プロから見たSAO攻略   作:ベルクーリ2世

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 プログレッシブのストーリーに沿っています。オリ主カイトの判断力からすると、アルゴを深追いして、ボス戦に到着するのが遅れたのは、かなりの失策と言えるでしょう。


第5話 攻略のヒント

 

 カイトSide

 

 「なんか、随分、暗躍してるみたいじゃん。」

 

 「暗躍とは、人聞きが悪いよ、キリト。」

 

 「何を探っていたのさ。」

 

 「そうだな、まずは現在の攻略組の勢力図の確認とそれぞれの動向、だね。」

 

 「キバオウ組とリンド組か。どっちも酷かったな。腕もユニフォームもついでにリーダーも。」

 

 「あのまま、どちらも『ギルド』を立ち上げるつもりのようだ。」

 

 「うぇー!」

 

 「予定のギルド名は、リンド組は『ドラゴンナイツブリゲード』キバオウ組は『アインクラッド開放隊』だとさ。」

 

 「何、それ、名前だけで引くでしょ、普通。」

 

 (リンドが考えていることは分かりやすい。ディアベルに心酔していたから、ディアベルが、考えていたことを継承するつもりだろう。ディアベルの仲間だった者が、攻略の中心となって進めていく。レベルはもちろん、装備でもそして人数でも。しかし、リンドの人望で、新たに人が集められるか。難しいだろう。ディアベルは能力はともかくとして、人望はあった。)

 

 「リンドはさ、君を自分の陣営に、引き入れたいようだよ。」

 

 「えーっ!あれだけあからさまに、俺のこと罵倒したのに。ありえないよ。」

 

 「いやいや、十分、ありうるさ。彼の第一希望はアスナ君だったようだが、君も知ってるように、彼女には、きっぱりと拒否された。自分のプライドより、ギルドを立ち上げた時にトップギルドであることが、重要なんだよ。彼にとってはね。最強プレイヤーを味方につければそれはまあ、半ば実現できるからね。」

 

 「俺があいつの下に入るとでも、思ってるのかねえ。」

 

 「思っているだろうね。いくら最強プレイヤーでも、ボス攻略の度にレイドの中で、閑地に追いやられては、十分に活躍することは難しい。少なくとも、彼らの尺度で考えればそうだ。

 それにね、君に対する反感なんて、実はごく一部さ。反キリトの急先鋒だったリンドが、手のひらを返せば、ほとんど自然消滅する。キバオウはもうアンチじゃないからね。そうそう、ビーターって呼び名、君は結構気に入ってたみたいだけど、全然定着してないみたいだよ。」

 

 「なんて呼ばれてるのさ?」

 

 「黒ずくめ野郎とか、ブラッキーとか。」

 

 「勘弁してくれよ!なんちゅうセンスだ。」

 

 「結構なことじゃないか。その呼び名程度に君への反感は、希釈されてるってことさ。僕としては、キリトが、俺は悪のビーターだから、なんて開き直って、ヤンチャするのを避けたかったから歓迎だよ。」

 

 「いつも、いつも、そうやって、俺を子供扱いしやがって!」

 

 (これに対し、キバオウの方は、なかなか健闘していると言える。彼はディアベルの仲間になりたかったのだろうが、それは無理というものだった。キバオウにもディアベルが元ベータテスターであったのは、もう分かっているだろう。リンドと同じく、ディアベルの継承を謳っているが、中身は違う。ディアベルはあからさまには反元ベータテスターの立場は取らなかった。真実が露見したら一巻の終わりだから。

 しかし、あの濃すぎるキャラで、よくあれだけ、人数を揃えられたものだ。これは意外だった。しかしメンバーの力量がリンド組よりさらに低い。さらに人を集めると、この傾向はさらに強くなる。数の力で、というのは戦略とは言い難い、メンバーの質が伴わなければ、犠牲はより大きくなる。危険な考え方だ。)

 

 「キバオウの方は、アンチではなくなったと言っても、キリトはさすがに引き入れにくい。それで双方で、今、考えられているのは、君とアスナ君を同じ側には加入させないという約定らしい。仮にアスナ君がリンド組に加入すれば、あえて、君を仲間にしても大義名分が立つ。」

 

 「アスナと俺はコンビでも何でもないぞ。別々ってのは一応、アリだろ。」

 

