幻想郷。そこは妖怪たちの最後の楽園であり、日々失われていく妖怪たちの最後の住みかとなりうる場所の一つでもあった。
そんな幻想郷であろうとも、月日は流れる。どんな状態であろうとも、時を永遠に止め続けるということは不可能だ。
世界を生きているうちに、その日は必ずやってくる。その日とはそう―――
「クリスマスッ!」
「仮にも悪魔が基督教の救世主の生誕を祝う祭りに参加するってどうなのよ」
「? つまりそれって色んな人たちが羽目を外して騒ごうとするからこっそり堕落させて悪の道に走らせたり、酔い潰れて眠っている人の親指に本人からちょっとだけ抜いた血をつけて白紙血判証を作ったりできる日って事でしょう? 参加しない理由はないよね?」
「フラン!?」
想像していたよりはるかにえげつない手を使おうとしているフランにレミリアはまるで一昔前の少女漫画のようなショックを受けた顔を浮かべて固まる。しかしフランはそれを見ても止まるようなことはなく、初めからいないかのようにパーティの準備を完成させた。
「一瞬!?」
「『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』!私が動いたという過程は破壊され、結果だけが残る!」
「……帰ってきてくれたのは嬉しいのだけれど、なんだかフランを遠くに感じるわ……」
「やだなあお姉様。時間の加速を考慮に入れれば今の私はお姉様の三倍以上は生きてるんだよ? 遠くに感じるのは当たり前じゃない」
「……そう、ね。ええ、そうよね。変わってても遠くに感じてもフランはフランだものね」
「それじゃあ色んなところにいる知り合いのみんなに招待状を出しておくね」
「ええ。……待って、なんだか今凄く嫌な予感がしたの。どんな存在を招待するつもり?」
「えっと……トカプチュプカムイさんとか、摩利支天さんとか、エーオースさんとか、グノウェーさんとか……」
「………………えっと、聞き違いかしらね? それとも私の覚え違いかしら。全員太陽神だと思うのだけれど」
「違うよ? トカプチュプカムイさんはカムイだから太陽神じゃなくて精霊みたいなものだし、摩利支天さんは太陽じゃなくて太陽光から生まれた陽炎を神格化した存在だっていうし、エーオースさんは太陽じゃなくて暁の神だから」
「……色々言いたいことはあるけれど、全部終わってからにするわ。……グノウェーは?」
「太陽神だけど?」
「私触ったら死んじゃうのだけれど!? むしろその光に触れるだけで灰になるわよ!? と言うか太陽にかかわってる時点で私アウトなのだけれど!?」
「大丈夫だよ。だってお姉様、私に触っても大丈夫だったでしょ?」
「? 当然じゃない」
「私太陽神でもあるんだよ?」
「吸血鬼としての弱点はどうしたの!?」
「吸血鬼は太陽の光に触れると塵になる。でも太陽神は太陽の光を受けると神気を回復させることができる。つまり、全部を太陽神の権能の方に回せば何にも問題ないんだよ、お姉様」
おかしい……何かがおかしい……絶対おかしい……。と内心思いつつ、とりあえず太陽神及び太陽にかかわる存在を紅魔館に呼ぶことだけは避けることができた。そんな存在がやってきたら自分は間違いなく死んでしまう。
「あ、それじゃあ夜とか月とかの神様なら大丈夫かな?」
「……例えば?」
「テスカトリポカさんとか、太陰星君嫦娥さんとか、イシュチェルさんとか?」
「確か、テスカトリポカは太陽神でもあったわよね?」
「夜の神でもあるよ?」
「太陽も司れるという時点でもう色々アウトなのよ!他の二柱も何か太陽に関わってたりしないでしょうね!?」
「えーっと……イシュチェルさんは虹の神様でもあるから太陽光も少し関係あるかな。太陰星君は……太陽に何か関わってたような気もするけど、なんだっけ? 夫が太陽を九つくらい射落としたんだっけ?」
