ネプテューヌEX ~とある青年のエクスペリエンス~ 作:S・TOM
まずいねこれ。
市街地に着いた界人達はまず街の状況に驚く。建物は崩れ、地面は裂け、至るところで火災が起こっていた。さらには周辺でモンスターが出没しており、辺りで破壊活動を行っている。
「うわっ、随分と派手にやりやがったな……」
目の前にある街の有様に界人はポロッと呟いた。ここで被害が発生しているのは感づいていたが、まさかこれほどまでとは思っていなかった。
「これはひどいわね……って嘆いている場合じゃないわ」
ノワールは変身しブラックハートとなり、武器の大型ソードを構える。
「私の国で破壊活動するなんていい度胸してるわね。きっちりとお灸をすえてやらないと」
「ノワール、私も協力するわよ」
プラックハートに答えたのは女神化したネプテューヌ、もといパープルハート。
「あらネプテューヌ、もう変身したの? 早いわね~」
「ここに来る前にね。こんな時にはしっかりしないといけないでしょ?」
変身前であるネプテューヌは鬱陶しいぐらいハイテンションな上、とある魔術師から「シリアスブレイカー」と称されるほどシリアス展開に弱い。そのため彼女はシリアスに強いパープルハートの姿にあらかじめ変身し、この展開に備えていたのだった。
「怪我人を見つけたぞ!」
トレビスの声がパープルハート達の耳に入る。振り向くと怪我人の隣にトレビスが寄り添っていた。彼だけではなくアイエフ、コンパもおり、怪我人に応急処置をしていた。
「ふんふん……終わったですよ!」
応急処置が完了したが、怪我人は動ける状態ではなかった。そこでトレビスは怪我人を担ぎ、安全な場所へと運ぼうとする。
「俺達は市民の避難誘導に当たる! そちらはモンスター達の討伐に当たってくれ!」
トレビスは界人達にそう伝えた後、アイエフとコンパと一緒に街の外へ走っていった。
「……言われなくても、そのつもりよ!」
ブラックハートはすぐさまモンスター達へと飛んでいき、パープルハートも後に続くように飛び出した。二人は街を荒らすモンスターを斬り、反撃をものともせず倒していく。
「さぁ、私たちも行きましょ。街に蔓延るモンスター達を、女神様だけに任せるわけには行かないわ」
モンスターを倒す二人の女神に敬服の念を抱くエリナ。剣を具現化させると、界人とウェインに呼びかけた。
「おう、俺達もやれるってとこ見せなくちゃな!」
「モンスターの討伐はもちろんだが、先走ったデビッドや候補生の事もある。行かないという選択肢はないな」
二人も武器を具現化させ、エリナと共に戦場へと駆け出した。三人に気づき、襲い掛かるモンスターの攻撃をエリナは機敏な動ぎでかわすと、剣でモンスターの胴体を両断して倒す。そして数体のモンスターへ向かっていき、軽快な身のこなしと素早い剣捌きで着々と倒してゆくが、他の二人も遅れを取っていない。界人は豪快な太刀筋でモンスター達を叩き斬ったり、刃から生じる炎で周囲の瓦礫ごと燃やし尽くす。ウェインは片手から雷を起こし、目くらましとしてモンスターの目に撃ち込む。雷の魔法を受けたモンスターは怯み、振りかかるウェインの剣に斬られ消滅した。
「なによ、あいつらもやるじゃない。まぁ、私ほどじゃないけれど」
特命隊の戦いぶりにブラックハートは感心する。やや自信過剰な素振りを見せた彼女だが相応の実力を持っており、自身に襲い掛かるモンスターを難なく倒している。
こうして二人の女神と特命隊はモンスターを排除しながら先に進んでいった。
――――――――――――――――――――――
倒壊した街並みを一人、デビッドは突っ走っていた。両手に持った拳銃のトリガーを引き、出くわしたモンスターを撃ち倒していくが、拳銃の弾倉はほんの数秒で尽きた。デビッドは空になった弾倉を外し、ポーチに詰めた新しい弾倉に交換する。そしてすぐ街中を突き進み、街を破壊するモンスターに拳銃を発砲する。
今のデビッドは平常心を失っていた。モンスターを目の前に、拳銃を狂ったように乱射する。残弾数や弾詰まりの事は頭から消え去り、モンスターを倒す事に全意識を集中させていた。銃声が止み終えた時、目視できるモンスターは全て倒されていた。
