八幡の四十八魔物退治物語   作:T・A・P

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十二体目

 ある大きな武家屋敷の一室に大勢の用心棒達がひしめいていた。斧を担いだ山賊風の男がいれば、甲冑を着こんだ男に野盗崩れの集団など様々な男たちが集められ、今か今かと何かを待っていた。

 そんな男たちの中、一番後ろに一人の少年が柱にもたれかかって座っていた。少年は錨柄の貧相な着物を着て二本の刀を抱えていた。少年は俯き表情は見えないが、その着物の柄からその少年に近づく者はいなかった。ただその中で二人が近づいてきた。

「あ、八幡。やっぱりいた」

 一人は見た目からしてくノ一に見えるが、れっきとした男の娘忍者の、

「ああ、戸塚か。相変わらず性別が分からない奴だな」

 顔をあげ戸塚の笑顔をその双眸に収めた。

「もう、僕はれっきとした男だって言ってるじゃない」

「他人が言っている事が全て正しいと言うわけじゃないが、戸塚の言葉なら……」

「ほう、八幡!やはり来ていたか!」

 二人の会話にいきなり大声をかけてきたもう一人、

「なんだ、材木座も来ていたのかよ」

 上等な着物と名刀を身につけた少年が胸を張って立っており、そんな少年にうんざりしながら八幡はため息をついた。

「当然であろう、我がいるところに八幡が存在し、八幡のいるところに我が……」

 材木座の言葉を周りのざわつきが遮った。前の方に一段上になっている壇上の様な場所に四人の女性が姿を現した。

「集まってもらったのは他でもない、私達の娘の護衛をしてもらいます」

 一歩前に出たどこか高圧的な女性が口を開いた。その女性の横に絢爛な着物を着た長い綺麗な黒髪の美少女が、冷めた目で男たちを眺めていた。反対側には口を開いた女生と年が近しい妙齢の女性が控えるように立っていた。その影に隠れるように、これまた豪華な着物を着て髪を結っている黒髪の少女に負けず劣らない美少女が不安そうに立っていた。

「今夜、魔物が娘雪乃と我が雪ノ下家と親交の深い由比ヶ浜家の子女、結衣を攫いに来るでしょう。それをあなた方に護衛してもらいます」

 こんな野盗崩れなどの粗暴な連中を前にここまでの態度を取れるとは、と少しだけ感心して八幡は無意識に少し口を歪め笑っていた。

「この二人を守った者にのみ報奨金を支払うことを忘れないよう」

 言うべき事だけを言い残し、これ以上同じ空気を吸いたくないと言わんばかりに口元を覆いその場から立ち去ろうとしていた足を一人の少年が声をかけて止めた。

「一つだけ、二人を守りきれましたらどちらかと婚姻させてもらえませんか?」

 そう言うことをさわやかな笑顔でのたまっている少年がいた。服装から持ち物から材木座と同じように上等であったが、身につける者がこうも違えば変わる物だと思い知らされた。

「…いいでしょう、考えておきます」

そう答えた自身の母の言葉に少しだけ眉を動かし、どこか諦めの表情を浮かべていたがすぐに元に戻っていた。そんな心の機微を察してか結衣の表情が曇っていた。

四人が部屋から出た後、すぐさま咆哮が響き目に見えて士気が高まっていくのが分かった。戦いやすくいい場所を確保するために我先にと互いを押しあって部屋を出ていった。中には泥棒をするために出ていったような奴もいるだろうが、直属の部下が目を光らせているだろうから無駄だろうな。

