまいました。オリ主ものというのは、主人公の役を一部、オリ主が奪うという展開が多いのですが、キリトは好きなキャラなのでそれは極力裂けます。強化詐欺は試行回数0の武器がそう簡単に手に入るのかな、という点が作者は疑問です。そこ以外は面白いのですが。ネズハ君がチャクラムの使い手だとすると、今後、再登場してくるのかもしれませんが、どうもうまく出せない。そこで、別の役を振りました。
 ダイヤを砕く話は、ゴルゴサーティーンシリーズの「死闘!ダイヤ・カット・ダイヤ」というお話を参考にしました。あの話は傑作の一つだと思います。
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