「……ふぅ」
モンスターがいなくなったことでデビッドは安心し、ようやく落ち着きを取り戻した。その直後、途端に不安になりモンスターがまだいないか周囲を見回す。
「エリナとネプギア達から離れちまったなぁ……やべぇ、ここどこだ?」
デビッドの不安がさらに膨らむ。ラステイションはデビッドの出身地だが、周囲の建物はひどく崩壊しており、もとは何だったのか判別できない状態だった。
「俺、これじゃまるで迷子じゃねぇか。後でエリナに怒られるぞこれ……」
ウェインとの連携が決まったのを含め、三人でエリナに説教されたのは忘れられない思い出である。最も、カイトは関係なかったのでエリナの説教から逃れたのだが。
「グオオオオォォォォ!」
雄叫び声を上げ、フェンリルが建物から突き破ってきた。思案に暮れていたデビッドは拳銃を構え、上から襲い掛かるフェンリルに向けてトリガーを引く。
「…………はっ?」
しかし、不発だった。デビッドはもう一度トリガーを引くが弾は出てこない。弾が切れた? いやそんな事はない、ちゃんと込めたはずだ。じゃあ何でなんだ? デビッドが原因を模索しているうちに、フェンリルの鋭い爪が振りかかってくる。
(ははっ、ここで死ぬのか――)
「マルチプルビームランチャー!」
聞き覚えのある掛け声と共に、紫色の光線がフェンリルを貫通する。胴体に大穴が空いたフェンリルは徐々に粒子となり消滅していった。見るとそこにはネプギアとユニ、今は女神化してパープルシスターとブラックシスターがいたのだった。
「ネプギアと……ユニ! 助けてくれたのか! ありが――いってぇ!!」
二人に礼を言おうとするデビッドにブラックシスターは拳骨を食らわした。
「アンタ何考えてるのよ! 勝手に突っ走ってモンスターに襲われるなんて馬鹿じゃないの!? アタシ達が来なかったらとっくにアンタ死んでたのよ?」
ブラックシスターに怒声を浴びせられるデビッド。しかし怒られるのは仕方ないという事はデビッドはよく知っていた。原因は自分なのだから。
「デビッドさんに何があったのかは分かりません。だけど自分の命は大切にしてください」
「いてて……そうだよな。迷惑かけたな、悪い」
痛む頭を抑えながらデビッドは二人に謝る。
「まったく……しっかりしなさいよね。ほら、モンスターが来たわ」
ブラックシスターの言うように、三人の前方には多数のモンスターが出現していた。デビッドはゴーグルをかけ、拳銃のスライドを引く。すると弾頭のない銃弾が排出された。さっき拳銃を発砲できなかったのは弾詰まりが原因だったのだ。
(弾詰まりかよ。こんなんじゃ兄貴に認められねぇなぁ……)
デビッドは心の中で思いながらもう一方の拳銃もスライドを引き銃弾を排出した。
「来ます、デビッドさん!」
「ボケっとしてないで、行くわよ!」
二人の声に反応し、デビッドは襲い掛かるモンスター達に目を向けた。さっきと違い、頭は冷えている。
「よし、やってやるぜ!」
デビッドは奮起し、モンスターへと拳銃を発砲する。それが合図となり、パープルシスターとブラックシスターが同時に飛び立った。
「ミラージュダンス!」
真正面に突撃したパープルシスターは踊る様な動作で
「どこを見てるの? ここよ」
警戒するモンスター達の横にはブラックシスターがいた。銃から弾丸を撃ちだし、無防備になっているモンスターを倒していく。その後は距離を取りながら銃撃し、モンスターを牽制していった。
デビッドも二人の候補生に負けていなかった。多数のモンスターの猛撃を身軽にかわし続け、拳銃でモンスターを撃ち倒していく。少し離れた所で固まっているモンスター達には、手榴弾を投げつけ一掃していった。
「デビッドさん、危ない!」
背後からデビッドに襲い掛かるモンスターに気づき、パープルシスターはM.P.B.L.からビームを発射する。ビームはモンスターを飲み込み、デビッドを助けたのだった。
「カワイコちゃんに助けられるなんてカッコ悪いけど……ありがとな、ネプギア!」
自嘲しながらもネプギアに礼を言ったあと、デビッドは前方のモンスターへ振り返り、改めて拳銃を構えた。