部屋には八幡と戸塚、おまけで材木座が残っていた。そしてもう一人、先程恐れ知らずにもあんなことを聞いた本人だった。

「やぁ、君たちも外に行かなくてもいいのかい?」

「あ?来んのは今晩だろうが。てか、誰だよお前」

 さわやかな笑顔を向けてくるこの少年に鬱陶しく言葉を返す。

「ああ、そうだね。俺は葉山家の嫡男、隼人だ。今日はよろしくな」

 それが当然とばかりに手を差し出してきた。

「ハッ、別によろしくされる覚えはねぇよ。ったく、面倒な事をしてくれたな」

 呆れたようにため息をつき、これ以上言葉を交わす意思が無い事をあらわす様に目を閉じ顔を伏せた。

「まぁ、君がどうあれ俺は皆と協力しないといけないと思っているから」

 と、そう言い残し四人が出ていった戸を開け外に出ていった。

「…行ったか」

「うん、行っちゃったけど、どうしたの八幡?」

 戸塚が不安そうに八幡を見る。

「いや、別に何でもないさ。それでお前らはどうする」

「えっと、八幡はどうするの?」

「夜になるまでここで休んでるさ」

「じゃあ、僕も一緒に休んでいい?」

「ああ、いいぜ」

 八幡の隣に戸塚が腰をおろした。材木座は自分の言葉が最後まで言えなかった事にひどくショックを受けて石化していた。

少ししてどうにか石化が解除されたのかまた喋り出した。

「八幡よ、魔物と言っていたが……八幡が探している魔物の一体であろうか」

「さぁな、それは斬ってみねぇと分かんねぇよ」

 さっきまで浮ついていた材木座だったが、石化していても話は聞こえていたらしく神妙な態度を取っていた。八幡はいつも邪険にしている材木座を本当の意味で排除しないのは、こう言う一面を持っているからだろう。

「だが、十中八苦魔物は今夜現れるだろ。あいつらそこの所が以外に律儀だからな」

 苦笑してはいるが、そこに油断などが介入する隙は無かった。

「おそらくだがここにいた連中全てが使い物にならねぇだろう。使えるのはお前らくらいなものだ、いざとなったらあの二人を連れて逃げろ」

「八幡は……」

「俺が斬らねぇと意味ねぇんだ」

「うん、分かった」

 戸塚はその言葉に不安と信頼を込めていた。

「その役目、我がしかと受けた」

「お前に期待してねぇよ」

「ちょ、はちま~ん」

「あはははは」

 材木座が情けない声を出し戸塚が笑い、そんな二人を八幡は優しく見守っていた。八幡は生まれてこの方、この瞬間以上に心安らいだことは無かった。

 

 

 

 日が暮れ日が落ち、人間の時間から魔物の時間へと移り変わった。いや、そもそも人間の時間はありはしないのかもしれない。魔物はいつどこからどこに現れるのか分からないからだ。しかし、そんなことを知っている人間など一握りだろう。知った人間のほぼ全てが一握りにされているのだから。

 暗くなった外に篝火がたかれる。火の明かりで幾分かあたりは照らされてはいるが、その分だけ陰が濃くなってもいた。

護衛すべき二人の少女は、蝋燭を立てたあの大きな部屋の一段上の壇上に並んで座っていた。こんな状況でも雪乃は無表情で座っていたが、結衣の方はあらかさまにおびえているのが分かった。そんな結衣を隣から支えるようにして母が控えており、雪乃の母も横に控えてはいるがいい意味で凛としており、悪い意味で護衛を見下していた。

 そんな二人の前に仁王立ちをするかのごとく隼人が立っており、他にも部屋の中には数人の雪ノ下家と由比ヶ浜家のお抱えの忍者や武士が控えていた。

その中で異質な存在を放っていたのは当然八幡だった。横に立っている戸塚と材木座のように外を警戒するでもなく、ただ座ってまぶたを閉じ見た目では寝ているようにしか見えていなかった。

 そんな八幡を見てますます見下すような表情になる雪乃母。だが一切口を開こうとしないのは、会話自体を拒否しているからであろう。だが、一人そんな八幡に話しかける存在が居た。隼人である。

「すまない、君は今の状況を理解しているのかい?」

 戸塚と材木座が振り返る。目線の先には笑顔ではあるがどこかイラついている隼人の顔があった。それは自分で思い通りにならない者を相手取っているような表情だった。戸塚は困ったように首を横に倒し、材木座は無言で腕を組み胸を張った。それでも八幡はその態度を崩さなかった。

「君がどうしたいのか分からないが、俺の邪魔だけは……」

 全てを言い終わるまえに、いきなり目を見開き立ちあがった。二本の刀を腰に差し、外へと顔を向ける。それから少しだがニヤリと笑った。

 いきなり動いた八幡に対して、投げる言葉を足元に落とした隼人はチラッと後ろを確認した。そこには今まで無表情だった雪乃の口元が笑っているのを目の端でとらえ、ギリッと歯を鳴らし自尊心が傷つくのを堪えていた。