 「ふふふ、心にもないことを言って。そう思っているのは、君たちだけだよ。アスナ君はさ、一見ツンツンしてるけど、なんだかんだ理由をつけて、結局君と一緒にいたがるだろう?君の方だって、一緒にいることに、何かと理由をつけるじゃないか。」

 

 「・・・」

 

 「そういう男女の二人組を世間ではカップル、と言うんだよ。」

 

 「何だよ。それ!」

 

 (ふふ、ほら、赫くなってきた。)

 

 「まあ、僕の見立てでは、彼女の方の脈はかなり太い。頑張るんだね。」

 

 「俺をからかいに、わざわざ来たのかよ。」

 

 (アスナ君はいい娘だ。キリト君はこれで意外に小心だし、自分を過小評価するところもある。ああいう押しの強い娘が傍にいれば、彼はさらに力を発揮できる。)

 

 「二つ目はこの第二層の攻略だ。ここのボスは覚えてるね。」

 

 「ああ、バラン将軍、か。」

 

 正式名は「バラン・ザ・ジェネラルトーラス」ナミング・デトネーションという専用ソードスキルを使う。これが、ちと。やっかいだ。プレイヤーサイドはボスのHPを減らす手段として、直接攻撃しかないが、ボスのサイドはデバフ(間接攻撃)がある。この層では二度食うと麻痺がくる。かなり面倒だ。特に麻痺の後、連続して食らうとほとんど死ぬ。

 

 「しかしね、ちょっとおかしいと思わないか?ボスが『将軍』じゃちょっとモノが小さい。第一層でも『王』だったじゃないか。」

 

 「名前なんて大した問題じゃないだろ?」

 

 「いやいや。茅場はね、超天才にして、自身も相当なゲーマーなんだよ。でなければ一人でこれだけのMMOなんて開発できない。デテールに拘るのはゲーマーの基本的習性の一つだろう。第一層のようにベータテストから変えるところがあるとすれば候補の一つじゃないか?」

 

 「バラン将軍がやられそうになったら、本命が出てくるってこと?」

 

 「まあ、そうかどうかは、わからないが、ありうるんじゃないか。」

 

 「そうそう、いいモノを手に入れたんだ。忘れるとこだった。」

 

 そう言ってキリト君は「戦輪」(チャクラム)を僕にくれた。

 

 「これは有難い。投剣には3本しか装着できないという、謎の制限があるからね。耐久値の問題もこいつならない。これは貴重だ。何か差し上げなくてはね。」

 

 「いいよ、俺が持ってたって飾りにしかならないし。そうだ!」

 

 「どうした?」

 

 「それさあ、この層にお誂え向きの武器じゃん。わざわざそれを、フィールドボスがドロップするってことに意味があるんじゃないかな。考えてみればとんでもない使用条件じゃないか?しかもエクストラスキルのあのふざけたクエストもこの層。そいつの出番があるって言うか、それを使えってサインかも。」

 

 「うーん。多分当たってるんじゃないかな。リンドやキバオウの手に入ったら、僕の手には入らないだろうからね。売りに出るまで待つしかなかった。いやありがとう。」

 

 「なあ、予知能力でも持ってるの?奇跡的な確率じゃないか、こんな使用条件をコンプリートなんてさ。」

 

 「どうかな。たまたまだよ。そうそう、ベータテストからの変更点だけど、どうもアルゴが、何か嗅ぎつけたようなんだ。手が足りないなら僕に言えって、釘を刺したのに、一人で見つけるつもりのようだ。腐った攻略情報なんかリアルの鼠の餌にもならない。僕はアルゴを追いかけるよ。あれだけ執着してるなら、多分、本物だ。」

 

 「ボス戦はもうすぐなんだぜ。遅れたらヤバいじゃん。」

 

 「今度の攻略戦、何もしなければ。おそらく僕はハブられる。特に、リンドの煙たがりようがすごいからね。事実上、参加できないようにしてくるな、あれは。君とアスナ君も、どっかのパーティに入らなくては、攻略に参加できないよ。」

 

 「どうすればいい?」

 

 「エギル君のパーティに入りなさい。あそこは4人全員が、本来はタンクだ。アタッカーがいない。彼らにとっても願ったりだろう。第一層のボス線の後、第二層で僕が入れない場合、として、既に話はしてわる。だから、アスナ君と一緒にエギル君に申し入れるんだ。」

