ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~   作:S・TOM

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第10話 諜報員とナースと諜報員

俺がこのゲイムギョウ界に来てからもう二週間を迎える。ここに至るまでの展開は、ものすごく早かった。この世界を守護する女神との遭遇、プラネテューヌ特命隊への入隊、そしてモンスターを凶暴化させた元凶の発見。どれも今世紀最大の大イベントだ。俺がいた世界では一度、体験するがどうかわからないほどのファンタジーな出来事を、この世界では体験させてくれたのだ。俺の心の中は驚きと喜びに満ちていた。この世界に来てよかった。……まぁ、元の世界に未練がないわけではない。

 

おっと、のっけから話が逸れてしまった。まぁそんな体験をした俺は今、指令を受けてモンスターを討伐していた。エリナがルーガスを倒してから、凶暴化したモンスターは無くなったまでとは行かないが、前よりは少なくなった。だがそれに反比例するように凶暴化していない、普通のモンスターが増殖してしまっているのだった。原因は不明、諜報員が調査しているとの事だった。この一週間の指令は、普通のモンスターの討伐が主になっていた。

 

俺達は今日も指令を受けてモンスターを倒し終えた後、プラネテューヌの街を歩いていた。どこも活気があって幸せな気持ちになる、この街を見回ってそう思う。

 

「あっ、あそこに喫茶店があるわね。少し一休みしましょ?」

 

喫茶店を見つけたエリナが言う。ちょうど小腹が空いてきた所だ、一休みするのもいいだろう。俺達は喫茶店に入り、それぞれ自分の食べる物を注文した。

 

「……それにしても、いい街だな。ここにいるだけで幸せになる」

 

エリナは俺の発言に嬉しそうな表情をした。

 

「そうでしょう? 私、生まれてからずっとここにいるけれど、とてもいい場所よ。パープルハート様が守護するプラネテューヌは」

 

そう語るエリナの目はとても輝いていた。パープルハートへの憧れや信仰心が現れていたのだろう。

 

「ほぇ~そんなにいい所なのか? 俺、ラステイションから来たんだけど、ここに来て正解だったかもな」

 

「ルウィーの落ち着いた雰囲気もいいが、ここの騒がしい街も悪くない」

 

エリナの話を聞いたデビッドとウェインはそれぞれ自分の思いを口に出した。

 

「ウェイン、聞いてなかったけどお前ルウィー出身なのか?」

 

『ルウィー』という言葉に反応してデビッドはウェインに問う。

 

「……そういえば言ってなかったな。俺はルウィーで生まれ育ったんだ。周りは雪ばかりだったが寒いどころか暖かい、プラネテューヌに劣らぬいい場所さ」

 

「おぉ、おお! それは行ってみてぇなぁおい!」

 

ウェインの話を聞いたデビッドは嬉しさのあまり興奮していた。幸せな奴だ。

 

ところで俺はというと、隣のテーブルに座っている一人の男に視線を寄せていた。赤い髪に黒いコートを纏ったその男は、存在感を出していた。何だ……あの男は?

 

「――それで、界人はどこから来たんだ?」

 

突然呼びかけられた俺は驚き、椅子から落ちてしまった。俺は立ち上がるが、腰の辺りから痛みを感じる。どうやら腰を打ってしまったらしい。俺はその痛みを堪え、椅子に掛けなおした。

 

「界人、大丈夫?」

 

エリナは椅子から転げ落ちた俺を心配そうに見ていた。

 

「大丈夫だ、問題ない。だからそんな顔するなよ、エリナ」

 

俺はエリナにそう言うと顔をデビッドの方に向かせる。

 

「悪い、聞いてなかった。俺に何を?」

 

「えっ、あぁ、出身だよ。ここに来るのは初めてだって言ってたけど、界人はどこから来たんだ?」

 

「俺の、出身? それは……」

 

まずい、何といえばいいのか分からない。俺はプラネテューヌ、いやこの世界の出身じゃない。別の世界の事をデビッド達に何て説明すればいいんだ?

 

「そういえば、界人の出身の事聞いてなかったわね。貴方どこから来たの?」

 

「俺も聞きたい。界人の故郷にも行ってみたいと思っている」

 

エリナとウェインが食いついてきた……駄目だ、思いつかない。なんとかこの場をしのがねぇと……。

 

あれこれ考えていると、二人の少女がデビッドの後ろのテーブルに座った。一人は長い茶髪に青いコート、もう一人はピンクの髪にセーター服を着ていた。どっかで会ったような……あっ!