「なんだか凄い話を聞いてしまったような気がするわ……と言うか、フランの交友範囲が凄く広くて驚くわ」
「伊達に色々なところを旅してきたわけじゃないからね。基督教の教会から固有の悪魔として追われた甲斐があったよ。他の宗教の神様を全部悪魔として扱うのが基督教の基本だしね」
「……そう言う繋がりね」
自分よりも背が高く、自分よりも長く生きており、自分よりも経験豊富(意味深)な妹の言う言葉に振り回されているレミリアだったが、それでも自身の住居である紅魔館に天敵である太陽の化身を呼び込むことだけはなんとか押さえることに成功していた。
しかし、フランは本当に生まれが吸血鬼なのかと言う疑問を持ち始めていた。太陽が効かず、十字架……は、自分も問題なく触れることができるのでいいとして、銀のナイフで刺されても傷の治る速度は変わらず、招かれなくとも初めて行く場所に入り込むことができ、ガーリックライスを嬉しそうにもきゅもきゅと食べ、炒り豆をぶつけられても火傷を負わない。そんな存在が吸血鬼と言えるだろうか。
……食事については非常に少食かつ偏食気味な私が言えるようなことではないし、納豆を美味しいと食べるのだからどうこう言うべきではないと言うのはわかっている。また、吸血鬼を殺す方法として有名な白木の杭で心臓を突き刺すと言うのは心臓を破壊されれば死ぬその他の妖怪から見ればある意味当たり前なのでいいとして、鏡は私もフランも映ろうとすれば映れなくもないのでこれもいい。けれど吸血鬼の弱点をほぼ完全に無視していると言うのは……本当にそれは吸血鬼と言えるのだろうか?
「『自称吸血鬼』で良いんじゃないかな? 水は未だに苦手だし」
「……それもそうね!」
そう言うレミリアの顔には、悩みから解き放たれたような清々しい笑顔が浮かんでいた。
そして、レミリアは受かれていたのだ。
「それじゃあみんなを呼んでくるねー」
フランのその言葉を聞き逃してしまうほどに。
■
紅魔館で行われるクリスマスパーティの一人目の招待客は、やはり顔見知りにしておくべきだと神様から
「もうすぐクリスマスです」
「そうね」
「パーティの準備をしました」
「そうなの」
「お誘いに来たわ」
「行かないわ。読みたい本があるもの」
「ここに私が旅してきた途中で出会ったマヤ教の古い経典があります」
「いつからそのパーティは始まるのかしら」
「時間になったら呼びに来るからそれまで待っててね」
「わかったわ」
パチュリー、参加決定。
「咲夜。クリスマスパーティを開きたいの」
「……えーと、お嬢様に許可は?」
「貰ったから大丈夫!ちょっと都合の良いことしか聞いてなかったかもだけど、ちゃんと説明してちゃんと許可をもらったよ。料理以外は準備もちゃんとしてあるんだ」
「いつの間に!?」
「ちなみに部屋を一つ借りたんだけど、その部屋の中だけ時間の流れからベクトルを破壊した上で固定しておいたから開ける時は咲夜が開けてね。時間を止めた上で力を入れないと空かないけど、一回空いちゃえば時間もまた流れ出すようになってるから」
「……あ、はい、わかりました」
「うん、それじゃあよろしくね」
十六夜咲夜、参加決定。
「めーりんめーりん」
「はいはいなんですかフランさん」
「もうすぐクリスマスです」
「と言うか明日ですね」
「つまり今日はクリスマスイブです」
「そうなりますね」
「パーティを開きます。お姉様から許可は出ました」
「ほうほう」
「門番よろしくね、なんて酷いことは言いません参加してください」
「一瞬本気で苛めかと思いましたよ!? 参加はさせてもらいますけど!」