「来るぞ」

 そんな事を八幡が言ったのを聞き洩らすはずはなく、すぐに外に目をやった。

隼人は今回集まった連中を格下の道具としか思っていなかった。隼人の目的は雪乃を娶ること。ゆえにあの言葉があの時出てきた。

雪ノ下家、由比ヶ浜家、そして葉山家。この三家はこの地方じゃ大きな一族で少なからず交流はあるが、若干ばかり葉山家の格は下になっている。

雪乃、結衣、隼人、そして雪乃の姉の陽乃は幼い頃から知っている中でその頃から隼人は雪乃の事を好いていた。しかし、雪乃は隼人の事を嫌っており求婚を断り続けてきた。雪乃は隼人のいつでも他人を道具として見る事に気がついていた。

ゆえに隼人が雪乃を娶ろうと思えばこんな機会を待つしか方法はなかっただろう。

隼人は八幡たちを押しのけ外へと飛び出した。誰よりも先陣を切るために。しかしながら、そんな浅はかな考えは覆される事となった。

 

 

外に飛び出して一番初めに見た光景は、地獄だった。地獄としか言いようのない光景だったと、言い換えられるがどちらにしろ同じことだ。

まさに地獄。一体の巨大な鬼が用心棒達を潰していた。握りつぶして鮮血が垂れる、押し潰して流血が川になる、踏みつぶして血の池とする。真っ赤な月に照らされる事なく、世界は赤に染まっていた。

「あ、ああ、あああああああああああああああああああああああ」

 まぎれもない死の感覚。普通に生きていたとしてもすぐ横には死が待っている、だがここまでの死と隣り合わせではない。隼人の感覚が正しいのだ、こんな光景を見て叫ばない方が異常なのだ。

 顔をひきつらせ後ずさりする隼人、そのまま踵を返し逃げようと振り向いた先に雪乃の顔が目に入った。しかし、一度足を止めるだけですぐに逃げ出した。その隼人の光景を当たり前のように落胆なく見送っていた。

 鬼は外にいた全ての人間を肉塊に変え、部屋の方に顔を向けた。醜悪に顔を歪めて笑い一歩一歩近づいてくる。

「戸塚、材木座」

 ただ二人の名前を呼ぶ。それだけで二人は、

「分かった……死なないでね」

「我の出番か」

 すぐさま二人は少女の元へ走り、戸塚は雪乃に肩を貸して材木座は荷物のように結衣を担いで屋敷の奥へと向かった。その二人を追って二人の母とおかかえの忍者と武士たちが続く。

 この場には八幡と鬼が残された。

 鬼は外に出てきた八幡を視界に収めさっきと同じように潰そうと腕を振り上げ振り下ろした。しかし、八幡はすれすれのところで避けていた。

「よう、遭いたかったぜ。四十八の魔物の一つ」

「ほう、お前は奴のせがれか」

「は、俺が誰のせがれでも関係ねぇよ。ただ体の一部、返してもらう!」

 八幡は腕を振り回し肘から先の腕を脇に飛ばした。その下から一本ずつ二振りの刀が姿を現した。

 

 

 

 八幡と言う人間は、いや、人間もどきは生まれてきた時から体の四十八ヶ所が無かった。およそ人間と言い難いその姿は芋虫と変わらず、顔があったであろう場所に目があるべき所に黒い二つの穴と鼻があるべき所に小さな穴、口があるべき場所に穴が開いているだけだった。

 この人間もどきの一応の父、比企谷景光は生まれる数ヵ月前に一つの取引をしていた。一つと言うより四十八の取引だろう、自分のせがれの体四十八ヶ所の代わりに天下を欲した。そして契約はなされ、八幡は生まれた。

 比企谷景光はすぐに殺そうと刀をとったが、母が懇願しその場で殺されることは無く母の手によってたらいに錨柄の布地と一緒に入れられ川に流された。たらいは岸に引っかからず下流へと流され、川下で医者の寿海に拾われた。

 寿海はその赤ん坊を拾って家に持ち帰り、義眼・義手・義足等を作り与えた。その赤ん坊は不思議な事に目が無いのに物を視る事ができ、口が無いのに言葉を話すことができていた。寿海はその赤ん坊に八幡と名付け可愛がって育てていた。