 

「おーい、アイエフ!」

 

俺はテーブルから立ち上がり、茶髪の少女に声をかけた。その少女は突然名を呼ばれた事に驚き、とっさに俺の方に振り向いた。

 

「誰よ! 私の名を呼んだの……ってアンタは?」

 

間違えない、あの洞窟で会った奴だ。俺は少女の顔を見て確信する。少女『アイエフ』は俺の顔を見ると、見覚えがあるかの様に呆気にとられていた。

 

「ほら、前に一緒に戦った!」

 

「一緒に戦った? ……はっ、思い出した!」

 

俺の言葉を聞いたアイエフは思い出して、驚きの目で俺を見つめる。

 

「アンタはカイト……そう、カイトね!」

 

「ご名答! よく思い出してくれたなぁアイエフ! 知らないなんて言われたらどうしたらいいかと!」

 

「あの時の姿はそう忘れられる物じゃないわよ。ひさしぶりね、カイト」

 

「あいちゃん、この人とお友達なんですか?」

 

アイエフの隣にいるピンク髪の少女が聞く。あれ? 前はいなかったような……。

 

「友達って言うほどの付き合いじゃないわ。少しの間、一緒に協力したってだけよ」

 

「えっ、友達じゃない? 俺が嫌いなのか?」

 

アイエフの発言に俺は思わず言葉を漏らした。それを聞いたアイエフは思わず慌て始める。

 

「な、なんでそうなるのよ! 別にアンタの事が嫌いなわけじゃないのよ! ただ、友達と言うには一緒にいる時間が少なすぎて――」

 

「じゃあこれからお前と付き合えば友達になれるのか?」

 

「っ!?」

 

そう言われたアイエフは言葉を失い、そのまま動かなくなった。

 

「……おい、どうしたアイエフ?」

 

「あいちゃんが……動かなくなったです~!」

 

呆気にとられていると突然デビッドが立ち上がり、俺の服の襟をつかんだ。

 

「お前な~……お前って奴はよぉ~!」

 

見るとデビッドは涙を流していた。何故かは分からない。二人を見るとエリナは呆れた表情をしており、ウェインは周りの状況はお構いなしにケーキを食べていた。

 

「何時の間にあんな可愛い子と仲良くなってんだ!? 羨ましいぜ畜生!」

 

「お、おい待てデビッド。アイツの言うとおり、友達にはなってな――」

 

「そんなもん信じられるかぁ! 嬉しそうな表情してたぜあの子!」

 

えっ、そうなのか? ……そうだったら嬉しいな。いや、それよりもデビッドを落ち着かせなければ。

 

「喧嘩はやめるです!」

 

俺達が揉めていると、少女の咎める声が聞こえた。振り向くとピンク髪の少女が叱るような顔でこちらを見ていた。

 

「二人とも、喧嘩はよくないです! ちゃんと仲良くしないと駄目です!」

 

ピンク髪の少女に言われて俺達は喧嘩をやめにして椅子に座る。それにしてもどうしたんだデビッド?

 

「界人、抜け駆けは許さねぇぞ。今度は俺も連れてってくれよ?」

 

デビッドは俺の肩に手を回してそっと耳打ちする。おいおい、勘違いしないでくれよデビッド。

 

「……何かよからぬ事を考えているわね?」

 

俺達の様子を見たエリナが怪しむ。いや、俺は違うんだよエリナ。

 

「あぁ、コーヒーのブラックが飲みたい……」

 

空気の読まずにウェインが呟く。勝手に飲んどけよ。……それよりもまず、アイエフの隣にいる少女が気になる。誰なんだ?

 

「なぁアイエフ。お前の隣にいる奴は誰だ?」

 

フリーズ中のアイエフは我に返り、隣の少女の方に振り向くと思い出したかのように話し始める。

 

「コンパとは初対面だったわね。紹介するわ、この子はコンパ。私の幼馴染よ」

 

「初めましてです、カイトさん。ナースをやっているコンパです」

 

アイエフの幼馴染『コンパ』は俺に挨拶をする。……どうもこういう奴は苦手だ。特に雰囲気が。

 

「界人だ。俺の隣にいる奴がデビッド。呆れている少女がエリナ。そしてマイペースにコーヒーを飲んでいるのがウェインだ」

 

俺はコンパに挨拶を返し、他の3人の紹介をする。

 

「俺がデビッド! ラステイション出身で特命隊に入ってるんだ。よろしくな!」

 

デビッドが二人に向けて調子よく挨拶する。

 

「私はエリナ。生まれてからずっとプラネテューヌに住んでいるの」

 

エリナはそう言った後、笑顔になる。……かわいいな。

 

「ルウィー出身のウェインだ。よかったら電話番号を教えてくれないか?」

 

ウェイン、お前は何をやっているんだ。

 

「特命隊……それって最近結成されたプラネテューヌ特命隊の事?」

 

特命隊という言葉に反応したアイエフが質問する。

 

「ああ、そうだけど?」

 

「聞いたわよ、特命隊がモンスターを凶暴化させている奴を見つけたんですってね。諜報員である私が先を越されたのはショックだけれど」

 

アイエフはそう言って自虐的な笑みを浮かべる。そういえば諜報員だったな、アイエフは。

 

