アルゴSide
情報屋「鼠」のアルゴ、彼女は実はゲーマーではなかった。本名 朝比奈しほり。裏社会ではかなりの有名人である。もっともアイドルどころか蛇蝎のごとく嫌われていた。犯罪者、特に組織犯罪者から。犯罪ジャーナリストであった彼女の取材で得た情報で警察が動いたことも何度もある。それにより、大打撃を被ったある暴力団などは、組員に対し彼女の捕獲あるいは殺害につき高額の懸賞金をかけたぼどである。しほりはまた、日本でも指折り、世界にも名の知れた凄腕のハッカーであった。つまり、警察にしてみれば、貴重な情報源であると同時に特Aランクの要注意人物でもあった。
学生の時から犯罪関係、特に、麻薬、密造銃の取引等の取材に熱中した。また、政治家の暗部にも強い関心を抱いた。「悪」を憎んでいたわけではない。命を賭けてそうした危険に飛び込むこと自体を求めているようでもあった。そこまで危険な取材を続けられることが証明するように、彼女自身、かなりの戦闘力を備えていた。愛銃ベレッタをほぼ常時携帯し、どこから調達するのか催涙弾、麻痺毒等も持っていた。やや小柄ではあるが、良く発達した肢体は魅力的であり、かなりの美人だったが、女子高生でも通るくらいに、歳よりかなり若く見えた。ただし、女の武器は使わない。むしろ男装を好んだ。性格は一見狡猾、非情、しかし、それは主に「有象無象の」犯罪者や単なる悪徳政治家に対して発動された。
彼女には、犯罪者かそれを抑止する側かを問わず、「本物のプロ」をこの眼で見たいという願望があった。そしてそれは日本にはいなかった。これほど危険な取材を続けても。
SAO開始の約一月半前、しほりは、ある悪徳政治家の取材の帰りに、偶然、その男とすれ違った。直感で、「プロの匂いがする!」と感じた。ちょっと調べたら、総務省の役人ということになってたが、ありえない。足音はほとんどしないし、一分の隙もない。まったくの勘だけで、しほりは、この男を追った。三日目にはなんと陸上自衛隊の幕僚長に会っていた。住居も突きとめた。彼女はその男が留守の間に忍びこんだ。数ヶ月前まで、シリアで活動していた痕跡があった。それを写真に撮った。その翌日、後ろから何者かが、近づいてきて、彼女の手首を捩じ上げた。気配に全く気付かなかった。
「僕の留守中に忍びこんだな。住居侵入、まあ窃盗罪の成立は難しいか。だが、問題はそんなことじゃない。いいか、僕の素性を探るのは止めろ。今すぐやめないと、」
一瞬にして右手に拳銃が現れていた。これまで感じたことのない恐怖だった。と思ったら、男は拳銃を上に向けて撃った。
パァアアン!
発射されたのは、弾丸ではなく、造花だった。
「なんてな。僕は君を殺しはしないさ。でもいいか、朝比奈しほり。僕に命令する人間が、同じように考えるかは保証できない。まさか、自分の素性を嗅ぎ回る女をボディガードするモノ好きもいないだろう?」
「あれを公表するつもりなんかないことは、解っているさ。でもこう見えても、僕も公務員だ。回収しろと命令されているからな。記録を消去してもらおうか。」
「とっくに、コピーして消したよ!コピーしたメモリーなんか、誰が、持ち歩くもんか!」
「おとなしく渡してくれる気はない、と。」
「取れるもんなら取ってみな!」
「やれやれ、噂以上のはねっかえりだな。じゃそうさせてもらうとしよう。いいか!」
男はしほりを指差して、言った。
「さっき感じた殺気は本物だと、君なら判ったはずだ。脅しなんかではないことも。」
そう言って音もなく、立ち去っていった。
(彼があたしを殺しにくる!)
