やはり俺の偽恋はまちがっている   作:ウェスト3世

5 / 5
第5話

刹那にも悠久にも感じられた時間の中。

 燃えるような夕焼けを背景に俺は彼女と別れ、錠を手渡された。

 

 その頃は互いに幼かったから信じてしまったのだ。別れてもまた会えるという幻想を。

 しかし、今まで別離した相手と再度会うことはなかった。周りに嫌悪されている、もしくは俺自身が避けているせいもあるのだろうが、大抵は別れたらそれで最後だ。

 

 けれど、彼女は確かにこう言ったのだ。また会えるよ、と。

 それも確信に満ちた声音で告げたのだ。

 

 会えるはずもないのに、何故、彼女は会えると確信できたのだろう―――。

 

 

 ☆

 

 

 カーテンの隙間から照る日差しで目が覚める。

 時計を見るとまだ六時前。柄にもなく早く起床したみたいだ。もう一眠りしたい気持ちは山々なのだが、眠ると遅刻する自信がある。

 気怠い体をゆっくり起こし、立ち上がる。すると脳裏にあの光景が浮かぶ。

 

 燃えるような夕焼け。生温い夏の風。切なく響く蜩の鳴き声―――。

 

 久方ぶりに過去の夢を見た。

 十年前に約束した女の子との最後の時。その時のことを深く心の中に刻んでいたせいか、今でも時々夢になって思い出す時がある。

 

 他者から見れば何でもないただの十年前の過去。その解釈はきっと正しい。俺も頭の中では下らないと思い、忘却しようとした。

 けれど、心がそれを許そうとはしなかった。

 

 正直、自分の過去の執拗さにストーカーの資質があるのではと疑ってしまったくらいだ。あ、いや、資質はあるな。うん。俺には自分の存在を消す特技があるから余裕でストーカーできる。

 そんなどうでも良いことを考えてると、下から小町の声が響く。

 

「お兄ちゃーん、小町先に行くから戸締りよろしくねー。」

「おー、りょーかい」

 

 適当に返事をする。

 にしても、アイツ今日早いな。まだ、六時前何ですけど。アイツあんな真面目ちゃんだったかな。

 まあ、俺はあと一時間あるしスクフェスでもしようかとスマートフォンを開いた時―――。

 

「………は?」

 

 スマートフォンの時刻は七時三十七分と表示されていた。

 しかし、部屋の掛け時計を見るとやはり六時前。おい、これはどっちが正しいんだ?ちょっとまさかの遅刻?と思い、置時計の方に視線を向ける。

 すると置時計の時刻は七時三十七分に針を刺していた。

 

 ホげええええええええエッ!?ち、遅刻だ!?

 マジか。これはまた平塚先生にまたラブアローシュートされるな。そんなラブアローシュートいらんけど。

 

 

 ☆

 

 

 そして職員室―――。

 職員室に呼び出された理由は無論遅刻に関してだ。

 

「比企谷。言い訳はあるか?」

「ええ、時計の針が狂ってまして。」

 

 すげー稚拙な言い訳だな、これ。ヤベェ、どうしよう。

 

「そうか。あるよなー。私もそれで遅刻を繰り返したこと数回。ほろ苦い思い出だなぁ~」

 

 意外にも平塚先生は話に乗っかってきた。てか、その話学生時代ですよね?流石に社会人とかだったらマズイ気がすんですけど。

 まあ、でも話に乗っかって貰ったわけだし、俺も乗っかるとしよう。

 

「………ですよねー……」

 

 乗っかろうとしたのは良いが、ですよねーしか言えなかった。やはりぼっちのコミュ症ってこういう時駄目なんだよなぁ。

 それよりも周りの先生たちの目が痛い。しかし、これは俺じゃないな。存在感ないし。むしろ、向けられてるのは………。

 

「………ん?」

 

 平塚先生はどうやら周りの視線に気づいたらしい。

 まあ、教師として明らかに失言吐いてたしな。まさか、俺の話に乗っかるとは思わなかったぞ。

 

「と、とにかく!君は二年になって間もないというのに遅刻の数がひどすぎる。担任且つ生徒指導部としてこの実態は見過ごせない。」

「は、はあ。そうですか」

 

 うん。そうですよね。一年の時よりも遅刻の割合多い気はしてました。てへっ☆

 

「と、いうことで君には反省文を書いてもらう。」

 

 ニヤリと嫌らしく笑ってくる。反省文書きたくねえな………。

 

「ところで部活の方はどうなんだ?雪ノ下とは上手くやっているかね?」

 

 話題が遅刻から部活の方へと切り替わる。

 

「いや、全く」

 

 特に考えるでもなく即答してみせる。いや、だってあの女怖いし。

 すると、平塚先生はその答えに咎めるでもなく、柔和な笑みを浮かべた。

 

「そうか。けど、優しい子だよ。」

「え?どこがですか?」

 

 すると、それには答えず話を勝手に進める。あら、無視かしら?