 しかし、数年ほど経つと不思議な事が起こり始めた。何もないところで転んだり、夜になるとたくさんの視線を感じるようになり、人間ではない何かが寿海の家を訪ねる事が多くなった。

寿海はそれが八幡の不思議な力が関係していると思い至り、彼に訪れるであろう壮絶な未来を嘆いた。こんなにまだ幼い八幡には過ぎた荷物であるが、それでもこの先八幡が生きていけるように寿海は決心した。

 まず、八幡に麻酔を飲ませ今までつけていた義手と義足を筋肉で指先が動かせる物へと付け換えた。腕の中に刀を仕込み、戦う手段を与えた。それからは特訓の日々だった。腕の刀を振い、他の人間と同じように口を動かしあたかも口で喋っているかのように見せ、世の中の常識を憶える事に数年を費やした。

 ある日、家に戻ると寿海は病に倒れていた。八幡は別の医者に見せに行こうとしたが、寿海がそれを止めた。すでにこの日本は比企谷景光の影響が強く、寿海ほどの技術を持った医者はその技術を奪われ、世の中に死なない兵士が増え戦で死んでゆく村人が多く出るだろう。と、寿海は八幡に家ごと焼くように言った。しかし、そんな事を言われてもできるはずもなくそれから数日が過ぎた。

 そして、これが八幡の義眼さえも腐らすことになる。

 比企谷景光の手の者がこの家に近づいている事に八幡は気がついた。そのことを寿海に伝えると急いで火をつけるように声を荒げて八幡を叱咤する。以前から用意してあった旅の道具を八幡に渡し、八幡は言いつけ通り家に火を放ち見つからないうその場を去った。

 それから二日が経ち、家があった場所に戻ると全てが焼け焦げ何もかもがなくなっていた。八幡は泣いた、涙は出なかったが枯れ果てるまで泣いた。

 育ての父だったとしてもただ一人の肉親を亡くし、本当の父のように慕っていた肉親を亡くし、泣こうにも涙は流れず。

 最初の一度目、八幡はその絶望で義眼さえも腐らせた。

 

 

 それからあてもない旅に出た。

 その旅の途中、小さな御堂で雨をしのいでいると『声』が聞こえた。その『声』は四十八ヶ所を魔物四十八体が奪った事、その魔物を倒していけば体が戻ること。いずれその魔物に出逢うだろうと。それだけを言い終え『声』は消えた。

その声を信じたわけではない、だがこれからの旅の指針とはなった。

声が聞こえてきてから数日の事、一体目の魔物と遭遇することとなった。魔物の中でもまだ弱い部類ではあったが、八幡は苦戦していた。殺し合いと言う実践はこれが初めてで、訓練の時のように体を動かすことができなかった。そして、言葉でも迷わす魔物で『体四十八ヶ所が無いのは本当の父親の仕業』だと嬉しそうに口に出した。八幡もそれが本当の事だと直感的に分かってしまい、怒りにまかせて刀を振るう。

辛くも倒すことができたが、二度目の絶望がまた八幡を襲って来た。その時口の中に激しい痛みが響いた。それは一分ほどで治まり地面には父親に作ってもらった歯が落ち、口の中には自分の歯が生えていた。八幡は理解した、こうやって体を取り戻すことができるのだと。

八幡は次の魔物を斬るために歩き出した。

 

 

 

「ただ体の一部、返してもらう!」

 両手の刀を振い鬼に近寄る。鬼は蚊を叩き潰すように八幡目がけて両手を振う。だが、鬼の攻撃は素早い八幡には当たらず、逆に八幡の斬撃は皮膚に傷をつけていっていた。八幡が優勢かと言えば決してそうではない。八幡が火縄銃とすれば鬼の威力は大砲並だ、一発で逆転してしまう。魔物との戦いは気の抜けない戦いなのだ。

 らちが明かないと思ったのか、鬼の方から両手を組んだ重く早い一撃が八幡をとらえた。鬼はニヤリと笑い、土煙が晴れて姿が見える前に左腕が落とされた。

 八幡はギリギリまで引き付け、鬼の股を滑り背後に回っていた。そして右腕の刀【百鬼丸】で左腕を切り上げて切断した。

 八幡の右腕の刀【百鬼丸】は魔物に家族を殺された刀鍛冶が鍛えたもので魔物を斬り伏せるためだけに心血を注いだ刀である。左腕の刀は銘こそ無いが寿海が昔使えていた先でいただいた名刀だ。