恐怖しながらも、それでも、しほりは彼にまた、会いたかった。
一週間後彼女は中国系の組織が絡んだ麻薬取引の現場に潜入し、写真、I.Cレコーダーに記録した音声など決定的な証拠を得た。ところが、記事にして、警察にこれらの証拠を渡す前に、組織の必死の捜索により拉致され、横浜埠頭の建物内で、拷問を受け、意識を失いかけていた、その時であった。長身の男が飛び込んできて、見事な拳法の突き、肘打ち、投げ技等によって拳銃やナイフを持った組織の男4人を気絶させてしまった。と思ったらいつの間にか抱き上げられ外に運び出された。
「さあ、あいつらが目を覚まさないうちに、さっさと逃げるんだ。」
男は彼、風岡だった。
「あ、あなたは・・・」
しほりはそう言うのがやっとだった。
「だから、冗談ではない、と言っただろう。君の後をつけていたら、こんなことになるとはね。結局、僕は君のボディガードをさせられてしまったわけだ。まったく、割に合わない話だよ。」
「あ・・り・・が・・とう、さっきの技は?」
「なに、拳法と合気道を少々、趣味でね。たいした隠し芸じゃない。その傷なら、何とか、病院へは行かなくても、大丈夫そうだね。ああ、君の友達が迎えに来た。それじゃ。ああ、写真はもういい。上にはうまく言っておくさ。だが、気をつけるんだな。こんなラッキーは二度とないぞ。」
そう言って、立ち去ってしまった。迎えに来たのは、確かに彼女の数少ない協力者だった。
(確かにあたしは観た。プロの凄まじい実戦の戦闘を、まるで舞うようなそれを、そして戦闘直後の姿をただ、美しい、と思った。その時初めて求めていた男を見た。そう、本物のプロを。)
起き上がれるようになるが早いか、その男、風岡を探した。しかし、さすがのしほりでも見つけることはできなかった。(今、どこにいるの?)理屈ではなかった。一目惚れ、だった。
しほりが、SAOにログインしたのは、全くの偶然だった。ハッカーとして、MMOにも好奇心からベータテストに応募したら、当選してしまった。仕事は休もうと思えばいくらでも休める。MMOは「やったことはある」という程度。思わぬ幸運で、テスターに当選した彼女は、リアルでのプロの犯罪ジャーナリストという立場をそのままゲームに持ち込んだ。情報を握ることによって、ゲームを制することができることを証明してみたくなった。
二ヶ月間のテスト期間後、あることに気づいた。それは、たった1000人の元ベータテスターに対する嫉妬がものすごいということだ。ゲームクリアを妨げることになるだろう。テストの結果、彼女が得た結論はゲームクリアを妨げるのはプレイヤー同士の競争の加熱、時には闘争であることと結論づけた。そうした闘争も情報の操作(捏造は含まない)によって避けることができるのではないか。彼女はもう少し試してみたくなった。ベータテスターに対する嫉妬をどのように解決するか、を考えた。ある結論に達し、正式サービス開始と同時にログインした。ものの弾みで始めたような、MMOにすっかり夢中になってしまっていた。
ところが、悪夢のようなデスゲーム宣言がサービス開始の初日になされてしまった。彼女は以下のような原則でゲームに臨んでいた。
1.ベータテスト時のデータはなるべく、プレイヤーに対し平等に提供する。
2.データ提供のための資金は元ベータテスターから自分が与える情報の対価という形で徴収する。
3.ビギナーに対しては無償でデータを提供する。
4.クエスト情報はプレイヤーがクリアできる場合のみ提供する。
5.攻略の妨げになる情報は提供しない。
5の最たるものがプレイヤーが、元ベータテスターであるという情報だった。アルゴはこれは、どんなにコルを積まれても絶対に提供しない情報にするつもりであった。デスゲームとなってしまい、このことはますます重要になった。アルゴ自身については、1~3のような情報の公開、提供自体が自らが元ベータテスターであることを表示しているようなものだった。デスゲームの中、元ベータテスターに対する嫉妬は、限りなく膨らんでいった。アルゴは自分自身が、スケープゴートにされることを覚悟して、元テスターであることを表明するかのような注意書きまで添えてデータを提供した。最悪、自分にビギナーたちのヘイトが集中しても、仕方がないとまで考えていた。それで、プレイヤー同士の軋轢が、避けられるのならば。