「それじゃあそれまで門番よろしくね。あ、それともあえて招待客のみんなが来るまで門の前でスタンバっておいてサンタさんの姿で乱入してみる?」
「それは面白そうですね」
「ちゃんとプレゼントも用意しなくちゃいけないから、とりあえずお酒を瓶でたくさん用意してみたわ」
「準備がいいですね」
「サンタさん役、お願いしてもいい?」
「お任せください」
紅美鈴、サンタ決定
所変わって博麗神社。
「……」←辺りを見回すフラン
「……」←霊夢の姿が見えず溜め息をつくフラン
「……」←どこからか小さなお財布を取り出すフラン
「……」←小銭を二枚摘まみ出すフラン
「……」←小銭を賽銭箱に投げ込むフラン
チャリン♪
「ようこそ博麗神社へ」
「相変わらずの貧乏生活なのね、霊夢は」
「あら、フランだったの。と言うことは……」
「こらこらお客さんの前でそんなことしない!そんなだからお賽銭が貰えないのよ?」
「はいはい。……おほっ♪ ……こほん。で、なんの用かしら?」
「紅魔館でクリスマスパーティをするの。良心的かつ人間の範囲でなら食べ放題だけど、来ない?」
「フラン、あんた天使よ」
「天使だよ?」
「そうだったわね。あんた神よ」
「神だよ?」
「そうだったわね。なんにしろありがと。喜んで行かせてもらうわ。いつ頃かしら?」
「夕暮れ時かな? 準備もほとんど終わらせてあるから早くなることはあっても遅くなることは多分ないと思う。私の仙人の部分が分身で料理してるから料理ももうすぐできるしね」
「楽しみね」
「うん。それじゃあまた後でね。私は他にも声をかけてこなくちゃ」
「はいはい。期待してるわよー」
博麗霊夢、参加決定。
~魔法の森~
「まーりーさっ!」
「お? フランか。入っていいぜー」
「ありがと!でもここでいいや」
「ん? 何かあったのか?」
「うん。今日なんだけど、紅魔館でクリスマスパーティをするんだ」
「……吸血鬼が?」
「吸血鬼が」
「……いいのか?」
「良いんじゃないかな? 法的に『悪魔がクリスマスを祝ってはいけない』なんて事はないし、そんな法があったとしてもそんな法自体を壊しちゃえばいいんだし」
「あ~……うん、まあ、私が気にするようなことじゃないな。よし、わかった。私も参加することにするぜ!」
「ありがと!……でも、あんまりパチュリーのところから本を持っていっちゃダメだよ? そろそろパチュリーってば我慢の限界で私の力を貸して欲しいって言ってきてるんだから」
「……おぉう……わ、わかった、気を付けるぜ」
「うん。それじゃあね、魔理沙」
霧雨魔理沙、参加決定。
■
たくさんの人を集め、たくさんの感情が集まった。
私は私の知る限りの知り合いで、幻想郷に来てしまっている者達には大体声をかけた。ただ、結構な人数に断られてしまったため、今回呼べたのは殆どが幻想郷に来てからの知り合い。
けれど、それも悪くはない。みんなで笑って、みんなで騒げる。ちょっと一部が騒がしすぎる気もするけど、それもまた一つの楽しみ方だと思う。
だから私も楽しもうと思う。私と、お姉様と、咲夜と、美鈴と、パチュリーと、皆と―――神様で。
私の声掛けから始まったクリスマスパーティ。その始まりを告げるのは、やっぱり私。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。ご存じだとは思いますが、今回のクリスマスパーティの主催者のフランドールです。あまり長い話をするのも嫌われてしまいますし、私からはとりあえずこのくらいにして、あとはみなさん各自で思い思いに楽しんでいただければ幸いです。それでは、グラスはお持ちでしょうか? よいクリスマスをお過ごしください!それでは―――乾杯!」
『乾杯!』
多くの声が唱和して、クリスマスパーティは始まった。