試合開始前、参加する選手たちは軽くストレッチをし体をほぐしていた。花井だけは腕立てをしたり過剰だったが、それだけ八雲に対する想いと試合に対するやる気が見て取れる。
試合に参加しない生徒も別の形で楽しもうとしていた。烏丸みたく主審として参加したり、友達と会話しながら観戦したり……もしくは
「麻生も花井にかー、これじゃ賭けにならねー……おっ、影浦お前も参加しね?」
「金髪君か。これは……賭けか。全員演劇側か(晶たちからは演劇チームを応援してくれって言ってたけど、賭け《こっち》は)じゃー、俺は拳児……出店に一つ」
「よぉっ、そうこなくっちゃ!」
どちらが勝つか賭けていたりした。どうやら出店側が穴のようで影人以外の男子は演劇側に賭けていた。これでもし花井たちのほうが勝ったら、所持金が心もとないというのにとんでもない出費により今週はなにも食わずに生活しないといけなくなるだろうに。
「何やっても華があるよね~高野さんたち」
「ウチの学年じゃトップクラスの美人だからねー」
「同じ女として軽く嫉妬してしまうわよ」
クラスの女子たちが羨望の眼差しで晶や沢近、美琴を見ていた。そして一条がその近くのプールサイドを熱心に掃除していた。
――――掃除しているのは一条のみ。
「それでは試合を始めます」
烏丸がホイッスルを鳴らして試合開始の宣言をする。バスケ用ではあるが、得点板もあり主審と書かれた名札も付けているので結構本格的である。
「(天満ちゃん)」
「(烏丸君…!)」
「(塚本君!)」
「(全ては!)」
「(愛のために!)」
「(そう愛は戦い!)」
参加者のうち、恋をしてるものどもは活躍して好きな人に良いとこを見せようと(このうち一人はその意中のお相手は帰っている)燃えていた。なぜか喋ってもいないのに微妙に会話が成立しているのはこれも愛の成す力なのか……と言っても対象は違うが。
「ゲームスタート」
「(拳児が負けたらなにしよう……屋上からバックドロップでも決めて――――あ、それやったら俺も巻き添えくらうか)」
そして試合が始まった。
なにやら影人は賭けに負けた場合の腹いせを播磨にぶつけようとなにをするか決め……たが、問題点に気づいて踏みとどまった。
――――問題点はそこだけじゃない。
side Kageura Kageto
お願いだから負けんなよ拳児。お前が負けたら俺はしばらく、もやしだけの食生活を送らないといけないハメになるんだからな。
まず先手を取るチームはどっちかな………チャンスボー……石鹸が金髪の人にやってきたか。あの金髪さんメガネ君2号の情報とソフトボールん時の投球からして、かなり運動センスあるよな。
ほら、普通のショットかと思いきやカーブを描き拳児の真横を通りすぎてったし。
ゴールを守ってるメガネの幼馴染は金髪さんがカーブの回転をかけたことに気づいたようだけど。動体視力のよさも半端なさそうだなメガネの幼馴染。
そのまま播磨を通過した石鹸はウイングにいたメガネ君へ行き……ザル警備となってるキーパー、メガネの幼馴染との真っ向勝負になった。
「はいやああ……いやあ!!」
武道家の独特?な掛け声とともに打ち出された強烈な弾丸《せっけん》はそのままゴールに突き刺さ――――
ガキィィィイン!