仮に自分自身に危険が及んでも、リアルでの危険とは比べ物にならない。自分なら逃げ切りつつ、情報は提供し続けられると自信を持っていた。ベータ版のデータは第九層途中までしかないのだ。ゲームが始まっても、ベータテストのデータ通りに、進行していった。変化はない。だが、元ベータテスターの、超え難い壁があった。ベータ版から正式版でのデータ変更については当然知りえない。
データ変更が、攻略そのものに差し支えるとすれば、攻略自体はより困難になる。迷宮区突破まで変更は見られない。変更がるとすれば、ボス戦ということになる。果たして何が変更されたのか。
アルゴはゲームクリアに邁進していたわけでもない。このゲームは彼女の遊び心を十分に、満足させるものであった。プレイヤーのほとんどは、自分よりかなり年下の男の子であり、「情報屋」と称して彼らを翻弄する遊びは楽しかった。少年たちはリアルでの大人の女かつプロの「情報屋」に、手玉に取られた。MMOにハマったのもこの遊びが、面白くてやめられないということが大きかった。
リアルとはかけ離れた姿で、わざと妙な話し方をし、しばしば自分のことを「オネーサン」と称して少年たちをからかった。ベータテストで、この味を知った彼女はデスゲームになってもその「遊び」をやめられなかった。死と隣合わせの生活など、リアルの日常と変わらなかった。否、いきなり銃弾が飛んでくるようなこともなく、危険な相手から逃げることも容易なこの世界は、彼女にとっては至極気楽な世界であった。
ベータテストの時から、突出したプレイヤーには、関心を持った。どこであろうと凡人に興味はない。大きなギルドを立ち上げる力を持ったプレイヤーにも興味はあったが、彼女の関心を特に惹いたのは、ソロでプレイする一人の少年だった。プレイヤー名「キリト」その少年はフロアボス戦を始めとして、戦闘で際立った活躍を見せたが、無茶、無謀、無理な行動が多く、しばしばゲーム上で「死亡」した。彼女も目の前で何回も彼が死ぬのを見た。
プロの情報屋である彼女が少年に注目したのは、それだけではない。コミュ障気味と自称しつつ、キリトは有効な情報には惜しみなく対価を支払った。そんなプレイヤーは彼の他にはいなかった。彼は情報の貴重さをプレイヤーの中で誰よりも理解していた。
彼女はこの少年を「キー坊」と呼び、彼を弄るのを特に好んだ。強さと脆さが同居し、少し悪ぶっているのに隠れ正義漢、隠れ熱血。素はシャイなキリトという少年が可愛いかった。
しかし、なんという偶然か、彼女がリアルで、さんざんに追い掛け回した男は、キリトの傍にいた。なのにそれにはまったく気付けなかった。探していたその男はゲームの中でも第三者がいるところでは完全に気配を消していたからである。「隠蔽」を最も得意としていたアルゴの上をいっていた。「情報屋」に特化した彼女のスタイルは他に敏捷値極上げ、「索敵」も高い、というものであったが、これらについても、その上を行かれていた。その男のリアルでの素性からすれば当然であった。
さらに、もうひとり、ベータテスト時には居なかった、一人の少女にもアルゴは注目した。その少女と出会ったのは偶然であった。少女は「隠しログアウト」のスポットがアルゴの情報によって明かされているとのデマの被害者の一人であった。彼女はデマの被害者の救出をキリトに依頼した。
