やはり俺の偽恋はまちがっている   作:ウェスト3世

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第3話

 

「ぬああああああああああああッッ!」

 

 普段叫び声など上げない俺が叫び声を上げる。

 

「こ、こんなことが………ある筈が……」

 

 そう。こんな失敗があって良い筈がない。あってはいけないのだ。

 にも拘らず俺はこんな醜態をさらしている。

 すると、扉が勢いよく開かれる。こんな真似するのは我が妹の小町くらいだ。

 

「お兄ちゃん、うるさい!」

「うるさくない。決して俺が悪いわけじゃない。スクフェスが悪い。」

「うわ、出たよ屁理屈。」

「いいや、俺は悪くない。オレにフルコンボ取らせてくれないスクフェスが悪い。」

「あー。何だ。そういうことか。また、フルコン取れなかったんだー。」

 

 「その程度のことも出来ないの?」と瞳が語っていた。ちょっとお兄ちゃんカチーンときたなぁ。

 俺の愛用アプリである『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』略して『スクフェス』は所謂、音ゲーである。簡単なやつからイージー、ノーマル、ハード、エキスパートと段階があるのだが俺は現在、エキスパートのフルコンボを目指している。

 

「んじゃ、お前やってみろ。スクフェスの世界を思い知れ。」

 

 無論普段はフルコンボできてるのだ。とはいえ、坐禅を組んでコーランを一通り読み集中力を最大限に高める必要はあるのだが。

 

「小町、勉強中なんだけど。ても気分転換にやってあげる。お兄ちゃんのためだし?あ、今の小町的にポイント高い。」

「そんなポイントいらんから。ポイント貯めるくらいならフルコンとれ」

 

 そう言ってスマートフォンを手渡す。

 すると、曲が始まったのか、小町の指が滑らかに動く。

 

「………。」

 

 待て、本当に滑らかなんだけど。流れるようといえばいいのか。一流のピアニストが優雅に音を奏でている光景と言ったらいいのか。とにかく、凡人の域を超えてるのだ。こ、こいつ。

 

「はい、お兄ちゃん。」

「………。」

 

 ニコニコしながらスマートフォンを俺に返す。

 スクフェス経験ゼロの妹に負けるとは兄としてはショックだ。況してや俺がラブライブに感動して雄叫びあげたら蔑んだ瞳で見てくる小町に負けるなんて許せるはずがない。それにコイツ、ラブライブ見てないし。せめて、ラブライブに関心持ってからフルコンとれよな。まあ、やらせたの俺なんだけど。

 

「ゴミいちゃん。あ、間違えた。お兄ちゃん。」

「わざとらしく間違えるのはやめようね、小町ちゃん。で、何だよ。」

 

 すると、先程とは打って変わり、真摯な表情を見せる。

 

「いや、最近帰り遅くない?」

「寄り道はしてないぞ。ホームシックな俺が寄り道するわけねーだろ」

「うん。知ってる。だから何で帰り遅いのか聞いてんの。」

 

 さて、どう言い訳しようかと考えた。しかし、小町の視線から言い訳するのは難しいと思い、素直に話すことにした。

 

「いや、その………学校の用事………だな。」

「用事?なんの?」

 

 駄目か。やっぱ学校の用事だけじゃ納得できないか。

 

「ぶ、部活。」

 

 すると、小町は理解するのに時間を要したのかポカンと口を開けていた。

 

「ぶ、ぶぶぶ部活!?あの、ホームシックなお兄ちゃんが部活!?」

「………。」

「お兄ちゃん、今日は早く寝た方が良いよ。」

「別に熱とかねーけど。」

「え?じゃあ、マジなの!?」

 

 小町は信じられないという風に首を振る。反応はうざい(でも、妹だから許す)が、妥当な反応ではあるかもしれない。俺は家とか超愛してるから、部活入るというその行動が奇異に感じられるのも無理はない。ぶっちゃけ俺が一番びっくりしている。

 

「ふーん。でも、お兄ちゃんから入部するってのは有り得ないから、強制的に入部させられたって解釈でOKかな?」

「おう、よく分かってるな。さすが俺の妹。愛してるぞ。」

「小町はそうでもないけどねー。」

「ひどい。」

 

 あっさり愛を否定された。寧ろ拒絶されたようにも思う。

 

「た、大変だ!お母さんにも連絡しなきゃ!」

「おい、ちょっと待て。それはどういう理屈だ。なんか俺が変なヤツみてーだろ。」

「だって変だもん!」

 

 このシチュエーション。不審者が警察に通報されるシーンと重なってるような気がしてならないんだが。気のせいだよね?

