連続投稿十九話目。吸血鬼ってこんなに可愛いものでしたっけ?
あれから何年が過ぎたのか、もう覚えていない。もしかしたら何年なんて短い時間じゃなくて、何十年何百年と言う時間が過ぎているのかもしれない。
けれど、私はあの頃と変わらぬ想いを胸に秘め、今日も前へと進んでいる。
私は力を得た。魔法の力を得て魔法使いとなり、私を部屋に閉じ込める結界をいつでもすり抜けることができるくらいになった。
私は知識と技術を得た。神様の用意した道具を使って薬を作ったり、自分で新しく道具を作れるようにもなった。
私は意思を得た。聖人に成り上がり、罪を背負い、それでも中道を歩み続ける意思を持ち続けることができるようになっていた。
気が付けば、私はとてもとても自由な身体になっていた。吸血鬼の弱点を魔法と術で克服し、私自身の能力に振り回されることもなくなり、私の歩みを止められるものなんてこの世界には殆ど無くなっていた。
けれど、私は未だにこの暗くて狭い地下室の中で過ごしていた。
理由は一つ。確かに私は力をつけたし、その力を使いこなすこともできるようにもなったけれど、外に出れば私は種族上色々な相手に狙われることが予想できるからだ。
吸血鬼と言うだけで教会や人に狙われ、聖人であるがゆえに悪魔に狙われ、覚者であるために妖怪に狙われ、大罪を背負っているから一部の神にも狙われる。
力はあるけれど選択肢が多すぎる私は、相手に合わせた術や魔法を使うことはできてもより効果的に使いこなすことはできないだろう。だからこそ、私は未だにこの場に留まっているのだった。
『お嬢ちゃんなら今でも十分強いし、能力使えばやってけると思うがなぁ……』
「私に勝てる相手なんて沢山居るでしょ?」
『相性から言ってお嬢ちゃんが絶対に勝てないような相手はこの世にいないと思うがな。隙があれば問答無用で一撃必殺できるわけだし……能力上相手の傷は治らないし、死ぬのとはまた違うから不死者相手でも効果があるし』
「相手を殺す能力じゃなくて、相手を壊した結果相手が死ぬ能力だしね……」
『例え死ななかったとしても自力では治らないし、なんか別のを継いだりしなくちゃいけない以上元通りには絶対にならない。物質だけじゃなく概念やら現象やらも壊せるんだから反則に近いな』
「概念はもう壊さないよ」
『そうしてくれると助かるよ。壊すにしても一時的に影響力を壊すとかそういう風にしてくれ』
「はーい!」
世界の概念自体を壊すと色々と面倒なことが起きるそうだし、多分もうやらないだろう。勿論世界と言う巨大な存在の概念だったら間違いなく大変なことになるだろうけど、これが世界のものでなく個人のものだったらなんとかなる。特に特異個体だったらその特異な部分を壊してしまえばかなり力を削ぐことができるし、放置していたら世界が滅ぶような概念ならむしろ私が壊す時に世界そのものからバックアップを受けられる。私も神様見習いだけど、多神教の神様だからね。世界を作るとかそんな逸話は無いし、力自体も吸血鬼の中では割と強い程度。世界からのバックアップは正直美味しい。
世界は自らを助く者を助く。逆に言えば世界は自らの敵対者に敵対する。だが、世界の中には時に世界と敵対して勝ててしまう存在と言うものがいる。神様も昔はそうだったそうだし、時が過ぎていくほどに徐々に神秘が失われていく未来では世界の力が失われて行くためにそうして世界の剄を越え始める存在が数多く産まれ始め、そして最後には世界を完全に越えてしまうこともある。
私は、そうして世界を越える準備をしている。魔法と奇跡、そして自ら作り上げた道具を使い、私自身が私自身の力のみで世界を越えられるように。
……まあ、私が信仰する神様は破壊と破滅と殺戮と戦争を司る神様だから作る系統の事は初めから私自身の力でやるしかないんだけどね。仕方ないね。
けれど、やっぱり物を作るって言うのは楽しい。壊すのは大きな爽快感を得られるけれど、しばらくするとその大きさに見合った虚無感に襲われる。しかし物を作り終わった後は大いなる達成感と満足感に浸ることができる。しかも、一時のテンションに任せてものすごい変なものを作ってしまったとしてもそれはそれで壊してしまえばいい。無駄がないね!
そう言うわけで、そんな研究を続けて早くも……何年かな? まあ、きっと100年くらい。吸血鬼としての私の力の増減を昼夜のカウントにするなら多分大体そのくらいだと思う。それだけの時間研究を続けて来た訳だけれど、やっぱりなかなか思い通りの結果は産まれない。
とりあえず簡単な術から始めて、神様から習った概念術と仙術、魔術をミックスしてみたり、欲しい結果を出すために術式を色々弄ってみたりした結果、いい感じに色々なものができた。
まずは『便利バッグ』。沢山の物がしまえて、しまった物をリストアップしてくれる鞄。世界を越えるための空間魔法の練習用として『壷などの中の空間を広げる』壷中天と言う仙術と『その内容を知る』探知の魔法を組み合わせた結果できたものだ。これがあるお陰でこの場所を出ていく準備がとても楽になった。
それから種族的な問題で必要になる食事。これは錬金術で作った疑似血液に概念術で概念を付加したものを採用している。概念術は便利。はっきりわかるね。
ちなみに血液を作るのには錬金術を使い、人間の血を再現。そこに石榴の汁を混ぜることで『人の肉から滴る液体』……つまり血であると言う概念を付加することでより近いものを再現している。東洋の有名な鬼が人の肉の代わりに石榴を食べるようになったって言う話から概念を持ってきているらしいけれど、これが結構強力。どうやらそれなり以上に知られた概念であり、しかもこれが全ての鬼に適用されるようで、私も吸血“鬼”として概念にはお世話になっている。
概念以外はあんまり知らないんだけどね。精々『極東における全ての鬼の母親』ってことぐらいかな?
まあとにかく、これで私が旅に出る最低限の準備は整った。あとは私が満足できるまで力をつけていくだけの簡単な作業となる。
「そう言えば神様? 私と神様が出会ってからどれくらいの時間が過ぎたのかな?」
『俺と言う存在があるせいでここの空間の時の流れはかなり圧縮されてるからな。お嬢ちゃんの感覚だと結構な時間だと思うが、多分実際には長くて10年程度だと思うぞ』
「……うん、とりあえず時間の扱い方も教えてほしいな」
『わかったわかった、ただ、先に空間の方をもうちょっと習熟してからな』
「はーい!」
また新しい目標が見つかって、私は嬉しい。
よし、がんばろっと!