 

 「彼のところなら、俺も文句ないよ。で、アンタはどうするの?」

 

 「エギルのところには、そういうわけで入れない。ほかのところに、割り込むまでさ。ちょっと興味がるパーティーがある。アレを使うのは位置はどこでも構わないからね。フルレイドには、二人分余裕があるから、その4人のパーティーに割り込んでおくさ。話は僕が自分でつけておく。」

 

 「遅れるなよ。」

 

 「ああ。努力するよ。」

 

 

 キリトSide

 

 レイドの上限は8パーティだ。カイトは、リンド派、キバオウ派の人数を正確に把握していて、彼らは3パーティずつ。そしてエギルのところと、もう一つのパーティはそれぞれ4人ずつだ。リンド、キバオウのところは無論、俺たちの選択肢から外れている。全く面識のないパーティに入る、というのも無理がある。結局、カイトが言ったとおりで、エギルのパーティに入れてもらう以外、ないのだった。アスナと一緒にエギルのところに行ったら返事までカイトの言ったとおりだった。凄いな、と思うがちょっと悔しい。しかし、クラインたちはどうするんだ?次の第三層に行ったって争いになるのは同じ、ならここで、決着つけた方がいいんじゃないかな?

 

 「あんたら、二人ともソロって言ってたけど、コンビ組んだのか?そりゃ良かった。」

 

 笑顔でエギルが言う。

 

 「「組んでない!」ません!」俺たちは答える。

 

 「へぇー そうかぁ?」怪しげな目つきのエギル。

 

 「ちょっと、キリト君!何か言いなさいよ。」

 

 「俺たちはそのう、攻略のためにだな、たまたま・・・一時的に・・・仕方なく・・・」

 

 「へぇー そう。」

 

 隣から覚えのある怖い気配。なんだよう、何か言えって言うから。

 

 「わかった。わかった。そういうことにしておこう。カイトさんから聞いているし、アタッカーが2人、しかもあんたらなら、こっちにとっても願ったりだ。俺たち4人はタンクに専念するから、思う存分、やってくれ。」

 

 

 攻略会議は最初から妙な緊張を持って、始まった。それもそのはず、劈頭、リンドとキバオウのどちらが、今回の攻略のリーダーを務めるかについてコイントスが行われたのだ。結局リンドがリーダーということになった。

 しかし、どこか楽観ムードが漂っている。第一層の苦戦を忘れたのか。

 

 この層のボスは通称「バラン将軍」ボスの護衛は「ナト大佐」一人。一人だから、何とかなると思っているのだろうか。リンドの指示で、エギルつまり俺たちのG隊は5人パーティのH隊と共に、ナト大佐の担当とされた。

 

 (ちょっとアンバランスだろう?パーティで六隊と二隊、人数にして36人と11人。ナト大佐は中ボス相当で、フロアボスとそこまでの実力差はない。ちょっと偏ってる。しかし、戦力バランスはまあ妥当だろう。

 問題はここまで偏ると、デバフ攻撃を喰らって、麻痺で動けなくなった人間が多くなった時に、無事に退避することが難しくなることだ。エギルのパーティの4人の実力は、この中でも平均以上だ。彼らがタンクを引き受けてくれるなら、俺とアスナで安心して攻撃に専念できる。もうひとつのパーティは実は要らないくらい。不安は本隊のボス攻略隊の連携である。これはフィールドボス戦で、さんざん見せてもらったが、退却戦はまずムリ。)

 

 とまあ、こんな心配をしていたのだが、俺たちと組む予定だった、H隊のリーダーはこの配置に不満を訴えた。

 

 「我々はボスを攻略するために、参加するのだ。取り巻きに専念しろというのは納得できない!」

 

 なかなか意気盛んだ。このパーティのリーダーの名は、オルランド。おやおや聖騎士様の登場だ。他にベオウルフ、クー・フーリンいやいや、やけにゴージャスな装備にも得心がいった。「形から入る」わけか。ギルドを立ち上げる予定らしく、その名も「レジェンド・オブ・ブレイブス」ときた。

 第一層の攻略戦に、このパーティは参加しておらず、新参だからと言ってもなかなか納得しない。カイトは、どこでどうごまかしたのか、ちゃっかり、ここに入り込んでいる。第一層といい、いろんなところに、わざわざ入っているようだ。