アスナをキリトの手助けで、救出したアルゴは、キリトのことは彼との約束で教えなかったが、自著の「攻略本」を無償で与えた。アスナはアルゴの目の前で、それを読み、要点をたちまち理解した。さらに驚いたことには、攻略本の知識だけで、初めて、レイピアのソードスキル「リニアー」を試してみたところ、一発で成功してしまった。 これだけでも凄いのに、その速さときたら、これまで見た誰より速かった。アルゴはキリトに次いでもう一人の天才を、このゲームの中に見出した。しかも、アスナはこのゲームのプレイヤーの中でも指折りの美少女であった。第一層ボス戦でも、崩れた戦線を立て直すなど、ある意味、キリト以上の活躍だった。
攻略会議でも、第一層のボス戦の後でも、アスナはアルゴを庇った。アルゴは心からこの少女に感謝した。
アルゴがもうひとり、ゲームクリアに重要なプレイヤーと考えていたのは、ディアベルというプレイヤーだった。性格は明るく、人望があった。ビギナーたちを指導し、多くの仲間を作りながら、自身のレベル上げも欠かさなかった。ディアベル自身の戦闘力はプレイヤーの中では上位だったが、キリトには、はっきり見劣りがした。ディアベルはキリトほどではなかったが、情報の価値を知る数少ないプレイヤーであった。ディアベルはまた、キリトやアルゴと同じく、元ベータテスターだった。テストの時も、同じプレイスタイルであり、多くのプレイヤーをまとめる力があった。ボス戦でもそれなりに、戦果はあげていた。自身が元ベータテスターでありながら、多くのビギナーを率いるディアベルを元テスターとビギナーとの確執を緩和、解消する鍵になる人物とアルゴは見ていた。
だが、ディアベルは、自分が元ベータテスターであることをひた隠しにした。その方が、多くのビギナーを仲間にすることができるとディベルは考えたのだ。しかし、露見すれば、ディアベルは激しい非難の矢面に立たされる。ベータテスターの情報面での優位は、序盤に限られる。ベータテストは第八層をクリアし、第九層途中のところで、二ヶ月の期間を終了した。ほとぼりの醒めたところで元テスターであることを明かしても、その時点まで彼についてきたプレイヤーの信頼は不動のものになっているはずであり、元テスターであることを理由に配下に離反される危険は少ないと考えていた。しかし、綱渡りにも似た、あまりにも危うい策であった。
そればかりではない。ディアベルはキバオウというプレイヤーを利用した。関西人の悪いところだけが強調されたかのようなこの男は利己的で、他罰的であったが、一方、親分肌で、面倒見の良いところがあった。キバオウはその性格からも反元ベータテスターの急先鋒だったので、同じく、元ベータテスターを嫌うプレイヤーでキバオウに従う者は結構いた。キバオウにしたがっていたこれらの者たちも、キバオウを介してではなく、直接ディアベルに従った。 キバオウ自身がディアベルに心酔し、利己的なこの男にも似ず、滅私奉公するのであるから、それはむしろ自然であった。ディアベルは彼らを完全に自分の味方につけるため、反元ベータテスターの気運を煽った。特にキリトを利己的で抜け目がないだけのプレイヤーと印象づけようとした。自分がリーダーとなるためには自分よりはるかに高い戦闘力を持つキリトは邪魔であった。初戦でのLAボーナスを自分が散るためのキリトに対する小細工にもキバオウを使った。アルゴはディアベルとキリトとに情報屋として公平に接しながらもディアベルの一連のやり方を疑問視するようになっていた。
それはまさに突然であった。アルゴは見たのである。探し求めていた男を。彼はベータテスト時同様ほぼ常時気配を消していた。「隠蔽」を使ってボス戦を観戦していたアルゴは危惧していたディアベルの死を目撃した。その前後のキリトとアスナの獅子奮迅の活躍も観た。二人の活躍は際立っていた。だが、勝利の後に待っていたのはキリトへの賞賛ではなく、悪意の暴発であった。ディアベルを死に追いやったのはキリトであるという言いがかり、非難は元ベータテスター全体にまで及んだ。
その時、カイトと名乗る一人の長身の男が進み出てきた。アルゴが見間違えるはずがなかった。
(まさか、こんなゲームなんかにいるなんて。)
