やはり俺の偽恋はまちがっている   作:ウェスト3世

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第4話

「やっはろー!」

 

 見知らぬ少女がいきなり扉を開けた上に、何処の異民族とも知れぬ挨拶を交わしてくる。

 その挨拶は何処で流行ってる挨拶なんだろ?もしかして日本とか言わないよね?もし、そうだったら俺ってば時代遅れの人間だし。てか、誰ですか。

 

「二年F組の由比ヶ浜結衣さんね。」

 

 俺の疑問に答えるかのように雪ノ下は目の前の少女の名を当てる。

 

「あ、私のこと知ってたんだ…。へへへ。」

 

 自分のことを知って貰ってたのが嬉しいのか、由比ヶ浜とやらは照れたように笑う。

 そして、視線を雪ノ下から俺に移す。すると、キョトンとした表情で俺を凝視する。あ、あんまり見るなよな。恥ずかしくて口から心臓吐き出すだろうが。それとも鼻毛でも出てたか?

 

「ヒッキー⁉︎」

 

 由比ヶ浜は俺が此処にいるのが不思議なのか、目を見開いた。

 え?ひ、筆記?筆記って僕のことですか?

 一応、周囲を確認するが、該当者は俺以外いない。

 筆記ってヒキガエルに続く俺のあだ名かなぁ。ヒキガエルよりはいいと思うけど、何だろう。何処かに悪意の一つ二つ隠れてんのかな。

 

「ヒッキー、何で此処にいるの⁉︎」

 

 由比ヶ浜は奉仕部の部員が雪ノ下だけだと思ったのだろう。俺が此処にいるのを不自然に感じたらしい。

 おや、これは数少ない俺の存在性をアピールする時だ。立ち上がるのは………今しかない!

 

「オス!オラ八幡!虚無主義者&ラブライバー!世界の混沌を望む、純粋な心を持った高校二年生!オラ、ワクワクすっぞ!」

 

 き、決まった。これコミュ症、打破できたんじゃね?

 この台詞から俺がいかに健全な男子高生やってるか分かってもらえるはず。

 ただ、悟空の台詞がなってない気がする。

 

 ともあれ、高度な自己紹介を成し遂げることはできた。あとは賞賛されるだけだったのだが、返ってきた視線は冷たいものだった。

 

「うわ、きも」

「うざ」

 

 目元を拭うハンカチもしくはティッシュが欲しいと思いました。もう少し言葉選ぶことできないの?

 

「自分が無垢な人間とでも言いたいのかしら。世界の混沌を望んでる時点でアウトね。そもそも、その腐った目で純粋なんて言われても説得力に欠けるわ。」

「何でだよ。黒く澄んだ瞳してんだろ。」

「それは語弊があるわ。正確には黒く濁った瞳でしょう?鏡を見て。」

 

 チッ。死んだ魚の目とでも言いたいのか。銀さんじゃないんだぞ。そんなDHC豊富に見えるか。

 まあ、それはともかく。由比ヶ浜とやらは此処に何の用で来たんだろ?

 

「んで、お前誰?何しに来たの?」

「あ、えーと、それは………。っていうかヒッキー私のこともしかして知らない?同じクラスなんだけど。」

「え?」

 

 沈黙の時間が流れる。

 そういえば、この子、二年F組とか言ってたな。やべー、俺と同じクラスじゃん。全然知らなかったけど。

 しかし、そんな可哀そうなこと言えるはずもない。

 

「し、知ってたよ」

 

 出来るだけ優しい声音で言ってみる。

 

「キョドり方キモいんだけど。忘れてるとかマジ有り得ないんだけど!」

「仕方ないことね。彼、友達いないのだから。」

 

 どうやら言い訳は失敗したらしい。

 確かに忘れてた(もしくは知らなかった)のは悪かったけど軽々しくキモいとか言うなよな。あと雪ノ下、お前にその台詞は言われたくない。お前もその毒舌っぷりから友達は少なさそうだし。

 

 

「まあ、彼の話は置いておくとして、貴女の依頼は何かしら?」

「あ、うん。えーっとね………。」

 

 すると、急に恥ずかしくなったのか由比ヶ浜はそわそわと落ち着きない態度を見せる。しかし、その態度に雪ノ下はハアとため息をつき、「早く言ってもらえるかしら。もしくは依頼がないのなら出て行ってもらえると有難いわ。」と、容赦ない言葉を繰り出す。………そこまで言わなくてもいいんじゃないですか?

