やはり俺の偽恋はまちがっている   作:ウェスト3世

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第2話

 桜の花びらと共に揺れる艶やかな黒髪、ひどく澄みきった瞳にしばし呆然としていた。

 べ、べべべ別に惚れたとかそんなんじゃないんだからねッ!

 しかし、綺麗だとは思った。

 

「比企谷。ボーッと突っ立ってないで君も入りたまえ。」

「え、あ、はい。」

 

 な、何だろう。ちょっと入りづらいんだけど入っていいの?何か土足で踏みあがっちゃいけない雰囲気出てるんだけど。

 

「し、しちゅっ、失礼しまーす。」

「…………………。」

 

 舌噛んじゃった。やだ、何これ。すごい恥ずかしいんだけど。

 しかもあの子ジロッて睨んできたし。

 そして視線を平塚先生に移した。

 

「先生。入るときはノックをお願いした筈ですが。」

「あー。すまんすまん。」

 

 平塚先生には反省の色が見られない。

 結婚したいならこういう気遣いって大事だと思うんですけどね。

 

「そこの舌噛んだ人は誰ですか?」

 

 目の前の女生徒は平塚先生に問い質す。舌噛んだことは忘れてよ。恥ずかしいんだから。あと舌痛い。

 すると独身平塚は顎をくいっと動かす。自己紹介しろということらしい。

 

「えーと、比企谷八幡です。よろしく。」

 

 あ、「よろしく」って無意識に言っちゃったけど、どうしよう。

 「よろしく」を言うということは、これからその人と関わっていくことを意味する。つまりぼっちスキルが廃れることを意味する。さらには、ぼっちスキルが廃れるということは『孤高の八幡』(アイソレーター)という異名も霧散することになる。

 なんで自己紹介のときって「よろしく」とか言っちゃうんだろ。名前だけじゃ満足できないのかな?

 

「宜しくというのはどういった意味かしら。それは貴方のような下卑た人と関わらなければいけないということかしら。」

「俺に聞くな。」

 

 随分とひどい言われようだ。

 すると納得いかないという風に

 

「では、誰に聞けと?」

 

 そこで俺は平塚先生に視線を向ける。これはどういうことなんですか?と瞳で訴える。

 すると平塚先生はスルーして話を進める。

 

「雪ノ下。君に依頼がある。この奉仕部の活動を通して彼の性格を改善してやって欲しい。」

「え?」

 

 そんな話は聞いていない。

 ついてこいと言われたからストーカーみたいについて行ったんですけどね。そういうの早く言って欲しいんだけどな~。し・ず・か☆

 

「ちょっと、先生聞いてないんですけど。何ですか何なの?僕のビューティフルでワンダフルな生活を潰してそんなに楽しいですか!?」

「君の言うビューティフルでワンダフルな学校生活の基準がよく理解できないが、友達がいない、捻くれた思考を意味するなら、丁重にお断りする。」

 

 丁重って言うけど、ズバッと斬り捨てられた気分だ。

 俺の人間性を否定された。もう俺の中に残る物何もないじゃん。

 

「その人を躾けたいということなら先生の仕事ではないでしょうか。何より彼の下卑た視線から身の危険を感じるのでお断りします。」

 

 ほーう。

 さては俺が君に興味でもあると言いたいのか?

 残念だったな。俺の心は絢瀬絵里ちゃんと決まっている。それが駄目なら園田海未ちゃん。

 そうだな。一番の決め手は金髪碧眼、黒髪ロングと外見的要素だな。やばい。最近スクフェスやりすぎだな。やりすぎて雄叫びあげて妹にきもがられるレベル。

 あれ?そういえばこいつも黒髪ロングだ。ヤダ、それ好きになっちゃうヤツかな?いやー、でもこの短いやり取りでもこの子性格がよろしくない。やっぱ絵里ちか海未ちゃん。

 

「その点では心配ない。恐らく過去にそういった理想を抱いてはいたが叶わないと見て断念したというのが正しい。な?比企谷。」

「ちょっと。やめてください。俺の過去をほじくらないで下さい。」

 

 何で知ってるの?

 いや、確かに抱いていた。まあ思春期男子特有の陶酔というやつだな。

 でも、叶わないと悟った瞬間に現実逃避し、異次元の方に走ってしまった。

 こういうのって俺だけじゃないよね?こういうの経験してる人いるよね?

 

「なるほど。彼の捻くれた性格をこの奉仕部の活動を通して変えていく、ということですか。……先生。それは彼も入部するということですか?」

「そう言った筈だが。」

 

 うわー。

 ゆ、ゆき…雪ノ下だっけか。今、コイツ本気で嫌そうな顔してた。

 しかし入部に関してはオレもヤダ。俺の怠惰な時間が減るし。

人生とは限られた時間でしかない。人間、その時間をどう有効に過ごすかで幸か不幸かが決まる。

 つまり入部したら俺は確実に不幸になる。今までの幸福は『全て遠き理想郷』となるだろう。

 

「じゃーよろしく頼んだー。じゃ。」

 

 厄介ごとだけ押し付け、そのまま独身の女神ヒラツカは去って行く。

 

「………………。」

「…………………。」

 

 沈黙の時間が流れる。

 雪ノ下は黙々と読書をしている。

 ふむ。依頼がなければ、暇な部活と解釈していいのかな?