――――――――――――――――――――――
「おい、あそこにいるのデビッド達じゃねぇか!?」
街にいるモンスターを倒し続けていると界人がデビッド、ネプギア、ユニを発見する。空中にいるパープルハート、ブラックハートは界人の声を聞き、視線を街の方へ移すと三人が戦っている姿を確認した。
「……ネプギア!」
「ユニもいるじゃない! まったく、候補生って何でこうも世話が焼けるのよ」
ブラックハートが呆れながらも、三人の元へ飛んでいこうとした。その瞬間――
「――――ノワール?」
ブラックハートが突如、真逆の方に吹き飛んでいった。いきなり起こった出来事にパープルハートは呆然とし、飛んでいく彼女をただ見ていた。一体、彼女の身に何が起きたのか? 我に返り、パープルハートは視線を動かすと危険種、エンシェントドラゴンが浮遊していた。普通のエンシェントとは違い、皮膚は見るからに黒く変色していた。黒いエンシェントドラゴンは標的をパープルハートに変え、皮膚とは対照的に白く輝く鋭い爪を降り出す。
「っ!?」
その爪はとてつもない速さで振りかかった。パープルハートがすぐに剣を盾にし、間一髪でエンシェントドラゴンの爪を防ぐ。だが――
「何なの、この力……!」
エンシェントドラゴンの重い一撃を、パープルハートは剣を通じて直に感じた。それでもしばらくは防いでいたものの、エンシェントドラゴンがもう片方の手で繰り出したパンチで、パープルハートは真下に突き落とされてしまう。
近くで建物が崩れる音を聞いたエリナは空を見上げると、エンシェントドラゴンが宙に浮いているのが見えた。
「エンシェントドラゴン? 危険種も紛れていたのね……って、パープルハート様は!?」
最愛の女神がいない事に気づき、辺りを見回すが女神の姿は見えない。女神がやられた? そんな考えがよぎったエリナは怒りの表情になり、エンシェントドラゴンに敵意を向けた。
「なるほど、そういう事なのね……すごくおこがましいわ」
エリナは比較的崩れていない、ビルの建物へ飛躍し屋上に飛び乗った。そして剣を振り下ろし、エンシェントドラゴンに剣先を向ける。
「女神様を傷つけた罪、許す事はできないわ……絶対に。潔く、私に斬られなさい」
エリナのただならぬ殺意を感じたのかどうなのか、エンシェントドラゴンは甲高い雄叫び声を上げた。
「エリナ? おい、そのモンスター相手は無茶だぞ!」
エンシェントドラゴンとエリナを見て、注意をかける界人に無数のミサイルが飛んでくる。気を取られていたせいで反応が遅れた界人は、炎を纏った剣でミサイルを斬ろうがほんの数発しか斬れず、残りは界人の周りに着弾し爆発した。
「うおわああぁぁ!」
界人はミサイルの爆風に巻き込まれ、ダメージを受けてしまった。油断した……まさかミサイルが来るなんて。傷を負った身体を起こしながら、界人はミサイルが来た場所を向くと見覚えのあるロボットが数体見えた。あれは研究所に行く自身達を阻んだロボットだった。
「〆タルギア、だな」
いつの間にか隣にいるウェインはロボットの名前を呟く。界人の傷を見ると、ウェインは彼に栄養ドリンクらしき物を手渡した。
「ポーションだ、それを飲んで今受けた傷を治せ」
ウェインに言われた通り、界人はポーションを一気飲みした。すると次第に痛みが引いていき、全てとまではいかないが傷が癒えていた。
「ぷはぁ~……ありがとよ、ウェイン」
「礼はあれを倒してからにしろ。来るぞ」
〆タルギアの一体がジャンプし、二人との距離を詰める。そして右腕の機銃を構え、射撃準備を整えた。
――――――――――――――――――――――
「そこのお前、止まれ!」
避難所にて警備員が三人、正確には一人の男に警告を発した。その声に反応し、他の警備員が集まりすぐさま武器を構える。
「…………」
燃えるように赤い髪に黒いコート。そして怪我人を担いでいるその男は溜息を吐いた。その後ゆっくりと深呼吸し、それを声に変えた。
「だから私は、不審者ではなぁ――い!!」
不審者に間違えられる男、トレビスは訴えるように警備員に叫んだのだった。