 すぐさまもう一方の腕も斬り落そうとしていたが、怒りにまかせた鬼の腕を避けるために後ろに下がらざるをえなかった。だが、鬼は左腕を斬り落とされた事により頭に血がのぼりただ突進してきた。八幡はこれを勝機だとし、手を握りしめ振り下ろす拳を紙一重で避けその拳の上に乗り、一刀で首を刎ねた。

 

 

 鬼はその巨体を支える事ができず倒れ、八幡は腕を回収に行く。腕を回収し終えると同時に倒れ、右足を押さえた。今までそこにあった足がポロリと落ち、生身の足が生えてきた。全て生え終わると自分の足の調子を見るように、足を動かしていた。

「おい、今の見たか」

「ああ、足が生えた。あいつ、人間じゃない」

「まさか、さっきの仲間じゃないのか!」

「おい、人を集めろ!」

 そんな言葉があちこちから聞こえてきた。八幡は声が聞こえてくる前から集まっているのに気が付いており、すでにさっきまでついていた足を脇に抱え屋敷から逃げる準備はすでに整っていた。それでも逃げず、ギリギリまで待っているのは、

「八幡!」

「さすが八幡だ!」

 彼等の姿を見るためであった。

 

 

 彼等の無事な姿を感じ、その場から逃げだした。逃げ出そうとする八幡を取り囲もうと槍や刀を持って包囲するが華麗に隙をつかれ、手刀によって意識を狩り取られてはいるが死人を出すことは無かった。

 そんな様子を陰から見ていた二人の少女に、八幡は気がつかなかった。

 

 

 

 

 夜が明けるまで近場にあった御堂の中で休み、その近くに今まで世話になった足を地面に穴を掘って埋めた。日が頭上に上がりきる前にこの村から出るために、一人で歩きだした。少し歩くと見知った姿が二つとそのそばにもう二人岩に座っていた。

「戸塚と材木座か、どうした」

「ほら、僕達何もしてないのに依頼料をたくさん貰っちゃたからわけに来たんだよ」

「そうだぞ、八幡。我らがこんなに貰うのは割に合わないのだ」

「別にいらねぇよ、俺は右足を取り戻したんだ。それで十分、それはお前らが持ってろ」

 そう言って二人の横を通り過ぎようとしたが、もう二人組に道をふさがれた。

「あなた、私達を助けておいてなにも貰わずに行くとはどういう事かしら」

「えっと、あの、助けてくれてありがとう!」

「……………」

 いきなり暴言を吐かれて、お礼を言われたのは初めての体験だった。どうにか混乱から抜け出し後ろを振り向いて、

「材木座!説明しやがれ!」

 

 戸塚と材木座はあの後、この二人に八幡の事を根掘り葉掘り聞き出されていた。二人は戸塚と材木座の制止を振り切って途中から八幡の戦いを見ていたらしく、二人が二人とも八幡に興味を持ち今日ここで待ち伏せしていた。雪乃は無断で(あのままあの家にいると政略結婚の道具にされるという理由があるので)家を飛び出し、結衣はしっかりと母と向き合いその恋を応援されて今ここにいるという事だった。

 意味が分からないと頭を抱え、どうにか家に帰す方法が無いか考えていたがいい考えがすぐに浮かぶはずもなかった。

「俺についてくると危険だし死ぬことになるぞ!」

「それでもいいわ。あなたの事情はどうあれ、私はあなたに命を救われたのよ。だったらあなたのために使うのが道理じゃないかしら」

「それに、また私達を護ってくれるんでしょ!」

 八幡がああ言えば、二人はこう言う。どうにもならなかった。

「それに、私達の家からお金はたくさん持ってきたわ。これで当分の路銀には困らないはずよ」

「あ~もう、分かったよ。戸塚に材木座、お前らの責任もあるんだ一緒に来い」

「うん!いいの八幡!」

「ほう、ようやく我を相棒と認めたか!」

 こうして、一人旅がいきなり五人旅となった。

 

 

 

 

 八幡:残り三十六体

 


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