 

 

 ☆

 

 

 六限の授業が終わり、帰宅の時間を迎える。

 特に学校に残る理由もないので帰宅部として正々堂々帰ろうとする。

 すると、俺の帰宅を阻む者が現れる。担任の平塚先生だ。

 

「比企谷。今日も部活、行くんだろ?」

「ええ。帰宅部として、これから活動を。」

 

 そう、帰宅部としての活動は帰宅することだ。これこそ正当な活動。誰かに阻止される理由などない。

 

「貴様。私を揶揄してるな?」

「な、何のことでしょう?」

 

 俺は帰宅部部員だ。決して奉仕部なんていう、依頼がなければ特に何もすることがない部活とはわけが違う。

 俺の帰宅の速さは全校生徒の中でも五指に入るレベル。だが、奉仕部に入部してからはタイムロスばかりである。

 

「貴様、奉仕部をサボるつもりだったな?」

「………。」

 

 寧ろサボるのが道理である。

 あそこにいてもメリットになるものが何もない。

 よし、ここは駄々をこねるしかない。

 

「かーえーりーたーいー。」

 

 幼子みたく駄々こねればゆるしてくれるんじゃね?と思ったが………。

 

「あ?」

 

 ポキポキと指の関節を鳴らす平塚先生を見てその考えがいかに浅慮だったかを思い知らされる。もう、逃れることはできない。俺の帰宅部ライフは終わってしまったのだ。

 

「君には部活に行くか鉄拳を喰らうかの選択肢しか与えられていない。」

「な、なんて理不尽な………。」

「そうだな。分かりやすく言えば君に決定権がないと言おうか。」

 

 ならそう言えよ。ていうか俺の意見が少しも受け入れられてない気がする。

 

「さあ、今日も奉仕しようじゃないか。比企谷。」

 

 瞳が「やるよな?逃げんなよ、コラ」と圧力をかけていた。

 そういうのホント良くない。何が良くないって生徒のやる気を削ぐ上に婚活で失敗する原因にもなる。「結婚したいなら、そういうのやめた方がいいですよー」と諭してやりたかったが、目がほんと怖い。下手なこと言うと殺される気がした。

 

 仕方なく帰宅部の活動を断念し、奉仕部という依頼がなければ特に何もすることがない退屈な部活に赴くことにする。

 

 

 ―――嘗て夢があった。

 それは帰宅部という活動をこなしていくうちに生まれた夢だった。

 最初はホームシック、学校嫌いという理由から早々に学校を抜け出した俺だったが、その早さが次第に早くになっていった。気付けば、俺の帰宅スピードは五位以内に入るほどの記録となった。

 以来、帰宅部の活動に誇りを持つようになった。「俺、帰宅の神」みたいな。

 だが、本当に俺は神と呼べるのだろうかと思った。たかが全校生徒に勝っている程度で神と名乗るのはどうも軽視しているのではないかと疑念を抱くようになる。

 全国の帰宅部員はどうなのだろう?

 世界の帰宅部部員はどうなのだろう?

 世界は広い。もしかしたら帰宅の際にテレポートでも使ったんじゃないかってぐらいの早さで帰宅するヤツも絶対いる。そいつと比べれば俺はまだまだ未熟だ。帰宅の神を称する者がいるならば間違いなく彼らにこそ相応しい。

 俺は彼らに勝ちたい。そう思った。その夢は、理想は『全て遠き理想郷』と呼ばれる程に遠いものであるかもしれない。

 けれども、俺は帰宅の神になりたかった。

 

「下衆い夢ね。いえ、夢というにも抵抗があるわね。間違いなく社会のクズね。」

「ちょっと待て。夢も希望もない俺が唯一もった理想なんだぞ。称賛するとこだろ。」

 

 うっかり長年抱いていた願望を口にしてしまっていたらしい。

 それを聞いた雪ノ下は軽蔑の視線を送ってくる。

 

「ええ、そうね。そんな低俗な夢見るのは貴方ぐらいだものね。」

「違うな。他の奴らが理解できないだけだ。俺の思考が高度すぎてごめんな。」

 

 そう、マジで高度。

 これ叶える為だったら無謀だとは分かっていても聖杯戦争にマスターとして赴くレベル。あとは俺に忠実でステータス馬鹿強い英霊召喚すれば完璧………っと、聖杯戦争参加する気満々でした。てへっ☆

 

「なるほど。私は貴方と関わりたくもないのだけれど、平塚先生が私に押し付ける理由も分かるわ。はぁ。」

「おい。俺を厄介事みたいに言うのやめろ。」

「あら。他に該当する用語があるかしら。放置すれば災厄が訪れることだってあるかもしれないのに。」

「ちょっと。悪化してるからね、それ。」

 

 ホント酷いな、コイツ。

 ていうか辛辣な言葉は軽々と吐いてくるが、逆に人を褒めるのは苦手そうだな。何となくだけど。

 

 そんなことを考えていた時ノックもなしに誰かが扉を勢いよく開ける。

 

「やっはろー」

 

 誰?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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