 リンドには、説得する力も、あまりないようで、結局新参パーティはボス相手の本隊に加わった。だが、ただでさえ偏った編成だ。それをさらに極端にして、苦境に陥った場合どうするんだ、これ。説明に来たリンドに対しでは、戦力的にアンバランスと俺は主張した。

 ところが、「それは心配していない。このパーティは八つのうちでも最強であり、実力は飛び抜けているから。」と言う。おいおい、何でその最強パーティをわざわざ護衛の方に回すんだよ。リンドの編成には、戦略などかけらもない。自分たちが、レイドの中心にいることが最優先なのだ。そしてもともとの本隊の6パーティのうち、一つでもナト大佐に回すことはできない、ここまでが不動なのだ。こいつに、レイドのリーダーを張る能力はない。

 困ったな、あんたらに退却戦はムリだから、とはさすがに言えない。カイトなら、なんとか言いくるめてしまうだろうが。しかし、俺も交渉力はリンド以下だ。結局俺たちだけで、ナト大佐の相手をすることに、なってしまった。

 

 あとはパートに分かれて、作戦会議というところだが、そこで、キバオウから声がかかった。俺にだ。

 

 「ちょっと、そこの黒ビーターはん。この層のボスについて一言、注意とかありまへんやろか?」

 「黒ビーター」はともかく(俺が自認したんだから)何だ、この低姿勢は?と思いつつも前に出て一言。

 

 「えー、既にこれまでの戦闘で、分かってると思うけど、この層で注意すべきはナミング攻撃だ。基本的にはまず、ソードスキルのモーションを見たらとにかく逃げること。最低十歩以上下がるんだ。さらにこれがもっと大事なことだが、絶対にデバフの「重ね掛け」を喰わないこと。ベータテストでは麻痺の後、二回目を喰らったプレイヤーはほぼ全員・・・」

 

 「死んだ。」

 

 楽観ムードだった雰囲気が一変した。

 

 「特に武器を落とすと、反射的に拾う癖が誰でもある。これは、いわば本能だから、よほど、注意しないといけない。モンスターは武器のドロップを待ち構えているものなんだ。上の層には、ドロップさせる技を持った奴もいる。

 この第二層では、どんな時でも、ボスのモーションを確認する、モーションを認めたら、逃げるの優先。連続で喰らうのだけは避ける。これは徹底しないといけない。ナミングの回避が、上手くいってないようなら、仕切り直しすべきだ。ここまできたのだから惜しい、それが一番大きな被害が出る場合なんだ。この上、第一層のようにベータ版のデータからの変更までありうる。油断は全くできない。」

 

 「とにかく、ソードスキルのモーションを見落とすな。初見では無理でも、何回か見ていれば分かるようになる。あとは、ポーションを十二分に用意しておくこと、各自防具の強化に務めることくらいだな。」

 

 「ご指導確かに承った。」

 これリンド。

 「おおきに、ビーターはん。」

 これキバオウ。

 

 どうなってるんだ。全く。

 

 

 

 帰り道

 

 

 「なんだか気持ち悪いな、あの変わりよう。」

 

 「二人ともあなたが、攻略には不可欠の戦力だってことは、理解したんじゃない?」

 

 「そうなのかなあ?」

 

 俺はまだ釈然としない。

 

 「それより、カイトさんはどうしたの?」

 

 「鼠を追っている。攻略情報が、報酬のクエストがあるらしい。あの二人が揃ってそう判断しているなら、その可能性は高い。まあ、手ぶらで帰って来るようなことはないだろうね。」

 

 「何もしなければ、自分があぶれるってことも計算済みだったのね。」

 

 「そういうこと。いつもこうなんだ。ほとんどカイトの予想通りになる。しかしこの極端な編成はさすがに予想外のはずだ。何事もなければいいが。」

 

 俺は自分たちのパーティそっちのけで、本隊のことばかり、心配していた。

 

 

 カイトSide

 

 やっとアルゴを捉えた。尾行には自信があるが、こいつ相手では完璧とはいかない。何を探っていたのかは解っている。面倒な「お使いクエスト」をクリアすれば、攻略に重要な情報が聞き出せる、らしい。アルゴがここまで追うからには間違いあるまい。