 

「あの子が心優しい子であったとしても世界が優しくはない。それは君にも言えることだ。だから、世界を視点においた時君たちは捻くれて見えてしまう。」

「ちょっと、それ普通に悪口になってんですけど…。」

 

 それって一般人からしたら俺は変人とかにカテゴライズされちゃうんだけど。

 

「けど、事実だろう?」

「……ええ、まあ。」

 

 しかし、否定はできない。ずっと分かっていたことではある。

 世間一般の主張が全て正しいとは思わない。自分の偏見や思考が正しいと思うことだって多々あるのだ。

 

「教師としては君達のことが心配で、どうしても一つの場所に留めておきたくなる。」

「それって隔離病棟みたいな感じになってませんか?」

 

 しかし、平塚先生はかぶりを振る。

 

「そんな扱いをしたつもりはないさ。君達が捻くれているとはいえ、その思考が必ずしも間違っているとは思わない。むしろ正しい時だってある。」

 

 その言葉には虚偽は感じられない。

 ただ、その微笑みが余りにも眩しく、直視することが出来なかった。

 

 

 ☆ 

 

 

 放課後―――。

 いつも通り奉仕部の部室に足を運ぶ。

 

「あら、来てしまったのね……。」

「何で残念そうなんだよ」

「いいえ、大丈夫よ。覚悟はできているから。」

 

 むしろ、覚悟がなきゃ俺と居るのは嫌ということになる。まあ、俺もこんな氷の女王みたいなヤツと同じ空間にいなきゃいけないのは精神的にキツイ。いつ毒舌言われるかソワソワしちゃうだろ。

 そんなことを考えていると雪ノ下がキッとこちらを睨んでくる。コイツ俺の思考を読めるのか?エスパーなの?

 

 氷の女王と同じ空間に居るのは息苦しくはあるが、依頼さえなければ活動することも会話することもほぼない。まあ文庫本開いてテキトーに時間つぶすか。

 

 しかし、そんな静寂の空気をぶち壊す奴がいる。

 

「やっはろー!」

「………。」

「………。」

 

 「やっはろー」は恐らく挨拶なのだろうが、対応が分からず俺も雪ノ下も沈黙だけを返してしまう。

 流石に沈黙で返されたのが気まずかったのか由比ヶ浜は眉を顰める。

 

「あれ?もしかして歓迎されてない?部員なのに?」

 

 ―――いつから部員になったんだ、コイツは。

 その問いを視線だけで雪ノ下に投げかけるが、雪ノ下はかぶりを振る。知らないという意思表示らしい。

 

「由比ヶ浜さん、貴女は入部届を受諾してないから正式な部員ではないのだけれど…。」

 

 そもそも、この前依頼に来ただけで部員になってるとかどういうことなの?アットホームなの?

 それを聞いた由比ヶ浜は「うっそ!?」などと言い、皺の入った紙に「にゅうぶとどけ」、「ゆいがはまゆい」と記入する。漢字で書けよな、それくらい。

 

「本気で入部する気かしら?」

「いや、俺に聞くなよ」

 

 雪ノ下は困惑の表情を浮かべている。

 由比ヶ浜が入部することに未だに現実感を持っていないらしい。

 しかし、俺達の会話を聞いていた由比ヶ浜が、

 

「え!?ゆきのん、私のこと嫌い!?」

 

 と、涙目で訴えてくる。

 大抵は此処で躊躇いながら答えるものだが、雪ノ下はばっさり切り捨てるように即答する。

 

「嫌いではないけれど、苦手ね。」

「それ、女子の中では嫌いと同義だからねッ!?」

 

 苦手と嫌いは別の意味合いと思っていたが、女子の中では同じようなものらしい。女子って面倒くせぇな、なんて考えてるとコンコンとドアを叩く音がする。

 控えめにドアを開けて「し、失礼します」とジャージ姿の生徒が入室する。

 

「あ、彩ちゃんだ!」

 

 反応からして由比ヶ浜の知り合いらしい。

 まあ、此処に来るってことは奉仕部への依頼なのだろう。働きたくねえな……。 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。