「諜報員? ねぇアイエフ、貴方の方は何か手がかり掴めたの?」

 

エリナが諜報員であるアイエフに収穫を問う。

 

「全然だめね。情報があやふやになっていて確かなのが掴めないのよ。とんだ無駄足をさせられたわ、はぁ……」

 

アイエフは憂鬱な表情で溜息を吐く。その表情には疲れが感じ取れた。

 

「あいちゃん、大丈夫ですか?」

 

コンパが心配そうにアイエフを見ていた。幼馴染が心配でならないのだろう。

 

「それなら、いい情報を持っている」

 

すると突然見知らぬ声を掛けられ、俺達は驚いてしまう。声が聞こえた方を向くと、さっきの赤い髪の男が俺達の近くに立っていた。

 

「何者よ、貴方?」

 

振り向くとエリナが鋭い目で男を見ていた。エリナだけではなかった。デビッドとウェイン、そしてアイエフも目付きが鋭くなり、武器も構えていた。

 

「…………」

 

男は相手の態度を見て立ち止まる。その時の表情は警戒……というよりは、困惑という感じだった。

 

「えっ、あっ、あの、俺ってそんなに怪しい恰好しているのか?」

 

エリナ達は男に問いかけられ呆気にとられる。敵だと思ったのだろうか。

 

「またか……どうしてこうも俺は怪しまれる? イメチェンした方がいいのか?」

 

困り果てる男を見て俺達は顔を見合わせる。しばらく見合わせた後、視線を男の方に移す。

 

「悪いな、気分悪くさせちまって。それより、いい情報って……いや、まず誰か聞かせてもらえないか?」

 

男は俺の質問に答え名乗り始める。

 

「俺の名はトレビス。そっちの少女と同じく諜報員で、凶暴化の現象について情報を集めている」

 

諜報員と名乗った『トレビス』にアイエフは驚いた。

 

「貴方、諜報員なの? それに情報を持っているって……」

 

「ああ。と言っても、諜報員になってからの日は浅い。俺の方が後輩という事になるな、アイエフ」

 

出会ったばかりの相手に名前を呼ばれた事でアイエフはさらに驚く。

 

「私の名前まで知っているの!? ……なんだか負けた気がするわ」

 

「あいちゃん、しっかりするですよ!」

 

トレビスへの敗北感を感じ、落ち込むアイエフと幼馴染を励まそうとするコンパ。頑張れアイエフ、俺も応援するぜ。

 

すっかり落ち込んでしまったアイエフを見て、トレビスは戸惑ってしまうが気をとりなして話し始める。

 

「凶暴化の件についてだが、ルーガスの他にも凶暴化させている人物を見かけたという情報を手に入れた」

 

凶暴化させている人物? ルーガスの言うとおり、仲間もいるのか……俺はルーガスと出会った際を思い出す。

 

『そりゃそうだろうよ! なんせ、モンスター共を凶暴化させてんのは、こ・の・俺なんだからよ』

 

『まぁ他にもいるが、俺がプラネテューヌを滅ぼしちまえば、俺は奴らより格上になるってもんさ』

 

ルーガスの言う『奴ら』とは一体何者なのか。何人いるのか。詳細が分からないが、仲間の一人を目撃したとなれば話は早い。

 

「場所はどこなの? どこで目撃したの? 場所によっては何か手がかりを得られるはずよ」

 

立ち直ったアイエフがトレビスに質問する。トレビスは長い溜息を吐いた後、ゆっくりと口を開く。

 

「今はもう閉鎖されている、研究所の近くだ。目撃した諜報員が人物を追っていたら、閉鎖された研究所に辿りついたと話していた。追っていた人物は見失ってしまったらしい……」

 

研究所? そんな物があるのか。

 

「その研究所についてなんだが……妙なんだ。もう長い間封鎖されているのに、つい最近まで使用されてた形跡があるんだ」

 

「えっ?」

 

最近まで使われてたという事を聞いたアイエフは思わず声を上げてしまう。そしてウェインもトレビスに問いかける。

 

「それはつまり、何者かが研究所を不正に使用しているという事か?」

 

「そういう事になるな。俺が持ってる情報は以上だ」

 

話し終えたトレビスは財布らしき物を取り出し、勘定を済ませようとする。

 

「俺はこれからその研究所に調査しに行く。今の情報、解決の糸口になるのかもしれない」

 

「分かった……アイエフ達はどうする?」

 

俺はトレビスに返事をした後、アイエフとコンパに今後について問う。

 

「私達は教会に行ってこの事をねぷ子に教えるわ。これで働いてくれればいいけど」

 

それを聞いたエリナ達三人は何の事か分からないという様な顔をした。こいつらはまだ知らないんだったな。

 

「こういうのは、『快進撃』って言うべきなのか?」

 

ここまでの展開を目にしたウェインがそう呟く。果たして、この進撃はどこまで続くのやら。

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