 由比ヶ浜は雪ノ下に怯えながらも自分の依頼を伝える。

 

「えーと、その手作りのお菓子を食べて欲しい人がいて………。でも、私、作り方とか分からないから………。」

 

 雪ノ下は由比ヶ浜の言わんとすることを悟ったのか成程と頷いて見せる。

 

「つまり私達は貴女のお菓子作りを手伝えばいいわけね。」

「うん。」

 

 成程。手作りのお菓子を相手に渡す、か。やはり見た目が派手なせいもあってか男との付き合いもそれなりにあるようで。青春してますね~。

 んで、俺にはその手助けをしろって訳だ。嫌だな~。青春の手助けよりもぶち壊す方が得意だし。

 

「それで、由比ヶ浜さんは何を作りたいのかしら?」

「えーと、ケーキで作ったお城!」

 

 それを聞いた俺と雪ノ下は何を言われたのか理解できず「は?」と思わず聞き返してしまう。

 それ、手作りで渡す物にしちゃ壮大過ぎませんかね。もしかして「夢はいずれ叶う」みたいな子供じみた理想をお持ちの方なんだろうか。もしくは一年中、頭の中がお花畑でハッピーな方なんだろうか。

 いずれにせよ、コイツはアホの子だということが証明されそうである。

 雪ノ下は気持ちを切り替えようと咳払いをする。

 

「え、えーと。繰り返し聞き返すかもしれないけれどお菓子作りの経験は?」

「え?初めてだよ。超初めて。」

 

 俺と雪ノ下は揃って嘆息する。

 これは余りにも無謀な行いだ。ゲーム初心者もしくはスキルやレベルが熟練していないプレイヤーがラスボスに挑もうとする行いに等しい。

 壮大な理想は嫌いではない。だが、子供の内はそれを尊重されることはあっても大人になったら切り捨てられる羽目となる。大人ってほんとヤダ。

 

 取りあえずその幻想は今のうちにぶち壊した方が良いだろう。

 

「ケーキのお城とかいらんだろ。てか、お菓子作りの経験もないのに作れる訳ねーだろ。」

「そうね。無謀よね。」

「へ?何で?」

 

 由比ヶ浜は目をぱちくりさせている。

 ヤダ、この子本気かしら。

 

 

 ☆

 

 

 結局、ケーキの城は断念しクッキーを作ることになった。まあ、むしろ手作りで手渡しとなると最適な菓子だと思う。

 家庭科室に集う俺達だが、俺は特にすることもない、というよりは放置されていたので何か暇つぶしすることにした。取りあえず俺も料理すっか。八幡の三分間クッキング~。

 

 調理をしながら二人を観察してみたところ、最初に雪ノ下が調理法を教え、次に自身がお手本を作り最終的にそれを由比ヶ浜にやらせるという教導だった。

 段階を踏んだ教え方だとは思うが、由比ヶ浜は少し混乱した表情を見せる。

 その状況を目にし、俺は成程と心の中でひとり頷いた。

 

 雪ノ下に一つ誤算があったとすれば、それは相手の足元を見ていないことだった。段階を踏んだ教導は一見、足元を見て相手に同調しているように見えるが、それは違う。

 雪ノ下と由比ヶ浜では上るべき階段の数が違うのだ。例えば雪ノ下が階段を三段階で昇りきるのに対し、由比ヶ浜はそれよりももう二、三段階必要としている。

 しかし、雪ノ下はそんな由比ヶ浜の実態を知らない。だから、最初の工程を分かってる前提で話を進めているのだ。まあ、出来る奴には出来ない奴の苦労が分からないのだろう。その逆もまた然りだ。