それでもキリトに対する、いわれなき非難は続いた。アスナが見事な正論でキリトを庇った。それでも非難は収まらない。元ベータテスターに対する悪意は、とうとうアルゴにも及び、アルゴとキリトが共謀したとまで言い出す者がいた。アスナはアルゴも庇った。そのため、アスナまでが巻き添えになりそうになった。
キリトが立ち上がった。アスナは自分が利用しただけあると言い、さらにアルゴなど目じゃないくらい自分は情報に通じていると言いそうになった。
(キー坊は一人で悪役を引き受けるつもりなんだわ。)
アルゴがそう思った時、カイトがキリトの口を抑えて力づくで制止した。さらに進み出てきて、言われなき非難に対し、理路整然と大論陣を張った。激しい言葉はない。態度は冷静、しかし、周囲は静かになり、凍りついたようになってしまった。
(間違いない。「カイト」なんて、まんまじゃない。なんて無造作なの!だけど元ベータテスターと言っている。テストの時にはいなかったはず。)
わずかに疑念が残った。
声はだいぶ小さくなったが、今度は反テスターどもは、キリトとカイトが共謀していると言い出し、「ビーター」と罵った。
キリトは上等だ、と言わんばかりに、喧嘩を買おうとする構え。だが、またもや、カイトが無理やり制止した。キリトを引っ張って外に出ていく。アルゴは、確かにその背中にも、確かに見覚えがあった。アルゴは彼を追った。
第二層へのアクティベートはカイトは行った。アルゴは間髪を入れずに第二層へと彼を追った。しかし、門のところで確かに認めた気配がいつの間にか消えていた。目に見えないとしても「索敵」に反応しないはずはない。理由があるとすれば、ただ一つ、カイトが「隠蔽」を使っていること。アルゴはカイトがベータテスト時から自分をも上回る「隠蔽」を使っていたことにようやく気がついた。
(ああ、こんなところで会えるなんて!)
思わず、涙が出てきた。だが、その時、「索敵」に反応があった。二人だ。風魔忍軍と名乗るこの二人にはベータテスト時から追われていた。「隠蔽」を使っても逃げ切れるかどうか。この連中はベータ時代も「索敵」を持っていた。アルゴの敏捷値は極上げである。筋力値を犠牲にしてまでも上げている。しかし、悪いことにこの二人組もアルゴと同様のスタイルなのだ。あとは、自分の方がこの第二層の地理に詳しいことに賭けて逃げ切るしかない。フィールドには今のレベルでは少々面倒な大型のモンスターが出る。山を登って、どこかで撒くしかない。
二人を撒いて山から降りてくると、カイトが待っていた。
(まさか、見失ってがっかりしていたのに、彼の方から接触してくるなんて。)
アルゴは嬉しかった。彼がそうしてきた理由はすぐに分かった。自分以外は知らないはずの「体術」のクエストの存在を彼は既に知っていた。なるほどカイトならば、「体術」スキルはどのプレイヤーよりも欲しいであろう。あの時彼が使った拳法の技は人間離れしていた。彼ならば、自分から情報を得なくとも、クエストの存在くらいは知っているだろう。風魔忍軍の二人組でさえ知っていたのだ。場所ももう教えるつもりであったが、そこは情報屋としての意地もある。迷っていたら、キリトと一緒ならどうだい、と言われた。キリトにもカイトにも第一層ボス戦の際に自分に非難が及ぶのを防いでもらった恩がある。カイトに対する恩はそれどころじゃあない。命の恩人なのだ。断る理由はない。カイトならあのクエストでも容易にクリアする。キリトだってアルゴとは比較にならない高い筋力値なのだ。おそらく大丈夫だろう。
なんだかんだとと言って、結局、うっとおしい風魔忍軍の二人組を撃退してくれた。しかもそのやり方が痛快だった。拳銃から花が出てきた時も思わず笑ってしまったが、超一流のプロのくせに、カイトは悪ふざけが大好きなのだ。そんなところにもアルゴは強く惹かれた。そういうのは自分も大好きだ。しかもカイトの悪ふざけは、いつもしゃれていて、かっこいい。
カイトはアルゴがクリアできなかった、体術スキルのクエストを、僅か一時間あまりでクリアしてしまった。
(想像以上だわ!まさに怪物!)