 

 「こら!いい加減、止まりなさい!」

 

 「誰?ッテ、カイト、さん?!」アルゴは漸く止まり、振り向く。

 

 「一人で無理するなと言ったろう?さあ僕も手伝うから早く!」

 

 「デモ・・・」

 

 「攻略戦が始まる、もう始まってるかもしれないんだよ。皮肉なことに、君が編集したマップが優秀すぎてね。予想より早く始まりそうだ。だから、この情報を得たら、即戦場へ行く。君一人でも、迷宮区は抜けられるだろうが、僕が一緒の方が断然速い。それに僕にはこれがある。」チャクラムを見せる。アルゴはこれの意味を、即座に理解した。これ以上問答している時間はない。

 

 

 キリトSide

 

 第二層ボスの護衛、それでも、かなりの大牛男、ナト大佐(ナト・ザ・カーネルトーラス)はその極大ハンマーを振りかぶった。

 

 「来るぞ!下がれ!」

 

 全員十数歩退く。

 

 「ヴゥゥゥオオオオゥ・・・ッ!」

 咆哮とともにスパークしたハンマーが空を裂き、石畳を打ち鳴らす。これが「トーラス」と付く一族の基本ソードスキル「ナミング・インパクト」だ。石畳の上を稲妻が走るが、デバフ効果の範囲からは既に全員退避している。デバフの中で、最も強力なのは炎だが、雷もなかなかやっかいだ。この攻撃は範囲も広く、効果も強力な反面、回避に成功すれば、大きな攻撃チャンスが来る。うまく回避できるかがすべてのカギだ。

 

 「全力攻撃!アスナ、一緒に頼む!」

 

 「了解!」

 

  同時にソードスキルを叩き込む。あっという間にHP一本目を削り、もう残り半分とちょっとだ。一見簡単に終わりそうだが、三本目になるとナミングの連発が来る。そうなったら一旦退くべきだ。ハンマーを構えた位置によっては、ナト大佐の手元を、覚えたての体術スキルで殴っておく手もある(少し攻撃効果が減殺される)が、今のところ相手の攻撃は余裕で回避できているので、その必要もない。

 

 しかし、こっちだけが順調でもあまり意味はないのだ。

 

 「回避!回避ーっ!」

 

 ヒステリックなリンドの指示。リンドの視線の先には「ナト大佐」の二倍はあろうかという超巨大牛男、そう、こいつが、通称「バラン将軍」(バラン・ザ・ジェネラルトーラス)だ。二倍あるのは、単に大きさだけではない。

 

 「ブゥオオオオルヴァルァアアアア!」 

 

 咆哮も二倍。そしてハンマーも攻撃効果も、いや二倍どころではない。こちらは専用ソードスキル「ナミング・デトネーション」を使う。前線に立っていた二人が回避しそこねた。スタンは数秒た。ボスのスキル後の硬直も同じく数秒。その時、習性で足元に落とした槍を一人が拾おうとした。これが実は罠。すかさず再度の咆哮とデトネーション。今度は麻痺だ。麻痺は最弱でも回復に10分以上を要する。(すぐ拾うな。モーションを確認しろって、あれほど言ったのに!)何とか仲間が引きずって行き、脱出することだけはできた。

 

 そこで、改めて本隊を確認した俺はぎょっとした。既に8人ばかり、倒れているではないか。

 

 「本隊はジリ貧くさいな・・・」エギルが囁く。

 

 「ああ、でもナミングにも、さすがに、慣れてきたろう。なんとかなるんじゃないか?」

 

 「でも、キリト君。これ以上麻痺した人が増えると、一時退却が難しいよ。」

 とアスナ

 

 そうだった。それを心配していたのだった。リアルでも、そう言われているが、戦闘の中で撤退戦こそが、最も難しい。リンド隊とキバオウ隊に、適切な連携を臨むのは難しすぎる。

 

 「今のうちに、仕切り直してナミング対策を徹底した方がいいかもな。」

 

 (しかし、リンドやキバオウが、俺の言うことを素直に聞くだろうか。)

 

 「あなた一人欠けてもこっちは大丈夫だわ。リンドさんに話してきて。」

 アスナがそう言ってくれる。

 

 「おう、ノープロブレムだ。」とエギル。

 

 俺はリンドの元へ行く。

 