 

「どうすれば伝わるのかしら。」

 

 お疲れのようですな、雪ノ下さん。

 すると、調理室からクッキーづくりではおおよそ有り得ない「ジュー、ジュー」という音が響く。

 それに気付いた雪ノ下は俺の方に視線を向ける。

 

「貴方は何をしているのかしら。クッキーづくりの筈が何故チャーハン作りになってるのかしら?」

「いや、することねーし。お菓子とか俺、作り方分からんし。」

 

 お菓子とか作れても将来的に必要性を感じない。甘いものは好きだけどね。

 将来に必要なのは和食と中華を作れること。必殺料理人、八幡のスキルをなめるな。このチャーハンは金山チャーハンにも劣らない自信がある。

 

「でも、いい匂い。」

 

 由比ヶ浜がすんすん鼻を鳴らして言う。

 

「言われてみればそうね。癪だけど。」

 

 そこは素直に褒めましょうね。

 

「まあ、クッキー作る機会とかまたあるだろうし、また今度やろうぜ。」

「それでは解決にならないわ。」

 

 雪ノ下は毅然として言う。

 

「まあ今現在で解決はできないだろうな。それを先延ばしにするってことだよ」

「先延ばしにしたら貴方は忘れるでしょう。遠まわしに『クッキーづくりが面倒くさい』と言うのはやめてもらいたいのだけれど。」

 

 おっと、ばれてしまいましたか。下手な小細工は通用しないな~。

 

 由比ヶ浜は自分の実力無さに弱気になったのか視線を下に落とす。

 

「ど、どうしよう」

 

 取りあえず由比ヶ浜の作った完成品に目を移すが、どうしようもないですね、これ。クッキーと言うにはゲル状の物体になってるんですけど。化学の実験で使う物質か何かかな?

 

 由比ヶ浜は俺を一瞥する。

 彼女が一瞥する理由に気付いた俺はサーと血の気が引いた。

 いや、ちょっと待て。味見とか無理だかんね。毒味しろと同じだからね。

 

「比企谷くん。ちょうどいいわ。クッキーづくりをサボった罰として、これ食べなさい。」

「え、私のクッキー罰扱い!?」

「ぐ………。処刑に相応しいな。」

「納得してるし!」

 

 いや、納得するでしょ。

 俺は恐る恐るゲル状のそれを口に運んだ。

 歯にくっつき噛みにくいと、歯応えもくそもないのだが、味は………。

 

「ん。普通だな。」

「え、嘘!?」

 

 味はクッキーのそれにほとんど近いと言っていい。ただクッキー味のゲルとかあまり食欲湧かないから何とかして欲しいものではあるけど。

 

「あとは形さえ何とかなれば良いんじゃねーか。」

 

 俺の言葉に雪ノ下も、「そうね」と頷き返す。

 

「形は歪だけれど。味は普通ね。」

 

 取りあえず、完全下校時刻に迫っていたので今日の活動は此処で終了した。

 

 

 

 数日たち、奉仕部の部室に再び由比ヶ浜がやってくる。

 どうやら家で再びクッキーを焼いてきたらしい。食べると今度は歯応えはあるものの、味が劣化していた。

 最初はココアを使ったクッキーだと思ったが、その正体は全体が黒焦げたクッキーだった。どうやらクッキーの姿や味を変幻自在に操る力をお持ちのようだ。

 ともかくも由比ヶ浜の依頼は完全な解決には至らなかった。

 

「ヒッキーこのクッキーあげる。」

 

 可愛らしい包装をされていたが、中身はやはり変幻自在の由比ヶ浜クッキー。

 俺はそれを食した後、一時間以上トイレで気張ってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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