アルゴは驚愕した。さらに、アルゴが第二層のボス攻略情報のクエストを受けて、クリアに手間取っていると、突然背後から現れ、クエストクリアを手伝ってくれた。さらに一緒に迷宮区を突破し、ボス戦の戦場へと急いだ。その速さはアルゴ以上。弱敵とは言え前に現れるモンスターは素手の一撃だけで倒していく。
戦場は大ピンチでだったが、カイトは手にしたチャクラムでアルゴの注文通り、ボスの急所にクリティカルヒットを連発する。なんという男か。しかし、それでも、まだまだ、こんなものではないことをアルゴは知っていた。
第三層で、カイトはキリトを手懐け、アスナまで引き入れて、見事な戦略で、いきなり最強ギルドを立ち上げてしまった。その頃、アルゴはクエストに挑戦中のキリトから、依頼を受けた。キリトは、気づいてないけれど、アルゴはキリトからの依頼はベータテスト時から、一度も断ったことはない。キリトはモルテというプレイヤーをALSとDKBの両方で目撃したことに疑念を持ち、調査を依頼してきたのだ。調べた結果は、キリトの疑念を裏付けるものだった。目的は二つのギルドの攪乱し、偽情報により、無用の競争を煽ることだった。
このことをキリトが、知ったからであろうか、あるいは当初からの目的なのか、モルテはキリトに半減決着モードのデュエルを挑み結果はドロー。モルテは攻略にとって、またそれ自体、危険な存在であることは、アルゴにも分かった。しかし、アルゴでは自分でどうすることもできない。
そこへ、はぐれ烏となった、モルテの居場所を、探してほしいとのカイトの依頼があった。依頼者が「彼」である以上、その目的は解る。失敗もまったく考えられない。心配していたのはその後、自分が「彼」とのつながりをどう維持するかである。何しろ神出鬼没であり、気配は消されるわ、この世界最速で走られるわでは、捕まえようがない。
そうしたら、なんと、彼が自ら護衛してくれる、と言うではないか。今までこんなことは、言われたことはない。それもよりにもよって一番それを言ってもらいたい人から。アルゴは思わず「鼠」であることを忘れて、「素」のままで返事をしてしまった。
この頃からとても気になることが一つあった。彼の愛弟子として、いつも一緒にいるシャルという子。男ということになっており、年齢はキリトよりたぶん少し上。ブロンドのものすごい美少年だ。今まで気付かなかったのは、カイトが隠していた、以外には考えられない。ならば、カイトが本当に、愛しているのは、その子、シャルではないのか。アルゴはシャルは実は女の子だと直感していた。キリトだって男の子で「女顔」、そういう子にも見えるが、本質的に違うのだ。キリトはあれで、結構男らしいところもある。シャルにはそれが、ほとんど見当たらない。
(彼といつも一緒のあの子が女の子だったら、しかも彼はあたしから、あの子を隠していた。そんなに大事なの?・・・ライバルとして強力すぎる。ああもう、辛抱たまらないわ!)
アルゴはカイトに対しては、「鼠」であることを捨てることにした。カイトに対する猛アタックが、開始されたのである。
続く
気づいた方もおられるでしょうが、当初はカイトとアルゴをくっつけるつもりでした。しかし、どうにも座りが悪いし、後が続きません。そこで、当初は男だった「愛弟子」を女の子に変え、オリヒロインに昇格させました。原作ではアルゴは途中で消えてしまいますし、どうも位置づけがはっきりしませんね。まあ、無理矢理、つじつま合わせにすぎませんが。