 「ここは一旦退こう!これ以上麻痺者が、増えると退かざるを得なくなった場合、無傷ではすまない。」

 

 「残り半分なんだ。ここで退く必要があるのか?」

 とリンド

 

 「あと一人麻痺したら退く、それでどうや?」

 とキバオウ

 

 「両首脳」の決定なら、従うよりない。だが、俺はキバオウの、らしくない反応に対し、少し、彼を見直した。少なくとも第一層の時とは雲泥の差だ。

 

 「OKだ。あと一人だな。ただゲージが、残り一本になったら、気をつけろ。何がくるか分からない。」

 

 そう答えて俺は戻った。

 

 「あと一人麻痺で一時退却、だってさ。」

 

 「そう・・・」浮かない顔のアスナだったが、

 

 「なら、この青いの、とっとと片付けて、わたしたちも、あっちへ行きましょう!」

 

 「そうだな。」

 

 ナト大佐は本当のあと少し、バラン将軍も残り一本が近い。

 

 「良かった。第一層のような変更は、なかったみたいね。」アスナの安堵の一言があってすぐ、

 

 突然、フロア中央の、牛の紋様が動き始め、その真上にポリゴンのプロジェクトが生成されていく。天井に名前が浮かび上がった。

 

 

 『アステリオス・ザ・トーラスキング』

 

 

 カイトの予感が、最悪の形で的中してしまった。くそぅ!カイト!なにやってんだよ!

 

 もう全員退避しか手はない。しかし、新たに現れた、こいつの位置が、こちらに都合が悪すぎる。

 

 (このままでは、本隊が挟撃される。最悪の事態を避けるにはとにかく、まずバラン将軍を倒すしかない。)

 

 ナト大佐をソードスキルと体術の連続攻撃で屠り、バラン将軍に向かう前、

 

 (今なら逃げられる。逃げるだけなら。)

 

 そう思ってアスナの大きなはしばみ色の瞳を見つめる。俺の言いたいことをすべて承知している目。

 

 「君は逃げろ!君だけは・・・」

 

 そう言おうと思っていた俺に一切の迷いのない声!

 

 「行こう!」

 

 (わかった。俺も、もう迷わない。)

 

 しかし、その刹那、バラン将軍よりもまた一際大きい咆哮が響いた。

 

 「ヴァアアァァァグォォォーッツ!」

 

 アステリアス王の挙動を確認した俺は凍りついた。胸一杯に空気を吸い込んでいる。

 

 (これはブレスだ)雷が落ちた。そこここのアイコンは、麻痺を示している。つまりこいつの攻撃効果は、一発目から麻痺なのだ。しまった、アスナがゾーンに入ってる。

 

 「アスナ!」

 

 俺は間に合わないと、分かっていたはずなのに、アスナを助けようと、飛び込んでいった。体が勝手に動いた。

 

 「どうして?!間に合わないって、自分だって動けなくなるって、解ってたでしょう!」

 

 「・・・」

 

 そう言われて、はじめて分った。俺はアスナに死んでほしくない。そのことが、何よりも優先されてるってことを。そう、自分の命よりも。

 見れば二〇人以上が麻痺で、動けなくなっている。もともと、動けないでいた人数を加えると、動けるのは十数人しかいない。

 

 この状態で二発目がきたらもう、助からない。万事休したと俺は観念した。

 

 その時、漸く彼らはやってきた。

 

 

 カイトSide

 

 「カイトさん!額の王冠ダ!」

 

 (アルゴめ。僕の腕を知らないな。まあいくらこいつでも、北アフリカや中近東までは、来たことはないだろう。)

 

 「承知!」

 

 (こんなでかい的では、物足りないな。)

 

 チャクラムを取り出して、輪の中に人差し指を入れ、高速回転させて投げる。外すわけないだろっ。

 

 

 キュィイイーン!

 

 パキィイイーン!