「と、とめたー!!?」
らなかった。メガネの幼馴染が腰を落とし、立てた膝によって防いだからだ。
とんでもねぇガッツだな……事前に衝撃を意識し緩和できるとはいえ、よくも避けずに真っ向から受け切ったな。
他のクラス連中もメガネの幼馴染のファイトに驚いて口を開けてるしな。
「いっ…たぁ~~~!バカヤロ!ちったぁ手加減しやがれ!!」
「したらこちらが痛い目を見るだろう。周防の実力は良く知ってるしな」
固まってる連中を余所に二人だけで繰り広げられる会話。
うーん、ギャルゲーみたいな甘酸っぱい関係ではないみたいだが……けどあの二人からはそんじょそこらのやつらの絆では太刀打ちできそうにないなにかを感じるな。
……って、何言ってんだ俺……
――――影浦影人、対象年齢がC以上のゲームをよくやる。
「周防と花井って知り合いなのか?」
「少林寺の同門。つっよいんだから!」
金髪君と一本のおさげ髪のどことなく委員長っぽい女が話している。
ふむふむ、あいつらは格闘家ね……それにしてはとんでもない身体能力を持ってるよな。武道を学んでる人ってみんなああなのか?
――――おさげの女の子。もう一人の学級委員である大塚 舞。当然影人が名前を知るわけない。
「なんか燃えるものがあるよなー、周防って」
「えっちな目で見るなってハイエナ共よ」
「ばっかそんなんじゃないって!」
「純粋に感動してるんだよ、男として」
「…男として?」
男子が興奮してるなー。しらねー男子が否定してるが、えっちぃ目で見てたりはしてるだろう。
俺は見てるよ。
………………だってあのスタイルだぜ?金髪君ほどではないが、やっぱ目が移ってしまう……どことはいわねーが。あー、やばい意識しようとするとメガネの幼馴染が見れなくなる。
「どうしたの影浦君?顔が赤いけど…」
「べ、別に赤くなってねーですし。これは…………そう!日焼けだ!!」
「……そこまで言うほど日焼けしてないよね?」
いつの間にか俺の両隣に隣子とその友達が座っていた。
俺がやましいことを考えていたことまでは気づいてなかったみたいだが。
「よっしゃ!周防俺たちも乱入するぜ!」
「俺は周防たちを応援するぞ!」
「がんばってー周防さーん!」
「付き合ってください!周防さん!!」
なんか一人どさくさに紛れて変なこと言ってるやつがいたが、すおーだっけ。あいつ男女問わず人気あるのなー。まー、不覚にも俺がみとr――――えぇい!しっかりしろ俺!俺のタイプはおねーさまだ!!優しく頼りがいのあるしっかり者の年上があああああああ!
「いやぁ~照れちまうぜこりゃ(けど持ちこたえるにも限界がある…)アテにしてるよ塚本!播磨!!」
すおーが振り向くと後ろのフォワード陣は――――
――――影人。周防の名字を覚えつつある。
「(にゅふふふふ……はい、烏丸君。どーぞっ。「ありがとう似合ってるよ塚本さん」)」
「(ぐふふふふ……)」
すんげー緩み切った表情でいた。しかもなんの勝率もないというのに勝利を確信してるし。
妄想してやがんな……拳児は大方こんなんだろう。
『はい、播磨君どーぞっ』
『サンキューな、塚本。似合ってんぜそのカッコ』
なーんて、塚本(姉)のウェイトレス姿を客の拳児が褒めている。こんな妄想だろう。8割方合っていると自信を持って言える。
……こんなん戦力として期待できるのかねぇ。
「(拳児はあんなんだし、塚本は運動苦手。すおーはキーパー……始まる前から勝負は決まってたんじゃないかこれ)金髪君。これ拳児たちが負けたら俺はおまえら全員に一食奢らなけりゃいけないんだよな」
立って観戦する金髪君を見上げる。
一度賭けの内容を再度確認するために聞く。
「そうだぜー、楽しみにしてるからな。おぉっと、わかってるとおもうが今さら花井にかけるのはナシだぜ」
「んなことはしねーさ………………賭けに勝つのは俺だからな」