やることないし、帰るか。と思って扉に手を伸ばすのだが。

 

「何処に行く気?」

 

 冷たい声が響き渡る。

 

「不本意だけれども先生の依頼を無視することはできないわ、ヒキガエル君。」

「な、何故俺の中学時代のあだ名を知っている⁉︎」

 

 思うのだが、ヒキガエルを嫌悪の目で見るのはどうかと思う。望んであの醜悪な姿になったわけではないだろうに。思わず同情してしまいます。

 

「先生の依頼は貴方のような人間でも社会に適応できるようにすることなのだから」

「ふ。お前、もしかして俺が職に就けず、社会貢献できないとか思ってるだろ。」

「その通りよ。引きこもり君。」

 

 比企谷と引きこもりって響き似てるな。思わず感心しちゃったよ。悪い意味で。

 

「言っておくがその心配性は皆無と言っていい。優秀な奥さんに養ってもらい、専業主婦に俺はなる!」

 

 なんか「海賊王に俺はなる!」みたいな言い方になっちゃったな。

 再び沈黙が訪れる。

 感嘆するのも無理はない。

 そもそも専業主婦は女子にしかなれないという縛りはない。つまりは男子にも専業主婦になる権利は当然ある。

 社蓄を厭うのであればオススメNo.1の職業であることには間違いない。

 そのはずだが、皆就職に目を向ける。というよりはそういう選択しか思いつかないのだろう。その時点で社会という檻に囚われている。そんな彼らに憐憫の目を向けたくなる。

 すると、長い沈黙を破ったのは雪ノ下だった。深い溜息と共に口を開く。

 

「貴方のその考えは社会的にまずいレベルね。」

「柔軟性があると言って欲しい。」

 

なんだ。今の沈黙は感心してたんじゃなくて呆れられてたのか。おっかし〜なぁ。

まあ、常人には理解できまい。だって俺は常人じゃないもん☆

すると、立ち去ったはずの平塚先生が再び入室する。

 

「手こずってるようだな。雪ノ下。」

「彼には変わる気がないようなのですが。この活動は必要ないのでは?」

「いや、必要ある。社会的にまずいからな。」

 

 本日二回目の「社会的にまずい」。

 くっ。これでは俺という人間が否定されている感じがする。

 ここはもう一度宣言すべきなのだろう。

 

「専業主婦に俺はなる!」

 

 すると二人が「馬鹿は死ね」と語るようにこちらを睥睨してくる。

 

「比企谷。ワンピースのフレーズを持ってくるという部分に関しては高評価だが、中身が腐ってるな。」

「私は何一つ高い評価ができないのですが。」

 

 くそっ!や、やっぱ駄目だったか。

 それにしても平塚先生、ほんと少年漫画好きだな~。

 

「それよりも雪ノ下から、この部活の内容について聞いたか?」

「いいえ、聞いてないし何で入部することが確定されてんですか。」

「まあ、端的に言うとだな、悩みのある生徒の問題を解決することだな。」

 

 なんかもう入部は確定されてるらしいな。俺の意見がスルーされてる気がする。

 

「要するに何でも屋ですか?銀魂で言う万事屋ですか?」

「やはり比企谷もジャンプ読むんだな~。けど、その解釈には誤りがあるな。」

 

 正確にはジャンプはもう卒業してるけど、月曜日になると体が勝手にコンビニに向かって立ち読みしちゃうんだよなぁ。長年の習慣が集積された結果だな。

 いや、それよりも何でも屋の解釈間違ってんの?

 

「正確にはその問題の手助けはしても、最終的な解決は本人がするって感じだな。」

「ほーん。つまり奉仕部はほんの後押しするって感じでOK?」

「そうなのだけれど、そのOKが揶揄されてるようで腹立たしいわ。やめてもらえるかしら。」

 

 ちょっと。別にOKって確認の為に言っただけだからな?挑戦状送ってるとかそんなんじゃないからな。

 それとも俺の発音がネイティブな発音だったから劣等感でも感じちゃったのかな?

 

「んで、ここからは雪ノ下も知らないルールがある。」

「ルール?」

「何でしょう?」

 

 平塚先生がニヤリと悪意に満ちた笑みを浮かべる(少なくとも俺にはそう見えた)。こ、怖いよ~。

 

「どちらがより多くの生徒を手助けできるか勝負する、だ。」

「聞いてませんが。」

「それは今まで部員が雪ノ下しかいなかったからな。けど新入部員ができたわけだ。こう勝負した方がわくわくするだろ!?」

 

 うわぁ。

 少年漫画見すぎでしょ。こう勝負事の展開好きだな~。

 だが、ここはちゃんと否定しないといけない。

 

「先生………」

「おお、そうか。そうか。賛成か。お前ならやってくれると思ったよ!雪ノ下もその沈黙はOKってことだな。いやー。面白くなってきたな!それでは失礼する。」

 

 「ぐひひひ」と怪しい笑みを浮かべながら去って行く平塚先生。

 俺達はその姿を呆然と眺めることしかできなかった。というより、異論を言う余地すらなかった。

 

 

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