 

 しかし、ソードスキルでシステムが、命中させてくれるというのが、些か面白くない。よしっクリティカル!戻ってくるのも速い。軌跡も流れ星みたいで、なかなか見栄えもする。

 

 アステリアス王は大きくノックバックし、ハンマーはまだ手の中。

 

 「おせーんだよ!」キリト君の大声。

 

 (僕とアルゴが、全力で走ってきたんだぞ。このアインクラッドぶっちぎり最速コンビで。これ以上速く来れる奴なんかいないよ。しかし、まあ気持ちは分かる。本当に危ないところだった。)

 

 「ブレスの前に目ガ光ルンダ!」

 

 (NPCのアレは聞いてたさ。聞き耳スキルなんかなくっても、この世界で聴力は関係ない、と言っても僕の地獄耳は健在だ。しかし、ここは彼女の顔を立てなきゃな。格好つけて登場したんだ。外せるわけがない。)

 

 「心得た!」

 

 キュィイイーン!

 

 パキィイイーン!

 

 今日の僕のお姫様はアルゴ姫だ。いさいさか物騒な姫だがな。気合を入れ直して、もう一投。実は正しい投げ方というのは不明だが、最初の投げ方でソードスキルが発動した。あれでいいのかな。もともとは、古代インドの武器であるが、文献にも投擲方法は書いてない。使い手が投げてみて、投げ方を考えるというのが実情だ。

 

 「キリト君!こんなに大きな的だ。一発たりとも、絶対に外さない。僕一人でこいつは十分、引きつけられる。その間に立て直すんだ!」

 

 投げれば勝手に当たる。相手の弱体化した攻撃を避ける。また、投げる。相手に何もさせないのだから、全く楽なものだ。どうやら、こいつにとって、チャクラムとそれを使う僕は、天敵のようだ。しかし、確かに楽だが、この大きさじゃトドメを刺せないことが不満だが、そう何もかもうまくはいかない。

 

 アルゴが激を飛ばす。

 

 「何してんダ!キー坊!もう回復してるダロ!」

 

 (ナイスだ。今回はさすがに僕では言いにくい。)

 

 キリトはシステムのお約束より、いつも速く回復する。ん、トドメを刺しに行くか?しかし、さぞや面白くないだろうな、今日は。お、アスナ君も一緒か。しかし、キリトのお姫様は、強いこと、速いこと。

 

 アステリアスに向かって二人で、跳び上がる。届くのか?おお、空中でソードスキルを発動した。いつのまにあんなスキルを?しかも二人仲良く。

 

 「グッジョブ!」

 

 「そっちこそ!」(おやおや、ハイタッチかい。)

 

 「よく一発でできたな。」

 

 「キリト君のお手本が良かったから。」

 

 「アスナは天才だから、うっかり技も見せられないな。すぐに俺より強くなっちゃう。」

 

 (甘い、甘い。ふふふ、なかなか、順調に進展してるじゃないか。)

 

 リンドが来て、

 

 「ありがとうございました。おかげで助かりました。あなたが、来てくれなかったら、10人以上は死亡してました。」

 

 「とんでもないよ。ここまで、追い詰められたのは、僕の責任だ。もっと早く来れたら良かったんだけどね。遅れてすまなかった。まあ、後でゆっくり説明するけど、実はこの層のボスの攻略情報が報酬のクエストがあってね。それを見つけたのはアルゴ君だ。情報料は無料だってさ。お手柄だとすれば彼女だよ。あれ、いない。」

 

 「でもあなたとあの武器がなかったら。それにあれ、使う条件、半端なく大変じゃ?」

 

 「キリト君にフィールドボスからドロップしたって。僕はそれを貰っただけ。何、たまたま使えるだけだよ。」 

 

 彼は再び頭を下げて去っていった。

 

 

 

 「お疲れ!」キリト君に声を掛ける。

 

 「そっちは疲れてなんか、ないもんな、ちーっとも。全く、ゆっくり来て、おいしいトコだけ持っていって、ズルいよなあ。」

 

 「これでも全速力だったんだよ。僕とアルゴの全速力。この世界でこれ以上はないさ。それより君、3頭のボスのLAボーナス総取りだって?まったく、ちょっと目を離すとこれだ。イチャイチャの後、アスナ君がぼやいてたじゃないか。同時にヒットしたはずなのに、わたしには来ないって。」

 

 「な、何だよイチャイチャって。そんなの、なかったぞ!」

 

 「無意識にやってるところがすごいな。何で一個くらい彼女に取らせてあげなかったの?」

                                       続く 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 私見ではキリアスはここで、心理的に、完全にくっついたと見ます。しかし、キリト14歳、アスナ15歳では、あまり早くくっつけると、恋愛描写はやりにくいですね。
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