「へっ?」
ボソっと呟いたのを聞き取れなかったのか、それとも聞こえたが真意がわからなかったのか金髪君は間の抜けた声を上げる。
俺はパシっと前に置いといたブラシを取り、プール《戦場》に飛び降りる。
『影浦!?』
「乱入ありだったよな。そっちにも数人増えてんだ。異論はないだろ」
味方のゴール側に降り、すおーが防いだせっけんが足元にあったのでそれをコツコツとつつき、質、形角度などを確かめる。
…………なるほど。だいたいわかった。
「拳児、塚本(姉)左右のセンターに上がれ。俺がパスを出す」
「うん、わかった!」
「まぁいいけどよ…おめー参加しないんじゃなかったのか?」
「お前らが不甲斐無いからだよ。拳児に賭けたから負けさせるわけにはいかねーんだよ」
先にセンターへ塚本を上がったのを確認し、俺もそろそろ出ようと準備する。
メガネがこっちに迫ってきてるからな。
「あー、そうそう。お前の分も賭けてやったから。もしもこれで負けたらお前も演劇側に賭けたやつらに奢りだからな」
「なに勝手に決めてんだ!?」
よーし、これで拳児にさらに闘志を燃やさせることができたな。
「ふふん、見てろよすおー。先制点を上げてお前の負担を減らしてやる」
「あ、あぁ……頼んだぜ!(発音が変だけど名字は覚えてくれたか……)」
さーて、そいじゃぼちぼち行くとしますかねー。
「悪いが君たちに点をやるわけにはいかない!」
おぉう、すごい速度で突進してくるメガネが前方に。こういう相手には……
「いよっ」
「むっ!」
横に石鹸とともにずれる。だが、メガネは素早くこっちに合わせて反応してきた。
それくらいは想定内。
「ほいさっ」
サイドステップし、元の位置に戻る。メガネもまた、片足をバネにし俺をマーキングしようとしてくるが……
「それが狙いなのだ」
すかさず手首を捻り、メガネがいた方向にパスを繰り出す。さすがに飛んでる最中だったので、メガネはどうもすることができず石鹸は右サイドにいる塚本(姉)に
「なにっ!?」
「播磨君!」
演劇側のやつらは俺が花井から奪われるだろうと思っていたのか、前に出てるやつが多く天満と拳児に対するマークが手薄だった。
それに、俺のパスも出は早かっただけで、速度はなかった。そのため、塚本(姉)にも対応でき――――
「任せろ塚本!(天満ちゃんからのパスキターーーーー!!!)愛の一閃……君に捧げる!」
ゴール近くにいた拳児にパスが渡った。そっから打てば確実に点は入るかもしれないが……
「くっ…させないわよ!」
メガネが俺に出し抜かれたのを見て、他のやつらよりも先にゴール元へと戻って来ていた金髪の人が拳児に立ち塞がった。
金髪の人がいなければ、そのまま晶が守るゴールにと石鹸を叩き込んだんだろうが、金髪の人がガードに入ったせいで拳児はどうすべきか迷ったみたいだ。
「ちっ、どうすりゃ……!影人任せたぜ!」
が、俺のとこを見てノーマークだったことに気づいて俺のほうにパスを繰りだす。
良い判断だぜ、ゴールからは拳児と比べると遠いが、誰も邪魔するやつがいないぶん強力なショットを打てる。
「甘いわよ!いくらなんでもその距離から入れることは難しいはず!」
「(普通の人ならね……愛理、影人を他の人と同じ目で見てると痛い目を見るわよ)……これは終わったわね」
――――晶、すでに諦めモード。
「いっくぜぇ……」
狙いを定めブラシを限界まで後ろに引き寄せ……力を溜める。
「させないっ!」
「やらせるかっての!」
俺の斜め後方からメガネと……えーっと、ジョリティーとよく一緒にいるのを見るイケ面の人が石鹸を奪おうとそこまで来ていたが……もう遅い!
「プールホッケーは……」
力の限り全力でブラシを
「パワーなのだぜ!!」
一閃する!!
ブンッ!!!バキィッ!!!ドギャアアアァァァァ!!!!
ブラシで石鹸を打ったとは思えない打撃音がプール全体に響き、木々に止まっていた小鳥たちが空に飛び上がる。
「あ…(危ない。あれが足に当たってたら痣じゃすまないわね)
バキャアアアアアアン!!!
なんか晶が避けた様にも見えなくないが、石鹸がゴール壁にぶち当たった。
一瞬の静寂……そして
ピーーーー
「ゴール。出店チーム先制」
烏丸のホイッスルの音が響き、ドッと外野からの歓声が沸く。
チームメイトのやつらがこっちに駆け寄ってきた。
「やるじゃねーか影浦!花井にフェイントを食らわすなんてよ!」
「カッコよかったよ!」
「んなっ!(影人のやつ、天満ちゃんに……!いやいやいや落ち着け俺。影人に限って天満ちゃんを好きになることは……それにこいつは年上好きのはず間違いが起こることはない!)」
「そーかい、お役に立ててなによりだ。あと拳児、ナイスアシスト。お前のパスがなきゃあのショットは打てんかったよ」
なんか拳児がこっちをぬぅっと黒いオーラをまとわせて見てたので、ここで塚本(姉)の株を上げておかせておく。
「あ!播磨君、私のヘロヘロパスを見事影人君にまで回せてくれたね、やっぱ男の子だねっ。私だったらあんな絶妙なパス打てなかったもん」
「て、塚本!そ、そんなことねーよ!お前の(愛の)パス俺のとこまで正確に届いたぜ!!」
でへへっと塚本(姉)に邪な気が一切ない煽てに拳児はガシガシと頭をかいて、テレを誤魔化す。
あーあ、さっきのダークオーラから一転して幸せほんわかオーラに包まれたよ。わっかりやすいねぇ。
「ほいじゃ、俺はこれで抜けるわ。後は適当にがんばってくれや」
くるっと背を向け片手を上げて俺はプールサイドにと移動する。
賭けの正確な内容はどっちのチームが先制をするかだ。あいつらはどっちかが勝つとか言ってたが、賭けの事を書いてあった紙にはどちらが先に先制できるか……だったからな。
「影人」
「ん?晶か。どうしたんだ」
これでしばらくただ飯が食えることに俺は浮かれてたので、気分良く晶に振り返る。
そこには折れたブラシを片手にした晶が。
「これ、影人が使ってたやつ」
「あー……まさか、さっきのバキィッ!!ってこれか……」
力任せに思いっきり振ったせいで、ポッキリと中央から折れたんだな……
「これって弁償しなきゃならんよなー。出費はそれほど痛くは――――」
「あとあれも」
グッと親指で後ろを指す晶。そこには……先ほど俺がゴールに叩き込んだ石鹸だったものが……
要は粉々に砕け散っており、破片が飛び散ってた。審判である烏丸が片付けをしてるが……後でお礼言っておかねーとな。近いうちにカレーでも奢るとしよう。
「もう少し力加減を抑えないと。それと、弁償代だけど……少なく見積もってもこのくらいはするかも」
どこから取り出したのか、電卓でピピッと計算し始め画面をこちらに見せてくる。
えーっと……ひーふーみー…………
「えーっと…………こんなにすんの?」
「学校の備品だからこれくらいはね。ブラシだからそこまでじゃないけど」
うぇーい、これじゃ賭けに勝っても弁償代としてプラマイ0じゃないかこれ!いや、でも学校の備品をぶっ壊したわけだから、教師たちの評価は下がるわけで……
「…………参加しないほうがよかったなこれ」
「ドンマイ」
ポンと晶に肩を叩かれ、少し後悔をしながら俺はプールサイドに戻っていった……
今回から途中で視点が変わる場合はsideと書いときました。
原作では麻生が出店側に加担しましたが、このSSでは演劇側にしました。
けどまだ麻生の紹介はされてないっ!原作ではそこそこ活躍してたのにっ!